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【オリバト+】コミュの【eight story】

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文:鉄雄

※鉄雄さん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(21)

彼がここに残した8つの物語は
個人の崩壊から生まれる精神の欠片の標本である。

真実とはいかなるものなのか?

スタンド。
その存在を思い出したものは
答のひとつ前にいる。


index

case1 「箱男」

case2 「イン ザ ルーム」

case3 「言葉の終わり」

case4 「ぼくのはずかしいひみつ」

case5 「裏ドリンク」

case6 「空洞」

case7 「ドレス」

case8 「スーサイド ブルース」
「…以上で講義を終わります。ご来場ありがとうございました。」
横間忠生のその一言を皮切りに、織鳩市民ホールは喝采に包まれた。
それは彼が去ってもしばらく続いた。
「収納の革命」と題された横間の講義はその拍手と同数の来場者を魅了した。
壇上を降りる際に彼は少し微笑んだ。
それは、瑛人に向けられたものに違いなかった。


case1 「箱男」


けたたましい音を撒き散らす目覚ましを弾き飛ばすことから瑛人の一日は始まる。
幾度となく床に叩きつけられてもその機能を失わない姿は健気さすら感じる。
とはいえ、女すら同様に扱う瑛人が機械に健気さを感じるようなことはない。
頭を掻きながら煙草を取り出し、口にくわえ、ベランダに出て火をつける。
部屋に篭る煙に気をやっての事ではない。
寝煙草で一度ベッドを燃やしたことに懲りて、朝は部屋では吸わないよう心がけているのだ。
朝の陽射しは気持ちよく、織鳩町は平和な光に包まれていた。

ピリリリ

再び室内に戻り、煙草を灰皿でもみ消して携帯電話に出る。
「お、遼平か。」
瑛人は携帯電話を肩で抑えながら、器用に冷蔵庫から飲料水を取り出してコップに注ぐ。
「『お、遼平か。』じゃないっしょ。もうギリギリじゃん。」
ギリギリなのは当然だ。そもそも目覚ましの時間設定がギリギリなのだ。
「余裕は時間の問題ではなく心の問題だ。」
遼平は瑛人のわけのわからない理屈にため息をついた。
「…あっそ。で、例の横間忠生だけど、未だに『グレー』だからやっぱり接触しなきゃなんともいえない。
 予定通り直接会いに行ってね。」
そこまで聞いた時点で、瑛人は既に水を飲み終わり、服も既に着替え終わっていた。
この抜群の要領の良さはフリーライターの瑛人にとっては一番の武器でもあった。
「…おう。『クロ』でもそのつもりだよ。」
「あいよー。何かあったら連絡よろしく。
 あとくれぐれも…むちゃしないよーに。」
「了解。」
電話を切った瑛人はゴムで髪を束ねて最後の仕上げを終えると
自転車にまたがってから、横間邸…織鳩ニュータウンに向かってこぎ出した。

横間忠生…43歳。
大手家電製品メーカーの元社員で、電気基盤を扱っていた彼は、20年会社に勤務し、結婚後に突然退職した。
その後彼が出版した「箱の中〜無限の世界〜」が大ヒット。以降の作品も好評を博し、主婦層から評論家、デザイナーからも支持を受け、一躍時の人となる。
昨日行われた講義にも小さい町ながらも相当数の来場者が押し寄せていたし、羨望の目を一身に受ける彼の佇まいは、まさにカリスマであった。

取材のアポは驚くほど簡単に取れた。
まるで瑛人が自分に接触してくるのを知っていたかのようなスムーズで横間は瑛人の話を快く受け入れ、あげく自宅に招いれてくれるという。
彼曰く「外は落ち着かないから」とのことだが、これは瑛人にとって好都合以外の何者でもなかった。

遼平の言葉がふと頭をよぎる。


「俺たちと兄ちゃんが出会ったこと。
 わかるだろ?偶然じゃない。惹かれあってるんだ。
 この町は、巨大な磁石なんだよ。」

グァッシャーーーン!!

横間邸に着いた瑛人の背後から前方に向かって強烈音ともに何かが通り過ぎて止まった。
大破したママチャリの傍らに倒れていた汗だくの少年が素早く立ち上がり、仁王立ちになって瑛人を指差した。

「ハァハァ兄ちゃん!速いな!速すぎるで!ハッハッハ!」

瑛人は自転車にまたがったまま、唖然とした表情で少年を見ていた。
「…なんだおまえ。」
その言葉を聞いた少年は、口の端をニヤリと吊り上げる。
「よー聞いてくれました!わいは実や!遼平がどうしても言うてな!先走りがちな兄ちゃんが無茶せんように監視役を頼まれたんや!」
実の自己紹介を聞き流しながら、瑛人は壊れたママチャリに目をやる。
(まさかアレで俺のマウンテンバイクに追いついてきたのか…?)
どっちが無茶だ。と突っ込みたい気持ちで一杯だったが、関わると面倒くさそうなので無視して中に入ろうとする瑛人。
「ま、待つんや兄ちゃん!」
「やかましい。やかましくするなら俺から2kmは離れたところでやかましくしろ。」
「ちゃうねん!!」
「なんだちゃうねんって。日本語喋れ。」

「子供はやかましいぐらいが丁度良いですよ」

キィ

瑛人がインターホンを鳴らすのを待たずして鉄柵が開き、一人の男が現れる。
ロマンスグレーの髪を後ろまで撫でつけ、清潔感あふれる真っ白なセーターと灰色のスラックス。紳士の気品溢れる男。
横間忠生その人だった。

「おはようございます、瑛人さん。
 つまらない所ですが…どうぞあがってください。」

横間邸の内装は、金持ちとは思えないほど、シンプルで無駄のない作りだった。
収納の達人が故といったところか、靴箱から本棚まで、まるで一つのものから切り出したかのような一体感で存在していた。

案内されたリビングのソファは決して柔らかいわけではないが、体をゆったりと支えてくれる。自分の為に作られたのではないかと錯覚するほどすわり心地がいい。
「すまないね。妻がいればもっとおいしい紅茶が入れられるんだが…」
「いえいえ、おかまいなく。」

テーブルの上に茶菓子と紅茶を置いた後、横間は中央に何かを置いた。
四角い枠に囲まれた板と、その中に無造作に詰まれた小さな欠片。
その中の一つを瑛人は摘み取った。

「これは…ジグソーパズル…ですか?」

瑛人の問いかけに対して微笑みを返す横間。自分用のコーヒーをテーブルに置いて、瑛人達の対面に立ってから、横間はようやくソファーに座わった。
リビングを見渡すと、かけてある絵画は全てジグソーパズルだということに気がついた。

「私はこれが幼い頃から大好きでしてね…。遊んだことはありますか?」
横間はパズルのピースをゆっくり手に取り、一つずつ配置していく。
「ええ、まぁ…。」
頭を掻く瑛人。確かに遊んだことはあるが、断念した記憶しかない。
「…ジグソーパズルの起源は1760年、イギリスはロンドンの彫刻師、ジョン・スピルズベリーの作ったものが世界初のジグソーパズルだと言われています。」
坦々と語る横間の手元ではすでにパズルが3分の一ほど完成している。その間瑛人は横間の顔を見ていたが、横間の目線がパズルのほうにむくことは無かった。
(感覚で覚えてるっていうのか…。)
驚きを隠せない瑛人をよそに横間は話を続ける。
「ではジョン・スピルズベリーが作った最初の作った世界初のジグソーパズルの柄は一体なんだったのか…人物?風景?果物?モナリザ?エッフェル塔?
どれも違います。正解は…」
そこまで言い終わると横間は手元のパズルを回して瑛人のほうに差し出した。
パズルは既に完成していて、そこにはハッキリとひとつの柄が現れていた。

