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【オリバト+】コミュの【MURDER TALES】

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文:DIWALI

※DIWALIさん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(19)

「僕は悪くありません。碌に働きもせずにパチンコで無駄金を費やしているだけの癖に、僕を殴る蹴る体力だけはあるような馬鹿生物を一匹ね・・・この人間社会から消してあげただけなんですよ。人間の姿形をしたゴミを掃除したんです。それのどこがいけない事なんですか?ねえ?」

「・・・・・・君、いくら父親から虐待を受けていたからって、その言い草は何だい。ましてや君は殺人を何度も犯しているんだよ。被害者は君のお父さんだけじゃあない。君がアカウントを持っていたSNS・・・そこのとあるコミュニティ内の人物の住所を割り出して、被害者男性のアパート居室に侵入。彼に遺書を書かせてから惨殺した件だってあるんだぞ?」

「ああ、あの神話マニアの自己投影ナルキッソスなウンコクズ野郎ね。あの糞野郎、他のメンバーがどれだけ注意とかしても問題起こしてたんですよね。自分が作ったキャラばっかり贔屓して、そりゃもう何度も何度も・・・周りのメンバーが愛想尽かして辟易してたし、僕だってそう。そんな空気を作ったあいつがどうしても許せなくてですね、我慢できなくなっちゃったので・・・みんなのためにサクッと死んでもらいました。奴がみっともなく馬鹿っ面を引っさげて泣くまで罵倒し尽くしてから、遺書も書かせてやりましたとも。『迷惑掛けてごめんなさい、私はどうしようもないウンコクズです』ってね。それでその馬鹿をメッタ刺しの串刺し刑で殺した写真を、コミュニティーの人達に送りつけたんですけどねぇ・・・『誰もそんなことしてくれと頼んだ覚えはない!』って烈火のごとく怒られて、警察にも通報されちゃって。あのクズが完全に居なくなれば、エナジードリンクを飲んだ後みたいにみんなスッキリ気分で喜ぶと思ったのになァ〜・・・いやホント、酷い話だと思いませんか?」

「・・・・・・・・・ッッ!(こいつに倫理観は無えのか!? 自分の犯行を悔いてすらいない、身勝手な理由で周囲を巻き込んでも全く悪びれていない!こいつは一体何だってんだよ・・・!)」

そこはとある街の警察署の一室。
少し薄暗い部屋の中で、警部の男と一人の少年が机を挟んで対面している。少年の名は枯原死奇(かれはら しき) ・・・彼は連続殺人の罪で逮捕され、今に至っているのだ。彼が犯した殺人の件数は、判っているものだけでも既に12件。その犠牲者の大半が児童虐待をする親だったり、はたまた大なり少なり迷惑行為を働いた者ばかりだった。
死奇は散歩がてら(※ネットサーフィンも含む)、ふと目に付いた迷惑な輩を執拗に追跡し、用意周到に準備してから殺す。そして被害者と縁のある人物に犯行現場の写真と住所を記載して送り付け、逮捕されること12回。しかし犯人の死奇が刑務所へ収監された回数は・・・・・・


 ゼ ロ で あ る 。


そう。死奇は取り調べの段階で脱走してどこかに潜伏しては神出鬼没に現れ、殺人を犯しては再び逮捕されるのを何度も繰り返している。無論、彼と相対している警部の男も知っていること・・・なのだが、その逃亡方法がどうなっているのかまでは知らない。異質な言動に不気味さを感じてしまうが、ここで怯んで隙を見せればおしまいだ。そこを突いて今まで逃げてきたのだろう・・・それは直感で分かる。

(何としてでも、こいつをうちの署から逃がすことだけはあっちゃならねえ・・・いくらネットで「DQN殺し」だの「加害者スレイヤー」と持て囃されていようが、目の前に居る相手は連続殺人鬼。これ以上野放しにすることは、警察機構の威信がもはや存在しねえことになっちまう・・・!)
冷や汗が一筋、警部の横顔を流れる・・・。
二人とも互いを正視しながらも終止無言、静寂だけが室内を満たしていた。
だが、その長く感じる静けさを破ったのは死奇の側からだった。

「やだなァ、そんな怖い顔で見つめないでくださいよ。僕は貴方みたいに真面目でまっとうな人には、一切手を掛けませんから。それにほら、凶器の類はどこにも持っていないんだから安心してくださいな。大丈夫、大丈夫」

終止リラックスした様子で、死奇は己の無害さをアピールする。ポケットの裏側をひっくり返したり、万歳と共に両腕を上げて危険物を所持していないことを見せる。だが・・・

(・・・・・・んん?)

