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登記の勉強と情報コミュの刑法 復習

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(罪刑法定主義)

1. 意義

 犯罪と刑罰は、予め成文の法律によって明確に規定されていることを要する。

 「犯罪は国民自身がその代表者を通じて決定しなければならない」民主主義的要請(→法律主義)と、
「犯罪は、国民の権利・行動の自由を守るために前もって成文法により明示されなければならない」自由主義的要請(→事後法禁止の原則)を根拠とする。

2.派生原則

? 慣習刑法の排除・・・法律主義に基づく。解釈や違法性の判断は慣習に依拠できる。

? 刑罰法規適正の原則・・・「明確性の原則」と「刑罰法規の内容の適正の原則」を内容とする。

? 刑罰法規不遡及の原則・・・事後法禁止の原則に基づく

? 類推解釈の禁止・・・拡張解釈や目的論的解釈は許される

? 絶対的不定期刑の禁止

(時間的適用範囲)

・「犯罪後」(6):実行行為終了後の意味
            ↓
  法律の変更された時点の前後にまたがって実行行為が行われた継続犯の場合は、
  問題は生ぜず、実行行為終了時の法律を適用すれば足りる。
   (たとえ法改正により刑が重くなっても、新法が適用される)

・犯罪時法と裁判時法との間に中間法が介在する場合には、
 中間法に対しても、6条を適用して比較を行う
   →中間法の刑が最も軽ければ、中間法が適用される。



(犯罪の主体・その他の構成要件要素)

真正身分犯:行為者に身分があることによって、犯罪を構成する場合(ex.収賄罪)
不真正身分犯:行為者に身分があることによって、法定刑が加重されるか減刑される場合

コメント(29)

(不作為犯)

責任無能力者・限定責任能力者の行為も、
高度の精神病者でない限り、なお、意思に基づく行為といえる。

 作為義務の体系的地位

作為義務の錯誤:作為義務があるのにないと誤信して事態を放置した者に、不真正不作為犯としとの刑責を問うことができるか
           →作為義務の体系的位置付けと関連して問題となる

ex.)母親Xが溺れているAを発見したが、救助せずにAが溺死してしまった場合
      ?Xが、Aを自分の子供ではないと思っていたとき
      ?Xが、Aを自分の子供と認識していたが、救助義務はないと思っていたとき

[作為義務の体系的位置付けと、作為義務の錯誤の処理]

学説
統一説(保証人説)
二分説

内容
保証人的義務と保証人的地位とは
区別せず、両者を一体として構成
要件段階で考慮すべきである
保証人的義務と、保証人的義務を生じさせる
前提となる保証人的地位とを区別して、
保証人的地位を構成要件要素、
保証人的義務を違法要素と考えるべき

根拠
?両者は社会観念上一体として
  とらえられており、実際上両者を
  区別することは困難である
?構成要件が本来持つ違法推定
  機能を十分に認めることができる
元来、保証人的義務は個別具体的実質的
判断を要するもので、これを構成要件の
レベルで判断するのは、類型的形式的判断
たる構成要件該当性になじむものではなく、
構成要件に過当な要件を負わせることになる

ex.?
事実の錯誤(*)
事実の錯誤

ex.?
法律の錯誤

批判
不作為者が錯誤によって作為義務を
認識していない場合には、すべて故意が
阻却されえることになりかねない
不作為犯の中心が違法性論におかれること
になり、不作為犯を違法性の領域のみで
論じた以前の立場と異ならなくなる


*:規範的構成要件要素の錯誤として処理される
       ex.?:故意阻却される
       ex.?:故意阻却されない

cf.)規範的構成要件要素:犯罪の構成要件要素のうち、ある事実がそれに当たるか否かについて、規範的な判断を要するもの
                    ↓
    ex.)わいせつ罪における「わいせつ」
       礼拝所不敬罪における「不敬の行為」

(因果関係)

因果関係の中断:因果関係の進行中に、被害者もしくは第三者の行為・または自然力が介入する場合に、それによって従来の因果関係が断ち切られること。
 ex)AがBに軽傷を負わせたところ、医師Cが治療を誤ってBが死亡した。
     →条件関係は認められるが、因果関係は否定される。
  (条件説は、因果関係の中断という概念を用いてその不都合性を回避しようとする。)

因果関係の断絶:同じ結果に向けられた先行行為が奏功しないうちに、まったく無関係に別の条件によって結果が発生させられる。
 ex)AがBを殺す意思でBに毒を飲ませたところ、まだ毒がまわらないうちに、第三者Cが殺意をもってピストルでBを撃って死亡させた。
→行為と結果との条件関係がそもそも存在しない。

条件関係

? 仮定的因果関係:死刑執行人Aが、死刑囚の死刑執行ボタンを押そうとしたその時に、第三者Xが、Aを突き飛ばして代わりにボタンを押した場合

? 択一的競合:X,Yがそれぞれ独立に、Aのウイスキーに致死量の毒物を入れ、それを飲んだAは死亡したが、それぞれの毒に相乗効果はなかった場合

? 重畳的因果関係:X,Yがそれぞれ独立に、Aのウイスキーに致死量に満たない毒物を入れたところ、双方の毒物が合わさって致死量に達し、それを飲んだAが死亡した場合

判断方法
?仮定的因果関係
?択一的競合
?重畳的因果関係
相当因果関係説

1. 意義

一般の社会生活上の経験に照らして、通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合に刑法上の因果関係を認める考え

2.相当性を判断する基礎となる事情

主観的相当因果関係説:行為者が、行為の当時、認識していた事情および認識しえた事情。

折衷的相当因果関係説:行為者の立場に立って、行為時に、
                一般人が認識し得た事情および行為者が現に認識し得た事情。

客観的相当因果関係説:裁判官の立場に立って、行為時に、
                客観的に存在したすべての客観的事情
                および行為後に生じた事情でも、行為時に経験法則上予見可能な事情。

 
行為者が認識・予見
一般人が認識・予見
行為者・一般人にも認識・予見


すべての説において、行為後の事情については、
一般人に予見可能でなければ因果関係は否定される。

(違法性の意義・本質)

 主観的違法要素

主観的な要素であり、行為の違法性に影響を与えると考えられるもの
  ex.)目的犯における目的、傾向犯における主観的傾向、表現犯における一定の心理状態

   ★客観面に対応する事実が存在しない主観的要素を、主観的超過要素という

行為無価値論:行為者の主観的事情をも考慮して違法性を判断するので、主観的違法要素を一般的に肯定する考え方につながる
   →判例も主観的違法要素を正面から認めている

結果無価値論:法益侵害及びその危険に限定して違法性を考えるので、主観的違法要素を全面的に否定する考え方、
又は一部(ex.未遂犯における故意)についてのみ肯定する考え方につながる。

cf.)客観的違法性
     結果無価値:違法判断の対象は客観、基準も客観
     行為無価値:違法判断の対象は客観でなくてよい、基準が客観であればよい

(法令・正当業務行為)

(被害者の承諾)

(緊急行為−正当防衛・緊急非難・自救行為)

 正当防衛(36)

要件:?「急迫不正の侵害」に対して
    ?「自己又は他人の権利を防衛するため」
    ?「やむを得ずした行為」であること

防衛の意思の内容:?防衛の動機・目的(防衛の目的)
             ?急迫不正の侵害に対する事態の認識(防衛の認識)
      ↑
最近の通説は?で足りるとしている。
→・積極的な防衛意思が認められない場合
  ・攻撃意思と防衛意思とが併存する場合
    においても、直ちに防衛の意思は否定されない。

 偶然防衛:古くは、犯罪論における主観主義と客観主義の対立の論点。

 過失行為による正当防衛

[正当防衛と防衛の意思の要否]

