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動かない托図書館コミュの〜鳳雛、来庭〜【おたり15】

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【ネタ】
アイマス&托ス。
作成日時が2008年10月だったので、たぶんすべての雪歩ネタが
いい具合に発酵しまくっていたころの産物。

【内容】
結婚後、アイドルとしての一線をしりぞいて
小谷家の若奥様となった雪歩。

とある閑日、小谷邸の彼女の元をおとずれた人物がいた。

かつて、ともに同じ事務所に所属し、
いつも羨望の眼差しで見ていた彼女。

束の間の邂逅、しかしそれは雪歩にとって
百千万億倍にも意義ある時間であった。

そしてそれはまた、これから始まる伝説への梯子――

コメント(4)



=小谷邸 とある土曜日 11:14am=

今日はちょっと曇りがちな日曜日。
お洗濯物も乾きが悪くて、すっきりしない気分…あぅぅ。

でも、そんなじめじめした雰囲気を吹き飛ばすような、
嬉しいことがあったのです!

わたしがアイドルとして活動していた時期に、
同じ事務所にいたお友達の如月千早ちゃんが、なんと
うちに来てくれたのです!嬉しいなぁ。

その始まりは、まったく不意にインターホンの音が鳴ったことから。

ぴんぽーん

わたしはちょうどその時、プロ…じゃない、
おとうさんのYシャツを部屋干ししていました。

「誰だろう…」

セールスか何かだろうと、大して気にも留めずに玄関へ向かいました。

「はーい。どちらさまでしょうか」

ドアの覗き窓に少し顔を近づけながら、聞きました。
…お、おとこの人じゃないみたいですね…あれ?

「こんにちは、突然の来訪にて失礼いたします。
…萩原、いえ、小谷雪歩さん、いらっしゃいますか」

え…?
ええーっ!

「ち、千早ちゃんっ!?」

驚きで、すっとんきょうな声を上げてしまうわたし。

わたしは最初、その声を聞いても一瞬誰だか思い出せませんでした。
うぅ、物覚えの悪いトリ頭でごめんなさいぃ。

「ああ、雪歩…ごめんなさいね、いきなり。
近くまで来る用事があったものだから…」

間違いありません、千早ちゃんです…あうあう、どうしよう。

「は、はい!今、開けますから」

たどたどしい手つきで、ドアノブをひねりました。

がちゃ。

扉を開けた向こうには―

「久しぶりね、雪歩。元気だった?」

ああ、千早ちゃんです…服装が少し、事務所時代とは違いますが
まぎれもなく、如月千早ちゃんその人ですぅ…

腰に片手をかけ、屹立するその気高い像は、あの頃と同じ―
いいえ、あの時以上に輝いて見えました。

わたしは両手を口もとに当てたまま、しばらく声が出せませんでした。

「…雪歩?どうしたの」

千早ちゃんがいぶかしげな眼差しでこちらを見つめています。
わたしは、はっと我に返りました。

「あ、す、すみませんすみません、ちょっとぼぅっとしてしまって」

千早ちゃんは、わたしの慌てぶりを見て、くすっと笑いました。

「変わってないようね…貴女」

なんだろう…無性に嬉しくて、まともな行動が取れなくなっちゃってます。
ダメダメです、わたし…

「あ、ち、千早ちゃん。良かったら、少し上がっていかない?」

それだけ言うのが精一杯。

「まあ、よろしいのかしら?では、少しだけお邪魔させていただきます」

やわらかな微笑みを浮かべ、千早ちゃんは玄関の中へと歩を進めてきました。
そういえば、うちに他のみんなをお招きするのって、初めてかもしれません。
お隣のやよいちゃんだって、こんなに近いのに来たことないからなあ…


「すみません、散らかってて」
「構わないわ。私がいきなり訪ねてきたんですもの」

干しかけの洗濯物が山積しているカゴや、水の入ったバケツが
そこらへんに無造作に放り出してある廊下を進み、
わたしは千早ちゃんを居間に通しました。

こんな生活感のにじみ出た状態のおうちに、お客様をお招きするなんて…
恥ずかしいですよね…ひさしぶりに穴掘って、埋まりたい気分になったのは
ナイショです。

居間の卓の前に、千早ちゃんに座ってもらいました。
このお部屋は、今日いちばん初めにお掃除をしたので
きれいになってます。ふぅ、良かったぁ。

わたしはいそいそと、座布団を出しました。

「おかまいなく」

千早ちゃんは軽く手を振って、わたしに気苦労をかけまいとしてくれます。
ああ、やっぱり千早ちゃんって優しいな…

「雪歩…お願いが、あるのだけど」

間をおかず声をかけられたわたしは、はたと振り返りました。
千早ちゃんが、おだかやかな表情でこちらを見上げています。

「なぁに?千早ちゃん」

わたしも、すっかりあの頃の話し方に戻ってしまいました。えへへ。

「雪歩の淹れたお茶が飲みたいわ。いいかしら?」

もともと、お茶を淹れようと思って立ち上がった矢先だったのですが…
わたしも、間髪入れずに返答しました。

「うん、喜んで!ちょっと、待っててね」

わたしは、お客様用の茶器一式を用意し、
とっておきの小型のやかんを取り出して水を注ぎました。

「…あら?そのやかん、変わった色ね。金色だわ」

それを目に留めた千早ちゃんが、背後から問い掛けてきます。

「あ、これですか?小さいけど、純金製なんです。
お湯を沸かすときに、余計な味を水に混ぜないためのものでして」
「ふうん…純金なんて、ぜいたくさの象徴みたいなものだと思っていたけど、
なるほど、そう考えるとこれは実用性にもっとも富んだやり方なのね…」

