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文章を書きたい。コミュの天球儀/時計/きのこ

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コメント(4)

 その部屋には、埃っぽい空気と乱雑な安心感、そして、香の匂いが漂っていた。
 他人には何に使うのか分からない不可思議な道具たち。それらを磨く手を休めて、年若き店主は眼鏡をかけた顔を年代物の時計へ向ける。
「…そろそろ、か」
 カラン、コロン。
 彼の呟きに応えるように、入口の扉についた鈴が歌った。
 …次の標的が、扉を開けたのだ。

*からくれないの城*

「よぉ」
「やぁ、久し振りだな、涼見(スズミ)」
「ああ」
 真っ赤なカーテンを押しやって入ってきたのは旧知の友人。しかし楽しみにしていた、という風にはどう贔屓目に見ても見えない。なんで自分がわざわざこんな場所へ来なくてはならなかったのかと、言葉にすらなっていない文句が全身から溢れ出ている。
「おらよ」
 どさり、と几帳面に結ばれた風呂敷が机の上に置かれた。所狭しと並べられる様々ながらくたの隙間を縫って。
「これは?」
「薬屋の奴の頼んだんだろ?」
 あげられた名は今一人の友。嫌そうな態度にくすりと笑い、その包みを開いた。
「…なんだこれ」
「知らないか?シャグマアミガサタケというきのこだ」
「…それがきのこ?」
「ああ」
 それ、と彼が称する土産は、確かにきのことは思えない、グロテスクな姿をしていた。例えるならば、小さい脳みそのような。
「何に使うんだそんなもん」
「なんにでも。毒にも薬にも、食用にもなる」
「へー」
 自分で聞いておきながら、興味もなさそうに生返事。その態度が何年たっても昔のままで、店主はこっそりと笑みをこぼした。

「まるでおまえみたいだな」
 目についた天球儀を意味もなくくるくると廻しながら、涼見が言う。
「何がだ?」
「そのきのこ。毒にも薬にもなるんだろ?し見た目じゃわかんねぇとこまでそっくりだ」

「…面白いことを言うな」
「で、何に使うんだ?」
「残念ながら企業秘密」
「ちぇ」
 最後に思い切り夜空を回して、涼見は来たときのように入口へ続くカーテンをのけた。
「じゃあ俺帰るわ」
「悪いな、茶も出さずに」
「いや」
 じゃあな、『なんでも屋』。
 そう言って、余韻も何もなく彼は去って行った。
 あとに、未だくるくると回り続ける星空を残して。

「…さて」

 始めようか、死の調合を。
 古い友を地獄へ導く薬を。美味と致死を掛け合わせて。
 きっとお前はこんな罠など振り切ってしまうだろう。
 星の導く運命すら、翻すお前なら。
 宿命に逆らえない俺の魔の手など、一瞬で。

「…逃げきってくれよ」

 星に祈るしかできない、俺の魔の手など。



>>天球儀ときのこの並立って、むずかしいっす。
 たたん たたん たたたん たたん ――
 眠気を誘うためにあるかのような音が、窓の外を流れてゆく。
 車内には私一人が。そして向かい合う椅子の上に私のものではない鞄がひとつ置かれている。
 黒地に金糸の、どこかで見たあまり有名ではないブランドのロゴが押されたそれの口は大きく開かれ、まるで覗き込まれることを望んでいるかのようだった。
 たん たん たたたん たたん ――
 規則的な不規則な音の流れが耳に心地よい。
 まどろんでいる。もしかしたら、もう眠っていたのかも知れない。
 携帯が鳴り響いた。誰もいないのを知っているはずなのに、慌てて周囲を確認する。そして自分の鞄に手を突っ込んだところで、それが自身の着信音ではないことに気づく。どこかで聞いたことのある、音。音源は、件の鞄だった。何気なく、時計を見る。到着まではまだしばらくかかるだろう。やがて、電話は切れた。
 たたたたん たん たたたん たたん ――
 音に混じって、遮断機の間の抜けた音が聞こえた。
 どれくらい経ったか。再び着信音が響いた。ふと、それがいつかテレビで聞いたキノコのCMソングであることに気づいた。途端、なぜかやたらその音が気になり始め、ふと、立ち上がった。ガラス越しに、自分の惚けたような顔が見えた。
 たん   たたたん   たたん   ――
 ゆっくりと、列車は止まった。
 夜の風が肌に染みる。久しぶりに見上げた星空は、天球儀を写し取ったように綺麗だった。私は一瞬、今自分を吐き出したドアを見つめた。
 再び動き始めた車両に、黒い影が、映った。
「苦悩」

