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毎日新聞2020年12月19日 11時00分(最終更新 12月19日 11時00分)
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後3時5分、望月亮一撮影
財布に残っていたのは、わずか13円だった。大阪市港区にあるマンションの一室で11日、腐敗した女性2人の遺体が見つかった。いずれも餓死で、住んでいた母親（68）と娘（42）とみられる。冷蔵庫は空っぽで、家の水道やガスは止められていた。数カ月間誰にも気付かれることなく、都会の片隅でひっそりと亡くなった母娘。何が2人を追いつめたのか。
体重30�繊⊃凜�月気付かれず
世界最大級の水族館「海遊館」などが集まる大阪湾のベイエリア・天保山。そこからほど近い住宅街の分譲マンションで、母娘は暮らしていた。
大阪府警港署によると、11日午後、離れて暮らす母親の姉から「妹と連絡が取れない」と通報があった。警察官らが室内に入ると、洋室と居間の床で2人の遺体が見つかった。いずれも死後数カ月が経過し、腐敗が進んでいた。解剖の結果、2人とも低栄養症で胃は空だった。母親とみられる女性の体重は約30キロしかなかった。
冷蔵庫には何も入っておらず、水道やガスは止められていた。ある捜査関係者は「みそなどの調味料すら残っていなかった」と話す。寒かったのか、娘は上着を着たまま倒れており、財布には現金が13円しか残っていなかったという。
母娘仲良く、近くの住民「上品な人」
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後2時59分、望月亮一撮影
近隣住民らによると、母親は1976年にマンションが建った当初から、一家で住んでいた。結婚していったん家を出たが、娘を連れて実家に戻り、他の家族が亡くなった10年ほど前からは2人で暮らしていたという。
よく一緒に買い物に行くなど、母娘は仲が良さそうだった。近所付き合いは少なかったが、母親は地域の班長を引き受けたことも。頼みに行った近所の女性は「班長を敬遠する人も多いのに、『いいですよ』と快く引き受けてくれた。上品で、他人の悪口は絶対に言わない人だった」と振り返る。1駅離れたスーパーまで歩くなど、健康にも気を付けている様子だった。
しかし、2人を知る関係者によると、2020年春ごろから困窮し、次第に追い詰められていった様子がうかがえる。娘は職場で問題を起こして退職。「お金に困っている」と話し、親族から仕送りを受けて生活していたという。
ネットに個人情報、新聞料金滞納も
夏にはインターネットの告発サイトに、娘の名前や生年月日、携帯番号、勤務先などの個人情報がさらされた。金銭トラブルをうかがわせる内容が書かれており、何者かが嫌がらせをしたとみられる。
購読していた新聞の料金も滞納するようになり、販売店従業員が何度も部屋を訪ねたが応答がなかった。水道料金も支払われなくなり、大阪市水道局は11月中旬に給水を止めていた。
生活保護は受給していなかったとみられ、地域の民生委員らも母娘のことは把握していなかった。夏以降は近所で2人の姿を見た人もほぼいなくなっていた。
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後2時57分、望月亮一撮影
近年、同居者がいるのに自宅で死亡しても長期間発見されない「同居の孤独死」が問題になっている。毎日新聞の集計で、東京23区と大阪市内では17〜19年の3年間で計538人に上った。中でも、親子や夫婦がそろって遺体で見つかる「共倒れ」が相次ぎ、地域から孤立した家族が支援の網の目からこぼれ落ちる事態が深刻になっている。
年の暮れが近づき、寒さが厳しさを増す大阪。母娘が暮らしたマンションからは、夜になるときらびやかにライトアップされた大観覧車が間近に見える。
母娘を知る女性（73）は「2人とも身なりはきれいで、困っているようには見えなかった。なぜこんなことになってしまったのか」。同じマンションの70代男性も「最近は地域のつながりが希薄になっている。近くでこんなことが起きてしまい、非常に残念だ」と悔やんだ。【榊原愛実、澤俊太郎、安元久美子、土田暁彦】
「孤独死」防止、大阪市が業者と協定
自宅で亡くなった後にしばらく気付かれない「孤独死」を防ぐため、大阪市は異変があれば通報するようライフライン事業者と協定を結んでいる。餓死した母娘は料金滞納で水道を止められ、市水道局の委託業者が4回にわたって訪問したが通報していなかった。
電気、ガス、水道などのライフラインが止まった状態で遺体が発見される事例が相次いだことを受け、厚生労働省は2012年、保護が必要な生活困窮者の把握に努めるよう、都道府県に通知。各自治体は事業者との連携を進めている。
市は14年以降、検針や集金で住宅を訪問する際に「異変」を感じれば市に通報してもらうよう、市水道局や関西電力、大阪ガスなどと協定を結んだ。「異臭がする」「水道の利用量が異常に多い」など年間30件前後の通報があり、救急搬送した事例もある。
水道局の業者が４回訪問、通報はせず
餓死した母娘は、20年8月から水道料金を滞納。10月中旬からは水の使用量がゼロになり、市水道局は11月中旬に給水を止めた。
市水道局の委託業者は10〜12月に計4回、自宅を訪問。応答がなかったが、異臭などはなかったため、通報はしなかったという。母娘はこの頃に死亡したとみられるが、はっきりした時期は分かっていない。
市水道局の担当者は「転居したという思い込みがあった。協定は結んでいるが、無断で転居する事例は多く、すべて通報するのは難しい」と打ち明ける。
市福祉局は今回の事例を受け、滞納者らに生活保護を担当する市の部署を紹介してもらうようライフライン事業者に呼びかける方針だ。【土田暁彦、安元久美子】
