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おとなのミクシーコミュの大人の小説「音のない音楽」

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音のない音楽

序章 ルーティン

何の変哲もない朝、当たり前のように目を覚ました。

また、一日が始まるだけだ。ベッドに未練はない。

さぁ、始めよう、人生のルーティンワークを、一通りの身支度を済ませ、キッチンに向かう。

グレープフルーツのサラダとソルトバタートースト

コーヒーはネルドリップで落としたフレンチロースト

鏡で自分のボディーを確認しながら口へ運ぶ、

「無意味な生命維持行為」漢字の羅列が頭に浮かぶ

食べ終わった食器を手早く洗うと浴室へ向かう

全裸の自分を鏡で確認する

完璧ではないが満足のいく造形だ。そこいらの醜い体の女はコートを着て歩くべきだ。

たとえ真夏でも。

シャワーを頭から浴びながら鏡の自分をにらみつける。

ふと、涙が溢れだす。

下唇を噛み、ただ耐える

毎日の行為だ、ただ繰り返す。ルーティンだ


第1章 
手早く支度を済ますと地下鉄の駅に向かう

カードで改札をパスして空いてる席に座りこむ、

観察の時間だ。

体裁の悪い人たちが、いろんな滑稽な生態を見せてくれる

茶髪のホストが臍を出した女のスカートに手を入れる

脂ぎった親父がビトンの袋を持たされて、自分の娘より若そうな女の後を付いてゆく

世の中はコメディーで成り立っている。

愚かな人たちだ。微笑んでしまう。

では、私は何者だ。「ただの欠陥品」

笑ってしまう。泣きたいのに。

私に他人を評価する権利はない、



図書館がある駅ですばやく降りる。図書館ほど素晴らしい場所はない。

純愛と清純、希望と誇りで満ち溢れている

私の人生はここで、愛して、老いて、滅びるのだ。

トルストイもドストエフスキーもパパ、ヘミングウェイも一緒だ

文字と言う美しいものに包まれながら

たとえ、言葉が話せなくても、音が聞こえなくても。

これが私の宿命だから

受け入れなければ、死・・・・・・・



第2章

図書館の入口では受付カウンターの女の子がモニターを睨んでいる。

素早く前を通り過ぎるとイギリス文学の棚の前、シェークスピア、運命の出会いは自分にはないのに・・・・

ロメオは

私には現れない、でも、こんな最期が遂げられたら、一度だけ、神様に感謝するかも。

でも、神は存在しない。私はジュリエットではない。「あんた、不公平だよ」

綺麗な文章は時間を忘れさせ、自分も忘れる。

ああ。この文章はどんなリズムなんだろ。

シェークスピアと話が出来れば

私も書くから返事をおくれ。

でも、どんなに訴えても、私の耳と口はただの飾り

美しくも無ければ、機能もしない

私は生まれた時から、聴覚がない。喋った事もない

母は私のために有名な音楽家の父に捨てられた

私のために・・・・見栄と権力のために



母は、私のために文字を見せながら必死に文字の意味を教えてくれた

朝、起きた時、母は「おはよう」のプレートを目の前にかざしていた。

私は母は一緒に文字の海を泳ぎ、日常生活と言う陸地にたどり着いた。
しかし、母は疲労で間も無く星になった。

私は必死で生きた。

母から教わった文字で話を作った。懸賞に応募して、コンペに出した。

神は私を見捨てなかった。

いや、いたぶったのかもしれない。

私は小説家として地位と経済力を与えられた。

でも、人前には出られないから、身を隠した。

これがまた地位を高めた。人間は何処までも滑稽を望む。

私は私の分身が有名になるほど孤独だった。

図書館で勉強が済んで帰る時、受付の女性が何か主張していた。

私とは関係ない世界だ。

私の世界には・・・・音による主張はない。


第3章

図書館を後にした私はルーティンワークのスポーツジムに向かう

欠陥だらけの私が  醜い体だけにはなりたくない

耳が聞こえないのも、言葉が喋れないのも、髪の毛が薄いのも、肥満なのも一緒だ。

大差はない。

でも、私は普通の人と比べてて欠陥だらけだから、スタイルだけは維持したい。

そう決めてからジムに通った。」

ジムはフロントでカードを出すと、要領の悪い若い子がロッカーのキーを渡してくれた。

帰りもキーを渡すだけだ、会話は要らない。

更衣室で着替えを済ますと、完全武装の私が鏡に映る

175センチ、60キロ、体脂肪率16%

スタジオに進む私は自信に溢れている

ささやかな幸せだ。

そして、スタジオカウンターにいる。彼に会える。

会えるだけでいい。

彼はジムのスタッフ。誰にも笑顔で話しかける、でも、私には話しかけてくれない。

