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It's side storyコミュの小説「今でも僕は・・・」

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このコミュニティ初の小説です。
一種の挑戦でもありますので暖かい目で見てやってください。

このトピへの感想・苦情はカテルまで直接メールください。
このトピに続けて書いていきますので書き込みはご遠慮ください。

それでは小説「今でも僕は・・・」不定期連載開始です。

コメント(18)

プロローグ

ねぇ知ってる?
地球上の生物の中で人間だけが自ら命を落とすんだって。
何が何でも生きようとする、どうにかして子孫を残そうとする。そういう本能を理性で抑えてしまえるからなんだって。
どうしてこんな話をするかって?
それはねこれから話す彼がひそかにしていたからだよ。自殺未遂を。

彼は色々と試した。
カッターで手首を切ってみたり、紐で首をつってみたり、車の前に飛び出そうとしたり。
でもどれもうまく行かなかったの。
カッターで切った手首はすぐに血が止まっちゃったし、首をつった紐は切れてしまったし、車に飛び込もうとしたときなんて足がすくんで動かなかった。
そう全部失敗。しかもビビッて失敗。笑っちゃうよね。
でもね彼はいつもギリギリだったんだ。未来も希望も見えてなくて。
ただただ必死にもがいて、強がって、すべてに怯えてた。
周りから見ればフツウだったかもしれない。だけど彼は身も心もボロボロだったんだ。

でも転機が訪れる。
始まりは今から10年以上も前、彼がまだ高校生だった。
暗い暗い闇の中
何も見えない
何も聞こえない

暗い暗い闇の中
誰もいない
何もない

痛くて痛くて
悲しくて
淋しくて

涙がこぼれた
涙が流れた

涙が止まらなかった

気がつくと
ぼんやり光が見えた

『もう泣かないで。
あなたが流す涙は
私がもらうわ
あなたの代わりに
私が泣くから
もう泣かないで…』
1.カヲル

1720g
それがカヲルが生まれたときの体重。だいたいフツウの半分くらい。
水をすくう時両手をおわんみたいにしてみるでしょ?大人がそれをするとそこにすっぽりと収まるぐらいの大きさっていうとわかるかな?
未熟児(正確に言うと違うらしいんだけれど、その辺のことはよくわからないから)として生まれた彼をまず待っていたのは、1ヶ月に及ぶ入院生活。
もちろん本人は覚えていないんだけれど、あんまりにも小さくてフツウに生活できなかったんだって。
退院するにはとにかく体力と免疫力が足りなかった。どちらにも必要だったのが栄養のある食事。つまり母乳だね。
でもってまたここでまた困ったことになるの。カヲルのママは母乳がほとんど出ない。で、どうしたかというともらったみたい。出すぎる人から。
それでも必要な量には足りず粉ミルクで代用。当時の粉ミルクは今みたいに栄養たっぷりじゃないから、空腹を満たすぐらいのものでしかなくて、結局入院は伸びに伸びたわけ。
そんな生い立ちのカヲルが丈夫なわけもなくて、よく熱は出すし、すぐに病気になる。
一番苦しかったのは喘息。夜中に息ができなくなり、病院に行くこともしばしば。入院だって何度もした。
でもカヲルが覚えているのは、病院のお見舞いにもらった戦隊物の絵本。同室にやさしいおねえちゃん(顔は覚えてない)がいた事。それから点滴をひいてトイレに行ったことぐらい。
ほとんど覚えていないことばかりだったけれど、ちゃんとココロには刻まれているらしく、一人の時間が多かったカヲルは寂しさを感じていた。
病院と家をいったりきたりカヲルは家でも寂しい思いをしていたみたい。
彼の家は居酒屋さんで、仕事は主に夜。両親が切り盛りするそのお店はいつも忙しくて子供にかまってられない。
赤ん坊の頃はおんぶして店に出たり、年の離れた兄が面倒見たりしていたけれど少し大きくなると、おんぶもできず、兄も店を手伝うようになり、一人2階の母屋でお留守番。
下からは大きな笑い声と楽しそうな歌声が聞こえてくる。
「降りてきちゃだめ」と言われてていけば怒られると判っていても、そこは好奇心が弾んでなんどもそっとおりっていっては怒られた。
でも、そこにいた大人たちはみんな陽気でカヲルを見つけては親に見つかるまでのほんの少しの時間相手をしてくれた。
そんなことを繰り返すうち親もすこし寛容になってきて、カヲルとお客が話していると話が一区切りするまでは苦笑いしながらおまけしてくれるようになった。
長く下にいるにはどうしたらいいか?そんなことを考えたわけじゃないけれど、次第にカヲルはおしゃべりになり大の大人にももののおじしなくなっていったわけ。
まぁそれでも夜は早く寝なくちゃいけなかったし、ほとんどの時間はひとり2階で過ごしていたんだけれど。
そうして幼少期をすごしたカヲルにとって、その生活はあたりまえのものだった。
暗い暗い闇の中
何も見えない
何も聞こえない

