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【オリバト+】コミュの【虹の中で】

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文:チャゲブッ

※チャゲブッさん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(2)

この頃、頻繁に夢を見て目を覚ます。
夢の内容は朧気で、それが夢だと自覚した時には、
どんな夢を見ていたのかは思い出せず、ただ寂しい時があり、
嬉しい時があり、恐ろしい時があり、清々しい時もある。

内容は思い出せず、嫌な汗で身体が湿っていたり、
或いは誰かが優しく、私を包み込んでくれていたかのような、
暖かい温もりの中で目を覚ます。

きっと多くの人が、夢を見た後にはこういう風に感じるものなのだろう。
それとも、この感覚は私だけのものなのだろうか?

私には、これまで誰かが私の傍に居てくれたという記憶が一切無い。
比喩では無く、実際に記憶が無いのだ。
思い出せる事は三つだけ。

一つ目は、小さい頃に家路につく途中、不意に何かが私の目の前を遮り、次いで、突然身体に痛みが走り、
暗闇の中で何かに揺られて眠りについた事。

二つ目は、暗闇の中で眠りから醒めて、喉が渇いて、外に出て、
夜の森の中で見つけた動物の血を飲んで、空腹を満たして安心した事。

三つ目は、また、暗闇の中で目を覚まして、今度は夕方頃の日差しが肌に当たって痛くて、苦しんでいたら、山吹色の暖かい色をした動物が目の前に現れて、とても綺麗だと感じたのだけど、
その動物が私に触れそうになった途端、私は何故かそれがとても怖くて、必死で逃げた事。

それだけだ。


…ずっと一人で、長い事眠っていた気がする。
けれど、最近は夢を見て、よく目を覚ます。
私が居る場所は、目を開けても、閉じても、暗闇が広がっているだけなので、
実際は眠ったままでいるようなものなのかも知れない。
でも、夢を見て目を覚ます度、少しずつ、また少しずつ、喉が渇いていく。
それだけが、私が生きている事の証明だと感じる。
渇きを満たさなければ。
また、動物の血を飲まなければならない。

そして、夢を見たい。
何故だか、どの様な夢も、今の私にはとても新鮮で、愛おしく思えるから。
-----―


仕掛けた目覚まし時計の、
アラームが鳴り始めるその10分程前には、必ず目を覚ます。
ここ最近はいつもそうだ。神経質になっていると感じる。

目覚まし時計には、2008年5月15日と表示されている。

朝、目を覚まして最初にするのは、
たった今見たかもしれない夢の内容を思い出すことだ。
今日の目覚めは悪くないが、身体は、寝汗でもって寝間着を肌にこびり付かせている。
あまり良くない夢を見たかもしれなかった。
だが、夢の内容は思い出せない。
ただ、意識ははっきりと覚醒出来ていた。

夢の内容が、少しでも思い出せる時にはメモを書く。
私の仕事のネタになるかも知れないからだ。
そういう事をし始めたのはここ数年からだが、
夢にも縋らなければならないほど、ここ何年も、私は仕事のネタに困窮していた。

今朝はメモを取る必要が無さそうであると判断し、
急いでベッドから出る。
空は白みかけているが、まだ町が活発に動き出す前の、
静けさに包まれた時間である。

我が家に居るもう一人の住人に気付かれぬよう、
あまり音を立てず、洗濯機を動かし、ゴミを捨て、ポストを確認し、朝食をとる。

その他諸々済ますと、気が付けば窓の外の木々は黄金色に染まっていて、
鳥の鳴き声と、車の排気音、まばらな人の声とが、
何時の間にか、いつものリズムで、いつもの活動の始まりを告げている。

私もまた、いつもの通りに、
もう一人の住人の為の朝食を作りながら、住人の居る部屋へ続く階段めがけて叫ぶ。

「ヨナ、朝ご飯を食べ逃すぞ?また腹ペコで学校へ行きたいのか?」

料理を拵えつつ、聞き耳を立てるが、
返事は無く、二階の住人が動き出した気配もない。

仕方なくキッチンの火を止め、階段へと足を運ぶ。

「おーい、ヨナ」

階段を上り始めた所で声を張り上げるが、返事は無い。
ドアの前まで行こうと階段の中ほどまで上った辺りで、
ふいに、二階のドアノブが動く音がした。
次いで、ギギギと、立て付けの悪さが窺えるドアが開閉音を鳴らす。

バタンッ

ドアがしまり、キシキシと小さな足音がゆっくりこちらへ向かって来る音がする。
朝方とはいえ、まだカーテンが閉めてあり、陽の光があまり入らない二階の廊下は薄暗く、したがって階段も薄暗い。

私は足音の主が目の前に姿を現すのを待った。至って平静のまま。
これが何時も通りの事だからだ。

「おはよう。お父さん」

二階の住人が、私の前に姿を現すと同時に、私に向かって挨拶をする。

「おはよう、ヨハンナ。御機嫌か?今日は一段と調子が良いみたいだぞ?」

二階の住人である娘の、その頭髪を指さしながら、
私は皮肉交じりに挨拶を返した。
綺麗なブロンドの髪を怒りに任せて波立たせた様な寝癖は、
さながら、このほどアジアで不動の人気を得ているという、
漫画の主人公の様だと思った。
良くは知らないが、金髪に青い目をした、
筋骨隆々の青年が、悪を打倒すという話の漫画だ。
近所に住んでいる少年にも、この漫画のファンがいる。

「髪を整えたりなんだり、学校に行く前に色々とする事があるだろう?
もうちょっと早く起きろよ。」

娘の髪は、手入れがし易い様にショートヘアーに切りそろえられている。
この家には、私と娘の二人しか住んで居ない。
綺麗な長いブロンドの髪は、私たち二人の生活では、持て余してしまうと思えた。

怒れるブロンドの主は、間延びした顔で眠気眼を擦っている。
綺麗な私を台無しにして、と、怒り訴える頭髪と、
悠々と欠伸をするその主との対比に、
思わず込み上げてくる笑いを堪えながら、
済まないと、心の中で娘と娘のブロンドに詫びた。

「ご機嫌じゃないね。」

と、不意に娘がこぼす。

「どうかしたか?寝つけなかったのか?」

「ううん、よく寝られた。だけどね、怖い夢は見た。」

「夢?どんな夢だ?」

夢と聞いて、それまで些か渋く見えたであろう私の表情が、
ガラリと好奇心を湛えた物に変わるのを、娘は目敏く見ている。

「忘れた。何かを追いかけていたかな?でも怖かったの。」

「お前が追いかけていた方なのに、怖かったのか?
どんな姿をしていたとか、思い出せないのか?」

急に前のめりに話を聞き出そうとする私の反応を見て、
娘が言葉を返す。

「忘れちゃったよ。なんかさ、お父さんって子供みたい。
夢って聞くといっつもそうなんだもん。私の友達みたいだよ」

半分呆れたような、面白がっているような様子で、娘は笑った。
つられて、私も笑ってしまう。

「すまん。いや、話し込んでいる場合じゃなかった。早く朝ご飯食べよう。」

夢の話から頭を切り替え、私は娘を食卓へと促した。

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