ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

さしゃの二次小説(ハリポタ)コミュの本編第十八章 決意6

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ハリポタ二次小説 レナスの物語

第十八章 「決意」6 仕方ない



どうしよう…。



目覚めて授業を再開してから、レナスの頭の中を巡るのはそればかりだった。


文字も書けない。
魔力も戻らない。

挙句に杖すら所持していないレナスが、悩み抜いて居ないかと言えばと嘘になる。



「今年卒業する皆さん。時期にイモリ試験…つまり卒業試験が始まります。」


いつもは綺麗に並んでいる生徒達の机を全て追いやり、実技の体制をとる教室。
生徒達は無言で教壇を注目している。その中で、赤い髪の生徒だけは視線を落とさずにはいられない。
胸を張りながら演説を行うのは、闇の魔術に対する防衛術を担当する教師だった。


「卒業試験では好成績を修めずとも卒業は可能でしょう。しかし、将来を充実させたいのならば、何もかもを怠らないことです。」



ズキン…


何かが刺さったような感覚が、意識を攫っていく。



つまり…。
イモリ試験でスベッたら、教師になるも何もあったもんじゃない…ってことか――



そんな想いを植えつけられてしまったレナスは、無意識に力が入った左の拳の中に爪が刺さるのを感じた。


「闇の魔術に対する防衛術の試験は、基本実技です。これから試験までの期間はホグワーツで学んだあらゆる魔法の復習をして行く事にしましょう。それでは…最初は〜〜…」


人差し指を向け、迷う教師。
レナスは身を捩って他の生徒の後ろに隠れたい気分だった。



指されたくない――。


そんな想いからだったのだ。



「よし!じゃあ最初は、ミス・フルーウェーブ!」

「え?あ、はい!」


ドキリとした瞬間に、胸をなでおろす。隣に居たアルティアが指名を受けたからだ。
そんな気持ちを置き去りに、授業はどんどん進んでいく。


「ではまず、基本中の基本。浮遊魔法は覚えているね?」

「はい!」


ローブのポケットから杖をとり出したアルティアは難無く課題をクリアする。


「さすがだ!皆、ミス・フルーウェーブに拍手!」

「え?そ、そんな大げさな…」


出来て当たり前な簡単な魔法。苦笑いしたアルティアの気持ちを汲んだのか、他の生徒も同じような表情で、遠慮がちにまばらな拍手をした。
魔法を使えず、拍手すらまともにできないレナスを除いては…。



「では次は…誰にしようかな…」



再び教師が迷い始めたとき、言い知れぬ不安が襲ってくる。
「杖を持っていない」などと言ったら、恐らく教師は杖を貸してくれるだろう。しかし、その杖を爆発させかねない。
何より、必死で勉強をしてきたレナスにとって、今まで当たり前のように出来ていた魔法を「出来ない」などと、自身の醜態にも似た物を皆に晒したくはなかった。


「じゃあ次は、クリス!」


緊張がピークに達しそうだったが、自分ではない名前を聞いて、また胸を撫で降ろす。




そしてふと想う。




(今までは…当たり前に出来ていた事なのに…)




考えないようにしていた事柄が湧き上がってくる。
絶対になんとかしてみせる。その自信もあった。



(ずっと…このままだったら…どうしよう…)