暗い暗い闇の中 
誰もいない
何もない

悔しくて悔しくて
憎くて
疎ましくて

拳を握り締めた
拳をたたきつけた

それでも衝動は止まらない

気がつくと
ぼんやり光が見えた

『もういいだろう?
 その悔しさ
 その憎さ
 その衝動
 全部引き受けてやる。
 だからもう自分を責めるなよ・・・』
2.泣き虫 リン

リンのあだ名は泣き虫。
リンは体が小さく華奢で弱々しい。周りの子がおおきくなっていくにつれ、リンとの差は大きくなるばかり。リンだって成長してるんだけれど、結局チビチビとはやし立てられる。
負けじと口で応戦するも生意気だなんていわれることも。自分じゃ生意気だなんて思っていないし、チビなのも自分のせいじゃない。
それなのにそういわれることはとても悲しくて、悲しくなるとすぐに瞳は潤んで大粒の涙が溢れてしまう。
ただ、泣けば泣くほど周りはエスカレートして、気がつけば泣き虫のレッテルが貼られていた。
そんな泣き虫リンにはどうしても忘れられない涙が2つある。どちらも小学生の頃の話。
1年生の時、枯れた花を見てのかわいそうと泣いていた女の子がいた。その子を見たリンも悲しくなって泣いた。それは周りの男の子達にとっては気に障ったようで、いつものように泣き虫とはやしたてられた。
3年生の時、転校していく同級生のために歌った「贈る言葉」みんなで泣きながら歌った歌。それを後日音楽の授業で歌ったとき、リンは悲しい別れを思い出し泣いた。それを見た周りは「あのこのこと好きだったんだよ。」と騒いでいた。
どちらも忘れられない。「なぜ、そういうの?」
かわいそうと泣いていた子に共感してはいけないの?悲しい別れを思い出してはいけないの?
周りから見れば幼い頃にあった一つの出来事に過ぎない、けれどリンの心に深い傷を残していた。
いつしかリンはベッドの中でひっそりと泣くようになった。人前で泣くのは我慢した。
それは傍から見れば成長なのかもしれないが、リンにしてみれば「泣くことはいけないことだからみえないように」するだけだった。
暗い暗い闇の中
何も見えない
何も聞こえない

暗い暗い闇の中 
誰もいない
何もない

辛くて辛くて
苦しくて
痛くて

耳をふさいだ
目を閉じた

それでも流れ込んできた

気がつくと
ぼんやり光が見えた

『もういいんだよ。
 何も見なくていいさ。
 何も聞かなくていいさ。
 君はじっとしてていいんだよ。
君の代わりに僕が・・・』
3.レイ

小学校4年生の頃、初めて首をつった。
何かを思ったわけじゃない。ただ目の前に紐がぶら下がっていたから、ちょっとつってみようと思ったんだ。台になる椅子を持ってきて、自分の首が入るように輪っかをつくって、首を通してぶら下がる。
これが丈夫な紐で、紐の先を結んであるのが丈夫な木だったら間違いなく死んでいただろう。
でも現実はそうじゃない。幼い僕が首を通したのは、部屋の天井からぶら下がっていた電気の紐で、首を通した瞬間に紐が切れたのは言うまでもない。

リストカットは試みたのは中学生のとき。
目の前にカッターがあって切ってみたかったから。鋭い痛みとともに溢れた血はすぐに止まってしまって、なんだかがっかりした。

飛び降り・飛び込みはしなかった。ビルから飛び降りて下を歩いている誰かを巻き添えにするのは気が引けたし、電車に飛び込んだ時家族に請求される膨大な金額を思うとそれだけでげんなりした。

