ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

動かない托図書館コミュのいたるところに、ともにあり。【おたり013】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【ネタ】
托ス。人の生死が描かれていますので、ちょっと重いです。

【内容】
未来日記ネタ。生あるものはかならず滅ぶ。
だからこそ、生あるものは全力で生きる。
だからこそ、生あるものは美しい。

生命は永遠であるとわかっていても、彼女は悲しかった。
それはまた、彼女が生きていることの証左に他ならない。

メインパーソナリティが南ちゃんなので、
必然的に相方であり主人であるみなみが
こんなシリアスネタに登壇するハメに。

たまに読み返すと、自分でも泣けるあたりが俺流。

コメント(5)



何度目か、数えるのも億劫なほどの秋がまた巡ってきた。
屋敷を囲むいくつもの樹木たちが、遠慮なくその装いを脱ぎ捨てていく。

「…きりがないですね。芋でも焼きましょうか」

舞い散る紅葉を眺めながら、箒を動かす手を止めた少女は
ややうんざりした様子でつぶやいた。
赤や黄色に染まった千葉(せんよう)だけでなく、
少女が持つ長大な銀髪もまた微風にそよいでいる。

少女は、自分の髪や身にまとっている白衣にくっついた落ち葉を
軽くはたきながらほう、と深い溜め息を漏らした。

「こんにちはー!」

甲高い呼び声に、はっと顔を上げる少女。
見れば、黒髪の短髪の少女がこちらに駆け寄ってくるところであった。

「おや、久しぶりですね」

銀髪の少女はほとんど表情も変えずに答えた。

「今日はどうしたのですか、皓跪(こうき)」

皓跪と呼ばれた黒髪の少女は、
ちから一杯走ってきたためか息を切らせている。
彼女は呼吸を整えてから満面の笑みを浮かべた。

「うふふっ。実は…わたし、今日から中庸太守の座を継いだんですっ!」

銀髪の少女の目が一瞬豁然と開いた。

「…なんと、それは。では、名も継いだのですね―彼女の」

皓跪はきれいな歯を剥いて破顔する。

「はい!わたし―小谷皓跪改め、四代目・萩原雪歩となりました!」
「雪歩…ああ、懐かしい」

それまで無表情だった銀髪の少女は、わずかに微笑んだ。

「それで、真っ先にみなみおばあちゃんに報告したくて、来ちゃいました」
「…そうですか。遠路痛み入ります皓跪。いえ―"雪歩"」

そう言いながら彼女は箒を壁に立てかけ、皓跪を自邸へといざなった。

「あっ、みなみおばあちゃん、今日はお加減どうですか?南(なん)様」
「ええ、思いのほか良いみたいです。床を払っておられましたから」

年代を感じさせる屋敷の門をくぐりながら、銀髪の少女―
南堕華=太宗神阜(ナンデューファ・たいそうこうふ)は
先ほどよりもさらににこやかな表情で隣の黒髪の少女を振り返った。


「失礼いたしますマイマスター。皓跪が来てくれましたよ」

広々とした居間の中へ向かって声をかける南。
しばしの静寂。

「…ああ、ごめんね南。どうぞ、入ってもらって」

のんびりした口調の声が返ってきた。
それを受けて、南は皓跪を伴って部屋へ入る。
皓跪が軽やかな歩調で居間のソファに座っている女性―
老婆と呼んで差し支えない―に近づいて声をかけた。

