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北京波の新世紀映画水路コミュのアーカイブ・スペシャル「映画館名称」

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 時事通信社から出ていた映画年鑑という業界向けの書物が、いまやとても面白い!

現在こういう書物が刊行され続けているのかは定かではないが、1956年版を先日古書肆で入手した。代価4000円也。(この映画年鑑には映画便覧という手帳スタイルの別冊付録が付いている。この映画便覧が無疵の状態であったために、こういう高価にあいなった。)

この映画便覧の内容の白眉は全国映画館一覧表である。

映画館名・住所・電話番号に続き、経営者名・支配人名・映画館の構造・定員が載っている。これだけでも垂涎の情報であるが、映写機の種類・発声機・スクリーン(シネマ・スコープの設備の有無)の情報まで載っている。冷暖房装置が備わっているかも重要な項目である。配給系統・最寄駅で一覧表は終わる。

すべてが1955年10月1日現在の記録ということだが、東京都は人口7、963、582人に対して総映画館数430館。

有楽町・日比谷・神田のある千代田区には18館。
ロードショー館が多いため半数の9館に冷暖房装置がある。
銀座・築地・人形町のある中央区には全18館。
冷暖房装置は4館。暖房装置のみが2館となっている。

新宿は角筈・歌舞伎町・追分など範囲が広いが、全35館。
冷暖房装置は14館のみだ。

六区・上野のある台東区はやはり35館。しかし20館が冷暖房完備しており、集客力の違いが歴然としている。

こんな些細なことだけでも、時代の流れは読み取れる。

シネマ・スコープの導入。立体音響の設置、シルバー・スクリーンというスクリーン幕の高級化、そこに冷暖房設備である。

設備投資の決断は小さな映画館にとって、死活問題にもなりかねない。おそらく総体的に1館あたりの定員数が多いのも、劣悪な椅子でも商売優先していた頃だということだろう。

このような歴史を垣間見ることになる情報は、これからも折りある度に紹介していきたいと考えている。


★まず全国映画館数であるが1955年8月末の統計によると5,182館。前年より一挙に500館の増加である、
そこで、徒然なるままに5,182館の内容をチェックしていくと面白いことが色々見て取れる。

★映画館の名称について取り上げてみよう。
実業之日本社の書物で2003年に「西荻窪キネマ銀光座」という映画エッセイがあった。内容は知らないが、内容云々を言う前に、映画館を表わす「キネマ」と「○○座」が両方つけられた劇場はまずない。

映画館名と言ったって、むかしも今も、そう変化があるものではない。圧倒的に多いのは地域の名前をつけたものだ。「○○映画劇場」か「○○映劇」、経営者が複数の映画館を所有し、それらが隣接している場合には「○○中央」とか英語名の「○○セントラル」、或いは何故か「○○国際」という名称は全国的に見られる。そして映画館が非行に繋がるという印象があるためなのか「○○文化」という名称も多い。

★1956年といえば戦後といえども全体に貧しく、戦前の姿をそのまま引きずった地区が少なくないことは容易に判断できる。そこで、全国に複数見られるクラシックな映画館名から時代を考察してみることにしよう。



<特別企画>【 映画館名称から浮かび上がってくる時代 】

★圧倒的に多い名前がある。日本一ということなのだろうが「富士見館」「富士見劇場」「富士見座」は全国的な広がりを見せている。この名前は全国の住所の名称としても多いものである。また戦後の新しい時代のイメージなのか「電気館」も全国的なものだ。これから、キー・ワードによる分析をしてみよう。

? <縁起をかついだもの> 
「弁天座」「弥生座」「恵比寿座」「戎座」「布袋座」「末広館」「松栄館」「栄座」「万歳館」「ラッキー劇場」「共栄館」「弥栄館」「八千代館」「偕楽座」「安楽座」「老松座」「蓬莱座」「朝日座」「曙館」「旭館」「日の出座」「七福座」「常磐座」「日吉座」「錦座」「かぶと座」

いつの世も縁起をかつぐのは変わらない。「弥栄館」は“いやさか”館なのだろうか。これらは現在都市部において消滅したネーミングである。(大阪ミナミの千日前に弥生座があるが、これなどは希少的となっている。)


? <動物・植物からのもの> 
「つばめ座」「ライオン館」「タイガー劇場」「キリン館」「孔雀座」「金龍館」
「さくら座」「ばら座」「葵座」「二葉館」「松葉座」「まりも劇場」(釧路市)「ローズ映劇」

この中でもっとも複数の土地に見られたのはライオン座・ライオン館であった。百獣の王ということ、MGMのタイトルとも連動したイメージだったのだろう。釧路まりも劇場というのは、なんかいいですね。

