司書の内木元介は、捨て猫の縁で、女子高生のエリコと話をするやうになつた。そして一册の詩集を渡したことから、エリコは彼の歸る時間を待ち構へて、父親のものをパクッタといつてネクタイをプレゼントした。 内木は電車に乘つてから、彼女に渡されたレジ袋を開いて、上から覗いて見る。ざつと見たところ、ネクタイは五本ある。二本にはまだ商標がついて、新品だ。maid in Italyと maid in France と讀める。傍らに小さな角封筒がしのばせてある。ぴんと耳を立てたかはいい兎の素描の封筒。いかにも少女つぽい。中の文章を讀まうにも、電車の中ではどうも氣がひける。 電車を降り、よく利用してゐるレストラン・憩に入ると、食事をしながら封筒を開いてみた。便箋にも素描の透かしが入つてゐて、これも兎かなと思つたら、耳が短いので猫のやうだ。子蟹が這つてゐるやうな、扁平な字だ。一字一字が、どちらに跳び出さうかと、身を低く構へてゐる。そんな小さな字が、便箋を埋めてゐる。