「世界地図…」

よくみればパズルは国境線に丁度切れ目がはいっていた。
腕をパキパキとならしながら背もたれにもたれかかり、瑛人達を眺める横間の目には、無邪気な少年のような輝きがあった。

「フフフ…世界初のジグゾーパズルが『世界地図』。単なる偶然だと思いますか?
私は、これを真理だととらえました。
この世界にある質量は、外部からの干渉が無い限り常に一定です。私たちが何かを作り出すこと、壊すこと、生み出すこと、消し去ることも、全てはこの地球の上
にあるピースを組み替えることによるロジックなのです。」

「なるほど…そして収納はその世界の縮図…というわけですか。」
「そうです。しかしね、世界=パズルという図式はあるひとつの理由によって否定されがちです。お気づきかとは思いますが、わかりますか?」
「ジレンマ…ですか。」
瑛人の言葉を聞いてを浮かべる横間。こちらからインタビューを持ちかけたのに、気づけば質問を受け続けているのは瑛人だ。
「先ほど言ったとおり、形状を定めないこの地上の歴史とその様子を見ると、無限の正解が存在するように思えます。

しかしね、やはり私はこう思うのですよ。
『正解は1つ』だと…ね。」

身を乗り出した横間の目が、一瞬光った気がした。それは純粋な輝きでもあり、見ようによっては狂気の片鱗に見えなくもなかった。瑛人の瞳は、その眼差しから視線をそらすことを許されなかった。

ヴーヴー

突然テーブルの携帯電話が揺れ、ガラスのテーブルが鈍い音を立てた。
「失礼、電話のようです…少しテレビでも見ながらくつろいでいてください。」
そう言って横間はリモコンでテレビをつけてから別室に入っていった。
それを見届けた瑛人は、実に何やら耳打ちをする。それを聞いた実は「まかしとき」と一言残して廊下に向かっていった。

テレビでは夕方のニュースが流れている。

「続いてのニュースです。○○県××市織鳩町で起きている『連続失踪事件』ですが、現在も以前解決の目処がたっていない状況です。市内では警察が引き続き捜索を行っており、親族の心配は高まる一方で…」


夕焼けの暖かい光がベランダの窓から差込み、リビングを照らす。
テレビの真横にあるシルバーフレームの棚の前に立ち、その夕日を反射する銀色の小さな箱を片手に取って眺めていた。

しばらくして横間がリビングに戻ってきた。
瑛人はその足音だけを聞いて横間のほうは見なかった。
「お待たせしました…ん?実君は・・・」
「トイレに行きましたよ。」
ふむ。と息をついた後、横間は瑛人の手元の銀箱を見る。
「おや?それは…」
その視線に気づいた瑛人は、少し暗い面持ちで振り返って横間の顔を見た。
「すみません」
「ああいえ、いいのですよ。それは私の最高傑作でしてね…」
横間は手を差し出し、銀箱を受け取ろうとする。
「すみません、というのはこれのことじゃないです。」
そう言って英人は銀箱を横間の手の平に置いた。


--



「あったで…俺って天才や!」
無残に散らかった書斎の壁際で、実は歓喜の声をあげた。

ガチャン!

不意に響いたドアの音に驚いた実は地面に落ちている紙に足を滑らせた。
ドシャ!
「おい、大丈夫か。」
「なんや兄ちゃんかい!驚かすなや!
 てかなんでココにいるんや?先生どうしてん!」
片目をつぶっていかにも不快そうに顔をしかめて実を見る瑛人。

「いちいちオッサンみてーにデケー声だすなよ…。マジでやかましい奴だったな。
 ちょっと眠ってもらったんだよ。ビリッとな。」
「ビリッと?」
実の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいるが、瑛人はそれを気にする様子は全く無い。
「よし…この下が奴のアトリエか…。」
ドアノブを握ったまま瑛人は呟いた。
『書斎に隠し扉があって、その奥に奴の秘密のアトリエがある。
扉がどこにあるか、その中に何があるかは全くわからない。』
というのは遼平からの情報だった。
遼平がどこからそんな情報を得ているのは定かではないが、それはどうでもいい。
おそらくココを開ければわかる。
横間が黒なのか、白なのか。
「兄ちゃん!俺が見つけたんやで!
 天才やろ!本棚の裏なんて普通だれも思いつかへんで〜。」
王道だ。と瑛人は思った。

「ああ。すごいな。とってもすごい。

 じゃあ帰れ。」

しばらくキョトンとしてから、実はくるっと1回転して瑛人の胸を手の甲で思い切りはたいた。俗に言う『ツッコミ』だ。
「な ん で や ね ん!」
「ボケてねえ!危険だから帰れ。
 何があるかわからねーんだ。」
「いやや!いくで!俺はいくで!
 じっちゃんの名にかけて!」
「オイッちょ、ま、

 うわ!!」

ガン!ゴン!ゴロゴロズザーーー!!
もみ合った勢いでドアが突然開き、目の前にあった階段の上を二人は滑り落ちて行った。
「いてて…。」
気がつくと瑛人は壁にもたれて倒れていた。どうやら落ちた勢いで階段と逆側の壁まで吹っ飛んだらしい。
頭を抑えながら辺りを見渡す瑛人。そこは先ほどまでの閑静で上品な内装とは違い、木材剥き出しの壁とそこらじゅうを舞う埃を電球が照らすだけの部屋だった。
「こりゃぁ…まさか『自分で作った』のか。」
関心する反面で、恐怖と確信が瑛人の心に生まれる。
どう考えても異常だ。
瑛人の目の前、落ちてきた階段の麓に実を確認した。
「おーい。大丈夫か。」
瑛人が声をかけるが、返事はない。
というか、何か様子がおかしい。瑛人の方を指差したまま、口をあけて固まっているのだ。
「おーい!」
もう一度瑛人が呼びかけると、ようやく実は一言つぶやいた。
「に、兄ちゃんそれ…。」
よく見れば、震えている。
「何だ?何ビビってんだ…。」
辺りを見回して、瑛人は自分の勘違いに気づく。
瑛人がもたれていたのは壁ではなく、山積みになった『箱』の群れだった。
いくつかは瑛人がぶつかった衝撃で辺りに転がっていた。
その中の1つ。丁度瑛人の隣に転がっている箱の蓋が少し開いている。

「…ッ!!??」

その隙間から、長く、艶やかで漆黒の…おそらくは女性のものであろう

『髪の毛』が垂れ下がっていた。

「なななんだだッ!」
たった3文字の言葉を豪快に髪ながら瑛人は高速で実のほうまで後ずさった。
髪の毛。何故。人間の?
様々な想像が瑛人を恐怖に落とし込み、混乱を引き起こす。
「にに兄ちゃんッ!俺は帰るで!」
「ハァーハァー…まて。」
荒ぶる息を整えならがら、そそくさと階段を上がろうとする実の襟首掴む。
「離すんやー!ここまでは聞いてないでー!」
「静かにしろ。聞こえねーか。」
「何が…?」
動きを止めて耳をすます二人。

カツ カツ

瑛人たちの頭上…書斎の方から足音がする。
何者かはすぐに察しがつく。横間だ。
「き、来とる…ッ!」
「大丈夫だ。じっとしてろ。」
「時間がないやんか…すぐこっちにきてまうで!」
「余裕は時間の問題じゃない。心の問題だ。
 いいから待て。」
大量の冷や汗を流しながら実は落ち着き払っている瑛人を不信に見つめる。
よく見れば目が痴漢で捕まったオッサンのように泳いでいる。
足も震えている。さながら最終ラウンドのボクサーだ。
(めちゃびびっとるやんけー!!)

