登記の勉強と情報コミュの不動産競売申立時に設定されている用益権・担保権

不動産競売申立時に設定されている用益権・担保権などは、売却によって消滅するのですか（消除主義）？売却後も引き受けることになる権利はありますか（引受主義）？また平成１６年４月１日から施行される担保・執行法の改正により、短期賃貸借制度が廃止されますが、その内容はどのようなものになりますか？
Ａ17：不動産には抵当権等の担保権や賃借権等の用益権が設定されていることが多くあります。
このような不動産が売却され、買受人に所有権を移転する際に、それらの不動産上の負担をどうするかについて、消除主義と引受主義の２つの原則があります。
消除主義とは、不動産上の負担をできる限り消滅させ、買受人には、可能な限り、負担のない不動産を取得させようとする原則です。一方、引受主義とは、差押債権者に対抗し得ない不動産上の負担は消滅させることは当然として、これに優先する負担は、そのまま買受人が引き受けるとする原則です。
民事執行法は、原則として、担保権については、消除主義の原則を、用益権については、引受主義の原則を採用しています。

1　消除の対象
担保権のうち、先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権（根抵当権も含む）は、売却により消滅します。

2　引受の対象
(1) 留置権、最先順位の使用・収益しない旨の定めのない質権
(2) 優先順位の仮処分

Q11で添付されている不動産登記簿謄本の場合、
→順位番号1番2番の根抵当権は抹消
順位番号３番の賃借権については、抵当権の設定登記後に設定されたものだから、原則として抵当権者に対抗できないが、競売手続開始決定前から使用収益していた場合は、６ヶ月の明渡猶予期間が与えられます（後述３参照）。

3　短期賃貸借制度の廃止と明渡猶予制度
民法旧規定第３９５条の要件を充たす「短期賃貸借権」については、従来、上記２記載の引受の対象となっていましたが、担保・執行法改正により、「短期賃貸借制度」は全面的に廃止されます。
但し、担保法改正の施行時点で、存在していた短期賃貸借（施行後に更新されたものを含む）については、なお、旧法の定める短期賃貸借として対抗力が存続します。
短期賃貸借制度の廃止に伴い、「明渡猶予制度」及び「抵当権者の同意により賃貸借に対抗力を与える制度」が新設されました。
（１）明渡猶予制度

①　明渡猶予制度とは、抵当権に対抗することのできない賃借権によって抵当権の目的とされている建物の使用または収益をしている物件について、抵当権実行としての競売がされ、買受人がこれを買い受けたときから６ヶ月を経過するまでは当該建物を買受人に引き渡すことが要求されないという制度です。

②　明渡猶予が認められる者についての次の通りです。
・抵当権者に対抗できない賃借権に基づき競売手続の開始前から使用収益している賃借人
当該建物の強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用収益する者

③明渡猶予の期間は次の通りです。
明渡猶予期間は、代金納付の時から６ヵ月間となります。
なお、注意点として、明渡猶予期間は貸借期間ではありませんから、
・賃料は、発生しません。
・買受人は建物使用者（旧賃借人）に対して賃料相当額の不当利得返還請求ができます。
・買受人からの支払の催告に対して、相当に期間内に履行しなかった場合、直ちに明渡請求ができます。
・買受人は、民法606条の修繕義務を負いません。
・建物使用者（旧賃借人）は占有者として、善管注意義務を負います。

④　引渡命令の申立
「買受の時に民法395条第1項に規定する建物使用者が占有していた建物の買受人にあっては9月」になります（なお、Ｑ18参照）。

（２）抵当権の同意により賃貸借に対抗力を与える制度
「抵当権の同意により賃貸借に対抗力を与える制度」とは、抵当権の登記後に登記された賃借権であっても、これに優先するすべての抵当権者が同意し、かつ、その同意についての登記がなされているときは、それが同意をした抵当権者に対抗できるという制度です。

①抵当権者の同意
抵当権者の同意について、注意すべき点は、次の通りです。
・賃借権の登記がされる前に存在していた登記を有する抵当権者のすべてが同意をし、その登記をしなければ、対抗することができません（民法387条）。
・同意を要する者は、当該抵当権を目的とする権利を有する者、その他、抵当権者の同意によって不利益を受ける者の同意（例：転抵当権者・抵当権及びその順位の譲渡・放棄における受益者）です。
・転借人の同意は不要です。
・賃借人は賃貸借契約上、賃借権設定の登記請求権を当然に有しないので、特約が必要となります。
・抵当権者による同意は相手方ある単独行為たる意思表示ですから、意思の欠缺や瑕疵がある場合、取り消しや無効主張の可能性あります。
・一旦同意を与えると、その後において、優先権を持った賃借権が従来と極端に変わってくるという可能性もあります。そのようなことが生じる可能性があるときは、同意の意思表示に際して、相手方である賃借人の同意を得て同意後に賃借人が目的物件の利用について極端な利用をしたり、賃料の不払いや賃借人の不信行為などがされたということを解除条件として設定しておき、これが成就したような場合には同意の登記の抹消を求めるということによって賃借権の優先権を失わせることができます。
また、同意後に賃貸人が債務不履行を続けたり、同意を与えた抵当権者に対する信頼を著しく破壊する行為がされたような事態が生じたにもかかわらず、賃貸人が賃貸借の解除をしようとしない場合には、いわゆる強制管理に類する手続きをとって、管理人自らが合理的な賃借権を行使するという方法が考えられます。
　・抵当権に基づく妨害排除請求権の代位行使・民事執行法187条に基づく保全処分は、賃借人の使用収益権自体を否定することにはなりません。

②同意の登記
同意の登記は対抗要件となります。
また抵当権者の同意による制度の新設により、買受人に承継される敷金関係を明確にして抵当権者が当該同意制度を利用しやすくしようとする視点から、敷金が登記事項となりました。したがって、敷金について、登記をしなかった場合には、買受人に引き受けられないこととなります。
但し、改正前の、抵当権設定前に引渡しによって対抗力を持っていた賃貸借の場合は、登記なくして買受人に敷金関係が承継されます。
４　その他、引受の対象ではありませんが、法定地上権について
法定地上権とは、同一所有者に属する土地と地上建物につき、抵当権が設定されていた場合において、土地あるいは建物の一方または双方の抵当権の実行により土地と建物が異なる所有者に属することになったときに、法律上成立する地上権です。
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