警部の男はすぐに違和感を覚え、その原因へと目を凝らす。
まっすぐ上がった両手・・・そのどちらもが、何も無い虚空を掴んでいるかのように握られている。そして両手を下ろした死奇が向かったのは、窓際の壁。何かを確かめるように何度もペタペタと触っては、また透明な棒でも握るような手を形作っている。

「おい君、勝手に動かれては困る。大人しく座っていなさい」

「あっはい、すみません・・・」

警部の男は、死奇のマイペースぶりに困惑していた。
自らの犯行をペラペラと、さも今日の日記でも読むみたいに淡々と話し、時折立ち上がっては諫められて座る・・・死奇の取り調べを開始してから1時間、ずっとこの調子である。本音ではさっさと勾留所に入れてしまいたいが、まだまだ調べないといけないことも多い。警部の男は溜め息交じりに頭を掻いてから席を立った。

「まったく、俺も妙な奴の取り調べを任されたもんだ・・・・・・ところで君、喉は渇いてないかね?リクエストでもあれば何か持ってきてやるぞ」

「じゃあ無難に・・・普通の水でお願いします」

「はいよ。それと言っとくが、くれぐれも逃げようとか考えるんじゃあないぞ。ここは警察署の4階、窓から飛び降りたところで助からないし、内部から堂々と正面突破もできやしない・・・まあ、数分の間は大人しく待っているんだな」

「はーい」

相変わらずの自然体で受け答えする死奇の返事に、男は再び「やれやれ」と言わんばかりに額へ手を当て、取調室を後にした。ポツンとお行儀良く座る連続殺人鬼を一人だけ残して・・・。
「あっ、警部!お疲れ様です!」

給湯室で、警部の男は若手の警察官に声を掛けられた。

「おう・・・ったくよォ、あれが今世間を騒がせている連続殺人鬼の枯原少年ってか?俺も色んなヤマぁ関わってきたが、今まで見てきた犯人みたいに怯えたり逆上したりって様子がまるで見られねえ・・・それが却って薄気味悪いのなんの。あんな大人しそうなボウズが殺しとは、世の中解らねえもんだよ」

「そうですね・・・でも彼に殺されたのって、悪質な児童虐待をした保護者や、ネット上の荒らしとかそういうのばかりじゃないですか。上手く利用すれば、こう・・・『毒を以て毒を制す』みたいな感じになりませんかね?」

若き警察官が苦笑を浮かべて冗談っぽく言うも、それは笑って流せるような話ではない。警部にバシッと肩を強く叩かれ、叱責を受けてしまう。

「馬鹿野郎、滅多なこと言ってんじゃねえッ! ・・・っと、そうだ。お前ちょっと先に行って、取調室を見てきてくれねえか?あいつが大人しくしてるか気になってなァ」

「え、自分がですか? 本当に行くんですか?だって連続殺人鬼なんでしょ?何されるか分かんないですし、やっぱり怖いですよ・・・」

「文句はいいから、とっと見てこい! ドアをそっと開けて、隙間から見るだけでもいいからよう。ほら、行った行った!」

強引に促されるまま、若手の青年は「はーい、行ってきますよーだ・・・」と渋々歩いていった。情けない背中を見送ると、警部はもう一杯のコップを取り出して、注いだ水を口に含みながら思案する・・・。

全国各地、異なる都道府県の警察署に身柄を確保されても、まるで脱出マジックのようにあっさりと脱走する少年。これだけでもニュース沙汰になるはずだというのに、テレビ番組では報道される気配が全く無い。報道規制が及ばないインターネットの闇世界においては、真偽不明という前書き付きではあるものの、随分と有名な話らしいが・・・一体何がどうなっているというのか。


口の中の水を飲み込み、再び水を飲もうとコップに口を近付け、水を口に含ん・・・・・・

「け、警部ッ、警部ッッ!いいい居ませんッ、容疑者が取調室にッ・・・・・・

 居 な い ん で す ッ ッ ! !!」

ブウゥッッ!と、警部は水を勢いよく吹き出した。
そしてゲホゲホと咳き込んだ後・・・

「なァアアァアァアァにィイィイイィイイイイイッッッッ!!?!!!!?!」

建物中に響き渡らんばかりの怒鳴り声が、喉から炸裂する・・・!
バン!と大きな音を立てて、取調室の扉は乱暴に開けられた。
そこは見事にもぬけの殻・・・たった今駆け込んできた警部と若手警官の2人以外、誰一人の気配すら無い。

「・・・・・・本当に・・・居ねえ・・・だと?」

「はい、居ません・・・代わりに、壁にこんなものが・・・」

若い警官が指差した先は壁、そしてそこに付けられた奇妙な血痕。
その形状は「飛び散って付いた」とは言えず、例えるならば「人の皮膚を刃物で斬った」ような線状の形をしている。当然、その中心は荒く斬りつけたみたいに抉れており、生物めいて未だに血を滴らせていた。

(この壁・・・さっき取り調べしていた時にヤツが何度も触っていた所じゃねえか。しかし何だ。まさか凶器か何かで壁を斬って、その傷口に入り込んで逃げたってか?そしてこの血痕は壁さんが「痛い痛い」と流したものですってかァ?馬鹿げてやがるッ!)