私が無愛想だから、でも、でも、でも

私は、彼の笑顔を見ているだけでいい。

だって私は音のない世界の女。

私はランニングマシーンで誰よりも美しく走るだけ、誰よりも速く

彼に見てもらいたいから。

でも、今日は。お休みみたい。

彼はいない。

では仕方ない。ただ、速く走るだけ、五体満足には負けたくないから

一通りのトレーニングが終わり、シャワーを浴びると部屋に戻るだけだ、
でも、何か虚しい。

私は家とは逆の方向の地下鉄に乗り5駅目で降りてみた

見た事もない商店街、なぜか落ち着く

自動販売機で缶コーヒーを買い、

近くのバスの停留場でゆっくりと飲んだ

あてもないバスが目の前に止まり扉が開いた。あのジムのスタッフが降りてきた

神はいるのだろうか。

「あれ、今晩は、お近くなんですか」

何も届かない

「僕はこの近くなんですよ」

胸が苦しい

「どうしたんですか?」

文字にして欲しい。傷つきたくない。

「すいません。でも、僕は前から貴方の事が気になっていたんです。なんで、皆を拒否するんですか。寂しくありませんか。・・・いや、僕と友達になってくれませんか」

何が起こっているの?私のわかる世界で

その時、彼は必死の思いで、私の目の前に進み出た。

私はとっさに彼の手を包みこんだ、そして、瞳に訴えた。

これ以上喋らないで、   おねがい


「僕は貴方の走る姿が美しいと思っていました。できればもっと親しくなりたい、正直に言います。付きあって下さい」

何を言っているの。怒っているの。私に言葉は届かない、困惑だけが支配した



僕は瞳の深さに驚愕した。

深さがわからないほど深い恐怖、すべてが否定でした。

ぼくは、諦めたくなかった。

でも、今しかない、彼女を無理やり抱きしめました。

しかし、そこには生き物としての感情も感覚もありませんでした。冷たい物体があるだけでした。



私は彼の腕を振り解きました。体に溢れる幸福感を抱きしめて

こんな幸せを味わえるとは

神よ、私は期待しても良いのか。

私は溢れだす幸福を隠す事も出来ない。とにかく考える為にここから離れよう。

私は彼から走り出しました

微かな未来の光に向けて


彼女を放さなければ良かった。

しっかり抱きしめて、離さなければ




私は幸せの中を走りました 。その時、後ろで大きな光を感じました。

瞬間、体の感覚が無くなり、私は空中を旅しました。

これでいいと思いました。これで。

私と幸せは無関係なんだから

アスファルトに叩きつけられるとき、始めて助けを求めました

「おかあさん」


翌日の朝刊に記事はありました「不遇な作家交通事故死」

彼はすべてを知りました、耳も聞こえないこと、話もできない事

事故を起した運転手は「いきなりうれしそうに飛び出してきた」と供述していると

通夜はその日の夜でした。

身内がいないので、出版社が行いました。

遺影の彼女は、ジムで走っているより美しい女性でした。

参列者が少ないので通夜はすぐに終わりました。

家に戻ると涙が止まりません。

僕は彼女に大変な事をしてしまった、

僕は彼女の何を知っていたんだ

彼女の笑顔を見た事があるのか

一晩中涙は止まりませんでした


第4章

翌日、葬式と火葬です。

醒めた参列者の中、僕は自責の念が胸を締め付けます

事務的に進む葬儀

火葬場に向かうバスの中、悲しみが膨張します

思わず席を立ち

「誰か本気で悲しんでいますか?彼女の言葉を効いた人はいるんですか?」

バスの中の人も僕の言葉は理解できないようでした。


くだらない火葬場のシステム、骨になるまで酒を飲むのか

僕は彼女のそばのベンチに腰をかけた。

バーナーが空気を送り込む音を聞いていました

「ごめんよ、もっと前から気付くべきだった。君を殺したのは僕だ」

「そんな事はないのよ、私はね、貴方に抱きしめられてね、すごく嬉しかった。だから、信号に気付かなかったの。おっちょこちょいね。」

「でもね、私のつまらない人生が貴方のおかげで、おかげで、


少しは輝いたわ」

「待てよ輝くのはこれからだよ」

「違うの、貴方は私のハンデを知れば去って行ったのよ。それはね、仕方ない事。でもね、私は貴方と会えて本当に良かった。

私は「こんにちは」は言わないの「さようなら」が言いたくないから

私は「ありがとう」は言わないの「ごめんなさい」が聞きたくないから

私は「愛してる」は言わないの・・・・・」


「待ってくれ。」

「もう時間みたい」

「待ってくれ、待ってくれ、」

僕は人目をはばからずに泣いた、空に届くぐらい大きな声で

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