 正当防衛の成立要件として、防衛の意思が必要か。
  →権利を防衛する「ため」という文言の解釈と関連して問題となる

学説
防衛の意思不要説
防衛の意思必要説

理由
? 違法性の判断は、法益侵害又はその

危険の有無という点から客観的になされるべきであり、行為者の主観的事情を考慮すべきではない

?過失による正当防衛も認めるべき
?36条の権利を防衛する「ため」という文言は、
 客観的に権利を防衛するためにした行為と
 認められる場合であれば、十分である
? 違法性の判断は、

客観的要素のみならず、
 主観的要素をも併せて

考慮して判断されるべきで

あるから、正当化に

ついても、主観的正当化要素が認められるべきである
?36条の権利を防衛する「ため」という文言は、防衛の意思を必要とする趣旨である


[防衛の意思の内容]
   防衛の意思必要説からは、防衛の意思の内容が問題となる

 甲説:急迫不正の侵害を認識しつつ、それを避けようとする単純な審理状態とする(判例)
 乙説:正当防衛状況の認識に加えて、防衛の目的・動機を必要とする

 防衛行為と第三者

防衛行為の結果が第三者に生じた場合       A
                         侵害行為↓
                               X――――→B
                                石を投げる

1.緊急行為説

(1)正当防衛説(行為無価値論の重視)
     ∵Bに対する行為は、Aに対する正当防衛行為から生じたものであり、正当性は失われない

(2)緊急行為説(結果無価値論の重視)
     ∵・結果的に無関係な第三者に対する反撃となっている
       ・防衛の意思は、避難の意思を含む

2.違法行為説

(3)誤想防衛説
     ∵Bへの行為は客観的に緊急行為性を欠くが、ただXが主観的に正当防衛だと
       認識して行為している以上、誤想防衛の一種として故意責任が阻却される
       (Bの存在を認識していない場合)

 自救行為

正当防衛を認めるだけの侵害の急迫性・現在性は存在しないが、国家機関の救済を待っていては
失われた法益の回復が困難になる場合に、侵害者に対し自ら実力により救済を図る行為
  →正当防衛が認められない場合の措置

正当防衛:急迫不正の侵害の現存が必要
自救行為:急迫不正の侵害の現存は不必要

 義務の衝突

両立しない複数の法律上の義務が同時に存在する場合において、一方の義務を履行するためには、他方の義務を怠る以外に方法がない場合

ex.1)医師が重傷の者と軽傷の者の2人の患者に同時に診療を申し込まれた場合、
     どちらにも診療義務があるから、診療義務の衝突が認められる
ex.2)弁護士が、弁護人として被告人を守るために、過去に業務上知り得た秘密をバラす

効果:行為者が義務の軽重を比較して、高度な、より重要な義務を尽くすために、程度の低い義務に違反したとき、
又は程度の同等な義務の一方を尽くすために他方を怠ったときは、不作為犯の構成要件に該当しても正当化される

要件:?義務が衝突していること?義務較量の原則→違法性もしくは責任阻却
     (行為者の不作為に関して問題となる)

  cf.)緊急避難:?違法性阻却のみ?行為者の作為に関して問題となる

(未遂総説)

(実行の着手)

 実行の着手時期

形式的客観説:構成要件に該当する行為が開始されたとき
              ↓修正(あまりにも遅くなってしまうという批判)
         構成要件の一部、又はこれに密接する行為が行われたとき
          (↑すでに形式的客観説の放棄)

実質的客観説:現実的危険性を含む行為を開始したとき
   ex.)・窃取しようとしてポケットの外側に手を触れたとき
     ・被害者をダンプカーの運転席に引きずり込もうとしたとき


中止犯)

 障害未遂(狭義の未遂犯)

   着手未遂:行為者の着手した実行行為が終了しなかった場合

   実行未遂:実行行為は終了したが、構成要件的結果を生じるに至らなかった場合

 中止未遂(中止犯):犯罪の実行に着手したが、自己の意思により、犯罪を完成させることを中止した場合(43但)

 実行行為の終了時期と中止犯

中止犯の成立には、「犯罪を中止した」こと、すなわち中止行為が必要
実行行為がなお未完了であれば(着手未遂)、中止行為はその後の行為の不作為で足り
実行行為が既に終了していれば(実行未遂)、結果発生阻止に向けての積極的作為が必要
                        ↓
 そこで、着手未遂と実行未遂はどのように区別すべきか
 実行行為の終了時期が問題となる

ex.1)Xは、7連発の拳銃を用い一発でAを殺そうと思って、Aに向け一発発射したところ、
    命中せず、後悔してそのまま帰った
ex.2)Yは、2発目でBを射殺しようとして、1発目を発射し、Bに命中させ重傷を負わせたが、
    後悔して2発目を発射するのをやめた
ex.3)Zは、2発目でCを射殺しようとして、1発目を発射したところ、Cに命中しなかったが、
    後悔して2発目を発射するのをやめた

 
主観説ーーー行為者の意思・計画を基礎として判断する


客観説ーー行為者の外部的形態ないし結果発生に対する危険性の有無で判断する

折衷説ーー行為者の外部的形態と行為者の意思を総合的に観察して判断する


○:実行行為終了→実行未遂  ×:実行行為終了せず→着手未遂

折衷説は、着手未遂と実行未遂の区別よりも、要は中止行為といえるかの否かの観点から検討する
                    ↓
客観的に実行行為を継続する必要性・可能性
主観的に実行行為を継続する必要性・可能性
 
を認識しているという、4つの要件をもとに、中止行為を行ったか否かを検討する

主観説において、2発目で射殺する意思で1発撃っても実行行為は終了していないから、着手未遂であり、
  
1発目が命中した場合でもたまたま第三者によって結果が防止されれば、
  
2発目を撃たないだけで中止未遂になってしまう
    →そこで、主観説に立ちながらも、結果防止の作為を要求する見解もある

 中止犯の法的性格(なぜ刑が必要的減免になるのか)

政策説:「引き返すための黄金の橋」
        ←減刑する場合と免除する場合との
          区別の基準が示されていない。

違法性減少説:中止という主観的要素が行為の違法性に影響し、減少させる
            ←共犯と中止に関して最小従属性説をとらない限り中止した者の共犯者にも刑の減刑・免除の法的効果を与えてしまう。

責任減少説:犯罪実行の意思を撤回した以上、非難が減少する。
          ←責任減少事由であれば、未遂・既遂を問わず同じ法律効果が生じるはずであるが、
            現行法は中止犯が認められるのは、未遂の場合に限定される。


--------------------------------------------------------------------------------

(不能犯)

抽象的危険説:行為時において、
          行為者が認識していた主観的事情を基礎として、
          一般人の立場から見て、結果発生の危険を感じる場合を未遂犯、そうでない場合を不能犯。

具体的危険説:行為時において、
          行為者が特に認識していた客観的事情、および一般人が認識しえた事情を基礎として、
          一般人を基準に、結果発生の危険を感じる場合を未遂犯、そうでない場合を不能犯。

客観的危険説:行為当時に存在していたすべての客観的事情を基礎として、
          客観的に見て、結果発生の危険を感じる場合を未遂犯、そうでない場合を不能犯。


--------------------------------------------------------------------------------

(予備)

(共犯総説) 共犯の従属性(実行従属性)

共犯独立性説:狭義の共犯の成立には、必ずしも正犯者が「実行」行為に着手する必要はない。

  共犯独立性説→間接正犯の概念は不要(∵すべて共犯に含まれる)
      ↓
  教唆行為を実行行為そのものと見る

共犯従属性説:狭義の共犯の成立には、少なくとも正犯者が「実行」行為に着手したことが必要。

  共犯従属性説
      ↓
  共犯の行為を、基本的構成要件そのものの実行行為とはしない。

教唆の未遂
  教唆したが、正犯が着手しなかった場合

未遂犯の教唆
  教唆された正犯が着手したが、未遂に終わった場合

未遂の教唆
  初めから未遂に終わらせる目的で教唆する場合


 住居侵入罪において、被害者の承諾がある
               →構成要件該当性が阻却される。

 私文書偽造罪において、行使の目的を欠く
               →構成要件該当性が阻却される。
(共同正犯)

 共謀共同正犯@

・共同正犯者の1人から結果的加重犯の重い結果が発生した場合
   →他の者も重い結果について責めを負う
     (実行に着手しなかった共謀者についても同様)

・実行の着手以前において、共謀関係からの離脱があったとして、共同正犯としての責めを逃れるには
  ←?離脱の意思を表明し、
    ?他の共謀者がそれを諒承したことが必要
                  ↓
    ∴犯意を放棄しても、その旨を告げずに逃走すれば共同正犯のまま 

  ☆ただし、「諒承」は実際には緩やかに解されている。
      →離脱する旨の表明が相手方に認識されれば、離脱が認められる。

 承継的共同正犯

先行行為者が、すでに実行行為の一部を終了した後、後行行為者が共同実行の意思をもって
実行に参加した場合、共同正犯が成立するか。承継的共同正犯の肯否が問題となる
                             ↓
 たとえば、Xが強盗の手段としてAに暴行・脅迫を加えた後、YがXと意志を通じ、
 ともに財物奪取を行った場合に、承継的共同正犯を否定すれば、Yは窃盗罪にとどまるが、
 肯定すれば、Yは強盗罪の共同正犯となる。

[承継的共同正犯の肯否]

学説
内容
理由

全面
肯定説
後行者は介入以前に先行者が行った行為についても、共同正犯の責任を負

? 先行者によって実現された状況を認識し、その状況を利用して残りの実行行為を共同して実行した場合、共同正犯が成立する


?犯罪共同説・数人一罪の考え方

全面
否定説
後行者は介入後の共同行為についてのみ責任を問われ、介入前の事象については責任を負わない


?[因果的共犯論から]時間的に先行する行為事象に関しては、因果的影響を

与えることはできない(因果は遡らない)
?[目的的行為論から]因果経過を予測できない先行事象について

目的的行為支配を認めることができない

部分的
肯定説
原則として、後行者は、先行者のみが
関与した事象について責任を負わず、
例外的に全体としての犯罪に
つき共同正犯が成立する場合がある


先行者と後行者が相互に利用補充し合って
一定の犯罪を実現することは可能(*)



関与前の行為が、関与後にもなお効果を
持ち続けている場合には、
関与前の行為についても責任を問いうる


(*):後行者が、先行者の行為等を自己の犯罪遂行の手段として、積極的に利用する意思のもとに
    犯罪の途中から関与し、先行者の行為等を利用した場合には、
    承継的共同正犯が成立するとされる。

・事後の故意:自己の介入前に行為について、事後的な認識・了承があれば、
         行為全体について責任を負うことを認める考え方
                         ↓
         事後の故意を否定すること=承継的共犯の成立を否定すること

[他人予備の事案]

予備罪にも実行行為概念が認められ予備罪の共同正犯も成立しうるとして、
他人予備行為を行った者を共同正犯者として処罰できるか
  ex.)人の毒殺を準備しているXと共謀の上、同人のために農薬を提供したYにつき、何罪が成立するか

(1)まず、他人予備が予備罪の正犯行為である「予備」にあたるかが問題となる

   肯定説:予備と実行の着手とは性格を異にするものであり、両者の間には質的な断絶がある

   否定説:予備の正犯行為は、自己自身の実行行為を前提にしてのみ可能であり、
   (通説) 他人予備はその実質において「共犯行為」であって正犯行為になりえない

(2)それでは、通説に立った場合、他人予備行為であるために、
   予備罪の正犯行為になりえない行為は共同正犯行為にもなりえないのか

   甲説:共同正犯行為になりうる
     ∵殺人罪は自己予備罪であるから、自ら殺人を実行する意図のない者は、
       単独では予備罪の正犯となりえないが、自ら基本犯を犯す目的を有する者と共同して
       その予備行為に加担した場合において、共同実行の意思と共同実行の事実とが存在する場合は、
       65条1項の非身分者の加功による共同正犯として、右の目的がない加功者にも
       共同正犯を認めるべきである

   乙説:共同正犯行為となりえない
     ∵共同正犯は正犯行為を共同して実行することであるから、正犯行為になり得ない行為は、
       共同正犯行為にもなりえない

(教唆犯・従犯)

 幇助の因果性と片面的教唆

 幇助行為が物理的に役に立たなかった場合において、
  なお幇助犯が成立するといいえるためには、精神的に幇助したという関係が必要
                  ↓
 ただし、片面的従犯の場合には、精神的にも幇助したとは認められないので、幇助は成立しない 

片面的従犯の肯否:幇助者と被幇助者との間に、相互的な意思の連絡を欠く片面的従犯も認めることができる。
    (精神的幇助の場合には、正犯者が幇助行為の存在を認識していなければ、犯行が容易になったとはいえないから、片面的従犯は成立しない)

精神的幇助+ふつうの幇助(連絡あり)
→因果性認める

物理的幇助+片面的幇助(連絡なし)
→因果性認める


 未遂の教唆

共犯従属性説→可罰というアプローチが普通だが、
              ↓
    因果的共犯論を採ると、(すなわち、共犯も正犯を介して結果を発生させる行為と考えれば)
    教唆の故意には結果発生の認識が必要となる
              ↓
    未遂の故意につき、不可罰説も採りえる
間接従犯の肯否

間接教唆は61条2項で教唆とされうるが、正犯を幇助する者をさらに幇助する
いわゆる間接幇助の規定は存在しない。そこで、間接幇助の肯否について見解が対立している。

  否定説:?62?が「正犯」を幇助した者としているのは、間接幇助を含まない趣旨である
        ?幇助行為は、基本的構成要件の内容としての実行行為ではなく、従犯は正犯でないから、
          間接従犯についての規定がない以上、これを罰しないのが刑法の趣旨である

  肯定説:?実行行為者が犯罪を決意しているのを認識し、幇助行為によってその実行を間接的に
         容易にしている限り、正犯を幇助したと解すべきである
        ?幇助行為も構成要件に該当する実行行為であり、これに対する共犯も可能である

  ★Zが、Y又はその得意先が陳列するであろうと知りながら、わいせつ映画フィルムをYに貸与したところ、
    Yの得意先であるXがYから右フィルムの貸与を受けて、上映によりこれを公然陳列したときには、
    Zには、Xの犯行を間接に幇助したものとして従犯が成立する(判例)

(間接正犯)

被利用者が、強度の強制下にあって意思決定の自由を欠く行為は、刑法上の行為とはいえず、共犯の従属性をいかに解するかにかかわらず、間接正犯が成立する。

犯罪共同説では、共同正犯が成立するためには、犯罪を共同実行する意思が必要である。(ex.意思の連絡)

間接正犯と教唆の錯誤

<1> XはAを殺そうとしてYに毒入りの茶を運ばせたところ、事情を知っていたYはAにそれを飲ませた。

? 主観説(行為者の主観を基準とする)→間接正犯

? 客観説(行為者の客観を基準とする)→教唆犯



<2> Xは、Yが事情を知っていると思って、Yに毒入り茶を運ばせたところ、事情を知らなかったYはAにそれを飲ませた。

    ?主観説→教唆犯

?客観説→教唆犯

<3> XはAを殺そうとしてYに毒入りの茶を運ばせたところ、事情を知らなかったYは途中で事情を知りつつもAにそれを飲ませた。

? Xの行為に実行の着手を認める説

因果関係の錯誤と考える説→間接正犯既遂または間接正犯未遂、教唆犯

全体評価で間接正犯一罪とする説

? Yの行為に実行の着手を認める説

主観説→間接正犯

客観説→教唆犯
(共犯と身分)

 事後強盗罪と承継的共同正犯

  甲が、居眠りしている丙から財布を抜き取ったところ、目を覚ました丙が財布を取り戻そうとした。
 偶然これを見ていた乙は、甲と意思を通じ財布が取り戻されるのを防ぐ目的で、二人で丙に暴行を加え、
 その犯行を抑圧した。

承継的共同正犯とする立場 

  ・承継的共同正犯の成立を肯定
  ・承継的共同正犯の成立を否定
     ∵乙の暴行は、甲の行った窃盗に因果性を及ぼすことはないから

身分犯の問題とする立場

  ・窃盗犯人であることを身分とする身分犯、
   事後強盗罪を暴行・脅迫罪の加重類型(不真正身分犯)として捉える。 
        <65条の解釈について>
             ・判例・通説
             ・団藤・大塚説
  ・窃盗犯人であることを身分とする身分犯、事後強盗罪を真正身分犯として捉える

 共犯と身分

65条1項と2項との関係

  判例・通説 1項:真正身分犯の共犯の成立・科刑についての規定
           2項:不真正身分犯の共犯の成立・科刑についての規定

  団藤・大塚説 1項:真正身分犯・不真正身分犯を問わず、犯罪の成立についての規定 
            2項:不真正身分犯の科刑についての規定

     具体例?→非公務員Aが公務員Bに収賄を教唆
          ?→他人Aが子Bに対してBの親の遺棄を教唆

 
判例・通説
団藤・大塚説

?の事例
(真正身分犯)
B:収賄罪の正犯
A:収賄罪の教唆犯(65?)
B:収賄罪の正犯
A:収賄罪の教唆犯(65?)

?の事例
(不真正身分犯)
B:保護責任者遺棄の正犯
A:単純遺棄の教唆犯(65?)
B:保護責任者遺棄の正犯
A:保護責任者遺棄の教唆犯成立(65?)
   →刑は単純遺棄の刑(65?)


65条1項の解釈(65条1項の「共犯」には共同正犯を含むか)

  判例・通説:真正身分犯においても、65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる

  団藤・大塚説:不真正身分犯については共同正犯も含まれるが、
            真正身分犯については共同正犯は含まれない。

   具体例?→非公務員Aが公務員Bと共同して金品を収受
        ?→他人Aが、子Bと共同してBの親を遺棄

 
判例・通説
団藤・大塚説

?の事例
A・Bは収賄罪の共同正犯
           (65?)
B:収賄罪の正犯
A:共同正犯とはならず、
     教唆犯か従犯(65?)

?の事例
B:保護責任者遺棄
A:単純遺棄
 両者は単純遺棄罪の限度で
 共同正犯(65?)
A・Bには保護責任者遺棄の
    共同正犯が成立(65?)
 →Aは単純遺棄の刑(65?)


 65条

[賭博罪の場合]:賭博常習者でないYが、賭博常習者であるXに賭博を教唆した場合、
            Yに65条が適用されるか。
   →常習賭博罪(186?)の常習性は65条にいう「身分」にあたるか問題となる

65条適用肯定説:常習賭博罪の常習罪は、65条にいう(不真正)「身分」である(判例)
   →Yには、単純賭博罪の教唆犯(65?、判例)or常習得賭博罪の教唆犯(65?、団藤)が成立し、
     単純賭博罪の刑で処断(65?)

65条適用否定説:常習賭博罪の常習性は、65条にいう(不真正)「身分」ではない
   →Yには単純賭博罪の教唆犯が成立
      ∵常習犯という身分は行為定型の要素ではなく、行為者定型の要素であって、
        厳密にいえば常習犯人はあっても、常習犯というものはない

[横領罪の場合]:業務性を欠き、占有もない者が。業務上横領罪に加功した場合、
           非身分者はいかなる取扱いを受けるか。
   →業務上横領罪は、「物の占有者」という身分によって構成される横領罪が、
     「業務者」という身分によって加重されている複合的性格を有しているので、
     65条がいかに適用されるかが問題となる
  ex.)非占有者Yは、A会社の取締役兼経理部長のXに会社の金を横領するように唆し、
     Xが横領したという場合

業務上横
領罪の身
分犯として
の性格
非身分者との関係では、
「業務上」「占有者」という
二つの点での
二重の真正身分犯とする立場
遺失物横領罪に対して、
「業務上」「占有者」という
二つの身分によって
刑が加重される
不真正身分犯とする立場
非占有者との関係では、
「占有者」という点で真正身分犯
「業務上」という点で不真正身分犯
であり、「通常の刑」は
単純横領罪の刑とする立場

65




判例
通説
X:業務上横領罪
Y:業務上横領罪の教唆
X:業務上横領罪
Y:遺失物等横領罪の教唆
X:業務上横領罪
Y:単純横領罪の教唆

団藤説
X:業務上横領罪
Y:業務上横領罪の教唆
(65?)
X:業務上横領罪
Y:業務上横領罪の教唆
   (65?)
  →刑は遺失物等横領罪
    の限度(65?)
X:業務上横領罪
Y:業務上横領罪の教唆
   (65?)
  →刑は単純横領罪
    の限度(65?)


★:判例は、かつて65条1項により、全員に業務上横領罪が成立し、科刑は個別的に扱うとした

共犯なき正犯→ex.)AがBに自己の殺害を依頼したが、Bの殺害行為は未遂にとどまった場合

正犯なき共犯→ex.)AがBを唆して、Bに自傷行為をさせた場合

(身分犯の共犯)
第六十五条  犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
2  身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
(共犯と中止犯)

(共犯と錯誤)

(刑罰論総説−刑の種類・加重・減軽等)

 自首

要件:?「罪を犯した者」が
    ?「捜査機関に発覚する前に」
    ?「自首」すること

 ?:「発覚する前」には、犯罪事実がまったく発覚していない場合のほか、
     犯罪事実は発覚しているが犯人が誰かが発覚していない場合を含むが、
     単に所在不明である場合には含まない

 ?:犯人が捜査機関に発覚する前に出頭したが、捜査員不在等の事由により右申告をすることが
     できなかった場合でも、自首の成立を公認できる場合がありえる(下判)

効果→刑が任意的に減軽される。

 刑罰の機能→目的刑論

一般予防:刑罰の持つ広い意味での威嚇力により、一般人が犯罪に陥ることを防止しようとする見解

特別予防:刑罰により、犯罪者自身が再び犯罪に陥ることを防止しようとする見解
  ←「死刑」の機能としては期待できない。

「甲の法定刑は乙の罪の法定刑より軽い」
   :?甲の刑の上限が、乙の罪の上限より軽い
    ??が同じ場合は、甲の罪の上限が乙の罪の下限より軽いことを意味する。




(故意・過失)

