ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ビルマ戦線 一兵士の回想コミュの一兵士の回想7

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
『マニラ=昭南島』4

 スコールが来るから屋上に上がれとの命令である。
 洗面器がないので、飯盒、石鹸、タオル等、また汚れた衣服も持って上がる。
 初めの頃は要領も悪く、石鹸を体中に塗った頃には雨が過ぎて日がかんかん照りつけるので、体がこわばって困ったものであった。
 しかし馴れるに従いスコールが過ぎて行く三、四分の間に全身を洗い、衣服も洗濯することが出来るようになった。

 昭南島での任務はない。輸送の関係で出発を待つばかりである。
 この島には英印軍の捕虜が大勢働いていた。服を脱いで朗らかに、時には笑顔を見せていた。不思議に思うくらい楽しそうだった。中には口笛を吹く者もいた。
 監視している兵の話によれば、彼等はこの仕事は自国・英国の復興の仕事で今に英軍がやって来ると言っているそうであった。

 朝夕の点呼と体操が主な日課であった。
 そのうち戦陣訓を習うようにとの達旨で、朝夕の点呼の時に唱えるようにとのことである。私はその気もなく、また覚えも悪かった。
 浜松の積志から来た山下君は動きはのろいが、頭の働きはよかったので直ぐ戦陣訓を暗記した。
 点呼の時には私の横に並ばせて山下君に小さな声で一節ずついわせる。それを私が大声でいう。その後全員で大声で復唱する方法でやった。
 戦陣訓を全部暗記できた者から外出を許可し見物に行かせるというのである。かなりの者が出来て外出したようだ。私は出来ない同志でのんびりとしていた。

 やがて近いうちに昭南島を発つという話がささやかれるようになった。
 夜、屋上に出ては南十字星を眺め、また北の方を眺めては祖国を偲んでいたので、この眺めもお別れだな等考えていた。
「加藤、ちょっと来い」と呼ばれた。
 なんだろうと思いながら指揮班に行ってみると、軍曹が加藤お前等戦陣訓の出来ない者が三十六名いるから、お前が代表で兵を引率して見物して来いとの命令であった。

 翌朝、公用証を腕に着けて整列させ点呼をとり注意を与えた。
 列を乱さないこと、欠礼をしないこと、昭南島には南方軍総司令部があり、将校の自動車(将官は黄、佐官は赤、尉官は青)にそれぞれ旗を立てて走っているから、前から来るのは俺に判るが、後ろから来るのは判らない。そこで後尾の者は直ちに伝言しろといった。

 今日はゆっくり見物出来ると皆はしゃいだ。私が先頭になって指揮をしながら門を出た。
 上官のいる時は私の命令も少しは効きめがあるが、上官が見えなくなると始末に困る。同年兵に指示することは大変なことだ。
 門を出たとたんに旗を立てた車が通る。
「気をつけ」大声で号令をかけて歩調を取らせ、挙手の礼をする。通り過ぎるのを待って、「なおれ」と号令して手を下げる。
 後ろから伝言が私のところに届く頃には遥か前方に行ってしまう。それでも欠礼は許されない。気をつけの号令をかけて挙手の礼をする。

見物どころではない。欠礼のないように神経の使いっぱなしである。
 とうとう皆がしびれを切らして
「おい加藤やぁ敬礼練習に来たのではないのに、これでは見物どころじゃないから帰ろうよ」と泣き言を言い出した。

 私はとうにそう思っていたのだ。
 肩についている階級章は一つ星だ、軍隊でこれより下級の兵はいない。
「おいッみんな帰ることに異議はないか」
「異議なし」
 異口同音に答が返って来る。
 それではそうしよう、「廻れ右進め」と号令して私は前に移動して指揮を取りながら、来た時と同じように敬礼をしながら、兵舎に帰った。

 三島を出るとき野戦重砲本科の軍曹一人と伍長二人がずっと一緒であった。
 彼等はチモール島に行くとのことで、昭南島に着くまでは若いだけに威勢がよかったが、埠頭で別れる時はすっかりしょげてしまって、チモール島に着くまでに船も沈められてしまうかもしれないとこぼしていた。

 私はチモール島が何処にあるのか知らなかった。
 復員してから調べたのだが、この島はオーストラリアの北西でポルトガル領のようだ。アメリカ軍が全然見向きもしなかったとかで、彼等も無事に復員して、今何処かで元気に暮らしていることと信じている。

 また、ジャバ島から移動して来た軍属がジャバの煙草だと一箱くれたので皆で分けあった。チョコレートの匂いが強くうまいと思った。

 ビルマに着くまで行軍するところがあるから背嚢を作れとのことでズックの布を配給され、型紙で各自裁断して針と糸を渡され一生懸命作った。
 これが転進してモールメンに着くまで役立った。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ビルマ戦線 一兵士の回想 更新情報

ビルマ戦線 一兵士の回想のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。