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モンハン小説書いてみない?コミュの小説:永久の護り人

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こちらで初めてですが、小説を載せたいと思います。

モンスターとハンターが会話したり仲間として一緒にいたり。
モンスター同士で会話したり、オリジナル設定が出ていたりと節操ないです。

更新は山あり谷ありになりますが、ご了承をば…。

コメント(92)

永久の護り人第八話:炎王龍テオ・テスカトル〜パート1






四人が戦闘区街で戦闘を開始してから30分が経過――――





「おい――あいつら、あんなに長く持ってるなんて信じられねぇぜ」



街を囲う外壁――物見にちょうどよい位置から、多くのガーディアンやハンターが固唾を飲んで見ていた。

大半はテオ・テスカトルに挑んで幸運にも軽傷で済んだ者や、予約外れだった者達ばかりである。

手にある双眼鏡を覗きこみながら、ハンターの一人が隣のガーディアンと話していた。



「人間三人にアイルーのハンター。こりゃ面白い組み合わせだな」

「しかし、あのテオ・テスカトル――並の相手じゃないぞ。俺達でさえ5分も持たなかったってのに」



ハンターが言いながら双眼鏡を見つめ続けると、ちょうどリムがテオ・テスカトルの翼を斬ろうと弾かれるところだった。

「あのお嬢ちゃんいい太刀筋してるが、弾かれてるのはちょいと仕様がないか?」

『無理もあるまい。

奴の甲殻は人並みの力で傷つけようものなら、骨が折れるほどだからな――』

「おわっ!?」



後ろから来た大柄な鎧の男にハンターがぎょっとした。

いつのまに、という顔で見上げる。

エルダートはそれに構わず続けた。

『奴に致命傷らしい致命傷を負わせられるのはもっと骨が折れる仕事だ。

撃龍槍でもな』

「あんた―――ハンターか?」

『いや。



だが、あの四人に何かあれば助太刀をしてやらねばならんかもしれん』









「くっ!」

火の粉による爆発を避け、リムはふっと眼に入る太刀の刃こぼれに気づいた。

ノビンが旋律を吹きつつ、ほんの少しの傷でも回復してくれるよう計らっている。

そこへ響く角笛。



「リム!

今のうちに砥石を使うんだ」

角笛を吹いたケアンの元へ走るテオ・テスカトル。

そこへキャシーが射撃する。





(―――強い!)

欠けた刃に砥石を当てながら、リムは流れ落ちる汗をぬぐった。

かすかに焦げているフルフルの皮膚に目をやった。

とてもではないがあの炎の噴出は凄まじく、近くに長くはいられない。

炎は体力を削っていき、じわじわと蝕んでいた。



「お前ら死ぬんじゃないニャ!」

ノビンは言いながらアイルーの身軽さを以てテオ・テスカトルの突進をかわす。

四人の結束は、四人それぞれを炎の古龍の強撃から守っていた。

リムが古龍との戦いを一度とはいえ経験していたことも大きい。



「キャシー!

今のうちにバリスタを使って!!」

「わかった!」

わかった!」



後ろを向けたテオ・テスカトルをちらと見、キャシーがすぐさまヘビィボウガンの重い銃身を畳む。
そして走り出した。
その間、リムとノビン、ケアンは、テオ・テスカトルが妨害に出る前に、その妨害の阻止のため前へ出る。
一気に攻撃のため、リムとノビンが走って行った。



「この野郎ニャ!」

カァンッ!

ノビンのクイーンビードロー改が高熱の甲殻へ叩きつけられる。
しかし、軽くはじかれるのを見てノビンは舌打ちしていた。
テオ・テスカトルの角へ通常弾が撃ち込まれ、空の薬莢がはじけ落ちる。


「やぁぁあ!!」

リムの持つ太刀が紅いオーラをまとい、激しい斬撃を見舞う。

それと同時に、赤黒い気のようなものが太刀から迸り、テオ・テスカトルが見るに不快な表情をした。
それも当然で、この赤黒い気のようなものは、古龍に有効とされる龍属性という謎の属性の力だから。



(――――こいつら何なんだ?)

攻撃を受けながらベオグは内心首を傾げていた。
今まで相手にしたハンターとそう変わらない装備、面子である。
しかし、何かが違う。
そう、歴戦の古龍としての勘が言っていた。

(あのハンターの持っている武器、何なんだ?あれに似た形をしたのなら(斬破刀)目にしたことがあるがあれとは違ぇ代物だな)

その太刀も自らに傷らしい傷を負わすには至らないものの、明らかに普通のハンターが抱えるような武器とは異質のものとベオグは悟っている。

(こりゃ、アイザにいい土産話ができるかもな。
――もっとも、ちっとばかり本気になった俺の攻撃に耐えられりゃの話だが)


ボオッ


「何!?」

テオ・テスカトルの甲殻と甲殻の隙間からわき出す炎。
それを見たキャシーが困惑の色を浮かべた。
バリスタを撃つために設置場所のある城門を登っていた彼女の目には、テオ・テスカトルの全身が炎に包まれているように見えた。


ひゅうっ

ガブラスが数匹襲いかかってくる。
それを散弾で撃ち落とすと、キャシーはバリスタの発射台へ急いだ。

弾数は6発。

ボウガンの弾より数倍もの大きさを持つこの弾は、よく鍛えた鋼を貫通する威力を持っている。
巨大生物の襲撃や古龍撃退のために開発された兵器で、その威力の前に飛竜はまず無傷ではいられない。


「何!?」
「様子が違ってきたニャ!」

近接戦を挑んでいたリムとノビンが、勢いの強くなった炎の鎧を前に後ずさる。
テオ・テスカトルの爪が振りあげられた。


ガッ!
ジュ――ッ


慌てて爪をかわした二人の目には、爪から噴き出す灼熱の炎によって芝が溶けるように焦げるのが見えた。
それだけではない。
その四肢は紅い炎をまとい、接触する地面が異様な臭いと共にぶすぶすと蒸気を放っている。
炎の鎧も、時折金色から紅蓮へ、紅蓮から金色へと色を転々と変化させ、遠くから見れば美しい様であるが――――


「おい―――なんだありゃ!?」

ハンターが双眼鏡から目を放し、ぱしぱし瞬いている。
信じられない、といった面持ちだ。

「テオ・テスカトルが火だるまに!?」
「どうなってるんだ!?」
『―――奴め』



騒然する中、エルダートは一人苦渋の様を持って呟いていた。



『ベオグ―――紅炎のベオグ―――ついに、本気を出したか!』



ビヒュッ!



空気を引き裂く音と共にキャシーがバリスタを発射した。
バリスタは攻撃目標めがけ、確かに飛んで行った。が――


「えっ!?」

キャシーはバリスタの弾が届くギリギリの距離で、テオ・テスカトルが身を素早く翻したのを見た。
その僅かな間の行動で、バリスタは攻撃目標を失い、地面に突き刺さる。
しかしすぐに気を取り直し、発射台に弾を装填する。
若干装填に手間がかかるのが問題だが、今はそれを考えている暇などない。
それに対するテオ・テスカトルの反応は、またしても速く加速する。



「うわっ!?」

バリスタの弾をバックステップでかわすテオ・テスカトル。
その後方から弾を撃っていたケアンだったが、テオ・テスカトルの尻が迫ってくる。
かわそうとする反応よりも、炎龍の巨大な体躯にのしかかられ、仰向けに倒れこんだ。



「ケアン!!」

リムが助けようと駆け寄るが、炎がそれを拒む。

もはやリムもノビンも、テオ・テスカトルから2m以上先へ近づくことを許されていなかった。
テオ・テスカトルの全身を覆う細やかな炎の煌めきが、周囲の芝を焼き、一瞬にして小さな火の海を作り出しているのだ。
また、テオ・テスカトルの身体そのものも激しい炎に包まれ、近寄る物全てを拒んでいるようでもある。

「なんて炎ニャ!?こんな炎――見たことないニャ!」

舞う火の粉に毛並みを焼かれ、ノビンが後ずさる。
再びバリスタが放たれた時、テオ・テスカトルがサイドステップで離れる―――



「ケアン!!」

ずどっ

絹を裂くようなキャシーの悲鳴。

顔面蒼白、バリスタの発射台から身を乗り出す彼女の眼には、弟の無残な姿が見えた。
ガレオスの鮮やかなブルーに彩られている軽鎧は見る影もなく真っ黒に焦げていた。
が、幸いなことに、バリスタの弾はそのすぐ脇に突き刺さっている。
危ういところで外したようだが、それでも弟が心配だ。


すぐに彼女はポーチからあるものを出す。
それは、回復薬を詰めた薬莢――回復弾だ。
ヘビィボウガン使いで回復弾を持っていくことは滅多にないが、万が一と持ってきておいてよかった。
自らのラピッドキャストの弾倉に回復弾を込め、なるべく弾が届く位置に身を乗り出す。
照準スコープを覗き込み、倒れたまま動かないケアンに照準を当てる。


(待ってて、今―――)

ひゅうっ

「――!?」

不意に背後から現れた影にキャシーが気づき、スコープから目を離す。
振り向くまでもない。
頭上まではばたいてきたガブラスが襲いかかるや体当たりを加えてきた。



「ああっ!!」

身を乗り出したのがまずかった。
体当たりを避ける間もなく、キャシーがバリスタの発射台から転落した。



「キャシー!!」

走っていくテオ・テスカトルにリムが顔を青ざめた。

激しい炎を身にまとったテオ・テスカトルは、まるで地獄の火をまとう亡者のようか、さしずめ隕石のような様で突進していく。
その進行方向にいるのは、ヘビィボウガンの銃身を支えに立ち上がろうとするキャシー――――間に合わない!



ガッ

「!!」
「キャシー!」



止める者のない燃える炎龍の突撃は、その衝撃に任せてキャシーを高く突き飛ばしていた。
―――7m先まで高く放り上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。



「―――こいつ―――こいつ!!」

怒りに目を潤ませ、太刀を構えてリムが走った。
ノビンの制しようとする声が聞こえたが、彼女の怒りがそれを遮る。
しかし、それが命取りだった。


くるり、と向きを変えるテオ・テスカトル。
その口にはすでに溢れんばかりの炎。

リムとの距離は20mを優に離れているので、まずここまで離れていれば攻撃など当たらない。
そういう考えすらも打ち砕くかのように、炎龍は振り向きざま激しい炎を顎から解き放った。

「!!」

20mという距離を超え、伸びていく火炎はリムを覆い尽くした。


「うわああああああっ!!」
「リム!」

炎を直撃され、転がっていくリムを、ノビンは呆然と見ていた。
信じたくない。

もはや、無事に立っているのは彼しかいないことを。





その頃――――



「あなたお一人で!?」



戦闘区の前で、ガーディアン達の声が一斉にハモった。
他のハンター達も、一人ガーディアン達の前に立ち、交渉を始めた相手を見てひそかにざわめいている。
180cmもの長身とそれを包む鋼の質感を持った甲冑。
エルダートはガーディアン達がわずかにたじろぐ様子を見ながら、静かに聞いた。


『必ず数を組んでいかなければならんと言うのか?』
「いえ!ですが、あのテオ・テスカトルを一人で挑むのは危険です!」
『一刻の猶予もないのだ。あれを今のうちに抑えなくては、じきに被害者が出るぞ。確実にな』

困惑するガーディアン達にエルダートがすかさず詰め寄る。
その時、ざわめくハンター達の後方から、涼しげな声がかかった。

「どうしたのです?」
「おお、ライツェルト殿!」



エルダートが振り返ると、ハンター達が退いていく中を一人の青年が歩いてくる。
赤の羽根帽子に赤のベスト、その下に白のスーツと黒のタイツといういでたちをしていた。
ハンターズギルド専属ハンターの中でも優秀なハンターのみが負うことのできる『ギルドナイト』の専用装備である。
その腰には、これもギルドナイトのために作られた細身のレイピア二振り―――リムが時折使っていたオーダーレイピアの格上に当たる双剣・ギルドナイトセーバーが差されていた。


「何事ですか?」
「実は、この男が―――」

ガーディアン達が事情を話すと、ギルドナイトの青年はエルダートの方を向いた。
束ねられている背中まで届く長い銀の髪と切れ長の淡い青の瞳、整った顔立ちが青年の生まれを表しているようだ。

「私はギルドナイツ、双剣のライツェルトと申します。お見知りおきを」

流麗な仕草で会釈をした後、ギルドナイトの青年は静かに聞いた。


「つかぬ事をお聞きしますが、貴方はハンターでいらっしゃる?」
『いや。登録をすると決めているのだが、今俺の知人であるハンター四人があの中にいるのだ』
「なんと、これは――。お話の件ですが、未登録のハンターの参加を認めないわけにはいきませんが、すでに前のメンバーが先入している間…それも、ハンターでなき者はご遠慮頂いています」
『そのハンター四人が今、本気になった奴の攻撃にさらされ、瀕死の目に遭っている。これ以上四人を戦わせることは四人の命を失うことになるぞ。―――奴を、他の炎王龍と同じと見れば、いくらギルドでも本気になった奴を止められまい。俺は、奴を知っているのだ』

エルダートはライツェルトの冷静な様子を見つめながら続けた。


『奴は“紅炎のベオグ”。炎龍の一族の中でも指折りの戦闘能力を持った者だ。奴が本気を出した時、奴の周囲が火の海に没する―――それが奴の力の一端にしかすぎんのだ。決して誇張ではない、本当のことだ。これ以上放っておけば、奴は止められんぞ』
「本気でそう仰るのですか?」
『ああ』

うなずくエルダートにライツェルトは少し思案しながら聞くことにした。

「あなたは、それで参加したいと仰るのですね?」
『正確に言えば奴から四人を救出したいのだ。奴は四人を相手に本気を出している。だが、俺なら、奴の攻撃を四人から逸らすことが、できる』
「なら―――いいでしょう。ハンターの救出は私と後数名で引き受けます」
「ライツェルト殿!?」

ガーディアン達が驚きの声をあげる。
腕を上げて彼らを制してから、ライツェルトは静かにこう告げた。

「あなたがそこまで仰るのなら、私が責任者として特別に許可します。その代わり、後日大老殿へ来ていただくことになりますよ。こんなこと、例外ですからね」
『俺の優先すべきことはあの四人を死なせんようにすることだ。そうでなければ困る事情が山ほどあるのでな』
「よろしいでしょう」

