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生活保護者の集いコミュの元新聞記者の精神科医が見た「護られなかった者たち」の水際

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https://news.yahoo.co.jp/articles/58e95ce22e463a05dbfde5c31dc0ecc12bb25aa7

コロナ禍はオミクロン株が世界中を席捲しつつあり、新たな局面に入った。水際作戦は重要だが、わが国にもいずれ第6波はやってくる。年越しを前にして、長引く景気低迷などの影響で増加が続いた生活保護をめぐる“もうひとつの水際”について考えてみたい。

■映画「護られなかった者たちへ」の重厚さ

先日、久しぶりに映画を観に出かけた。

「護られなかった者たちへ」(瀬々敬久監督、全国で上映中)。

作家の中山七里氏による同じ題名の原作を映像化した作品。

東日本大震災から10年後の仙台で連続殺人事件が発生した。阿部寛演じる担当刑事と容疑者利根泰久役の佐藤健を軸にストーリーは展開する。だが真犯人は別にいたという社会派ミステリー、という要約では言い尽くせない重厚な内容だった。

事件の被害者2人はかつて同じ福祉保健事務所に勤めた男性職員。児童養護施設で育った利根容疑者は震災で家族を失った老女、少女と出会い、しばらく3人で家族のように暮らした。ところが皆が別れた数年後に老女が困窮。生活保護を求めて3人で福祉事務所を訪れたのに、職員から体よく断られた末に老女が衰弱死したのが事件の始まりだった──。

この映画のテーマとなった「生活保護」について、これまで深く考えたことがなかったという佐藤健はこう述べている。

「制度の矛盾や問題点に焦点を当てた物語をすごく新鮮に感じました。理不尽なものに対する怒りや悔しさは、我々も普段生きていて、利根ほどでないかもしれないけど感じるってことあるじゃないですか。それを代弁して観ている方に共感してもらうことが今回の自分の使命」

■増える、「生活保護バッシング」?

物議をかもした菅前首相の「自助・共助・公助」発言の公助とは「公的扶助」の略で、その最後のセーフティ・ネットが生活保護だ。

生活保護は最低生活の保障と自立の助長を目的とした制度で、その申請は国民の権利。保護の必要な可能性は誰にもあり、ためらわずに自治体まで相談をと、厚労省はHPで呼び掛ける。その根拠は日本国憲法25条第一項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。社会権の中心であり、元はドイツのワイマール憲法に淵源をもつ。

ところが現実には映画のように様々な障壁が立ちはだかる。

記憶に残るのは2012年、お笑い芸人の母親が生活保護を「不正受給」しているとメディアに取り上げられた事件だ。実際には法的問題はなかったのだが、道義的問題のすり替えが行われたようにみえる。保護費がパチンコなど遊興費に充てられる状況などから「正直者がバカを見る」仕組みという論調が広まった背景があるのだろう。以来、「生活保護バッシング」が増えたといわれる。

だが、実際の「不正受給」は受給者全体の0.4%程度であり、わが国の生活保護利用率は1.6%で、ドイツ、イギリスの9%台と比べてもはるかに低い(2012年「生活保護対策全国会議」調べ)。

■「ヒラメ裁判官」と「いのちのとりで裁判」

2013年に生活保護法は改正され、その2年後をピークに受給者数は減少に転じた。

受給額も減らされている。生活保護には教育、医療など8種類の扶助があるが、そのうち日常の生活費にあたる生活扶助の基準が切り下げられ、平均6.5%、最大10%減額された。これに対し、全国29の地方裁判所で基準切り下げの行政処分取り消しを求める「いのちのとりで裁判」が次々と提起された。

原告人数は千人を超え、今までに6カ所の地裁で判決が下りた。

2020年6月に最初の判決が出たのが名古屋地裁。これに関わったのが、私の新聞記者時代に同僚だった白井康彦氏だ。

国の「偽装」発覚も、判決は──
白井氏は将棋の元アマチュア名人。その理詰めの頭脳を活かして、国の「物価偽装」を解明した。基準切り下げの根拠となったデフレ調整(消費者物価が下がったから保護費も下げる)の算定の際、国が異なる計算式を使って低額になるよう統計操作をしたことを明らかにしたのだ。