カツ

心の中で瑛人に突っ込んだ直後、足音が止まった。丁度隠し扉の前だ。
もうだめだ。実は半ば泣きそうになっていた。

パシィーーーン!

突然何かが弾ける音がして、男の気配が消えた。
「い、一体なんや…?」
「『ライディーン』…ドアノブに大量の電気を貯めてトラップを作っておいてやった。
 目が覚めるのが早いんでちょっぴりビビッちまったが、ドアノブには結構ためてやったからさっきよりも長く気絶するはずだ。」
電気って一体なんだ。何を言ってるんだこの人。
実の頭には様々な疑問が浮かんでいたが、今の危機的状況に比べればそんな事は些細なことだった。

「ほな、今のうちに…。」
そそくさと逃げていく実をよそに、瑛人は再び箱の方に向かう。
(まだだ…。あれが何なのか確認してからだ。)
実はその姿を見て一瞬立ち止まるが、すぐに向き直って階段を上がっていった。
「すまんな兄ちゃん…俺はいくで!こんなとこは早いとずらからんと…」

再び箱の前に立つ瑛人。箱は良く見れば非常に綺麗な装飾がされている。
(こんなもんまで小ジャレやがって…ますます気味が悪ぃぜ!)
少しかがんでその蓋に手をかけ、ゆっくりとあける。

キィ

「こ、これは…ッ!」

箱に入っていたのは紛れもなく『女性』だった。
しかしその体は様々な箇所がありえない角度で『折り曲げられ』ていて、小さな箱の中の半分にも満たないスペースで納まっている。
おおよそ人体では考えられないそのフォルムは、皮肉にも奇妙な芸術性があり、瑛人は無意識のうちに『美しい』とすら思っていた。
頭を振ってその感覚を紛らわし、辺りに散乱した箱を見渡す。
「ひょっとして…この箱は全部…」

「…怖い…。」

突然女性の口元が動いた。
「ま、まさか…
 生きているのか…?この状態で…。」
体の一部にそっと触れると、そこには確かに人のぬくもりがあった。



「おい、気安く触ってるんじゃあないぞ…。」



突然響いた声にハッとして振り返ると、階段の上から『何か』が転がってきた。
「兄ちゃん…。」
それは『キューブ状に小さく折りたたまれた実』だった。

「何故だ…何故起きている…ッ!?」

ゆっくりと階段下りてくる横間。
ようやくライトの光を浴びた頃、瑛人は理解した。
左手に、自らの右手首を持っている。
そしてその切断面にある『ジョイント』をつなぎ合わせ、右手首は再びもとあるところにもどった。

背後には人型のヴィジョンが現れ立っていた。


『スタンド使い』
潜在する魂の像を具現化し、その魂固有の「能力」で異常現象を起こすもの達…。


「『クロ』だ…『スタンド使い』!!」
ほどなくして瑛人の背後にも同様に
まばゆい光を放つスタンドが現れていた。

驚いた様子を見せる横間。
「何…?見えるのか。私の『ジャック・イン・ザ・ボックス』が…。」
「答えてもらいますよ…横間さん。
 そいつを『誰に引き出して』もらった?」

横間は瑛人を睨みつけながら力強く歩みを進め、とうとう階段を降りきる。明かりに照らされたその表情は、もはや先程までの紳士の表情からはかけ離れていた。額に血管が浮かび上がり、目尻がビクビクと痙攣している。
「そんな質問に答えることよりも、汗臭い手でベタベタと私の家を触り歩いた小汚い鼠どもを駆除することの方が…先だッ!!」
そう言って横間は傍らに落ちている実の腕を『もぎ取って』瑛人に投げつけた。
「てめえ!」
瑛人はそれを手で払いのけた…はずだった。
しかし実の手はガッチリと瑛人の腕をつかんでいる。
「何!?」
「私のジャック・イン・ザ・ボックスがつけたジョイントは、私の意志で自由に稼動が可能だ。」
見れば実の腕は指にいたるまで関節はすべてプラモデルで使うような丸いジョイントに変わっていた。
「…うかつに近づいてまだ『小細工』をされては困るんでな。君のお友達に手伝ってもらうことにした…よ!」
喋りながら横間は実のもう片方の手をもぎ取って瑛人に投げつけた。
「うぐ!」
手を外すことに集中していた瑛人はガードが間に合わない。実の手は瑛人の首を捕らえた。
(く、くそッ。ヤバイ力だ…ッ。)
ギリギリと締め付ける手の力は相当なものだった。
「チッ!ライディーン!!」
苦悶の表情を見せる瑛人はたまらずスタンドで横間に殴りかかる。
「ふん。」

ブンッ

ライディーンの左の拳を横間は交わそうともしなかった。当然拳は横間の顔面をとらえる。
グキッ
「な!?」
拳はそのまま殴りぬけることができず、代わりに左腕の肘間接が異様に折れ曲がった。
瑛人は自らの左腕を見ると実の手が掴んでる場所から一番近い関節…肘の関節がジョイントに変わっていた。
「…そして私のスタンドは『感染する』。」
肘だけじゃない。そこを中心にどんどん体が横間の支配下に置かれていく。
「グホッ」
絞められている喉が悲鳴を上げる。口からは既に血が流れ始めている。
「もうあかん…。兄ちゃん…もうやめれ…。」
実が弱々しく呟く。

うつむく瑛人。
「横間さん。
 
 すみません。」

横間の眉尻がピクリと動く。
「なんだと?今更謝っても遅いぞ。君たちはこれから箱詰めになって海の底を漂うんだ。」


「いえ、すみませんってのはそういう意味じゃなくて…

 『すみませんが横間さん。これからあなたをぶっ倒します』って意味です。」


ほんの少しの沈黙。横間の表情が変わることはなかったが、感情が激しく荒ぶるのがピリピリとした空気でわかった。
「…どういう意味だ。」
短い言葉だったが、その一言で横間は自らの圧倒的な有利を瑛人に再度主張した。
それに答えずに瑛人はフラフラと頼り無い足取りで歩き出し、横間の前に立ち、まだ無事な右腕で横間胸倉をつかみ上げた。
「…白くていいセーターっすね。
 『これから黒こげにするのがもったいねえや…。』」
そういってライディーンを発現し、拳をふりあげる。
横間はそれに全く動じずに、はぁ、と一息ついてから息もたえだえの瑛人の顔面におもいきりスタンドの拳をいれた。

ガッシャアーーン!

勢いよく吹っ飛んだ瑛人は箱の群れを押しのけて壁にぶち当たった。
「空耳ではないと理解したよ。実にひさしぶりだ…
 こんなに腹立たしい気分はね。」
ボゴッ!ゴシャ!
支配した瑛人自身の手で瑛人を殴る横間。
「カハッ」
見る見るうちに顔がはれ上がり、口からも出血が酷くなる。
既に満身創痍の瑛人。更に足には既にジョイントが感染し、立ち上がることすらできない。

「これから君を箱詰めにしてお別れするわけだが…君は客人だ。
 最後に『パレード』で丁寧におもてなしするよ。」

バゴンッ!!

