先に、＜断定の助動詞「なり」の連用形「に」という誤り」＞
https:/
を提示しましたが、一部不十分な点もあり、再度詳しく論じたいと思います。この「に」の識別は言語事実、実感に反するため多くの古文学習者、高校生を困惑、混乱させているのが実情です。
ここでいう、「なり」とは次に示す❶／❸のいわゆる断定の助動詞です。
なり
《助動詞・ナリ活用型》《接続》
体言や活用語の連体形、また、副詞や助詞などに付く。
❶〔断定〕…である。…だ。
《・かぐや姫の昇天》 「おのが身はこの国の人にもあらず。月の都の人なり」
《訳》
私の身は、この人間世界の人ではない。月の都の人である。
❷〔存在〕…にある。…にいる。
《・かぐや姫の昇天》 「壺(ツホ゛)なる御薬奉れ」
《訳》
壺(の中)にあるお薬を召し上がれ。
❸〔状態・性質〕…である。
《・絵合》 「物語の出(イ)で来(キ)始めの親なる竹取の翁(オキナ)」
《訳》
物語というものが出現した元祖である竹取の翁(の物語)。
《注意》{{za526}}推定・伝聞の助動詞「なり」、ナリ活用形容動詞の連用形・終止形活用語尾、四段活用動詞「なり」の連用形と混同しないことである。
《語の歴史》
「なり」は、格助詞「に」+ラ変動詞「あり」から成立したが、再び「に+て+あり」という形ともなり、それが、「にてぁ」「(ん)でぁ」となり、さらに「ぢゃ」の過程を経て、現代語の「だ」となる。
【学研古語辞典】//
この「ナリ活用型」は、「なら、なり・に、なり、なる、なれ、なれ」で、連用形に「に」があることになっています。上記《語の歴史》には、
＞＞「なり」は、格助詞「に」+ラ変動詞「あり」から成立した
ことになっています。『精選版 日本国語大辞典 』も次の通りです。
＞＞�� ある事物に関して、その種類・性質・状態・原因・理由などを説明し断定することを表わす。…である。
( 2 )( [ 二 ]について ) ( イ )格助詞「に」と動詞「あり」との融合したもの。もとのまま、融合しない「にあり」、また「に（は）あれ（ど）」「に（こそ）あれ」「に（ぞ）ある」のように分離する場合も少なくない。／／
いずれも、〈格助詞「に」と動詞「あり」との融合〉としています。従って、融合しない「に」の場合、動詞「あり」に判断を押しつける訳にいかないために、本来は格助詞である「に」に断定の意義を押しつけているというのが現在の実情です。このため、
＞＞なぜ、「に」の識別？
「に」の識別の問題が、おそらく出題率ナンバーワンです。
断定の助動詞「なり」の連用形
これは、その後に「あり」が出てきたらほぼ間違いなくこれだと疑いましょう。「〜にあり」で「〜である」と訳して、これは断定の助動詞連用形+ラ変の動詞となっています。／／
https:/
ということになってしまいます。このため、
＞＞古文公式42
「に」 の識別の解説
http://
のようなもっともらしい解説が展開されています。
しかし、「あり」には「山あり谷あり」のような存在を表す動詞「あり」と、
あ・り 【有り・在り】
[二]補助動詞ラ行変格活用
活用｛ら／り／り／る／れ／れ｝
(一)
� 帖覆如砲△襦�▽断定の助動詞「なり」「たり」の連用形「に」「と」、およびそれに接続助詞「て」、または係助詞や副助詞を介した形に付いて、指定の意を表す。
出典今昔物語集 二五・一二
「頼義（よりよし）見るに、まことによき馬にてありければ」
[訳] 頼義はその馬を見ると、実にすばらしい馬であったので。
【学研全訳古語辞典】
の「指定の意を表す」補助動詞の二種類があります。この補助動詞「あり」は時枝誠記が『国語学原論』他で指摘している通り正しくは肯定判断を表す指定の助動詞に転成したものです。従って、「なり」が格助詞「に」と「あり」に分離したところで、肯定判断を表しているのはあくまで助動詞「あり」で、「に」は当然ながら格助詞です。つまり、先の【学研古語辞典】の
❷〔存在〕…にある。…にいる。
《・かぐや姫の昇天》 「壺(ツホ゛)なる御薬奉れ」
《訳》
壺(の中)にあるお薬を召し上がれ。／／