ライツェルトは軽くうなずき、ガーディアン達に戦闘街への入り口を開けるよう指示を下した。






――――――一方







「くっ!」

毛を高熱の炎に焼かれ、ノビンは呻いた。
今やまともに立っているのは彼しかいない。
それをわかってか、テオ・テスカトルは小さなアイルーにも容赦なく攻撃を続けていた。
巨大だが俊敏な四つ足の古龍の攻撃に、旋律を吹かせてくれる暇さえない。


「くそおぅ!」

クイーンビードロー改を振り回すものの、先程よりも硬度が高まった甲殻に弾かれ、切れ味が落ちた武器が通用するはずもなかった。
テオ・テスカトルの前脚が炎をまとってノビンに迫る。
かろうじてかわすが、ノビンの体力も限界に近付いていた。


元々アイルーの多くがハンターに憧れながら、ハンターになった者が少ないのには理由がある。

人間と比べても小さな身体ゆえに撃たれ弱く、非力なものがほとんどであること。
そして、極めて体格の大きなもの―――ラオシャンロンやヤマツカミといった巨大な体躯を持つモンスター―――に対して無力に感じるものが多いこと、など。
長い間アイルーの一族からハンターが輩出されることがなかったのは、こうした大型モンスターを相手にした戦いにおいて不安要素が多すぎたためだったのだろう。
だからこそ、近年ギルドによって、オトモアイルーというハンター見習いの制度がアイルー達のために生まれた所以なのかもしれない。

「うにゃっ!」

それが今、孤立した状態に立たされたノビンを、さらに追い詰めていた。

「こんな時に―――どうしたらいいんニャ!?」

地面を転がり、逃げるノビンにテオ・テスカトルは一瞬で追いついた。
小さな獲物を捕えるネコのように、飛び掛るや前脚両方で押さえつける。



「う”ぎゃっ!」

背骨にのしかかる凄まじい圧力。
それを必死にこらえるノビンに、テオ・テスカトルは余裕を見せていた。
その口元がにやり、としたように見えて、ノビンは背中の毛を激しく逆立てる。

―――殺される!
炎の龍が再び振り上げる爪に、ノビンは堅く目をつぶった。


フラッシュバック。


砕けたどんぐりメイルの兜。

途中から切断されて転がる、美しい水晶を多く付けた毒々しい黒い尾。
砂漠の寒空の下、白砂の上に横たわった―――白いアイルー。
それを抱え泣き叫ぶ満身創痍のハンターと、彼と共に泣く自分。



(わりぃ―――ポミ。こんな形でお前の後追うことになるなんて―――許せ、ニャ)

本気で死を覚悟した心の中の呟き。
半ば諦め、そこへ爪が振り下ろされた時だった。





『ベオグ!ディ・セ・ケリヤ!!』



ガキィン!!



「――― !?」


声と何か鋭い物同士が激しくぶつかる音に、ノビンが思わず目を開いた。
目の前をふさぐ大きな背中。


「え、エルダート!?」

テオ・テスカトルとノビンの間を割って、エルダートはその爪を受け止めていた。
受け止めるために使われているそれは、一本足の鳥を模した鋼の質感を持つ大剣だった。
テオ・テスカトルの爪から噴き出す熱と、大剣が帯びた冷気とがぶつかり合い、蒸気を大量に立ち昇らせている。


『ベオグ、エラン・ダ・ギルヴ・セィ。イェリャ・シクファ!!』

聞きなれぬ言語で叫びながら、エルダートはテオ・テスカトルを押し返した。

「エルダート!アンタ、なんでここにいるのニャ!?」
『ギルドに無理を言わせてもらったのだ。お前はすぐにここを離れろ。ギルドナイツが救出に来ている!』

エルダートが答えた時、テオ・テスカトルの恐ろしい顎から声が迸り出た。

『ガ・ドゥ・ケッサ、エルダット?』
「しゃ、しゃべった!?」

呆然とするノビンをエルダートがけしかける。

『言葉を話せるのは俺だけではないのでな。早く行け!!』
「わ、わかったニャ!」


ノビンが離れると、エルダートは再び旧き言葉を放ちながら、大剣を持ち直した。

『イェ―――サ・クシュオ・フェ?』(さあ、どういう風の吹き回しだ?)


『それを聞きてぇのはこっちだぜ坊主』



言いながらベオグは再び爪を振り上げた。

『本気を出すことはなかろう!俺もリムの持っている、あの武器で我が身を傷つけられたことがあるからわかる。
だが、あいつは炎龍の一族と渡り合う程の相手ではない!』


大剣の刀身を軽く翻し、炎を纏う爪を払いのける。
炎王龍テオ・テスカトルの長の爪は非常に強靭で、ハンターの鎧はおろか、歳を経て鋼以上に硬質化したクシャルダオラの甲殻に大きな傷跡をつけることもたやすい。
それに対し、いかにエルダートといえども警戒しなければいけない。


『なに、あいつらのようなハンターが珍しかったんだ。アイザも暇だから、その分の暇潰しに土産話にはなるんだろうなと考えたまでだ』
『それはいいが、殺しかけるところまでいくな。奴らには死なれては困る理由がある』
『珍しいじゃねえか』

ベオグが神妙にエルダートを見返した。

『人間に最も近いが深入りしねぇ鋼龍の一族、ましてやその長であるお前がよ、坊主』
『―――』



ずんっ



ベオグは軽い身のこなしで後ろへ飛びのき、全身に纏った炎を鎮めた。

『話を聞きたければ、そろそろやめにしておいたらどうだ?存分に暴れたと思うのだが』
『あいよ、それもそうだな』

エルダートが大剣を背に背負い直すと、ベオグはちらりとギルドナイト達の姿を横目で認める。

『でだ、坊主。
おめえさん、こんなとこで何やってんのか知らねぇが――ここで話しあうんじゃ場が悪すぎんな。夜中に外へ来いや。待ってるからな』
『ああ』
『んじゃ、後でな。俺が飛んでいく方向を追って行けよ』



バサァッ



「!」
「テオ・テスカトルが逃げるぞ!」


リム達を救出しに来たライツェルト始め三人のギルドナイツ達は、空へと舞い上がる炎王龍を見上げた。

一人はライトボウガン・テイルカタパルトを背負った小柄な少年。
一人はハンマー・ウォーメイスを背負った巨漢。
一人は太刀・斬破刀を負った赤髪の怜悧な美女だった。
全員に共通しているのは、鮮やかな赤に包まれたギルドナイト専用のベストとスーツ、帽子を付けていることだ。





「一体あの男は何者なんでしょう、ライツェルトさん」

少年が言いながら、リムを支え起こす。

「それには後で大長老の元へ呼んで、事情と身柄を伺うのですよ、トムソン」

ライツェルトも言いながら、ケアンの容態を見、ガレオス装備の破損した部分をはがしだす。
火傷を負っている箇所で金属に触れている部分はそのままに、布の部分を慎重に取り除いている。

「あの大剣――確か、クシャルダオラの素材から造る“鋼氷大剣”に違いないわ。でも、冷気の放出具合が桁外れに違う。もっと上質な素材を必要として造られたものかもしれないけれど」

赤髪の美女も言いながら、テオ・テスカトルを見送ったまま立つ男の大剣に目を注いでいる。

「フリーのハンターかもしれないぜ、なあ」

キャシーに肩を貸し、片方の肩にラピッドキャストを下げて巨漢が口を開く。
それに対して、ケアンの火傷への対処を終えたライツェルトが軽く首を横に振った。

「あの男はハンターではないと、自らそう仰っています。
それは真実と受け止められるでしょう。それでも、あの男はまぎれもなく、只者ではないということもまた事実」
「わからないわよ?モグリかもしれないわ」
「あの腕前でモグリはないと思います」

トムソンが美女の言葉にかぶりを振った。

「何人ものハンターがやられたテオ・テスカトルをたった数分で追い返したんですよ。
モグリでも、ああはならないんじゃないでしょうか?雰囲気にしても考えにくいものです」
「モグリか云々かはともかく、後で連れだっていうハンターにも代表一人には来てもらうことにしてもらおうか」
「あら、いいわね。その価値はあると思うわ。ねぇ?そこの可愛いアイルーちゃん」
『ニャんだって?』
「ああ、悪ぃな』

ハンマーの巨漢がきょとんとするノビンに苦笑した。

「キリィの奴は武器マニアでな、ギルドで確認された武器だけじゃなく、最新の武器の情報にも精通してんだ。そんな顔であっけらかんとされるのも、無理ねぇわな。キリィはあの太刀を調べたいんだよ」

心配すんな、と笑いながらノビンを背負い、クイーンビードロー改を腰にくくりつける辺りこの男も只者ではないとノビンは思う。

「どうかしら、ライツェルト。
あの太刀のことも聞いてみたいから、代表として、あの子でも」
「ふむ」

ライツェルトはリムを一瞥してから、ケアンに肩を貸しつつ答えた。



「少し、考えておきましょう」



永久の護り人第九話:炎王龍テオ・テスカトル〜パート中




テオ・テスカトルの撃退成功がドンドルマの街中に響き渡った後のこと。

ノビンを除いて重傷を負っていたリム達は、すぐにドンドルマでも名のある医師の所へ搬送された。
幸いいずれも命に別条はなく、全治5〜6日の見通しが立てられた。

それまでの間、エルダートと往診だけで済んだノビンは、ケアンやキャシーの家族の家ではなくハンター達がよく使うハウスの中で待つことになった。
ここではギルドによって定められたランクを持つハンターなら誰もが利用することが可能で、エルダートも先程ノビンに連れられハンター登録を済ませてきたところだ。
ランクが高ければ高いハンターほど、提供される部屋は豪勢なものになる。
そのため、まだランクが低い駆け出しのハンターが住むハウスは、極めて質素で場所によっては生活臭がかなり染みついているのだった。



「エルダート、大老殿から手紙が来てるニャ」

日が暮れるのを待っているエルダートのそばへ、ノビンがとことこやってきた。
振り返ってみると、厚手の紙で作られギルドの紋章の刻印が為された封蝋が施された封筒があった。
受け取り、エルダートはノビンに聞いた。


『リム達の様子はどうだ?』
「今は皆寝てるニャ。あのテオ・テスカトル――強すぎだニャ。あんたもあれぐらい強いのニャ?」
『いや。ベオグの強さは炎龍の中でも群を抜く。俺より四百年の年の甲もあることだしな。――――』



封を解き、中の文書を取り出す。
それにノビンは驚いたふうに聞いた。


「アンタ、字読めるのニャ?」
『まあな。
これでも、人間の文字は知識に蓄えてある』
「えらいこっちゃ。―なんて、書いてあるのニャ?」
『ギルドをまとめる大長老が俺とリムに用らしい。リムの傷が完治次第、ギルドナイトを通じて報告し、謁見に来るようにとな』
「――本気でえらいことになったニャ」



ノビンは首を振りながら、ギルドの紋章――おそらくクシャルダオラなのだろう龍を刻印したその封蝋を眺めながら続けた。


「大長老といえば、ドンドルマが建立された時からここを護ってる一族の子孫ニャ。あの老山龍も一太刀で両断したって―――ウソかホントかわからニャいけど」
『その話は事実だそうだ。大長老から聞かされたことがある。それ以来、少々興味は持っていたぞ』
「大長老から直接聞いたってのか!?凄いクシャルダオラなんだニャ、アンタ」
『いや、俺が言ったのは旧き者の長のまとめ役である“大長老”だ』


エルダートは答えながらノビンに手紙を押し返した。


『ノビン、夕暮れが近づいてきたから俺は外へ行く。その間のことは頼んだぞ』
「いいけど――夜の番はいるし、ギルドナイツも密偵で動いてたりしてるニャ」
『そういえば――そうだな。ギルドナイツは――何か良い案はあるか、ノビン?』


エルダートの問いにノビンは腕を組んだ。


「う―――ん、難しいニャア。
密偵のギルドナイツは普通とは違う別の姿で見回るから、区別がつきにくいんニャ。
そういう風に訓練されてるって言うしニャ。
ちょっとばかり、ドンドルマから外への抜け道知ってるヤツ捕まえて聞いてみるニャ」
『わかった。お前の情報収集能力に期待しよう』
「ええいっ、オイラはトレジャーハンターとしての、お宝情報を集めるためこの頭は磨いてきたんニャ!期待しろよニャ!」










その一時間後。

日も沈みかけ、夕暮れの暗いオレンジ色の空がドンドルマとその周辺を覆い始めた頃だった。


ドンドルマの近郊にある森の中で、ベオグは退屈を持て余し寝転がっていた。
ついついあくびが出てしまい、四肢がもたつく。



『ふ、ああ――坊主の奴いつまで待たせるんだ?』



うそぶきながらベオグは周囲を見回した。

先程空を古龍観測所が通り過ぎたばかりだ。
だから見つかる危険はなくなったとは言い難いものの、肝心の待ち人ならぬ待ち龍が来ないのはいかがなものか。
なにより、闇と緑を抱き潤い豊かなこの地域はベオグにはあまり馴染めないものだった。

おまけに大好物の燃石炭はここにはない。

あるとしてもドンドルマの中だろうから、取りにもう一度行って騒ぎを起こすのも面白くはない。


『エルダートの奴何やってんだ?もうとっくに街は出てるんだろうな?何時間も待たされるちゃ、たまんないや』



そんなことを呟きながら、ベオグはすぐ足元にあった石ころを転がした。
が、それもほんの数秒しか慰めにならないとすぐにわかるや、遠くへ弾き飛ばす。

炎龍の一族は短気でせっかちな者が多いが、ベオグも例外ではない。
ついに待ちくたびれたと腰を上げた時、ふわりと風が紅いたてがみをなでた。



『ベオグ』


木の枝を踏み砕き、一頭のクシャルダオラが姿を現すと、ベオグは拗ねた様子で不満を述べた。


『遅いぞ坊主!』
『済まんな。あの街にはここを抜け出すには厄介な種の人間がいる。
そのおかげでだいぶ時間を食ってしまったんだ』


まるで地団太を踏む子どものようになったベオグにエルダートは苦笑した。
一方、待ちくたびれたと体を起こしかけたベオグは、腰を再度落ち着けて切りだした。


『んで本題だ、坊主。―――一体あんなとこで何やってんだ?
なんでハンターと一緒に行動してるのかわからんが、あまり領地から離れすぎるとおめぇ、力を失うぞ』
『それは知っている。実はだ――』