その瞬間周囲の箱の蓋が一気に開き、横間のマリオネットと化した『人形』達が瑛人を取り囲んだ。
「終わりだな。」
瑛人の目前にゴキゴキと音をならしながら、何本もの手が伸びてくる。
「あかん…もうおしまいや…。」
歪に変形した体を震わせながら、実はそっと目をとじた。

「おい!実!」

突然の声に顔を上げる実。

「しっかりみとけ。今からコイツを…

 『余裕でぶっ倒す』からな。」

バチン!
瑛人が言い放つと同時に部屋の電気が落ちた。
「何だ・・・?」
しかしその代わりに気まぐれに放たれる壊れたストロボライトの光のような、断続的な光が部屋を照らしている。
そして横間はあることに気づき、冷たい汗を流した。
立ちふさがるマリオネット達の隙間。そこから見える瑛人の手に握られているもの。

ジジッ!ジジジッ!

コンセントから電灯を繋ぐ『電気ケーブル』。
瑛人の丁度真後ろを通るそれは切断され、彼の手にしっかりと握られていたのだ。

「その『セーター』…ほどよく静電気がたまってて…
 本当に『いいセーター』だ。」

横間がその言葉の意味に気づいたときにはもう遅く、瑛人のライディーンが放つ眩しいほどの光をただ見ていることしかできなかった。

瑛人座った状態のまま、マリオネット達の隙間から見える横間を指差す。それが合図だった。


「放てッ!!ライディーンッッッ!!!」



ピッシィィイイイイイン!!!



青白い閃光が、瑛人と横間を繋いだあと
辺りは闇に落ちた。



「…おい実、生きてるか。」


何も見えない暗闇の中で実に呼びかける瑛人。
それとほぼ同時に辺りが光に照らされる。
「兄ちゃん…。」
実は既に元の姿で階段の横に立っていた。
しかしその表情に安堵のは顔は無い。何故なら瑛人の目の前には…横間がいたからだ。
「ッ!?」
ケーブルの切断面にはジョイントがつけられ、綺麗に繋がれていた。
再び通り道を作られた電流が電灯に明かりを灯したのだ。
横間は瑛人に背を向け自分の居た場所に戻り『何か』を拾いあげる。
「一体何故…はッ。」
横間の手に握られていたのはジグソーパズルの形をしたシルバーネックレスだ。
横間は瞬時にこれを首からちぎって放り投げ、電流を誘導し分散させたのだ。
とはいえダメージは深く、立っているのがやっとという感じだ。

「く、クソッ…この『誘拐犯』め…。」
最後の力をふりしぼって横間に近づこうとする瑛人。しかしその足取りはすぐに止められた。
「待って!」
突然下から声が聞こえたと同時に瑛人の足が重くなる。
「うわっ!」
足元に目をやると、そこに居たのは黒髪の女性…先ほどまで『箱に詰められていた』女だった。
体は既に元に戻っている。

「亜季…。」
横間の一言で瑛人は気付いた。

立ち上がった姿はとても美しく、気品に溢れ
その胸には横間と同じ…ジグソーパズルの形をしたネックレス。
左手薬指の指輪

横間亜季、横間の妻だ。

「奥さん…だったんですか。」

「瑛人さん…ですよね。すみません、本当はあなたが箱を覗いた時に自己紹介出来ればよかったんですが…。突然の事に驚いて怖くなってしまって…。」

美人…だが少しネジは外れているようだ。確実に俺の方が怖かったし、あんな状態で自己紹介されても更に怖いだけだ。
しかし、ひとつわかったことがある。横間亜季は夫がスタンド使いだと言うことを知っている。そしておそらくは…

「あなたは旦那さんが誘拐犯だというのを知っていたんですか?」
亜季は目を丸くしてこっちを見ている。
「…誘拐犯…?一体何の事です…?
 もしかして最近ニュースでやってるアレですか?」
それを聞いていた実がここぞとばかりに感情を高ぶらせて亜季に詰め寄る。
「しらばっくれても無駄やで!ここに倒れてる人たちは一体なんな…んあ?」
辺りを見渡しながら瑛人と実は気付く。横間のジョイントから開放され散乱したそれらは…本物の『人形』だった。
「マ、マネキン…。」
瑛人のこめかみに脂汗が流れる。
それを見た横間は階段の段差に座り込んで、手を顎にててふうむ、と言った。
「どうやら君達は何か誤解をしていたようだね…。」
横間の言葉に焦る瑛人。
「じゃあこの部屋は…この箱は一体何なんですか!」
半ばヤケクソになって叫ぶ瑛人を、亜季は少し微笑みながら優しく答えた。



「これは…私と主人の『棺桶』です。」



「結婚してすぐ後、私は病にかかってしまいました。
血液の病気で状況は既に手遅れ。もう長くはもたないとお医者さんに伝えられました。

その後、夫はすぐに会社をやめました。
私は彼を責めました。あなたはあなたらしく生きて。同情なんてごめんだから。と。
すると私を彼はそっと抱いて、このネックレスを私にかけてくれました。
そして私と彼の手を「不思議な力」ではずて落とし、残った両方の手首を「繋ぎ合わせ」て言いました。


『私は、君と死ぬために生きている。』

彼は私と結婚してから、そのためだけに生きてきたと言うのです。
私の病気で、少し予定が変わった。
ただそれだけのことだと。
当たり前のように。驚くほど純粋な目で。


普通の人ならどうするでしょうか。
気味が悪いと思うでしょうか。


夫が「力」を見せてくれたのは大きな意味がありました。
彼は自分と私の手を拾いながら少し昔話をしました。
自分の秘密を、誰にも言えずに苦しんだことも。
毎日、体がバラバラになってしまう感覚に襲われていたことも。
力がうまくあつかえず、歩くことも困難だったことも。
それが原因で周囲から蔑まれていたことも。
そして私たちが出会った日。
体の動きが操り人形のように不安定な自分に
「おはようございます」と微笑みかけてくれたその日から
力が驚くほど安定したことも。

そうして、私は彼の申し出を受け入れました。
『二人で一つの墓に入る。』
たったそれだけのことですが、普通に生きていては不可能なことです。
彼は自らの名前を売り、表社会から裏社会まで様々な人々と知り合ってそれを可能にしました。
そうして彼はもくともくと作業場で
箱と二つのパズルのピースと闘っていたのです。

驚かせてごめんなさい。
今日は最後の調整をしていたのです。
最中、私が疲れて箱の中で眠ってしまってるうちに
あなたが来てしまったのですね。」
リビングに戻って聞いた横間亜希の話は奇妙だったが、美しい話だった。
実は不細工な面で声を殺して号泣している。
しかし瑛人はそれどころじゃあない。
あまりのショックに白目をむきそうだった。
つまり瑛人達は「スタンド使い」というだけで害の無い一般人の家を荒らし、プライベートに踏み込み
あまつさえ彼らに危害を加えてしまったのだ。
さらにはリビングでお茶まで出されてしまっている。
「すんません…。」
実とは別の意味で泣きたい瑛人だった。
「まぁ、そんな顔せずに。
 私もつい妻の事となるとこう…カーッとなってしまってね。
 それに人様に言えないようなことをやっていることには変わりないですから。」
すっかり元の紳士に戻ってしまった横間を前に、気まずさがさらに増す。
その様子を特に気にしない横間はおもむろに財布からカードを取り出し、瑛人に渡した。
「これは…?」
「もしこの町のことで気になることがあるなら、ここに行ってみるといい。」
カードには「プラネット・カフェ」という店の住所と電話番号が書いてあった。
「そこのオーナーはかなりの情報通です。確か名前は『ハイネ』…すまないが私にできるのはこのぐらいです。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、『口止め料』 とでも思ってください。」