? <戦後の社会情勢を反映したもの> 
「平和座」「ピース映画劇場」(板橋区)「自由劇場」
「日米館」「協和会館」「親労会館」「革進館」
「リベラル座」「ひかり座」「新天地劇場」「新世界劇場」「キコクザ」

平和を冠したネーミングは全国の商店街のそれにも見られる。これこそ戦後のものである。そのあと全国の組合活動・共産党の躍進などを反映したものが続く。
リベラル座というのはカストリ雑誌からのものであったかもしれない。野村芳太郎監督の傑作『砂の器』の被害者であった三木謙一元巡査は旅行先の伊勢から急遽行程を変更して蒲田で殺された。捜査していくうちに三木が2日続けて地元の映画館を訪れていたことがわかるが、その映画館も「ひかり座」であった。「
新天地」「新世界」180度転換する世相が見て取れます。
四国は新居浜市にあった「キコクザ」は理由はわかりませんが、引き揚げ体験者がオーナーであったのか、新居浜港が引き揚げの港であったのか・・・、いまは知る由もありません。戦後60年なのですから。

? <実演劇場からの発展とおぼしいもの> 
「歌舞伎座」「新富座」「近松座」「相生座」

たとえば宮城県石巻で見たことがあるが、多くの地方の映画館は実演劇場を兼ねている施設があった。いまでこそどんな田舎にも市民会館という名の、ソフトがないけれど立派なハードが備えられている。しかし、例えば経済的に潤っている漁港などには、ちょっとした歌舞伎さえ掛けられる劇場があったものである。

? <戦前・戦中からのイメージ> 
「東亜館」「共栄館」「菊水館」「満映劇場」「満鉄会館」(共に岐阜県柳ヶ瀬)

「大東亜共栄圏」ではあるまいが、戦前のイメージを引きずったネーミングで都市部には流石に絶滅した。美川憲一のヒット曲「柳ヶ瀬ブルース」でも有名な土地に、甘糟ゆかりの人なのか「満鉄」「満映」を冠した映画館があった。さすがに唯一無比の名称である。

? <企業・仕事と密接なもの> 
「王子製紙娯楽場」(苫小牧市・定員1300人)「清水沢変電所会館」「鉱一心館」(夕張市)「一坑会館」「二坑会館」「黄金坑会館」(芦別市)

石炭が動力資源として花形であった時代には24時間体制で労働者が坑のなかに入っていった。24時間体制なのだから、食事や入浴、飲酒や娯楽もそれにあわせた体制をとっていたと思われる。それにしても定員1300人のキャパをもつ講堂というのは大変なスケールですよね。

?<漁業・農業と関係するもの> 
「大漁館」「潮座」「港座」「鯛の鼻会館」「農民館」(岩手県郡部)

このなかで「鯛の鼻」というのは漁場の名前ではないだろうか。それにしても「農民館」というのは凄い。一年中『荷車の歌』『土』『米』『草を刈る娘』を掛けていたわけではないだろうが。

?<自然・天体などのもの> 
「宇宙館」「大宇宙館」「大天地館」「太陽館」「金星館」「銀星館」(以上、大牟田市)「地球座」「「太陽劇場」「アポロ座」「スバル座」「オリオン座」「ふたご座」「有明座」「南風館」「春陽館」「春海館」

大牟田市にあったこの宇宙空間を彩るような興行会社いいですね!

? <地区・年号などからのもの> 
「明治館」「大正館」「昭和館」
「公園劇場」「稲荷座」「天神劇場」「オリエンタル劇場」

昔(京都)平安シネマというのがありましたが、これは除外しておきましょう。(笑)

? <とにかく娯楽・楽しいよ> 
「スリーS劇場」「天国座」(大川市)「パラダイス劇場」「聚楽館」「快楽館」「エンゼル館」「喜楽座」「和劇場」「有楽座」「グランド劇場」「うきよ館」「ブロードウエイ劇場」

娯楽の殿堂という形容もあったのですから何でもあり。この中でもダントツは「スリーS劇場」だろう。愚民政策の妙手としてスクリーン(映画)スポーツ・セックスの3本柱をもって人民の反体制志向を掌握する。この命名は自信の表れであったのか?いったいどんな映画を掛けていたのでしょう。やっぱり成人映画なのかな?