エルダートはワイルドホーンに話したことと同じことをベオグにも聞かせた。
ちょうど話し終えた辺りから、彼の首にぶら下がっていたポーチが、ごそごそと動き出した。





『おささま、なんだかあついよう』
『お?そのガキがそうか?』

エルダートがポーチを口で開けると、中からJrがひょっこりと顔を出してきた。
長い時間の間、ポーチの中にいたのは窮屈で、退屈だったのだろう。


『クシャルダオラの子どもってのは、こんなもんか。
おい、ちょちょっ』
『!?』

目の前の巨大な獅子面を前に、Jrはすぐエルダートにしがみついた。

『おささま、このおじちゃんこわい!』
『ちょ、こら!?それはないだろ!?』


明らかにショックを受けた様子のベオグに、エルダートは思わず茶々を入れた。


『子どもに泣かれるとは面目ないぞベオグ』
『よ、余計なお世話だ坊主!
――で、ちょっと教えてもらいたいんだが、いいかな?』
『―――』

まだベオグの顔つきに怯えているJrだったが、エルダートに促され、おそるおそるベオグに視線を向けた。
紅のタテガミをかき分け、ボリボリ爪で掻きながらベオグが聞く。

『お前の長様の言ってることは全部本当か?』
『―――』



こっくり

小さく、うなずいて返事が返ってきた。

『で、母ちゃんとかのことはわからんのか』

ベオグの言葉に、Jrは短い前脚で頭を抱えた。
ややあって、こう答えだす。


『おぼえてるの――おっきいなにか』
『おっきい何か?どんな奴だ?』
『わかんない。でも、ひりゅう、みたいだった。すごくおおきくて、いろんなものがからだについてて。それがおかあちゃんにぶつかってきた、の』


途切れ途切れに話すJr。
それを聞いたエルダートとベオグは顔を見合わせた。



『どこにいたのか、覚えているのか?』

エルダートの問いに、答えはすぐ帰ってきた。

『おそらのうえ。くもがいっぱい、したにあるの』
『――飛竜といったが、何だかわかるかベオグ?』

エルダートが顔を上げると、ベオグはすぐに頭を横に振った。

『わからねえな。飛竜の連中で俺達に襲いかかってくることなんて、そうそうねえからよ。
何より、そんな飛竜、見たことも聞いたこともねえぞ』


―――旧き者が姿を現す時、大抵のモンスターは彼らを恐れて近寄らない。

彼らからしてみれば非常に強力な相手であるし、手を出したところで火に油を注ぐようなものだ。
もっとも、ガブラスやイーオスのように、相手が強大であることを利用してそのおこぼれに預かる例もあるのだが。
大型のモンスターにしても同じことで、闘争心の非常に高いイャンガルルガや気性の激しいティガレックスのような例外を除けば自ら進んで旧き者に手を出す者はいない。


『ただわかることと言えば、こいつとその母ちゃんが変なもん―――飛竜だかわからんような奴に襲われて離れ離れになっちまったってとこだな』

ベオグは気の毒そうにJrを見た。

『それがリム達の住む村の近くの密林に落ちて、その時のショックで記憶を失った、というわけか。
だが、母親と思しき者の死骸が見当たらないところを考えると、生きているのか?』
『そこはお前の管轄だからなエルダート。
言っとくが、俺ゃ、人間のところには潜り込めねぇんだ。手伝おうたってそれは無理だぞ』
『わかっているさ。
問題は、その飛竜のようなものが何か、ということだ。ポルクが知っているだろうな?』
『ポルクか――』

テオ・テスカトルは渋い顔をした。


『ポルクの記憶にもなかったら?』
『大長老か、レイリンに聞くかないな。―――ん?』

びくり
Jrがベオグの後ろを見て、エルダートの前脚の間に引っ込んだ。

『―――立ち聞きはお前の性では合わないと思ったぞ、ワイルドホーン』


べきり


ベオグが振り向くと、巨大な影が枝を踏み分けながら近づいてくる。
やがて、黄金に輝く巨体が見えると、怪訝そうな顔を浮かべた。



『―――なんで角竜がこんなとこにいるんだ?』
『こんなとこっつのは、ちった心外だぞ炎王龍さんよ』

現れた黄金のディアブロスが苦笑で返事を返す。


『それにしても驚いたぞ俺は。
ガレオス共の噂を聞いてここまでやってきたが、まさかこんな所で恐れ多いと聞く炎王龍の長に会うたぁな。
実にラッキーじゃねえか』
『ら、ラッキーだ?』


あっけらかんとするベオグに、エルダートは笑うように言った。
その尻尾が、Jrを抱えるようにしてくるみこむ。


『ベオグ。
ワイルドホーンはな、他のディアブロスと違って縄張りを持たないのだ。
強い者なら人間でもモンスターでも、探し求めに来る奴だからな。だが頼むからこんなところで暴れてくれるなよ、二人とも?
ここは人間の街からそう遠くはないんだ、下手に騒ぎを起こすとすぐに見つかるぞ』

『なぁに、そんな用向きで来たんじゃねえよ。
おおっ、こいつが前に言ってたチビ助か、よぅ』
『――――』



ワイルドホーンに声をかけられるや、Jrはすぐに引っ込んでしまった。
ディアブロスの強面でもやはりダメらしい。
しかし、それには慣れているらしく、別段気にすることもない様子でワイルドホーンは二頭の間に下半身を落ちつけた。


『だが珍しいな、ワイルドホーン。いつもより砂漠を出る時期が早くないか?
今お前が言ったガレオスの噂と関係があるのか?』
『おうともよ。そのために来たんだ。ま、お二人さんにはじっくり話を聞いてもらうとするかね』



ワイルドホーンはエルダートとベオグの顔を見比べると、そのまま話を続けた。




つい、二日前の話だ。

ちょうど鎌蟹の奴が若い衆を追い回して迷惑かけてるから、それをとっちめた時だった。
鎌蟹の連中はどいつもこいつも、絡んできたら最後までしつけぇったらありゃしねえ。おまけにちょっとでも機嫌を損ねたらこの尻尾がいくつあったって足りゃしないんだからな。

まあ、俺にかかりゃ、あの辺りの鎌蟹はまだ可愛いがな。
ともあれ、完膚無きまでに叩きのめしてやった時、ガレオスの群れが横切っていきやがった。
何か話してたが、俺は別に気にもとめなかった。
あいつらの話すことは大抵仲間内だけで通じることだから、別段聞いても特に意味はないことばかりだからな。



だから、最初の一匹が言った時俺はすぐに聞く気になったよ。



―――コノ近クデ、仲間ヤラレタ。


―――誰ニ?
―――ア、私見タ!リーダーヨリ、トテモ大キイ奴!食ワレタノヨ!


(この辺りで、ガレオス共は騒ぎ始めた)


―――ソバニ人間モイタヨ。

―――人間ガ?モシカシテ、アイツラ(ハンター)?
―――間違イナイ。
―――デモ、アノ時イタ人間、一匹ダケアイツノ近クイタ。
―――ウン、多分怖ガッテイタンジャナイカナ。



―――ソウイエバ聞イタ?ココヨリ、ズットズット遠クニ、モット怖イモノガイルッテ。

―――ドンナ?
―――トニカク遠イ所。ソコニ私達ノ親戚モイルンダッテ。
―――ヘー。
―――デモソウシタラ、アノ仲間ヲ食ベテタ奴モ?
―――ソウジャナイカナ、キット。人間ノ住ミカヘ行クミタイ。
―――怖イナァ。









『それで俺が急いで来てみた時には、遠くからだったがそいつをデカイ荷車に押し込むハンター達が見れたって訳だ。姿は良く見えなかったが、緑っぽい奴だったな』
『後を追いかけてここまで来たというわけか。よく見つからなかったな』
『どういうわけか知らねぇが、アイルー一匹も見なかったんだ。その代わりランゴスタやこいつらはいたんだがな』


ばきっ



先程から頻繁に腰を突いていたカンタロスへ、鉄槌のような尾の一撃を振り下ろす。
2m近くもある個体だが、それが一瞬にして緑の体液を振り撒き粉々に砕け散った。



『こいつらもしつけぇな。まぁ、ランゴスタに比べりゃ身が軽いわけでなしまだましか』
『だが、本当に人間の街に入って行ったとなれば、その後はどうする気だ?』
『―――そこなんだなぁ』


ワイルドホーンは困ったように言った。

『人間の一部の連中は俺を目の仇にしてる。
かといって、出てくるのを待っているのも正直効率が悪いしなぁ』
『ならば俺が計らおう。そのモンスターが出るとすれば、おそらく闘技場だろう。そこへ入れるようにすればチャンスがある』
『闘技場って何だ?』



ベオグが頭の上に特大の?マークを浮かべた。
それに対して説明するのが、エルダートの役目となったのはいうまでもない。


『人間たちの中には、生け捕りにしたモンスターを戦わせることを余興として楽しむ者達がいるのだ。そういう者達の施設がある』
『少なくとも俺は行きたかねぇな』
『そうだろうな。人間から餌などのお情けを受けるのは、さすがの炎龍様には情けなさすぎるだろう』
『それは角竜さんにしても同じことだろ?』
『だな』



お互いに苦笑を浮かべ合う三頭。

その間、Jrは、子どもには難しい長話ということもあってか半ばうとうととしていた。
弱めの龍風圧を張っておいているため、カンタロスがJrにまで危害を加えてくる心配はほとんどない。



『だが、それには手続きが必要だ。――ワイルドホーン、俺はハンターとしてお前を捕獲しなきゃならんぞ。それでもいいのか?』

エルダートの問いに、ワイルドホーンは渋々うなずいた。

『OK、OK。人間でハンターならともかく、お前なら俺も辛抱できる』

『なら話は決まったな。もし決まったら、こちらから使いをよこす。それによって出て来て適当に暴れてくれ。後は弱った振りでもしてくれれば、上手く事はいくはずだ』
『本当に大丈夫だろうな?』
『もし腑分けでもしようものなら、俺が止めるさ』
『―――俺にはよくわからんが、見慣れない奴が出るのは良くねぇ前兆とは、随分前に大長老が言ってたな。ま、何はともあれもう用は済んだ。俺は帰るぞ坊主』



ベオグは言いながら腰を上げた。
ばさりと翼を広げ、飛び立つ姿勢に入る。



『アイザにもよろしく頼む』
『わあった。んじゃ、あばよ』

ばさり

立ちあがり、翼をはばたかせて炎龍の姿が空へ飛び去る。
それを見たワイルドホーンが思わず声を上げた。


『俺としたことがっ―――約束取り付けるのを忘れちまったよ!!』
『まあ、いいじゃないか。ただ、ワイルドホーン。それまでの間お前はどうする気だ?言っておくが、ハンターになったはいいがあれこれ事情ができるぞ。それに、例の奴がここからいつ出るかも本当にわからんからな』
『なぁに――そん時はそん時だ。だがお前なら心配はいらねぇ。そうだろ?』


もしこの時彼の口が柔らかい皮膚と表情を表す筋肉を備えていたなら、にやり、と笑っていただろう。
そう返されたエルダートは苦笑した。

一体これで何度めか。

しかし、そうならざるを得ない理由がある。
人間に変身できる旧き者の長は、クシャルダオラとキリンしかいないからだ。
一方は人間と近しく接近し人間との交流を深める上で己の見定めた人間を探し、一方は人間への忠告や警告を報せるメッセンジャーだ。それゆえの力なのである。



『ところでそろそろ戻った方がいいだろ?今頃人間達が嗅ぎまわっている』
『そうだな。――Jr、来い』
『はい、おささま』


うとうとした所を小突かれ、起きたJrがいそいそとポーチまで這い上がる。



『ばいばい、チビ助』
『―――ばいばい、おじちゃん』


ワイルドホーンの呼びかけに、Jrは小さく答え、ポーチのふたを開けて滑り込んだ。
それを確認してから、エルダートは横たえていた体を起こした。


『使いは今一緒に行動しているアイルーだ。それは伝えておく』
『アイルーだぁ!?俺、どうもあのちっせぇ奴とは気が合わねぇ』
『文句を言うな。――ひとまず、それまで待ってろ』



エルダートの言葉にワイルドホーンはうなずく。
それと共に強烈な突風が吹いた。



永久の護り人第十話:闇からの声 〜霞神〜







時を同じくして――――



ドンドルマから遠く離れた東の地にある小さな村では、年に一度の小さな祭りが行われていた。
浅葱・緋・山吹――それらの鮮やかな色に彩られた民族衣装に身を纏い、紫水晶で作られた耳飾りを揺らす村人達。
植物で作られた楽器の演奏も賑やかに、一台の大きな山車が村中を練り歩く。



その山車には、巨大なモンスターの姿を木から掘り出された彫刻がひときわ目立って飾り付けられていた。
紫を基調とした体色、口から伸びたあまりにも長い舌、鼻先から伸びた角に扁平で扇状に広がった大きな尾と小さな翼。
その姿かたちは、地を這う爬虫類そのものだった。



「―――信じられないわ」



それを見ていた一人の女が、手に持ったメモと山車を見比べていた。

ウェーブがかったプラチナ・ブロンドと目鼻のくっきりした顔立ちの美女だ。
その体は、露出を此の上なくさらけ出した格好だった。
ヒプノックの美しい橙色の羽根を装飾とした保護用のガードが肩から腕を覆い、胸を申し訳程度に隠している。
あまりにも煽情的な上半身と色鮮やかな長めのパンツを着用したその姿に合わず、非常に不釣り合いなものを美女は背負っていた。



鈍色に輝く無骨ながらシャープなボディ。
一見ランスのようなそれは、ランス以上に無骨な外見を持ちその内部に弾薬を備えるためのスペースが備わっていた。

――近衛隊正式銃槍。

ガンランスと呼ばれるカテゴリーに分類される武器の中でも、比較的上等なものに値する代物である。
その内部には、砲撃を行うための弾薬に加え、飛竜のブレスを再現するために編み出されたガンランス独自の能力『竜撃砲』を生みだすための技術が詰め込まれているのだ。
当然ながら重量はランスやヘビィボウガンを凌ぎ、その扱いも非常に難しい部類に入る。



「この村で少し調べてみようかしら」

呟き、山車に飾られたモンスターと同じものが描かれるスケッチのメモをしまう。
舞い子が舞いながら吹く真鍮製の笛は、日の光にきらめきながら澄んだ音を太鼓の合間に響かせていた。


一部の男達からの視線や軽調な口笛を浴びながらも、女はそれを気にも留めず、大通りを進んでいく。
途中、狭い通りを横切ると、子ども達が何かを歌うのが聞こえた。
道に入り、歩いていくと、5歳から12歳までの子ども達が集まり、手拍子を打ちながらこう歌っていたのだった。













かすみがみさま しゃしゃりませ

かすみがみさま おいでませ

てなやてやてや もりのおく

やみからでたらば ひきかえせ

かすみがみさま しゃしゃりませ







女は、その輪から外れて一人立っている少女の傍まで寄った。
6歳の幼い少女は、ずっと踊りを見つめていたが、女が近くに寄ってきたことに気付くと身を引きかけた。



「ごめんなさい、驚かして。ちょっと聞きたいことがあるんだけど――いいかしら?」

女の問いかけに、びくりとしながらも、少女はためらいがちにうなずいた。

「この近くに、なんでも知っているようなお爺様はいないかしら?昔のことをよく知っている人よ」



「あそこ」

少女が道の奥にある小さな庵を指さした。

「爺様のとこ―――霞神様のこと、よく知ってる」
「そう、ありがとう」

微笑み、頭を撫でようとした手をすぐに止める。
この村では、頭を撫でられると魂を抜かれるという言い伝えがあることを思い出してのことだった。





庵の茣蓙をそっと除けると、それに気づいた老人の声が穏やかに迎えた。

「誰かね?入りなさい」
「失礼いたします。是非とも、お尋ねしたい事があり遠方から赴きました」
「ふむ」



中に入ると、一人の小柄な老人が煙管からぷかりぷかりと煙を浮かべていた。
麻と思しき布でできた簡素な造りの服を纏い、いかにも隠居を営む老人といった風情である。
しかしその耳は尖り、足は獣のように曲がって爪を有している。
それもそのはずで、彼は人ではなく竜人族という亜人族だった。



「おや、ハンターとは珍しい、そこにお座りくだされ」

老人はそのいでたちを観ながら座り直す。
そうして、煙管で隣に置かれた円形の座布団を指した。

「ちょうど茶を沸かしておる所じゃ、いかがかな?」
「頂きます」

小さな囲炉裏の中心で、土瓶がちん、ちん、と音を立てていた。



「さて、わしにお尋ねしたいこととは、一体何用ですかの?」
「はい。――私はハンターであると共に、王立書士隊の一人、エミリアといいます」



王立書士隊とは、世界各国における地理、古生物、モンスターの生態など、ありとあらゆる調査報告を研究する者達であり、その出身も生粋の学者からハンター、トレジャーハンターと幅広い。
彼らが自らの目で見、耳で聴き、体で感じた記録は、文献の形で報告書として提出され、王立学習院といういわば大学というべき場所により編纂される。
現在まで未知であった世界の一端を知恵という光で照らしだすことができたのも、彼ら王立書士隊の涙ぐましい努力・危険を冒してでも未知に踏み出すためのフィールドワークがあったからこそだ。



「ほうほう」
「この村で、霞神と呼ばれているもの―――オオナズチに関することを教えていただきたいのです」
「ほほう―――この村では、霞神様の棲む森がありましてな。わしらはそこを霞ヶ森と呼んでおります」

竜人族の老人はにこりと微笑んだ。

「わしらはそこで霞神様のお姿をよく見かけます。尤も、子ども達は近寄らせてはなりまぬし、あの森で大声を立てたりして騒いではいけないしきたりがある。霞神様の機嫌を損ねて、連れ去られてしまいますからのう」
「いわゆる“霞隠し”ですね」

エミリアの言葉に老人はうなずいた。
オオナズチの怒りに触れた者は行方不明になる――それが、古くからの言われであった。



「だからこそ、わしらはそのしきたりを守り、気を配っておる。霞神様は普段は人に何も危害を加えたりはせん。だが、森を荒らしたりして暮らしを脅かすと、森の奥から現れて人をさらってしまうのじゃ。――ほれ、どうぞ」
「ありがとうございます」

いい頃合いで沸騰した湯で茶を淹れ、エミリアに湯飲みを渡す。

「すると、この村は、オオナズチの棲むその霞ヶ森の隣にありながら、オオナズチと共存していると言っていいのでしょうか?」
「そうともいえるが、向こうからすればそうとはいえんかもしれん。

――わしらの村ができる前、霞ヶ森という名はまだなかった。あそこに霞神様が棲んでおられると、誰も知らなかったからじゃ。それが、村が起こって人が多くなると、森で霞神様を見かけることが多くなった。
中には、霞ヶ森へ霞神様を捕えようと向かったハンターもおったが、入ったきり帰らなかった」
「ですが、よくあれだけ正確に――― オオナズチは特性上、全体像を掴むことが極めて困難です。山車にあったオオナズチの飾りは、尾を含めてかなり正確に描かれていました」
「ほっほっ―――よく目さえこらせば、霞神様のお姿はちゃんと見えるものじゃよ。あんたらハンターはなかなかわからんじゃろうなぁ」










ちょうどその頃。


その霞ヶ森の近くに、数人の男達が身を潜めていた。
その中でもリーダーを務める男は元々がハンターのなり下がりだったらしく、野蛮な見た目の軽鎧には凡庸性の高いハンターシリーズの面影が見られた。



「いいか?俺達は先にガキ一人さらってくる」
「おう」
「で、周辺は洗ったのか?」
「ああ。ここはギルドからも結構遠いし、こんな辺鄙な所までギルドナイツの足は及ばねぇよ」



三人その場を離れた後、リーダー格の男は、周囲を見渡した。



「しかしこの森―――薄気味悪いぜ。虫一匹鳴いちゃいねぇ」






翁からの案内を受け、エミリアが霞ヶ森の前に立ったのは、それから半日後の事だった。



「ここが、霞ヶ森―――」

一歩踏み出し、周囲を見渡してみる。
鬱蒼と茂る森はほの暗く、生き物の声が一つもしない静けさを湛えている。
軽々しい進入を防ぐためか、しめ縄で囲われていた。
たまに風が木の葉を揺らすだけで、それだけのことだ。
しかし、これだけ静かな場所に、オオナズチが棲むのだと言うのなら、それもうなずけよう。



「霞神に遭われたら、見て見ぬふりをし、静かに振舞うんじゃぞ。霞神様は人から騒がれることを好かんからなぁ」

翁の声を後に、エミリアは森の中へと足を踏み入れたのだった。








その森の奥では――――


何もいない木々の間で、大きな質量が存在していた。
みしり、みしり、と。
そこにいる存在を知らぬ者には、草が一つにまとめられてひしゃげるのが見えただろう。

やがて、そこからとろりと霞がかったように現れたのは、紫を基調とする体色の地を這うヤモリのようなモンスターだった。


―――――――オオナズチ。

自らを透明化させるという能力を持ち、それによって全貌を掴ませぬその力ゆえ極めて目撃例の少ない古龍。
ぼんやりと霞がかった風に人の目に映ることもあるため、“霞龍”と呼ばれる彼らは、古龍研究者が血眼になってその謎を追う標的ともなっているのだ。
180°の方向にぐりぐりと目を動かし、体をゆったり動かしながら歩くその姿は見るに滑稽で、古龍とは到底思えない奇天烈さを持っている。
しかし、緩慢な動きでありながらも、彼らの力は時として痛烈である事を知る者は少ない。



『―――ん』

つと、鼻先の角を振り向け、そのオオナズチは足を止めた。
目をぐりぐり動かし、首を周りにゆっくり巡らし、尻尾を揺らす。

『――何?』
『やあ、長』

もう一頭のオオナズチが、そのそばでとろりと姿を現した。
元々古龍のようなモンスターがテリトリーを共有することは稀であるが、この森はオオナズチの長の住処であり、同時にオオナズチの集団生息地域でもあるのだ。
村人がオオナズチを見かけることがたまにあるのも、このためである。



『何、だい?何か、用かい?』
『私、呼んだ?ペグ』
『お前じゃ、ないよ。人間が、入って、来たんだ』

ああ、なるほど。

『子ども、じゃないかな?』
『一匹、いるね。でも、他にも、たくさんいるよ』
『困った、ねぇ。追いこみ、やるかい?』
『子どもは、逃がそう』
『そう、だね』

オオナズチの長・ペグの言葉にもう一頭のオオナズチはうなずいた。



『皆を、集めて、おいて』
『わかった』

とろり、とオオナズチが消える。

ペグの方は、ふと、足元にあるものに目が移った。
それは、季節を終えて枯れていく幾本もの草花。


『――儚いねぇ。なんて、素敵なんだろう』

うっとりとした面持ちで、ペグはその草花を慈しむように長い時間をかけて見つめていた。
元々オオナズチの一族は、姿だけでなく性格も変わり者が多い。
このペグの場合、儚く脆いものを美しいと感じる美意識を持っていた。









はぁ、はぁ、はぁ―――!


目の前を遮る茂みをかき分け、一人の少女はその中へ飛び込んだ。
年は10歳前後か――おさげに編んだ茶色の髪が揺れ、村の子ども同様の色鮮やかな民族衣装に身を包んでいる。
胸元には、村長の身内である事を示す木彫りの美しいペンダントが下がっていた。



指に一本、痛みが走った。
草で斬ったらしく、かすかな痒みと共に血が一滴伝い落ちる。



「そっちだ、逃がすな!」
「おう!」

後ろから続く幾人もの男達の足音に、少女は怯えながら走り抜けた。



花を摘みに来たのに、なぜこんな事に―――

見知らぬ男達にさらわれ、森の中に連れて来られたのである。
隙をついて逃げているが、追いつかれるのも時間の問題。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――――― きゃあっ!」



木の根に足を取られ、転んだ所へ迫る足音。
そして、男達が周りを囲むのに時間はかからなかった。



「捕まえたぞこのガキ!」

一人が荒々しくそのおさげの髪を掴み上げる。
呻き、無理矢理立たされながら少女は男達を睨みつけた。



「途中で逃げ出したから困ったぜ」

別の一人がやれやれと見下ろす。

「ここで逃げ出されて肉食竜にでも食われたら、身代金一ゼニーも要求が利かねぇものな!」
「違いねぇ」



下卑た笑い声に、少女はただ睨むばかりだった。




一方、エミリアは、ガンランスの重さを物ともせぬ足取りで、森の中を進んでいた。
元より、ヒプノックの羽根を中心とした軽くて丈夫な素材でできた装備・ヒプノルータスーツのおかげで、フィールドワークの支障となることはない。



「―――先程から歩いてだいぶ経つけれど、生き物の声が全くしないなんて妙だわ」



エミリアはぽつりと呟きを洩らした。
薄暗いだけでなく、鳥の鳴き声はおろかランゴスタの羽音さえ聞こえない。
ケルビやブルファンゴ一頭くらいいそうなものだが、その姿さえも見ないのだ。
森に行けば必ず見つかるほど良くいるために、なじみ深い彼らの姿がである。



(――いくら古龍のテリトリーとはいえ、ここまで生き物の気配がないのは――異常だわ。何かがここにはあるのかしら?)

他の生き物を脅かすほどの何かが。



エミリアは思い、途中で腰を掛けて休憩を決め込んだ。
丁度良いところに、木の根と根の間が座りやすいスペースになっている。
そこへ一旦腰を下ろし、ガンランスを外して傍に置く。



「う――――ん」

ついつい、背伸びしてしまう。
それくらい、この森は不気味な静けさこそあるものの、空気そのものは悪いものではなかった。



「―― !?」



耳に何かを捉え、神経がそちらに集中する。
もう一度聞こえたそれは、少女の悲鳴のように思えた。



(まさか!?)