しかし、判決は原告敗訴だった。石黒好美編著『わたしたちの「生活保護」』(風媒社)の監修をした白井氏は、判決文で生活扶助基準の改訂が自民党の政策の影響を受けた可能性を否定できないとしながら、「国民感情や国の財政事情を踏まえた」から構わないというくだりに憤る。

そして、行政や司法の使命感はどこへ行ったかと書き、上しか見られないヒラメの目になぞらえた「ヒラメ裁判官」の多い現状では人権侵害のチェック機能が働かないと嘆く。同感だ。

こうした政治行政の流れはコロナ禍と相まって精神の病気を抱える人たちにも影響を与える。当院に通う生活保護患者の実情を以下に紹介しよう。

■「出所の翌朝、死にたくなっての来院」も

●財賀内造さんの場合

50歳手前の財賀内造さん(仮名、以下同様)がこの秋、クリニックを訪ねてきた。気分が落ち込んで辛いという。専門学校を出てからいくつもの仕事を転々としてきた。

「直近は介護の送迎ドライバーだったけど、コロナで利用者が減ってパートになった。時給1300円。給付金もすぐにはもらえないし」

ひとりっ子で独身。父は施設、母は3年前に病死し、頼っていた伯父伯母が立て続けに亡くなり、この夏から保護を受けている。仕事をしようにも、ハローワークまで足を運ぶ元気もない。

●水乃江蝶子さんの場合

これから保護申請するか悩んでいるのが40代の水乃江蝶子さん。幼少時、両親と兄から虐待を受けた。18歳の時、青信号で横断歩道を歩行中に車にはねられ、21歳で再びはねられた。23歳で結婚すると数年で夫に先立たれた。その後はひとり、水商売を続けてきた。

「コロナでお客さん減って、貯金もなくなっちゃう。両親とも年金暮らしで、父は認知症。家賃滞納して、いろいろ言われると生きることが辛くって。一晩考えたけど、これ(生活保護)しかないかなあと」

働こうとしても、これまでの人生の経歴が妨げとなる人もいる。

●塀尾越太さんの場合

7年前、30代の塀尾越太さんが予約なしで来院した。刑務所の医師が書いた紹介状を持っていた。病名は「覚醒剤依存症」。高校時代、最初に覚えたのはシンナーだった。そこから覚醒剤に進み、東京でホストを経験。フラッシュバックで精神科に入院した後、4回刑務所に入った。合わせて10年。出所の翌朝、死にたくなっての来院だった。

離婚した両親とは没交渉で、生活保護下で治療しながら仕事ができるようにしようと話した。解体業の派遣などにも挑戦したが、高度の貧血が見つかり、続かなかった。2年半通院したところで、ぱったり途絶えた。今、どうしているのか。

●足尾新太さんの場合

足尾新太さんは50代の独身。塀尾さんと同じ覚醒剤後遺症に悩むが、違いは足尾さんがかつて暴力団に在籍していたこと。

経歴から想像できないほど気が小さく、吃音が抜けない。しかし、どうしようもなくなると突然激高し、仕事を探しては辞めるを繰り返してきた。2年前、母親が突然死してからうつ状態が悪化、コロナ禍もあって昨年夏、生活保護申請をした。

半年後、虫歯で歯医者に行こうとしたら保護担当のケースワーカーが「ちょっとぐらいなら我慢して」と言ってきたという。医療扶助費を少しでも減らそうとしたのではと足尾さんに怒りがこみ上げた。それでも、なんとか爆発せずにすんだ。

家族ぐるみで当院に通うセイホ(生活保護のことを彼らはそう呼ぶ)の人たちも多い。共通する悩みは子どもの教育のことだ。

「筋の通らない」職員の対応も
●五十嵐育子さんの場合

30代の五十嵐育子さんは発達障害のひとつ、ADHDに軽度知的障害を伴う。子どもは女ばかり5人。11年前に離婚してから、養育費支払いのないまま母子手当を糧に、がむしゃらに働いた。だが、燃え尽き症候群のような形で6年前当院に受診。父親が施設に入り、母も骨折で寝たきりに近くなって進退きわまり、一昨年夏から保護を受けている。

