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生活保護者の集いコミュの今週の本棚:中村達也・評 『「格差」の戦後史−−階級社会日本の…』=橋本健二・著

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◇『「格差」の戦後史−−階級社会日本の履歴書』
 (河出ブックス・1260円)

 ◇「階級構造」の視点から鳥瞰する格差
 この四、五年、格差をめぐる言説がにぎやかである。格差論ブームとさえ言えそうだ。賃金格差、所得格差、資産格差、教育格差、地域格差、企業格差、世代格差、ジェンダー格差、さらには希望格差や健康格差といった具合に。「一億総中流」が話題になっていた頃(ころ)のことを思えば、まことに大きな変りようだ。そんな格差論ブームの中にあって、橋本氏のこの本はどこに特色があるのか。

 まず気がつくのは、二つの論点である。一つは、戦後六〇年あまりの歴史の中で、格差がどのように推移してきたのかを、時代と相関させて論じていること。そしていま一つが、格差の背後に階級構造があるという立場を鮮明にしていること。こう書くと、いかにも堅苦しい専門書風の印象を受けるかもしれないが、叙述はむしろ平明でなめらか。

 取りあげられる素材は、「国勢調査」、「就業構造基本調査」、「SSM(社会階層と社会移動全国)調査」といった学術的データだけではない。映画、小説、マンガなど、硬軟織り交ぜての立体構成。かくして、数字の無機的な分析に終わらぬよう、具体的な時代イメージを喚起させる工夫がこらされている。

 一九五〇年代、戦後改革によって縮小した格差が、経済復興にともなって拡大。六〇年代、高度経済成長の始まりとともに、格差は縮小に転ずる。七〇年代、格差を示す指標の多くがほぼ底に達し、「一億総中流」論が登場。八〇年代、格差は総じて小さいものの、一部の指標が鋭い上昇カーブを描き、格差拡大の幕開けを迎える。九〇年代、ほぼすべての格差指標が上昇し始め、本格的な格差の時代に突入。そして現在、格差だけでなく貧困がクローズアップされるに至った。

 こうした格差の背後に階級構造がある、と著者は言う。戦後の社会科学の中で、階級という言い回しには独特の政治的ニュアンスが付きまとってきた。そのことを嫌って、階層とか社会階層とか表現する向きも少なくない。でも著者は、あえて階級にこだわる。それというのも、格差とは、まず何よりも量的な差異を表す。「格差社会」という表現では、富裕層から貧困層までがひとつながりの連続体であるかのようにイメージされて、そこにある分断や断絶、質的差異や相互の対立関係が見落とされがちだ。格差や貧困の背後にあるものを解き明かすには、階級、階級構造という概念が不可欠だというのである。格差とは、階級構造を背景に形成された配分の差異であり、いわば階級構造の現象形態。貧困は、こうして形成された格差の最底辺に生みだされる、これまた階級構造の現象形態。階級と階級構造が変化すれば格差の規模や構造が変化し、さらに貧困の性格も変化するのだ、と。

 とはいえ、それぞれ生身の人間を、具体的にどう階級区分するのか。企業の経営者は資本家階級、自営業者は旧中間階級と大凡(おおよそ)は分類できるとしても、その境界をどこに置くのか。一人でも人を雇っていれば資本家階級なのか、それとも一定規模以上の雇用の場合だけを資本家階級と見なすのか。新中間階級と労働者階級はいずれも被雇用者だが、両者をどこで区分するのか。管理職や専門職が新中間階級だというのはいいとしても、事務職はどうなのか、等々。

 恐らく、これらの疑問に対する一義的な解答は存在しないにちがいない。結局のところ著者も、ある種の「便宜的な」基準を採ることになる。資本家階級と旧中間階級の境界は、従業員規模五人以上と未満の間に置く。新中間階級は管理職と専門職、それに大部分が管理職に昇進する可能性を持つ事務職(ただし、非正規雇用と女性は除外する)とし、他の被雇用者は労働者階級と見なす。ただし課長以上の役職者は、職種のいかんにかかわらず新中間階級と見なす、と。

 こんな階級区分をもとに、例えば「国勢調査」(〇五年)データから、資本家階級八・四%、新中間階級一九・〇%、労働者階級五九・三%、旧中産階級一三・三%といった数字がはじき出される。しかし、著者も指摘しているように、非正規雇用者を単純に労働者階級として一括できるものなのかどうか。八〇年代初めから増加し始めた非正規雇用者比率は、バブル期にはやや足踏みするが、九〇年代後半からは急ピッチで上昇。かつて非正規雇用といえば、学生アルバイトや女性パートが中心だったのだが、現在では家計の柱である男性労働者が増えて、男性雇用者全体のほぼ二割にも達する。

 前出のSSM調査(〇五年)によれば、正規労働者の平均個人年収が三四七万円であるのに対して、非正規労働者は一五一万円にすぎない。単なる下層とは区別される「アンダークラス」が大きな固まりとして析出されて、今やその数は一五〇〇万人を越えている。しかも、こうした層が固定化して世代を越えて受け継がれているとすれば、単なる格差ではすまされない階級構造としての視点がやはり不可欠だというのである。格差問題を鳥瞰(ちょうかん)するための絶好の手がかりとなる一冊。

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