先に、「日本語動詞の活用論の混迷」
https:/
で、日本語動詞の活用に関する根本的な理解の誤りを指摘したが、ここに取り上げる
田川拓海（稿）「動詞と形容詞の形態統語論的な相違点について」（https:/
もまた、先の田川(稿)「日本語の文法化の形態論的側面」 と同じく、活用と屈折を混同して論じ、【形容詞文には（繋辞としての）動詞「ある」が含まれる】という本質的に誤まった議論を展開している。この誤りを具体的に論じよう。
「１．はじめに」で次のように述べる。
日本語においては、形容詞という範疇は動詞と同じく屈折を持ち、それのみで述語として機能するといわれている。
(1) a. 太郎がバナナを【食べた】。
b. 花子が一番【かわいかった】。／／
「形容詞という範疇」という用語自体が生成文法に基づく誤まった用語であるが、＜形容詞＞とは日本語の品詞区分で、時間的に変化しない属性を表わす語で、活用を持つ。これは屈折ではなく、活用であることは前稿で詳しく論じたところである。そして、例文の述語は厳密には、動詞＜食べ＞、形容詞＜かわいく＞である。つまり、「それのみで述語として機能する」のは、＜動詞＞＜形容詞＞という語である。
「食べた」は＜動詞＞「食べる」の連用形「食べ」＋過去の＜助動詞＞「た」であり、「かわいかった」は形容詞「かわいい」の連用形「かわいく」＋肯定判断の＜助動詞＞「ある」の連用形「あっ」＋過去の＜助動詞＞「た」である。「かわいかっ」は、＜形容詞＞「かわいく」の「く」と＜判断辞＞「あっ」の「くあ」の音が熟合したものである。
しかし、田川は上記誤認に基づき次の二点を提示する。
（5） a. 形容詞文における形容詞語幹と”k”と”ar”という要素はそれぞれ統語的に独立した要素である。
b. 形容詞文には統語範疇的には動詞である”ar”が含まれる。
ここには、日本語の音韻に関する基本認識の誤りがある。日本語の音韻とはいわゆる50音で、子音単独の音韻は存在しない。「かわいかった」の「かっ」は先に示したように「くあ」の音の熟合であり、”k”と”ar”という要素に分解はできない。それは、日本語の文法の問題ではなく、物理的な音声の問題でしかなく、単なる形式の扱いでしかない。統語的に独立した要素は「かわいく」と「あっ」である。
そして、「かわいくあった」の「あっ」は先に示した通り、判断辞「ある」の連用形であり、この「ある」は＜動詞＞ではなく＜助動詞＞で、肯定判断を表わしており、「 b.」の「動詞である”ar”」というのは全くの誤りである。
そして、「”ar”が存在するのかという点については、〜否定文の場合にも確認されることを示す。さらに、それが常に存在していると考えられるということを示唆する。」と述べ、「4 動詞文/形容詞文における否定辞「ない」」を展開しているので、この内容を吟味しよう。ここでは、次の文が示される。
（20） a. 太郎はりんごを食べ ない/なかった。
b. 花子はかわいく ない/なかった。
この例では動詞に付加している「ない」と形容詞に付加している「ない」は同じ形態変化を示し、一見表面的な区別がないとする。しかし、次の例を基に、動詞文/形容詞文の「ない」否定文には統語論的に相違があるということを論じようとする。
（21） a. 太郎にはお金がある。
b. 花子はお金が ない/*あらない。
この、主動詞として使用される「ある」の否定形は、「未然形＋ない」ではなくて、「ない」そのものによって表わされる。これを、形容詞文にも敷衍しようとするもので、先の形容詞文に「ある」が存在するという論理から、形容詞の否定文に現れていない「ない」も統語的には「ある＋否定辞」と考えるものである。一方、動詞文における「ない」は否定辞の具現形であると考えるものである。／／
しかし、これは先にも指摘の通り、「ない」という形式に囚われた全くの誤認である。
（21 a.，b.） の「ない」は＜主動詞として使用される「ある」＞と述べているように、存在を表わす動詞であり、これに対する非存在を表わす「お金が【ない】」の「ない」は【「ある」の否定形」】ではなく、形容詞そのものである。これは、動詞と形容詞と否定の助動詞を混同した全くの品詞の誤認である。
つまり、「お金がある」という「動詞文における「ない」は否定辞の具現形であると考える」のは全くの誤りで、「ない」は否定辞ではなく形容詞述語であるに過ぎない。
これは学校文法でも、「花子はかわいく ない/なかった。」の「ない」は補助形容詞（用言）とし、非存在を表わす形容詞「ない」とは区別しているものを同一視する初歩的な品詞区分の誤認に過ぎない。
最初の、【形容詞文には「ある」が含まれている】という主張も、日本語の音韻には存在しない、「形容詞語幹と”k”と”ar”という要素」をむりやり分離し形式的に捻り出したしろものに過ぎない。
このような初歩的な誤りによって支えられるしかない、分散形態論、さらにはその根底にある生成文法が如何なるものであるかは言うを待たないであろう。
これは、ソシュールの説く構造言語論からさえも、さらなる後退でしかない。■
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で、日本語動詞の活用に関する根本的な理解の誤りを指摘したが、ここに取り上げる
田川拓海（稿）「動詞と形容詞の形態統語論的な相違点について」（https:/
もまた、先の田川(稿)「日本語の文法化の形態論的側面」 と同じく、活用と屈折を混同して論じ、【形容詞文には（繋辞としての）動詞「ある」が含まれる】という本質的に誤まった議論を展開している。この誤りを具体的に論じよう。
「１．はじめに」で次のように述べる。
日本語においては、形容詞という範疇は動詞と同じく屈折を持ち、それのみで述語として機能するといわれている。
(1) a. 太郎がバナナを【食べた】。
b. 花子が一番【かわいかった】。／／
「形容詞という範疇」という用語自体が生成文法に基づく誤まった用語であるが、＜形容詞＞とは日本語の品詞区分で、時間的に変化しない属性を表わす語で、活用を持つ。これは屈折ではなく、活用であることは前稿で詳しく論じたところである。そして、例文の述語は厳密には、動詞＜食べ＞、形容詞＜かわいく＞である。つまり、「それのみで述語として機能する」のは、＜動詞＞＜形容詞＞という語である。
「食べた」は＜動詞＞「食べる」の連用形「食べ」＋過去の＜助動詞＞「た」であり、「かわいかった」は形容詞「かわいい」の連用形「かわいく」＋肯定判断の＜助動詞＞「ある」の連用形「あっ」＋過去の＜助動詞＞「た」である。「かわいかっ」は、＜形容詞＞「かわいく」の「く」と＜判断辞＞「あっ」の「くあ」の音が熟合したものである。
しかし、田川は上記誤認に基づき次の二点を提示する。
（5） a. 形容詞文における形容詞語幹と”k”と”ar”という要素はそれぞれ統語的に独立した要素である。
b. 形容詞文には統語範疇的には動詞である”ar”が含まれる。
ここには、日本語の音韻に関する基本認識の誤りがある。日本語の音韻とはいわゆる50音で、子音単独の音韻は存在しない。「かわいかった」の「かっ」は先に示したように「くあ」の音の熟合であり、”k”と”ar”という要素に分解はできない。それは、日本語の文法の問題ではなく、物理的な音声の問題でしかなく、単なる形式の扱いでしかない。統語的に独立した要素は「かわいく」と「あっ」である。
そして、「かわいくあった」の「あっ」は先に示した通り、判断辞「ある」の連用形であり、この「ある」は＜動詞＞ではなく＜助動詞＞で、肯定判断を表わしており、「 b.」の「動詞である”ar”」というのは全くの誤りである。
そして、「”ar”が存在するのかという点については、〜否定文の場合にも確認されることを示す。さらに、それが常に存在していると考えられるということを示唆する。」と述べ、「4 動詞文/形容詞文における否定辞「ない」」を展開しているので、この内容を吟味しよう。ここでは、次の文が示される。
（20） a. 太郎はりんごを食べ ない/なかった。
b. 花子はかわいく ない/なかった。
この例では動詞に付加している「ない」と形容詞に付加している「ない」は同じ形態変化を示し、一見表面的な区別がないとする。しかし、次の例を基に、動詞文/形容詞文の「ない」否定文には統語論的に相違があるということを論じようとする。
（21） a. 太郎にはお金がある。
b. 花子はお金が ない/*あらない。
この、主動詞として使用される「ある」の否定形は、「未然形＋ない」ではなくて、「ない」そのものによって表わされる。これを、形容詞文にも敷衍しようとするもので、先の形容詞文に「ある」が存在するという論理から、形容詞の否定文に現れていない「ない」も統語的には「ある＋否定辞」と考えるものである。一方、動詞文における「ない」は否定辞の具現形であると考えるものである。／／
しかし、これは先にも指摘の通り、「ない」という形式に囚われた全くの誤認である。
（21 a.，b.） の「ない」は＜主動詞として使用される「ある」＞と述べているように、存在を表わす動詞であり、これに対する非存在を表わす「お金が【ない】」の「ない」は【「ある」の否定形」】ではなく、形容詞そのものである。これは、動詞と形容詞と否定の助動詞を混同した全くの品詞の誤認である。
つまり、「お金がある」という「動詞文における「ない」は否定辞の具現形であると考える」のは全くの誤りで、「ない」は否定辞ではなく形容詞述語であるに過ぎない。
これは学校文法でも、「花子はかわいく ない/なかった。」の「ない」は補助形容詞（用言）とし、非存在を表わす形容詞「ない」とは区別しているものを同一視する初歩的な品詞区分の誤認に過ぎない。
最初の、【形容詞文には「ある」が含まれている】という主張も、日本語の音韻には存在しない、「形容詞語幹と”k”と”ar”という要素」をむりやり分離し形式的に捻り出したしろものに過ぎない。
このような初歩的な誤りによって支えられるしかない、分散形態論、さらにはその根底にある生成文法が如何なるものであるかは言うを待たないであろう。
これは、ソシュールの説く構造言語論からさえも、さらなる後退でしかない。■
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