僕はレイ。セイは僕を傷物って呼ぶ。
セイが言うには僕は繊細でいつも何かに傷ついているんだって、だから憎しみと怒りが溢れているって。
それから僕が死にたがりなのは、幼いときのトラウマじゃないかって。
そういわれると思い出すのが、おばあちゃんが死んだときの話。
僕はまだ幼稚園ぐらいでその時のことはあとから聞いただけで覚えてはいないんけど、おばあちゃんが体調を壊して入院しているときに一緒にプリンを食べたらしい。それからまもなくおばあちゃんが亡くなって僕は「一緒にプリンを食べたから死んじゃったの?」って聞いたらしいんだ。
僕の記憶にあるおばあちゃんの見た最後は土葬したとき。
「おばあちゃんが寒くないようにお布団かけてあげようね」っていとこのおねえさんに言われて、一緒にスコップで土をかけたとき。僕は「うん」って元気に返事して笑った気がする。
今思うとひどい孫だと思うよ。
それだけじゃない。

僕は初めての親友が死んだ時もひどかった。
彼が死んだのは事故。近所の児童公園の手前の交差点でトラックに撥ねられた。
僕が知ったのは次の日でその日は小学校初めての運動会だった。
運動会が始まる前のホームルームで担任の先生が泣きながら話してくれたのを覚えているし、そのときおお泣きしたのも覚えてる。
けれど、いざ運動会が始まればそんなことは忘れてしまって笑って騒いで喜んで・・・。

みんなが可愛がっていた白い子犬が死んだ前の晩。子犬が電気式の蚊取り線香をなめているのをみていたのに何も言わずにいた事。怒られるのが怖かったから・・・。

全部幼い頃の話。だけれど・・・幼いからって許されるの?
そう僕はひどい人間だ。だから死にたがる。

その一方で僕は憎んでいる。僕自身を。

僕は三人兄弟の末っ子で、上には姉と兄がいる。二人とも年が離れていて優しい人だ。
けれど、僕が生まれる前。二人は僕を憎んでいた。母が再婚する理由となった僕を。
母と僕の父が再婚するといったとき、二人は荒れたという。まだ多感な時期にふたりにとってそれは衝撃的だったんだと思う。結婚の最大の理由は僕が母のお腹の中にできたこと。
それだけで当時の二人が僕を疎むには十分だった。
父は優しい人だったけれど、短気で怒りっぽくて時折母に手を上げることがあった。脳梗塞をわずらってからは更にひどくなって・・・。その姿を見るたびに、嫌で嫌でたまらなくて。許せなかった父とその血を継いだことが。
僕の下にはもうひとり兄弟がいるはずだった。けれど、その子は日差しを浴びることなく消えていった。母の身体は僕を生んだ時点で限界だった。

僕は怨まれながら生まれ、嫌いな父の血を継いでその父に段々と似てきている。それはどうしようもないことでどうすることもできない。そんな僕が生まれたせいで生まれなかった命がある。
僕は僕を許せない。生まれてきたことも。死を忘れたことも。

セイは言う。「だから君は傷物だって。」
暗い暗い闇の中
淡い光が見える
3色の淡い光

暗い暗い闇の中 
小さな声が聞こえる
静かな声が

泣くことも
怒ることも
戦うこともない

僕は横になり
そっと目を閉じる

その周りには
淡い3色の光が
揺れている
4.セイ

彼は合理主義者。
視線は客観的で無駄と思えばスパッと切り捨てる。感情論は気にしない。
いつも矢面に立って正面から正論をぶつけるもんだから、人からは煙たがられたり、怖がられたりしているんだけれど本人はぜんぜん気にしない。
彼が時として放つ言葉はどんな刃物よりも鋭く相手の心を傷つけた。まるで心が凍りついたその姿から「氷のセイ」と呼ばれていた。

彼は孤高であることをいつも望んでいた。誰よりも気高くありたいと。
妥協を許さない彼の姿勢は強い意思を感じさせる。けれども、その強さゆえに一人また一人と彼から離れていった。気がつくと彼はいつも独りだった。
孤独だとは思わないという。妥協し馴れ合うぐらいなら独りでかまわないと言ってのける彼は誰よりも自分の強さを信じていた。
彼の強さは周りに多くの敵を作った。それでも彼はひるむことなく立ち向かう。立ちはだかる敵が強ければ強いほどに彼の持つ牙が爪が鋭くなり相手を打ち払った。