毎日新聞2020年12月19日 11時00分(最終更新 12月19日 11時00分)
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後3時5分、望月亮一撮影
財布に残っていたのは、わずか13円だった。大阪市港区にあるマンションの一室で11日、腐敗した女性2人の遺体が見つかった。いずれも餓死で、住んでいた母親（68）と娘（42）とみられる。冷蔵庫は空っぽで、家の水道やガスは止められていた。数カ月間誰にも気付かれることなく、都会の片隅でひっそりと亡くなった母娘。何が2人を追いつめたのか。
体重30�繊⊃凜�月気付かれず
世界最大級の水族館「海遊館」などが集まる大阪湾のベイエリア・天保山。そこからほど近い住宅街の分譲マンションで、母娘は暮らしていた。
大阪府警港署によると、11日午後、離れて暮らす母親の姉から「妹と連絡が取れない」と通報があった。警察官らが室内に入ると、洋室と居間の床で2人の遺体が見つかった。いずれも死後数カ月が経過し、腐敗が進んでいた。解剖の結果、2人とも低栄養症で胃は空だった。母親とみられる女性の体重は約30キロしかなかった。
冷蔵庫には何も入っておらず、水道やガスは止められていた。ある捜査関係者は「みそなどの調味料すら残っていなかった」と話す。寒かったのか、娘は上着を着たまま倒れており、財布には現金が13円しか残っていなかったという。
母娘仲良く、近くの住民「上品な人」
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後2時59分、望月亮一撮影
近隣住民らによると、母親は1976年にマンションが建った当初から、一家で住んでいた。結婚していったん家を出たが、娘を連れて実家に戻り、他の家族が亡くなった10年ほど前からは2人で暮らしていたという。
よく一緒に買い物に行くなど、母娘は仲が良さそうだった。近所付き合いは少なかったが、母親は地域の班長を引き受けたことも。頼みに行った近所の女性は「班長を敬遠する人も多いのに、『いいですよ』と快く引き受けてくれた。上品で、他人の悪口は絶対に言わない人だった」と振り返る。1駅離れたスーパーまで歩くなど、健康にも気を付けている様子だった。
しかし、2人を知る関係者によると、2020年春ごろから困窮し、次第に追い詰められていった様子がうかがえる。娘は職場で問題を起こして退職。「お金に困っている」と話し、親族から仕送りを受けて生活していたという。
ネットに個人情報、新聞料金滞納も
夏にはインターネットの告発サイトに、娘の名前や生年月日、携帯番号、勤務先などの個人情報がさらされた。金銭トラブルをうかがわせる内容が書かれており、何者かが嫌がらせをしたとみられる。
購読していた新聞の料金も滞納するようになり、販売店従業員が何度も部屋を訪ねたが応答がなかった。水道料金も支払われなくなり、大阪市水道局は11月中旬に給水を止めていた。
生活保護は受給していなかったとみられ、地域の民生委員らも母娘のことは把握していなかった。夏以降は近所で2人の姿を見た人もほぼいなくなっていた。
母娘が餓死しているのが見つかったマンション＝大阪市港区で2020年12月17日午後2時57分、望月亮一撮影
近年、同居者がいるのに自宅で死亡しても長期間発見されない「同居の孤独死」が問題になっている。毎日新聞の集計で、東京23区と大阪市内では17〜19年の3年間で計538人に上った。中でも、親子や夫婦がそろって遺体で見つかる「共倒れ」が相次ぎ、地域から孤立した家族が支援の網の目からこぼれ落ちる事態が深刻になっている。
年の暮れが近づき、寒さが厳しさを増す大阪。母娘が暮らしたマンションからは、夜になるときらびやかにライトアップされた大観覧車が間近に見える。
母娘を知る女性（73）は「2人とも身なりはきれいで、困っているようには見えなかった。なぜこんなことになってしまったのか」。同じマンションの70代男性も「最近は地域のつながりが希薄になっている。近くでこんなことが起きてしまい、非常に残念だ」と悔やんだ。【榊原愛実、澤俊太郎、安元久美子、土田暁彦】
「孤独死」防止、大阪市が業者と協定
自宅で亡くなった後にしばらく気付かれない「孤独死」を防ぐため、大阪市は異変があれば通報するようライフライン事業者と協定を結んでいる。餓死した母娘は料金滞納で水道を止められ、市水道局の委託業者が4回にわたって訪問したが通報していなかった。
電気、ガス、水道などのライフラインが止まった状態で遺体が発見される事例が相次いだことを受け、厚生労働省は2012年、保護が必要な生活困窮者の把握に努めるよう、都道府県に通知。各自治体は事業者との連携を進めている。
市は14年以降、検針や集金で住宅を訪問する際に「異変」を感じれば市に通報してもらうよう、市水道局や関西電力、大阪ガスなどと協定を結んだ。「異臭がする」「水道の利用量が異常に多い」など年間30件前後の通報があり、救急搬送した事例もある。
水道局の業者が４回訪問、通報はせず
餓死した母娘は、20年8月から水道料金を滞納。10月中旬からは水の使用量がゼロになり、市水道局は11月中旬に給水を止めた。
市水道局の委託業者は10〜12月に計4回、自宅を訪問。応答がなかったが、異臭などはなかったため、通報はしなかったという。母娘はこの頃に死亡したとみられるが、はっきりした時期は分かっていない。
市水道局の担当者は「転居したという思い込みがあった。協定は結んでいるが、無断で転居する事例は多く、すべて通報するのは難しい」と打ち明ける。
市福祉局は今回の事例を受け、滞納者らに生活保護を担当する市の部署を紹介してもらうようライフライン事業者に呼びかける方針だ。【土田暁彦、安元久美子】
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