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はまかず文庫コミュのいつもいっしょ

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 え〜っと、『カルマの坂』に続く、歌詞を小説化してみよう企画第二段。
 Aqua Timezの『いつもいっしょ』に挑戦です。
切ないけれど温かい歌詞が印象的な恋の歌ですムード PVも用意されている曲なので、耳にされた方もあるのではないかと。。


 完全にウチの独自解釈で成り立っちゃっていますが、もしよろしければ暇つぶしに読んでみてください。

 では・・・・
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 車のブレーキを踏むと、ぐん、と引っ張られる感覚ですこしだけシートベルトが僕の身体を締め付ける。そのベルトの留め金を外して、僕は車から降りた。

「また、来ちゃったな。。」

 丘から望む西の空に、ゆっくりと沈む夕日が眩しくて美しかった。

 ――――4年前。
 高校3年の秋に、こんなオレンジの光の中で、僕は君の手を離した。






【 い つ も い っ し ょ 】/Aqua Timez
              作詞・曲:太志(Aqua Timez)
                文章:賽子 青





 車から数歩。冬が忍び寄るこの季節、風はもう冷たくなっていた。君と別れてから、もうすぐ4度目の冬が来る。

 転落防止に設置された柵を乗り越え、丘の斜面、もはや定番となってしまった場所に腰を降ろす。カサカサと尻の辺りで鳴る落ち葉の音に耳を傾けながら、職場を出るときに上着のポケットに入れた筈の100円ライターと煙草を探す。
「あった。」
 カチリという音で小さな電気が走り、手の内にあったライターに火を点した。
 勢いよく直立するバーナーのような蒼い炎。
 昔の100円ライターは火打ち石が火花を散らし、ぽぅ、とオレンジの炎が点っていた。
「妙な所で時間の経過を感じるものなんだな。」
 そう思い、口に煙草を咥えたまま、その炎を見つめる。


 ・・・・あの頃の僕は、目をそらされるのが嫌で自分から目をそらしていた。

 ・・・・あの頃の君は手を離されるのが怖くて、自分から手をほどいていた。


 けれど、僕がありったけの勇気で君の小さな手を握り締めると、「痛いよ」って言いながら、ありったけの勇気で僕の手を握り返してくれた。
 なのに僕は気持ちを素直に、上手に伝えられないままで、すれ違う言葉と言葉を哀しく思った。

『何で、分かってくれないのだろう。。』

 そう思う度に、少しずつ距離が出来る僕の心と君の心。そして高校からの帰り道に、この丘で君と別れた。
『もう、ダメかな・・・』
 そう思った時、はぐれた手と手はお互いに「さよなら」という言葉を選んだ。
 遠ざかっていく背中を、僕は正視できなかった。それは、何故だったのか。



 ――――答えは分かっている。でも、解りたくない。



 付き合い始めた頃、二人で唱えてた「いつもいっしょ」というコトバ。二人の間だけで通じる呪文。
 そのコトバを唱えた、季節の風の吹くこの丘は僕にとって、途中ではかなく途切れてしまう夢のように、記憶の中で薄れてゆく景色になった。だから何度も、僕はこの丘に足を運ぶ。

 すっかりフィルターの湿ってしまった煙草気がついて、苦笑いを浮かべながらに火を点す。柄にもなく、感傷に浸ってしまっていたらしい。
 スゥと胸を膨らませると、胸の中を満たす痺れと独特の香り。
 この銘柄だけは、あの頃と変わっていない。いや、変えていない。

「煙草くさい。煙草は嫌いだから吸わないで。」

 何度、そう言われただろうか。
 けどそう言う君の顔が可愛かったから、その表情が見たかったから、けっきょく最後まで止めなかった。



 今はもう、この丘でしかこの煙草を吸う事は無い。君を思い出すたびに、辛くなるから。



 この香りは頭の記憶を刺激して、否応無しに君の事を思い出させる。けれど、他の銘柄は吸う気になれなかった。
 そんな事をしたら、僕はこの香りを忘れてしまうかもしれない。同時に、君と過ごした時間すら忘れてしまうかもしれない。
 『バカバカしい、考えすぎだ』と自分でも思う。けれどほんの僅かでも、そう感じてしまったら、もう吸えなかった。


 君を思い出すから、この煙草を吸いたくない。
 君を忘れそうだから、他の煙草は吸いたくない。


 間違いなく、矛盾している。僕は君を忘れたいのか、それともずっと憶えておきたいのか。




 ――――答えは分かっている。でも、解りたくない。




 胸を満たす紫煙を秋の空気に放つ。
 あの「さよなら」から4年経ち、僕も何となくだけど大人になった気がする。当時高校3年生だった僕は専門学校に進学し、大きくはないけど小さくもない企業に就職した。
 愛なんてまだわからない。けど社会に出て、自由と責任を知った。
 僕は進学先、就職先に地元を選んだ。