次女を私立高校に行かせたいが、できないことに悩む。現在18歳の次女は公立高に行く学力が無く、中学卒業後自宅で引きこもり続けてきた。勉学意欲はあるのでなんとか私立へとおもうが、市のケースワーカーは首を縦に振ってくれない。

●我妻道子さんの場合

50代の我妻道子さんも五十嵐さんと瓜二つの悩みを抱える。特別支援学級で育ち、中学卒業後は放浪癖もあってあちこちで働いた。30代後半で長女を産んで離婚。娘はいじめを受け小学5年から不登校。絵が好きで、中学卒業後は専門学校に行きたかったが、学費の問題で行けず、引きこもりが続く。同じような悩みを持つ患者は他にも多く、医療だけでは手に余る問題と痛感する。

■「筋の通らない」職員の対応も

生活保護者に親身になって寄り添う市の職員ももちろん多い。しかしときには杓子定規の対応に行き当たることもあり、となれば患者の側に立つこちらの語気は当然荒くなる。

50歳近い独身の月岡弓子さんは昨年、生理痛とイライラで当院を訪れた。話を聴くと、更年期のせいばかりではなかった。物心つく前に両親が離婚。「ちゃんとしなきゃ」と思って生きてきた。そのせいで交感神経が常に緊張し、さまざまな症状が表れるのだ。

「母子家庭だったんで、ずっと生活保護受けてました。子どものころ母についていった市役所のイメージが怖くて。兄からは、おまえが仕事しないから母親が病気になったといわれて」

そんな時、ケースワーカーから「セイホ受けてるメンタルの人は自立支援受けなきゃだめだ」と言われ続け、混乱して受診した。

自立支援医療(精神)は、精神疾患で継続治療が必要な者の医療費を公費負担する制度。法律上は生活保護者に必須ではない。担当者の勘違いか、公費負担で保護費からの支出を少しでも減らそうとする上司からの“圧力”かは不明だが、役所に負のイメージを持つ月岡さんにとって、電話で繰り返される「指示」が恐怖心を呼び起こしたのは確かだ。

他にも、家族からの暴力で疎遠になっている女性患者が連絡を取ってほしくないと訴えても、決まりだから(生活保護法に規定あり)と扶養照会しようとするケースワーカーを電話口で叱責したこともある。マニュアル通りの対応で生活保護が減るのなら、スタッフは悪戦苦闘などしない。

■かの「ハリー・ポッター」も生活保護の受給下で書かれた──

前述の「わたしたちの『生活保護』」では、労働組合「岐阜青年ユニオン」を立ち上げた天池洋介氏が白井、石黒両氏との鼎談に応じている。

2004年のイラク人質事件をきっかけに「自己責任論」が広まったとの白井氏の問いかけに、英国の小説家J・K・ローリングは生活保護を受給しながら「ハリー・ポッター」を書いたと天池氏は答え、「単に働いていないからずるいというのでは、私たちはとても大きな宝を失う可能性がある」と憂える。

さらに「人はロジックでは動かない。人が動くのは具体的な利益(権益)と感情によるもの」と分析、「そのために分断されたバラバラな『私』を共感可能な『私たち』へと統合する社会運動」が必要だと訴える。

映画「護られなかった者たちへ」で、連続殺人のきっかけとなったのが、老女の生活保護申請を水際で食い止めようとする福祉事務所職員の応対だった。

刑事役の阿部寛は「僕らが生きている社会のシステムにもいろんな欠陥があって、歪みみたいなものを抱えながらこの社会は成り立っている。だから、この物語で描かれるような人間の“罪”も生まれてくる」と語っている。

新型コロナウイルス対策と同じ姿勢で生活保護に対応するような社会から抜け出すにはどうしたらいいのか。毎日、「護られないおそれ」のある患者たちと対峙しながら、自問する日々が続く。

小出将則

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