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おもしろ歴史館-新裏太郎山通信コミュのマガジン第三十二号 追悼小宮山量平先生

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2012,4,13日早朝、小宮山量平先生が逝去されました。地元の信濃毎日新聞はもちろん、全国紙もそのニュースを伝えました。創作児童文学の世界をはじめ、先生の業績はもっともっと知られてよかったとしみじみ思います。(と言う小生も、その一端を窺い知る程度ですが)

今月16日付の『朝日新聞』には、今江芳智(ファンの特権で敬称略)が『時代を開く描き手たち「発掘」』
「小宮山量平さんを悼む」と題して追悼の一文を寄せています。いかに多くの作家達を育ててきたか、「すごい」のひと言です。しかし量平先生自身は、灰谷健次郎はじめとしたそうした作家たちに対して、決して「育てた」とか発掘した」という様な文言は、決して使われませんでした。先生はそうした、いわば「上から目線」の言葉とは無縁でした。折に触れ、「めぐりあった」と話されました。
上田駅前の老舗うなぎ屋の「若菜館」ビルの3fに「エディターズミュージアム 小宮量平の編集室」があります。出版人としての量平先生の足跡や戦後日本の児童文学をはじめとした出版界の有り様がわかる、希有な博物館です。入り口右側壁に量平先生の年表がありますが、縁あってその作成に携わりました。その年表に「小宮山量平めぐり合い年表」と名付けたのは、そうした先生の姿勢(※)に感ずるところ大だったからです。

量平先生はあまりにも巨きすぎて、とても私などが紹介できるものではないことは、重々承知しています。しかしそれでも、その時々に私が感じてきたことを改めてお目に掛けることは多少なりとも意意味があるだろうと考えています。
 取りあえず1回目として、以下の紹介文を掲載します。

1998年長野県母親大会では、量平先生の特別講座が開かれました。私はそのお手伝いをさせてもらったのですが、これは、その再実行委員会の方からその講座の紹介を依頼され時のものです。
いのち輝く明日を子どもたちに
−小宮山量平が語る人のやさしさ− 桂木 惠(太郎山塾塾生)

はじめに  
当講座の講師、小宮山量平さんの言葉の芯をきちんととらえようとするなら、是非とも読んでいただきたい書物があります。小宮山さん著作の小説『千曲川』が、それです。
「人間喪失状況への警鐘として、20世紀のほぼ全体を呼吸することのできた老骨から、21世紀を生きる若い人々へのプレゼント」として、精魂込めた熱いメッセージを贈ってくれているからです。  もっともこの著作に限らず、若い時からこれまで、生涯をかけて、「楽しみながら」(1)次世代への最高の贈り物を捜し出し、実際にそれを贈り続けてきた方だといえます。
そんな小宮山量平の世界を「やさしさ」をキーワードに少し散策してみたいと思います。が、奥の深い森のような世界の案内人としては私、極めて浅学非才の身。すぐに迷ってしまうかも知れません。しかしこの森はいのちを育む森です。安心してまいりましょう。
 
一、やさしさとは、見守ること       
小宮山さんといえば理論社ですが、そこで追求しようとし、今も追い求めている最高の価値が、「自立的精神」をいかに育てるかということ、つまり「自分の足で立ち、自分の頭で考える人間」の創出だということです。 
敗戦とそれに続くアメリカの支配で、最も日本人に欠落させられたものがそれであることを見抜き、その結果未曾有の不幸が起こる事を、悲しい目で予感(2)していたからです
しかしその一方の目では、一筋の光明がしっかりと捉えられていました。子どもたちです。 

たこもないけど たこはいらん      
こまもないけど こまはいらん      
ようかんもないけど ようかんはいらん(3)

こう言い切れる強さと高潔な精神に学び、そこに光を当てていこうとしていったのが小宮山さんでした。そして、こうした子どもは、ある規範に近づこうとして育てられたわけではなく、天性のものとしてもっているものが花開いたからだと気づいていました。トルストイやチュコフスキーに学んだことも大きいのでしょう。 規範は、どうしても子どもを囲い込みます。 

危ないものばかりもちたがる子の手から  
次々に物を取り上げて ふっとさびし   

小宮山さんがしばしば引用する五島美代子の歌です。               
二、やさしさは、静かな言葉で語られる   
日本という国を真に自立させていこうと考えた時、意外な所に伏兵がいました。大同よりも小異に拘る日本人の「分裂的体質」です。それに対し、「統一的精神」をひたすら説き続けてきたのが小宮山さんでした。    
教条的な公式論に与せず、「敵」とされがちな人々すら「同時代人」として包み込む柔らかさがありました。拳を振り上げ、口角泡を飛ばす代わりに、相手の話しをよく聞き、静かに自分の考えを語る姿勢があったればこそ、創作児童文学の優れた書き手たちとの出会いも生まれたのだと思うのです。(4) 
  