「さて、対談が途中でしたね。」
え?という顔をする瑛人だったが横間はそれに微笑みで返した。

「お願いしますよ。私のこの世で最後の対談です。」


--

実はこれからも俺についてくる、と張り切っていた。
何故あんな奴を…と遼平に問い詰めたが
「あいつが行きたいってうるさいから」
とのことだった。
適当なことを!と責めたかったが、逆に無茶して潜入操作までしたことを遼平にこっぴどく怒られてしまった。

一週間後、横間夫妻は本当に一緒に息を引き取った。
原因は二人とも同じ血液の病気だったしい。
おそらくは指を交換した際にうつったのだろう。
しかしそれにしても同じ日に、しかも抱き合いながら息を引き取るのは奇跡としか言いようが無い。
テレビで報道されていたのは通常の葬儀だった。
その裏では、横間夫妻の話どおりかくれて二人一緒に『埋葬』されたのだろうか。
真実は瑛人にはわからない。

対談の最後に、横間忠生はこう言った。

「正解はたった一つですよ。
 私にとっても
 そしてあなたにとっても。

 真実は、死の手前に見えるでしょう。」


外は真夜中だった。
瑛人はベランダに立ってタバコに火をつけ、
横間にゆずり受けた彼の公式での最後の作品『Answer』という名前の球体を弄びながら夜空を眺めた。
ガラスの球体の中は水が貯められていて、そこに浮かぶ同じようにガラスで作られた男女が
抱き合ったまま決して離れることなく揺れている。

「真実ねぇ…。」

冷えた夜空に、煙が舞った。




失踪事件は今も続いている。








→to be continued...
瑛人はスタンド使いを探している。
スタンドを身につけた時からずっとだ。

瑛人は豪雨の日、決まって同じ夢を見る。
現実と同じ豪雨の中、自分の前に小さな少年が立っている。
そしてずぶ濡れの少年はこういうのだ。

「君もおいで。」

直後、青白いフラッシュに包まれて夢は終わる。
汗だくの体は、それが悪夢だと言う事をよく現している。

この町に来たのも、凌平からもらった情報だけが理由じゃない。
不可解な失踪事件のせいでもない。

少年が、手招きしているような気がしたのだ。



case2 イン ザ ルーム



住んで間もないが、この部屋の居心地は悪くない。
朝は窓からは陽射しが入り込み、暖かい陽気が気持ちよく体を包む。
1LDKで風呂トイレ別。懸念される要素は駅からかなり遠い事だけだが、元々この町にしか用が無い自分には関係無いし、足は自転車かバイクを使えばいい。

ただひとつ、難点があるとすれば…。


「フフフ…ハハ…アハハハ」


夜な夜な聞こえる女の笑い声だ。
何に爆笑してるのか知らないが、うるさい事この上ない。
「駄目だ…寝れん。」
今夜は久しぶりの強い雨で、雷もしばしばなることがあった。そのせいもあって、その日の瑛人の寝つきはさらに悪かった。
「電気のスタンド」をもってるくせに「雷が苦手」とは、これいかに、という感じだが、とにかく彼にはそういう一面がある。
それは彼の過去に起因するものなのだが…。

体を起こし、煙草を吸いながら平静を保つ瑛人。
「そうだ。こんな時はゲームだ。ゲームをしよう。」
そう呟いて、テレビのラックに手をやる。
オリバトTCG。ムーンライダー。どちらも至高の名作だ。
やはりkohさんの作品は他とは一線を画している。
「早く新作つくれっつーのまったく」


「キ ャ ハ ハ ハ ハ !!!」

ドタン!バタン!
ベッドが揺れるような音。
その時瑛人の中の何かが切れた。

「…限界だッ!!」

瑛人はゲームを手に取るのをやめて部屋を出ると、一階にいる大家の元へ肩をいからせながら歩いていった。

ドンドン!
「いますかー!すんませーん!」
瑛人のよびかけから程なくして大家が出てくる。
「はいはい。なんでしょ。」
出てきたのは中年男性。片手にポッキー(サラダ味)の箱を持っている。
口の中はモゴモゴと『いかにも今食べてます』って感じで動いていて、その暢気な仕草と顔が瑛人をさらに苛立たせた。
「隣の部屋の女がめちゃうるさいんすよ!注意してくださいよ!」
「隣ー?ちょっとまっててねぇ…。」
瑛人が喚くと大家は部屋の奥に消えて、パソコンをいじる。
すると大家はモニターを見ながら顔を歪ませて難しそうな顔をして瑛人に問う。
「んー?…んーと隣ってどっち?」
「右側ですよ右側!…えーと俺が508だから509っすよ!509の女!
 とにかくお願いしますよ!」
瑛人はその場から去ろうとするが次に聞こえた大家の一言が瑛人の足を止めた。


「瑛人さーん…。509誰も住んでないけどー…。」




「は…?」
何を言っているのかわからない。という表情で大家を見る瑛人。
「瑛人さんのお隣は空き部屋だよ?もう片方は男の人だねぇ」
大家が言葉を続けるが相変わらず状況が掴めない瑛人。
そんなはずがない。隣から確かに声がしたんだ。
壁の後ろから響いてきたんだ。
「ちょ、ちょっと!納得がいかねぇ!
 確かに聞こえたんすよ!」
声を震わせて必死に主張する瑛人。
「んー…じゃあ確認しにいきますかぁーーーふぁーー。」
全く危機感無く、むしろ面倒くさそうに大家はあくびをした。
瑛人の堪忍袋の尾は糸一枚でなんとかもっている状態である。
「お願いしますよ!すんませんね!」
その声にはすまなそうな様子は少しも見えなかった。


「そんな…」
大家が鍵を開けてひらいたドアの向こうは、しんとした何も無いただの部屋。
それがわずかな月明かりで照らされているだけだった。
「ね?」
大家はどうだ。という顔を見せた。
「でも確かに…。確かに聞こえたんだ…。」
瑛人の呆然とした表情を見て、大家は仕方なさそうに口を開いた。

「いや、まぁ 実はね?
 出るって話はきいてるんですよねー この部屋。」


「…は?」
口をあけたまま首だけを回転させて大家を見る瑛人。

「いやね、まぁ私の前任の人の話なんですけど、ここで殺人事件がありましてね。
 三人家族が住んでたんですけど。親父がDVでね、母親を殺しちゃったらしいんですよ。
 その勢いで反抗してきた娘も殺しちゃった。親父さんは今もムショぐらしだったかなぁー。

 ま、その殺された家族の霊…だったりしてねぇ。はっはっは。ボリボリ。」

瑛人の身体は硬直していた。
「な、なんで住む前にその話してくれなかったんすか…。」
「んーいや、まぁ君の部屋じゃあないし。別にいいかなぁーって。
 まぁでも空耳だと思うよ?下で夜遊びの女子高生でも遊んでたんじゃない?ボリボリ」
瑛人は相変わらず大家が食っているポッキーを目玉に突き刺してほじくり返したい衝動を必死で抑えた。