「みなみおばあちゃん!こんにちは。わたしが誰だか分かりますか?」

ぬっ、と顔を突き出す皓跪。
みなみは、軽く目を伏せたままでゆっくりと頷く。

「はいはい、分かるよ…皓跪ちゃんだね」
「おおー、すごい!よく分かったね」

半ば本気で面食らったように、皓跪が感嘆する。
その言葉に、みなみが肩をゆすって笑った。

「分かりますとも。だって皓跪ちゃんは…雪歩義母様のにおいがするから」
「ふぇ〜。確かにわたしは初代雪歩様の曾孫だけど…すごいなあみなみおばあちゃんは」

それまでふたりのやりとりを見守っていた南が、口を挟む。

「当然です皓跪。私のマイマスターですから」
「皓跪ちゃん、はるばる訪ねてきてくれてありがとうね…それで、今日はどうしたの?」

相変わらず柔らかな笑顔のみなみ。
対して、皓跪は少し威儀をただして向き直った。

「はい。今日をもって、中庸太守の座と、四代目・萩原雪歩の名を継ぎました。
そのご報告にまかりこした次第です」

"雪歩"という言葉に、みなみの顔から一瞬笑みが消えた。
しばらくして、人生の年輪を重ねた顔にふたたび笑顔が戻る。

「…そうかい、そうかい。皓跪ちゃんがねぇ…嬉しいよ〜」

そう言いながら、眼前の少女の顔をそっと痩せ細った手で触れるみなみ。
その手は、やや小刻みに震えているようであった。

「(…みなみ様。ああ…)」

南は、その光景をやや離れたところから眺めていた。
己が主と定めた人物の、晩暮たる有り様を見るたびに
胸が締め付けられるような切ない気持ちに襲われる。

かつて艶光る桃色だった髪はすでに色が抜けて真っ白になり、
もちもちしていた柔らかな肌も、すっかり皺だらけ。
大樹の幹にも似た、乾燥した感触になっていた。

「(でも…)」

南は思い返した。
みなみは齢すでに百を超えてなんなんとしている。
南が知っている"家族"の中では、いちばん長生きなのだ。

―おたり。
―こぶちざわ。
―雪歩。
―リーゼロッテ。
―紫。
―太丕。
―つくみ。
―ゆうち。

そして―宙空。

すべては、過ぎ去った事象の中の風景。二度と戻らぬ、還らぬ日々。
南は軽い寂寞感に包まれながら、そっと目を伏せた。

「みなみおばあちゃん、いつまでも元気でね。また会いに来ますから」
「うんうん。気が向いた時でいいよ〜。皓跪ちゃんも忙しくなるでしょうから」

ふと目を開くと、皓跪がみなみの両手を取って暇を乞うているところであった。
それが終わると彼女は南のところにも歩み寄って来た。

「南様、お邪魔しました。―みなみおばあちゃんのこと、よろしく頼みます」

ぺこり、と一礼する皓跪。短い黒髪がふわりと揺れる。

「はい。今日はありがとう、皓跪。マイマスターも喜んでおられました」

皓跪が帰路につくのを見送った南は、
少女の姿が見えなくなるまでずっと立ち尽くしていた。

「…ああ、いけません。掃除の途中だったんでした」

思い出したようにつぶやく南。
周囲はゆるゆると夜が降りてくる時刻となっており、
舞い散る落ち葉も昼間に比べるとさして多くない。
南は壁に立てかけてあった箒を片付けるといそいそと自邸へと戻った。


「ねえ、南」

いつもは口数の少ないみなみが、珍しく呼びかけてきたのは
簡素な夕食を終えて間もなくのことであった。

「…はい、なんでしょうかマイマスター。
もしや、今夜の食事がお口に合わなかったでしょうか?」

いつもとは違うやりとりに、つい先走った発言をしてしまう南。

「ううん。そんなことないよ〜。南の料理は、奥様…
雪歩義母様ゆずりの味だから、いちばんわたしに馴染み深いもの」

南の的外れな発言に、コロコロと笑うみなみ。

「失礼いたしました。主を差し置いて私が発言してしまうなど、あるまじき失態」

ふかぶかと、ソファに座っているみなみに対して頭を垂れる南。
長大な銀髪がさらさらと揺れ、床にこぼれる。
そんな、忠実な従者の様子をしばらく見ていたみなみは、くすりと笑った。