でも私は知っている。彼がとても優しくて人一倍熱い奴だって事。
私が泣いて苛められている時、彼はそっと慰めてくれて理不尽だと怒ってくれたし、レイが死にたがるたびに彼は穏やかに優しく話を聞いてくれる。
負けず嫌いで何事にも一生懸命なカヲルを誰よりも応援していて、彼のためにならどんなつらいことでも引き受ける。
それが私達のセイ。
カヲルの親友。私達の中心。
暗い暗い闇の中
淡い光が見える
3色の淡い光

光は同じ場所を
ゆらゆらと回り続ける

何かをかこむように
何かをまもるように

淡い光が映し出す
その中心には
蒼く澄んだ氷の塊

光が反射してきらめく様は
美しく
そして
儚い
5.ヤヨイ

二人の出会いは夏の始まりで、彼には一生忘れられない思い出となった。
といってもそれはほんの一瞬のことで、1秒にも満たなかったはずだったけれど、彼にとっては10秒にも20秒にも感じられた。
彼が部屋に入ってすぐ、机に座っていた彼女と目線があった。ただそれだけの日常よくあること。
彼はすぐに視線をそらし、部屋の隅で本を読み始めたけれど、本の内容はおろか題名さえ覚えていない。
その日覚えているのは、まっすぐこちらを見た瞳と衝撃だけだった。
同じ目をしている。そう直感したのかもしれない。
二人の出会いは生徒会室。彼は生徒会役員で彼女は文化祭実行員だった。

高校1年生の夏。彼は生徒会役員となって最初の仕事として文化祭の準備に追われていた。
小学校や中学校と違い、生徒が主体となり行われるそれは彼の初めて体験することが山積みになっていて、放課後になると各クラスや部活・職員室を行ったりきたり学校中を駆け回った。そんな中パンフレットの編集担当として実行委員から選ばれたのが彼女だった。
彼女の名前はヤヨイ。彼の2つ上の3年生。物静かで醒めた雰囲気をもった少女だった。

夏休みに入り準備が本格的になってくると、彼は毎日のように学校へ行った。もちろん準備のためだ。といっても大半は提出物を待っているだけで特にすることはなく、役員同士で雑談して過ごした。
他の生徒会がどうなのか知らないけれど、たぶんそこは変わっていたのだろう。役員以外にもOBやOG、それらの同級生など多くの人が集まり雑談して帰る。しゃべり場のようで毎日にぎわっていた。その中にヤヨイの姿もあった。
だんだんとわかったことだが、ヤヨイは男女問わず人気があるようで友達も多く、ほとんどが彼女の知り合いだった。また、みんなといるときは自然と溶け込み明るく朗らかに笑っていた。その人懐っこさと大人びた雰囲気にみんな彼女に一目置いていたようだ。
ただ、彼だけはどこか近しい感じを持ちつつも遠いように思えて上手く距離を取れないでいた。それはときおり彼女が見せるかげりのある表情に気付いていたのからかも知れない。
ピキッ
暗闇に響く音

ピキッ
ひびが入る

もう元には戻れない

痛みも悲しみも
憎しみも苦しみも

優しさとぬくもりが教えてくれた

独りで耐える
つらさと寂しさを

支えあう喜びを
ちいさな幸せを
6.彼と彼女と秋の空

夏休みが明けると学校中が文化祭の準備で慌てふためきだした。残すところ一ヶ月、どこも大忙しだ。
この頃にはパンフレットも出来上がり、配られる当日を今か今かと待ち望んでいた。となるとヤヨイの仕事はおしまい。クラスやら部活やらの出し物の準備に追われているはずだった。
けれど彼女は相変わらず放課後に生徒会室に現れた。回数は減ったもののそれでも頻繁に現れていたと思う。
彼とヤヨイの距離は少しだけ近づいていた。彼はヤヨイに話しかけるようになったし、時々イタズラ染みた事も仕掛ける。たとえばヤヨイが扉つきの棚を開けてその場で読み物をしていれば、そっと後ろから近づいて扉を閉めようとしてみたりするのだ。そうすると、ヤヨイの周りにいる先輩達が彼に仕返しをする。羽交い絞めにされ、髪をゴムで結ばれたり、ワイシャツを脱がされたこともあった。
それはそれで無邪気で笑いの絶えない時間だった。