?.構成要件的故意

一 総説

1.構成要件的故意の意義

   38条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。

但し、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

2.構成要件的故意の要素

 (1)総説

   認識的要素‥分かっていたかどうか。

   ‐故意の本質は規範に直面したにもかかわらずあえて行為に出たことに対する道義的非難である。

故意があるためには規範に直面したといえる程度に犯罪事実を認識することが必要である。

   意思的要素‥どのくらい望んだか。

   *意思的要素は必要か。必要としてどの程度必要か。

→表象説:故意の要素としては犯罪事実の認識で足り、意思的要素は必要ない。

 蓋然性説:結果発生の蓋然性の認識があれば故意があるとする。

c.区別概念が漠然としていて妥当でない。

     動機説(大谷):行為者が認識を自己の行為動機としたことを要する。

 認容説(団塚):犯罪事実の実現を積極的に意欲することまでは不要だが、

「やむを得ない」「構わない」という程度の認容をしていることは必要である。

 r.認容的態度は過失犯とは異なった重い道義的非難に値する。

 意欲説:行為者が犯罪事実の実現を意欲していることが必要である。

         c.刑法を過度に心情的なものとする。

   *未必の故意と認識ある過失との区別はどうするべきか。

→蓋然性説‥結果発生の蓋然性を認識した場合が未必の故意、

          可能性の認識があるに過ぎない場合は認識ある過失である。

 動機説‥認識が意思に結びついた場合が未必の故意、結びつかない場合が認識ある過失である。

 認容説‥事実の認識がありこれを認容している場合が未必の故意、

          認容していない場合が認識ある過失である。

 ex. 車を運転し歩行者の脇を通り抜けようとして人を轢いてしまった場合

 確定的故意 犯罪事実実現の確定的認識・認容あり

 未必の故意 犯罪事実実現の可能性の認識・認容あり   「轢くことがあってもかまわない」認容あり

 認識ある過失 犯罪事実実現の可能性の認識あり・認容なし 「ちょっと危ないけど大丈夫」認容なし

 認識なき過失 犯罪事実実現の認識・認容なし

 
   イ)問題点

規範の問題が行為者に生じるためには構成要件要素の認識の程度としてその社会的意味または性質までの
認識(意味の認識)まで必要となる。通常の場合は物体を認識すれば意味の認識はあるといえ問題とならないが、
内容が裁判官の評価を待って初めて確定される規範的構成要件要素については意味の認識が必要となる。

 ex.公務執行妨害罪における職務行為の適法性・文書偽造罪にお(2)認識・認容の対象となる犯罪事実

   客観的構成要件要素

   …構成要件的行為・行為の主体(esp.身分)・行為の客体・行為の結果・因果関係・行為の状況

   *故意の要件として、行為と結果との因果関係の認識を要するか。

→否定説:因果関係の認識は不要である。r.実行行為と結果を認識している以上、十分非難は可能である。

   肯定説(通説):因果関係の認識は必要であるが、因果関係の大筋について認識があれば足りる。

    r.因果関係は主要な構成要件要素であり、その認識は当然故意の対象である。

行為から結果に至る因果の経路についての認識がなければ、その結果について規範の問題が与えられないから、
行為者に結果についての故意責任を負わすことは許されない。

その因果の経路を具体的かつ詳細に予見することは不可能であり、
また結果の惹起につき規範の問題が与えられる程度の認識があればよいから詳細な因果関係の認識は不要である。

 (3)規範的構成要件要素
ける文書性・

       わいせつ物頒布等罪におけるわいせつ性・不真正不作為犯における作為義務

175条(わいせつ物頒布等罪)の場合
備考

生の事実の認識
(当該文書という物体の認識)
構成要件的故意の認識対象

社会的・規範的意味の認識
(いやらしい本だという認識)

違法性の認識
(悪いことをしているという認識)
可能性が責任故意の認識対象

具体的条文の認識
(175条の行為だという認識)
認識対象として不要


[規範的構成要件要素の錯誤]

わいせつ性の錯誤→チャタレー事件
  わいせつ文書頒布罪の犯意としては問題となる記載の存在と、これを頒布販売することの認識があれば足り、
 それが客観的にわいせつ性を有すれば、わいせつ文書にあたらないとの誤信は法律の錯誤であって犯意を阻却しない
                       ↑
  本件において判例は、文字の外形の存在という外部的な裸の事実の認識があれば事実認識として十分であって、
 事実の錯誤となる余地はなく、あとは違法性の意識の問題とするものと解されている。
   これに対して、学説はほぼ一致して、外部的な裸の事実では足りず、
文書の意味内容・性質についての「意味の認識」が必要であると解している

法律の錯誤:行為の違法性を基礎付ける事実の認識については錯誤は無かったが、行為の違法性について錯誤がある場合。

法の不知:法律の存在を知らないで、自己の行為が法律上許されていると誤信すること。

あてはめの錯誤:刑罰法規の存在は知っているが、その法規の解釈を誤り、自己の行為は許されていると誤信すること。

「刑ヲ免除ス」:処罰を阻却→犯罪は成立している。

「これを罰しない」:犯罪の成立自体を否定。

   ロ)意味の認識の程度

*故意犯成立に要求される意味の認識はどの程度のものか。

→通説)規範的構成要件の認識に関しては、刑法的評価の基礎となる社会的な事実関係について、
一般通常人が知っているような意味ないし性質の認識(いわゆる素人的認識)が必要となる。
「素人的領域における平行的評価」

r.認識によって規範の問題に直面し一般人なら違法性の意識を喚起しうる程度の認識であればよいのであり、
裁判官と同様な厳密な法的認識(いわゆる専門家的認識)である必要はない。

3.故意の種類

 (1)確定的故意と不確定的故意

   確定的故意…行為者が犯罪事実の実現を確定的なものとして認識し、これを認容していること。

   不確定的故意…行為者が犯罪事実の客体を明確に認識していないこと。

概括的故意…一定範囲の客体のどれかに結果が発生することは確実であるが、

          その個数や客体を不確定なものとして認識している場合。

           ex.群集の中に爆弾を投げ込むときの故意

択一的故意…数個の客体のうちの何れか1つに結果発生することを認識している場合。

未必の故意…行為者が犯罪事実の実現を可能なものとして認識し、これを認容している場合。
→未必の故意にすぎない者は、概括的故意を有さない。

条件付故意…結果の実現を一定の条件に係らせる意思の場合。

ex.被害者が抵抗したら殺そうと思っている場合

 (2)ウェーバーの概括的故意

  …第一の行為によって意図した結果を実現していないのに実現したものと誤信し、第二の行為に出たところ、

   その第二の行為によって意図していた結果が実現したときに、その実現までの全過程を概括的に把握して故意があると認められるもの。

ex.殺そうと首を絞めたところ被害者がぐったりしたため死んだと思い込んで犯行の発覚を防ぐ目的で砂浜に捨てたところ
実はまだ生きていた被害者が砂を吸い込んだことにより死亡した場合。   →因果関係の錯誤の問題

 (3)ヘルマンの概括的故意

  …「種」についての個別の認識がなく、法的・論理的にはこれを包括する「類」についての  (確定的または未必的な)認識がある場合。

ex.「化粧品」を隠し運搬することを依頼され、覚醒剤を日本に密輸入した事例において、

その物が覚醒剤(「種」)であることの認識はないが、
覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類(「類」)であることの認識はあった場合。

      覚醒剤ではないということを認識していた場合には「故意」の問題でなく、抽象的事実の錯誤の問題になる。

二 事実の錯誤(構成要件の錯誤)  

1.事実の錯誤(構成要件の錯誤)の意義

  錯誤…客観的な実在と主観的な認識の不一致

事実の錯誤…刑法規範の意識を呼び起こしうる前提としての事実そのものに関する錯誤

  構成要件該当事由に関する事実の錯誤

  違法性阻却事由に関する事実の錯誤 責任故意の問題

法律の錯誤…行為が法的に許されているかどうかに関する刑法規範自体についての錯誤

2.事実の錯誤の態様と分類

 (1)具体的事実の錯誤と抽象的事実の錯誤

   具体的事実の錯誤…認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実とが同一構成要件内で食い違いを生じること。

   抽象的事実の錯誤…認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実とが異なる構成要件内で食い違いを生じること。

 (2)客体の錯誤と方法の錯誤

   客体の錯誤…行為者が攻撃を加えたところ実は本来意図していた客体とは別の客体であった場合(ex.人違い)

   方法の錯誤…行為の客体に関する行為者の認識に誤りはなかったが、

         行為者の攻撃の結果がその意図した客体とは別個の客体に生じてしまった場合(ex.とばっちり)

 (3)因果関係の錯誤

  …行為者が認識したところと異なった因果の経過をたどって、結果的には予期した構成要件的結果が発生した場合。
3.具体的事実の錯誤(同一構成要件内の錯誤)

 (1)意義

  *具体的事実の錯誤があった場合において、認識した犯罪事実と発生した犯罪事実とがどの程度食い違えば故意が否定されるか。

   即ちどの程度一致すれば故意ありと法的に評価できるか。

   →法定的符合説:認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実とが構成要件的評価として一致する限度で、

           発生した犯罪事実の故意を認める。

  r.故意責任の本質は規範に直面したにもかかわらず敢えてそれを乗り越えた点に科せられる

       法的な非難可能性という点にある。

      そして規範は構成要件という形で一般人に与えられているから、

    認識の内容と発生した事実とが具体的に符合していない場合においても、

         法定の構成要件の上で同一の評価を受ける事実を認識すれば、

    当該行為を実行に移してよいかという規範の問題に具体的に直面するのであるから故意非難が可能である。

具体的符合説:認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実とが具体的に一致しない限り故意は認められない。

抽象的符合説:行為者が表象した事実と、発生した結果とが、意思ないし性格の危険性の点で抽象的に符合していれば、
故意は認められる(現代に採用される学説ではない)。

 (2)客体の錯誤(人違い)

  *客体の錯誤の処理

法定的符合説‥故意は阻却されない。規範に直面している。

    具体的符合説‥「その人」を狙った結果として「その人」を殺したのであるから

      動機において錯誤があるに過ぎないとして故意を阻却しない。

 (3)方法の錯誤(とばっちり)

  *方法の錯誤の処理(Aを狙って発砲したところ傍らのBに命中してBが死亡した場合)

   →具体的符合説‥行為者の表象した事実についての故意犯の未遂と発生した事実についての過失犯の競合がある、とする。

           Aに対する殺人未遂罪と、Bに対する過失致死罪との観念的競合となる。

法定的符合説‥Bに対する殺人既遂罪は故意が認められ成立する。Aについては争いがある。

 *法定的符合説に立った場合に併発事実につき2個以上の故意犯の成立を認めるか。

  → 数故意犯説(通判):結果が発生した客体の個数分の故意犯の成立を肯定する。

r.法定的符合説に立って故意を構成要件の範囲で抽象化する以上、

  故意の個数を観念することは理論的に困難である。

  生じた結果の数だけ犯罪が成立しても、観念的競合として処理されるので不合理な科刑にはならない。

一故意犯説(大塚):発生した犯罪事実のうち重い結果に対し1個の故意犯の成立を認めれば足り、

          それ以外の結果に対しては、原則として過失犯の成立を認める。

c.構成要件が客体の一個性を重視しているか否かで故意の取り扱いを異にするというのは便宜的である。
故意の転用を認めるということは、心理的事実としての故意概念を無視するものである。

方法の錯誤 全て甲がA殺害を意図した場合
 (4)因果関係の錯誤

  ?典型的な因果関係の錯誤の問題

甲が乙を下を流れる川中で溺死させようとして崖から突き落したときに乙は岩石で頭を打って死亡した場合

   *前述の事例の処理 

*故意の要件として因果関係の認識が必要か。

 →対説)因果関係の認識は不要である。r.実行行為と結果を認識している以上、十分非難は可能である。

  通説)因果関係の認識は必要である。

r.因果関係は主要な構成要件要素であり、その認識は当然故意の対象である。

       行為から結果に至る因果の経路についての認識がなければ、その結果について規範の問題が与えられないから、

 行為者に結果についての故意責任を負わせることは許されない。

*因果関係の錯誤

 →通説)原則として因果関係の認識ない以上故意が阻却される。

 但し、行為者が事前に予見した因果関係の内容と実際に進行した因果の経過とが

 構成要件の範囲内で符合している限り、即ちその不一致が相当因果関係の範囲内にある限り、

 発生した結果について故意を阻却しない。

r.故意責任の本質は規範に直面したにも拘らず敢えてそれを乗り越えた点に科せられる

     法的な非難可能性という点にある。

 結果の惹起につき規範の問題が与えられる程度の認識があればよい。

  ?ウェーバーの概括的故意と錯誤

   ex.Aが甲を殺そうとして甲の首を絞めたところ(第一の行為)甲がぐったりしたため死んだと思い込んで

     犯行の発覚を防ぐ目的で甲を砂浜に放置したが(第二の行為)、実はまだ生きていた甲が砂を吸い込んだことにより死亡した場合。

   *ウェーバーの概括的故意の事案をいかに処理するか。

*故意のある第一行為に第二行為が介入した場合で行為者の所期の目的を第二行為で実現した場合

?未遂犯・過失犯併合罪説:第一行為につき未遂犯、第二行為につき過失犯が成立し、併合罪となる
                           ↑
      たとえ刑法上2個の行為として評価しても、第二行為の介入によって、第一行為と結果との因果関係が当然になくなるわけではない
       (→因果関係が肯定されれば、第一行為の故意犯の既遂が成立し、第二行為の過失犯はこれに吸収される)
?相当因果関係説
       :第二行為を介在事情と捉え、因果関係の錯誤無用論の立場から、第一行為と結果との間に相当因果関係があるかという、
         因果関係の問題として解決する

?因果関係の錯誤説
        :法定的符合説の立場から、第一行為と第二行為との場所的・時間的近接性を考慮しつつ、
          行為者が因果関係について事前に予見したところと、実際の因果関係の経過とが、
          相当因果関係の範囲内で符合しているとみられる限り、故意犯の既遂が成立する
       r.刑法の解釈は社会観念に適合するよう行なわれるべきであり、
            このような場合は社会観念上両者を一律化して把握するのが実際的であり合理的である。
   *因果関係→相当因果関係の範囲内にあるか否かを検討する。
 *故意→因果関係の錯誤の処理

?説と?説:行為を分けて評価すべきか否か、というちがい
?説と?説:因果関係の錯誤として処理すべきか、というちがい

→?説への批判:殺意を以て人を殺害しておきながら殺人既遂にできないのは法益保護に反する。

  ?早すぎた構成要件の実現

   ex.甲が乙の首を絞め、反抗しえない状態に陥れた後、近くの河に投げ込んで溺死させようと思い、乙の首を絞めたところ、
それだけで乙が死亡してしまった場合。

   *早すぎた構成要件の実現の場合の処理について。

→大塚)全体を一個の行為として捉える。

因果関係の錯誤の問題であり、
行為者が第二行為に出たときは第一行為と第二行為を一体化して故意犯既遂犯が認められるべきである。

 山口)第一の罪責を独立に検討する。

    第一行為について故意が認められず、故意既遂犯は成立しないが、過失犯と故意未遂犯が成立しうる。

4.抽象的事実の錯誤(異なった構成要件間の錯誤)