 目の前に三つの品物が書かれたメモを眺めていると、つくづく腹が立ってくる。
「時計、天球儀・・・」
 ここまではいい。ここまではいいのだ。
「きのこ」
 こいつだ。俺はこの紙を持ってきた男、即ち編集の富田を睨みつけた。痩せ型の、小男で、キョトキョトとよく動く視線が彼の小心具合を程よく現している。
「で・・・なんだっけ」
 分かっているが、もう一度尋ねてみる。主に嫌がらせと、出来れば聞き間違いであって欲しいという願望からだ。
「ええとですね、この三つを題材にして、小説を書いていただきたいと・・・」
 富田の口から出てくるのは、さっきと変わらない言葉。
「いつまでだっけ?」
「一週間後で・・・」
 笑える話だ。こんなとんちんかんな題材をもってきて、一週間で書き上げろだと?冗談も程々にしやがれ。どうも担当がこいつになってから、貧乏くじを引くことが多い。そんなに出版社に貢献してなかったっけかなぁ?
「無理」
「そ・・・そんなぁ。先生なら出来ますよぉ。私、このまま帰ったら編集長に怒られますし」
「知らん」
 俺はメモを丸めて富田の目の前でゴミ箱に叩き込んでやった。
「あああ、なんてことをっ」
 富田がゴミ箱に駆け寄ってメモを拾う。
「これは、うちの雑誌を上げての企画なんですよぉ。他の作家さんにもお題を三つ渡して、書いてもらうんです。で、投票でどれが一番面白かったかを決めるって言う」
 企画だけ聞くと面白そうに聞こえるのに、なんでこんなの持ってくるんだか。
「この、お題ってのは、編集サイドで決めたのか?」
「いえ、公募です。一人一つで読者さんに投稿してもらって、編集のほうでくじ引きして決めました」
「他は、どんなお題が出ているんだ?」
「えーと、『トマト・パスタ・イタリアン』とか、『土器・発掘・田舎』とか・・・」
「・・・なんか、みんな普通だな・・・」
「そりゃあ、みんなが落胆するほどに。私がきのこを引いたときには、編集部一同が大喝采でしたから」
 楽しんでるじゃないか・・・。そりゃあ、書くのはこいつらじゃないから、一種のお祭りなんだろうけど。
「って、待て。あんたが喝采されたって事は、変なお題は俺だけって事か?」
「そういうことになりますねぇ」
 なりますねぇ、じゃねえよこのクソが。俺だけしんどいって事じゃないか。
「やっぱやだ。今回は俺、不参加」
「そんな殺生な・・・」
 泣きそうな顔の富田。そりゃあ、こいつなりに必死なのは知っているけど・・・。天球儀にきのこをどう絡めろって言うんだ?嫌だぞ、俺は。名前だけ使って、はい出しました、見たいなのは。
「無理だもん。こんなので一週間なんて」
「・・・分かりました・・・。一応、話だけでも考えて置いてください」
 頑として断る俺に、呆れたのか諦めたのか、富田は大きくため息をついてからそう言って立ち上がった。俺は適当に相槌だけ打っておいて、手で富田を追い返した。恨みがましい目で最後まで俺を見ながら、それでも富田は帰って行った。全く、せめて一ヶ月ぐらいよこせってんだ。・・・貰ったからって書けるとは限らないけど。

 翌日、けたたましいチャイムの音で俺は目覚めた。時計を見ると朝六時。誰だ、こんな時間に。
 そう思いながらドアを開けると、富田が立っていた。
「あ、先生、おはようございます」
「おお」
「実は、昨日のお題ですね、私が間違ってたんですよ。聞き間違いで」
 そういいながら、ゴソゴソとスーツのポケットからメモを取り出す富田。
「おおー、そうか。そうだよな、変だと思ったんだよ。きのこなんてさ」
「正しいお題はですね」
 希望の光が灯った。富田の態度からしても、今度は書けそうな物なのだろう。
「えーと、時計、天球儀」
 うんうん、やっぱりきのこが間違ってたんだな。
「ひよこです」
 ・・・ピヨ?
「これで、締め切りは六日後・・・」
 富田の言葉を待たずに、俺は思い切りドアを閉めた。
「あれ?先生?どうしたんですか?」
 あれは幻聴。
ドンドンドン「開けて下さいよぅ」ドンドンドン。
 空耳、ラップ現象、聞こえない。
 俺は耳を塞いで布団に潜り込み、目を閉じた。・・・もう知ったことか。
「おーい、先生ー・・・」  
                       了

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