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エディット・ピアフの人生コミュの62、最後の舞台?

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ここでは、ボビノ公演の新曲を紹介します。


●MONSIEUR INCOGNITO
「無名の男」
(ロベール・ギャル作詞、フローランス・ヴェラン作曲)

 直訳すると、「見知らぬお方」といった意味で、街をふらつく名もない初老の紳士に呼び掛ける歌ですが、実は見知らぬどころか、歌の主人公である女性にとってこの紳士は、過去に深い関わりのある男だったのです。
 そんなパリの街でのささやかな再会劇のやりとりが、美しいアコーディオンの旋律に乗って歌われます。

「見知らぬお方、ここで何をなさっているのかしら?夜の地下鉄の駅前なんかで。お金持ちみたいね。ちょっと拝見したところ、お洋服は秋の色でロマンスグレーで、黙っているとまるで別人みたい。でもはっきり言わせていただきますけど、あなたのやり口なんかお見通しよ。信じられるものですか。絶望して孤独になってようやく今になって立ち直ったのよ。だからお礼を言うべきなのかもね。見知らぬお方、もうおよしなさいなそんなこと、あなたの薄ら笑いも服装も私は嫌い。私といる限りは『さよなら、またね』って言うわ。あなたが私をじろじろ見たので、背筋が寒くなったわよ。。。向こうに行って!」




●TIENS, V´LA UN MARIN
「船乗りの恋人」
(ジュリアン・ブーケ作詞・作曲)

 タイトルは「まあ!船乗りだわ」といった意味。軽快な行進曲で、披露のあとも大きな拍手を受けました。作者のジュリアン・ブーケは、みずからも歌手で、かつてピアフの恋人でもあり、1951年の「私はどうするか知っている」などの曲を提供していますが、歌手生活は長くは続かず、南仏の実家に戻って家業を継いだという話です。エディットはデビューの頃から船乗りとのロマンスを数多く歌い続けてきましたが、これが最後となりました。

「あら、船乗りだわ。ほら、あの人船乗りよね。私の彼じゃないけど、でもよく似てる。私に『永遠に愛する』と語ってくれたあの人と。ほら、船乗りよ。ほんとに船乗りってかっこいいわ。私、船乗りは大好き。あの人を思い出すわ。あの人のことが本当に好きだった。彼と同じ制服ね。スーツケースを持って、口笛を吹いて、あの人にそっくりよ。美しい神様みたい。生まれついての船乗りなのね。でも間違えはしない。私のあの人は遠いところ。戻らない人なのよ。」



●LE CHANT D´AMOUR
「恋の唄」
(ピアフ作詞、シャルル・デュモン作曲)
 今までありそうでなかったシンプルなタイトルです。恋人たちを優しく見守る聖母の如きまなざしです。ボビノ公演以前から歌われていましたが、この公演でアレンジを変えました。コントラバスの音色が美しく響きます。

「もし歌わせてくださるなら私は恋の唄を歌います。平凡な恋の唄、愛しあう二人のための歌を。もし語らせてくださるなら私は恋の唄に泣きます。二人は互いに引き裂かれ、同じように悲しんで亡くなってしまいました。けれども、愛しあう者たちは、それが真の愛ならばいつの日か再会し二度と離れません。この二人も今はきっと一緒です。だから歌わせてください。ラララ…。」



●J´EN AI TANT VU
「私は見てきた」
(ルネ・ルゾー作詞、ミッシェル・エメール作曲)

 原題は「私は見過ぎた」という意味。事実、たくさんの人に出会い、たくさんのことを見聞きしたピアフにとっては、十分すぎるほど様々なことを見てきたという印象があるのかもしれません。いままで何百曲もシャンソンを歌い続けたピアフ。しかし、晩年のこの歌で、初めて自分を語りました。過去を振り返り、つぶやくように歌いながら、しかし未来に向かっていく前向きな女性の姿を長い付き合いのルネ・ルゾーが詞を書き、これまた長い友人のミッシェル・エメールが美しいメロディーを作りました。

「私の生きてきた道を振り返ると、苦しかったことや楽しかったことが見える。私は見過ぎた、見過ぎた、見過ぎた、いろんな人たちを。もうだまされないと自分に言い聞かせた。でもまたそちらへ行ってしまう。危険な綱渡りを終えて自分をたたえても、もっとすごいハシゴを出されれば昇らないわけにはいかなかった。いろんなことを信じすぎたの。街角の人々のお世辞、『大好き!』『永遠にずっと!』それらは何のため?誰のためだったの?私はもうすべてやり尽くしたと思っていた。全部見て聞いて話したと思っていた。でもその時彼が現れた。それから私はもう歩かない。走るのだ。新しい人生に向かって走る、走る、走る、走る、走る…」




●C´ETAIT PAS MOI
「それは私じゃない」
(ロベール・ギャル作詞、フランシス・レイ作曲)

 無実の罪でとらえられた男が、牢屋の中から叫ぶように訴える歌です。冤罪の問題はこの時代から半世紀だったいまでも数多くの問題が残されています。ドラマ性の高いこの歌は、ピアフにぴったりです。歌の最後にひたすら叫び続けるピアフの絶叫が、いつまでも耳に残る印象的な歌です。


「牢屋で彼は泣き、怒り、絶望した声で繰り返す。俺じゃなかった。あの日あそこを通ったのは俺じゃなかった。誰のしわざか分からないが俺じゃない。説明できなかったんだ。俺は牢屋から叫ぶ、この身の潔白を。こうして何ヵ月も待っているのだ。これからどんな仕打ちを受けるのか。そう、彼女を愛していた。誰かが死んだあいつを発見したんだ。俺は彼女が死ぬほど好きだし、嫉妬もした。でも俺は殺してはいない。今も牢屋から無実を叫ぶ、やっていない!やっていません!と。空に向かって両手をさしのべ、叫びたい。俺じゃない!俺じゃない!俺じゃない!」



●MARGO COEUR GROS
「ふさいだ心のマルゴ」
(ミッシェル・ヴァンドーム作詞、フローランス・ヴェラン作曲)

 パリの天井桟敷の人々にお馴染みのピエロの相方マルゴを歌った歌です。転調を繰り返し、明るく歌われています。

「悲しくて優しいマルゴを泣かせるには歌のサビ一つ、ギターの音さえあればいい。天井桟敷の人々は自分らの生活を忘れるために来る。悲しいものほど美しい。客たちは、舞台の恋人たちがほほえんでいる場面は退屈なのだ。メロドラマを見て満足する。そして、あなたが好き、あなたも私を好き。というわけだから、またねマルゴ。ラララ…。」




●LES GENS
「人々」
(ミッシェル・ヴァンドーム作詞、フランシス・レイ作曲)

 フランシス・レイの意欲作です。独特なコード展開が今までになかった新しい時代のシャンソンを予感させます。フランシス・レイは先般の公演で悪評を受けながらも、めげずに次の作品にむかい、より新しい、自分の信じる歌を作りました。その一つがこれです。この3年後に、「男と女」で大ヒットを生み出します。ピアフはよくぞフランシス・レイの才能を見抜きました。

「他人は私達を見る。私達は他人を見ない。私達は自分達だけの世界にいる。他人は雨の中を急ぐけど、私達は陽光の中をのんびり歩く。みんな道ばたに花が咲いているのに気付かないんだ。もしかしてやきもちかも。私達があまり仲良くしているから。他人は私達をちゃんとは見ない。私達も視界に入らない。他人って変ね。抱き合うとき、キスするとき。「愛してる」というとき。他人は私達を見ない。私達も他人を見ない。目に入らない。」




●TRAQUE
「追われる男」
(ロベール・ギャル作詞、フローランス・ヴェラン作曲)

 街中をひたすら逃走する男。一体何があったのか、興味のわく歌です。そして第三者的に情景を語るだけと思われた主人公の女性からある事実を聞かされます。3連符を多用し、はやる気持ちが表現されています。


「あの人を見て。走ってる、走ってる。街中をうつろな気持ちで。一体彼は何をしたの?盗み?殺人?誰にもわからない。自分のしでかしたことで追われているのか?私にはわかる。彼はひたすら走り続ける。私の家に、みんなが彼を捕まえに来たの。彼の最後のチャンスはただ逃げるのみ。狂ったように、最後まで、多分死ぬまで。あの川まで、神様、あの出来事を知っているのは私だけ、私だけ、私だけ…。」

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