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J.A.シュンペーターコミュの『シュンペーター』(名和高司著:日経BP)を読んで

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経済学者といえば、まず名前が挙がってくるのがアダム・スミス、マルクス、ケインズあたりだろう。経済学者として名が通っている人は本当にたくさんいるので、上記の3人の次に挙がってくる人として、誰を挙げればいいか迷うところだ。だが、そんな中でも比較的上位に挙げるべき人として、シュンペーターの名前はほぼ欠かせないだろう。

私はシュンペーターの著作は全く読んだことは無く、シュンペーターに関する啓蒙書すら読んだことは無かった。だが、それだけに、シュンペーターの経済学思想はどういうものなのか、とても気になっていた。そんなときに手にしたものが本書である。本書のテーマは、シュンペーターが唱える「イノベーション」とはどういうものか、経済学の初学者でもなるべくイメージしやすく解説することにあるようだ。いくつか気になったポイントを挙げてみたい。

1.本書の第2章の中のドラッカーに言及している節で、ドラッカーがシュンペーターとケインズとを比較して、ケインズの経済政策が誤りであるとの評価を下していたことが紹介されている(P62〜64)。このあたりを読んで私が気になったのは、日銀の黒田総裁の金融緩和政策である。黒田さんの金融緩和政策は、ケインズの経済政策とかぶる部分はないのだろうか。そして、もしかぶる部分あるとすれば、どの程度かぶっているのだろうかということである。

もし、ドラッカーが言うように、ケインズの経済政策が誤りであるとすると、黒田さんの金融緩和策も、かなりの部分誤りを含んでしまう可能性がある。実際、今の日本で、黒田さんが推進する金融緩和策で、日本の経済が立ち直るどころか、円安がどんどん進み、賃金は上がらず、物価が上がってますます庶民の生活が苦境に陥っているようにも見える。このあたりは、「ケインズの経済政策の誤り」とは無関係と言い切れるのだろうか。私にとって経済学は専門外ではあるが、大変気になるところである。

2.第4章の中の節に、日本の労働市場をジョブ型にするだけだと、優秀な人材はどんどん会社を辞めてしまうだけだ、ということが書かれている(P163〜165)。あわせて、組織にとっては「インクルージョンの力」が大事だということが書かれている。この「インクルージョンの力」という言葉は気になるキーワードだ。というのは、日本人はおおむね、その集団にとって同調的でない人間を「イクスクルード」してきた民族だと思うのである。「イクスクルード」と「インクルード」とは正反対の行動である。もし、日本のイノベーションの発展に「インクルージョンの力」が欠かせないものだとすると、その正反対の「イクスクルージョンの力」を得意技とする日本人は、イノベーションの発展とは正反対の極に位置しているということにならないだろうか。

3.本書の第5章の中の一節で、イノベーションの推進のためには、社会実装力が勝敗を分ける重要なポイントであることが書かれている(P197~200)。そしてこの社会実装力の差が勝敗を分けた実際の企業間競争の例として、ソニーのベータマックス(ビデオレコーダー)と松下/ビクター陣営のVHSとの市場争いのことが挙げられている。ところが、具体的に松下/ビクター陣営がどのような社会実装力を発揮してソニー陣営を打ち負かしたのか、肝心なところが全く書かれていない。

私はソニー系列の企業に勤務していたことがある。そのとき、ソニー陣営はビデオレコーダーの市場競争でなぜ松下/ビクター陣営に敗れたのか、その敗因分析の話を伝え聞いたことがある。これは文献の裏付けのある話ではないのだが、松下/ビクター陣営は、VHSビデオレコーダーを普及させるにあたって、ポルノビデオの製作業界に多額の資金を供与し、VHS版のビデオソフトのタイトルを大量に製作させたらしいのである。すると、ポルノビデオのファンは、これを再生して鑑賞するには、とにかくVHSビデオレコーダーを購入しないことには話にならなくなる。このことが、VHSビデオレコーダーがベータマックスビデオレコーダーに圧勝した要因になったようだ。「社会実装力における競争」といっても、実際はけっこうえげつない側面を含んでいたりするのではないだろうか。

4.最後に、第6章にアントレプレナーと銀行家との役割分担について論じている節があるので、紹介しておこう(P214~215)。アントレプレナーが果たすべき役割のうち、重要なものは信用創造であるという。そして銀行家が果たすべき役割のうち重要な役割はリスクテイカーであるという。私は、日本人がビジネスを展開していくうえで、最大のネックになっているものが、リスクテイキングする気概の欠如ではないかと考えている。

以前、東洋経済がネット配信している記事の中に、現代の若者は失敗を極端に恐れるということが書かれているものがあった。その記事を読んでみると、記事の要旨は最近の若者は臆病で小心者になっているということではなく、日本人はそもそも失敗をおかした人間に対して冷淡な気質があるからということがあるようだ。

この記事には世界の国民の気質をさぐるためのあるアンケート調査のことが書かれていた。そのアンケート調査によると、「あなたはこれまで見知らぬ人を助けたことがあるか」という質問に対し、日本人の回答者の中で、「助けたことがある」という回答率は、125か国中125位(最下位)だったらしい。つまり、日本人は、世界でもっとも「見知らぬ人を助けない」国民なのである。今の若者は、そういう国民性をもった日本人の中で生きている。このため、「現代の若者は失敗を極端に恐れる」ことがあるとしても、これは「この国では、自分が失敗しても誰も助けてくれないから」という理由がありそうなのだ。このあたりをみても、日本人はイノベーションを起こすことに不向きな人間であると言えないだろうか。

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