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コメント(3)

タイトル 出張列車


日常のデスクワークを離れ、私はいま地方都市の町へ会議を主催するために列車に乗っている。
車窓に写る湖面の照り返しに目を細めながら次の企画を考えると眠る気にはなれなかった。しかし、名前も覚えられそうも無い小さな駅を通り過ぎた瞬間私の視界の中に信じられない光景が写ったのである。
それは、わたしの左足のズボンの裾と靴の間から優しく微笑みかけるキィティーちゃんだった。
わたしは冷静を保とうと努力したが、背中を流れる冷たい汗を止める事は出来なかった。そして、一つの疑問が頭の中で行場を無くした小羊の群れの様に渦巻いていた。
何故、右足にキィティーちゃんは居ないのだろうか。
昨夜のスコッチはローランドのモルトだった。
それだって朝のカフェオレで全て洗い流した。深夜に帰った彼女の昨夜の言い訳だって覚えている。
しかし、一時間前の靴下の引き出しを開けた瞬間から2、3分の間が四月の雪の様に完全に消えていた。
焦る気持ちを抑え、これから起こり得る全てのケースをシュミレーションしてみることにした。
その瞬間にモーゼが海を割った様な救済がわたしにも訪れた。
列車は目的地に正午ちょうどに到着する。車が迎えに来るまでは五分間ゆとりがある。
そうだ、その時間でコンビニへ行って安っぽいソックスを買って、トイレでキティーちゃんとお別れすればよいのだ。  
安堵感は高原の朝霧の様にわたしを包囲み、やがて、微かな疑問を残したまま安らかな眠りをもたらした。
しかし、それが間違いだった。
覚醒する意識の中で鼻腔を微かな香りがくすぐり、短い眠りは終わりを告げた。
そして、目を開ける前に現状の確認に移った。
間違い無くさっきまで誰も居なかった隣には人がいる。
それも、コロンの香りと文庫本をめくる音から、端麗で聡明な若い女性の存在が感じとれた。
期待感は六月のヒマワリのような勢いで高まり未来が輝いたように思えた瞬間、重大な事に気付いた。
それは、致命的であった。わたしは癖で無意識に足を組む。
それも何故か今は左足が上になり、彼女の方へ左足を突き出しているのだ。
再び冷たい汗が背中を流れ始めた。
選択枝は少ない、寝た振りを続けるか、足を組み替えるか、次の駅で降りる振りをして車両を替えるかだ。
しかし、彼女に対する興味が判断力を狂わせた。
わたしは、そのままの姿勢で目をゆっくり開けてしまったのだ。
目の前には二人の未来を祝福する無邪気なキィティーちゃん達が微笑んでいた。
紅潮していく顔を意識しつつ、この場の対処思い浮かべたが、全ては無駄だった。
わたしの左足は確実に彼女の前にあるのだ。
多分彼女は私のことを幼稚な変態か、ひょうきんなおじさんと思っているだろう。
とにかくこの事態をなんとかしなければ。
わたしは、意を決して無理にはずしていた視線を彼女に向け顔を見た。
その横顔は美しく知性に満ちていた。
わたしは心の中で呟いた、彼女だけにはわたしのキティーちゃんを会わせたくなかった。彼女はわたしの目を見て微笑んでくれた。
その、微笑みには軽蔑や侮蔑は含まれて無いように思えた。
わたしはほっとして、組んでいた足を解き、冷静な顔を作り、鞄から会議の書類を取り出し出来る限り自分の体裁を繕った。
あと、十分で駅に着くアナウンスがあり、わたしは彼女の優しい微笑みの理由を考えた。もし、それが解れば、残った僅かな時間を彼女と共有できるかもしれないのだ。
しかし、いつまでも続くトンネルに入ったようで出口は見えなかった。
駅が近づき彼女も降りるようで、立ち上がり荷物を取ろうした。
わたしは、手伝いたかったが、自分の恥部を見られたひけめで、なにも出来なかった。
そのとき、突然、光が見えた。
降ろされた彼女のバックのポケットの携帯電話のストラップにキティーちゃんが三匹もいたのだ。
抑えようもない親近感が涌いてきて、思わず
「あなたもキティーちゃんがお好きですか」
と言ってしまった。
彼女は少し困惑を眉の間にやどし「いいえ」と綺麗に言い放し、立ち去った。
後に残されたわたしは、いつの間にかキティーちゃん好きの変なおじさんになっていた。行き場の無い怒りと数々の疑問を抱えたまま、わたしは電車を降りコンビニに向かった。何故、キティーちゃんを嫌いな彼女がストラップにキティーちゃんを三匹も付けるのだ、もしかすると、わたしと同じ人種と思われたくなかったのか。
いや、まて、わたしはそんな人間ではないのだ。
矛盾を抱えたままコンビニの衣料のコーナーの前に立つといろいろなキャラクターの靴下があり、キティーちゃんも笑っていた。
しかし、キティーちゃんの隣の靴下を見た時、取り返しのつかないわたしのミスがあった。彼女のストラップはキティーちゃんではなく

ミィフィーちゃんだったのだ。
仕事で煮詰まった夜、私は家とは別な方向へ歩き出した。

何軒かある馴染のショットバーのうち、一番小さい店がその方向にあったのだ。

店の扉を開けると、マスターと知らない男がカウンターの奥で話し込んでいた。

「しまった」と胸の中で呟いたが、開けてしまった扉は軽薄なカウベルを鳴らした後だった。

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