それからしばらくして文化祭は本番を迎える。周りはお祭りムード一色で大賑わいだ。
けれど彼だけは浮かない顔をしていたに違いない。
クラスも部活もそっちのけで生徒会ばかりに顔を出していたせいか、居場所が無いのだ。
一通り回ったところで結局戻るのは生徒会室。
扉を開け部屋に入ると先輩一人とヤヨイがいた。
ヤヨイは彼を見ると「彼をちょっと借りるわね。」と告げ、彼に後についてくるよう促した。
彼らが辿り着いたのは屋上への階段の踊り場。普段から立ち入り禁止になっていて誰もいない場所だった。
そこでヤヨイは予想外のことを口にする。
「あんた誰が好きなのよ。言いなさいよ。」
彼は驚きを隠せない。どう答えて良いのかわからないのだ。
しかしヤヨイは彼を逃さないようにじっと見つめている。
そして彼が口にしたのは
「先輩。」
そうヤヨイをみて答えた。このとき彼は初めて自分の奥底に隠していた気持ちを自覚する。
長い沈黙の後
「いいよ。」
そうヤヨイが呟いた。
彼は思わず
「後悔するよ。」
と返していた。それでもヤヨイは優しく微笑んでいた。
10月5日文化祭当日。誰も予想しなかった形で二人の恋が始まった。
カヲル15歳とヤヨイ17歳の秋。
独りでは重過ぎる
独りでは抱えきれぬ

だから
忘れたかった
消し去りたかった

でも
忘れられぬ
消し去れぬ

どうしようもなくて
目を背けた
押し隠した

そんな時あなたに出逢った
あなたは私で
私はあなた

二人ならば
きっと向き合える
きっと立ち向かえる

ずっと探してた
やっと見つけた
「私の半身」
7.瞳の奥に見えるもの 記憶の奥に潜むもの

それから二人は時間の許す限り常に一緒に行動し、お互いへの想いを深めていった。
夜離れ離れになると電話でやり取りして一晩中話した。あんまり長く話すものだから、カヲルが寝てしまってヤヨイが怒るなんてこともあったけれど。
ヤヨイはカヲルへ伝えたいことを日記を書いてカヲルに見せた。最初カヲルは読んでいるだけだったけれど、しばらくしてヤヨイに内緒でノートを用意してカヲルも日記を書き始めた。そしてヤヨイに渡すと思いのほか喜んで、それからは二人で交換日記という形になった。
そうして二人沢山話をした。自分のこと、家族のこと。それから誰にも言わなかったチカラの事も。

カヲルのチカラ。
目は口ほどにものを言うとはよく言ったもので、目は嘘をつかない。感情や考えがどうしても表れてしまう。カヲルはそれを読み取ることに長けていた。
さらに瞳を見ればその人がどんな人なのか、自分と合うのか合わないのかすぐにわかったし、時にはその人の価値観や考え方・理想なんかも当てて見せた。あまりにも当たるものだから、まわりには悟られないように心理学のフリをする時もあった。
それは天性のものではなく、生活の中でだんだんと出来るようになったことだった。自分を守るために。
カヲルがチカラのことを話したときはヤヨイがカヲルを遠ざけるんじゃないかと心配した。けれど、ヤヨイはそんなことはせず、素直に受け入れてくれた。
それからヤヨイは自身のつらい過去を話してくれた。
両親が離婚して父親に引き取られたこと。両親の離婚の理由は母親の酒乱にあった事。父親の再婚相手が外国人であること。父親の再婚相手が結婚前に妊娠した時、その子供がいなくなればいいと思ってそのお腹を蹴飛ばした事。そしてそれをひどく後悔していること。
それを淡々と語るヤヨイの顔は、いままで必死で耐えてきた痛みを噛み締めているようだった。

そうして二人の距離は急速に縮まっていった
もういいでしょ?

おわりにしよう

君との時間はかけがえの無いものだったけれど
おわりにしなくちゃ

別れの時は今

きっと大丈夫
君は大丈夫

君のためだもの

喜んで

「さようなら」
8.失くしたもの 見つけたもの

一番二人のことを喜んだのはリンだった。
カヲルの笑顔が増えるたびにリンは嬉しくなった。だんだんとリンのことを忘れていくカヲル。けれど、リンは泣かずに笑っていた。

その日カヲルとヤヨイは別々に帰った。ヤヨイは焼肉屋のバイトがあったからだ。
それを待っていたかのようにリンはカヲルに話しかけた。
「今日は一人だね。寂しくない?」
カヲルは笑顔で答える。
「バイトなんだから、仕方ないよ。」
それを見てうれしそうにリンは言った。
「・・・そっか。」
それから少しだけ考えて言葉を続けた。
「ねぇ、カヲル。カヲルは今、幸せ?」
「なんだよ急に?」
「ねぇいいから答えて?」
「・・・・・・・・・だよ。」
「聞こえないよ?」
「・・・幸せだよ。」
顔を赤らめながらカヲルは答えた。
「・・・そう。ならいいわ。」
一瞬。ほんの一瞬リンの目が寂しげに見えた。
それから二人は何も話すことは無かった。

一番驚いていたのはレイだった。変わっていくカヲルを見るたびに、痛みが消えていくのを覚えた。
明るく前向きなカヲル。そんなカヲルを見ていたらばかばかしくなった。
もうレイは自分を傷つけなくなった。

カヲルが家に着くとレイから呼び出しがあった。
レイからの呼び出しなんて初めてだ。
レイのところへカヲルが急いで行くとレイはカヲルを見ずに言った。
「最近こっちにはこないんだな?来たくないのか?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだよ。ちょっと忙しくて・・・」
あわてるカヲルに冷たい口調でレイがつぶやいた。
「・・・もういいんだ。」
「なにがもういいんだよ?僕らは仲間じゃないか?」
するとレイはやっとカヲルのほうに顔を向けた。
「今まではね。」
「何を言っているんだよ。これからも…だろ?」
「・・・・・・・・・」
レイは答えない。
ただ黙って笑った。そして部屋の窓から外を見上げて
「・・・星、綺麗だな。明日も晴れるな。」
カヲルも外を見上げ
「・・・たしかに綺麗だな。」
とつぶやいた。
それから二人はしばらく外を眺めていた。
ふとレイがつぶやいた。
「お前変わったよ。」
反論しようと口を開きかけたカヲルが見たのはレイのさびそうな横顔だった。
それからカヲルは何も言えなくなってしまった。

一番困惑したのはセイだった。カヲルがはしゃぐたびにカヲルを止めようとした。けれどカヲルはとまらない。そんな様子にカヲルがカヲルで無くなる。そんな不安を覚えた。このままでいいはずがない。そう思いながらも、これが本来のカヲルであることに彼は気付いていた。

ある晩、セイはカヲルのもとを訪れた。
「カヲル。君はずいぶんと変わったね」
「そんなこと無いよ」
「いいや、本当に変わった。君は良く笑うようになったし、物事を前向きに捉えるようになった。なにより、人に優しくなったよ。」
「そうかなぁ〜。じぶんじゃ全然わからないんだけどなぁ〜」
「そりゃそうだろうとも。けど、僕らにはわかるんだ。もう君は大丈夫だって。」
「それはどういう・・・」
「君は気付いているはずだ。リンは泣かなくなった。レイは傷つけなくなった。それが何を意味するかも。」
「セイ・・・」
「君を守る時間は終わりだ。きみはもう君のままで大丈夫だ。僕らがいなくても生きていける。僕らの役目も終わりだ。」
「ちょっと待ってよ。僕には君らが必要だよ。どこにも行かないでよ。」
「僕らは何処にも行かないさ。僕らは帰るんだよ。君の中にね。僕らは君の一部。君の記憶と感情をもった別人格。君に溶け込むんだ。」
「・・・」
「凍った時間はもうおしまい。君は君の力で時計の針を進めるんだ。僕らは君の中でしっかり君を見守っているよ。さぁそろそろお別れだ」
そういうとセイの声は聞こえなくなった。

「さようなら、リン。さようなら、レイ。さようなら、セイ。」
流れる時間
押し寄せる波

どうしたらよかったんだろう?
どうすればよかったんだろう?

だれも答えてはくれない

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