腰を上げ、ガンランスを手早く肩に担ぎあげてその場を急いだ。











「ガキを連れて来たぜ」
「おう、ご苦労さん」



リーダー格は連れて来られた少女を馴れた手つきで縛り上げる。
きつく縛りつけられながら、少女がリーダー格の男を睨みつける。

「あ、あなた達、誰!?ここは霞ヶ森、霞神様の棲みかよ!ここにいて無事じゃすまないんだから!」
「かすみがみさまぁ?なんだそりゃ」

怪訝そうな顔をするリーダー格の男に、一人が助け舟を出す。

「オオナズチの事ですよ、頭目。ここじゃ、神様らしいですぜ!」
「はっ!古龍を神様なんて馬鹿馬鹿しい!」
「あなた達―――!」



手足首を縛られ、少女の強い態度はなお弱まる事を知らない。



「本当よ!今に見てなさい!あなた達、霞隠しに遭っても知らないんだから!」
「そりゃいい。そうなる前にお前の父ちゃんから身代金をせしめてとっとと出払うまでだ」

全く相手のしない賊に、少女はただ睨みつけるしかなかった。









その様子を、遠く離れた場所から双眼鏡で覗いていた者がいた。
エミリアである。

(あの連中―――一人は明らかにハンター崩れ。どうしたものか)

考えあぐね、エミリアは少女を見つめていた。
ハンターの武器はあくまでモンスターに対して振るわれるために作られたものであるため、人間に向かって振るうことはご法度だ。
だが、ここはギルドから遠く離れた地域であり、頼みの綱となるギルドナイトが派遣されるのに時間はかかるだろう。
となれば、何とか少女を助け、時間を稼ぐしかない。



(どうすれば――)



ポーチを探り、エミリアは閃いた。
ハンターでもあり、書士隊の一人でもあるエミリアは、最低限必要なものを常に携帯している。
それを使えば、或いは―――











ずしり




ペグは森の中を突き進んでいた。
彼だけではない。
なぜなら、その後ろから、一頭、二頭、三頭、四頭―――二十頭以上にもなるオオナズチの群れが続いていたからだ。
何より、ペグを含む全員が、その体を透明化させている。



『ねぇ、長』
『何、だい?』

一頭のオオナズチがペグに口を聞いた。

『僕達、総出で、人間追っかけるの、久々、だね』

そろりと言った。

『だって、騒がしい、から。ハンターぽいの、いるし。取り囲む、よ』
『わかった』



しゅうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・





「な、何だ!?」



転がり込んできた玉から吹き出る白い煙。
広がり、濃度を増す煙幕に、男達も少女も何が起きたのか訳がわからなかった。



「これは―――けむり玉!?」

リーダー格の男がハッとする。
元々はモンスターの狩猟の際、モンスターに気付かれぬよう行動する時の必需品である。
石ころにネンチャク草をくっつけた“素材玉”にツタの葉を巻きつかせ、それに火を着けるだけの簡易なものだ。
その燃えた煙は、かなり広い範囲を挌散し、モンスターの視界からハンターを覆い発見しにくくしてくれるのである。


その時だ。
脇に気配を感じたリーダー格の男が振り返る。
そこへ、今度は閃光が襲ってきた。

「ぐわっ!!」

けむり玉に続き、今度は閃光玉―――

リーダー格は目をやられながらも、誰かが立ち退くのを感じた。

「おい、一体何なんだ!?目が見えねぇ!!」
「落ち着け!目をやられた奴はそのままにしてるんだ!すぐに治る」

混乱していた他の男達もリーダー格の男の言い分に従うしかない。
やがて煙が晴れ、辺りが見えるようになってから、また騒然となった。



「頭目!あのガキがいねぇ!!」
「何!?」








―――奇襲は成功した。
エミリアは縄をほどきながら少女に話しかける。



「大丈夫?」
「うん。あなたも、ハンター?」
「ええ」


二人は今、男達がいる地点より20m離れた木の下にいる。
けむり玉で不意を襲い、少女を救った後閃光玉を投げて速やかに撤退。
そうして少女を抱え上げ、ここまで全速力で走ってきたのだ。



「私はエミリア。あなたは?」
「サリよ。――なぜ、この森にいるの、エミリア?ここは霞神様の森よ」
「古老の一人から話は聞いているわ。私は、ここに住むというオオナズチ――あなたが言う霞神の研究に来ているの。でも、まさかここに盗賊がいるなんて思いもしなかったわ」
「村に戻った方がいいわ!霞神様にもしも見つかったら―――」
「しっ!」

続きを言おうとしたサリの口をとっさにふさぐ。
生き物の近寄る気配を感じたのだ。




「さっきの男達じゃないわ」
「えっ!?」
「―――この森に入った時から、生き物の気配はしなかったもの。まさか、ね」




ずしり



「!!」

二人は背筋に悪寒を感じた。
何か大きなものがここにいる。
かなり緩慢だが、確実に、ゆっくりと、そして―――たくさん。


「―――っ!」

サリはすぐエミリアに抱きついた。
霞神――すなわちオオナズチを間近で見て、さらわれたら最後帰ってこない。
そう小さい頃から言われ続けていたのだ。
一方エミリアは、かつてオオナズチの調査を担当した事のある書士隊見習いノレッジ・フォール女史の報告書に書かれていたオオナズチの特徴を思い出していた。


やがて、足音は止まった。
二人のすぐ隣で。
『やぁ』

「!!」
「!?」



いきなりかけられた人間の声に、二人は絶句した。
何もない虚空からかけられた声だ。
どこにも人間らしきものは見当たらない。


『君達、何、してる?』
「な、何、してるって――」

エミリアは戸惑いながら虚空を見上げた。
サリも恐る恐る上を見上げている。



「あなた―――もしかして、霞神、様?」
『そう、呼ばれてる、ねぇ。僕の、名前、ペグ、だよ』



とろり、とその全身が突如露わになった。
それを見たエミリアとサリは目を見張る。
オオナズチの全身を間近で見るのは、二人にとって初めてのことだからだ。
だが、二人は、彼だけがそこにいたわけでないことを知らされることになった。

「嘘―――」

周囲を、大勢のオオナズチが取り囲んでいたからである。
オオナズチのぐりぐりと動く奇怪な眼差しが、二人へ一斉に向けられている。

「あなたは、一体」
『僕はね、オオナズチの、長。ここで、みんなを、まとめてるんだ。君、ハンターでしょ』

ペグはぐりぐりと目を動かしながら、エミリアの背中で鈍く輝くガンランスを見た。

『君、ではなさそう、だな。だって、メスの匂い、全然しなかった』
「それって、私をさらったあの人達の事?」

サリの言葉に、ペグはうなずいた。



『そうか―――君だね、子どもは。それじゃ、もう、帰った方が、いいよ。見た感じ、そこの君、悪いように、見えない、し』

他のオオナズチの目がエミリアに注がれる。
ともかくよく動くオオナズチの目でジロジロとよく見られるのは、あまり気持ちのいいものではない。


「それはありがたいわ。―――ねぇ、なぜ、あなたは人間の言葉が話せるの、ペグ?私の知る限り人間の言葉を話せる大型モンスターの記録なんてどこにもないわ」
『ああ、これはね。長の、特権、てやつ』

ペグは答えながら、とろりと姿を消した。



『それじゃ、皆、始める、よ』

その言葉を合図に、他のオオナズチ達が一瞬にして姿を消す。

『じゃ、僕達に、任せて、お帰り』
「ありがとう、ペグ」
『どういたし、まして。人間に、始めて、名前、呼んでもらった。ちょっぴり、嬉しい、な』


ずしり



姿こそ見えないが、オオナズチが立ち去るのを二人は体感で知った。
静かになっても一頭ともオオナズチがそこから立ち去っているかどうか、知る由ではなかったが。



「―――私、まさか霞神様とお会いして助かってるなんて、思わなかったわ」

震える声でサリが言った。
エミリアもうなずく。

「私も、たくさんにあんなオオナズチの群れを見たのは初めてだわ。さ、早く戻りましょう!」
「それなら、私の家に来て!私のお父さんなら、ギルドに連絡取れるから」



サリの言葉に、エミリアはうなずいた。


――――その頃。



男達は手分けしてエミリアとサリを探していた。
いないとわかればわかる程、彼らの焦燥は高まるばかりだった。

「おい、そっちはどうだ?」
「だめだ、どこにもいねぇ。にしても、やけに逃げ足の速い奴だったな」


舌打ちしながらナイフを振り回し、邪魔になる枝葉を切り落とつつ進む。
この二人は居残り組だったため、森に対する二人の心は、気味悪さを通り越して恐怖へと変わっていた。

「早く帰りてぇよ。こんなことになるなんて知ってたら、俺はこの話に乗らなかったんだ。こんな不気味で薄気味悪い森はごめんだ!」
「まあそういうなよ。ガキを連れていったハンターをとっ捕まえて防具とかを剥ぎ取れば結構な金になる事にゃなるんだ。それまでの辛抱だと思えばいいさ」
「そう言うがな――お前なんでこんな所にハンターがいると思うんだ?この森にはケルビもいなきゃアプトノスもいない―――ましてや、うるさいランゴスタ一匹もいないのをどうやって説明できるんだよ!?」

顔面蒼白で喚く男にもう一人は落ち着けと笑った。

「んな事気にしてたら仕事にならねえぞお前。大丈夫、その辺りにでも隠れてるかもしれねぇよ」



ガザっ

「ほら、そこにっ――――」

男は次を言うことなく――消えた。

「!?」

足元から引きずられるかのように消えた片割れに、男は激しく心を煽られた。
周囲を何度も見渡す。
しかし、生き物の姿は見当たらず、ましてや片割れの男の姿もない。



「おい―――どこにいるんだ、ジョニー!?」

いつしか顔中汗が噴き出ていた。
この男は大変な汗っかきではあったが、いつもに比べてよりひどい有様だと自身でも感じている程だ。

「おい、ジョニー!―――おい、冗談はよしてくれ。おい!!」

しかし、返事はない。



「―――っ!」

何度も振り返るたび、言い様のない恐ろしさが彼を襲う。

「ジョニー!――冗談はもうよせ、いい加減出て来―――」

しゅるっ

一歩踏み出したその足へ長く太い何かが巻き付いた。



「うわぁぁぁぁあああああっ!!」

ほんの一瞬にして、男もまた引きずり倒される。
ほどこうにも足まで手が届かない。



「うぁ、あっ、うっ、くぅ、うぁっ」

なすすべもなく引きずられていく彼の顔を何度も藪の枝葉が直撃する。
しかし、まもなくしてその藪から開けた場所へと放りだされた。

――一瞬の間だけ、男は、紫色の巨大な物体が見えた“気”がしていた。
仰向けに倒され、足に巻きついていた何かがすぐに引っ込んだ。



「――ジョニー!」

傍に倒れている片割れを見てすぐに立ち上がる。

「おい、ジョニー、大丈夫か―――ひいっ!!」

抱き起そうとした男はその男・ジョニーが異様な死に方をしている事に気付き、身を引いた。
ジョニーの体は満遍なく粘液に包まれており、口から泡を吐き、どろりと白目を剥きだしていたのだ。
男がすぐさま逃げようとした所で、突如何かにぶつかる。



「うぶぁっ!!」

妙な弾力で後ろへと押し返されて倒れる彼の胸へ、強烈な圧力がかかった。

「うぐぁ!?あが―――ぐ―――」

ミシミシと音を立て、強力な圧力が骨をへし折ろうとする痛みに男は身悶える。
この圧力はまぎれもなく、大型のモンスターに踏まれた時のそれだ。
そう感じ取った男の耳に、聞き慣れぬ生き物の鳴き声がした。



―――ぐるるるるるるる。



男はぞっとした。
その声はまさに自分のすぐ目の前―――何もないと“思っていた”空間から発されていた。



とろり

「あ―――あっ」

目の前に現れた奇っ怪な姿の古龍に、今度こそ男の顔は絶望の色に染まり、心臓は激しく動悸を繰り返す。
逃げようと手足をもたつかせるが、胸を踏みつけているオオナズチの前脚がそれを許さない。
男を踏みつけるオオナズチの他にもう一頭を認めて、男は悲鳴をあげた。



「誰か――――誰か、助けてくれ!!」

その叫びが仲間に届くことがない事を二頭のオオナズチは知っている。
男の息の根を止めるべく、もう一頭の口から舌が伸びたのはその直後だった。







「おい!」
「ん」

二人の男が始末されている頃、三人に纏められた別のグループは木々の間に何かを見つけていた。
それは、明らかにハンターが調合に失敗した時に出る廃棄物だった。



「まだまもない時に失敗したみたいだな」
「こんな所に捨てておくなんて間抜けたハンターだぜ」

そう笑う三人だが、すでにエミリアとサリはこの森にはいなかった。
―――ハンターを安全圏まで送り出すという不思議な力を持つモドリ玉で、すでに村へと戻っていた。
むろんそんな事を彼らが知る由もない。



「例のハンターをとっ捕まえたらどうするお前?」
「野郎なら身ぐるみ剥がす!女なら三人で一緒にお愉しみだ」

一人が下卑た表情で舌舐めずりした。

この三人はサリをさらうため村へと降りていたため、森の薄気味悪さをさほど強く感じてはいない。
それに加え、村の人間がオオナズチを怒らせれば恐ろしいということを、彼らはさほど気にしていなかった。
サリがオオナズチを霞神と呼んでいたのを馬鹿にしていたのも、この三人である。



「ともかく、どこ行ったかね?」
「調合の失敗カスがこんな所にあるんだ、その辺を探そうぜ」

そう話しあう三人を観ていたのは、群れの中でもかなり小柄な個体のオオナズチであった。

透明になったまま、男達に並ぶように尾行を続けていた。
男達の足取りが比較的ゆっくりなのが、動きの緩慢なオオナズチには幸いしていた。
がさり、がさりと茂みを掻き分ける音も、茂みの多い場所で互いに掻き分けている音だと勘違いされたことも、人間に比べればかなり大きな体を持つ古龍には幸いである。



「いてっ!」
「大丈夫かよ」
「棘みてぇのに引っかかった――く、血出た」

固まって行動しているうち一番右にいた男が、ズボンにできた傷と出血に顔をしかめる。

「おいおい、茂みに引っかかるのよくある事だぜ?それでケガしたくらいで泣き事言うなよ」


先頭を進んだ男が笑い、そして前を向いた瞬間、何かにぶつかって尻もちをついた。
それを見た他の二人も笑いだす。

「あひゃひゃひゃ!何やってるんだよ、お前こそ」
「今のわざとだろ、ここで遊んでるなよ」
「違ぇ!」

ぐるるるるるる―――

鳴き声に全員が固まった。



「―――おい」
「冗談、じゃねえぞ」


二人の言葉に先頭の男が振り返った時。
三人の目の前で姿を現したオオナズチが、背中の小さな翼をはためかせ跳躍するように飛び上がった。

ばふぅん!