 (1)意義

   38条2項 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、

    その重い罪によって処断することはできない。

   →軽い甲罪を犯す意思で重い乙罪の結果を発生させた場合には重い乙罪で処断してはならない。

たとえば、夜間、人のいない校舎に放火したが実は、その建物には宿直室があり、 行為者がそれを知らなかった場合などである。

同種の犯罪であるなら、まだしも、別種の犯罪である場合に、

いかなる範囲で故意犯の成立を認めるか等については解釈に委ねられている。

  (2)抽象的事実の錯誤の処理

  *抽象的事実の錯誤の処理。

   →抽象的符合説(牧野):構成要件の枠にとらわれず、およそ犯罪の意思で犯罪の結果を生じた以上、

38条2項の範囲内で故意既遂犯の成立を認める。

軽い罪の故意で重い罪の結果を生じさせた場合には軽い罪の既遂と

重い罪の過失犯が成立し観念的競合となり、

重い罪の故意で軽い結果が生じた場合は重い罪の未遂と軽い罪の既遂が成立し合一して重い刑に従う。

 c.主観主義にそもそも問題がある。構成要件の持つ定型的意味を無視する奔放な判断に陥り、事実上、

   故意犯がその故意内容とは関係なく生じた結果に対応して認められることになり、結果、責任主義となってしまう。

   例えば人を殺す意思しか持っていない行為者には動物を殺してはならないという規範には直面していない。

法定的符合説(通判):抽象的事実の錯誤の場合には、原則として故意は認められない。

  ただ、同質的で重なり合う構成要件間の錯誤についてその重なり合う限度で、

  軽い罪の構成要件的故意を認める。

 r.故意責任の本質は規範に直面したにもかかわらず敢えてそれを乗り越えた点に科せられる法的な非難可能性という点にある。

   そして規範は構成要件という形で一般人に与えられているから、

   異なった構成要件間で錯誤がある場合には原則として規範の問題に直面しているとは言えず、

   構成要件的故意は否定される。

しかし、同質的で重なり合う構成要件間の錯誤の場合にはその重なり合う範囲で当該行為を実行に移してよいかという
規範の問題に具体的に直面するのであるから故意非難が可能となる。

 c.動物を殺す意思で人を死亡させた場合に過失致死罪(罰金刑)しか成立しなくなり、

   認識通りに動物を殺した場合(懲役刑あり)とで不均衡が生じる。

 cc.それは過失致死罪の刑が軽いことに問題があるのであり、

    業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪の適用が可能であって、実際上の不都合は生じない。

  *法定的符合説は構成要件の重なり合いの限度で構成要件的故意を認めるがここでいう重なり合いの基準。

   →形式的符合説:構成要件上の形式的な重なり合いとする。法条競合の関係に立つ場合にのみ認める。

      c.形式説を徹底すると恐喝と強盗との間にも符合が認められないことになってしまう。

二 過失犯に関する諸問題  

1.信頼の原則

  信頼の原則…他人が予期された適切な行動に出るであろうことを信頼するのが相当である場合には、

        たとえその他人の不適切な行動と自己の行動とがあいまって結果を発生させたとしても、

           これに対しては過失責任は問われないという法理。

  要件 ?当該行為を社会的に有用なものとする社会的状況が形成されていること

 ?個々の事案において、他人の適切な行動に対する信頼が現に存在すること

 ?その信頼が当該事情のもとで客観的に相当であること

  効果 このような場合には客観的注意義務違反が否定される。   (以上、新過失論から)

   交通事故、チーム医療、監督過失などで用いられる理論

2.段階的過失

  段階的過失…同一人の過失が2個以上段階的に積み重なって結果が発生する場合。

 *いずれの過失を捉えて過失犯を構成する法律上の過失とすべきか。

  (ex.スピード出しすぎ→ 信号見落とし→結果発生)

  →直近一個説(通判):結果に直結する最後の過失だけが過失犯を構成する過失である。

            r.客観性に優れている。実務上争点を絞りやすい。

   過失併存説

3.監督過失 

  監督過失 cf.過失犯の共同正犯を否定したときに監督過失の論点が出てきやすい。

狭義の監督過失…直接に結果を発生させる過失行為をした者を監督すべき地位にあった者が、

その『監督義務』を怠ったことを理由に過失責任を問われる場合。

管理過失…監督者が『直接果たすべき義務』、人的・物的な安全体制を確立し結果を防止すべき義務を怠った場合。

  *信頼の原則との関係

   →通説)なお信頼の原則が適用される余地がある。第三者の適切な行動を信頼して良い場合がある。

r.これを否定すると上司は部下の殆どすべての行動を予定した安全体制を組まなければならなくなり、
事実上の結果責任となってしまう。



法律の錯誤)

 (1) 種類
  ?法の不知
   →自己の行為が法的に許されないことを全く知らなかった場合
  ?あてはめの錯誤
   →自己の行為が法的に許されると思っていた場合
 (2) 効果
  法律の錯誤によって、違法性の意識(自己の行為を違法であると意識していること)を欠くことになる。違法性の意識が故意の要件かについては争いがある。
  ?違法性の意識不要説(判例)
  →違法性の意識は故意の要素ではない。
  ?厳格故意説
  →違法性の意識は故意の要素である。
  ?制限故意説
  →違法性の意識は故意の要素ではないが、

違法性の意識の可能性が故意の要素である。
  ?責任説
  →違法性の意識は、故意、過失とは別個独立の責任要素である。
   違法性の意識を責任要素とするか

(→厳格責任説。結論的には厳格故意説と同様の結論)、

違法性の意識の可能性を責任要素とするか

(→制限責任説。結論的には制限故意説と同様の結論)でさらに分かれる。



 違法性の錯誤について、これまでの判例の主流は、不要説であった。
いわゆる「もま・むささび事件」で、大審院は、犯罪構成に必要な事実の認識に欠けるところはなく、
ただ、その行為の違法であることを知らなかった法律の錯誤にすぎないから、故意が認められるとした。

 これに対して、違法性の錯誤ではなく、事実の錯誤と解して、故意を阻却した判例もある。
たとえば、「たぬき・むじな事件」では、事実の錯誤として故意の阻却を認めた。

 そして第三のグループに属するのは、違法性の錯誤について「相当な理由」があれば故意を阻却すると言う一連の判例である。
いわゆる羽田空港ロビー事件(最判昭53.6.29刑集32・4・967)や、いわゆる百円札模造事件では、
結論としては故意犯が認められたが、違法性の意識不要説を再検討し、
「相当の理由に基づく違法性の錯誤は犯罪の成立を阻却する」ことを認めたとも受け取れる判断を示した。

(1)「相当の理由」があるとされる
     →?最高裁の判例又は確立した判例に従った場合
      ?行政刑法の解釈につき、所管の官庁または法的責任をもつ担当公務員の公式見解に従った場合

(2)逆に、刑罰法規の存在を知らなくて、
私人である専門家(弁護士・法律学者)の意見に従った場合には「相当の理由」があるとはいえないとされる

    ex.1)100円紙幣に紛らわしい外観を有するサービス券につき、知り合いの警察官に相談した場合、
        違法性の意識を欠くにつき相当の理由はない
    ex.2)映倫の審査を通過したことにより刑法上のわいせつ性なしと信じて映画を上映した場合は、
        法律上許容されたものと信ずるにつき相当の理由があり、わいせつ物陳列罪の犯意を阻却する

 しかし、その後、最高裁は公衆浴場法違反事件においては、事実の錯誤と解して故意を阻却したことから、
あらためて事実の錯誤と法律の錯誤との限界が意識されるようになった。



?.違法性の錯誤として不要説の立場から故意の阻却を認めなかった判例

1.「もま・むささび事件」(大判大13.8.5刑集3・611)

2.弁護士から侵入しても罪にならないと告げられ、これを信じて他人の住居に侵入した誤信に基づく住居侵入事件(大判昭9.9.28刑集13・1230)

3.「メチルアルコール」が実は所持・譲渡が禁止されている「メタノール」であることを知らないで、これを譲渡したメタノール譲渡事件(最大判昭23.7.14刑集2・8・889)

4.刑罰法令(麻薬取締規則)が公布と同時に施行されその法令に規定された行為の違法性を意識する暇がなかった刑罰法令不知事件(最判昭26.1.30刑集5・2・374)

