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文芸冬夏コミュの短編『コンビニ』著:幽一※注、この作品には残酷な表現がなされています。

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※注 この作品には残酷な描写がなされています。苦手な方は遠慮ください。この警告を無視して読まれて不快感を覚えても一切の責任は負いかねますのでご了承ください。


『コンビニ』



 その姉妹がコンビニに住み込み始めたのは、去年の八月だった。最初はクーラーの冷気を浴びに来たのだと思っていた。初夏の余韻も感じさせぬ暑さを回避するには、うってつけな場所がコンビニである。その日もすべてを焼き尽くすかのような暑さが大気を焦がしていた。
 幼い姉妹で、妹の方はまだ小学校にも上がっていないように見えた。姉の方も、まだ高学年にはなってはいないだろう。二人とも酷く痩せて、着ている服はとてもみすぼらしい物だった。半袖に、半ズボン。しかも裸足だ。
 コンビニを徘徊しながら、姉妹は様々なコーナーに立ち寄った。じーっと商品を食い入るように見つめながら、時より指を口元に当てていた。
 やがて、妹の方が商品を手に取った。メロンパンだった。じーっとメロンパンを見つめる妹に気がついた姉は、それを取り上げてコーナーに戻した。酷く落胆した様子の妹は、泣き出しそうな目をして姉を見上げた。姉は首を振って、あっちに行こう、とでも言わんそぶりで妹の手を引いて、そのままトイレに入っていた。
 僕はその小さい後ろ姿を見つめながら、誰も客のこないレジでずっと立ち続けた。
 客が来ないので僕はとても暇だった。
 なぜならここには客は来ない。
 店長も居ない。
 商品はよりどりみどりに揃っている。しかも僕が寝る間だに誰かが商品を新しい物に変え、古い商品を持って行く。朝早く起きると、賞味期限切れの弁当が段ボールに詰められて入り口のあたりに積み重ねられていた。すこし目を離すと、段ボールは誰かが持って行った。僕は業者の姿を一度も見たことがなかった。
 しばらくすると、トイレからあのみすぼらしい姉妹が出てきた。
 僕はレジから彼女らを眺めながら、立ち続ける。
 姉妹は、いつものように店内をうろうろと動き回る。姉の手を握って、わびしそうに商品を眺める妹の方は、昨日よりも顔色が悪かった。きっと昨日から何も食べていないのだろう。姉のほうも同じらしく、ふらふらとした足取りで店内を歩き続けた。
 ふと、足下にまだ残っている段ボール箱を見つけて、僕はそれに手を伸ばした。中身は賞味期限切れのおにぎりと、ペットボトルのお茶が数本入っている。それに、小さい袋のスナック菓子が二つ。それが段ボール二つ分あった。
 僕はしばらく、その段ボールを見つめた。
 やがて、何を思ったのはその段ボールを抱えて、姉妹の所に近づいた。僕の接近を察知した二人はびくんと肩を震わせて、怯えたまなざしで僕を見上げる。
 僕は二人の目の前に段ボール箱を置いた。何も言わずに、ただ置いた。
 一瞬、何の事か分からないらしい二人は交互に顔を見合わせて、それから狼狽に揺れる黒い瞳を僕に投げかけてきた。僕は肩をすくめて、つま先で段ボール箱をつつくとそのままレジへと戻った。
 すぐにがさがさっと箱を漁る音が聞こえて、僕は振り向いた。二人はなりふり構わぬ様子で、ガツガツとおにぎりを貪っていた。まるで、小動物のようだと思い僕はふいに可笑しくなって、笑いをこぼした。
 床に這い蹲って、段ボールの中に顔をつっこみ中からスナック菓子の袋を引きづり出すと姉の方が袋を破った。バラバラっと勢いよく中身が床にこぼれて、二人はあわてて床に落ちたスナックにかじりつく。
 両手でかき集めながらも、口で頬張る姿はやはり動物のようだった。
 お客は誰もいなかった。
 酷く涼しい部屋に、ボリボリと食事を行う姉妹の音が響き渡った。僕は昼休みになったのを時計で確認して奥へと戻った。
 次の仕事は、一時からだ。


 時間はいつでも止まらない。そう、止まる事を知らない。夜の冷たさを帯びた冷風が頬をそっと撫でるかのように打った。途絶しかけていた意識が再び現世へと上昇した。クーラーの冷たい風はゆったりとその冷気とともに床へと広がって、店内の隅々までその冷たい吐息を落としていった。
 姉妹は、動かずそこに倒れていた。
 何かを懇願するかのような瞳をこちらに向けたまま、冷気が彼女達の身体を覆い包んでいた。
 僕は二人の少女に近づいて、頬に触れてみた。とても冷たい。氷のように冷たい。髪も、足も、手も。すっかり冷え切り、生きている証はただゆっくりとわずかに上下する身体の動きのみだった。
 瞳を見開いて、洗い吐息が苦しさの限界を表している。
 憐れみをこう、濡れた黒い瞳がじっと僕の顔を見つめ続ける。瞳の奥には恐怖と苦しみが雑居し、解放を求める呻きが耳朶を打った。
 何から解放されたいというのか。問う事も想像することもたやすくは無かったが、難しくは無かった。
 僕は、いつもの悪戯心がうずくのを抑えきれなかった。そう、どうすればこの姉妹は苦しみから解放されるか。濡れた瞳を見続けている裡に、その手助けをしたくなってしまった。



