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文芸の里コミュの少年の夢 未完7

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マリエの色褪せた衣服とは不釣り合いに、輝きを放っていた。そこだけ別な生き物がとりついて輝いている感じだった。幹太は、余計なことをしてしまったかなと、反省も沸いていた。しかし今更、取り上げるわけにもいかない。
「山下さん、あんたそのリボンどうしたのさ」
 休み時間に、女子生徒が寄って、そう訊いた。マリエは黙っている。幹太はマリエの口から自分の名前が飛び出すのではないかと、はらはらしていた。しかし、言わないだろうと楽観もしていた。それを言えば、何より幹太を傷つけることになると、マリエは知っていると思えたからだ。
「ねえ、山下さん、その頭のリボン、どうしたのさ。誰かに貰ったんでなければ、どこかから盗んできたの?」
 机にうつ伏せるようにしていたマリエは、大きく体を揺すって、それを否定した。
「貰ったのでも、盗んだのでもないんだったら、あんたそのリボンをどうしたのよ」
 追及をやめない女子生徒も、髪をリボンで留めていたが、今マリエの髪を飾っているリボンに比べると、格段にみすぼらしく、冴えなかった。それが癪で、追及しているようにも思えた。その点では、他の女子生徒も似たり寄ったりで、何かで髪を留めていたが、マリエに比べると、見劣りがした。そもそもこのリボンからして、高校生の姉も人前でするつもりはなく、彼女の美意識を証しする一品として、蒐集しただけだったかもしれないのである。
 次の日もマリエは、ピンクのリボンをつけて登校した。そのことで、マリエとリボンの話は、幹太のクラスを飛び出して、他のクラスへと波及していった。まるで高貴な高山蝶が深山を出て、街を飛び回って行くようなものだった。五年生と限らず、六年生や四年生にまで伝わっていったのだ。
 幹太はここで、困った事態に立ち至った。一学年下の四年生には、一つ違いの幹太の妹がいたからである。その妹の耳に入るのは、時間の問題である。
 妹がマリエのリボンを目にしたら、それが姉の蒐集のなかにあったリボンであると勘付き、やがて幹太の仕業であると発覚すると思った。
 ところが趨勢は、そんな悠長な経過を辿らず、もっと迅速に襲いかかって来た。
 次の日、つまり幹太がマリエにリボンを与えた三日後、マリエが幹太からリボンを貰ったと白状してしまったのである。彼女が甲虫をプレゼントしたとは言わなかった。純粋に幹太からのプレゼントにして、公けにしたのである。その顛末はこういうことだ。
 学校の帰り道、大柄で番長肌の六年生の女子生徒は、建物の陰に隠れて、マリエが来るのを待ち構えていた。この女子生徒はリボンの送り主が幹太であるらしいという、ある筋からのネタを手に入れていた。幹太が表彰され、彼が自分の推理は間違っていたからと、感謝状と記念品を返上し、警察署長がそれを否定して、縷々説明していく中で、実際に馬が後ろ足で立ち上がった証拠の写真もある、と語ったとき、居並ぶ全校生徒の中から一人だけ黄色い叫び声とともに手を挙げたものがいた。それがマリエであると周囲にいた生徒は知っていたが、なぜマリエだけが過激な行動に出たのか分らず、謎のままだったが、今回のリボンの一件で俄然火が点いたのである。どうやら幹太はマリエの意中の人らしいということになり、幹太は高い壇上からそれを見ていて、リボンを贈った。そういう目星をつけて、この女子生徒はマリエを待ち構えていたのである。当然一人ではなく、いつも行動を共にしている三人の仲間がいた。そしてこの一行こそ、幹太に馬の写真を見せよと迫ったメンバーだったのである。