しかし、体の芯から震えを必死でこらえる事で精一杯だった。




********




「では今日の授業はここまで!」


胸を張り、にっこりと笑った教師。
それと同時に、解放され羽根を伸ばした生徒達は、ザワザワと教室を後にする。


「次の授業ってなんだっけ?早めにいかないと…、……?」


歩き始めたアルティアだったが、隣に親友がいない事で先ほど自分が立っていた場所に視線を向ける。


赤い髪の後姿は少し俯き、自身の動かなくなった腕をじっと見ていた。


「………レナス?」

「えっ?な、なに?」


慌てた親友の反応に「大丈夫?」などとは言えなかった。
思い悩んでいる事も、これからの事への不安も、全て知っているからだ。


「あの…――」

「やあ!君達!次の授業に遅れてしまうよ?早く戻りなさい。」


突然アルティアの言葉を遮ったのは、今しがた教壇で胸を張っていた教師だ。


「すみません。今、出ますから…。」

「あぁ、ミス・ヴァルキュリア!」

「……はい、なんでしょう?」

「仕方が無い事でしょうが…、気を落としすぎて、授業を疎かにしてはいけませんよ?」


優しく笑う教師に、レナスは愛想笑いを返して「失礼します。」と教室を後にした。



「やっばいなぁ…、集中してないのバレたかぁ…。」


妙に凹んだレナスが肩を落とし、独り言にも似た言葉を漏らす。


「あの…レナス?」

「ん?何?」


遠慮がちなアルティアの声で我に返ったレナスは、咄嗟に妙に明るく返事をする。


「えっと…、杖、見つかったのかな?って思って…。」

「あぁ…、まだだよ。中々難しいみたい…。」

「私ね、レナスの魔力が安定しないのは、きっと杖が無いからだと思うの!だから…その…。元気出してね?」



精一杯のフォロー。


魔力ではない特殊な何かになってしまった能力を、杖でなんとか出来るとは到底思えないレナスだった。
しかし、それでもアルティアはレナスが「魔法使いに変わりない」と言っているように感じた。



精一杯選んだであろう言葉に、笑って答えた。



「うん。ありがとう。」



そう笑った後、先ほどの教師の笑顔と言葉を思い出す。



【仕方が無い事でしょうが…、気を落としすぎて、授業を疎かにしてはいけませんよ?】



【仕方が無い事でしょうが…】




(そうなの…かな…)




そう思った瞬間、また胸がつかえ、気が重くなった。




********



「じゃあレポートを提出してください。丸めてではなく、ちゃんと開いて下さいね。」


今度は魔法史の授業。
始まった途端に、教師が全員の机を順に廻り、レポートである羊皮紙を集め始めた。

事もあろうか、書いてある内容を、その場で軽く目を通しつつチェックしているようにも見える。


レナスは内心焦った。
右手が使えない今、レポートなどまともに書ける訳も無い。
異国には「漢字」という難しい文字もあるが、レナスは心底思った。「ここがイギリスでよかった…」と。
それでも懸命に書いて、とても文字と呼べるものではなく、一目見たら「汚れ」と思えるものが出来上がった。


その時


「コラッ。途中で文面が止まっているじゃありませんか。」

「す、すみません。」

「今日中に再提出するように!」

「………はぃ…。」


などという会話が。


再び背筋が冷たくなっていく。「ヤバい…。あたしもヤバい…。」という感情。
今日中に再提出できるだろうか?そんなことばかり考えていた。


徐々に、徐々に教師が近づいてくる。



そしてついにレナスの所に来てしまった。



手を伸ばして来る教師。



その手に、自信なさげに羊皮紙を渡す。



「………。」


羊皮紙を見ても何も言わない教師。


(ヤバい…、再提出かも…)


「仕方ないですからね。良いでしょう。次。」


レナスの予想とは裏腹に、教師はレナスの羊皮紙に目を通すとにっこりと笑い、そして足を進めたのだ。


(マジですか…)


驚いたレナス教師を目で追った。


あんなミミズにしか見えない文字に目を通して、果たして読み取れたのかは定かではない。
ふとアルティアを見ると、レナスを見て「よかったね。」とにっこり笑いながら、声を出さずに言っているのが分かった。


(ふぅ…良かった…。)


そんな風に思ったレナス。

しかし、それと同時に言い知れぬ想いが駆け巡る。



(あんなに汚い文字…読めたのかな…。)


レナスは、自身のノートを取り出し開いてみる。
リハビリとばかりに、あの黒い羽根ペンで、一生懸命に文字の練習をした。

それは、何十ページにも渡って書かれたA〜Zと、筆記体のa〜z。
どのページも、どのページも、そのアルファベットで埋め尽くされている。
しかし、どんなに優しく見積もっても、それは、書いた本人にさえも読むのは難しかった。


(読めるわけ…ないよね…)


がっくりと肩を落とす。
毎日、毎日、どれだけ頑張って左手で書ける様に練習しても、うまくいかない。



【仕方が無いですからね】


その言葉がレナスに重く突き刺さる。



(本当に…、【仕方ない】事なのか…?)




********



それからも
誰一人としてレナスの魔力や腕の事を咎める教師は居なかった。


「ヴァルキュリアさん、無理はしなくて良いですからね。」

「文字が書ないのなんか仕方ないですから、後で誰かにノートを見せてもらいなさい。」


レナスの中で、その想いが大きく大きく膨らんでいった。



魔法の実技で指名もされない。
提出物の文字が乱雑でも何も言われない。


それは恐らく教師達の最大の配慮なのだろう。


しかしレナスには、その配慮が苦痛だった。



(今まで…出来ていた事なのに…)


魔力が扱えなくなってしまった事なら以前にもあった。


(出来なくなってしまったから、無理しなくていい。そう思ってるの…?)


しかし今回は、利き腕までもが主のいう事をきかない。


(覚悟していた筈なのに…。)



まるでそれは…



(授業を受けている筈なのに…、私はそこに居ないような…)



いうなれば、疎外感、そして虚無感。



(そんな…嫌な特別扱い…しないでよ…)

(皆と同じように居たいのに…)

(置いていかれたくなくて、追いつきたくて必死なのに…)



【仕方ないのだから――】その言葉が徐々に侵食して行く。



(頑張ってるのに…)



まるで、「追いつける筈がない」「ずっとこのままなのだろう」と
レッテルを貼られてしまっているような。



(優しくされる事が、辛い…)



レナスに対し「今は」「時期に」という言葉があれば、また違ったのかもしれない。


頭を巡る想いとは、真逆の事を思うのもまた事実。


(特別扱い?何を今更…。薬を作るとか…真夜中に寮に帰るとか…今までだって散々校則違反を容認されてた特別扱いだったじゃないか…。)


(違う。それは生きる為で…。人間に近づきたかったから…)


(何が違うの?特別扱いには変わりないじゃないか。)


『あたしはトクベツなのか?』


(ちがう…。今度のは…違う…。あたし、必死で頑張って、勉強してきたのに…、いきなり…)


(【仕方ない】じゃないか。【出来なくなった】んだから。)


『シカタナイ。どうして…?どうしてこうなっちゃったの…?』


(嫌だ…。仕方なくなんてない!あたし、今まで出来てたんだもの!)


(今まで出来ていた事が、今も同じように出来るとでも?)


『ナゼ、今マデノヨウニ出来ナクナッテシマッタノ?』



(決めたんだ!)



(そうだ。あたしは決めた!どんなに辛くても、頑張るって決めた!頑張らなきゃだダメなんだ!)



『モット、頑張ラナキャ…』



(こんな自分でいちゃいけない)



『モウ、誰カラモ、聞キタクナイ!』



(仕方ないなんて…、そんな諦めた言葉を聞きたくない。)



『頑張ラナキャ…モット…!』



(誰からも諦めた言葉が出ないように…!)




それは、責任や鼓舞といった類ではない。





それは




自身へ向ける黒い感情。





自身への





憎しみにも似た想い





『コンナ自分ヲ 絶対ニ 許サナイ…』





****続く****

コメント(1)

こんにちは。
久しぶりに読みました。

読みやすくて、主人公の気持ちに入り込んでいる自分がいました。(*´ω`*)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

さしゃの二次小説(ハリポタ) 更新情報

さしゃの二次小説(ハリポタ)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング