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書庫 「葉っぱ猫」 mixi処コミュの『靴下猫の秘密の階段』

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 俺の家には、猫がいる。

 住んでいるのか、はたまた居着いているのかよくわからない、靴下模様の猫が一匹。
 足先だけ真っ白で、残りが黒の、わりとどこでもある模様の猫だ。
 たぶん、雑種なんだが、こいつが時折、不思議なことを起こす。
 白い部分と黒い部分が、逆転するのだ。

  ○

 俺の家は、ごく普通の二階建て、1LDKの一軒家だ。
 そろそろ築十五年になろうかという古っぽさだが、両親や俺の住み方がいいのだろう、痛んでいるところも少なくて、どこを見ても小奇麗な立派な家なんだ。
 ところで、そんな我が家に居着いている靴下猫なんだが、時折変身して柄の色が入れ替わることがあるのはさっき話したとおりなんだが、それには法則があることに、俺は最近気付いた。
 なんか、夜中に一階と二階の間で水の音がするときに限って、なんだよ。
 朝見たら、色が入れ替わってんの。
 親父とかお袋に聞いても、ああ今日はもう一匹の子が来たのねって言うわけだが、そりゃあ普通に考えればそうだろうよ? 別の猫が来てるって思うわな。
 でも違うんだよ、俺は何度も何度も、試したんだ。
 家の鍵を完全に完璧にロックした状態で、靴下猫がいることも確かめた。
 夜中に入れ替わる瞬間を見てやろうと徹夜だってしようとした。でも駄目なんだよな、どうしても起きてられなくなって、寝てしまうんだ。
 起きてから急いで靴下猫を見に行くと……ほら、案の定、色が変わってやがる。
「ちくしょう、絶対に原因を突き止めてやる」
 俺はそう心に誓い、躍起になった。

  ○

 まず徹夜で起きる作戦だが、友達を連れて試してみた⇒どっちも寝てしまうって結論。

 ならばよろしい、ビデオ撮影だ! ⇒必ずある特定の時間でエラーが出てしまうって結論。

 とりあえず足止めするために猫缶を置く作戦⇒全部綺麗に食べられるって結論。

 徹底抗戦のために色んな猫缶を置いてみる作戦⇒どうやら好みがあるらしいことが判別。

 一巡戻って、夜中のエラー時間にアラーム作戦⇒起きれない。

  ○

 まぁそんな感じの対策を試みたわけだが、どれも見事に失敗、あるいはちょっと失敗だった。
 とりあえず何回か試してみた猫缶乱舞によって、それぞれに好みがあることはわかった。
 つまりだ、好みが違う、ということはそれぞれ別の猫なわけだよな。
 少なくともそれだけは検討がついたわけだが……試行回数が少ないのもあって、さすがに親に言ったところで信じてくれそうにもない。
 やはり、現場を抑えないことにはどうしようもない、って結論だな。
「お前さ、そんなに気になる?」
「逆に聞くけど、気にならないか?」
 この間協力してくれたはいいが一緒に眠りこけた友達の言葉に、俺はそうやって返した。
 だって、気になるだろう?
 二匹いるってことがわかった時点で、そりゃもう気になるだろう?
「いやお前、調べだしてからもう三ヶ月だぜ……?」
 だから、そんなことをのたまう友達の言葉もなんのその、だ。

  ○

 洗面器が、階段の上から舞った。
 ……いやいや! ちゃんと説明させてもらって構わないか?
 我が家の洗濯機と風呂場は何故か階段を上がってすぐの二階にあって、いつもなら洗濯物は洗濯籠に詰めて、二階のベランダに干すんだ。
 今日も本来ならばそうするはずだったんだがな、そのときにちょうど隣をあいつが通った。
 そう、あの靴下猫だよ。今日は白足袋のほうだった。
 俺は悪戯心が出てきて、すぐ隣の風呂場から洗面器を取ると軽く水を足して、洗面器からぱしゃっと水をかけてやったんだ。
 したらあの靴下猫、どうしたと思う?
 ある意味ではご想像のとおりだろう、漫画みたいに顔面に飛びかかって引っかきやがった。
 まさか漫画展開になるとは思わず、俺もパニクっちまって、狭い洗濯場で暴れたんだよ。
 結果、洗面器が、階段の上から舞ったんだ。
 その中にいつの間にかすっぽりはまった、靴下猫と一緒に。

  ○

 そして、今度は俺が跳んだ。
 何も考えず、ただ靴下猫がその中にいることに気付いて、我ながら大した反射神経だと思う。
「ふがっ!」
 変な感じの掛け声は、まぁ置いといてくれ。
 とりあえず俺は階段に向かって跳び、手を伸ばし、抱えたまではいいんだが……当然ながら両手は塞がっていて、しかも階段の上だ。
 まぁ、絶対絶命! だとか考える前に、俺は落ちていった。

  ○

 目を開けると、そこには猫がいた。それも、二匹。
「気付いたか?」
 しかも一匹がしゃべりだした。が、俺はあんまり驚かない。むしろ、ほら見ろ! だ。
「化け猫?」
「失礼な」
 今日はいなかった黒足袋のほうがそう言った。
「我らは由緒正しい、猫わらしさ。お前の家を護ってやってるんだぜ?」
 黒足袋は言い、白足袋は頷いた。
「……聞いたこともない」
 そりゃそうさ、と白足袋は猫背を伸ばして言う。
「座敷わらしと違って、我らは猫だからな」
 そう言った白足袋に、俺はちょっとだけ笑った。

 なるほど。猫だったら、仕方ない。

 終。

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