紫色の濃霧が三人を押し包む。

「い、一体なん、だ―――ぐ、ああああ―――っ!?」
「あ、ががが、あが、ぐ、うがあっ!?」

オオナズチの発した毒の煙をまともに浴び、三人がその場で倒れ伏す。
狂おしく喉を引っ掻き、口から絶えず泡を吹く。
解毒作用のある道具を持ち合わせていない彼らにとって、あまりにも想定外の災いである。

死ぬまでのたうつ三人を見て、オオナズチはとろりと姿を消した。







その頃――――


リーダー格の男は、ただ一人、森の中を進んでいた。
手下と違い、元はハンターだっただけに周囲に対して細心の注意を払う。
かすかに、生き物の気配を感じ取ったことで、男はすぐにオオナズチの存在を知った。



(―――畜生、オオナズチの野郎が来やがったか)

心の中で毒づきながら男は足を進めた。










『あいつで、最後、だね、長』



後を追いながら二人の男を片づけた二頭のオオナズチのうち一頭が、ペグに声をかける。

『いいかい?油断、しちゃ、いけない、よ』
『了解』




リーダー格の男は途中で石ころを拾った。
それにネンチャク草を摘んでくっつけ、素材玉を作り出す。

「ひとまずこんな所か――次は光蟲だがその前に採る物がなきゃあな」

そう呟くのも訳がある。

男は以前、ハンターだった頃に仲間から聞いた話がある。
それはクシャルダオラやテオ・テスカトルなどの古龍に、閃光玉は極めて有効であるという話だ。
実際、襲われ、それで難を逃れた新人ハンターもいるという。
オオナズチにも閃光玉は有効なはず。



草むらを漁り、ツタの葉とクモの巣を継ぎ合わせてネットを作る。
そして、まもなく彼は藪の中を探す事で生き物のいる証拠とお目当てのものを見つけ出すことに成功した。
―――骨の残骸である。
その中の一本を取り出すと、それにネットを繋ぎ、即席の虫あみを作った。







『長、あいつ、何、してるんだろう?』

一頭がペグに聞いた。

『何か、作ってる、ねぇ』

ペグは目をぐりぐりさせながら、男が場所を移動したのに合わせ動いた。






虫の採れるポイントを見つけるには、かすかな光を見つけることだ。
そこには雷光虫や光蟲が飛んでいることがあるからだ。
目当てのポイントを見つけるのにそれほど時間は要さなかった。
すぐに駆け寄り、そこで虫あみを振るう。



「ち、虫の死骸じゃねえか。―――よし、獲れた」

虫あみの奥に溜まった死骸やにが虫を掻き分けて、目当てである小さな虫をつまみだす。
うっかり指で潰してしまわないよう、光蟲を慎重に素材玉へと編み込んだ。
閃光玉の完成に男がほっと息をついた時である。





『君、何してる、の?』



突如背後から声をかけられ、男はぎょっとした。
ハンターか!?
しかしさっきまで誰もいなかったはず。

「誰だ!!」

そう振り向いたリーダー格の男の顔めがけて、四方八方から粘液が飛んだのはこの時である。

「う、ぶあっ!」

粘液をかぶせられた勢いで、手から閃光玉が放たれる。
視界を灼くような閃光に、オオナズチ達は混乱した。



ぐ、ぐるるるるっ!



『長、目、目、痛い!』
『何これ、目、見えない、よ!』

あちらこちらで、藪が目茶苦茶に乱れ、葉が飛び散るのが見える。
言葉はわからなくとも、オオナズチの目が眩み暴れていることを知るには十分だった。



――早く逃げなければ!

粘液でもたつく足を動かすも、体がまるで重労働をやったかのように重い。
思うように足が動かないその背中へ、鞭がしなるような音が聞こえた。


背中にきつい一撃を受け、倒れ伏す男。
すぐに首をめぐらせると、目には舌で絡め取った虫あみを珍しげに眺めるオオナズチの姿があった。

『―――ふぅん。人間って、こんなもので、虫、採るん、だね』

オオナズチの口から先程と同じ人間の声が発せられたのを聞いた男が目を剥く。
その頃には他のオオナズチ達の視界は元に戻ったようで、口からは黄ばみがかった緑の吐息を吐きだしている。

『これ、もう、使えない、よ』



虫あみが落ち、それをオオナズチの前脚が踏みつける。
ぽきり、ぽきりと男の耳に虫あみのへし折れる音が聞こえた。


『さて――君、ハンター、でしょ』

オオナズチの言葉に、時を同じくして周囲のオオナズチ達が一斉に姿を現す。
それを見た男の口から声が迸る―――はずだった。


「!?」

喉から声が、出ない。

『君、ハンター、でしょ?文字に、書いて、いい、よ』

オオナズチの言葉に、男はさらに背筋を震わせた。


ペグは、人間が言葉を話そうと難儀している様子を見て、自分達の体液のことを今さらながら思い出した。
オオナズチの体液には、腐食効果を持つもの、生き物の体に疲労を与える効果、声帯を麻痺させる効果を持つ成分がある。
元々オオナズチの一族は他の古龍種と比べて戦う力をあまり持たない。
それゆえ彼らは獲物を狩ったり、身を護るためだけにこの液体の力や透明化を使ってきたのだ。



リーダー格の男は、古龍に文字が読めるものかと訝しみながらも、手頃な枝を手元に引き寄せ、書いていく。
それを見たオオナズチは、目をグリグリと動かしながら、ふぅん、と言った。

『君がハンター、じゃない?でも、もう一人のハンター、な、彼女、帰った、よ』


―――なんだって?
ハッとして顔を上げた男にオオナズチは続けた。

『雌の、ハンター、子供連れて、もう帰った、よ』



――女のハンターか!?
男の思考がそこへ行き着いたところで、オオナズチが一歩足を踏み出す。

『君の、仲間は、もう、始末した。残るは、君、だよ』
「!!」



他のオオナズチ達が一斉に歩を進めてきた。
激昂の証である吐息を口から噴出させながら。

やめてくれ。

男の喉がその言葉を必死に絞りだそうとする。
しかし、喉から出るのは息だけだ。

オオナズチの群れが男を覆い隠し、男が最期の絶叫を挙げる――



断末魔は、届かなかった。




















かすみがみさま しゃしゃりませ

かすみがみさま おいでませ

てなやてやてや もりのおく

やみにかくらば ひきかえせ



かすみがみさま しゃしゃりませ

かすみがみさま





お い で ま せ

















「娘を助けていただきありがとうございます、ハンター殿」


サリを連れてエミリアはすぐに村長の家へと向かった。
サリから事情を聞かされ、村長が静かに一礼する。

「ぜひともお礼をさせていただきたい。なんでも申しつけてくだされ」
「いえ、それほどの事でも。ですが、少し気になることがありますので、お聞かせいただきたい事が」
「何でしょう?」
「霞ヶ森に住むオオナズチ――霞神様の事なのですが、人の言葉を話したのです」

エミリアは一息ついて聞く事にした。

「霞神様が、人の言葉を?」
「私も見たわ、お父さん!私も聞いたもの、でもちょっとおかしい喋り方だった」

サリの言葉に村長は思いだすようにあごに手を当てた。



「――そういえば、私の曽祖父が若い頃に、森へ薬草を摘みに行って霞神様に話しかけられたことがあったと聞いたことがありますな」
「同じ個体でしょうか?」
「さあ――そこまでは。何をしているかと聞かれて、振り返れば人の姿がない。目の前に霞神様が現れた時、大層驚かれたそうです」
「私達の時と同じですわね」
「――当時の曽祖父は、かなり肝の据わった方だったそうですが、霞神様が姿を現した時は非常に驚かれてしまったと。ですが、霞神様は、薬草のありかを教えただけで、姿を消してしまわれました。おそらく同じものなのかもしれませんね。――サリ、お風呂を沸かしてきなさい」
「はーい」

村長の言葉にサリが家の奥へと走る。
それを見てから村長は言葉を続けた。

「もし良ければ泊まって行ってくだされ。娘も喜んでくれるでしょう」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」


この時エミリアはドンドルマへ戻る事を強く考えていた。
人の言葉を話すオオナズチに遭遇した事が、彼女の探究心に火を着けたのだ。

――これまで人の言葉を解し、話した大型モンスターの存在の記録はなかった。
もし、他にも人の言葉を話せる古龍が存在し、その謎を突きとめることができれば、今まで書士隊が総力を挙げて研究してきた事の何よりも大きな答えがわかるはず。

そう考えるエミリアなのだった。

永久の護り人第十一話:狩人の掟




日にちが過ぎ、リム・ケアン・キャシーの退院は無事に済んだ。
キャシーとケアンはしばらく安静するようにという医師の診断こそあれ、五体満足のままハンターを続けられる状態だったのは不幸中の幸いである。


「私達――良く生きてられたよね」

アプトノスの荷車に揺られながらリムはぼそりと呟いた。
病院はテオ・テスカトルの強襲によって負傷したハンターで溢れており、担がれてまもなく死亡した者も少なくなかった。

「ケアン大丈夫?あまり無理しないでよ」
「そういう姉さんが心配だよ」

火傷ゆえの痛みや痒みに悩むだけのケアンは、自分に比べて充分重傷のキャシーを眺めた。
突進の直撃を受けたキャシーは肋骨を二本、内臓を激しく痛めつけられている。
医者がキャシーに安静にするよう伝えたのも、彼女がヘビィボウガン使いでありボウガンによる射撃の反動を警戒していたからだ。


「私なら平気よ―― っ!」
「キャシー、本当に無理しないで。ノビン達が来たわ」

ぐらりと倒れかかるキャシーを支え、リムはノビンとエルダートを見て手を大振りに振った。
二人の前へ停まるなりアプトノスが大きく鼻を鳴らす。
エルダートが荷車に上がってくるなりキャシーの様子に気づいて目を向けた。

『歩けるか?』
「しばらくは――無理みたい」
『そうか』
「きゃ!?」

軽々と抱えあげられたキャシーが慌てる。
そのまま荷車を降りたエルダートにノビンが溜息をついた。

「エルダート、とんだところでいい男見せるニャんてズルイのニャ」
『あまり茶化すなノビン』
「あ、ありがとう」

キャシーが顔を赤らめるのを見て、リムも溜息をつくことになった。

五人はエルフォン一家の家を目指してゆっくりと揺られた。
十分もしないうちに、石造りの家の中でひときわ小さい屋根が見える。


「もうすぐで着くけど、あまり驚かないでね」
「えっ?」

キャシーの言葉にリムは目を瞬かせた。

「それ、どういう意味?」
「すぐにわかるわよ」

「リム!?ケアン!?」


バタバタと慌ただしく戸口から一人の女が飛び出してきた。
桃毛獣ババコンガの毛が使われた粗野な軽装で荷車の上へ駆け登ってくるや、リムとケアンを両腕に抱き締めた。

「お前達いらっしゃい!無事でよかったよ!」
「た、ただいま」
「痛いよ、母さん」

泣き腫らしながら女――ケアンやキャシーの母、ミサリーはやっと二人を解放した。
そうかと思えば、今度はキャシーまで抱きしめてくる。

「キャシー!お前も大丈夫だったかい?テオ・テスカトルに挑んで、大怪我したっていうから心配だったんだよ!?」
「大丈夫――でも、しばらくの間は狩りに行けないなぁ」

不安そうな母の顔に笑顔で答えるキャシー。
それに落ち着いたか、ミサリーは三人の様子を改めて確かめてからエルダートとノビンの方を向いた。

「この人達は誰だい?」
「狩りでいつも世話になってるの。エルダートとノビンよ」
『初にお目にかかる』
「オイラこそよろしくニャ!」
「へぇ――うちの息子とリムがいつもお世話になってるよ、ありがとう。さあ、中へお入り!」


四人はミサリーの後へ続く形で戸口をくぐった。

「リムとケアンが帰ってきたって聞いたらあの人喜ぶよ。お前達が村に残るって言った時からずっと心配してたし、テオ・テスカトルに挑んで大怪我って聞いた時血相変えて病院へ駆け込んだしねえ」
『それらしい男に会った事がないんだが』
「すれ違ったのかもしれないね。父さんはいつも狩りに行く時間がバラバラだから、来る時間がズレるのはしょっちゅうなんだ」

エルダートの言葉にケアンはのんびり答えた。
実際、三人の元にケアンとキャシーの父サムが来たことが二、三度ある。
しかし来る時間が朝早くだったり、真昼間だったり、エルダートとノビンが見舞いに来た後から来たりしていた。

「ていうよりケアン。おじさんはいつもイャンガルルガの防具を着けてるって言っておかなかったからじゃないの?」
『確かにそれは聞かなかったな』
「ケアン、そういうとこはあの時から相変わらずなのね」

キャシーが呆れ顔で溜息をつく。
一足先に入っていたミサリーの声が響いた。

「ほら、早くただいま言いな!」
「ただいまー!」
「お邪魔するニャ!」

それに応えて、何かが鼻を鳴らしながらやってきた。


「フゴ、フゴっ」
「ただいま!いい子にしてた?」
「プイィ」

キャシーの言葉に五人を出迎えたそれは高く鼻を鳴らした。
それを見たリムとノビンが唖然として立ち尽くす。

「キッチンに入っといで!―――ああ、この子かい?」

コンガ装備の兜を脱いだミサリーが顔を出し、リム達の反応を見るや朗らかに笑った。

「うちに来た新しい家族の事まだ話してなかったねえ」
「でもおばさん―――それ」

リムは戸惑いながらミサリーの撫でるそれを指さした。

「それ――モスだよ?」


背中に苔を生やした豚。
そんな姿をした草食モンスター・モスは、アプトノスと同じく肉の需要がある温厚な生き物だ。
普通ハンターや他の人々の間ではモスとは別の愛らしい豚プーギーが飼われ、愛されているだけにリムは軽いショックを受けている。

「ね?驚かないでってこういうこと」

その反応にキャシーがくすくす笑っていた。

「でもどうしてモス飼ってるの?」
「この間お父さんと一緒に狩りに行って、気付いたら船の中にいたんだよ。しかも気付いたのが帰る途中の、夜中でさ。あの人のでかい声を久しぶりに聞いたよぅ」

その事を思い出したか盛大に笑い、ふと別のことを思い出して奥の方へと大声を張り上げた。

「おーい、パトリック!リムとケアンが来たから顔出しな!」
「パトリックって誰ニャ?」
「うちの弟」

ノビンの疑問にケアンが答えていると、奥で何かが派手に転げ落ちる音が聞こえた。


「もう、パトリックったら、今さら部屋を片付けなくても」
「慌てん坊なんだニャ」

キャシーとノビンがその音に肩をすくめていると、音はさらに大きく鳴り響く。
見かねたミサリーが奥の部屋まで声をかけに行った。


「パトリック!早くおいでなよ。そんなの後でいいから!」
「わ、わかったよ!」

まだ幼さの残る声が悲鳴をあげ、バサルモスの甲殻で作られた鎧を着た少年がよろよろと出てきた。


「パトリック久しぶり!すっかり大きくなったね」

駆け寄ってその首にリムが抱きついた。
抱きつかれた方のパトリックは少し照れるように笑う。
その腰には、イャンクックの頭部を模したハンマーが下がっていた。
彼が片手剣を愛用している事を知っているだけに、リムが首を傾げる。

「あれ?パトリック、いつの間にクックジョー使ってるの?前はデスパライズだったはず」
「これは――その」
「ああ、こないだグラビモスとドスイーオスに滅多打ちにされたんだよ。その反動で守りを捨ててやる!なんて言って、変えてね」