三、やさしさは、ゆっくり歩むなかから 好々爺の小宮山さんですが、今の閉塞的な況を生み出したものとして、子どもたちを巻き込んだ競争原理や経済効率優先の社会は、厳しく指弾します。そしてその一方で、優しくつぶやく歌があります。

「まれまれは ここにつどいていにしへの
あたらし人のごとく腹ばえ」 折口信夫

「くたびれたら 少し休もうよ
休んだら むっくり起きて
またあるこうよ」 大熊信行

四、やさしさは、原風景の中から
小宮山さんと親交の深い『寅さん』の山田洋次監督は、「寅さんがやさしいのは、あの葛飾の風景が変わらないからだ」(5)と書いています。小宮山さんも、「 活性化」という名の故郷破壊には強く警鐘を鳴らします。「開発だの観光だのと驕りつのる圧力がまかり通るとするならば、…狂気のさ迷いであるにちがいない」(6)
童謡の『げんげ草』を、遠くを見るような眼差しで口ずさむ時、単なる郷愁だけではない何かが、そこにあるように思えます。
  
五、全てはここに始まり、ここに回帰する  
「あれだけの戦争の犠牲の償いとして始めて握りしめた戦後の重み」(7)がどこかに連れ去られようとしている恐れさえある昨今です。 小宮山さんの言葉にいっそう耳を傾けなくてはならないと思うのです。
しかし、紙幅がつきました。まだ森の入口なのですが。
私たちの今なすべきこと、小宮山さんのおおらかな性談議等々、書き足りなかったことは山ほどありますが、まあいいでしょう。この講座の中には、宝物が詰まっていますから。 締めくくりは、やはりノヴァーリスで。
同胞よ。地は貧しい。

われらは  豊かな種子を 蒔かねばならない。
(1)福音館の松井直氏との対談のタイトルにも、「楽しみながら本を作ってきた」とある。
(2)教育者の遠藤豊吉氏は、「小宮山さんという人は、 負けを当然予想しながら、その後で何をするのか見通していた人」と評している。
(3)野上房雄の詩「お正月」より。所収されている『つづり方兄妹』は、理論社の児童文学の、原典とでもいうべき出版物
(4)小宮山さんは、決して新人作家を発掘した といういい方をしない。出会ったと言う。
(5)『寅さんの教育論』山田洋次 岩波書店
(6)『子どもの本をつくる』小宮山量平 日本エディタースクール出版部
(7)いぬいとみこ論の中で、これを決して手放さない不屈さが、彼女の作品のバックボーンだと評しているが、小宮山さんも同じ思いをもち続けているに違いない

※「めぐりあい」について。量平先生自身の言葉です。
いつのころからか私は、自分を「めぐりあい」論者と信じるようになりました。あたかも格別の信念をひとすじにつらぬいて、私が創作児童文学出版の道を拓いたなどと評価されたりしますと、私はただ恥ずかしいのです。そんな時私は、「めぐあい」と、小声で呟<だけです。また、私か多くの作家たちを発振して世送りだしたなどと言われたりしますと、むしろ腹立たしい思いが私をとらえます。
「作家は発掘などできませんよ。私たちに可能なのは、めぐりあいのふしぎさに感動することだけです」と私は叫ぶのです。
 今にして思えば、あの童謡や自由画とのめぐりあいも、そして東京での遠藤先生との出会いも、単なる偶然ではなかったのです。人びとは、それぞれの生きた証しを刻みつけるように、同時代人たちの善意や理想をよせあって、良き時代を創りあげようとしているのです。その土台に支えられて、また次の同時代人たちが出発しています。現に、私たちの誰ひとりと以て『赤い鳥』の何たるやを知って育った者はいません。そんな雑誌を見たこともないのです。それでいて、いつしか(赤い鳥時代)の申し子のように生きてきたではありませんか。それぞれ自身の生涯をさ迷ってのあげ<、先人の善意が築き成した土台へと回帰しているではありませんか。
 一九四〇(昭和十五)年から六年間にわたる軍隊生活のあげく、三十歳で迎えた敗戦の時、ゆくりなくも私をゆさぶったのは、こんな土台への回帰でありました。もともと本好きで、本さえ与えておけば何時間でも一人遊びをしている様な子どもの自分が、絣の筒袖姿で瞼に浮かんできますと、もう一目散に本づくりの仕事へと突っ走っていたのです。
  小宮山量平『編集者とはなにか』 日本エディタースクール出版部 P 2 4 4

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