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はまかず文庫コミュの【月砂】 五:月夜を行く

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「―――本当にギリギリですか。相変わらず物凄いパワーですね、弓塚さん」


 まだ余波を残す黄金の魔方陣を背に、召還された女が砕けた黒鍵の柄を痺れる手で支えていた。

「シ、シエル先輩!!?」

 突然現れたシエルに、さつきは盛大に混乱した。
 アレイスターが最後に使ったのは『戦車』のカード。
 トート・タロットなど知らないが、何となく彼女はその効果を『見方をよびよせる』だと思っていた。
 そして、だからこそ彼女は驚いた。なぜ、アレイスターの魔方陣から男の見方である筈の吸血鬼ではなく、自分の先輩が出現するのか。

「―――助かったよ、シエル。
 やれやれ、幾ら攻撃魔術に自信があっても、その道のプロフェッショナルに喧嘩を売るものではないな。本当に死ぬかと思った」

「あなたほど生き汚い存在も珍しいというのに、よく言いますね。女性の敵は潔く死ぬべきかもしれませんよ?」

「勘弁してくれ。言っておくが吾が封印指定を受けたのは、埒外の戦闘技能を有するからではないのだぞ?」

「そうですね。けれど、魔術を極めた果てに擬似的とはいえ固有結界すら展開可能になれば、無理の無いことですよ。
 その為に魔力を奪われた女性たちも、あなたが追われていると聞けば、多少は気分がすっとするのでは?」

「ぐ―――、シエル。今夜の君はいつになく辛辣じゃあないか……」

 現れるなりぎゃいぎゃいと、いやギスギスと騒ぎあうシエルとアレイスター。
 これほど言葉を選ばずきつい言葉をぶつけ続けるシエルも珍しいが、そもそもなぜ、彼女の知り合いであるはずのアレイスターが吸血鬼側についていたのか。

「あの〜〜…シエル先輩、ですよね?」

 さつきはシエルの顔色を覗いつつ、控えめに小さく手を上げて質問を投げた。

「だから、前にも言いましたよね。わたしはそもそも…―――っと、はい。なんですか、弓塚さん」

「すいません。さっぱり状況が見えないのですが、その、アレイスターさんって実は味方だったんですか?」

「だれがこんな色狂いを――」
「その通りだよ、さつきクン」

 シエルの言葉を遮る様に、ひとまわり大きな声で嬉々としてアレイスターが言葉を繋いだ。
 その直後にシエルの肘が彼の頬に食い込んだように見えたのは、きっと気のせいである。

「ふう。いいですか、弓塚さん。この男は埋葬機関の、それも番外位の 個人的な 協力者です。それ以上でも以下でもありません。
 決して聖堂教会とこの男に何らかの関係があるわけではないので気をつけて下さい。」

「ちょっと待て。貴様、ひとをさんざん便利に使っておいて、そんな言い方はいくらなんでも酷すぎるだろう。
 今回の事だって、吾の呉れてやった情報が決定打になったのだろうに!」

「あなたを便利に使っているのは、あの真っ黒サド剣士だけでしょうが!!!」
 そもそも、あの陰険サドコンビとアホジャリ以外は、貴方に強力を仰ぐことには反対――――


「―――ほぅ、真っ黒サド剣士か……間違ってはいないが、少し不快だな。
 よし、シエル、動くなよ。このまま痛みも無く消し去ってやろう」



-----


月砂の孫娘
五:月夜を歩く


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 とっくに元の広間へと戻ったこの場所にいきなり出現した地を這う声と、黒い魔剣を肩に抱えたその姿に、その場にいた三人が凍りつく。
 さつきはわたわたと動揺し、アレイスターは一目散に駆け出そうとし、シエルはもうダメだと覚悟を決めた。


約束された…(エクス…)


「わぁ〜〜っ! ストップ! ストップです、アルトリアさん!!
 こんな冗談みたいな展開で死ぬなんて、あの世でいろんな人に笑われますッ!!」

「ああ、冗談だ―――やれやれ、こっちは終わったから様子を見に来てみれば、何故貴様らは漫才をやっているのだ。
 アレイスター、貴様はちゃんと私が頼んだことはやったのだろうな?それとシエル。なぜ貴様がここにいる。いますぐ解りやすく、かつ端的に説明しろ」

 氷の視線と氷河の声で、有無を言わせぬ雰囲気を作り上げるアルトリア。
 戦闘ならともかく、なかばコメディじみた空気を真っ二つに叩き斬って現れた彼女に抗する術を、誰も持ってはいない。

