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北京波の新世紀映画水路コミュの『ブロークバック・マウンテン』評

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しみじみと全身を満たす静謐。

すべての人間にあまねく拓かれたはずの人生を禁断の愛に歪めてしまった男たちの物語。

だが彼らにはその道しかなかったのだし、モラルに反した愛を認められるはずもなかったのである。

その愛は二人のみならず、愛するひとびとの生活から平凡な幸福を奪い去った。

なによりもふたりの男から、愛するひと(妻や娘など、モラルで保護されている対象)のために全身をもって頑張る、本来の男なら当然果していく、陽のあたる表道から背を向ける生き方を選択させた。

「俺はクズだ」と語るヒース・レジャーの言葉には、決して他人に表明できない秘密の呪縛から解き放たれない人間ではアイデンティティーを形成できずに閉塞感に縛られ、人生に燃焼できなくなることを観客に理解させる。

それでも当事者であるふたりはまだいい。

家族はモラルに反した愛とわかっていても息子をひたすら見守るしかない。そういった家族の哀惜にまで目を向けた緻密なシナリオが見事だ。

この『ブロークバック・マウンテン』が通常の観客に大きく受け入れられたのは、実はラストのヒース・レジャーがジェイク・ギレンホールの実家を訪ねるシーンがあればこそであろう。

あのシーンはまるで戦死したわが子に愛した娘がいて、戦後訪ねてもらったようなシーンではないか。

思えば、レジャーにとって妻は同じスタート・ラインに立った存在であるために彼はそれほど罪悪感は感じていないようだが、娘たちについてはそうではない。

親としての感情はバイ・セクシュアルでもまったく同じだからだ。

そうであるように、ギレンホールの両親も、ひたすら耐えて息子を見捨てずにいるしかなかったのである。

あの母親のなんともいえない視線も、寡黙で偏屈そうな父親も、精一杯の対応を見せる。

これが初恋であったり、道ならぬ恋に身を灼くものならば、レジャーもギレンホールも後ろ向きの人生は歩まなかっただろう。

妻や娘たちに対して夫や父として対する姿勢と、男として対する姿勢に齟齬を生じたままでは、屈託ない人生は得られるはずがない。

『ブロークバック・マウンテン』という映画は同性愛を描いていながらすべての観客に迫ってくるのは、彼らの悲しみが時代というモラルに黙殺せねばならなかった人生であったことによる。

現代のようなすべて選びうる時代には成立しない悲劇であろう。

アン・リーの演出は素晴らしかった。

このギレンホールの父親が原作では児童虐待をしていたという記述があるそうである。映画でははっきりとは明示されない。

あの父親は最初やってきたレジャーに対しても、他の「良識ある市民」である他人に対して振舞っているように、親として同性愛の息子を決して認めてはいないことを「同じ墓には入れん」と口に出すことで意思表示をしているのである。

そうはっきりと振舞わねば、あの閉鎖的社会では生きていけないからだ。

世間から取り残されたような陋屋を見ていても、あの家族が息子の行状に既に世捨て人の日常であることを窺わせる。

だがレジャーが本当に息子の相手だと言うことがわかって、表向きの虚勢を張らなくてもいい相手だと分り、「一緒の墓に入れてやる」ことを表明する。

それは旧世代である親が、息子を多少なりとも受け入れた瞬間であるのだが、でも、そこまでが両親の示しうる譲歩の限界でもある。それを誰も非難はできないだろう。

二人がテントのなかで初めて求め合ったときに、彼らはなにも支障なく攻め手と受け手を分担できるのだが、これは驚きであった。

あれは、ああいうものなのか。

そしてレジャーにとってはギレンホールはこの世のなかでいちばん愛した相手であったのに、ギレンホールにとっては唯一無比ではない。たとえばつまみ食いは出来る。このあたりが本当に哀切である。

あのレジャーが猛烈なアタックで接近してきたウエイトレスのキャシーに対しても妻や娘に対して働いた不実を繰り返すことになるのが分かっているために切ってしまう。

目先の幸せを享受する資格は自分にない…。

「おれはクズだ」という言葉の重みが、ぐーっと迫ってくる。

それにしても原作が「シッピング・ニュース」の女性作家。

シナリオ&製作が「ハッド」「ラスト・ショー」のコンビ。

40年間アメリカの家族を描いてきた作家たちの終結。

見事な作品である。

撮影は『アモーレス/ロペス』『フリーダ』『21グラム』のロドリゴ・プリエト,神業のような映像だ。(★★★★)

★映画もさることながらスーパーがすべて明朝体(太字)であることに最後まで馴染めずであった。

思えば『初恋の来た道』でソニーが手書き風フォントを開発。

以後かろうじて雰囲気を保っていましたが、これで終結なのでしょうか。

ずっと予告編を見ている違和感に襲われたです。

コメント(7)

まだ観ていないのでとても楽しみです。
私は、2人のことしかみえませんでしたが、家族のことにまでしっかり捉えていらっしゃる。さすが!です。

スーパーの明朝体は、まったく気づきませんでした。
ただ、エンディングの歌詞のスーパーは違和感ありました。

もう一度みたい映画です。
>アイリーンさん
痛み入ります。
『かもめ食堂』ご覧になりました?
お楽しみはこれからだ!
>サッチさん

感想有難うございました。

ボクはいつの頃なのか、1本の映画を観たときにまず虚心坦懐に楽しむ。

そのあとで、違う見方ならどうなるのかと、反芻する癖ができているようです。

これはどうも俳句をかじってからなんですね。

でも、こういう食べ方は、美味いなぁ美味いなぁと、心から美味しく食べたひとの満足感には及ばないと考えるようになりました。

韓国映画のいい映画をたくさん観ればみるほど、ある種の無力感に襲われるようになったからです。
お楽しみは、ずーと先です。

「かもめ食堂」は5月13日から。
「3年身籠る」も5月13日。でもレイトのみです。
「二人日和」は5月20日から。

「あおげば尊し」は4月15日からです。

それまでにDVDで「バーバー吉野」「恋は五・七・五」
荻上直子監督のお勉強します。

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