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生活保護者の集いコミュのキャベツの外葉で飢えをしのぎ…60代女性がそれでも「生活保護を受けたくない」理由

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https://bunshun.jp/articles/-/47970

 多くのファンや著書を持つインフルエンサーのDaiGoが、YouTubeで生活保護利用者やホームレスへの差別を発信した一件。当初は「個人の感想」とのスタンスを崩さなかったが、「命は平等」「傲慢極まりない態度と発言」などと批判され、謝罪動画で「自分の無知が原因」と反省の弁を述べるに至った。

 では、彼が知らなかったこと、そして、知るべきこととは何なのか。昨年秋からコロナ禍の貧困の現場を取材し続けるジャーナリスト・藤田和恵氏に聞いた。

「DaiGoさんだけでなく、多くの人に知ってほしい。これは誰の身にも起こり得ること」と藤田氏が語る、コロナ禍の現実とは――。(全2回の1回目)


YouTubeにて謝罪するDaiGo(メンタリストDaiGoチャンネルより)
YouTubeにて謝罪するDaiGo(メンタリストDaiGoチャンネルより)
この記事の画像(5枚)
◆ ◆ ◆

「生活保護だけは嫌!」
――藤田さんは今回の発言、どう受け取りましたか?

藤田 真っ先に感じたのは「もう少し現実を知ってから発言してほしい」ということです。私は昨年秋からコロナ禍での生活困窮を支援する「新型コロナ災害緊急アクション」の同行取材を続けていますが、仕事も住まいもスマホの通信機能も、食べるものすら失ってなお、「生活保護を受けるくらいなら飢え死にしたほうがまし」と表情をこわばらせる人や、「もう少し頑張ってみます」と生活保護の申請を拒絶し、自ら路上生活を選ぶ人にたくさん出会ってきました。

 コロナ禍でずたぼろになった彼らが、なぜますます自分を追い込むのか。その背景には、まさにDaiGoさんがしきりに主張していた「努力の足りない無価値な人間を税金で養ってやっている」という差別的な価値観があります。長年にわたって社会をむしばんできた歪んだ自己責任論とスティグマ(社会的恥辱感)。そうした現実が、ついにここまで醜悪な形で露呈したかと痛感させられた一件でした。

 おそらくDaiGoさんとしては自ら「辛口」と称していたように、「みんなが言いづらいことをズバッと言った!」「ファンにもさぞ受けるだろう」くらいの空気感だったのではないでしょうか。

インタビューに答える藤田和恵さん
インタビューに答える藤田和恵さん
 しかし、実際の社会は、そのように軽々に一刀両断できるほど単純ではなかった。ここで藤田氏のコロナ禍での取材をまとめたルポルタージュ『ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う』の一節を抜粋し、まずはその現実を紹介する。

日本全体の底が抜けちゃった感じがするよね」
 コロナ禍のSOSは、元日の夜も待ったなしだ。

『ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う』 (扶桑社)
『ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う』 (扶桑社)
 2021年1月1日、東京・千代田区の聖イグナチオ教会で開かれた「年越し大人食堂」で、さまざまな相談を受けながら、340食を超える出来立ての弁当を配る。会場の撤収作業を終えると、反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんは、ひと息つく間もなく車を駆った。夜7時すぎ。都心の正月はビルの明かりも行き交う車も少ない。それはいつもと同じ元日の光景ではあったが、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう今年ばかりは言い知れぬ終末感を覚える。

 この日、「年越し大人食堂」を撤収している最中、都内に住む60代の女性から、反貧困ネットワークも参加する「新型コロナ災害緊急アクション」に助けを求めるメールが届いていた。すでにガスも電気も止まり、食べるものもないという。ハンドルを握る瀬戸さんがため息をつきながら言う。


「日本全体の底が抜けちゃった感じがするよね」

「役所とはお近づきになりたくないんです」
 小一時間で女性が暮らすアパートの近くに着いた。東京・23区内の住宅街。車を路肩に止めてハザードランプを灯す。人通りはほとんどない。ほどなくして杖をつきながらゆっくりと近づいてくる女性の姿が、バックミラーに映る。灰色の毛糸の帽子をかぶり、厚手のジャージの上下を着込んでいる。SOSの主だ。女性は不自由な脚を折りたたむようにして助手席に乗り込んできた。そして、ぽつりぽつりと自身の現状を語り始める。