「あ―――ああ。ちゃんとこなしたぞ。君の従者は確かにとんでもないルーキーだったよ。
 あとで詳しく……そうだな、レポートにでも纏めるとしよう」

「ふむ、ではそうして貰おう。あの時の貸し、やっと利子くらいは返してもらえそうだな」

 この段階でのさつきは知る由も無いが、アルトリアはアレイスターに大きな貸しがある。
 内容はシンプルで、でもこれ以上無い『命を救った』というもの。
 それはさつきとアルトリアが出会う二年ほど前の出来事。そのせいで彼はアルトリアに逆らえないらしい。

「で、シエルの方は?」

「え、いえ、わたしは……」

 話しを振られてうろたえるシエルだが、よく考えたら別に隠すことでもないのでありのままを語った。ちょうどいい、とアレイスターもそこに口を挟む。

「――――ふむ。なるほど、それ程までにこやつを追い詰めるとは。
 さつき、今回のお前には満点をやろう。固有結界のことも含め、私の予測をきっちり超えてくれたようだからな」

 さつきに向けて、アルトリアは口角を吊り上げる。
 その表情を言葉で表現すれば、にこり、だろうか。それともニヤリ、だろうか。恐らくは両方なのだろう。

「え、えっと、状況が見えません……」

 そんな形容しがたい表情をされ、さつきはさらに混乱する。
 とりあえずアレイスターが実は敵じゃなかったトコまでは理解したが、じゃあなんで彼女はさっきまで、アレイスターと殺しあっていたのだろうか。

 ――――場合によっては、この場で「理不尽です!!」と叫ぶことも辞さない覚悟だ。

 紆余曲折はあったが、彼女はあのアルトリアの傍に二年もいたのだ。その精神はそれなりにタフに育っているのだった。

「なんだ、シエル。そんなこともまだ説明していなかったのか。
 まぁいい、私から話そう。そもそもの立案者も私であることだしな」

 そうして、アルトリアはさつきにこの一件に乗じて行われた『テスト』の内容をさつきに告げた。
 それはさつきが代行者に認定される前から、アルトリアとナルバレックの二人によって内密に推し進められていたもの。全ては彼女を、『二人目の番外位』に据えるための計画。その第一段階だったのだ。



「ええええーーーーッッ!!
 じゃ、じゃあ今回のコレって全部茶番だったんですか!?」


「そうではない。少なくともコイツは間違いなくここの女吸血鬼に囚われていたし、そんなコイツと真正面から戦える代行者は少ないからな。
 少なくとも擬似固有結界を何とかできる存在が必要と考えれば、人選は間違っていない」


「あ―――。で、でも納得いきません。もしわたしが、あれを何とか出来なかったらどうするつもりだったんですか!? 結構本気で死にそうだったんですよッ!!」


「そうなったら、お前はそれまでだったということだ。言っただろう、私はスパルタだと。
 むしろ、お前の特殊性を考慮して、比較的戦いやすい相手を選んでやったのだから感謝して欲しいくらいだぞ?」


「―――…… 鬼。鬼セイバー」


 ぼそっと呟くさつき。
 その一言をキッチリと捉えつつも、「何をいまさら」と流すアルトリア。
 なんだかんだで結構いい組み合わせですね、と思いながらそれを黙って部屋の端から見守るシエルと、すぐにでも逃げ出したいアレイスター。

 ちなみに――――

「ちょっと待ってください。じゃあアレイスターさんは初めからそのつもりでこの町に潜入したんじゃないんですか?」

「ああ。おいアレイスター、説明してやれ―――っておい、待て。逃げたらどうなるか、知らぬ貴様ではないだろう?」

「ぐ―――。ああ、よかろう。
 まず吾がここを訪れた理由だが、吾は協会の追っ手から姿を晦ます為の隠れ蓑として、半年前にこの死都を訪れたのだ。
 ちなみに、その時には既にこの町に人間はなかった。それでも偶然訪れてしまった人間を何とか逃がしたり、あの女吸血鬼が他に手を出すのを止めたりしていたのだ。それなりに評価して貰いたいのだが―――」

「だが結局。この町を聖堂教会に発見されたと知るや否や、私に情報をリークしたのだ。とんだ蝙蝠だとは思わないか? さつき」

「それも誤解だ。この死都は数ヶ月中に、吾の痕跡ごと消す予定だったのだ。
 まぁ、その前に頂けるものは全て頂くつもりだったが……」

「……どっちにしても最低ですね」

 思いっきりジト眼で、さつきはアレイスターを見る。
 そのアレイスターについ先程までの余裕はなく、たった三十分ほどでアレイスターがアルトリアをどう思っているかをさつきは悟ってしまった。決して悟りたくは無かっただろうけれど。