千早ちゃんが、納得したようにうなずいていました。
この小さな純金製のやかんは、わたしがここに嫁いでくるときに、
お母さんが持たせてくれたものなんですよ。うふふっ。

しゅぼっ。

小さなやかんなので、火にかけると大した時間をかけずにお湯が沸きあがります。
火を使うので、暖房を入れなくても居間の中がほんのり暖かくなってきました。

「雪歩のお茶…いつも、事務所で淹れてもらっていたわね。
とっても、美味しかった」

卓に頬杖をつきながら、千早ちゃんがしみじみと呟くように言いました。

「そう言ってもらえると、嬉しいですぅ」

わたしも、振り返らずに答えます。

「あれから、もう3年経つのね…」

しゅんしゅん…

やかんのお湯が沸きあがる音に、千早ちゃんの独白がまぎれて消えていきます。

こぽこぽ…

いつもの慣れた手順で、わたしはお茶を淹れました。
あの頃、わたしのプロデューサーに、事務所のみんなに淹れたお茶。
そして今は、わたしのプロデューサーだった人に、淹れているお茶。

「ああ…いい香り」

部屋に充満するお茶の芳醇な匂いに、千早ちゃんがうっとりした様子で
呟きました。わたしも、お茶を淹れるときの香りがたまらなく好きです。

「お待たせしました。どうぞ」

わたしはふたり分の湯のみを卓上に置き、
ひとつを向かい側に座る千早ちゃんについ、と差し出しました。

「ありがとう」

その湯のみを手で包むように持ち、引き寄せる千早ちゃん。

「お口に合えばいいんですけど…どうぞ召し上がれ」
「ええ、それでは、いただきます」

千早ちゃんとほぼ同じタイミングで、わたしも湯のみを口に近づけました。

ずず…

ふたりの、お茶をすする音が響きます。

こと。

千早ちゃんが、湯のみを卓に戻しました。
あれ、全部飲んじゃったんだ…熱くなかったのかな?
っていうか、千早ちゃんも一気飲みなんてやるんだ…

そんな錯雑とした想いに胸を満たしていると―

「…美味しい。とても、美味しいわ」

至極、満足そうに千早ちゃんが目線を落としてほう、と溜め息を漏らしました。

「良かったぁ。千早ちゃんに褒めてもらえるなんて、光栄ですぅ」

これは、わたしの本心からの言葉。
千早ちゃんは昔から、本物を観る目が確かなので
お茶好きを自称する身としては、なまなかな物を出すわけにはいきません。

すると、千早ちゃんはふっと顔を上げ―


「雪歩。貴女いま、幸せなのね…」
「え…」

唐突にそんなことを言われたので、わたしは目を白黒させてしまいました。
ですが、千早ちゃんはわたしの様子を気に留めるでもなく、続けます。

「お茶の味があの頃よりも格段に美味しいわ。いえ、あの頃も充分
美味しかったけど…今の貴女のお茶には、"ぬくもり"がたくさん入っている」

ぬ、ぬくもり?
お茶は熱いお湯で淹れるものですから、あったかくて当然ですが…
あ、もちろん、千早ちゃんがそんなジョークを言っているわけでは
ないことは、わたしも分かりますよ?

「小谷プロデューサー…いえ、小谷さんは、良くしてくれるの?」
「うん。すごく優しくしてもらっています」

これも、わたしの本心からの言葉。
そんなプロ…いえ、今ではおとうさん、なんて呼んでいますが…
あの人は、今日も仕事で朝早くから出かけています。

「雪歩。もう一度聞くけど―貴女、いま幸せ?」

さらに、千早ちゃんが真摯な面持ちで聞いてきました。

「はい!とっても」

わたしも、即答しました。

「そう…良かった」

千早ちゃんはわたしの答えの様子に満足したのか、
花が咲くように可憐な笑顔になりました。
それにしてもきれいだなぁ、千早ちゃんの笑顔…

「千早ちゃんは、今どうしてるの?」

今度は、わたしが聞きました。
湯のみを両手で包む仕草をしながら、千早ちゃんがゆっくりと口を開きます。

「私はね…あの後、さる方のつてでヨーロッパに渡って、
歌の特訓をしていたの。今回、所用があって日本に久しぶりに帰ってきたところよ」
「よ…ヨーロッパに行ってたんだ!すごいね」

