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文芸の里コミュの少年の夢 未完 28

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 話は前後するが、実家の義兄から桃子に電話があった。
「春夫さん?」
 と桃子は身構えるようにして訊いた。というのは、堂田に言われていた分校の件について、電話しようと思いながらそれができずにためらっているうちに、春夫のほうから電話をしてきたので、ぎくりとしたのである。
「西里の山奥のトキエさんだけど、彼女がレンのおかみさんに頼んでいったというんだ。何かと言うと、桃ちゃんがS町の病院で看護師をしているとは、おかみさんに話したことがあるんだけれど、トキエさんがおかみさんに、堂田という人はどんな人かと、しきりに訊くらしいんだな。子供たちが堂田さんの見舞いに行ったときらしいよ。バスターミナルまで二人の娘についてきて、二人が戻るまで時間があるので、おかみさんの店に寄って時間をつぶしていたんだけど、話がその堂田さんのことになって、おかみさんも人命救助で助け出された43歳の独身男としか言えなかった。目立たないぱっとしない男ぐらいは応えたようだけど。おかみさんの店に一度として顔を見せたこともないし、情報量に乏しく『よくここに来るお客さんに、義理の妹がS町総合病院で看護師をしている人がいるので、今度来たとき訊いておいてあげるよ』と受け流していたが、あのトキエがこんなに身を入れて訊いてくるからには、何かもくろみがあるにちがいないと、睨みをきかせたらしいんだね。
 俺も農協の役員などしていて、結構顔も広いんだけど、堂田さんいついては、話を聴かないんだな。馬車でのったらのったら行くのが堂田という男の唯一のキャッチフーズさ。それでおかみさんも応えようがなくて、看護師にまで手を伸ばしてきたってわけさ。
 桃ちゃんの目で見て、どうよ。ものになりそうかよ。狙っているのは、銀座の名うてクラブでホステスもしている女だ。その病院で、目覚しい活躍でもしているかな。男ぶりを発揮して、看護師を振り回しているとか。親身に世話を焼く女が、よく見舞いに来るとかさ。子供の人気はあるようだが、子供じゃね。あくまでも一時的なものだ。今履いているズボンや靴が、一年後には履けなくなっているような、実にたわいなく、あやふやな少年時代だからなあ。幹太もリカも、俺が訊いても何も応えないんだ。そんなわけで、桃ちゃんに直接訊くんだけど、馬を手放して、車でも乗り回せば、少しは箔がつきそうかね。相手は何度も言うようだが、日本の中枢、東京銀座の高級クラブでホステスまでした美女だ。その美女が何を考えたか、故郷の山奥に引っ込んでしまって、どうなるものかと、みなが案じていたら、先方から伺いを立ててきた。堂田さんって、どんな人かとね。我々としても、村の発展のために、のろまで鈍な男でも、二人の子持ちの女を幸せにしてやれる男を探してやらねばならんのさ」
「お兄さん、今日の春夫さんって、少し変よ。お酒飲んでるんでしょう」
「いくらかはね。村会議員の面々と、梯子をしていたところさ。このまま帰ると、うちの**子のおかんむりに遭うのが怖いから、その前に桃ちゃんの声を聴いて、酔いを醒まそうと思ったのさ」
 と春夫は言った。
 堂田が屑のように扱われるのを聴くにつけ、桃子は堂田が気の毒になってきて、彼を故郷の村にとどめておくのが、可哀想に思えてきた。義理の妹でいまだ独身の桃子が、その病院で看護師として働いているのなら、堂田との間にいささかでも心通わせるものがあるのではないかと、期待なり疑いなりを抱いてもいいと思うのに、寸分もそんな気配はないのである。堂田がこれから何をやっても浮かばれないとき、堂田と桃子を親族の使用人として抱え込むくらいの度量を、この義理の兄には期待していたのであった。
「よし分かった。おかみさんには、こう言っておくさ。看護師の妹も、人命救助で助け出された男であるという以外、まったく知らなかった。存在感のない陰のような男だとね」
「知らなくはないわ、知ってるわよ。その村の中の誰よりもね。だから彼を誰にも渡さないわ、私、堂田と結婚するのよ」
 桃子は思いより先に、ことばが迸り出てきた。
「えっ? 桃ちゃん、何よ、今の言葉は。冗談だろう」
「冗談じゃない、本当よ」
 そう言って、桃子は電話を切ってしまった。その後で涙が出てきてならなかった。

  未完

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