言いづらい所へミサリーが代わって説明したために、パトリックの顔が赤く染まった。

「へぇ〜?」
「根性ないニャー。オイラが叩き直そうかニャ?」
「アイルーにされるのはごめんだよ!」

ノビンの茶々にパトリックが引き気味で応えた時だった。
来客を知らせる呼び鈴が鳴りだしたのは。


「こんな時に誰だい?」

ミサリーが戸口へ出ていく。
そして、玄関前に立つ一人の男を見て不審げな声を上げた。


「ギルドナイツがうちに何の用だい?」

「エルフォンさんのお宅はこちらでいらっしゃいますね?」

先日エルダートに援護を許したギルドナイツ、ライツェルトがミサリーの不審げな表情に対して涼しげに問い返した。

「奥さまの所にリム・カタリアさんがいらっしゃると聞いたので伺ってきました。彼女と、もう一人そちらにいる男に用があるのですが」
「うちのリムともう一人?」
「エルダートという男がそちらにいるはずです。先日のテオ・テスカトルの件で是非とも――ああ、いらっしゃいましたか――大老殿へ、お越しいただきたいのです」
「「大老殿!?」」

大老殿はドンドルマを牛耳る大長老が住まう場所で、元々は災いから街を護るために祈祷を行う神聖な広場を大長老の意思によって様式を変えている。
つまり、これまでは祈祷によって街を護ってきたがそれに代わってハンターが街を護っていくという目的に移し替えたのである。
大長老の住居であると共に一部の有力なハンターのみが受ける事を許された難易度の高い依頼の提供場所であるため、一般人やハンターの大半が入る機会は滅多にない。





『済まんな、この手紙の事を知らせておくのを忘れていた』
「なんでそういう重要なこともっと早く知らせてくれなかったのよ、もう」

三人でアプトノスの荷車に揺られながら、大老殿へと向かっていた。
坂の上をまっすぐさかのぼり、ガーディアンが護る長い階段まで行けばそこが大老殿への入り口である。


「大老殿はこの先です。ですがあまり口外されぬようお願いしますよ」
「ひょっとして、上位のハンター皆、そうなの?」
「もちろんですよ。大長老への謁見ですが、あまり形式を気にされぬ方ですからどうか気楽に」

緊張のため声のトーンが上がりがちになるのを聞いて、ライツェルトはくすりと笑んだ。

『それよりライツェルトとやら。俺はともかく、なぜリムまで連れて行くのだ』
「あなたとの関係があるかその確認の為ですよ。それに大長老も今回の件に関しては穏便な姿勢を取っているとはいえ、一度は訪れて直接話を聞いた方がいいですからね。それと、リムさん。あなたに一つお尋ねしたいこともあります」
「私に?」
「あなたのその、太刀です」

リムがハッとして背中に負った太刀に目を移す。

「―――詳細は後ほど」

ライツェルトは言うと、手綱を引いて荷車を階段の脇へ停めた。
ガーディアンが降りる三人に向かって静かに頭を下げる。
荷車を降りた三人は、ガーディアンに見送られながら、大老殿へ続く長い階段を上り始めるのだった。


大老殿へ続く階段は緩やかな斜面を描きながら、遠くへ伸びていた。
登れば登るほどみるみると街が遠ざかる。
この様子を途中振り返って見たリムは、ミサリーが送ってくれる手紙の中で、大老殿に行くのは面倒だけど行かなきゃいけないと綴っていたのを思い出した。


「後少しで大老殿ですよ」

少し息を弾ませながらライツェルトが二人の方を向いた。
さすがのギルドナイツも、ここまでの行き来となると体力を消耗するらしく、その肌に玉の汗がにじみ出ていた。

「お二人とも高所が苦手でないようで幸いでした。――中には途中で一歩も動けなるハンターもいますのでね」

そう言いながら背を向けたライツェルトの眼前には、こんもりと盛り上がった屋根が見えた。
大老殿の屋根である。





足を踏み入れた途端、どうっと風が吹きこんできた。
風が汗に濡れた肌を撫でるたび心地よい。
円形の広いホール内に間隔を置いて設置された燭台が赤々と炎を灯している。
そして、その中央を座する者に三人の視線は集まった。


台座に坐した大長老の姿は、まるで大きな彫像かと思わせるほどに巨大であった。
常人の三倍ある背丈で、その頭部も長く突き出ている辺りで人間と違う種族とは一目でわかる。
全身に東国の趣ある甲冑を着こみ、その右手には通常の倍以上の長さを持つ脇差を携えていた。
逸話によれば、大長老はこの脇差で老山龍を両断したといわれているのも納得できる。

その傍らには大長老を補佐する大臣である竜人族の老人と女性が立ち、彼らの近くに依頼の受付や食事をするためのテーブルが置かれていた。
ガーディアンがここでも護るために立っており、その間を通りながら大長老の前へライツェルトが先立って行った。
二言三言大長老に何かを話しかけ、大長老がその大きな頭を揺らしてうなずく。
それから、ライツェルトは二人を手招きした。




「うおっほんっ!!」

いきなりの咳払いにリムが一歩退く。
それでも構わず大長老は脇差を持つ手を緩めながら口を開いた。

「リム・カタリア、そしてエルダートよ。貴殿らの活躍はギルドナイツの報告により聞いた。こたびのテオ・テスカトルの襲撃をよくぞ防いでくれた。礼を言おう」
『こちらこそ、勝手な身分を許していただくには恐れ入る』

エルダートが頭を垂れると大長老は大きな身を傾いで蓄えられた髭に手をやった。

「先日大衆酒場よりギルドへの正式な登録を済ませてきたと聞いておる。それ以前はどこの村でハンターをしておった?」
『俺はハンターではない。雪山の連なりを家として生きてきたのみだ』
「ふむ」

リムの動悸が早まった。
もし大長老にエルダートの正体が知れたらことだ。
なにしろ彼は、古龍クシャルダオラなのだから。

「一つ、その面を見てみたいものだが」


どきん


リムが思わずエルダートの方を向いた。

エルダートの装着している兜は徹仮面のようになっており、当然外さなくては素顔を見ることはできない。
おそらく兜自体がエルダートの皮膚であり、肉の一部であることは間違いないのだが―――

(まさか、脱ぐのかしら?)

以前食事の際に口元までずらしただけで済ませた事を思い出す。
しかしそれ以外で彼が鎧から“肌”を晒したことはない。
風呂を勧めた時には決まって村の外に行っていたのだから、おそらくそういう時は本来の姿に戻ってどこかへ水を浴びていたのだろう。
どうでるか。


『畏れ多いが、辞退させていただきたい』

エルダートは長い沈黙の後静かに言葉を続けた。

『俺の顔は十年前、モンスターに負わされた傷によって人目に触れるには余りあるほど醜いものになってしまった。多くのハンターを目にした御仁ならともかく、彼女に見せられるものではない』

言いながらリムに視線を移すエルダートに、大長老は唸りを漏らした。

「そうか――あいすまぬ。それならわしの要件は終わった。して、リムよ」
「は、はい!!」
「大衆酒場にて正式にギルドへの登録を済ませると良いだろう。ハンターとしての働きを期待しておるぞ」
「ありがとうございます」

答えてから改めて胸をなでおろした。
だしぬけに声が上ずってしまったが、緊張もここまでだ。
しかし、まだ用件が終わっていないことを、ライツェルトの目は語っていた。




大長老への謁見が終わるとライツェルトは隅のテーブルへ二人を誘った。

「リムさんをお呼びした理由は先程述べさせていただきましたが」

ライツェルトはテーブルに座る赤髪の美女を認めて手を軽く振った。

「あなたの太刀に興味を持っている我らギルドナイツが一人が、会いたいと言っているのですよ」
「私に?」
「紹介しましょう。太刀使いのキリーです」

手を振り返すのを確認すると、ライツェルトはついてくるよう促し、テーブルへ歩み寄った。



「来たわね」

ルージュを引いた厚めの唇が笑みを浮かべ、ギルドナイツ正装の裾を揺らしながら席を立った。

「こんにちは、お二人方。私はキリー、キリー・モディスタ。よろしくお願いね」
「リム・カタリアです。よろしくお願いします」

リムの挨拶にキリーが思い当たるふしがあるのか尋ねる。

「カタリア―――もしかして、お父様はアルバート・カタリアかしら?」
「そうです」
「アルバート・カタリアといえば王立書士隊の中でも重要なポスト――第二のジョン・アーサーとしてギルドからも期待を寄せられていた人物よ。もっとも、今から十三年前に、行方が知れなくなっていると聞いているわ」

差しのべられた手に握手で応え、キリーは隣の席へ座るよう促した。

『ジョン・アーサー?』
「王立書士隊の偉大な先達よ。実地調査とそれに基づいた綿密な考察で、数々のモンスターの未知に満ちた生態を解き明かしてきた人物。探究心に限りのない人物だったのか、更なる捜査を求めて――そのまま行方が知れなくなっているの」

キリーは軽く説明しつつリムから太刀を受け取った。
その太刀を抜いて調べようとした所に給仕のアイルー達が軽食を届けに来た。

「キリーさん、頼んだものができましたミャー。――お願いですから、ここで武器とか振り回さないようお願いしますミャ」
「わかってるわ、ありがとう。二人の前に置いて頂戴」

運んできたフィッシュ・チップスなどの料理を置いて、給仕達は仕事場へと戻っていく。
澄みきった刀身を抜くと、それを時間をかけじっくりとキリーは眺め始めた。


『その太刀がどうかしたのか?』
「ちょっと気になるのよ。―――この太刀、希少な鉱物を使って鍛えられているわね。でも刃そのものが鉱物で作られたものじゃないわ」
「どういうこと?」

チップスを一つ口に放り込みながらリムが身を乗り出した。

「つまり、刃そのものは何かのモンスターの素材を使って作られているってことよ。かなりの高熱で金属を溶かし込み、塗り固めながら鍛えたと思うんだけど、そんな無茶な太刀の鍛え方、どこの工房にもないわ」

問題は、そのモンスターの素材かしら。
そうキリーは呟いた。

「太刀に使うような素材だから骨であることに間違いはない。でも、質感からして飛竜のものとは考えにくいわね。――この太刀に、何か属性はないかしら?」
「私が見た時は、龍の属性を帯びていましたが」

ライツェルトがあごに手指を添えながら口を開いた。
しかし、リムはそれに対し首を横に振る。

「この太刀―――私もよく、わからないんです。確かにあのテオ・テスカトルの時は龍の属性だったけど、火に弱いモンスターの時は火、水に弱いモンスターの時は水と、斬ったモンスターの弱点に変わるみたいで」
「それは妙ですね。一つの武器に違う属性が付与されているのなら話はわかりますが」

答えに対して彼の眉が吊り上がった。
近年一つの武器に対し二つの異なる属性を付与した双属性と呼ばれる武器の概念が開発されたことは記憶に新しい。
しかし今のところその技術が応用されているのは双剣が主体で、かつ属性も固定されているため斬ったモンスターに応じた属性を帯びるものではない。




「私の叔父が工房を開いているから、見せれば何かわかるかもしれないわね。いずれにしても、この太刀の持つ特性は異様だわ。調査が済めばそちらへ返却するけど、使用するのはやめておいた方がいい。――何か、代わりに他の太刀や武器は持っていないかしら?」
「持っています。この太刀を使うことはあまりないので」
「ならこの太刀をこちらで預からせてもらうわ。調査が済み次第そちらへ返却手続きを取るから、その時はライツェルトに任せるわね」
「あなたという人は」

溜息をつくライツェルトを尻目に、了承を得たキリーが太刀を布で包みだした。
それを見ていたエルダートが、リムにそっと耳打ちした。

『俺を斬った以前からあの力を持っていたのか?』
「――違う。前まではどんなモンスターを斬っても何の属性も帯びなかったもの。私もあの太刀がお父さんの残した物だった事以外、何も知らない。だからいっそ預かって視てもらうしかないと思うの」


エルダートはリムに初めて斬られたことを思い出した。
リムの振り回した太刀が帯びていたのは、太刀を使うハンターが放つ“錬気”と呼ばれるもの以外何も感じなかった。
古龍の長の血を吸って太刀が変化を起こしたのか、それとも―――



「ライツェルト、二人にはもう帰ってもらっていいわ。この太刀は私の伝手で鑑定してもらって、判明次第返却ついで知らせることにする。そうしたら、その太刀は、二度と使わないこと。いいわね?」
「わかりました」

キリーの言葉にリムは素直にうなずいた。
あの太刀は、エルダートとの戦い以来で五回しか使っていない。
最初に太刀の異変を知った最初の一回は、ガノトトスを相手に苦戦した時突如起こったものだった。
――今回のテオ・テスカトルで、五回目だ。


「それではお二人方、私が送りましょう」

軽食もそこそこに二人がライツェルトに連れられ、大老殿を出た時には陽も沈もうとしていた。


永久の護り人第十二話:没落貴族




時が過ぎればこそ傷も癒え、ケアンもキャシーも狩りに復帰と相成った。
すでに温暖期はうだるような暑さも薄れ、寒冷期までの足音を立てつつある。
ケアンより先にギルドの登録手続きを済ませていたリムは、エルダートの付添で共に狩りに繰り出していた。
エルダートの呑み込みは非常に早い。


(やっぱり、古龍としての知識があるからかな)

大剣――強烈な冷気を帯びた一本足の鳥を思わせるそれを軽々と扱うエルダートを見ながら、リムはそんなことを考えていた。
もっとも、一部の道具の使い方を知らなかったり、武器の扱いでも度々聞いてくることがある限り全てを知っているわけではないようだが。
それでも知識の吸収が早い上運搬の作業も難なくこなすため、サムやミサリーから度々絶賛された。




「そろそろ、次の緊急依頼が舞い込んでくるな。あんたガノトトスはまだだったろう」
『ガノトトス、水竜のことか』
「そうだ」

サムは頷きながらカホウ【狼】の手入れをしていた。
そばではパトリックが砥石やペイントボールをポーチに詰め込んでいる。

「やっこさんは慣れても結構手ごわいぞ。釣るためのカエルと音爆弾は忘れるなよ」
『音爆弾』

ワイルドホーンが忌々しくて嫌いと言っていたあれか。
そう思ったエルダートを脇目に、サムはメンテの終わったカホウ【狼】を背負った。

「その前で済まないがまずは鳴き袋だな。これからイャンクックに行くぞ」
『なぜイャンクックの元へ?』
「鳴き袋を採るには最良の相手だからな」

その言葉が理解できなかったものの、イャンクックに対して同情を覚えるしかないエルダートだった。




騒がしく虫が鳴く密林のジャングル。
なお湿り気と熱を帯びる空気を大きな唸り声が震わせた。
ミミズを食べに来たのだろう、イャンクックがカエルの採れるポイントへ近寄ってく所にばったりと出くわした。

「いつものように頭を頼む。パトリック、手筈通り脚をひっくり返せよ!」
「OK!」

桃色の甲殻と大きな耳を持つ鳥のような飛竜が嘴を使って地面を掘り返していたその時。
足元へ駆け寄ったパトリックがデスパライズを振り回し、脚に斬りかかっていった。
お腹もぺこぺこ、食事をしに来た所でこの仕打ち。
いつもは温厚なこの飛竜も、大きな耳を広げて怒りも露わに足を踏みならした。
しかしパトリックの動きは慣れたものでイャンクックの足をかわし、なお激しく斬り込んで甲殻に傷をつけていく。
エルダートの脇でカホウ【狼】の銃口が火を噴いた。
カラの実の薬莢が弾け飛んだかと思うと大きく厚い怪鳥の耳に傷を付ける。

「あぶっ!」

バランスを崩したところで盛大に地面に顔をつけたパトリックの上を通り過ぎる巨体。
それがエルダートとサムに向かって突っ込んでくる。

『サム!』
「すまん、守りは任せる」

撃とうとした弾が切れているらしく焦って調合を始めるサム。
そこへ突っ込まれてはならじとエルダートは自らイャンクックの前へ出た。
大きな嘴が刀身とぶつかりガリガリと耳障りな音を立てた。

「父さん!」
『大丈夫だ、早く来い!』
「わかった」

ゲネポスの牙や麻痺毒をふんだんに使った刃が再び怪鳥の身体に傷をつけていく。

「すまんな、こんな時にこの弾を忘れるとは」

グゴゴゴゴ!