 コロナ対策として1人10万円が配られた特別定額給付金。それが支給されて以降、収入はゼロであること、近くのスーパーで捨てられているキャベツの外葉やブロッコリーの葉っぱを食べて空腹をごまかしていること、カセットコンロで沸かしたお湯を飲んで寒さをしのいでいること、10日に一度ほど銭湯に通っていること、夜はマフラーやコートを着込んで眠っていること――。

コピーライトiStock.com
コピーライトiStock.com
 自分のことを「わたくし」と言う。きれいな日本語を話す女性だった。

 彼女は話の途中、東京・渋谷区のバス停で路上生活をしていた60代の女性が男に殴られ、命を落とした事件に触れた。2020年11月16日の早朝、バス停のベンチで体を休めていた女性が、男に石などが入った袋で頭を殴られ、亡くなった事件である。コロナ禍が本格化する前まで、その女性は会社から業務委託を受け、首都圏のスーパーなどで試食販売の仕事をしていた。報道によると、亡くなったときの所持金はわずか8円。ウエストポーチの中には、電源の入らない携帯電話と家族の連絡先が書かれたメッセージカードが入っていたとされる。

「私もあと3か月ほどでお家賃(の支払いに当てるお金)が底をつきそうなんです。あのようなニュースを耳にしますと、女性の路上生活だけは避けたいと思って連絡をさせていただきました。まさか元日の夜に来てくださるなんて……」

 ひとしきり話を聞いた瀬戸さんは、生活保護の利用を提案した。途端に車内の空気が重くなる。しばしの沈黙の後、果たして女性は「生活保護は考えていない」と言った。理由を尋ねると「役所に対する絶望感がある」と答え、それ以上多くを語ろうとはしない。瀬戸さんが「(生活保護は)恥ずかしいことじゃないんですよ」と促しても、女性は「役所とはお近づきになりたくないんです」とかたくなだった。

(中略)


「屋根があって、鍵がかかる家に住めているのは幸せなことです」
 渋谷区のバス停で殺されたホームレス女性と自らを重ねた女性は、結局、生活保護を利用することにしたのだろうか。

「ひとりで役所に行かせるようなことはしないから。そのときは僕が一緒に行きます。生活保護の押し付けになっちゃいけないとは思うけど、このままだったらいつ体を壊してもおかしくないですよ。そんなところで頑張らないでほしいな」

 運転席に座る瀬戸さんが語りかける。

一方、助手席に座る女性は自らの窮状を語りながらも「屋根があって、鍵がかかる家に住めているのは幸せなことです」と言って、瀬戸さんの説得をかわした。

 キャベツの外葉を食べて飢えをしのぎ、真っ暗な部屋で防寒着を着て眠る暮らしを「幸せ」だと言う。まぎれもなく女性の意思であった。しかし、この言葉が人々の意識の根底にはびこったスティグマと無関係であると言い切ることも、できないのではないか。

「美術館……。そうですか。そんな夢みたいなことができるんですか」
 女性は最後まで生活保護の利用に消極的だった。ただ、一度だけ女性の心が揺れたようにみえた瞬間があった。

 2時間ほど話し続ける中で、女性は美術館巡りが好きらしいということがわかった。少しだけ生活に余裕がある頃、最後に行ったのは東京・練馬にある絵本作家いわさきちひろさんの「ちひろ美術館」だという。

 それを聞いた瀬戸さんはこう言った。

「(生活保護のことは)焦って決めなくてもいいです。でも、僕たちはあなたに生きていてほしいと思っています。できればキャベツの外葉なんかじゃない、温かいご飯とおかずを食べてほしい。暖房のきいた部屋で眠ってほしい。それから、時々は美術館にも行ってほしい」

 すると、女性は少し嬉しそうに答えた。

「美術館……。そうですか。そんな夢みたいなことができるんですか」

 2021年、年が明けて最初の日、東京は氷点下1.3度まで冷え込んだ。別れ際、瀬戸さんは「また連絡します」と伝えた。女性は杖に体を預け、路上にたたずみながら、私たちの車が見えなくなるまで手を振っていた。

 その後、この女性からは断続的に弁当や食料、日用品などを配る大人食堂やフードバンクについての問い合わせがある。しかし、生活保護を利用しますという連絡は、まだない。

普通の暮らしが突然どん底へ落ちる
――藤田さんは貧困の取材を長く続けていますが、コロナ禍とそれ以前とでは違いはありますか?