「変わらないね、南は。…わたしと出会ったときから、ずっと」

南ははっと頭を上げる。どこか、湿り気のある声であった。
途端に、南は思考が乱れていく。最近はいつもこうである。

―こだいちゅうごくでは、ちょくせつこういうとふきつなかんじがするから、
わざと「ありうべからざること」ってあいまいなひょうげんにしたんだよ。

百年近く前、かつてこの屋敷でともに暮らしていた栗色の髪の少女が
そう語っていたことを頭の片隅で思い出す。

―四劫。
―三世にわたる永遠の生命。
―不二。
―次なる生への旅立ち。

世界を網羅する情報の海のみならず、森羅万象の一端をも知覚することを得た
南にとって、"それ"は知識としても経験としても充分に蓄積されていた。

しかし、彼女は自身の主人の場合だけは、どうしても認められなかった。
否、認めたくない。受け入れたくない―

「(理屈では分かっていても、どうしてこんなに悲しいのでしょうか。
ただの機械のはずの私に、どうしてこのような感情が?)」

かつて、隣人にそう尋ねたことがある。
その隣人は実にあっけらかんと答えてくれた。

「(貴女がそれだけ人に近くなったのよ)」

あの時は、あまり意味が分からなかった。
でも、今はあの時よりは少し、いやかなり分かるようになった。

「(ふぁいゆーぶ…貴女は今、どこに)」

その隣人は、かなり早くから姿を見なくなった気がする。

南の想念は、留まるところを知らずに膨れ上がりつつあった。

「…や。おーい、南」
「は、はい!?どうなさいましたマイマスター!?」

主の呼びかけに、慌てて反応する南。一気に現実に引き戻される。

「だから、あの娘が可愛かったねえ、って話。聞いてなかったの〜?」

ちょっとだけ拗ねた口調になるみなみ。
しかし、その顔には童子のようないたずらっぽい笑みがあった。

「は、いえ。…恒代(とこよ)のことですか」
「そうそう。とこちゃん…可愛かったねえ」

南は、過去に2度会ったことのある少女の面影を思い出していた。
自身によく似た長い銀髪に、左右色の違う瞳を持ち、
なぜかいつも和服袴姿で赤い番傘を手にしている―と、奇抜な要素満載の少女。
そして彼女のことを思い出すとき、南は決まって暑い夏を連想するのであった。

"恒代"という名前も、実は南が与えたのである。
―当初、少女は自分の名前を覚えていない、と言っていたがゆえに。

主であるみなみは、最初の遭遇には居合わせなかったのだが
後日、面会を果たした。ひと目見て、みなみは恒代を気に入ったようであった。

その邂逅以来、つねづねみなみが話題に上らせるので
南にとっても彼女のことは日常茶飯事となっていた。

「…うん。決めた。南…貴女に、最後のわがままを言っておきたいんだけど」

―最後。
その響きに、南は恐怖した。一瞬、びくりと身をすくませる。


そんな従者の様子を、しかしみなみはあえて無視して言葉を継いだ。

「わたしが死んだ後は、恒代ちゃんを貴女の次のマスターとします。いいよね、南?」

死。
南は、その言葉だけは避けに避けてきた。
認めたくないから。受け入れたくないから。

しかし、今目の前で主であるみなみから突きつけられる格好となってしまった。
いかな南といえど、彼女の言葉には絶対に逆らうことができない。

「―ッ」

南の口が開きかける。その両の瞳に、丸く膨れ上がるものがある。

―承服いたしかねます。私のマスターはみなみ様、貴女だけです。
―他の誰でもない、私はみなみ様だけの従者です。

言いたい。声を大にして言いたい。
全身が、南の身体の細胞すべてがそう懇(こいねが)っている。

でも。

「仰せ、確かに承りました…マイマスター、小谷みなみ様」

想いとは裏腹に、彼女は明朗に主に告げた。
滂沱と流れる涙が、ぽたぽたと床にこぼれ落ちる。
そんな彼女に、みなみがよろよろと立ち上がって近づいた。
南は、思わず一歩に前に進み出る。

やがて、白衣から覗くみなみの枯れ枝のような両の腕が
南の身体をやさしく抱きしめた。
彼女は、自身の頬を南の頬に甘えるように擦り付ける。

「南…ごめんね。こればっかりはどうしてあげることもできないけど…
でも、約束するよ。わたし、またすぐに貴女の近くに戻ってくるから」

南は、自分の頬に自分のもの以外の湿り気を感じた。

「…あはっ。せっかちですね、マイマスター。
…せっかくの中陰(ちゅういん)を楽しもうとなさらないのですね」

こんな状況なのに、南はみなみの物言いになぜかおかしみを感じて笑ってしまった。

「わたし、早起きだもん。知ってるでしょ、南」

みなみもまた泣き笑いの声で、すっかり昔―少女の頃の口調に戻って語りかける。
はや、南は昂ぶる感情の波を止めることができなくなっていた。



いくばくか後。
みなみは、たくさんの縁者、知人に囲まれ、看取られて
百年余の生涯をおだやかに閉じ、旅立っていった。

南は、哭(な)いた。
声を張り上げ、全身を干上がらせるほどに涙を流し、南は、哭き続けた。

みなみの死は、すなわち南との魂の契約の終了。
それこそまさに、南にとってはどんなものよりも絶えがたい苦痛。

これ以後彼女は主の住んでいた屋敷に閉じこもり、姿を見せることはなかった。
―南は、みなみの喪(も)に服したのである。

彼女が喪を払ってふたたび世界に出たとき、すぐそこに秋の気配が近づいていた。


墓標を囲むいくつもの樹木たちが、遠慮なくその装いを脱ぎ捨てていく。

「…きりがないですね。焼き芋はお好きですか」

箒をこまめに動かして落ち葉を除けていた南は、ふとその手を止めてつぶやいた。

「誰に言っておるのだ、そなたは」

唐突に、南とは違う少女の声が割って入る。

「貴女の他に、ここには誰もいませんよ。太丕(たいひ)」
「ふん。かなり前から分かっていたのであろう。相変わらず食えぬ奴よの」

いつの間にか、南の後方に墓標に肘を預けて立っている少女がいた。

長い黒髪は陽光を受けて七色に輝いて見え、金色のふたつの瞳が南を見ている。
頭上に突き出した2本の角、口元に覗くちっちゃな牙、
群青色の法衣をまとった後ろに見え隠れする艶やかな光沢を放つ漆黒の尾。
そして、微風を受けてせなになびく、一対の巨大な漆黒の翼。

