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登記の勉強と情報コミュの新会社法成立!1年前の勉強

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その概要と商業登記に関する留意点等17年6月


1. 会社法の構成
 ――表記の現代語化と単一法典化:登記に関する条項は第7編第4章に集約――

 現在,会社の設立,組織,運営及び管理については,商法,有限会社法,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法),商法中署名すべき場合に関する法律,銀行持株会社の創設のための銀行等にかかる合併手続の特例等に関する法律等により規律されていますが,会社法の施行に伴い,現行商法の「第二編 会社」が切り出されるとともに所要の整備が行われ,有限会社法,商法特例法等は,廃止されることとなります。商業登記法についても大幅な改正が行われています。
 個人商人の商号,未成年者,後見人,個人商人の支配人については,引き続き商法の規定により登記されることとなり,商号登記簿,未成年者登記簿,後見人登記簿,支配人登記簿については,現在のまま残ることとなりますが,会社については,すべて新会社法によって規律されることとなります。
 新会社法の構成は,以下のようになっています。
  第1編 総則 (用語の定義,会社の商号,使用人等)
  第2編 株式会社(設立,株式,新株予約権,機関,計算等,定款の変更,事      業の譲渡等,解散,清算)
  第3編 持分会社(注1)(設立,社員,管理,社員の加入及び退社,計算等,      定款の変更,解散,清算)
  第4編 社債 
  第5編 組織変更(注2),合併,会社分割,株式交換及び株式移転
  第6編 外国会社
  第7編 雑則(解散命令等,訴訟,非訟,登記(注3),公告)
  第8編 罰則

(注1)「持分会社」とは,合名会社,合資会社又は合同会社の総称(575条)。合同会社は,今  回新たに創設された類型であり,日本版LLC(Limited Liability Company)と言われるもの。  合名会社は社員全員が無限責任社員であり,合資会社は無限責任社員と有限責任社員から  なり,合同会社は有限責任社員のみから構成される。合名会社,合資会社及び合同会社の  間の変更は,組織変更ではなく,「種類変更」として位置づけられ,たとえば,合名会社  は,有限責任社員を加入させる定款変更をすることにより合資会社に種類変更することが  でき,合資会社は,社員全員を有限責任社員とする定款変更をすることにより合同会社に  種類変更することができる(638条)。

(注2)「組織変更」とは,株式会社から持分会社,又は持分会社から株式会社への組織の変更  のみをいい,持分会社間の変更(合名会社から合資会社,合資会社から合同会社への変更)  は(注1)のとおり「種類変更」として整理されている(2条26号)。

(注3)現行商法においては登記義務や登記すべき事項を定める条文は,実体規定に併せて規  定されており,各章・節に散在していたが,新会社法においては,登記期間,登記すべき  事項,裁判による登記の嘱託に関する条文が第7編「雑則」の第4章として,907条から938  条までに集約されている。なお,株式会社も持分会社も本店所在地において設立の登記を  することによって成立することとされており(49条,579条),設立の登記が会社の成立  要件であることに変更はないが,吸収合併,吸収分割については,登記が効力発生要件で  はなく,対抗要件とされ,効力発生日については,組織再編行為を行う会社間で定めるこ  とができることとされた。 

コメント(25)

2. 商業登記に関する重要な改正点

 (1) 会社の種類の見直し ――有限会社の制度が廃止され,合同会社の制度が   新設
 (2) 最低資本金規制の廃止
 (3) 会社の機関設計の柔軟化 ――譲渡制限会社については,現行有限会社法   類似の規律を導入
 (4) 支店における登記事項の見直し ―――支店所在地においては,商号,本   店の所在場所,支店(管轄登記所の管轄区域内にあるもののみ)の所在場所   のみを登記し,支配人の選任,代理権の消滅は,本店の登記簿に登記する。
 (5) 同市町村内における類似商号の登記禁止規定の廃止 ――ただし,目的の   内容にかかわらず,同一所在場所で同一商号の会社を登記することはできな   い。
 (6) 商号の仮登記の制度の廃止

3. 会社の種類
 ―――有限会社を廃止し,合同会社の制度を創設―――

 会社の種類は,次のように整理されます。

 (1) 株式会社
    株式会社は,公開会社と非公開会社(注4),大会社とそれ以外の会社(注5)   に区分されます。また,取締役会設置会社,会計参与設置会社(注6),監   査役設置会社,監査役会設置会社,会計監査人設置会社,委員会設置会社,   種類株式発行会社か否かで,それぞれ規律が異なることとなります。

 (2) 持分会社
  ア 合名会社
  イ 合資会社
  ウ 合同会社(注1参照)

 (3) 外国会社

 (4) 特例有限会社(注7)
      
(注4)ここでいう「公開」「非公開」の別は,上場・店頭登録等により株式を公開しているか  否かという一般に言われている区別ではなく,定款に株式の譲渡制限に関する規定を置い  ていない会社を「公開会社」,定款に譲渡制限に関する規定を置いている会社を「非公開  会社」とするもの

(注5)大会社の定義は,現在の商法特例法の大会社の定義に同じ(資本金5億円以上又は最終  の貸借対照表上の負債総額が200億円以上)

(注6)「会計参与」とは,今回新設された機関であり,取締役・執行役と共同して計算書類   を作成し,株主総会において計算書類に関して株主が求めた事項について説明し,会社と  は別に計算書類を5年間保存して会社債権者の請求に応じて当該会社の計算書類を開示す  る等の義務を負う。

(注7)既存の有限会社は,商号中に「有限会社」の文字を用いたまま,会社法の規定による  株式会社として存続することになるが,このような会社は「特例有限会社」と称される。  これらの会社についても,「社員」を「株主」と,「持分」を「株式」と,「資本の額を出  資一口の金額で割った値」を「発行可能株式総数・発行済株式の総数」とみなし,また,  定款に株式の譲渡制限等に関する規定があるものとみなす等所要の手当てをした上で,会  社法中の株式会社の規定が適用されるが,機関の設置関係については,株主総会,取締役,  監査役以外は設置することができないとする特則や,取締役の任期等に関する規定の適用  除外規定を置く等により,現在の有限会社法と実質的に同様の規律を受けることとされて  いる。
   また,特例有限会社については,定款を変更してその商号中に「株式会社」という文字  を用いる「商号変更」をすることができることとされており,この場合の特例有限会社か  ら通常の株式会社への移行の登記は,当該特例有限会社について解散の登記をし,商号変  更後の株式会社について設立の登記をすることとされている(整備法45条,46条)。

4. 株式会社の機関
  ――柔軟な機関設計。非公開会社については,取締役は1名でも可―――
 
 株式会社については,機関設計の規律が柔軟化され,すべての会社に設置が義務付けられる機関は,株主総会と取締役1名のみとなり,定款の定めによって,取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人又は委員会を置くことができることとされています(327条)。ただし,会社の分類に応じて以下のような設置義務があります(327条,328条)。
 

(1) 公開会社,監査役会設置会社,委員会設置会社については,取締役会を置かなければならない。



(2) 取締役会設置会社及び会計監査人設置会社(それぞれ,委員会設置会社を除く。)は,監査役を置かなければならない(ただし,非公開会社については,会計参与でも可)。




(3)委員会設置会社は,会計監査人を置かなければならない。
 

(4)大会社かつ公開会社で委員会設置会社でない会社は,監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
 


(5)大会社かつ非公開会社は,会計監査人を置かなければならない。
5. 登記すべき事項

 登記すべき事項についても,多くの変更が生じています。変更点は以下のとおりです。

 (1) 株式会社の登記事項(911条)
  ア 登記事項でなくなるもの
   ?株券不発行に関する定め
   ?登録機関の氏名及び住所並びに営業所
   ?重要財産委員会
   ?委員会等設置会社
   ?代表取締役又は代表執行役の共同代表に関する定め
   ?清算人の共同代表に関する定め
   ?支配人の共同代理の定め
   ?支店所在地における登記事項のうち,商号,本店,当該支店所在地を管轄する登記所の管轄区域内にある支店の所在場所以外の事項
   ?社外取締役である旨(特別取締役による議決の定めがある場合,委員会設置会社,,責任限度額の定めがある場合を除く。)

  イ 新たに登記事項になるもの
   ?株券発行会社であるときは,その旨
   ?取締役会設置会社であるときは,その旨
   ?会計参与設置会社であるときは,その旨並びに会計参与の氏名又は名称及び会計参与が保存する計算書類等の備置場所
   ?監査役設置会社であるときは,その旨
   ?監査役会設置会社であるときは,その旨及び監査役のうち社外監査役であるものについて社外監査役である旨
   ?会計監査人設置会社であるときは,その旨及び会計監査人の氏名又は名称
   ?一時会計監査人の職務を行うべき者を置いたときは,その氏名又は名称
   ?特別取締役による議決の定めがあるときはその旨,特別取締役の氏名,(取締役のうち社外取締役であるものについて,社外取締役である旨)
   ?委員会設置会社であるときは,その旨(及び取締役のうち社外取締役であるものについて,社外取締役である旨,各委員会の委員及び執行役の氏名、代表執行役の氏名及び住所)
   ?会計参与又は会計監査人の責任の免除についての定款の定めがあるときは,その定め(取締役,監査役,執行役についても存続)
   ?会計参与,社外監査役又は会計監査人が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めがあるときは,その定め(社外取締役についても存続)
   ? ?の定めが社外監査役に関するものであるときは,監査役のうち社外監査役であるものについて社外監査役である旨(社外取締役についても存続)

  ウ 登記事項名が変更されるもの
   ?発行可能株式総数 ← 発行する株式の総数
   ?資本金の額 ← 資本の額
   ?株主名簿管理人の氏名又は名称及び住所並びに営業所 ← 名義書換代理人の氏名及び住所並びに営業所
   ?存続期間 ← 存立時期
   ?発行可能種類株式総数 ← 発行する各種株式の総数
   ?単元株式数 ← 1単元の株式の数

(2) 合名会社及び合資会社(912条,913条)
  ア 登記事項でなくなるもの
   ?社員,清算人の共同代表の定め
   ?支配人の共同代理の定め
   ?合併の公告をする方法

  イ 新たに登記事項となるもの
   ?社員の名称(法人が無限責任社員となることができることとされたため)
   ?会社を代表する社員が法人であるときは,当該社員の職務を行うべき者の    氏名及び住所
   ?公告方法

  ウ 登記事項名が変更されるもの
   ?存続期間 ← 存立期間 

 (3) 合同会社(914条)(新設)
   ?目的
   ?商号
   ?本店及び支店の所在場所
   ?存続期間又は解散の事由についての定款の定めがあるときは,その定め
   ?資本金の額
   ?業務執行社員の氏名又は名称
   ?代表社員の氏名又は名称及び住所
   ?代表社員が法人であるときは,当該社員の職務を行うべき者の氏名及び住    所
   ?公告方法

 (4) 特例有限会社
  ア 登記事項でなくなるもの
   ?出資1口の金額
   ?取締役,清算人の共同代表の定め
   ?支配人の共同代理の定め
   ?合併等の公告をする方法

  イ 新たに登記事項になるもの
   ?発行可能株式総数及び発行済株式の総数
   ?株式の譲渡制限に関する定め
   ?公告方法(登記がなければ官報による旨)

  ウ 登記事項名が変更されるもの
   ?資本金の額 ← 資本の総額
   ?存続期間 ← 存立時期

6. 既存会社の登記に関する経過措置
 
 (1) 新登記事項等に関する職権登記 
  旧商法による旧会社の登記は,会社法の相当規定による登記とみなすこととさ れており,また,新たに登記事項となる「取締役会設置会社である旨」,「監査役 設置会社である旨」や「株券発行会社である旨」等については,その旨の登記が されたものとみなす措置(「監査役設置会社である旨」の登記については「委員 会等設置会社である旨」の登記がある会社以外の会社が対象,「株券発行会社で ある旨」については「株券を発行しない旨」の登記がある会社以外の会社が対象), 登記事項でなくなる「社外取締役である旨」の登記は当該登記にかかる取締役の 任期中に限り抹消することを要しないとする措置等がとられている(整備法103 条)ので,会社法施行後においても,現在の登記のまま会社の登記事項証明書等 を交付することが可能であるが,旧商法に基づく登記をいつまでも存置し,新会 社法に基づく登記と並存するような状態が続くことは好ましくはないため,新た に登記事項となる事項や,特例有限会社の発行済株式の総数等への登記事項の置 換え等に関しては,登記官が,職権で,対応する事項を登記することとされてい ます(整備法136条)。
Q3: 非公開会社(譲渡制限会社)においては,定款によって,取締役等の任期を「選 任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結 のときまで」伸長することができるとされていますが,会社法施行後に定款変更 をすることにより,会社法の施行日に在職していた取締役の任期を「選任後10年 以内に終了する・・・定時株主総会の終結のときまで」に伸長することは可能で すか?


A: 可能です。整備法95条は,「この法律の施行の際現に旧株式会社の取締役,監 査役又は清算人である者の任期については,なお従前の例による。」と規定してい ますのが,この場合の「なお従前の例による」という趣旨は,取締役については, 「2年を超えることができない」とされていた任期が,自動的に「選任後2年内 に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで」 に変更になるわけではないという趣旨です。
  したがって,会社法施行後に定款を変更して,取締役の任期を「選任後10年以 内に終了する・・・定時株主総会の終結のときまで」に変更すれば,会社法施行 時に在職していた取締役の任期を伸長することが可能です(現に在職する取締役 については,改正後の規定を適用しないとする規定があったり,取締役本人が任 期の伸長に同意しない場合は別。)。ただし,会社法施行前に任期が満了していた 取締役については,このような定款変更をしても任期が復活するわけではありま せんので,念のため。
  なお,この問題については,民事局商事課に対し,このような取扱いが可能と なる場合の条件(取締役本人の同意等)の要否について確認中ですので,確認が とれた時点で改めて連絡します。
4: 取締役の任期に関する定款の定めがない特例有限会社が通常の株式会社に移行 する場合の取締役の任期(移行に当たって改選をしない場合)は,どうなります か?
  移行後の株式会社の定款に定めた任期は「選任後10年内に終了する事業年度の うち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで」と定められたと仮定し ます。

A: 上記Q3の考え方に従えば,特例有限会社において取締役に選任された日の翌 日から起算して10年内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総 会の終結のときに任期が満了することになると考えられます。ただし,移行時(定 款変更時=登記によって効力が生じます(整備法45 条2項))において,10年 以内に終了する・・・・定時株主総会が終結してしまっているときは,株式会社 への移行(定款変更)と同時に任期が満了すること考えられます。
  なお,この問題については,株式会社の既存取締役の場合と同様に考えて良い かどうかについて,確認中ですので,確認がとれた時点で改めて連絡します。
Q5: 取締役会を設置しない会社においては,定款,定款による委任に基づく取締役 の互選又は株主総会の決議により代表取締役を選定することができることとされ ています(会社法349条)が,株主総会の決議により代表取締役を選定した場合 の代表取締役の就任の登記の申請書には,社員総会議事録(改正商業登記法46条2 項)のほかに,定款の添付が必要ですか?

: 現在の有限会社において,社員総会による決議により代表取締役を選任した場 合には,定款の添付は必要とされていないので,会社法施行後の株式会社につい ても株主総会で代表取締役を選任した場合には,定款の添付は不要であると考え られますが,確定的な判断は,改正商業登記規則等の内容が明らかになるのを待 つ必要があるものと考えられます。
  なお,取締役会設置会社以外においては,代表取締役の「選定」は必須とはさ れていませんが,代表取締役の「選定」を行わない株式会社については,取締役 の各自代表=すべての取締役が代表取締役となります(349条1項)ので,取締 役が1名の場合には,その者が自動的に代表取締役となり,取締役Aの氏名の登 記と,代表取締役Aの住所及び氏名の登記をすることになります(すべての株式 会社に代表取締役が存することになり,この点は,現在の有限会社及び会社法施 行後の特例有限会社とは異なります。)。
  取締役会設置会社においては,取締役会において代表取締役を「選定」しなけ ればらなないこととされています(会社法362条3項)ので,念のため。

 (注)「選定」の用語は,「選任」された者の中からさらに選出する場合に使われ る用語です。取締役に「選任」された者のなかなら代表取締役を「選定」するわけ です。特別取締役も取締役のなかから「選定」されます(会社法373条)し,委 員会設置会社の委員も取締役の中から「選定」されます(会社法400条2項)。執 行役は,取締役会の決議によって「選任」され,代表執行役は執行役のなかから 「選定」されます。
会社法であそぼう

2006年11月 5日 (日)
【入門】会社法が定めていること
 会社法100問の具体的問題を検討する前に,
  「会社法が,どんなことを定めているいるのか」
ということをお話ししたいと思います。
 出口が分かっていると,今後の理解が早くなりますから。

1 会社法は,何を定めているのか。
 会社法というくらいですから,会社に関する法律だというのは,小学生でも分かります。
 しかし,会社に関連することが,全部,会社法に書かれているかというと,そうではありません。
 会社と従業員との関係は「労働基準法」「労働組合法」,上場株式等に投資する人の保護は「証券取引法(金融商品取引法)」,税金のことは「法人税法」などなど,会社に関連することで,会社法に定められていないことは沢山あります。

 では,会社法が何を定めているかというと,一言でいえば,
   ?会社
   ?社員(従業員ではなく,株主等の出資者のことです)
   ?債権者
 という三者の関係を,どう調整するかを定めている
ということになります。

 会社法を囓ったことがある人は,「もっと色々なことを定めているだろう」と思うかも知れませんが,
 「会社とは,何か」
 「人は,何のために会社を作るか」
ということを理解すれば,会社法は,上記の三者間の利益調整のための法律に過ぎないということを分かっていただけるものと思います。

2 会社とは,何か。
 では,会社とは,なんでしょう。

 「会社とは,何か」という話になると,普通,
  会社とは「営利社団法人」である
という難しい話をすることが多いのですが,この話は長くて難しい割には,具体的な条文の解釈にあまり役に立たないので,ここでは省略します。

 そうした抽象的な話よりも,まずは
    人は,何のために,会社を作るのか?
ということを理解し,
     会社は「貯金箱ロボット」だ
というイメージを持つ方が大切です。

 ここでは,典型的なモデルである民法上の組合と,株式会社の違いを例にとりながら,「貯金箱ロボット」の意味をお話ししましょう。
 (実際には,有限責任事業組合のような「会社的組合」や,持分会社のような「組合的会社」が存在しますが,そうした中性的な魅力を持つ存在は,もっと大人になってから学ぶことととして,若いうちは,女らしい女や,男らしい男がどんなものかを学ぶ方がよいでしょう)。

 さて,会社は,何のために作るのでしょう。
 私の目の前に学生さんがいれば,「商売をするためです」という答えが返ってきそうです。

 でも,人が商売をするのに,わざわざ会社を作る必要はありません。

 個人でやってもいいですし,何人かで共同事業をやるときは,組合契約を結んで,組合として活動することも可能です。
 組合には,いろいろ法的な制約もありますが,工夫次第で解決可能なものも多く,大規模な共同事業を,組合でやることだって不可能ではありません(適切な例ではありませんが,売上げ百億円・パートナー数十人という法律事務所だって組合です)。

 それなのに,なぜ商売をするときに,会社を作ることが多いのでしょう。

 例えば,ここに,法務省民事局で会社法を担当していた
   松真珠夫(まつしん・たまお)さん
   湯水金使(ゆみず・かねし)さん
という二人の男が,民事局を辞めて,共同で,会社法関連の出版事業をやることになったとしましょう。

 この二人が,組合を作って出版事業を営むとすると,
  組合には,法人格がない
ので,契約も,銀行口座も,不動産の登記等も,
  すべて個人名義
で行い,契約等の効果も,すべて松真さんと湯水さんに直接帰属し
  組合財産は,共有
になります。
 もちろん,例えば,「珠金出版事業組合」等という組合名をつけて活動してもいいのですが,その組合名は,法的には
  松真さんと湯水さんの二人のことを別名で表しているだけ
で,組合としての活動の効果が,その二人に直接帰属するという点は変わりません。

 一言で言えば,民法上の組合で事業を行うということは
  事業用の財産を,個人財産から,法的に区別しない
ということを意味し,そのために,たとえば,次のようなことが起こってしまいます。

(1)湯水さんが,銀座で,個人的にクラブ活動をして,湯水のようにお金を使い,飲み代を支払えなくなったときは,そのクラブが,湯水さん達が出版事業で使っている銀行口座を差し押さえてしまうことがある。

(2)松真さんが不幸にもお亡くなりになってしまったりすると,遺産分割が終了するまで,組合財産は処分できなくなり,銀行口座も支払停止になってしまうことがある。

(3)湯水さんと松真さんがケンカして足並みがそろわなくなると,組合財産が処分できなくなるおそれがある(組合の業務執行は,組合員の過半数で決するのが原則であるから,二人の意見があわないと現状維持になる。しかも,不動産が,組合員全員名義で登記されていると,組合員全員が登記の申請に協力しくれない限り,処分するのが難しくなる。)

(4)組合の事業で失敗すると,組合の債権者が,松真さんのマイホームや,湯水さんがサイドビジネスで稼いだお金を溜め込んでいる銀行預金等を差押えることもある(「組合」の債権者と言っても,それは松真さんや湯水さん個人の債権者なので,個人財産を差し押さえることができます)。

 要するに,個人と組合との間には,法的な区別がないので,
?個人に生じたことが直接組合に影響を与える
?組合に生じたことが直接個人に影響を与える
のが当然であり,組合というのは,仲の良い者同士が,信頼関係がある期間だけ,共同事業をするには,手軽で,使い勝手がいいものの,信頼関係が維持できなくなると,いきなり事業が頓挫する可能性もあるのです。

 こうした不都合を解消するために,
  「会社」という貯金箱(法人格)
を作り,事業用の財産を,この貯金箱に入れて
  個人財産と明確に区別する
という方法を取ることができるようにするのが,会社法の役割です。

 この貯金箱に入れられた財産(会社財産)は,入れられた瞬間から,個人の財産ではなくなります。
 たとえば,松真さんと湯水さんが
  「株式会社 正直法務」
という会社を作り,松真さんが,マイホームを正直法務に出資したとすれば,そのマイホームは,松真さんの物ではなくなってしまいます。

 世の中の株式会社を見渡せば,個人財産と会社財産を「公私混同」している会社も沢山ありますが,法的にいえば,
?松真さんが,「株式会社 正直法務」の業務執行者でなければ,その家の使用・収益・処分をすることはできない
?松真さんが,業務執行者だとしても,その権限は,自分の個人的な利益のためではなく,会社の利益のために行使しなければならないので,会社財産を好き勝手に使うことはできない(たとえば,自分でその家に住む行為は,利益相反行為になります)
ということであり,個人財産と会社財産は明確に区別されているのです。

 その代わり,松真さんや湯水さんが,優秀な人物を正直法務の業務執行者に選んでおけば,松真さん達が何の指示もしなくても,会社が自律的に商売を行い,会社財産をどんどん増やしてくれます(逆に,無能な人物を選ぶと,会社財産はどんどん減っていきます)。

 つまり,会社というのは,
 ? 個人財産と会社財産(事業用財産)を切り離し(貯金箱機能)
 ? 業務執行者が会社財産を運用する(ロボット機能)
という二つの機能を持つ道具なのです。

 具体例で説明しましょう。
 松真さんと湯水さんが,組合ではなく,正直法務という株式会社で,出版事業を行うことにすれば,次のようなメリットがあります。
(1)湯水さんの飲み代のために,会社財産が差し押さえられることはありません。
 クラブのママさんは,湯水さんの持っている株式を差し押さえることはできますが,会社財産自体を差し押さえられないので,湯水さんの放蕩のために,会社の事業に支障を来すことはなくなります。

(2)松真さんがお亡くなりになっても,会社の財産は,会社のものですから,相続の対象になることはありません。
 松真さんの株式は相続財産になりますが,株式の遺産分割でどんなに揉めても,会社の業務執行者は,会社財産を使用・収益・処分することができますから,事業がストップすることはありません。

(3)松真さんと湯水さんが仲間割れしても,通常は,会社財産の処分に支障はありません。
 会社は,貯金箱ロボットなので,松真さん達が揉めていても,会社の業務執行者が,自律的な判断のもとで,会社財産を運用することができるからです。

(4)万一,正直法務が経営に失敗しても,正直法務の債権者は,松真さんや湯水さんの個人財産を差し押さえたりすることはできません(株主の間接有限責任)。なお,会社のうち,合名会社と合資会社の社員は,会社の債権者に対して直接責任を負っていますから,この点は当てはまりません(合名会社と合資会社は,昔々,ドイツの制度を輸入しようとして,,商法の立案担当者が,ドイツでは組合的なものに対し,うっかり法人格を与えてしまったという苦い歴史によって誕生したため,組合的な要素が強いのです)が,「個人の債権者が,会社財産を差し押さえることはできない」という点では,株式会社と共通します。

以上のように,会社を作る意味は
  会社という法人格のある存在を作って,個人財産と会社財産を区別すること
にあるということを心に刻んでいただければ,会社法が何を定めているのかということも分かります。

3 会社・社員・債権者
 さて,会社法は,会社という貯金箱ロボットを作るための法律ですから
 ? どういう手続きをすれば,会社が法人格を取得するか。
 ? 誰が,会社財産を運用するか(会社の業務執行をするか)
ということを規律するためにあると言っても過言ではありません。

 そして,組合であれば
   松真さん・湯水さん----------債権者
という直接の法律関係があるので,民法で十分ですが,会社を作ってしまうと
  松真さん・湯水さん-----株式会社 正直法務---------債権者
という三者間の法律関係が生まれますので,会社法は,さらに
 ? その三者の法律関係は,どのようなものか。
ということも規定しているのです。

 なお,松真さん・湯水さんのように「会社を作った人」のことを
   「社員」
といいます。
 社員の定義については,「出資者」といった方がより正確なのですが,「社員とは,会社を作った人である」というイメージは,それなりに本質をついているので,まずは,そのイメージを固めてください。

 イメージは,固まりましたか。
 それでは,次に,会社法が(1)会社と社員,(2)会社と債権者,(3)債権者と社員について,どんなことを規定しているのかを説明します。
1)会社と社員

 会社は,社員の意思によって生まれるものですから,
  会社のことは,社員が決める
のが原則です。
 そして,社員が沢山いると,どんなことを決めたのかが不明確になることが多いので,会社法では,大事なことは書面(電子ファイルでもいいです)で決めなければならないことになっています(この社員が決めた基本的規則を書いた書面のことを「定款」といいます。)
 また,会社は,社員の利益のために作ったものですから,社員は
  会社を解散して,法人格を消滅させ,会社財産を社員の個人財産に戻す
こともできます。
 このように,社員は,会社の生殺与奪権を持っていますから,会社と社員の力関係は,基本的には
   会社<社員
なのです。
 ただし,会社は,社員から独立した法人格を持っている「貯金箱ロボット」ですから,
   会社が存続している間は,社員が,自分勝手に,会社財産を個人財産に戻してはいけない。
というルールは存在します。
 会社財産を,社員に戻すためには,配当,払戻し,残余財産の分配等会社法で定められた方法による必要があり(この方法については,後日,詳しく説明します),会社法の定めたルールに違反して,社員に会社財産を戻すことはできません。

(2)会社と債権者の関係
 会社は,貯金箱ロボットなので
   会社自身が,他の人と契約をしたり,他の人に対して不法行為をしたり
独自の活動を行います。
 会社が行う契約や不法行為等によって,会社に対して債権を持つ者が生まれますが(債権者),この債権者が,会社の財産に対して強制執行することができるのは,当然のことであり,両者の力関係は
   会社<債権者
ですね。

 この両者の関係は,民法が適用される部分が多いのですが,
 ? 会社が契約をするときに,取引の相手方をどのように保護するか(取引の保護)。
 ? 会社が不行行為により第三者に損害を与えた場合に,被害者をどのように保護するか(被害者の保護)
 ? 会社から資産が流出して債権者が害される場合に,どのような方策を採ることができるのか(一般債権者の保護)。
という3点については,会社法は,特別に規定を置いていますので,この部分は,後日,たくさん勉強してもらうことになります。
 なお,この3点は,しばしば「債権者保護」と一括りにされることもありますが,それぞれ視点が異なるので,会社法の学習においては,区別しておいた方がよいでしょう。

(3)社員と債権者の関係

 会社の債権者は,本来,債務者である会社にしか請求することができないのが原則です。

 その代わり,会社が解散したときには,会社財産は,?まず債権者が分配を受けて,?残った財産(残余財産)を社員で分けることになっています。もし,個人で事業をしていたら,その人は,事業関係の債権者に支払をしなければならないわけですから,会社を使って事業をした場合でも,「社員は,会社財産について,債権者に劣後する地位にある」のは,当然です。
 つまり,力関係は
  社員<債権者
ということができます。
 しかし,会社が解散される前に,社員が,配当や払戻しにより,会社財産を自分のものにしてしまうと,社員が債権者に勝つことになりかねません。
 そこで,会社法は
 ? 合名会社・合資会社では,社員が,会社の債権者に対し,会社に代わって支払わなければならないという直接責任を認める,
 ? 合同会社・株式会社では,配当や払戻を制限する
という制度を採ることにより
  社員<債権者
という関係を維持しているのです。

4 今日のまとめ
 今日は,初回なので,張り切りすぎて,長くなってしまいました。楽をしようとして,かえって大変な企画を立ち上げてしまい大変後悔しています・・・。
 願わくば,初回が不評で,即,打ち切りというのが理想的な展開なのですが,いかがでしたでしょうか。
 
 それでは,最後に,今日のまとめをして,終わりにします。
1 会社法は,会社・社員・債権者の三者間の関係を調整する法律である。
力関係は,「会社<社員<債権者」が基本。
2 会社は,組合と違って,法人格が認められ,事業用の財産を,個人財産と法的に区別して管理することができることに存在意義がある。
3 会社は,社員の意思に基づいて設立される。
4 会社に関する重要事項について社員が決めた書面のことを「定款」と呼んでいる。
 会社財産の処分は,業務執行者が行い,社員には処分権はない。
5 社員が,会社財産を個人財産に戻すための方法には,配当,払戻し,残余財産の分配等があるが,これらは,会社法で定められた手続きを取らなければ,行うことができない。
6 会社債権者の保護を考えるときは,?取引の相手方の保護,?被害者の保護,?一般債権者の保護の3点を考えなければならない。
7 社員は,会社財産について,会社債権者に劣後する地位にある。合名会社・合資会社では社員の直接責任によって,合同会社・株式会社では配当・払戻しの制限によって,それを実現している。

以上のポイントは,直接,答案に書くようなことではありませんが,今後の会社法の説明をする上で,頭にたたき込んでおいてもらいたい基本中の基本なので,次回までに復習しておいてくださいね。
(3)社員と債権者の関係

 会社の債権者は,本来,債務者である会社にしか請求することができないのが原則です。

 その代わり,会社が解散したときには,会社財産は,?まず債権者が分配を受けて,?残った財産(残余財産)を社員で分けることになっています。もし,個人で事業をしていたら,その人は,事業関係の債権者に支払をしなければならないわけですから,会社を使って事業をした場合でも,「社員は,会社財産について,債権者に劣後する地位にある」のは,当然です。
 つまり,力関係は
  社員<債権者
ということができます。
 しかし,会社が解散される前に,社員が,配当や払戻しにより,会社財産を自分のものにしてしまうと,社員が債権者に勝つことになりかねません。
 そこで,会社法は
 ? 合名会社・合資会社では,社員が,会社の債権者に対し,会社に代わって支払わなければならないという直接責任を認める,
 ? 合同会社・株式会社では,配当や払戻を制限する
という制度を採ることにより
  社員<債権者
という関係を維持しているのです。

4 今日のまとめ
 今日は,初回なので,張り切りすぎて,長くなってしまいました。楽をしようとして,かえって大変な企画を立ち上げてしまい大変後悔しています・・・。
 願わくば,初回が不評で,即,打ち切りというのが理想的な展開なのですが,いかがでしたでしょうか。
 
 それでは,最後に,今日のまとめをして,終わりにします。
1 会社法は,会社・社員・債権者の三者間の関係を調整する法律である。
力関係は,「会社<社員<債権者」が基本。
2 会社は,組合と違って,法人格が認められ,事業用の財産を,個人財産と法的に区別して管理することができることに存在意義がある。
3 会社は,社員の意思に基づいて設立される。
4 会社に関する重要事項について社員が決めた書面のことを「定款」と呼んでいる。
 会社財産の処分は,業務執行者が行い,社員には処分権はない。
5 社員が,会社財産を個人財産に戻すための方法には,配当,払戻し,残余財産の分配等があるが,これらは,会社法で定められた手続きを取らなければ,行うことができない。
6 会社債権者の保護を考えるときは,?取引の相手方の保護,?被害者の保護,?一般債権者の保護の3点を考えなければならない。
7 社員は,会社財産について,会社債権者に劣後する地位にある。合名会社・合資会社では社員の直接責任によって,合同会社・株式会社では配当・払戻しの制限によって,それを実現している。