藤田 炊き出しなどの現場では、以前は中高年の男性が中心だったのに対し、コロナ禍では若者や女性、外国人など、年齢や性別、国籍を問わないようになったと感じます。身なりもいわゆる路上生活者には見えない人も増えました。つまり、それまでかろうじて仕事も住まいも持っていた人々が、いきなり明日食べるものにも困るという状態にまで突き落とされているということです。何日も街を放浪し、SOSを受けて駆け付けたときには、「まさか自分がホームレスになるなんて……」とショックを受けている人も少なくありません。

 同行取材では、20代、30代の若者に出会う機会も多いです。生活保護を利用する条件として劣悪な無料低額宿泊所(無低)に放り込まれ、「収容所のようなところに入れられているので助けてほしい」とSOSを発信してきた20代の男性のもとに駆けつけたり、ワンルームマンションの1部屋に8人が詰め込まれた“脱法ドミトリー”で暮らす30代の女性の夜逃げを手伝ったり、取材を始めるなり、さまざまな現場に遭遇しました。

――コロナ禍の当初は「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という議論がありましたが、それも次第に聞かなくなり、感染者数やここ最近はオリンピックの話題ばかりでした。まるで、経済で死んでいる人はいないと錯覚してしまうほど。

藤田 実際には住宅支援や不安定雇用など、これまで放置されてきた問題のツケがコロナ禍で噴出しています。水面下では確実に社会の底が抜けているんです。ただ、悲しいことに、こうした問題が政治やメディアで大きく取り上げられることはありません。

 視聴者のウケばかりを狙い、専門家でもないコメンテーターやタレントに“逆張り”的なコメントを求め、目先の数字ばかりを追い求める――そうした一部のメディアの姿勢も、DaiGoさんのような“無知”を生み出す、ひとつの要因になってきたのではないでしょうか。

 かつて人気お笑い芸人の母親が生活保護を利用していることが分かったことをきっかけに、すさまじい生活保護バッシングが巻き起こりました。当時、一部の政治家やメディアも世の中に不正受給が蔓延しているかのような誤った発言、発信を垂れ流しました。実際は不正受給の総額は生活保護費全体の0.4%に過ぎないのですが。しかし、そうした事実は黙殺され、代わりに社会全体にスティグマと自己責任論が植え付けられました。

頑張っているか頑張っていないかは他者が決めることでない
――その負の遺産が、コロナ禍で追い詰められた人々をますます苦しめているという構造がある。ただ、当時と比較して今回のDaiGoの発言にこれだけ批判が集まっていることには、驚きもあります。

藤田 社会全体が差別発言は許さないという姿勢を示しつつあることはよかったと思います。一方で、多くの人にとって生活困窮に陥ることや生活保護を利用することが、「もはや対岸の火事ではない。明日は我が身だ」と潜在的に身につまされるようになったことが、今回の批判につながったのではないかとも感じます。たとえば同様のヘイトスピーチでも、化粧品大手DHCの会長による在日韓国・朝鮮人に対する差別発言の場合、もちろん批判はありましたが、多くの国民にとって当事者性が希薄だったためか、今回ほど大きな流れにはなりませんでした。

コピーライトiStock.com
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――そう考えると複雑です。


藤田 また、DaiGoさんの一件に関して、ひとつ気がかりなことがありました。それは謝罪動画の中でも「頑張っても抜け出せない人がいる」という旨の発言をしていたことです。コロナ禍の取材で私は、「ぎりぎりまで頑張ってしまう人」にたびたび出会いました。“コロナ切り”に遭った後も体調不良を押してネカフェ生活と就職活動を続けた結果、SOSで駆け付けたときには乳がんで即入院が必要な女性もいました。