―どう見ても、この世の者とは思えない、異形のかたまりの少女。

しかし南はこの闖入者に別段驚く様子もない。
それもそのはず、この異形の少女と南は面識があった。
それどころか、一時期ともに同じ屋根の下で暮らしていたことすらあった。
―この、かつての南の主が住んでいた屋敷で。

その少女―太丕が、ゆっくりと南の横に並ぶ。
彼女は、つと墓標を振り返った。

「…逝ったのか、みなみ姉様も」
「ええ。とても安らかな最期でしたよ」

こともなげに言う南の顔をまじまじと見つめながら、太丕は溜め息を漏らした。

「…強くなったな、お前も」
「そうでもありません。3年目にしてようやくこの体たらくですから」

さあっ、と風がにわかに巻き起こり、色とりどりの紅葉を舞い上げる。
しばしの間の後、南が問いを発した。

「そちらはどうですか」
「ああ、特に何もない。平和だ。
おたりとこぶちざわはだいぶ前に逝ったがな」

南は表情は変えずに太丕のほうに顔を向けた。

「あやつらは死ぬ間際まで一緒なうえ、死ぬのも一緒だった。
この朕(わたし)に見せつけるようにな。ええい、忌々しいっ」

眉間に皺を寄せて不機嫌な表情の太丕。
南は柔らかな笑みを浮かべながら彼女の顔を下から見上げる。

「お互い、辛い身ですね」
「応。ふたりとも、子沢山でな。孫やら曾孫やらが数え切れんほどにおるわ。
まったく、後に残って世話をする身にもなってみろと言いたいぞ」

南の意図とは違う解釈を始めた太丕であるが、
その表情はにわかに誇らしげなものに変わっていた。

ふたりの頭上には、紫がかった青空がどこまでも広がり、
細かい雲がいくつも流れ去っていく。

太丕が、ふたたび口を開いた。

「みなみ姉様は、何か言い遺さなかったか」
「ええ。次のマスターをご指名いただきました」

南は、みなみの最後の願いのあらましを太丕に告げた。
彼女は驚いたように南の顔を見る。

「…そなた…容(い)れたのか、その願いを。
長いぞ。少なくとも千載はくだるまいに」
「ほう、それは楽しみですね。しかし、
なぜそのようにお分かりになるのですか」
「当たり前だ。真に求めるものというのは末世に入らぬと
遇(あ)えぬと、相場が決まっておる」
「後の五五百歳の間、というわけですね」

いたっておだやかな様子の南。
太丕は呆れたようにそっぽを向いた。

「知っていて、なぜ承諾した」
「先のマイマスターのお言葉ですから」

そこまで言うとふと何を思ったのか、南は足元に置いてあった
風呂敷包みをごそごそとほどきはじめた。腰をかがめながら、なおも言葉を継ぐ。

「こちらの世界、あちらの世界。私と貴女。去り行く存在、訪れ来る存在。
すべてありのままの法なのですよ。だから、私たちもありのまま生きていけばいい」

にっこりと微笑みながら、南はふたたび太丕の顔を見た。
対する太丕も、ふっと笑いながらひとりごちた。

「やはり、強くなったな…南。朕はそなたのようにはなれそうもない」

すでに南は墓所の脇で落ち葉をこんもり積み上げた前に立ち、
風呂敷包みからいくつかの薩摩芋を取り出しているところであった。

「太丕、これから焼き芋をしようと思いますが、貴女もひとついかがですか」

相変わらず笑顔のまま、南は太丕に呼びかけた。
太丕もまた、ゆっくりと墓所の石段を降り始める。

「たまのことゆえ、馳走になるとしよう。いい具合に仕上げてくれよ」
「お任せください」

そう言いながら、南は芋たちを落ち葉の山の中に突っ込むと火を点けた。
ぱちぱちと、軽快な音を立てながら赤い炎が立っていく。

ふと、太丕が顔を上げると白い一筋の煙が、秋めいた青空に
吸い込まれるように高く立ち昇っていくのが見えた。

糸冬

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

動かない托図書館 更新情報

動かない托図書館のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング