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ビルマ戦線 一兵士の回想コミュの一兵士の回想17

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『エンジン教育2』

 三人でクリークに水浴に行ったものである。青木と島野は浜名湖育ち、私は安倍川育ち水には慣れている。
 水は薄い黄土色をしていて透明でない。サヨリが眠そうによたよた泳いでいた。我々の泳いでいる目の前に海蛇がするすると上がって来てパクッと息をするとするするともぐっていく。初めての時は驚いた。
 種類は陸の蛇と変わりはないようだ。ただ尾だけが鰻のように平たい。こちらが手を出さなければおとなしいものだと思った。この海蛇も慣れると可愛いものである。
 クリーク沿いの水溜りに行くと、木の上からパラパラと落ちてくるものがある。見ればハゼに似た魚である。大きさも七、八センチで腹に吸盤がついていた。静かにしていると、また木の根元に集まってきてピョコピヨコと登ってゆく。高いのは四メートルくらい登る。木に登る魚を初めて見た。

 やがて帰隊の命令が来たと鍋田軍曹が知らせてくれた。ここへ来て三ヶ月がたっていた。
 軍曹始め一等兵になった杉本さんや、工作隊の皆さんにお世話になったお礼の挨拶をして帰隊したのは夕方であった。

 兵舎の間の道に入ると寝間着姿の兵が私に向かって不動の姿勢を取り挙手の礼をした。私も慌てて敬礼をした。自分たちより下級の兵はいない筈である。
 古兵に敬礼させてえらいことになった、後でどんなに叱られるか知れたものではない。相手は階級章も付けていないので更に判らない。幾ら待っても手を下ろさない。
 そうだ俺も一等兵なんだ、古い兵隊でも未だ一等兵は幾らでもいるのだ、そう思ったから手を下ろした。相手もやれやれといった風に手を下ろして去って行った。班に行き帰隊の申告をして、今あった事を同僚に話したところ、あれは我々より二ヵ月後に来た初年兵だとのことであった。
 しかし、二ヶ月ほどの年長ではどうにもならない、復員するまで三年近く同等の初年兵で扱われることになる。

 知久圭一君がアキャブへの輸送任務で航行中に敵機の空襲にあい海に落ちて戦死したということである。我々同年兵の戦死第一号となった。


『二小隊配属』

 二日ほど休養してから命令が出た。青木、島野、加藤の各一等兵はラングーンのドーボン造船所に行き山本伍長の指揮下に入るべし。我々は二小隊に編入なのだ。既に中村軍曹はじめ同年兵も先行していた。
 翌日の午後三人でタンガップをでた。アラカン山脈の入り口で交通公社の車に乗せて貰えとの命令であった。幾時間歩いたのか覚えていないが麓に着いた時は夕暮れだった。

 ここで静岡市井の宮町出身という折山義太郎と名乗る我が部隊の兵に会った。懐かしくしばらく静岡の話をした。この方とは二度と会わなかった。復員してから井の宮町を訪ねたが判らなかった。戦友会の戦死者名簿に記載されているから間違いなく我が隊の兵である。

 薄暗くなって来たが自動車が来ない。連絡員らしい兵が言うには、もう今日は自動車は来ないとの事である。我々三人は食糧を持っていない。野宿の用意もない。それに明日の夕方でないと自動車が来ないという。
 この山を越えてくる時も昼間は人も車も通らなかったが今も同じのようだ。むしろ敵の監視がますます厳重になってきたことを感じる。
 折山さんは中隊に帰ったのか連絡所の前で別れた。

 いっしょに車を待っていた他の部隊の一等兵が声を掛けてくれた。
「うちの隊へ来ませんか。直ぐ近くに駐屯していますから、明日の夕方までいて今頃ここに来たらいいでしょう」と親切に言ってくれた。
 渡る世間に鬼はない、と言う言葉があるが人の情けをしみじみ感じた。厚く礼を言ってお世話になることにした。案内されて二十分ほど歩いて木立のまばらな草原に、目立たないニッパヤシの兵舎があった。
 難しい挨拶もなく簡単に我々を紹介してくれた。相手方も細かいことは聞かなかったし、こちらも詳しいことは話さない。
 夕飯を馳走になり、ゆっくり休ませていただいた。
 我々は三名とも初めて自力で行動するのだがまだ自信はない。灯は石油ランプで必要以外は早く消して敵機の襲来をさけた。

 何事もなく一夜が明けた。どういう任務の部隊か判らないが朝飯後皆な出掛けた。我々は夕飯までご馳走になり、厚くお礼を申し上げて早めに連絡所に来た。連絡所の兵が一人いるだけである。
 そのうち他部隊の兵が五、六名来た。もうかなり暗い。輸送車といってもトラックである。
 やがて数名の兵を乗せたトラックが二台来た。我々も乗せてもらう。ライトの尖光を谷から谷に投げながら曲がりくねった道を進む。幸い敵機にも会わず明け方シンデエに着いた。
 タンガップに行く時は歩いて九晩もかかったのに走り続けて一夜でこの広い峠を横断したのだ、嘘みたいな感じである。輸送車はシンデエの渡河点まで行ってくれた。

 船に乗せて貰う。我々が教えてもらった焼き玉エンジンである。俺も運転が出来るんだぞ、そんな気持ちが頭を掠める。
 プロームの渡河点に着く。ここは来る時敵機の機銃掃射を受けた所である。そして我々はここへ二度と来なかった。
 プロームの町まで歩くものと思っていたら、ついでだからと他のトラックが乗せてくれた。かなりの距離がある。
 トラックは砂塵を巻き上げて走る。まるで凱旋将軍のような気分であった。
 プロームの駅から汽車に乗る。土地案内もなく戦場を移動することは心細いことだが、軍隊の連絡は実に良くとれていて感心させられた。

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