自身の途方もない想像に悪態を突きながら、警部はずっと沈黙していた・・・そして、ふと思い出す。SNSから死奇にストーキングされて惨殺された被害者の青年の死体写真、その異様でどこか不可思議な光景を。

(そういやァ、あの少年がやったSNSストーカー殺人事件の証拠写真と似通っているんだよな。思い出すだけでも吐き気がするが、あの串刺しの死体を貫いていた杭・・・そう、あの『赤い杭』だ。アレはまるで床の血溜まりから生えていたみてぇだった! だが、血液をああも器用に形作るだなんてできるか? いいや、できっこない!そもそも液体をどうやって整形するんだよ! いま俺の目の前にある壁の血痕みてえに、まず普通では有り得ないことなんだ・・・・・・有り得ないはずなのに・・・くそっ、頭が痛くなる話だぜ。)

歯噛みする警部の横で、若い警官は掛ける言葉も見つからずに黙るしかできなかった。すると、その背後・・・カツンという足音と共に、落ち着き払った声が取調室の静寂を破った。

「・・・・・・やはり、逃げられたか」

「・・・・・・ッ、しょ、署長!」

「え・・・あ、えっ!? お、おつ、おっ、お疲れ様ですッッ!!!」

足音の主は××県警察の署長だった。警部と警官は大慌てで振り向き、即座に敬礼をする。

「ああ楽にしてくれ、鬼島(きじま)警部。それとそこの君、警部と私とで少し大事な話をするから、自分の業務に戻りなさい。」

「は、はい・・・・・・失礼します・・・!」

訳の分からないまま、若い警官はそそくさと場を離れた。彼の姿が見えなくなってから署長はさらに周囲を見渡して、本当に自分たち以外の者が居ないかを確認している・・・その目つきの鋭さは、これから話す内容が決して軽いものではないことを鬼島警部にも容易に悟らせた。

「・・・・・・廊下で話すのも良くないな。署長室に来たまえ、君にはあの少年の『異常さ』に関わる全てを教えよう。」

「異常さ・・・ってぇと、あのボウズがどうして脱走しまくるかとか、実はサイコパスだとかって話ですかい?」

「・・・・・・とにかく署長室へ来たまえ、話はそれからだ。」
××県警署長室・・・そこには署長と鬼島警部の2人だけしか居ない。
小さな応接用のガラステーブルを挟んで、両者はソファーに腰掛けたまま向き合っていた。

「さて、まず何から話せばよいのやら・・・・・・鬼島君、唐突ですまないがスピードワゴン財団という組織はご存知かな?」

「たしか石油関連プラントの開発事業だとか、慈善事業とか色々やってる所って話は聞いたことがありますが・・・そんなデカい組織と枯原のイカれボウズとの間に、いったい何の関係があるってぇんですかい?」

「まあ待て、結論を急がないでくれ。今きみが言ったように、スピードワゴン財団はそういった事業を展開している・・・・・・が、それはあくまで『表向き』の話だ」

「表向きィ? そりゃいったいどういう事で?」

「財団の真の姿は、平たく言えば『超能力研究機関』の側面を持っている・・・特に『スタンド』と呼ばれる異能の力についてのな」

表情一つ変えず真面目に話す署長の言葉に、鬼島警部は混乱していた。超能力、ましてやスタンドとかいうものをいきなり言われても、さっぱり理解できない。それでも署長は構うことなく話を続ける。

「SPW財団が研究しているスタンドという力だが、大体は力を持つ者の傍に守護霊のように現れる・・・隣に立つという意味からスタンドと呼ばれているそうだがね。そしてそのスタンド能力だが、厄介なことに例の少年は『それ』を持っている可能性が非常に高い」

言葉を続けながら、署長は3枚の履歴書らしき紙をテーブル上に並べた。褐色肌のラテン系と思わしき男性が1人と、瓜二つの顔立ちの白人女性が2人・・・紙面中央にはスタンプで「SPEED WAGON FOUNDATION」と判が捺されている。

「そして今回、警察庁は先の財団と提携し、容疑者・枯原死奇を秘密裏に消すことを決定した。鬼島君、君は枯原少年の件で何か疑問に思ったことは無いかね? 例えば・・・・・・何故マスコミは彼の連続殺人や脱走を報道しないのか、だとか」

署長の推察に鬼島警部はすぐに頷いた。それこそ鬼島が特に訊きたかった事ゆえ、首を縦に振る回数がとても多い。

「そう、それなんですよッ! 何だってマスコミの連中はテレビでこの事を流さないんですか!? 懸賞金も懸けてさァ、ぱぱっと逮捕してふん縛って、拘置所にぶち込んでやればいいでしょうに!」

「懸賞金ね・・・たしかにそうすることで情報提供も捗り、逮捕に繋がる可能性もより高まるだろう。だが、容疑者は殺人を何度も平然と行う危険人物だ。もし彼の逆鱗に触れてしまい、新たな犠牲者を増やしてしまう事態になったらどうする? もし彼が標的をマスコミ関係者に絞ったとしたら、何人の死者が出ると思う? だから我々警察機構はマスコミに対して、枯原死奇の情報に規制を掛けている。あの少年をいたずらに刺激してはならん・・・彼は異能を持った立派な化け物なのだからな」
「・・・・・・・・・」

鬼島は黙して合点した。方法が全く分からない猟奇的な殺人、そしてできるはずのない脱走を可能にする力を持つ。その危険性ゆえに相手取ることができない。そしてこの流れからすると、署長が並べたリストの3人も、おそらく・・・。

「署長。まだ半信半疑ですが、あのガキが変な能力とやらを持っているのは分かりました。そんでだ、この話の流れで言うと今ここに並べたスピードワゴンの面子も・・・奴と同じく妙な能力を持っているってぇことですよね?」

「ご名答。『目には目を、歯には歯を』といったところかな・・・紹介させてもらおう。まずはこの褐色肌の青年、名前はガルシア・エスカンダロ。メキシコ出身の若者で、本来なら今日入国するはずだったのに・・・・・・頭の痛くなる話だが、財団側の連絡員から『姐さん女房のセニョリータとイチャついていたら飛行機を逃した。まーたチケットを取り直さなきゃいけないや』などとマヌケな代理メッセージを寄越されたよ、まったく・・・!」

署長はただでさえ険しい顔を更に険しくしかめて、愚痴をこぼしている。あんまりな理由で来日が遅れているらしく、鬼島警部も流石に突っ込まずには居られない。

「おいおいおい、いきなりそんなんで大丈夫ですかい!? ちゃんと仕事してくれるんですかァ、そのちゃらんぽらんなメキシコ人とやらは・・・」

「さあてな、私にも分からんよ・・・だが、残る2人なら問題ないだろう。彼女らドイツ人の双子姉妹は既に入国している。明日には警視庁からお偉いさんも来て、彼女たちを交えたミーティングを本署で行うそうだ」

肩を竦める署長の向こうで、鬼島警部は2人の女性の履歴書を手に取っていた。両名とも黒いタートルネックの上に灰色のコートらしき物を着用し、プラチナブロンドの長髪の上にはコートと同じ色の略帽を被っている・・・軍人なのだろうか。 片方はキリっとした顔付きで凜としており、もう片方は儚げで大人しそうな表情をしている。

「へえ、こんな美人娘な姉妹も能力をねェ。どれどれ、この生真面目そうな奴のスタンドとやらは・・・名前が『U-556』ゥ? 何だこりゃ、しかも説明文に『submarine』だの『underground』だの、一体どういうことができるってんだ? 俺ァ英語を読むのも書くのも話すのも苦手だってぇの・・・!」

「まあ落ち着いてくれ、明日にでも彼女たち双子の人となり能力なりが分かるだろうさ・・・では、この件に於いて本日はここまでだ。枯原死奇を逃がしたのは悔やみきれないが、スピードワゴン財団からの助っ人により早期の確保が望めるだろう。鬼島君、あとは我々に任せておきたまえ」
夜の飲み屋街、時刻は21時頃。昔風の小さな居酒屋で2人の男が酒を交わしていた。一人は仕事上がりの鬼島警部、もう一人は七三分けの頭髪をした、大して目立つことの無さそうなサラリーマンの中年男。いかにも大人しそうな彼は、どこか寂しげな微笑を浮かべて、鬼島のコップに酒を注いだ。

「おっとっとっと・・・おう、ありがとうな白木ィ」

「いやいや、それほどでも。それにしても偶然だね、君とばったり再会するだなんて」

「そういやァそうだな。最後にこうして飲んだのは・・・・・・6年くらい前だっけか?」

「早いね、もうそんなに経つのか・・・・・・そうか、6年か・・・」

焼き鳥の串を頬張り、酒を一口飲んでからの沈黙・・・カウンター向かいの厨房で、おでんの煮える音と、年老いた店主が焼き鳥を焼く以外の音が無い。その言葉無き静寂から数秒、鬼島が話を切り出した。

「白木・・・・・・お前のせがれ、大丈夫か?」

「大丈夫って何のことさ、うちの家庭事情は何ともな・・・」

突然の問いに一瞬強張る白木だったが、すぐに平静を装って返答する。しかしそれを喝破するような鬼島の重い声がそれを遮った。まさに鬼の如く、白木を見据える目は荒く険しい。

「嘘吐けやテメェ・・・! 最近聞いたんだが、児相への相談の中に、お前の家に関する通報が出てきてるそうじゃねェか。 お前んとこの奥さんだろ、せがれに虐待してんのは」

「ああ、そうなんだ・・・・・・5年前に息子が小学校に上がってから、妻が良い教育を施そうと厳しい態度を取るようになってね。テストで90点以下の点数を取れば食事は出さないし、逆に食事をしている時でも『姿勢が悪い』とか『ペチャクチャ音を立てるな』と怒り出して、床にぶちまけたのを食べさせたりね・・・こないだなんか寒い夜なのに、パジャマ1枚で外に放り出してさ」