「――――は。さっさと消しておけばいいものを、そんな欲をかくからギアスなど掛けられるのだ、莫迦め。どうせあの女吸血鬼とも寝たのだろう?」

「………ノーコメントだ」

 消え入りそうな声で答えるアレイスター。
 「本当に最低ですね」と呟くさつきと、さっきからため息ばかりのシエル。


 ―――このアレイスターという男は女吸血鬼が策士であるということを考慮せぬままに、彼女と一夜を共にした。
 いくら散々口説いた末にもらったOKの返事とはいえ、間抜けとしか言いようが無い。
 そして、その行為の跡。夢うつつな気分に浸っている瞬間を女にまんまと衝かれ、そのまま束縛の魔術を掛けられたのだった。
 彼の魔術所が『翻訳家泣かせ』として一部で有名なのも、きっとこのような“見落とし”から発生した誤字や見落としのせいだろう。


「女がそう簡単に身体を開くものか。そんなことも解らんから、いつまでたっても根源にたどり着けぬのだぞ、アレイスター」


「……アルトリア、それとこれとは関係ないだろう。
 一応の恩義もあるし、君は充分に魅力的な女性だから我慢しているが、それでも言っていい事と悪いことが――――すまん、何でもない」


 弱。


 アレイスターが憮然とした表情で言い返そうとした刹那、輝きだした黒い魔剣を眼にして、彼は言葉を引っ込めた。


 だが、真実はどうなのだろう。
 記録に残っているだけで、十人近くの妻や愛人を持った彼である。もしかしたら、一般常識とかけ離れた女性にのみにわかる様な、そんな魅力を彼は持つのかもしれない。
 いや、アルトリアを目の前にした彼は単なるヘタレにしか見えないが、それは大体の男性がそうなるので見逃してあげて欲しい。


「さて、話すことは話したな。シエル、あとは頼む。私たちは一足先に帰るぞ」

「ええ。初めからこれはわたしの仕事でしたから。アルトリアさんこそ、先鋒での囮役、お疲れ様でした」

「なに、最近は運動不足ぎみだったからな、中々愉しめたぞ。
 ―――そうだ仕事といえば。アレイスター、貴様はこれからどうする?」

「どうもこうも、アンタにレポートを提出して、教会から報酬をふんだくったらまた隠れ蓑を探すだけさ。
 幸い『アレイスター・クロウリー』の名前は裏表問わずに知れ渡っているからな、簡単なもんだよ」

「まぁ、そうだな。
 あえて近寄りがたい、訳の解らない人物として有名になることで良識ある一般人から、己が本物の魔術師であることを隠しと通しているお前だ。そんなことは朝飯前だろう」

「そういうことだ。人間、どんなに繕っても綻びは出来る。
 なら、その綻びを別のもので覆い隠して、それ以上広がらないようにすべきなのだ。
 頭ガチガチな協会の連中には、とうてい理解できぬことだろうがな」

 アルトリアは言いながら大げさに肩をすくめるアレイスターに背を向けて、広間の出口へと向かう。さつきもそれに続こうとして、

「ああ、さつきクン。そこの女にはそっちに関する用がないが、君ならいつでも大歓迎だ。気が変わったら是非にこのジジイの相手を―――――

「ア、レ、イ、ス、タ、ーーー」

「ああ解ったよ。失礼した、忘れてくれ」

 態度を一転させてひらひらと手を振るアレイスターを視て、さつきはくすりと笑った後、アルトリアについて屋敷を出た。



 アレイスターさん。貴方のおかげで、わたしは何かを掴めた気がします。
 でもごめんなさい。わたしを救ってくれたのは間違いなくこのアルトリアさんだから、気が変わることなんて無いんです。
 あ、けど普通のお茶なら、今日のお礼も兼ねてそのうち付き合いますね。



 代行者、弓塚さつき。
 後に埋葬機関番外位を経て、引退した『弓』のあとを継ぎ埋葬機関第七位に就き、『月砂』の異名で怖れられるようになる少女。
 そしてその実力と才能。さらに『真祖の孫娘』としての存在価値を評価されて、祖の一角、ナルバレックが狩った二十二位に数えられるようになる死徒。

 彼女の歩みは、まだ始まったばかりである。



「さて、そういえば夕飯はまだだったな。何か食べたいものはあるか?」

「そうですね〜。っていうか、わたしこのあたりで美味しい物ってなにか知らないんですけど」

「そうか。ふむ、とりあえずあの男ががめているであろうヴィンテージワインでも頂こうか。あとは……まあ、丘の上の屋敷に行けば、何かあるだろう」

「そうですね。行きましょう、アルトリアさん!」



  To Be Continued Later…


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感想はこちらにわーい(嬉しい顔)
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