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おもしろ歴史館-新裏太郎山通信コミュのマガジン第二十九号 続編 この頃読んだ本から

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 沖縄県の八重山地区中学校「公民」教科書採択問題が混迷しています。事の発端は、今月6月27日教科書用図書八重山地区採択協議会の規約を、玉津博克会長(石垣市教育長)主導の下に全面的に改定したことです。
 
この改定により、それまで、教育委員の判断材料になっていた現場教員の教科書調査報告書を廃止され、現場の声は全く排除されることになりました。また、審理も非公開とされました。 
               
その結果、非公開で行われた採択協議会が育鵬社「公民」を選定しました。しかしその後、竹富町の教育委員会は同社版不採択を決定しています。地区内の一本化が図られなかったわけですが、ここまでの動きを見ると、これまでの採択方法を突然換えたのは、育鵬社の教科書を採択するための画策だった疑いが濃厚です。

この後同一地区同一教科書採択の原則を理由に、沖縄県教委が仲介し、9月8日に地区内3市町村の全教育委員13名による協議で、育鵬社版不採択、東京書籍版採択を決定しています。これに対し、石垣市と与那国町の教育長は、途中退席し、この協議には従わない旨を表明、今後は文科省に「相談」するとしました。
この事情については、「八重山地区の教科書問題で、現場教員が推薦しなかった教科書をあえて採択した経緯や理由がいまだに明かされないなど、説明責任を果たさない協議会に対し、民意が「ノー」を突きつけたともいえる。石垣市、竹富町、与那国町の全教育委員が協議の上、教科用図書八重山採択地区協議会が答申した「新しい歴史教科書をつくる会」系育鵬社版公民教科書の不採択を決めた。全国的に「つくる会」系の教科書が政治的な背景を持って採択されていくなか、地区の教育委員が全体会議を開いて結果を覆した意義は大きい。」(沖縄タイムス9月9日)と、説明しています。

しかし今日まで混乱が続いてるのは、中川正春文科省大臣の「協議は調ってない」発言で、玉津博克会長擁護にまわったことにあります。どこの教科書であれ、特定の教科書を選定するために、最高の職務権限を大臣が画策すること自体異常です。しかも明らかに政治敵意図をもって作成された教科書を、です。
こうした教科書採択の仕組みの不備や検定制度自体の問題がおきていることを、まず指摘したいと思います。

次に、なぜ一部の人々は育鵬社の採択にこれほどまでこだわり、また公正であるべき(教科書検定という時点でもはや公正は望むべくもないが)文科省が肩入れするのか、逆に言えば、何故育鵬社版には警戒心を持つ必要があるのか、少しだけ検討してみたと思います。

*現在育鵬社とルーツを共にする教科書出版社といえば「自由社」があります。「作る会」で知られていましたが、けんか別れして相互に非難合戦を繰り広げていますが、戦後民主義への憎悪や侵略戦争を認めないなどの点で、ほぼ同じ価値観を共有していますので、ことさら分ける必要はないようです。

さて、育鵬社の公式ホームページによりますと、来年度からの公民教科書のウリは、次の様なっています。

? 国民としての自覚をはぐくみ,現代社会を多面的・多角的にとらえます
? 我が国独自の文明と文化への興味・関心を培います
以下略

一言で言うと、まず国ありきの日本人の育成といったコンセプトでしょうか。そこでは、大きな犠牲を払ってようやく勝ちとられてきた日本国憲法に象徴される、平和や民主主義の育成といった価値観は、大きく背後に追いやられています。また、本書の編集に中心的に関わった川上和久明治学院大教授は、「学習指導要領を一番踏襲した点が各地で評価されたと思う」と、文科省の意図を十分に汲んだことを表明しています。つまり、その時々の政治権力に迎合することに最大の価値観を見いだしているものと読み取れます。しかし社会科に課せられた最大の課題は、次代のよりよい民主主義社会の主権者を育てることのはずです。                                                                        
これらの教科書はまた、自衛隊については全面賛美です。国際貢献の必要性も説きます。しかし米軍基地を抱え、それ故に派生する問題に苦悩する沖縄を一顧だにしていない教科書でもあります。
           
では、育鵬社や自由社の教科書以外は「よい」教科書なのか。問題はそう単純ではありません。ただ両社の教科書があまりにも政治的意図をむき出しにしている点で突出しているため、問題が露呈し易かったのです。他社の「公民」教科書も、検定という枠内で大きく規制されている以上、多くの問題を孕んでいます。                                                
では、現行の教科書の何が問題なのでしょうか。(検定その他に論点には今回は敢えて触れません。「作る会」系の教科書採択反対運動も、この問題を見えにくくする点で不満があります。)

そこで今回ご紹介したいのが、「日本人の政治意識の低さは、青少年の政治教育の貧しさと連動する」という認識を持つに至った筆者の、現状を、何としても克服したいという願いで書かれた次の本です。結論から言えば、そのための喫緊の課題は、教科書の全面的見直しだと語られます。

『高校生と政治教育』高元厚憲 2004 同成社

筆者は長い間公立高校の現場で、現代社会や倫理、政治経済などを担当し、自らも倫理の教科書などを執筆してきたベテランの社会科教師(現在は退職)です。長年の体験から、上記の様な問題意識を持つに至ります。                 
さて、3,11の大震災や東電福島の原子力発電所事故以降の各種選挙ですが、そうした重大な局面に経っているにもかかわらず、投票率の低下に歯止めがかからない現実です。それは筆者の分析によりますと、

 「日本における近年の若年層の投票率の低さ、支持政党無し層の増大は、既成 政党側に問題がある様な論調が強い。しかし、私はそれ以前に、有権者自身の 観客的態度、政治的有効性の欠落(誰がやっても同じ、自分がそれをやっても 変わらない、世の中なるようにしかならない)に責任があると思っている。
 そして、そのような、多数の青年の非政治家という政治状況をつくりだした最 も基礎的・基本的な要因は、中・高校における政治教育の不在にある…」

となります。確かに、したり顔で「政治家なんて誰も同じ」というシニカルな物言いに接し、不快な思いをした経験は私にもあります。

 筆者の、高校生に寄せる限りない信頼と愛情は文章のそこかしこに感じられますが、それ故、主体的に政治に参加しようとしない社会人に育てようとしてきた勢力に対して、その責任を追求する姿勢も切れ味鋭いものがあります。
  「(高校生は)いつの次代も敏感に(政治や社会的問題に)感動する精神を  秘めている」( )内桂木
  にもかかわらず、
  「学力向上とスポーツで活躍すること以外には関心を持たされないように、  学校と社会からマインドコントロールされている」現状を、一刻も早く打開  すべき事が強調されます。

では日本の公民教科書(便宜上、現代社会や倫理社会、政治経済等の科目の総称として使用)の問題点は何なのでしょうか。以下紹介します。

1つに、「政治教育を拒否し、青少年の非治化を意図して」おり、貧弱な知識しか与えていないものであり、
ふたつめに、
「政治に対する市民の異議申し立てや現実の矛盾については何一つ書かれていない」「社会不在」の教科書であるとしています。
3点めとして、社会科学の成果を無視している点を上げます。

 そしてそれらの背後にあるのは、政権を担ってきた保守政党の意を受けた文科省の教育への不当な介入があると喝破しています。
 筆者はまた「公民」なる用語に対しても、「臣民」というニュアンスが含まれ、市民とは大きく異なると批判しています。

 これら日本の教科書と対照的に、「魅力的」で「おもしろい」と高く評価しているのが、筆者が留学していたアメリカの教科書です。

それらは検定はじめ何らの制限も無いため、価格も分量も、勿論内容も多様で、自由に書かれているが故に、それが可能だとしています。また現実の利益が真っ向から対立する社会問題なども積極的に取上げ、アメリカ社会が苦悩している銃規制やマイノリティーなどの問題も、俎上に載せているため、興味を持たせつつ政治意識が育つ様になっていると高く評価します。

しかし問題がないわけではもちろんありません。例えば社会主義国に対しては、全体主義国家として敵対的感情を丸出しにするなど、極めてアメリカという国家の利益を全面に出しているようです。ただそうした弱点を持ちながらも、
 「市民には不合理または非道徳的な法律には服従しなくてもよい権利と義務がある」という思想を教えている点など、日本の教科書には絶対に存在しない優れた内容をもっているとします。

また、「事実と意見を区別して思考する」能力を、授業や教科書を通じて訓練しようとしている点や、価値感の全く異なる意見を相対化したうえで、自分の考えを形成する力を養おうとする点なども、日本の教科書には見られない魅力だと指摘します。

さて、本書のもう一つの魅力が「公民」教科書やその基になる学習指導要領を切り口に見た、戦後日本の歴史に関する記述です。日本の戦後史が、如何に保守政党の「戦前回帰」の思想と行動を基軸として展開されてきたか、改めて慄然とさせられます。そしてついにそれが、高校における社会科の解体、つまり「公民科「地歴科」という二つの教科に分断され、今に至る事はご案内の通りです。
しかし彼らが最終的に狙う再軍備や民主主義の否定は実現させてはいません。それらの策謀を簡単に許さなかった戦後の民主的な人々の思想と行動もまた、高く評価されるべきだと、本書は改めて教えてくれています。