の〔存在〕の場合は「あり」は動詞であり、❶／❸の「あり」は補助動詞、正しくは助動詞であるということです。この二種類の「なり」は正しく区別されなければなりません。助動詞「あり」を補助動詞などという誤った品詞区分をしているために、この相違が曖昧になり格助詞「に」自体に判断の機能があるかのような誤った理解がされているということです。歴史的にみれば、最初に存在を表す「あり」が生まれ、それが判断辞「あり」に転成したものでしょう。
口語の場合も同じであり、
＊ ここに本がある。
の「ある」は存在をあらわす動詞であり、
＊ これは本である。
の「ある」は肯定判断を表す助動詞です。これも補助動詞とされていますが、語が補助をするなどという機能主義的な発想による品詞分類の誤まりという他ありません。
時枝誠記は『日本文法 口語篇』で指定の助動詞「ある」を提示しながら、指定の助動詞「だ」の連用形に「に」を挙げるという混乱を示しています。さらに『日本文法 文語編』では、指定の助動詞「に」を連用形のみの語とし、次のように記しています。
三 用方
指定の助動詞の中で、「に」は従来、格助詞或は接続助詞として扱われてきたものであるが（注1）、その中に、明らかに、副詞と認められているものの外に、助動詞としての陳述性が認められるものがある。ただし、それは、連用形の用法しか持たない。それだけで完結させたり、或は他の助動詞を附ける場合には、指定の助動詞「あり」（別項）を附け、或は介して次のやうに云ふ。この場合「に」と「あり」との結合した「なり」を、一個の助動詞とみなすことも可能である。
静かなり（静か【に】ーあり）
いかなりけむ（いか【に】ーありーけむ）／／
（注1）は省略。
こうした時枝の「に」の扱いの混乱については、三浦つとむ『日本語の文法』（勁草書房）の「第八章〈助動詞〉の特徴をめぐる諸問題」の「二 時枝文法の〈助動詞〉論の特徴と問題点」で検討、批判されているので参照下さい。
このような〈断定の助動詞「に」〉という誤った品詞理解により学習者を混乱させる現状は早急に正されるべきですが、その根底にある機能主義、形式主義的な日本語学、日本文法論の誤りを正さない限り本質的な解決にはならないのは明らかでしょう。◆
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を提示しましたが、一部不十分な点もあり、再度詳しく論じたいと思います。この「に」の識別は言語事実、実感に反するため多くの古文学習者、高校生を困惑、混乱させているのが実情です。
ここでいう、「なり」とは次に示す❶／❸のいわゆる断定の助動詞です。
なり
《助動詞・ナリ活用型》《接続》
体言や活用語の連体形、また、副詞や助詞などに付く。
❶〔断定〕…である。…だ。
《・かぐや姫の昇天》 「おのが身はこの国の人にもあらず。月の都の人なり」
《訳》
私の身は、この人間世界の人ではない。月の都の人である。
❷〔存在〕…にある。…にいる。
《・かぐや姫の昇天》 「壺(ツホ゛)なる御薬奉れ」
《訳》
壺(の中)にあるお薬を召し上がれ。
❸〔状態・性質〕…である。
《・絵合》 「物語の出(イ)で来(キ)始めの親なる竹取の翁(オキナ)」
《訳》
物語というものが出現した元祖である竹取の翁(の物語)。
《注意》{{za526}}推定・伝聞の助動詞「なり」、ナリ活用形容動詞の連用形・終止形活用語尾、四段活用動詞「なり」の連用形と混同しないことである。
《語の歴史》
「なり」は、格助詞「に」+ラ変動詞「あり」から成立したが、再び「に+て+あり」という形ともなり、それが、「にてぁ」「(ん)でぁ」となり、さらに「ぢゃ」の過程を経て、現代語の「だ」となる。
【学研古語辞典】//
この「ナリ活用型」は、「なら、なり・に、なり、なる、なれ、なれ」で、連用形に「に」があることになっています。上記《語の歴史》には、
＞＞「なり」は、格助詞「に」+ラ変動詞「あり」から成立した
ことになっています。『精選版 日本国語大辞典 』も次の通りです。
＞＞�� ある事物に関して、その種類・性質・状態・原因・理由などを説明し断定することを表わす。…である。
( 2 )( [ 二 ]について ) ( イ )格助詞「に」と動詞「あり」との融合したもの。もとのまま、融合しない「にあり」、また「に（は）あれ（ど）」「に（こそ）あれ」「に（ぞ）ある」のように分離する場合も少なくない。／／