「じゃあ納得してもらえたかな?ほいじゃおやすボリボリ」
そのまま大家は立ち去ってしまった。




瑛人はとにかく眠りにつくことにした。
明日から引越しの手続きを始めようか。いやなんだ、それじゃ自分がビビッてるみたいじゃないか。
全然余裕だし。超余裕だし。全くもって余裕のよっちゃんすづけいかだし。
そんなことを考えながら毛布にくるまって眠気が来るのを待っていた。
「…あははは ふふふふ」
また聞こえてくる女の声。子供とも大人ともつかないその声はさらに瑛人の恐怖を煽る。
おもむろに立ち上がり、
瑛人、本日2回目の大切な何かが切れる。

「う…
 うるせええええーーーー!!!!!!
 今なんじだと思っちぇるんでふェーーーーー!!」

後半なにを言っているのかサッパリわからない状態だったが、瑛人は叫んだ。
すると笑い声はフッとやんだ。

「…へっ。収まったか。たいしたこと…ないハッ!?」

突然気配がして振り返る瑛人。

フッ

開いていたドアの先。廊下からバスルームにかけて
一瞬、人影のようなものが気がした。

「きのせいだきのせいだきのせいだみまちがいだなにかのまちがいだなにかの…」

ピシィーーーン!!

突然鳴り響いた落雷の音が瑛人の謎の呪文をかき消した。
部屋は窓から射した光に照らされ、またもとの暗闇に戻る。
瑛人はその窓に目を向けたまま、全身の動きをとめた。

落雷に萎縮したわけではない。
目の前にはもっと衝撃的な光景があった。

冷気で曇ったガラス。
そこには、幼い子供が寒い日に、車の窓に落書きをするように
文字がかいてあった。



お
と
 う

さ
ん

ご
め

ん

な
 さ
 い






雨が、強くなった気がした。
やばい。

絶対にやばい。

とうとう見えちまった。

激しい動揺と思考の渦の中、瑛人はパニック状態に陥りつつあった。
ズンッ
隣にライディーンが現れる。おそらく彼の防衛本能が自然と発現させたのだろう。しかし…

「心霊にスタンドがきくのか…?」
不安がよぎるが、手段は無い。瑛人は決意を固める。
「や、やるしかねえ…。」
自らに渇を入れて、瑛人は先程人影らしきものをみたバスルームへと歩きだす。
キィ…キィ…
近づくたびに空気が冷たくなる気がした。
どうやら扉は開いているようだ。ポタ ポタという蛇口から漏れた水滴の滴る音が静けさの中に響いてくる。

洗面所に入り、バスルームの前に立つ。
扉は閉ざされていて中の様子を見ることはできない。
静寂の中に、雨音と瑛人の息遣いだけが響いている。
不気味だ。しかし意を決して扉を開く。

バンッ!


…

いない。

いや、いた。
がらんとしたバスルームの中、鏡に映った瑛人の真後ろに女の子の姿。
瑛人は恐怖に凍りついたが、頭の隅に、それとはまた別の感覚が生まれていた。

(この顔、どこかで…。)
顔立ちと背格好から、大体高校生くらいだと予測できる。
髪はボサボサ。くしもとおらなそうな前髪の奥からのぞく目は、何かを探すように泳いでいかにも挙動不審だった。
薄暗く、湿気の篭ったような重い空気の中での出で立ちは一層気味が悪かったが、
瑛人はその姿に一瞬、何かデジャヴのような感覚を感じ、それを取り払うことができずにいた。

「おまえは…」

しかしその感覚も、瑛人が少女の方に振り返ったあと、すぐにかき消される事になる。
それは恐怖。しかし今までのものとは違う。その恐怖は今までに何度も体験し、親しみすら沸いてしまうような恐怖だ。

ガシィッ!!

後ろから何者かの手が瑛人の喉もとを掴んだ。しかしその手は人間、ましてや霊魂などの手ではない。それは彼のよく知る恐怖。因縁の、恐怖。

(スタンド――!!)

その腕は後方――バスタブの中へと瑛人を引きずりこんだ。ゾッとする間も無いまま体を持っていかれ、瑛人はバスタブの底に背中から叩きつけられることを覚悟した。

しかしその衝撃はいつまでたってもこない。
変わりに瑛人の体が感じたのは吹き抜ける冷たい風と押しつぶされるような内臓の圧迫感。息苦しさ。


突然訪れた暗闇の中、瑛人はようやく理解した。
自分は落下しているのだ、と。
「うおおおおおおおおお!!!!!」
落ちる、落ちる、落ちる。
猛スピードで落ちていく体。瑛人は必死で何かを掴もうともがくが、暗闇の中でその手は空を斬るばかり。
それと対象的に、首元を掴むスタンドは圧し掛かる重力をものともせず、ゆっくりと、正確に瑛人の体に絡みつく。
後ろから抱擁するように抱え込み、もう片方の手の指先で瑛人の頬スゥーッと撫でた。

「アァ…ヤッパリ…
 アナタノ中ニワタシヲカンジルワァ…」

耳元に入り込んだ囁きは、背中から吹く突風の中でも容易に聴き取れた。
(スタンドが喋った…ッ!?)
経験したことのない出来事に瑛人は焦る。
「くそおおおぉおおおお!!」
溺れる者がレスキュー隊員に助けを求めるように無我夢中で手を振り回す瑛人。そして、その手は奇跡的に何かをつかんだ。
釈迦が落とした蜘蛛の糸のごとき天恵。
しかし現実もお伽話と同様に、奇跡なんてものは酷く儚く、掴んだ藁のように簡単にすり抜けていく。

ブチンッ!!!
バチィィンン!!!

掴んだ何か、ケーブルのようなものは、眩い光と共にあっさりとちぎれてしまった。
スタンドの仕業か。だが、瑛人にとって今もっとも重要なことは、蜘蛛の糸がちぎれてしまったなどという過ぎ去ってしまったことではなかった。

光が照らした一瞬の光景を、瑛人は見逃さなかった。

四方を塞ぐ鉄の壁。はるか上方から下へと張られたワイヤー。
そしてそのワイヤーの先、瑛人の体の行き着く先。
終点。鉄の床。


「キケンダワァ…キケンヨ…
 アナタノソノ目…知ッテルワヨォ…

 殺サナキャァ」

後ろから千切れたケーブルが不規則に光を放っている。
スタンドはスカイダイビングのインストラクターのように瑛人を後ろから抱きかかえ、体を伸ばして落下スピードを更にあげた。
そして光の中に見える終着点は、フラッシュの数だけ瑛人に迫っていった。

「ホラァ!モット焦ッテェ!!モガイテェ!!
 絶望ニ!身ヲヨジリナサイヨォ!!」

「余裕だ。」


ライディーンが瑛人の背中から現れ、床の少し上方にある壁の一箇所に矢を放った。
ポウ、と暗闇に光る避雷針。まるでそれはトンネルの出口を照らすように…。


「…余裕だっつーーんだよこのボケカスがァーー!!今だライディイイイイン!!!!」

バリバリバリバリ

後方。先ほどのケーブルから眩い電撃が放たれる。
それは激しい光の筋となって瑛人とスタンドを巻き込み、、そのまま高速で光のもとへ。
「ぐぅううう」
のし掛かる風と電撃の圧力に何とか耐えながら体を丸めて更なる衝撃に備えた。
まるで雷神のように猛々しく光を放ちながら、瑛人は矢の刺さった壁に激突した。