「・・・・・馬鹿みたいだ。君は、大学に進学してこの街を離れていったのに。」

 だからこの街に居ても、君には逢えない。
 なのに何故か、僕の頭にこの街を離れるという選択肢は浮かばなかった。




 ――――答えは分かっている。でも、解りたくない。



 1本目の煙草が音もなく燃え尽きる。
 普段は煙草を吸わない僕が携帯灰皿なんて気の利いた物を持っている筈がない。あとで捨てようと、完全に火の消えたそれを傍らに置き、二本目に火をつける。


 再び胸を満たす、あの香り。


 煙草をくわえたままでドサリと地面に身体を投げ出した。目まぐるしく移り変わる忙しい毎日の中で、本当に疲れ果てて自分を忘れてしまうとき、僕はこの丘から空と煙と君を見上げる。
 4年。言葉にすれば立った一言だけど、生きてみると随分長かった。
 恋もした。新しい彼女と肌も重ねた。
 けれど、誰と一緒に過ごしていても、絶えず襲ってくる『違う』という感覚。
 そもそも、違うとはなんなのか。君と新しい彼女は全く別々の人間、なのに違うとは何だ?




 ――――答えは分かっている。でも、解りたくない。




 少しだけ切ない気持ちを胸に抱きしめて、僕はゆっくりと思い出す。あの日、この丘で素直になれずに手を離したのはどちらだったか・・・解っている。それは僕のほうだった。
 日に日に、無言の時間が多くなっていく僕らの会話。
『ああ、もう駄目かな。』
 そう感じながらも、ズルズルと惰性でひと月は過ごした。


「じゃあね。」


 あの時、手を放された君がそう言って踵を返した時、君がどんな表情をしているか考えもしなかった。

 あの時、背中を向けた君の肩を掴めていたら。
 あの後、離れていくをすぐに追いかけていれば。
 あの夜、君に会って、やり直したいと言えていれば。
 あの春、行かないでくれと君に言えたら。

 ifは尽きない。けれど、過ぎた時間は戻らない。
 一層に冷たくなった夜の風が、肌を刺す。


「帰ろう・・・・・。」


 何故こんな事を考えるのか、答えは分かっている。でも、解りたくない。

 2本目の煙草を吸い終わる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。後悔をしても仕方ないと帰ろうと、さっき自分の脇に置いた煙草の吸殻を拾おうとして、




 その時になって、この丘に僕以外の人の気配があることに気がついた。




 顔を上げる。





「あ・・・ひさしぶり、だね。」





 君が、そこに、居た。





「いつ、から、、、」





 喉が引き攣って、声が震えて、上手く発音できない。





「10分くらい、前から。ずっと見てた・・・・・」





 あの頃とは少しだけ違う髪型。見たことのない服。





「けど、君はこの街を・・・」





 幻じゃない。





「ん・・・私は来年で卒業だから。その準備、かな。」





 君が目の前に、居る。





「そっか、あれから4年・・・か。でも、なんで、ここに・・・・・」





 声がまだ震えている。いや、違う。全身が、震えていた。





「ここに来たら、逢えるかも知れないと、思ったから。」





 君が微笑む。あの頃と変わらない笑顔で。













 ず っ と ず っ と 、 会 い た か っ た 。 。 。













 本当は、もう2度と会えないと思っていた。
 だから感情にフタをした。逢いたいとは思わない、そういうコトにしておいた方が、ダメージが少ないから。けど、もうそんな必要はない。
 よろけながら立ち上がった僕に、君は何も言わずに微笑んだまま、その小さな手で僕の手を握った。
 君の頬に、1本だけ透明な線が描かれる。



 すれ違い別れた二人にだけ、解る涙を一粒だけこぼした。



 胸の奥に響く鼓動がうるさい。まるで壊れたように早鐘を鳴らす。
 目頭が熱い、胸の奥から感情が競り上がって来る。
 感情が昂ぶりすぎて、身体が固まってしまう。動きたいのに動けないもどかしさ。焦って動いたら、壊れてしまいそうな感覚。
 だから、甘い言葉も深い口づけも今はなくていい。ただ目を閉じて、手を握る。
 掌が君の温度を感じたとき、口をついたのはあの時果たせなかった誓いだった。





「これからは、いつもいっしょに居たい。もう、離したくない。」





 そう言うと、君はうつむいて、こくんと小さく頷いた。
 ポタリ、ともう一粒流れた雫が繋いだ手に落ちた時、僕の両腕が君を包んでいた。
「煙草くさい。」
 胸に収まった君に言われて「いつもは吸っていないよ。」と答えた。
「でも、なつかしい。」
 そう返されて、僕はいっそう強く君を抱きしめる。





 少しだけ素直になろう。
 「いつもいっしょ」と唱えるだけで、しあわせ色の風が二人を包むのだから。





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――――書いてみての感想ですが、ウチは恋愛物は向いてないですね。
でも、向いてないなりにいろいろと収穫の多い挑戦でしたうまい!

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