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書庫 「葉っぱ猫」 mixi処コミュのガラスのブルース オリジナルアレンジ?

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●二話−孫王さんと屋上少女。


 僕の物語は、その検査入院での出会いから半年後、秋口を迎えた二度目の入院から始まる。

 ちなみに今回は検査入院──ではなく、左足の骨折に加えて胃潰瘍だったりする。南無。


 ω


「おう! 知ってるも何も透ちゃんはおっちゃんたちの病院のアイドルだぜ?」

 白、ではなく淡いパステルカラーの病室の中、ダミ声でそう答えてくれたのは孫王さんという白髪に無精ひげのおじさんだった。孫王と書いてそんおうという苗字らしい。

 詳しいことは知らないが、この病院の常連さんだそうで。

「けど兄ちゃん、今日から入院だろ? あの子の友達かなんかか?」

「いえ、実はその……」

 自分のベッドの上であぐらを掻いている孫王さんに簡単に事情を説明する僕。

 要約すると、半年前に一度だけ見た時に一目惚れした女の子です。話した事もないです、と。

 そう、実は半年前のあの日、僕は結局あの女の子に話しかけることすら出来なかったのだ。

 というか『透』という名前すら今この孫王さんの口から初めて知ったぐらいで。

 そりゃ話したかったけど、見知らぬ女の子に話しかけるなんて出来なかったのだ。

「あれか? シャイなんだな兄ちゃんは! がっはは!」

 豪快に笑う孫王さん。

「けどま、大丈夫さ。あの子は"特別"だからな。今日も屋上に居るぜ、行ってきな!」

 何でか知らないが背をバンと叩かれ送り出される僕。

 半年間冷めなかった気持ちを抱えたまま、僕は病室を後にして屋上へ向かうのだった。


 ω


 半年振りの病院の屋上は、半年前と何も変わっていなくて、そこに彼女はいた。

 あの時と同じように貯水タンクの端に座って足を投げ出し、るららと歌っていた。

 あの時と違うのは、歌っていて気付かれなかった半年前と違って、彼女が僕に気付いたこと。

「……あれ。きみ……また入院しにきたの?」

 驚いた。

 無表情にこっちを向いた彼女の言葉を咀嚼するに、僕のことを知っている?

「……半年前、見たよ。私が歌ってるの、聴いてくれたよね」

 またまた驚いた。

 だってあの時は見惚れていた時間は別にして、話もしなかったのに。

「……う、うん! 今度はしばらく入院するから、その、話してみたくなって!」

 ハミングを止め、貯水タンクから降りてきた彼女に、僕は無駄に大声で返事をした。

 が、恥ずかしくなって俯いてしまう。

 そんな僕の視界に、彼女の白くて僕より小さな掌が差し出されてきたのが見えて。

「……よろしくね、私、透って書いてとおりって言うの」

「あ、僕は──」

 それが、僕と彼女が初めてしゃべった会話だった。思い出すだけで恥ずかしくなるほどの。

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