 頑張っているか、頑張っていないか。それはDaiGoさんのような他者が決めることではありません。「頑張っているから助けてあげる」「頑張っていないから自己責任」、そんなことを自分で勝手に判断できると思っているのだとしたら、やはり傲慢と言わざるをえませんし、「頑張っていないなら価値はない」という最初の発言とほとんど変わらない思考です。

 DaiGoさん個人の考え方もさることながら、こうした浅薄な自己責任論や傲慢さが支持される社会は、大いに警戒すべきだと思います。

 藤田氏が取材してきたコロナ禍の現実は、私たちの耳になかなか届かない。「このままでは『助けてほしい』という声さえ奪われてしまう」と藤田氏は語る。最後にそんな危うい現実を、著書『ハザードランプを探して 黙殺されるコ

ロナ禍の闇を追う』から再び抜粋する。この国で今、何が起こっているかを、私たちは“知る”べきだろう。

「これで死ぬ理由ができた」
「これで死ねると思ったのに……。ほんとに来ちゃったんだ」

 駆け付け支援で現れた瀬戸さんを初めて見たとき、井上未可子さん(仮名・20代)は、そう思ったという。

 2020年の11月中旬。


 飲まず食わずの路上生活が3日続いていた。今晩はこの冬一番の冷え込みになると、街角の大型ビジョンのニュースが報じていた。でも、「全財産」が入っているキャリーケースの中にあるのは夏服だけ。寒さがこたえる。

 この日、料金未払いで携帯の通話機能が止まった。所持金は現金1円とPayPay505円だけ。夕方、東京都の相談窓口「TOKYOチャレンジネット」にフリーWi-Fiを使ってメールで相談した。結果は「電話で連絡をいただけない方はお受けできません」という門前払いだった。

 八方ふさがりの状況で井上さんはこう思ったという。

「これで死ぬ理由ができた」

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 妙にすっきりした気持ちになりながらも、最後の最後、ダメ元だと思ってネットで偶然見つけた新型コロナ災害緊急アクションの相談フォームにSOSのメールを送った。すると、井上さんの予想を裏切り、ほどなくして返信があった。返信には待ち合わせの時間と場所などとともに「反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長が車でうかがいます」と書かれている。そして1時間後。約束した東京駅近くの八重洲ブックセンターの前に、ハザードランプを付けた車が止まっているのを見つけた。

 しかし、心身ともに限界だった井上さんの緊張は簡単には緩まなかった。

「車に乗っていいのかな……。運転席の男の人が瀬戸さんっていう人? 大柄で怖そう……。私、終わったな……。きっとこれから、どこか知らないところに連れていかれるんだ。でも、それならそれでいいや。もうどうでもいい……」

 井上さんに心の中で「怖そうな男の人」と思われていたことなど知るよしもない瀬戸さんはこの夜、駆け付け支援の予定が立て続けに入っていた。井上さんに後部座席に乗るように言い、簡単な自己紹介をすると、新たなSOS発信者たちのもとに向かって慌ただしく車を発進させた。その後の相談者は全員男性。瀬戸さんは彼らを1人ずつ助手席に招き入れると、ペンとノートを手に、訴えに耳を傾けていく。必要に応じて食費などを手渡し、「ちゃんと食べてくださいよ」「これからつながっていこう!」などと声をかけては送り出していった。

 瀬戸さんは普段、複数の相談者を同時に車に乗せることはしない。車内で交わされる会話は、極めてプライベートな内容だからだ。このとき井上さんを車に乗せたままにしたのは、薄着の彼女を冷え込みが厳しい屋外で待たせることを躊躇したのだろう。

 ただ、瀬戸さんが真剣に聞き取りにあたる様子を後部座席から見ることで、井上さんはようやく新型コロナ災害緊急アクションが「怪しい団体ではないらしい」と思えたという。気がつくと、井上さんの両目から涙が溢れていた。