わたしが大仰に驚いたので、千早ちゃんはくっと微笑みました。

「そんなに大したことじゃないわ。向こうには、私よりすごい子たちが
たくさんいたし…でも、いい勉強になったわ」

そんな千早ちゃんの言葉を聞いているうちに、
わたしにもある「願望」が胸のうちに芽生えてきました。
そしてそれは、自然と口を突いて出ていました。

「千早ちゃん、わたしからもお願いがあるんだけど」

きょとん、と千早ちゃんは目を丸くしています。
ややあって、優しい表情に戻るとやわらかく問い返してきました。

「何かしら?」
「千早ちゃんの歌…久しぶりに聞きたい」

千早ちゃんの歌は、とても素敵だった。
同じアイドルとして、あれほど他人の声に惹かれた経験もなかったんです。
あの時の羨望が今、本人を前にしてふつふつと沸き上がってきました。

「―つたないけれど、それでいいのなら」

千早ちゃんは、すっくと立ち上がりました。

「お願いします」

わたしは正座したまま、耳を澄ませます。

しばしの静寂ののち―


―泣くことなら たやすいけれど
 悲しみには 流されない


切々と訴えるような、しかし決意に満ち満ちた歌。
千早ちゃんの十八番、"蒼い鳥"です…!

すごい、すごすぎる…
全身が総毛立つような感動が駆け巡ります。
わたしは、胸の奥から熱いものがこみあげてくるのを実感しました。


―この翼もがれては
 生きてゆけない私だから


気が付くと、千早ちゃんの"蒼い鳥"は終わっていました。
わたしははっと顔を上げました。

「ショートサイズで申し訳ないけれど…
って、ちょっといやだ、雪歩。大げさよ貴女…」

たしなめるような口調の千早ちゃんの言葉。
あれ…わたし、何かしたかな…?


ぽろぽろ。

顔を上げた時、なにか熱い水滴がほっぺたを伝うのが分かりました。

「え…?な、泣いてた?わたし…」

な、涙ですか?!いいえ、ぜぜぜ、ぜんぜん
気づきませんでした!本当です!!

くすり、と微笑んだ千早ちゃんが、誇らしげに言います。

「ありがとう、雪歩。貴女のその涙こそ、最大の賛辞だわ」

わたしは思い出したように、こくこくと頷きました。

「すごい…すごかったよ千早ちゃん。感動したよ」

ふと、千早ちゃんが腕時計をちらりと見遣りました。

「あら…もうこんな時間なのね。ごめんなさい雪歩、
私、そろそろおいとまするわ。行くところがあって」
「あ、そうなんだ。ごめんね、引き止めちゃって」

わたしのような元アイドルと違って、千早ちゃんは
現役のカリスマ的アイドル。忙しいはずですよね。

「いいえ。いつも以上に有意義な時間を過ごせました。
ありがとう、雪歩。今日、貴女に会えて良かった」

千早ちゃんはにこりと笑いました。何度見ても、きれいですぅ。
そういえば、あの頃に比べても格段に笑顔が増えたような気がしますね。

玄関先で、わたしは千早ちゃんを見送りました。

「お邪魔しました。今日は本当にありがとう、雪歩」

千早ちゃんが丁寧にお辞儀をすると、ふわりと長い黒髪が宙を舞いました。

「うん、大したおもてなしもできなくてごめんね。また、きっと会おうね」

名残惜しげなわたしの声は、ちょっと震えていたかもしれません。
だって、千早ちゃんは多忙だから、次はいつ会えるか分からないし…
そう思うと、胸がきゅっと締め付けられるような感覚に…あうぅ。

「そうね―また、きっと会いましょう。いえ、会えると思うわ」

対する千早ちゃんは、さして深刻な様子でもなく、あっさり答えました。

「それじゃあ、また。さようなら、雪歩」

軽く手を振りながら、千早ちゃんの姿が遠ざかっていきました。
わたしは、千早ちゃんの影が完全に見えなくなるまで、
その場でずっと立ち尽くしていました。

その夜。

土曜出勤だったプロ…おとうさんは、かなり早く帰ってきました。
わたしは、千早ちゃんが来たあらましを語りました。

『そうか、如月君がね…』
「ええ、とっても嬉しかったんですけど…反面、分かれるのがつらくて」

『でも、また会えるんじゃないか?』
「…千早ちゃんもそう言っていましたけど…わたしは引退、
向こうは現役ですよ?またって言っても、何年先になるんですかぁ」

千早ちゃんだけでなく、プロ…おとうさんまでも楽観的なので、
ついつい口調がとんがってしまうわたし。うぅ、すみません。

『だいじょうぶだよ。信じていれば、かならずまた会えるさ』
「そうですか…」

そう言われても、わたしはにわかには信じられません。

「あ、いけない。お風呂沸かしっぱなしでした。見てきますね」

わたしはいそいそと、お風呂場へと向かいました。

『―そうか、如月君も新年のデビューに向けて調整するために、
年末を待たずに帰国したってことか。こりゃいよいよ面白くなる』

プロ…おとうさんが、居間でひとりごとのように呟いているのを、
わたしはまったく気に留めることはありませんでした。

かくして、短い時を経てわたしはふたたび千早ちゃんと再会することに
なるのですが、今の時点ではそのことにはまったく思いが及びませんでした。

かくて、新年が訪れます―

to be continued.

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