「・・・・・・で?お前は一体何やってんだよ、なんで他人事みてェに喋ってんだ?あァ?」

「お、怒らないで・・・・・・さ、最初は僕も妻を怒鳴ったさ、だけど言えば言ったで泣き喚いては『あの子が将来すごい子になるためにやっている』って・・・・・・うん」

凄む鬼島はコップをギリッと握り締め、対称的に縮こまる白木は段々と口をすぼめていった。昔からそうだった・・・荒っぽくてぶっきらぼうだが筋はしっかりと通すガキ大将の鬼島は、気弱で長いものに巻かれやすい白木にしょっちゅう強く当たっていた。しかし今となっては2人とも立派な大人。鬼島は腕を組んで「フゥーン・・・」と深く息を吐いた。

「・・・・・・白木、与太話と笑ってくれてもいいが聞いちゃくれねェか。悪いことは言わねえ、恥もプライドもかなぐり捨てて、せがれと一緒に逃げろ。最近、虐待する親に苛烈な暴行を加える危ねェ未成年が居るって噂があるらしくてな・・・そいつに目ェ付けられる前に逃げろ。俺が保証人にもなってやるから、バカな奥さんとは縁を切った方がいいz・・・」
「・・・・・・・・・できるわけないだろうッ! 」

白木が噛み付いた・・・瞼に涙を浮かべて、絞り出すような声で精一杯、鬼島を睨んでいた。

「そんなことをして僕の妻はどうなるんだ・・・僕は彼女と息子と一緒に、ずっと仲良く暮らしていくって誓ったんだ。自分に課した約束を破るなんて・・・できない・・・・・・ッ!」

「テメェのみみっちいプライドのせいで、ガキの心と命がどうなってもいいのかよ・・・!いい加減に目ェ醒ませよ白木、取り返しのつかねェことになる前によォ・・・なあ白木ィ!」

言い争いは加熱していき、遂に沸点に達した白木が「バンッ!」と席を叩いて立ち上がる。突然の音に、店主も豆鉄砲を喰らった鳩みたく固まっていたが、すぐにまた調理へと戻る。

「お客さん、喧嘩は外で頼みやすよ・・・」

苦笑しながら言う店主の言葉を後目に、白木はプルプルと震えながら告げる。眼鏡の下から、一筋の雫が流れていた。

「・・・・・・僕の家庭のことは放っておいてくれ。大丈夫さ、きっといつか元通りになるはずだから・・・大丈夫・・・」

「・・・もうやめろ白木。その考え方じゃあ、お前の描く未来はもう来ない。全員不幸のどん底に堕ちちまう、もう既に地獄に片足突っ込んじまってるんだぞ!?」

「それでもいいさ、地獄にだってカンダタの糸は降りてくる・・・僕は、今の地獄を乗り越えてみせるから・・・」

力なく言葉を紡ぐ白木は1万円札をカウンターに置いて、ふらふらと居酒屋を後に行ってしまった・・・俯いて何も言わない鬼島に、店主がビール瓶を1本差し出した。

「何があったのか、聞くのは野暮でしょうよ。旦那、今は心配事を隅にやって飲んでくだせえ。そいつはあっしのサービスでさァ」

「・・・・・・すまねェな、大将」

瓶と栓抜きを受け取り、コップにビールを注いでグイッと一口。ホップの苦味と泡の刺激が心地良いが、胸中は決してスカッとはしなかった。去っていった白木の背中と、日中に取り調べを行った枯原死奇の穏やかな笑顔が、鬼島の脳裏に交互に浮かぶ・・・どうも悪い予感がする。

(・・・・・・もしもアイツがこの街に居たとして、白木の家の近くを通り掛かったら・・・もしも虐待されたせがれが家の外に追い出されている時と被っちまったら・・・枯原死奇の『殺す条件』を満たしたら、夫婦揃って皆殺しになるんじゃねえのか。アイツは虐待する親には何をしても・・・拷問も殺人も許されると思い込んでやがる。そんなイカレ小僧の手に掛かる前に、白木・・・早く目ェ醒まして逃げてくれ・・・!)
深夜に差し掛かった22時。明かりの疎らな住宅街を歩く者が一人・・・枯原死奇だ。
何処へ行く当てもなく、ただこうして街をぶらぶら彷徨っているだけの少年は、穏やかな笑みを浮かべて歩いていた。

(はぁー・・・・・・殺したい。どこかに殺しても良さそうなバカ・サピエンスとか居ないかなァ)