「夜、公園で眠る勇気はとてもありませんでした」
 井上さんは都内の私大を卒業後、希望していたテレビ番組制作会社に就職した。労働環境が劣悪な業界であることは覚悟していた。一方で、井上さんは家族関係に問題を抱えていた。多くは語らないが、実家を出て一人暮らしになってからも父親に自宅まで押しかけられ、身体的な暴力を振るわれることもあったらしい。毎日のように終電まで働き、ときに何日も職場に泊まり込むことさえ珍しくない仕事をこなし、その上、家族からのストレスまでは受け止め切れなかった。結局、メンタルに不調をきたし、数年で退職を余儀なくされる。

 小さな番組制作会社の給料では貯金をする余裕もなく、ほどなくして1人暮らしをしていたアパートの家賃を払えなくなり、強制退去になった。以後、マンスリーマンションや相部屋のゲストハウス、ネットカフェなどを転々とする暮らしが続く。派遣会社に登録し、検品やピッキング、「日雇い派遣」の仕事をした。しかし、メンタルの波が大きく、仕事を長く続けることができずに収入は安定しなかった。

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「派遣以外の仕事も探しました。でも、住所不定がネックになって……。かといって、アパートを借りようにも、派遣の給料では初期費用を用意することができないんです。コロナの感染拡大が本格化してからは、派遣先も少なくなりました」


 2020年の夏以降は、コロナ切りに遭って仕事を失ったアルバイトや契約社員といった非正規労働者が派遣会社の募集に殺到していた。ただでさえ体調が不安定な井上さんに、仕事は次第に回ってこなくなった。

「この頃はもう、お金があるときはネカフェ、ないときは路上という生活になっていました」

 女性の路上生活は、男性に比べて危険に晒されるリスクが高い。生理になったときの負担も大きい。井上さんは「夜、公園で眠る勇気はとてもありませんでした。生理痛が重いほうなのですが、痛み止めを買う余裕がなかったことがつらかったです」と振り返る。
止まらぬ涙の理由
 路上生活になると、井上さんは昼間は公園のベンチや河川敷で仮眠を取り、夜はキャリーケースを引いてひたすら街を歩き回った。寒空の下、薄手の夏服で歩く自分が、どんどん周囲から「普通」に見られなくなっていくようで恐ろしかったという。そんな日々が続く中、「このまま終わっていくんだな」と、次第に死を意識するようになっていく。

「瀬戸さんと会う前の3日間は寒すぎて、昼間ベンチや河川敷に座っていることもできなくて……。昼、夜関係なく1日中、上野、東京、浅草のあたりを歩き回っていました。スニーカーの底に穴が開いて、足が痛くてちゃんと歩けなくなってきて……。(東京都の)TOKYOチャレンジネットから断られたとき、あー、これで絶好の自殺の理由ができたなと思ったんです」

写真はイメージです コピーライトiStock.com
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 瀬戸さんを初めて見たとき「ほんとに来ちゃったんだ」と思ったのは、安堵からではない。せっかく死ぬ決意をしたのに、これで死ねなくなってしまったという、どちらかというと戸惑いに近い気持ちだったという。


 相談者を励ます瀬戸さんの姿を見て涙がこぼれたのも、ホッとしたからではない。

「自分が情けなかったんです。いい大人が自立もできない、働けないなんて。ほかの人に普通にできてることが私にはできないと思うと……自分がみじめすぎて涙が止まらなかったんです」

 この日、すべてのSOS対応が終わった瀬戸さんは、井上さんを予約したビジネスホテルまで車で送った。井上さんが埼玉県出身と知った瀬戸さんは、車中でずっと映画「翔んで埼玉」の話をし、映画のテーマ曲を流したという。それでも、井上さんの涙が止まることはなかった。

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「ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う」(扶桑社)
TOKYOFMで先行ラジオドラマ化。感染者数、ワクチン接種率……コロナ禍が社会に及ぼしている影響は、決して単純な数字だけで表せるものではない。 政治やメディアが連日、数字に一喜一憂する陰で、この国に一体何が起こっているのか? 著者は2020年秋から、「新型コロナ災害緊急アクション」の活動に密着取材。黙殺され続けるコロナ禍の社会の実像に迫る切実なるルポルタージュ。 これは誰しものすぐ隣にある現実――。


ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う

藤田 和恵
扶桑社

2021年9月1日 発売

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