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書庫 「葉っぱ猫」 mixi処コミュの『ワールド・ハズ』

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 俺は昔から、この世界が好きだった。

   ○

 世界の何が好きか? と問われたら、俺は簡潔にこう答えるだろう。

「全てが好きだ。幸せも不幸も、今も昔も、未来もそこに秘めた可能性も、全てが好きだ」

 そして、口の端を上げてにやりと笑う。

「だからお前も好きになれよ。世界は今、お前の手の中にだってあるんだぜ」

 誰だってこんな風に言われたら、ちょっと引きながら苦笑する。

 ある時、高校時代にやっていた部活の同期に遭遇して、呑むことになったのだが、その時にそいつとの会話でもこの話になった。

「世界を好きになれ」

 酔っ払いながらそう言った俺に、そいつは昔からごつかった腕で頭を掻きながら、

「一応、努力はしてみるよ」

 と笑った。

 ああ、それでいい。実際に努力できなくたって俺はかまわない。ただ、今こいつは俺の言葉をこうして受け入れて、そして言葉を返した。

 その言葉に含まれたこと自体は達成出来なくても、内心でどう思っていようとも、こいつはそうやって努力をすると言った。

 ああ、それでいいんだ。その前向きさが、世界を好きになる大切な一歩だからな。

   ○

 世界を好きになったきっかけを問われたことがある。

 お前はなんでそんなに世界が好きだ好きだと言うんだよ? その問いに、ふむ、と俺は顎に手を当てて悩んでみる。

 実は、気がつけば俺はこの世界が大好きで、だからその原点とも言える部分には意外と興味も沸かずにここまで来ていたのだ。基本的に何も考えないしな、俺は。

 さて、問われたことに対して意識を向けてみると……うーむ、過去の思い出ってやつにはそんなにこだわっていなかったからか、考えてみても原因にあたるものが思い当たらない。

 そんな俺だが、しばらく考え、ふと思い当たった一個のワードがある。

 とりあえず、これか? と思えた程度の大した事のないワードだが、問い主が何かあるだろう! としつこいので、俺は言ってやる。

「あれだ。生まれてきたから、この世界が好きなんだ」

 案の定というか。

 そいつはぽかんとした顔をしていた。

   ○

 俺が彼女と出会ったのは、何でもない駅前の、何でもないバスロータリーの一角だった。

 全くと言っていいほど俺には縁がない「占い」の看板を掲げたその彼女は、看板に目をやった俺に目を留めたのか、近づいてくると言った。

「生きてることが、楽しいの?」

 思わず、俺は足を止める。変わったやつだ。

 初対面の第一声にしては珍しい入り方だろう彼女の言葉に、にやりと笑った。

 変なやつだとは思ったが、そこは気にならない。

「ああ、楽しいね」

 次いで言う。

「俺はそんなに、生きてることを楽しんでるオーラを出してたか?」

 彼女は間髪いれず頷いた。ああ、率直なやつだと俺は思う。こういうやつは、嫌いじゃない。

「あなたは、ワールドイズに続く言葉ってなんだと思う?」

 そして問われたその言葉は、珍しい問いだった。ワールドイズに続く言葉?

 ワールドイズ、つまり、世界は○○という言葉の、○○に当てはまる言葉が何か、という問いかけか。珍しいが、面白い。

 俺はしばらくの間、目先の彼女は一旦思考の外側に置き、言葉を巡らせる。

 いくつか浮かび上がっては沈んでいくワード。しかし、それらはいまいちしっくり来ない。

 思ったより難しい問いかけだった。

 というか、それ以前にワールドイズという言葉自体に違和感がある自分がいる。

 だから、コーヒー一杯ならば楽に飲み終えるだろう時間をかけて、俺は結論を告げる。

「俺にとって、その問いに意味はないな。何故なら俺は、世界は"イズ"ではなく"ハズ"なんだ」

「……イズではなく、ハズ?」

 鸚鵡返しの彼女を見るに、どうやら俺のこの返答は珍しい部類な様子だった。

 俺は続ける。

「ああ、世界は○○ではなく、世界に○○だと考えたほうがしっくり来るんだよ、俺は」

「じゃあ、それでもいい。あなたにとって、ワールドハズならば、何?」

 それならば、答えは出ている。

「俺にとってのワールドハズは、ワールドハズミーニング、だ。世界に、意味はある」

「……それだけ?」

 どこか物足りなさそうな表情で、目の前の彼女は首を傾げる。

「だって、世界に生きているなら、その瞬間瞬間で当てはまる言葉は変わるだろう。そして世界は世界として、俺を包んでくれている。だから世界に生きるのは楽しいんだよ」

 にやり、俺は笑う。

「一応聞こうか。俺に問うた質問をそのまま返すが、君にとってのワールドイズはなんだ?」

「……私は、今、だと思ってる。ワールドイズ、ナウ」

「だろ? 世界を外側から見て、世界"は"と取るか、世界を内側から見て世界"に"と取るかの違いってことさ。今を楽しめよ、占い師さん」


 それだけ言って俺は歩き出す。

 果たして会話に意味があったのか、それはどうだっていい。

 別に意味を求める必要すらない。これが、この世界に生きている、俺の楽しみ方、だ。


 終。

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