ドグォォオオン

破壊された壁の向こう側。瓦礫の山の中に生きも絶え絶えの瑛人が倒れていた。

「ハァ…か、完全に余裕だったが…納得がいかねー…
 特に納得がいかねー点が2つ…ゴホッ
 何故『バスタブ』から落ちたと思ったら『エレベータの内部の一番上』から落ちていたか…
 何故壁をぶち抜いたその先が再び『俺の部屋』なのか…だ」

冷気がつつむ部屋の中、少女とスタンドは突っ伏す瑛人を見下ろしていた。
「なぁお嬢ちゃん…どうしてこんなことすんのかな?」
声を聞き、少女の大きな瞳が泳いだ。
「また…泥棒…?」
「は?」
泥棒だと?不法侵入はどっちだ?
それに…『また』
『また』ってのは一体なんだ?
瑛人はなんとか立ち上がり、辺りを見回す。
そこで1つの違和感に気付く。
(疑惑1…ここは…「違う。」)
違和感の原因に気付いた瞬間、瑛人は走り出した。
向かった先はバスルーム。しかしその歩みはすぐさまさえぎられる。
「勝手ニウゴイテンジャネェーゾ!!!」
さっきのスタンドに首根っこを掴まれ、そのまま進路とは逆方向に投げ飛ばされる。
少女にほんの少し肩がぶつかり、そのまま床に落ちてゴロゴロと転がり続けて食器棚に激突。
瑛人の上にフォークやら皿やらがばらまかれた。
少女はしりもちをついたまま天井を見ている。
「グッ!…とんでもねぇパワー過ぎるぜ…。」
(疑惑2…この「スタンド」。)
瑛人は肋骨をさすりながら再び立ち上がり、そこから間髪いれずに再び走り出す。
しかし今度は玄関に向かって。
バンッ!
扉を開け、外の廊下に飛び出して瑛人は勢いを殺さず走りだす。
外の雷鳴が瑛人を照らす。横殴りの雨が体に降り注いぎ、全身濡れてしまったが、それを意に介している暇はない。
ピリリリ!
突然鳴り出した携帯を取り出し、遼平にダイヤルする。
「おい遼平!
 『やっぱりこのマンション』は…!」
ドドドドドド!!
振り返るとそこにはものすごい勢いで走り迫るスタンド!
「うおおおお!!」
瑛人は非常階段の扉をあけ、閉める。
そのまま階段を下って『1階まで』…しかしそこに階段はなかった。
目の前には少女が一人。
広がる景色は、見覚えのある風景。
「逆戻り…に、逃げることは『できない』。」
(疑惑3…この『能力』)
瑛人は再びバスタブへ、否、その隣の「部屋」へ。
扉を開ける瑛人。…そこには。
無数の整列した女性の死体。それも、腐臭のしない新鮮な。
「…ビンゴだ。」
「ダカラ?」


後ろにはすでにスタンドが立っていた。


ザクッ


-


「デキタ…『死体』。」

自分の役目を終えたように、スタンドはフッと姿を消した。
少女は瑛人の傍らに佇んでいた。

死体となった、瑛人の傍らに。
ガチャリ。

暗い部屋の中、一人の男が足を踏み入れる。
パチン、と電気をつけて男はまず中にいる少女を確認。
ニマァと笑う男。
「よーくできたわねぇー。いい子だよ。さすが私の子だよ。
 まーた『泥棒さん』が入ったみたいだね?
 ちょっとここで待っててねぇ…。」
少女の頭を乱暴に撫でた後、そのまま奥の部屋…お気に入りの死体部屋に向かう。

部屋の前…そこには瑛人が横たわっていた。
ニマァァ
それを見た男は再び卑しい笑みを浮かべる。
脈はなく、体は冷たくなっていた。
「うんうん!死んでる死んでる!
よくできました『ブラー』ちゃん!ま、当たり前かしら。
『死ぬまで解除されない』んだから!
 でもちょっと建物荒らしすぎたね…。男殺すのつまんないからいたぶれって言ったけど…これからはあんま使えないねぇ。
 防犯カメラで見て楽しめたからいいけどネェ ボリボリ」
なんとも気味の悪い笑顔と口調で独り言を言い続けると、瑛人の死体を背にして部屋を出る。
「さーて金も手に入ったし、『ノア』に報告だねぇ…
 お金がたくさん手に入るぞぉーーボリボ

 ・・・リ?」
突然男の笑顔が止まる。
目の前に、少女の姿。
耳には携帯電話を当てている。
瑛人の携帯電話だ。

「おい…
 ナにそれ・・?携帯電話・・・? 
何やってんだ!!」
バシィッ!
力づくで携帯を奪い取り、自分の耳につける男。
そこから漏れていたのは、遼平の声。
「というわけなんだ。ユキちゃん。
 そいつは生粋の悪者。ゲスのゲス。クズ野郎なんだ。
 心配ないよ。そいつはもうすぐ…」
「おい…誰だ貴様!」
「あ、ゲスさんだ。初めまして。
突然だけど、これからあなた…
 『電気ビリビリの刑』で死んでくださーい。」

遼平の一言にピンとくる男。
「ははぁ。君こいつの友達?
 残念!!電気ビリビリのお友達は死にました!
 バラバラにして夕焼け橋からばらまいてあげようかな!!
 ハハハハ!!!ボリボリボリボリ」

豪快にポッキーを食べる男。
しかし男の弱者を踏みにじる優越感は、
すぐに冷めることになる

「エ・・・」

男の視界に入ったのは床に刺さった一本の光の矢。


パシィーーーン

雷鳴とともに外から光が走り、それは光の矢を通って高速で男の後方へ走った。
部屋の電気が消え、暗闇があたりをつつむ。

「な、なんだ…?」

パシン!

パシン!パシン!

背後から音。
その音がするたびに光が闇を切り裂く。
男は背後から発せられる光と音のほうに目を向ける。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



男の視線の先。
激しいフラッシュを放ちながら、ゆっくりと立ち上がっていく
瑛人の姿があった。

「なん で … ?」

ポトリ
男の口からポッキーが落ちる。
電話の向こうの遼平が語りかける。

「いいですか『大家の箕輪さん』。
 もういちどいいますよ?