 人のもっとも柔らかい部分は二の腕である。年端もいかない少女のあごでかみ砕けるのはそれが限界だったのだろう。最初は、何をしているのか自分でも分からない様子だった。顔に飛び散った鮮血を拭うことすらしない。そんな余裕もなければ、それをする必要もないのだから。
 動かない、相手の身体は簡単に咀嚼されていく。それでも相手は死んでいるわけではない。彼女の妹は目を見開いて口を魚のように動かした。赤い呼吸が静かなクーラーの音に混じって店内に響きわたる。戦慄と静寂は伴に冷気に溶け込んだ。
 ゴムのように硬いのだろう。柔らかくても、食いちぎるだけの力がないだけなのかもしれない。彼女の妹はようやくそこで声を発した。
 痛い、と言ったのかもしれない。僕には少女が何を言っているかはよく分からなかった。痛さで舌がよく回らなかったのかも知れない。それとも、まだ喋るという事を知らなかったのかも知れない。
 太ももに歯を立てた。白い太ももは触ればなめらかだが、食いちぎるには硬すぎた。歯が、皮膚に食い込むまで時間がかかった。
 劈くような悲鳴が、ようやく聞けた。
 動かなかった手足が急にばたばたと動き始めた。僕はしっかりと少女のために少女を押さえた。姉の少女は、妹の少女の胸へとかぶりついた。まだ発達をしていない胸に歯を立てるのは至難の技だろう。それでも一心不乱に咀嚼を彼女は続けた。
 いつしか足下には鮮血の海が広がっていた。
 胸の肉が削がれ、肋骨とおぼしき骨が見えてきた所で、妹の少女は意識を失った。だが、少し立つと悲鳴と伴に目を覚ます。激痛で気を失って、激痛で目をさますという悪循環。解放を望む黒い瞳が涙に溢れた。
 赤い涙が、白い頬を伝った。
 ごり、と指先から咀嚼を始める姉の少女の瞳も濡れていた。空腹から解放されたいという黒い瞳が涙を溜め込んでいた。
 生から解放されたい妹を咀嚼し続ける姉の表情は、とても弱々しく、鬼気迫る、美しさを孕んでいた。黒い美しさだった。
 流石に骨は、少女のあごでは砕けない。そっと歯を腹に立てた。ぎぃ、と歯の根が合わない音が妹の少女の口から漏れる。指をつかって、へそから腹を切り開こうとするのだ。悲鳴はもう、耳に慣れてしまった。
 へそでは無理だという事を悟ったらしい姉の少女はゆっくりと指先を妹の性器の方へともっていった。押し開く時、再び悲鳴が上がる。耳に染みついた悲鳴が、罪悪感を呼び起こす。
 めりぃ、と性器が裂け、鮮血が飛び散った。
 顔を突っ込んで少女は少女の中を喰い進んだ。狂ったような光景。狂ったような悲鳴が続いた。冷たかった少女の身体が今はとても熱かった。
 腸に達したらしく、少女の口から呻きと伴に赤い気泡があふれ出た。濡れていた瞳は虚ろになり、やがて痙攣が続いたあとに白く濁っていくのが分かった。
 もう、押さえている必要は無かった。
 立ち上がると、もう少女は動かなかった。姉は咀嚼を続けていた。獣のように蹂躙を続けていた。陵辱を続けていた。
 服の鮮血がとても重く感じた。染みこんで、肌に少女の血が直接触れた。やはりとても冷たかった。
 解放、されたのだろうか。
 虚ろになった瞳を見据えて僕はそう思った。考えた。
 そして姉の少女は空腹から解放されたのだろうか。僕は少女の中身を咀嚼し続ける少女を見やった。泣いていた。
 二人とも、解放されたのだろうか。
 僕は、血を洗うため部屋に戻ることにした。ごりごりと食事の音が後に続いた。僕は暑いシャワーを浴びながらそんな事を考え続けた。外はとても寒かった。
 客は誰一人としれ現れなかった。
 今日も、誰も現れなかった。商品が売れる事もなかった。段ボールはいつものように置かれていた。



 数日経って、再び少女の姿を見たのはあの食品の棚だった。今度こそ本気で動かなくなった少女はとても軽かった。
 彼女は空腹から解放されたハズだった。あの咀嚼された少女の死体は驚くことに、跡形もなく食されていたのだ。血も一滴も残っていなかった。
 彼女が食べる事が許された唯一の食物。棚には溢れんばかりの食品が並べられていた。しかし彼女が手を出すことは許されては居なかった。少女が食べていいのは、少女のみだった。
 その後僕は、今日も買われていかなかった古い食品を捨てるため段ボールへと詰めていく。
 放っておけば、勝手に業者が持って行く。
 僕は少女の身体を段ボールへと、詰め込んだ。眠るように彼女は目を閉じていた。口元にすこし切り傷があった。骨を無理してかみ砕いたのだろう。
 身体を丸めて詰め込んだ。
 たくさんの食品と伴に詰め込んだ。
 段ボールを入り口のそばに持っていって置いておいた。しばらくしたら、段ボールは無くなっていた。
 僕はいつも通りにレジに立った。



                                     終

コメント(2)

どもども、主宰の伽です。

なかなか、よいですねー良質の猟奇作品ですね(褒)。

安部公房あたりを連想させるシュールさが、重苦しくて得体の知れない冷気で背筋を撫でてくれます。

一応、エログロナンセンスに通じる文章への規制はしておりませんが、何せ一般コミュニティーですのでちゃんと警告文を一筆添えていただいたことは有難く思います(本来そういう取り決めは管理人の責務なのですよね、面目ないです)。

先生、これからも精力的な活動を期待いたします。

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