最も、その胸中は穏やかさとは遥か対極、人間としての一線を越えてしまった故のドス黒さに染まっていた。もはや彼にとって人を殺すのはごく普通の事であり、スナックを食するに等しい嗜みにまでなってしまっている。
そしてその殺人の対象たり得る者・・・例えば、子供を虐待する親、いじめ・パワハラ・モラハラ加害者、ネット上での迷惑ユーザー、土佐犬をはじめ危険な動物をちゃんと管理できないバ飼い主などは、死奇曰わく「馬鹿で生きる価値も無ければ、遺伝子を残すメリットすら無いホモ・サピエンス。つまりはバカ・サピエンスとかゴミカス・サピエンス」として、彼の目に付いたが最後、全員もれなく殺害されてきたのだ。

現在18才の死奇だが、その殺人鬼としての童貞を捨てたのは5年前・・・13才の時だった。

父親は生活保護を受給していたが、受け取った給付金の大半はパチンコに消えていった。学費は仕方なく払っていたが、給食費を払うことは殆ど無かった。パチンコで大勝ちすれば機嫌よく帰ってくるが、そんな事はごく稀・・・毎週およそ5万円をスッては死奇に暴力を伴う八つ当たりをした。殴る蹴るは当たり前、包丁の刃先を顔に近づけて脅したり、暴言と共に唾を吐き捨てたり・・・とにかく酷い目に遭わされた少年時代だった。
ある日の事、雨がざんざか強く降る13日の金曜日。
いつものごとく死奇に暴行事件を加える父親の姿が、死奇には人間として見えなくなった。

(頭が1つと手足が2本ずつのゴミが、何だかよくわからない鳴き声を発している・・・てゆーかゴミカスが何を一丁前に人間の言葉を使っているわけ?ただのゴミカスの分際でさァ・・・ゴミ・・・・・・ああ、そっか。こいつは父親ですらない、人間でもない。じゃあ、そうだね。

 ゴ ミ は ち ゃ ん と 処 分 し な い と い け な い よ ね )

『虐待する人間=殺処分しても良いゴミ』・・・死奇の脳内に最悪の方程式が刻まれた瞬間、彼の体は素早く冷静に動いていた。父親(のつもりでいるゴミ)の左手小指を掴んで、あらぬ方向へと一気に折る。痛みで怯んだ隙に台所へ駆け込み、いちばん切れ味の良い包丁を手に取る。

「何しやンGAだコのクSOガ%#$*@+!!?!」

背後から耳障りな鳴き声が聞こえるが、正直なところどうでもいい。早くうるさいゴミを片付けなきゃ・・・振り向き様に包丁を突き出せば、その刃は男の腹部へとすんなり刺さった。ドズッと肉を突き破る低い音から数秒、赤黒く生暖かい液体が流れ落ちる。ああ、なんて心地良い感触なのだろう。刺した相手の苦痛に呻く表情も、ゴミカスにしては割と素敵に思えてくる・・・死奇は幸福を生まれて初めて感じていた。

「おま・・・・・・おばえッ、ごんなごとして・・・・・・頭おがしいんじゃねえのがデメェエェエェェエエエ!!?!」

男の汚い声が、絶頂を感じていた死奇の意識を現実に引き戻す。

(頭がおかしいだって? 金銭感覚も倫理観も身に付いていないただの有機廃棄物が、僕をキチガイ呼ばわり・・・・・・ああもう怒った、怒っちゃった。こいつ、ズタズタの細切れにして屠殺してやるから。死ね、グチャグチャのミンチになって死ね。二度と人間として生まれないようにきっちり呪ってやるから安心して死ね。

 ゴ ミ カ ス は と に か く 死 ね ッ ッ ッ !!!!!)

そこから先は、もはや単なる虐殺でしかなかった。
歯並びの悪い顔を何度も刺した。四肢の指も全部切り落とした。眼球もほじくり出した。頭を切り開いて脳の形を見てみた。胴体を切開して内蔵も観察した。煙草のやり過ぎで肺は黒く染まっていた・・・ヤニ臭くて汚い。お腹が空いたので、切り落とした指の皮を剥いで、肉を食べてみた・・・不味い。
借金取りの暴力団員が来た時には、死奇の暮らすアパートの部屋は血の匂いが充満していた。もはや姿形のわからない肉の塊をザクザクと刻んでは、こびりついた肉片をしゃぶり貪る、返り血を浴びた少年・・・あまりにも凄惨な状況に借金取りは恐れおののき、逃げ帰った。何事かと見に来た近隣の住民も、見た瞬間に悲鳴を上げて警察に通報していた。

そこから後はどうやって逃げたのか覚えていない。どこかの川で体を洗い流し、どこかの山道で野宿をしたり、ネカフェや廃墟で寝泊まりしては日本中をふらふら彷徨った。そして目に入ったバカ・サピエンスを処分し、お金も頂いて食い繋いで、今に至る。

「はぁ、いつの時代にも居るものだよね〜・・・バカ・サピエンス。そいつらさえ居なければさ、僕もこんなキチガイ殺人少年にならずに済んだのにねェ・・・・・・おや?」

初めての人殺しの思い出から、ふと現実へと意識を戻すと、一軒の家の前に座り込む子供の姿を見つけた。
外灯から少し離れた暗がり、とある一軒家の塀の下に座り込む少年が一人。
白い長袖のTシャツに白地のデニム。脱色に失敗したかのような灰色の髪の隙間からは、左の頬が赤く腫れているのが伺える・・・・・・体育座りで俯いたままの少年は、カチャリ、カチャリと手元のルービックキューブを弄っている。

(・・・・・・こんな時間にどうしたんだろう、小学生くらいの子かな?)

死奇は不穏なものを感じ取ったのか、はたまた陰惨な日々を送っていた小学生時代の自分と重ねたのか、彼は足を早めるでもなく、さも普通に歩きながら近付いていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・」

少年は一瞬だけ、近付いてきた死奇に目を向ける・・・だが、すぐにルービックキューブへと再び集中を始める。一呼吸置いてから、死奇が初めて声を掛けた。

「やあ、何してるの?」
「・・・・・・・・・・・・ん」

返ってきたのはくぐもった返事と、無愛想に突き出されたルービックキューブ。よくよく見てみると、キューブはまるで石とかコンクリートを切り出したような見た目をしている。さらに少年の傍の塀を見れば、まさに切り出したと言わんばかりの四角い穴が空いていた。
少年が石のルービックキューブを穴に嵌め込むと、塀は何事もなかったかのように、一辺の切り口を残すことなく元通りになっていた。奇妙なものを見せる少年は再び俯くも、その隣に死奇がそっと座り込む・・・まだ第二声は掛けない。いや、今はまだ掛けてはいけないのだ。

死奇は己の経験則から少年の身に何があったのかについて、ある程度の推察を立てていた・・・・・・間違いなく家族の内の誰かから虐待を受けているだろうと。しかし、それを単刀直入に訊こうとするのは良くないと死奇自身は知っている。かつての周りの人間は、身の上話を聞いても「なんて可哀想」と哀れむだけで、死奇を助け出そうと無理やりにでも行動に出る者など誰一人居なかった。そんな人間に話したところで無駄だと分かっていれば、話したところで何にもならないと理解する。だから口も心も開かない・・・・・・そうさせないための、彼なりの優しい沈黙。

・・・・・・少しのお互いの沈黙から、口火を切ったのは少年の方からだった。

「・・・・・・お母さんに叩かれて、家から出された・・・」
「どうして?」
「学校のテストで89点取ったのを見せたんだ。そしたら顔を真っ赤にして、怒鳴って、暴れて・・・・・・」
「89点も取ったんだ、すごいじゃないか」
「・・・うん、ありがと・・・・・・でも、お母さんは・・・許してくれない。95点以上取らないと『頭の悪い子はいらない』って怒るん・・・・・・だ・・・」

まだ母親に暴力を振るわれた恐怖から醒めていないのだろう。微かに震えながら、少年は口ごもりながら再び俯きうずくまってしまう。

「・・・・・・悪いお母さんだね」
「・・・そう言ってくれたの、お兄さんが初めて・・・・・・ありがとう・・・」
「お父さんは一緒に居るの?」
「今日はまだ帰ってきてない・・・・・・居ても・・・何もしてくれない・・・」


「ふーん・・・・・・じゃあ、そんな親は  しちゃおっか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」

唐突に放たれた死奇の提案に、少年は目を見開いて固まった。
そして静寂から数十秒・・・その言葉を聞いたのか、少年が佇む塀の向こう側から「バン!」と荒く開けられたドアの音が響き、足早に足音が近付いてくる・・・!

「アンタ誰よ!? うちの子に何吹き込んでくれてるわけ!? 『親を殺そうか』とか馬ッ鹿じゃないの!!?! 警察呼ぶわよ、ケーサツ!」

出てきたのは30代後半と思わしき女性・・・顔立ちはそこそこ整っているが、その表情にはプライドの高さが顕れているかのような刺々しさが纏わり付いている。いわば「キツい」といった感じの性格をしているのだろう。そんな女性は、これまたキツい口調でまくし立てながら死奇に問い詰める。夜中の外で出すにはあんまりな声量のせいで近所の家の明かりが付いたり、何処かの家からは「まーた、あそこの主婦か・・・」と呆れる声も聞こえる。

「へえ、奥さんがこの子をぶったの? テストで89点だったから? いいじゃん、スゴいじゃん、何がそんなに不満なの? ひょっとして『人を褒めたら死んじゃう病』の患者さん?わー大変だあ、じゃあ僕は救急車を呼ばなくちゃいけないぞぅ・・・黄色いヤツをね!」

矢継ぎ早に女性をおちょくる死奇の言葉に、今度は何処かから「プフゥッ!」と吹き出す声が微かに聞こえた・・・・・・近所の誰かの笑いのツボを刺激してしまったようだ。そしてそれは連鎖的に母親の女性をも刺激してしまい・・・・・・

 ド ゴ ッ ッ ッ !!!!!

・・・・・・鈍い音が夜の住宅街に木霊した。
女性の乱暴な蹴りが、座り込んだままの死奇の顔面を捉え、そして彼の後頭部は後ろの塀にぶつかった。久しぶりの痛みは殺したクソ親父とのクソみたいな日々を思い起こさせ、死奇の脳内では惨めな記憶が元気に駆け回っている。

頭がズキズキするし、鼻もツーンと痛い・・・何か鉄臭い液体が流れている。鼻血だろうか。
痛みに悶える死奇を余所に、女性は息子である少年を乱暴に引っ張っていく。相変わらず、聞くに耐えない言葉と口調で怒りを撒き散らしながら・・・。

「ほらっ、アンタのせいであたしが恥を掻いたじゃない! アンタお母さんを馬鹿にして楽しいの!? テストで89点しか取れないくせして、馬鹿じゃないの!?」
「お母さ・・・痛い・・・・・・っ」
「あたしがしてあげてることが嫌だって言うわけ!!?! 何それ、親に反抗していいとか思ってるの? 馬鹿じゃない!? 勉強もろくにできないくせして調子乗らないでくれる!? あー本当アンタってイライラさせてくれるわねェ・・・・・・!!!!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・!!!!!」

家の中へと消えていく母と子の声は遠ざかり、ようやく混乱していた思考も安定してきた。死奇が立ち上がって表札を見ると、そこには「白木」の二文字が刻まれている・・・それを見た彼の顔には、三日月のような口角の上がった笑みが浮かんでいた。

(そっかー・・・・・・そっか、そっか、そっか・・・・・・さては虐待犯だな、あのクソ女。しかも自己満足で子供を思い通りにコントロールしようとするクソ・オブ・クソじゃん。ああ、僕はラッキーだなァ・・・・・・逃げ出して早々に

 無 残 に ブ ッ 殺 し て も い い 

  バ カ ク ズ ・ サ ピ エ ン ス

を発見できるんだもんね・・・神様、大好きハレルヤ愛してる!僕に新しい獲物を1匹用意してくれて、どうもありがとうございます!ヤッホゥ!)

残虐な微笑みを浮かべる死奇の両手には、それぞれ一振りのサバイバルナイフが握られている・・・まるで芸術品のような流線型の刀身は、返り血を浴びたかのように全てが真っ赤に染まっている。いや、寧ろその赤い刃は血と思わしき液体で常に濡れている。
滴り落ちる血の雫が、ふつふつと湧き上がる死奇の殺意と欲求を代弁しているかのようにポタリ・・・ポタリ・・・とアスファルトに刻まれていく・・・・・・。
何故、人が人を殺してはいけないのか?

何故、家族を殺してはいけないのか?

あのお兄さんは僕の母を「悪いお母さんだね」と言い、涼しい顔で「殺しちゃおうか?」と言った。僕はその言葉がずっと頭から離れなかった・・・そう、僕のお母さんが怒りに任せて物を投げつけて、何度も僕を叩いたりしている間もだった。
その言葉こそ、僕がずっと求めていても認めたくなかったものを、はっきりと理解させてくれた。そうさ・・・僕は母を、あのエゴの塊みたいな糞女を殺してやりたかった。些細な理由で僕に怒りをぶつけるだけぶつけて、ここ数年で褒められた思い出なんか殆ど無い。

あんな悪魔みたいで傲慢な女、バラバラの死体にできたらなァ・・・。

いつ頃からか、そんな風に願っていたら・・・・・・僕は手で触った物からルービックキューブを取り出せるようになっていた。どういうことかは分からないけれど、今なら何となく分かる・・・この変な力を上手く使えば、あの女を殺せるんだ。そのためにできるようになったんだって。

お父さんは夜遅くに帰ってきても、弱々しくお母さんを宥めるだけで役に立たない。
それどころか情けない声で僕に「あまりお母さんを怒らせるなよ」と言ってくる・・・・・・ああそうか、あの人も居ようが居まいがどうってことないな。じゃあ一緒に殺そうかな。

だけど2人を殺したとして、その後の僕はどうやって生きる?
食費は?水道代は?電気代は?ガス代は?誰が払えばいい?子供の僕ができるとでも?
でも僕は、こんな機能不全家族と暮らすのは嫌だ。どうすればいいん・・・・・・

「いつまで寝てんのよ!さっさと起きて朝食食べて学校に行けッ!」
「おい善花(よしか)、朝からそんなに怒鳴らなくても・・・」
「あなたは口出ししないで!あたしのやり方に文句あンの!?」

・・・・・・・・・朝からこれかよ。
お父さんはもうあの女には強く出れず、おかげでお母さんは調子づいている。それでも、僕は予感していた・・・あの2人とは数日以内にお別れするのだろうな、と。そしてあのお兄さんが再び現れて、僕と一緒に引導を渡してくれるのだろうな、と。

溜め息を一つ吐いて、それでもお母さんが恐いから・・・暗い顔のまま、僕はリビングへと下りていった。

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