いずれも、〈格助詞「に」と動詞「あり」との融合〉としています。従って、融合しない「に」の場合、動詞「あり」に判断を押しつける訳にいかないために、本来は格助詞である「に」に断定の意義を押しつけているというのが現在の実情です。このため、
＞＞なぜ、「に」の識別？
「に」の識別の問題が、おそらく出題率ナンバーワンです。
断定の助動詞「なり」の連用形
これは、その後に「あり」が出てきたらほぼ間違いなくこれだと疑いましょう。「〜にあり」で「〜である」と訳して、これは断定の助動詞連用形+ラ変の動詞となっています。／／
https:/
ということになってしまいます。このため、
＞＞古文公式42
「に」 の識別の解説
http://
のようなもっともらしい解説が展開されています。
しかし、「あり」には「山あり谷あり」のような存在を表す動詞「あり」と、
あ・り 【有り・在り】
[二]補助動詞ラ行変格活用
活用｛ら／り／り／る／れ／れ｝
(一)
� 帖覆如砲△襦�▽断定の助動詞「なり」「たり」の連用形「に」「と」、およびそれに接続助詞「て」、または係助詞や副助詞を介した形に付いて、指定の意を表す。
出典今昔物語集 二五・一二
「頼義（よりよし）見るに、まことによき馬にてありければ」
[訳] 頼義はその馬を見ると、実にすばらしい馬であったので。
【学研全訳古語辞典】
の「指定の意を表す」補助動詞の二種類があります。この補助動詞「あり」は時枝誠記が『国語学原論』他で指摘している通り正しくは肯定判断を表す指定の助動詞に転成したものです。従って、「なり」が格助詞「に」と「あり」に分離したところで、肯定判断を表しているのはあくまで助動詞「あり」で、「に」は当然ながら格助詞です。つまり、先の【学研古語辞典】の
❷〔存在〕…にある。…にいる。
《・かぐや姫の昇天》 「壺(ツホ゛)なる御薬奉れ」
《訳》
壺(の中)にあるお薬を召し上がれ。／／
の〔存在〕の場合は「あり」は動詞であり、❶／❸の「あり」は補助動詞、正しくは助動詞であるということです。この二種類の「なり」は正しく区別されなければなりません。助動詞「あり」を補助動詞などという誤った品詞区分をしているために、この相違が曖昧になり格助詞「に」自体に判断の機能があるかのような誤った理解がされているということです。歴史的にみれば、最初に存在を表す「あり」が生まれ、それが判断辞「あり」に転成したものでしょう。
口語の場合も同じであり、
＊ ここに本がある。
の「ある」は存在をあらわす動詞であり、
＊ これは本である。
の「ある」は肯定判断を表す助動詞です。これも補助動詞とされていますが、語が補助をするなどという機能主義的な発想による品詞分類の誤まりという他ありません。
時枝誠記は『日本文法 口語篇』で指定の助動詞「ある」を提示しながら、指定の助動詞「だ」の連用形に「に」を挙げるという混乱を示しています。さらに『日本文法 文語編』では、指定の助動詞「に」を連用形のみの語とし、次のように記しています。
三 用方
指定の助動詞の中で、「に」は従来、格助詞或は接続助詞として扱われてきたものであるが（注1）、その中に、明らかに、副詞と認められているものの外に、助動詞としての陳述性が認められるものがある。ただし、それは、連用形の用法しか持たない。それだけで完結させたり、或は他の助動詞を附ける場合には、指定の助動詞「あり」（別項）を附け、或は介して次のやうに云ふ。この場合「に」と「あり」との結合した「なり」を、一個の助動詞とみなすことも可能である。
静かなり（静か【に】ーあり）
いかなりけむ（いか【に】ーありーけむ）／／
（注1）は省略。
こうした時枝の「に」の扱いの混乱については、三浦つとむ『日本語の文法』（勁草書房）の「第八章〈助動詞〉の特徴をめぐる諸問題」の「二 時枝文法の〈助動詞〉論の特徴と問題点」で検討、批判されているので参照下さい。
このような〈断定の助動詞「に」〉という誤った品詞理解により学習者を混乱させる現状は早急に正されるべきですが、その根底にある機能主義、形式主義的な日本語学、日本文法論の誤りを正さない限り本質的な解決にはならないのは明らかでしょう。◆
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