私事です。これまで中学で「公民」を、高校で「現代社会」を教えてきましたし、今も現職です。筆者ほどの鋭い分析はできませんが、教科書に対する批判は、共感できる点が多々ありました。

そこで、実際の授業では、教科書はほとんど「数ある教材の1つ」というくらいの位置づけで使用してきました。やはり生きた現実を教材にした方が、はるかに生徒の「食いつき」が違うのです。

例えば、社会権や生存権では、「朝日訴訟」(尤もこれは、古典的すぎて最近では実感をもてない生徒が多くなりましたが)や、「桶川クーラー事件」(生活保護費を受け取っていた女性が、クーラーを外さなければ生活保護費を打ち切るといわれたためやむなくクーラーを切り、熱中症で重症に陥った事件。これを契機に、クーラーは贅沢品か否かが問題になり、その後クーラーは贅沢品とは認定されなくなった)などを取り上げます。

住民の権利では、新潟県巻町の原子力発電所を巡る住民投票問題を教材にします。首長や議員のリコールなどの権利も、実際に起きた事例の方が遙かに説得力を持つからです。

しかし教科書では筆者の指摘する様に、そうした教材として使える様なものはあまり載っていません。そこで無味乾燥な授業になることを避けて、ついつい敬遠してしまうことも多いのですが、筆者は、私の様なそうした姿勢にも苦言を呈します。自主教材に優れたものがあることを認めた上で、
 「教科書そのものを理想に近づけることこそが何よりも必要であり、社会科を取り戻すための正道だと信じている。…ほとんどの学校が教科書を使って授業をしている」
からだとしています。

   教科書がより自由で、豊かな内容で、そして興味深いものになれば、それに越したことはありませんし、喫緊の課題であることは論を待ちません。しかし現行教科書をよりよいものにしていくことと、自主教材の開発とその使用は矛盾するものではなく、相互補完的なものであるべきでしょう。ただでさえ多忙化している教師にとっては困難なことでしょうが、実はそれこそが本務のはずです。

   もう一点励まされる内容があります。
政治課題は、大きく異なった価値観のある問題を取り上げます。それ故教師には、中立や客観的立場が強調されます。しかし現実には、体制批判を封ずるための方便として使われていることを筆者は批判します。
 「客観的であるか無いかの判断基準は文部省にあるとして、文部省検定済みの教科書以外の使用を認め」
  ない態度こそが問題だとし、
 「教科書の執筆者や教師が個人の主観的価値理念を前提にしながらも、…認識の確からしさ真実性」を高
めるために、努力を払うことを求めています。とりわけ現職には学びたい切り口です。
   筆者が、日本の民主主義がより主体的で内実を伴うものにあることを切望している事は、行間から溢れてきます。

本書は教科書のあるべき姿を論じるなかで、上記の願いに迫ろうとしています。私など同じ社会科教師ですので、共感できる点が本当に多々ありました。が、もしかしたら、教師についても言及したかったのかも知れません。「学力向上とスポーツで活躍すること以外には関心を持」てない存在は、政治や社会に積極的に、主体的に関わるべき生徒を育てるべき教師の中にもいるかもしれないからです。勿論そうした存在を大いに気にしながらも、寅さんの決めぜりふではありませんが、「それを言っちゃあおしめえよ」と、敢えて封印されたのかとも感じました。筆者の教師論についても、読んでみたいところです。

私が特にそう思うのは、筆者が私の出身高校で長く教鞭を執られていたからです。もちろん、卒業後遙か後のことですので、接点はありませんが。

さて、政治意識の構築には、もう一つ大きな力を発揮しているものがあります。いわずと知れたマスコミの存在です。二大政党論や復興増税、沖縄の基地移転問題など、マスコミの仕掛けてくる論調には、警戒すべき点が多々あります。それ故、マスコミ報道を相対化することは、個々人がこれからの政治行動を決するに極めて重要です。

それはアメリカもまた同じでしょう。日本より優れた教科書で学んだはずのアメリカ国民ですが、とりわけ
外交に関わる政治的選択の問題、特に多くの人々が他国への「上から目線」に陥る背景には、マスコミの大きな影響力を行使が見て取れるからです。
マスコミ報道も相対化し、様々な意見を取り込みながら主体的に選択していく努力もまた、青少年にとっての、いや我々にとっても、大切な学習だと思えてなりません。

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