? <特定地域密着型のもの> 
「シネマ庚申塚」(豊島区)「北星座」(札幌市)「テアトル銀嶺」(山梨鰍沢町)「銀世界館」(新潟県小千谷市)「上野パーク劇場」「伊勢パール劇場」「金華映画劇場」(岐阜)

この手からいえば何でも出来そうだ。「松阪シネマ牧場」とか「恐山イタコシネマ」とか「姫路白鷺座」とか、いまやなんでも横文字1・2・3・だもの。

? <家族で楽しめる、非行なんて知らないよ> 
「家族館」「ニコニコ座」(久留米市)「めばえ座」
「五反田オリンピック映画劇場」「赤羽オリンピア劇場」

実はずっと長い間映画は非行に繋がるという理由で1回の興行時間が150分を越えないように・・・、という決まりがあった。それもアメリカ映画超大作時代が到来して有名無実のものになっていくのだが、なんにもないのに「○○文化」という名前はこういう背景からでてくる。それならポルノ&タバコ&アルコールのトリオから「PTAシネマ」にしとけばいい。

? <原因・理由聞かねばわからないもの> 
「ワンプラー劇場」(足利市)「マレン劇場」(青森県郡部)
「ピオニ映画劇場」(福島県須賀川市)「魚らん京映」(港区)
「カスバ映劇」(佐世保市)「アイシス劇場」(新宿区)
「横浜レアルト」「王子レコード」

ワンプラーって何よ。ピオニって何よ?でもカスバ映劇ってなんかいいなあ。犯罪・アクション映画専門、もちろんコケラ落としは「ペペ・ル・モコ」

? <ムード重視型のもの> 
「乙女座」「「ロマン座」「ミリオン座」「エデン劇場」
「プリンス劇場」(帯広市)「プリンセス映劇」「クラウン劇場」(田川市)

まあ、ここに「○○パレス」とかも入れてもいいだろう。東京の飯田橋にあった「くらら劇場」もメルヘンからの命名であったろう。

? <世界的有名地名型のもの> 
「新丸子モンブラン」「シネマ・リリオ」「エトアール」「ハリウッド劇場」(大田区)「巴里座」(品川区)

これに現在川崎ミス・タウンにあるチネチッタ(ローマの高名な撮影所)とか、大阪梅田に東映が作ったシネ・コン「ブルグ7」が入る。由来は往年のドイツ名画『ブルグ劇場』からのものだろう。もっともドイツ語のBURGは城・城砦の意味で、もともとは囲まれた場所をさすのだと友人の大建さんが教えてくれたことがある。これ以上映画館にふさわしい単語もないのではとも思う。

? <館主の趣味優先型のもの> 
「テアトルダービー」「テアトル若草」

愛媛県にあった「テアトル・ダービー」がオーナーが競馬好きであったのか、近くに地方競馬場があったのか、定かではない。

?<灯台もと暗しのもの> 
「「いろは座」「ABC映画劇場」「コメディ映画劇場」(葛飾区)「人世座」「ムービーキング」(江戸川区)「横浜百万弗劇場」「丸越シネスコ劇場」(岐阜)

灯台もと暗しというのには訳がある。単純が最強ということで、「いろは」「ABC」というのは強力だと思う。「コメディ」は果たして喜劇専門であったのかどうか分らないが、随分思い切った命名である。池袋文芸座の前身である「人世座」はよっぽど文芸座よりいい名前だと思うし、当時流行りものであったシネ・スコを館名にした劇場は凄いというほかない。今で言えば百円均一を店名にしているようなもので、クライアントの興味そのものを前面に押し出すことこそビジネスの成功への秘訣だ。しかし、このなかで最高最大の館名だと感心したのは「百万弗劇場」だ。古くて新しい、今でも通用する遊びに充ちているのです。

?<屋号型のもの> 
「大丸座」「マルス」「マルキ」※(本当は○のなかに大・ス・キが入る。)

昔は屋号に専用の文字が使われた。ヤマサやヤマキなどの屋根のような記号や、カネテツの鯨尺のような記号、この映画館たちのように○のなかに「大」「ス」「キ」などを入れた館名は「ダイマル」「マルス」「マルキ」というのだろう。恐らく地方の有名な商家の屋号であったに違いない。いまは昔のこと。

? <忘れじの想い> 
「アトムシアター」(長崎市)「パロマ映劇」(足立区)

果たして長崎=原子爆弾という発想があってのことかは分らないが、「鉄腕アトム」でもあるまい。ここは意識してのものであると考えたい。パロマ即ち鳩をつけた劇場はやはり恒久平和を願ってのものであったのだろうか。「パロマ映劇」はオーナーがガス屋さんであった、とすれば詰まらないが。


◎映画が非生産的な、かつ非日常の空間であったからこそ、名称ひとつとっても感慨深いものを見る者に生じせしめる。

いまや映画館はシネ・コン流行りで、映画館の名称は冠の名に番号が振られるだけとなった。

映画をアミューズメントという点だけで括るなら最高の環境が整備されつつある。しかし、郷愁という厄介な感情を喚起させる要素は・・・、そんなことを思うのは旧世代ということなのだろう。

決して奇麗でも豪華でもない古びた映画館。

夢や憧れはスクリーンに映っているものに詰まっていた。

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