足元に再びまとわりつくパトリックに注意を引かれたイャンクック。
その頭めがけて徹甲榴弾が撃ち込まれた。
撃ちこまれてまもなく炸裂音と共にイャンクックの身体が力なくふらつく。
エルダートの力を溜めた一撃が容赦なく耳へ叩きこまれた。
その衝撃に耐えきれず耳はボロボロと崩れ、その主の身体も大きくぐらつき横のめりに倒れ込む。

「だ、誰かー!?」

パトリックが不憫にもその下敷きとなってしまった。
それに苦笑いしながらもエルダートは手を貸してやる。

『全く、先程からこ奴の下になってばかりだな』
「こいつはおっちょこちょいだからな、足元に気をつけないとすぐ転ぶんだ」
「二人揃ってこんな時にからかわないでよう!」

笑う二人にパトリックが顔を赤らめる。
その間に態勢を直したイャンクックが足をひきずりながら逃げだした。

「ほら、恥ずかしがる暇があるなら早く行って来い!」
「もう!」

すぐに追いかけて斬り込むパトリック。
毒が回ってすぐ動けなくなった怪鳥にエルダートが畳み込みをかける。
頭に弾を撃ち込まれ、再び重い一撃を受けたイャンクックは。


グゴゴゴゴ―――クォォォ―――


悲しげに声を絞り出しながら、力尽きて大地に倒れ込んだ。


「二人とも、ご苦労さん。さ、剥ぎ取ろうか」


とどめを受けて力尽きたイャンクックの前に三人が集まる。
各々にナイフを取り出し、怪鳥の身体に突き立てた。

「よし、これが鳴き袋だ」

サムが言いながらエルダートに取り出したばかりの臓腑を見せた。

「これが破裂すると使い物にならなくなるから取扱いに注意しろよ。後で音爆弾として調合するが、手順が難しいから調合書を読みながらやろう。取れる数が少ないからな」
『どう使うのだ』
「投げればいい。音爆弾を投げれば、水中や砂の中に反響して俺達より耳のいいモンスター―――ガレオスだのガノトトスだの、ディアブロスだの―――を引きずりだせる。―いや、ディアブロスでもあいつくらいの例外がいるか」
『ワイルドホーンか』
「おおっ、あいつを知ってるか。あれはディアブロスの中でもとんだ変わった奴だからな。今は温暖期だから奴も砂漠にずっといるし、俺達も砂漠で奴と顔を突き合わせることはないからいいが気をつけろよ」

そう言いながらサムは大きめのビンに鳴き袋を入れ、さらにその上から割れないようしっかり真綿を巻いた。
こうすれば鳴き袋を破裂させて駄目にしてしまう心配はないというわけだ。






イャンクックの狩猟から三人が戻ると、別の狩りに出かけていたリムが街の入り口近くで大手を振っていた。
その背には斬破刀がかけられている。

「おじさん達、おかえり!!」
「やぁ、リム。何を狩ってきたんだ?」

言いながらサムが彼女の後ろの荷車を見る。
布をかけられているが、わずかな隙間から見える緑色の甲殻や鱗、大きな翼が突き出ている。

「リオレイアか、なかなかの大物だな!」
「狩猟試験だったの、それに受かっちゃったぁ」
「順調じゃないか。ケアンも追っかけ試験を受けているから、これから忙しいぞ」

狩猟試験とはドンドルマのハンターズギルドが公式に設けた、ハンターの腕前を試す試験であり、ハンターの将来を左右させるものである。
最初のうちはイャンクックやゲリョスなどの他愛のない対象をひたすら狩ることから始まるが、数々の試験をクリアしたハンターなら危険なモンスターの狩猟を任せられるほどの信頼を得られるようになる。
ギルドへ正式に登録したハンターなら、誰もが通る道なのだ。

「これからエルダートはガノトトスに行くんでしょ?でもガノトトスの依頼がこの時期に来るなんて」
「それは俺も思ったんだが、かなり急な依頼のようでな。俺と母さんが付添で行くことになる。母さんが帰って来次第、密林へ出発だ」
「そっか、頑張ってね」
『うむ』

エルダートに軽く手を振った後、リムとリオレイアの荷車はすぐに雑踏へと消えた。





三時間後、ケアンの狩猟試験に付き合っていたミサリーが戻り、エルダートとサムとの三人はガノトトスの狩猟場となる密林へ向かった。

周囲にざわめく虫、鳥の声。
鬱蒼と茂った緑を抜けた先には、海と見紛う程広大な湖が広がっていた。
初めてその光景を見た者は、誰もがこれほどに広い湖があるものかと思うかもしれない。
その美しさに見とれ、立ちつくしていただろう。
普段ならここはダイミョウザザミの幼体であるヤオザミが闊歩しているのだが。


『――――』


沈黙を守りながら、時々ぴくりと動く釣り竿の浮きを見つめる。
その浮きの下には、釣り餌となった哀れなカエルが漂っているはずだ。
水中に棲むガノトトスは滅多に陸に上がってくることがないため、餌で釣るか音爆弾を使ってでもなければまともに戦うことが難しい。
エルダートを釣りに行かせ、サムとミサリーは離れた所から待機して様子を窺っていた。


『こんなもので本当に水竜を釣ることができるのか?』

浮きを見つめること五分。
エルダートはそう独りごちた。
実の所エルダートはガノトトスのような水棲のモンスターと面識が全くない。
クシャルダオラとしての特性を考えれば当たり前のことだったが、そういう機会に恵まれていないのである。
リオス族やワイルドホーンから幾らか話には聞いていたが、目にした時のことを考えればどれほどのものなのだろうと思案に暮れる。

――――三十分ほどしただろうか。

湖の向こうに大きな影が浮かび上がってきたのをエルダートは認めた。

『む』

影は、悠々と泳ぎながらこちらへ向かってくる。
その大きさは近づくうちに、エルダートの本来の姿以上の大きさだとわかってきた。
釣り竿を握り直す。
そして、すぅ、と下へ沈みこんだかと思うと、水の流れが水面を走り、浮きがぐいっと引き込まれていった。
『来たぞ!!』

これ以上にない強い引きにエルダートは二人を呼んだ。
針を外そうと暴れるガノトトスの力は強く、しっかり足を踏ん張っていなければ自分が釣られてしまう。
目の前の水面は激しく掻きまわされ、巨大な魚のヒレが時折見え隠れする。
引きが弱まった瞬間、迷わず竿を強く引いた。



ザバンッ



頭上を巨大な魚に似た影が跳びこしていく。
いきなり水から引き揚げられた反動からか激しくはねるそいつへ火炎弾が撃ち込まれた。


(―――なんという大きさだ!)

サムの弾を受けながら体勢を立て直すガノトトスをエルダートは見上げ、驚愕した。
両腕のヒレが翼のようになっている魚そのものの外見をしたガノトトスは、モンスターでも随一の体長を誇る。
目の前にいるガノトトスは30mを超えていた。
仕打ちに対する憤りを飛沫の混じる吐息と共に吐きだしながら、水竜はガクリと身を低くしたかと思うと白い腹を地面にすりつけるようにして三人の元へ突進してきた。


「受けるなよ!!」

エルダートに目配せしつつミサリーが大きく距離を取る。
細い木々をなぎ倒しながらガノトトスがエルダートの脇を通り過ぎていった。

「ほらほら、こっちだよ!」

ミサリーがハンマーを振りおろしに足元へと走った時。
ガノトトスの頭の向く方から絹を裂くような娘の悲鳴が聞こえた。

「こんな時に人!?」
『助けに向かう!』

エルダートが頭の方へ走る。
ガノトトスの腹の下はほとんど空間が開いているため、向こう側がよく見えた。
まるで花の妖精を思わせる格好をした若い娘が、顔面蒼白になりながらガノトトスを前に腰を抜かしていた。
「た、助けて下さいませ!!」

娘は震える声でかろうじて視界に写ったエルダートに助けを求めた。
その娘へ食らいつこうとしたガノトトスを、腹に加えた大剣の一撃で封じる。
間一髪だった。
飛び散るはずの血液が刃から溢れ出る凍気を浴びてシャーベット状に凍りつく。
遅れてきたミサリーが頭に回り込み、銃のリボルバーを模したような形のガンハンマーを叩きこんだ。
さしもの水竜もこの猛攻に怯み後ろへ後ずさる。


「今のうちに体勢を構えて退きな!あんたもハンターなら引き際が肝心だよ!」

後ろ手にいる娘の着ているものと腰に帯びたレイピアがハンターのものと察したミサリーが娘に声をかける。

「あ、あの、わたくし」
『気をつけろ!』

エルダートの声にミサリーは娘を横抱きにして横へ跳びのいた。
二重の顎の奥から噴き出す水鉄砲が先程まで二人のいた場所を抉り飛沫をあげる。
その間も、サムの射撃は止むことがなかった。
火炎弾による熱が鱗の美しい色合いを奪う。

『むぅ!』

ガノトトスの大きな尾びれが周囲を撃ち払うために振るわれた。
ただでさえガノトトスの身体は横に広く、その尾の一撃も重い。
受け止めた体が大きく後ろに下がり、腕も痺れてくる。

「ほらほら、こっちも忘れんじゃないよ!」

エルダートに足元を任せてミサリーが頭の方へ殴りかかった。
それを尾でさえぎろうとするが、ベテランのハンターである彼女はそれをいとも簡単に潜り抜けて正確な狙いでハンマーを振り下ろす。
頭に受ける重い一撃にさすがの水竜も危機を感じたのだろう。
上体を反らした不格好な走りで湖の方へと向かって行った。


「あんた、そっち行ったよ!!」

湖に飛び込む直前のガノトトスへ弾が当たる。
それを意に介さず水の中へ消える水竜に、エルダートはいいのかとサムに問うた。

「心配はいらん。すぐに出てくるよ」
『それはどういう―――』

小さな爆発音と共にガノトトスが水から大きく跳躍してきた。

『――あの爆発する弾にはそういう効能があるのか』

これまで知らなかった徹甲榴弾の使い道にエルダートは感心した。
自身も頭にあの弾を受けたことがあったが、わずらわしくてたまらず風で跳ね返していたのだ。
――もとより、どういう弾なのかを知らなかった。

「さて、畳みかけるぞ!」
ビチャビチャと水に濡れた両脚でたたらを踏むガノトトスの背ビレに火炎弾が放たれる。
炎の熱に焼かれ、美しいヒレは見るも無残にその形を失った。
振りかえった先で突如受けるハンマーの殴打。
そしてその白い腹へ凍れる斬撃が打ち込まれた時、水竜はその巨体を大きくのたうたせたかと思うと大地の上で跳ね息絶えた。




「あんた、大丈夫かい?」

エルダートとサムがガノトトスの身体にとりついている間に、ミサリーが娘に尋ねる。
先程に比べいくらか落ち着きを取り戻したらしく、ミサリーの問いにこくんと頷きが返ってきた。
その時ミサリーは彼女の腰に、上質なリオレイアの素材を使って作られる美しい翠のレイピアが下がっていることに気付いた。

「しかしいけないねぇ。あんた、見た限り上位のハンターだろう?あたし達が相手をしたこのガノトトス、いくらか手ごわかったがまだひよっこってところだから恐れるに足らないだろうに」
「あ、あの」
「何だい?」

何か言いたそうな娘にミサリーは目を瞬かせた。

「わたくし、ハンターでは、ございませんの」
「何だって?」





帰りの船の中、三人は食事を摂りながら娘の身の上話を聞いていた。

娘の名はエリザベート・ヘルベスティア。

ドンドルマから少し離れた地の領主ヘルベスティア家の一人娘で、近頃その家が破産し、一人夜逃げするように家を出てきたのだという。
身につけていた花の妖精を思わせる外観のメルホア装備とクイーンレイピアは、家にわずかに残されていた嗜好品の中から取ってきたものだった。

「しかしあんた、あんな密林の中をよく歩けたものだな」
「はい。――でもわたくし、虫が苦手で怖いんですの。さっきも、大きくて黒い虫に追いかけられて、そうしたらあんな大きい―――ものが―――」

ガノトトスと鉢合わせた時のことを思い出してかエリザベートは軽く身震いした。

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