 死 ね よ。 ゲ ス 野 郎。」


「な、何で…脈も無かった!確かに死んでいた!!
 なんでおきあがってんのよおまえーー!!」

携帯電話をブンブン振り回して叫ぶ箕輪。
その携帯を少女が奪い、瑛人の横に並び、手渡す。
「いい子だ。」
ズボッ
瑛人は腹部に刺さったナイフを抜き、床に投げる。
敵スタンド…ブラーに殴られ、食器棚にぶちあたったときに拝借したナイフだ。
瑛人はブラーが手を下す直前、ナイフを自らに突き刺し
予め用意しておいた避雷針からナイフを通して電撃を帯電体質の体の内側に呼び込み
自らを仮死状態に追い込んだ。
そして、同様にして再び呼び込まれた落雷のショックで目覚めたのだ。
「ちょっとキツい目覚ましだったけどな…。」

瑛人は様々な矛盾から、追跡してくるスタンドは少女のものではないと仮定した。
つまり敵は二人。
少女のスタンド能力は自らに呼びかけたものの空間を自分の部屋の空間に繋げる能力。
もう一人、圧倒的なパワーだが、どこか知能にかけ、その行動目的は殺すことのみのスタンド。
当てはまるのは自動操縦型スタンド。
ならばさっきからしつこいほど言っている「自分を殺す」という目的が終わればコイツは消える。
全てが仮定のみの推理だったが、遼平がようやく入手した情報をギリギリの電話で聞くことができたおかげで、確信を持つことができた。

「大家の箕輪さん…あんた嘘つきだね。
 
 三年前の事件、この子の母親を殺したのは父親じゃあない。
 あんただ。
 あんたは美しく、幸せな女を憎んだんだ。
 性同一障害…
 スタンドビジョンが女なのはその表れだ。
 自分の一生手に入れられない幸せへの憎しみは肥大し
 ついに一線を越えた。
 その時か…その前からか…
 あんたはこの少女の能力に気付き、利用することを思いついた。
 父親に罪をなすりつけることなど、分けもなかっただろう。
 身寄りをなくした上に、ショックで視力もうしなった少女を利用するなんて、ゲスのあんたには簡単だっただろうな。
 そうして、あんたはこの部屋を、欲望の掃き溜めにした。」

わなわなと震える箕輪を見据える瑛人。

「お譲ちゃん。今は君が裁判官だ。
 どうする?」
少女はその時、初めて感情を持った瞳を見せた。
「有罪…余裕で。」

「よくできました。」



「クククク…
 ハハハハハ!!」
体を躍らせながら笑う箕輪。
こいつはおかしいとばかりに、体をのけぞらせ、頭を抱える。

「偉そうに…
 名探偵のつもりかしら!?
 言っとくけどあんたの状況…
 何も変わってねぇんだよ!!!!」

再び現れたブラー。
息き着くまもなく走りだし、瞬く間に瑛人たちの目の前へ。

「今度はちゃんと殺してやるからな!
 頭を捻りつぶして滴った血をすってやる!」


少女はおぼつかない足取りで、ひとつの死体にたどり着く。
懐かしい香りが少女を包み、少女はそこにあった母の死体の頬をなでた。
箕輪のスタンドにかけられた死体は、腐らず全ての活動を停止し、保管される。
その能力から「開放」された今、体はほのかに残された生気を取り戻す。
そして少女はあの日以来ずっと閉じていた瞳をはじめて開く。
少女は涙も流さずに母を見つめる。
瑛人には、少女が今何を思っているか、知る術はない。
ただ、そこには言葉があるように思えた。
過ごした月日も
自らに起こったことも
不幸を、不幸と知る術さえも知らない少女は、自分という存在を母に問いかけているのだ。


「なぜだぁぁーーー!!なぜ『そこ』にいけない!!!???」

箕輪の怒号が響く。瑛人は少女から目線をずらし、箕輪のいるほうを見た。
その目にあったのは静かな怒り。そしてほんの少しの哀れみ。

「…『空間をつなげて人を引き込む』。
それは真の彼女の能力じゃない。彼女の、両親への想いに縛られた能力だ。
彼女は、もう既に理解している。
 母親も、そしておそらくは父親も、もう自分の元へは戻ってこないことを。
そして、大切なものを奪った『泥棒』が誰であるかも…。」

開いたドアの向こうに立つ瑛人のもとに、箕輪とスタンドはたどり着くことはできない。
部屋と部屋の境目を通り抜けるとなぜか他のドアを介してもとの部屋に戻ってしまう。

「彼女の能力は開放されたんだ。
 『全ての空間を自由に組み立てられる能力』
 そう、やりなれたレゴブロックよりも自由に…。」

箕輪のいる空間に、ライディーンがいくつもの避雷針を投げ入れる。

「な、何を…うわぁっ!!!」

ピシャアアーーン

雷鳴とともに避雷針によっておびき寄せられた激しい電流が箕輪のまわりを縦横無尽に走り回る。
箕輪は転がりながらそれを必死によける。
しかし無常にもライディーンは避雷針を2本3本と増やしていく。

「や、やめてくれ!
 助けてくれ!」

箕輪の必死の命乞い。しかし瑛人は一言言い放つだけだった。

「助けを請うより、祈ったほうがいい。
 この落雷が止むまでに、自分が生きていることを。
 生き延びれば、やがて彼女もお前を許し、この空間を開放するかもな。」

やがて瑛人は少女の手を引き、その部屋を後にする。
箕輪の嘆きにも似た叫びも、聞こえなくなった。

少女は
「許すことはない。」
と言った。
瑛人は
「知ってるよ。」
と返した。


その後落雷は2日間続くことになる。


雨があがったとき、少女はくまのぬいぐるみを抱いていた。
それが彼女のスタンド。
「ワムス」って名前はどうかな、と瑛人が問うと
少女は自分とスタンドを順番に指さし
「ハナと…ワムス」と言って、初めて小さく微笑んだ。
瑛人はトイレの前に佇んでいた。
時々頭をかいたり腕を組みなおしたり、その様子は明らかにいらついているといった感じだ。
それもそのはず。室内で外は晴天だというのに、瑛人は服を着たままびしょ濡れになっているのだ。

「キャハハハ!」

隣では少女…ハナの笑い声が響く。
瑛人は行く場所がない彼女を一旦瑛人の家に匿うことにした。
しかしその後、彼女の「犯行」が瑛人に判明してしまう。
彼女がまだ例の部屋にいたころ、瑛人のお気に入りの爆笑DVD「アキラの全裸体操」がなくなっていた。
これが実は彼女の仕業だった。正確には無意識のうちにスタンドが引き寄せたのであって彼女自身のせいではないのだが、大人気ない瑛人はハナを叱った。人のDVDを盗み取った上、大爆笑して人の睡眠を妨げるとは何事だ、と。(目が見えないおかげで、彼女は音声のみで楽しんだので、モザイクが入ってるとはいえ、成人男性の全裸を直視することが無かったのは幸いだったが。)

これがまずかった。非常にまずかった。

気分を損ねたハナは瑛人に内緒で部屋のトイレの入り口とバスルームの窓を『繋げた』。
何も知らない瑛人は鼻歌混じりにトイレに入り、そのまま水の張ったバスルームに落下。
入り口はトイレの前につながっていて、今の状況にいたる。と言うわけだ。

「キャハハー 面白いね…クププ」
ニヤニヤと罠にはまった瑛人を見るハナ。
「…てめーコラ!!!許さねえ!今すぐ出てい」

バタン!
「ハナちゃん!また遊びにきたでぇえーーー!」
突然開いた玄関のドアの向こうには、仁王立ちの実がたっていた。
「ミノルー!」
笑顔で手を振るハナ。しかし瑛人のほうには怒りの上乗せだ。
「また勝手にきやがって!帰れ!うちは保育園じゃね」
「うひょーー」
ダダダダダ
ドン
実はハイテンションでハナにかけより、その途中にいる瑛人を跳ね飛ばした。

「あああああああ!」

バシャアアアン


バスタブの水につかりながら、瑛人は箕輪の言葉を思い出していた。

ノア。

その人物を追えば、何か掴めるかもしれない。
そう。事件は解決していない。
箕輪が殺めた人間は、失踪者リストのほんの一部だ
先日も新しい行方不明者が出た。
あっけなく坦々と行われるそれは、日が立つにつれ瑛人に恐怖を植え付ける。
丁度いつもの夢のように。



「…余裕。」







→to be continued...

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