以上のポイントは,直接,答案に書くようなことではありませんが,今後の会社法の説明をする上で,頭にたたき込んでおいてもらいたい基本中の基本なので,次回までに復習しておいてくださいね。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/cat6630560/index.html
2006年11月14日 (火)
【入門】所有と経営の関係
 今日は、「所有と経営の関係」について、お話しします。

1 出資とは、何か
 第一回で、社員というのは、「会社を作った人である」と説明しました。
 これは、会社は、
    社員の意思表示によって生まれ、成り立つものである
ということをイメージしてもらうために使った言葉です。

 ただ、会社は、公益法人と違って、社員が、お金儲けをするために作るものですから、会社の社員になるためには、単に定款を作るだけではダメで、
  お金儲けの元手(現金等の経済的利益)を会社に出さなければならない
ことになっています。
 社員が、会社に対して、経済的利益を移転させる行為を「出資」といいます。

 「出資」は、通常は、お金や土地・建物のような
  「財産」
がほとんどですが、合名会社や合資会社では、「会社の業務執行社員として働くことにより、会社に経済的利益を与える」という労務出資等も認められています。

 では、なぜ、社員になるために、出資をしなければならないのでしょうか?

 例えば、松真さんと湯水さんが会社を作ったものの、松真さんは、金も出さず、働きもせず、もっぱら、湯水さんが、資金を出して、昼は営業、夜は出版のための原稿書きに徹して、くたくたになりながら、商売をしていたとしましょう。

 この「何も出さない、何もしない」松真さんが、会社に利益が出たときに限って、会社にやってきて
   俺も、定款に社員と書かれているんだから、配当をくれよ。
と言ったら、どうでしょう。
 湯水さんは、あまりの虫の良さに
   ブチ切れ
ますよね。それとも、愛があれば乗り越えられるのでしょうか?
 いやいや、松真さんが、絶対君主ならば、いざしらず、資本主義社会においては、
  金も出さない、働きもしないような奴は、何の利益も得られない
というのが会社法のしきりです。
 つまり、出資は、会社から利益の配分を受けるための「賭け金」であり
  リスク・テイクしなければ、リターンはない
というルールが採用されているのです。
 
 このように、社員は、会社に出資することにより、会社が得た利益の分配を得ることができるという特徴を持っているので、一般的には
 「社員」=「出資者」
という定義が用いられます。
 ですから、皆さんも、社員の定義を聞かれたときは「出資者のことです」と答えて欲しいのですが、単に金を出すだけではなく、会社への加入の意思表示をすることも、社員の重要な要素であることも忘れないでください。

2 所有と経営
 社員が、出資した財産は、会社という貯金箱に入り、社員の財産ではなくなってしまいますから、社員は、その財産を処分することはできなくなります。
 何度もいいますが、会社財産を処分する権限は、社員ではなく、業務執行者が持っているのです。

 しかし、社員は、出資財産に対する権利を失う代わりに、
  会社に対する権利(定款を作ったり、誰を会社の業務執行者にするか決めたりする権利)
を得ます。
 この会社に対する権利のことを、通常、「社員権」と呼びます。
 この「社員権」については、いろいろ難しい話はあるのですが、その話も会社法の具体的な条文の解釈にはあまり影響しないので、ここではパス。

 この社員権は、所有権ではありません。会社は、観念的な存在であり、「物」ではなく、所有権の客体にはなりませんから。
 しかし、会社法の制度を説明をするときには、社員権が会社の組織等を自由に決定できる権限であることを捉えて、
  「社員は、会社の実質的所有者である」
  「株主は、株式会社の実質的所有者である」
等と説明することはあります。
 ただし、勘違いしてはいけないのは、社員には、会社財産を直接処分する権限がないので、社員だというだけでは、会社財産を運用して商売をする権限はないのです。

 商売(会社の行う商売のことを、会社法では「事業」といいます。)をやるのは、あくまでも、貯金箱ロボットの操縦者である「業務執行者」です。
 業務執行者は
   どんな従業員を雇うか。
   何を仕入れ、何を売るか。
   資金繰りのために、どこからお金を借りてくるか
などなど、日々、いろいろなことを決めながら、事業を営み、会社財産を殖やしていく責任を負っています。
 日常用語でいえば、業務執行者は、会社の経営者ということができるでしょう。
 
 ところで、この「経営」という言葉は、法律用語ではありません。
 一般社会では、「どんな定款変更をするのか」、「誰を取締役にするか」ということも、経営の一貫として捉えられていますが、会社法で「経営」という言葉を使う場合には、会社の基本的な枠組みを決めることは、必ずしも含まれておらず、「会社の業務を執行すること」という意味で使われている場合が多いのです。
 そこで、このブログでも、経営というのは、業務執行という意味で使うことにしましょう。



3 所有と経営の関係
 では、株式会社と持分会社では、「所有」と「経営」は、どのように関係しているでしょうか。

(1) 株式会社
 株式会社の業務執行権を誰が持っているかということを規定した条文は、次のように、実に複雑です。

 原則 取締役(348条)
 例外 取締役会設置会社では、代表取締役(363条1号)及び業務担当取締役(同条2号)
 例外の例外 取締役会設置会社のうち、委員会設置会社では、執行役(418条2号)

 この複雑怪奇さの原因は、後日説明することとして、今は、

  株主(株式会社の社員)には、業務執行権がない=所有と経営が分離している

ということだけを確認しておきましょう。
 つまり、株主が、業務執行をしたいのならば、株主であるというだけではダメで、株主総会で
  取締役に選任されなければならない(329条1項)
ということです(なお、代表取締役(362条2項3号)・執行役(402条2項)になりたければ、「取締役会」で選ばなければなりません)。
 また、取締役の全員が株主ではない、つまり、出資をした人が全く業務執行をすることができないという事態も許容されています。