「山下マリエ、あんたが白状せんでも、わし等は証拠を握ってるんだ。幹太の表彰式のとき、独りだけ叫んで手え挙げたのはお前だろう。それを幹太は壇上から見ていて、あんたにリボンを贈ったんだ」
 マリエはその時は無我夢中でやったことで、手を挙げて叫んだのが、自分ひとりであったとは知らなかった。またそこから幹太が浮上してくるなど、世の中の暗部の暗部を突き付けられたようで、不安になった。それなら余計、強く否定しなければならないと思い、大きく激しく首を振った。それだけではリボンをもぎ取られる気がしたので、両手でリボンを庇うようにして頭を抑え込んだ。
「あんたが言わないんなら、わし等にも考えがあるんだ。明日、あんたの担任に教えてやる。山下マリエが目立つ派手なリボンをつけて、学校に来ているってね。そしたらそのリボンは没収されて、学校の金庫に保管されることになるさ。山下マリエが小学校を卒業するまでね。それで済めばいいけど、こんな不良少女か、キャバレーの女がつけるみたいな飾り物をしていたって、警察沙汰になるかもしれん」
 警察と聞いて、マリエの全身に震えがきた。幹太は人命救助という善行で表彰されたというのに、その同じ警察に不良少女として扱われるなど、あっていいはずはなかった。
 脅しが効き過ぎたのか、マリエの苦悩が相当なものであると見て取って、六年の女子生徒は急に寛大な口調になって言った。
「あんたが、白状しさえすれば、わしらもそんなあこぎなことはしないよ。あんたを警察に渡すなんてさ。だから白状しな。わしらは、謎をかぶったままっていうのが、一番気に食わんのさ。朝礼で一人だけ手を挙げるとか、一人だけ派手なリボンをつけているとかさ。そのリボンを抜かせば、あんたの格好なんて、質素っていうの? 目立たないことでは、全校で一番くらいだもんね」
 これに仲間の女生徒が相槌を打ち、こぞってマリエに詰め寄って来た。
 マリエはリボンを取られる不安に駆られ、リボンと頭を押さえたまま、壁に体を擦りつつ沈めて行った。
「幹太だろう、あんたにそのリボンをプレゼントしたのは」
 念を押すように女子生徒が言うと、他の三人も加勢して何か言いながらマリエを取り囲んで立った。
 マリエは吾身というより、リボンを守る道はほかにないと観念して、頷いていた。
「やっぱり樋口幹太なんだ。あんたにそのリボンをプレゼントしたのは。わしらは聞いたからって、幹太をどうこうするなんてしないさ。あいつには警察署長までついてるから、いっさい手出しなんてできないのさ」
 四人はマリエが頷くのを見届けて、さっと日が陰るように立ち去っていた。彼女たちは自分たちの立てた手柄の大きさに躍り上がって、そのまま下校する気になれず、ひとまず学校に戻った。教室には掃除当番に当たっている数人が残っているだけだった。
「分ったよ。山下マリエにリボンプレゼントした奴」
 とボスの女生徒は言った。家来のようについている三人のうちの一人が、そうだ、そうだと同調した。ほかの二人も、証人のように傍らに立っていた。
「あの樋口幹太よ、警察に表彰された。山下マリエにリボンをプレゼントしたのは、五年B組の、スケベ男の樋口幹太だとさ。二人は結婚の約束してるよ」
 と番長の女生徒がまくし立てた。三人の付き人が大きく頷いた。
「うへぇ!」
 と掃除当番の一人の男子生徒が叫んだ。
「結婚の約束までしたんよ」
 従っている三人のうちでは、一番寡黙な女子生徒が掉尾を飾った。誇張して真相を告げるものも、聴くものも、お互いに置いていかれた者の不幸を噛みしめていた。先を越された惨めさに打ちひしがれ、押し潰されそうになっていた。

 幹太はその頃、屋外運動場で野球部の練習にいそしんでいた。頭の片隅にはマリエのリボンがちらついていたが、練習に打ち込むことで、煩わしさを忘れようとしていた。S町での地区大会は、十日後に迫っていた。

未完

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