?.事実の錯誤として故意を阻却した判例

1.「たぬき・むじな事件」(大判大14.6.9刑集4・378)

2.無鑑札の犬は他人の飼い犬であっても無主犬とみなされると誤信し、他人の犬を撲殺した無鑑札犬撲殺事件(最判昭26.8.17刑集5・9・1789)

3.被告人が知事による変更届受理によって営業許可があったとの認識があったから、無許可営業罪の故意がないとした公衆浴場法違反事件(最判平元.7.18刑集43・7・752)

?.違法性を欠いたことに「相当な理由」があれば故意を阻却するとした(あるいはその可能性を示した)判例

1.いわゆる羽田空港ロビー事件(最判昭53.6.29刑集32・4・967)

2.飲食店の宣伝のため百円札に紛らわしい外観を有するサービス券を作成したという通貨及証券模造取締法違反が問題となった百円札模造事件(最判昭62.7.16刑集41・5・237)

 両罰規定

両罰規定:従業者の違反行為につき、当該従業者(行為者)本人を処罰するとともに、その業務主である法人・自然人をも併せ処罰する規定
                       ↑
    法人処罰はどのような根拠に基づくのであろうか。
    刑法は個人主義の原則を採用しており、他人の行為に対する責任を負わせるのは責任主義に反することから問題となる

学説
無過失責任説
過失責任説

内容
行政取締目的から、

従業員の責任が、無過失的に法人に転嫁されるとする
事業主の従業員に対する選任監督上の過失を

根拠とする

過失擬制説
過失推定説(判例)
純過失説

事業主は

過失の不存在を立証しても
免責されない
事業主は過失の
不存在を

立証して

はじめて

免責される
事業主は

過失の存在が

立証されて
はじめて

処罰される

批判
故意又は過失がない限り

処罰されないという、

責任主義に反する
実質上無過失責任説と

変わりがない
過失の立証責任を被告側に負わせる
というものであるならば、
過失が積極的に
認められなくても
被告が処罰される
ことになり、
責任主義に反する
選任監督過失の

立証困難性からして、行政刑法における
取締目的という
合目的性を無視する
ことになる

コメント
法人の犯罪能力を否定し、両罰規定は
受刑能力を肯定するものとする見解から
主張される
法人の犯罪能力を肯定する見解になじむ



原因において自由な行為の理論>
定義:自己の責任無能力状態を利用して犯罪を実現する場合
  *飲酒をすると病的酩酊に陥る者が,自己の責任無能力状態を利用して
   犯罪を実現するつもりで酒を飲み,心神喪失状態で他人を殺害した。

   飲酒(原因)行為(責任能力あり)………………殺害(結果)行為(責任能力なし)

殺害行為時には責任無能力状態にあるため,処罰できないはず(=行為と責任の同時存在の原則)しかし,処罰の必要性は高い。そこで,処罰する理論構成が様々うみだされる。



<間接正犯類似説>
結論:責任能力の無い自分を道具として利用し,犯罪を実行した点に可罰性がある。
   →この見解は,実行行為時に責任能力を要求する立場である。
   :実行行為概念を緩やかに。

帰結:39条を全面肯定or限定責任能力の時に肯定し,責任無能力の場合に否定
   :実行の着手は,原因行為時
批判:結果行為時に限定責任能力の場合,道具とは言えない。
   →酒を飲む量が少なければ,心神耗弱にすぎず道具となり得ない。
反論:身分無き故意ある道具と同様に解し,完全な責任能力肯定
再批判:被利用者に構成要件該当性が無い場合と同一には考えられない。

<原因から結果までを一つの行為とみる説>
結論:原因行為から結果行為までを,一つの意思決定に貫かれた一つの行為と見る。
   →この見解は,実行行為時に,責任能力を必ずしも要求しない立場
    (責任主義には反する)。
   :実行行為概念を厳格に。
   :行為概念を緩やかにとらえている(行為責任同時存在)
帰結:39条を全面否定
   :実行の着手は,結果行為時

<二元説>(実行行為の二元性)
結論:未遂処罰は結果行為まで待つ必要があるが,実行行為自体は原因行為時である
    とする説
  →この説は,実行行為時に責任能力を必ずしも要求しない。(責任主義には反する)
帰結:39条を全面否定
批判:予備段階で責任能力があれば,完全な責任を問う事になる。

<各学説の帰結>
<間接正犯類似説>
帰結:心神耗弱状態での原自行為理論否定
   :結果行為時に,故意は不要(故意は,実行行為時(原因行為時)にあれば良い)
   :二重の故意は必要!
   :故意の作為犯へ,原自行為を認めにくい。
    (酒飲み行為で実行行為?!
     →たとえ酒を飲んで寝てしまっても未遂犯が成立してしまう)
     →そこで、実行行為の定型性を要求し、
      飲酒して眠る行為だけでは殺人の実行行為としての定型性がないとして、
      殺人未遂罪の成立を否定する見解もある。


<結果行為時説>
帰結:心神耗弱状態での原自行為理論も肯定
   :結果行為時に,故意は必要(意思の連続性を要求)
   :二重の故意は不要
    (原因行為時の自由な意思決定に基づいていれば,責任を問える。)
   :故意の作為犯へ,原自行為を認めうる。


1.過剰防衛 

36条2項;防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減刑し、又は免除することができる。

*手段・結果の不均衡+他に取り得る防衛手段の存在(補充性の逸脱)

急迫不正の侵害に対して、防衛の意思で、防衛の程度を超えた反撃行為を行なった場合。
行為者が過剰性の基礎となる事実を認識して反撃行為を行なったことを要する。

*過剰防衛 

?故意の過剰防衛に限る(平野)

?故意の過剰防衛+過失の過剰防衛(谷。反対、誤想過剰説)

*過剰防衛=「防衛の程度を超えた行為」

・質的過剰−必要性と相当性の程度を超える

 ex. 下駄で打ちかかられたのに対して機先を制して匕首で切りつけ、刺し殺した場合

・量的過剰−急迫不正の侵害が去った場合に引き続き追撃すること。

       ex. 最初の一撃で相手方は倒れたのに、恐怖のあまり鉈で数回切りつけて死に至らしめた場合



*過剰防衛は、正当防衛を前提とする

*過剰防衛の性質;違法性は阻却されない→情状により刑を減免する。

  *過剰防衛における刑の減免の根拠は何か。 

イ) 違法減少(町野)

        r.過剰防衛は完全には正当防衛の要件を満たさないが、単純な法益侵害行為とは異なり不正な侵害に向けられた防衛行為ではある以上、
違法性が減少している。

ロ) 違法・責任減少(団藤、藤木、曽根、大塚、前田、川端、大谷)

 r.過剰防衛においても法秩序の確証の効果は全面的に否定されるわけではないから違法性の減少の面があることは否定できない。
また、反撃者の心理的動揺も考慮されるべきであるから責任も減少する。

ハ)責任減少(平野、佐伯ほか)

  r.過剰防衛は正当防衛で無い以上、違法性が認められるが、急迫不正の侵害に 直面するという緊急事態において、
人間は、恐怖・驚愕・興奮・狼狽のため多少の行き過ぎを犯しがちであり、その点につき行為者を強く非難できない。

    

 *殺人罪の共同正犯のうちAに積極的な加害意図があり、Bにはない場合、Bが過剰の防衛行為を行なったとき、Aにも36条2項が適用されるか。

   →判例)積極的加害意図は防衛の意思の問題であり、防衛の意思は個別に検討される。
 Bには防衛の意思が認められるがAには防衛の意思が認められず36条2項はAには適用されない。(上記論点とは無関係)
 
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

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