 このように、株主に業務執行権が認められていないのは、
  株主が変わっても、会社の経営に影響を与えないようにすることにより、株主を無個性化する
ことにあります。
 無個性化というのは、「誰が株主になってもよい」ということです。

 
いつもの具体例で説明しましょう。
 公務員の松真さんと湯水さんが、会社の経営をするためには、公務員をやめなければいけません。
 そこで、二人が
 「もし商売が失敗したときのことを考えると、公務員をやめるというのはリスキーだな」
と思うのならば、株式会社を設立し、会社を経営してくれそうな民間人のサミーさんに頼んで、取締役になってもらえばいいのです。
 「株主に業務執行権がない」と言うと、ネガティブな響きがありますが
    株主は、業務執行をしなくてもよい。
    出資さえしておけば、後は、配当が来るのを待つだけ。
というと「株主って、楽そうだな。」と思うでしょ?
 株主の無個性化は
  経営することができない人(経営能力がない人)でも株式会社に出資をすることができるようにする
という効果を持っています(経営能力がないというのは、やれば経営できるかもしれないが、様々な事情で経営することができない人も含みます)。
 難しい言葉で言えば
 「社会に散在する少額資本を結集するためには、株式会社の社員の地位を無個性化する必要がある」
ということになるでしょう。

 また、株主の無個性化は
  株式の譲渡を自由にする
ためにも重要です。
 例えば、松真さんと湯水さんが100万円ずつ出資して、株式会社正直法務を設立し、公務員を辞めて、取締役として一生懸命働いていたところ、株式会社ワクワク・ブックスが
  正直法務を100%子会社にしたいので、その株式をそれぞれ1億円で売ってください。
  そして、これからも松真さんと湯水さんのお二人に経営をお願いしたい。
と申し入れてきたらどうしますか。

 もし、会社法で
  株主が業務執行をしなければならない
というルールがあると、松真さんと湯水さんは、株を売りたくても売れません。
 会社にとっても、株主が株式を譲渡すると、経営に支障を来すというのならば、株式の譲渡を制限せざるをえないということになるでしょう。
 しかし、株式会社では、株主の地位が無個性化されており、株式の譲渡により、誰が株主となっても、基本的には経営に影響を与えることはないので、株式譲渡の自由(127条)を認めても、不都合は生じにくくなっています。

 
このように、所有と経営を分離し、株主の地位を無個性化することは、?出資を容易にしたり、?株式譲渡の自由を認めやすくするために役立つので、「事業がうまくいったときには、社員を増やして、会社の規模をどんどん大きくしていきたいというオープンな会社」である株式会社の基本的なルールとして採用されているのです
(2) これに対し、持分会社は、590条で
   社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。
と規定されています。
 言い換えれば、持分会社では、
  所有と経営が一致
しています。
 持分会社は、「家族や仲間同士でずっと運営していきたいクローズドな会社」「組合的会社」として作られた会社なので、組合と同じように、社員が自ら業務執行をすべきであるというルールが採用されているのです。

 たとえば、先ほどの事例で、もし松真さんと湯水さんが持分会社を作っていたとしたら、ワクワクブックスが、松真さん達の持分を買い上げて、100%子会社にした後に、松真さん達に業務執行をさせようと思っても、それは不可能です。ワクワク・ブックス自身が業務執行社員となりますから、松真さん達を職務執行者にするという裏技はあるものの、その場合でも、法的には、業務執行は、ワクワクブックスが行っていることになります。

 不便と言えば不便なわけですが、持分会社というのは、クローズドな会社であることに存在意義があるのですから、その不便さこそが、持分会社の持ち味なのです。

4 所有と経営の分離の程度
 以上のように、会社法は
   株式会社=所有と経営が分離している会社
   持分会社=所有と経営が一致している会社
という分類をしていますが、「所有と経営の分離」というのは、法律用語ではないため、その意味を正確に理解しておく必要があります。

 たとえば、
   株主も取締役になれば、業務執行をすることができるし
   社員も、定款で業務執行をしない旨定めれば業務執行をすることができない
ので、実態としては
 事実上、所有と経営が一致している株式会社
もあれば、
 99%出資している社員が業務執行をすることができない持分会社
も存在するのです。

 「所有と経営の分離」というのは、「業務執行者が株主である必要はない」という制度の話であって、実態がどうかは、別次元なのです。そこのところを理解してもらうために、会社法100問では、
 「所有と経営の制度的分離」
という言葉を使っています。

 また、所有と経営を分離するかどうかは、理論的に導かれるものではなく、政策的に決められるものです。
 たとえば、株式会社も、大昔は、
  「取締役を株主から選ばなければならない」
というルールがあり、所有と経営が一致していました。

 逆に、持分会社は、現在
  「業務執行者は、必ず社員でなければならない」
というルールを採用していますが、これは、持分会社が、組合の延長線で考えられた制度であるがゆえに、伝統的に設けられているルールに過ぎず、立法論としては、社員でない者を業務執行者として定めることも不可能ではないと思います。

 しかし、立法論をつべこべいっても仕方がないので、初学者の皆さんとしては、会社法は
  株式会社の業務執行者は、必ずしも株主である必要はない。
  持分会社の業務執行者は、必ず社員でなければならない。
という制度を採用しているということを踏まえた上で、なぜ、そのような制度を採っているのかについて、3で説明した理由を理解することが第一歩でしょう。

 所有と経営の分離について、もう少し深く知りたい方は次の記事を参考にしてください。
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50055547
http://app.blog.livedoor.jp/masami_hadama/tb.cgi/50875623

(質問コーナー)

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