ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

千夜一夜の物語コミュの近距離恋愛。4

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ふいに、携帯が震えた。

「っ…!」

翔子は素早く携帯を開くと、すぐにメールを開いた。
だが、件名には、待ち望んだ人の名前は書いていなかった。

「江里…先輩…?」

翔子は複雑な思いで本文を見、そして目を見張った。
・・・メールには、短い文が綴ってあった。

―あなたが離れていっても、良太くんはあげない。―



江里は歯を食いしばり、良太の服の一番上のボタンを素早く外すと
震える唇で良太の首筋にキスを落とした。

―――なんて卑怯なんだろうな…私。

―――分かってた…こう言えば拒まないことぐらい…。

―――だって押し倒してしまえば……男なんて……みんな…。

自身の服にも手を掛け、乱暴にコートを脱ぎ捨てた。
止まらない涙。息まで苦しくなってくる。

「拒めるなら、拒んでみなさいよっ…!」


「…分かりました。」


言うが早いか、良太は驚く江里をひょいっと抱えると
すとんっと軽々自分の隣に彼女を下ろした。

「え…っ?」

ぽかんと呆気にとられている江里を他所に立ち上がり、
良太はマイペースに着ているジャケットを脱ぎ出した。

「良…太く…?」

戸惑う江里の前にそれをふわっとひるがえして、
良太は女性にはぶかぶかのジャケットを彼女の肩へかけた。
未だにワケが分からない江里は、恐る恐る口を開いた。

「…何…で…?」
「え?だって…退かしてみろって言ったのは先輩ですよ。」

今度は良太の方が戸惑った表情になった。
はぁ?と思わず声に出そうになって、江里は慌てて口を引き締める。
良太は困ったように頬をかきつつ、途切れ途切れに言った。

「よく分からないけど………先輩、何か焦ってるみたいだったから。」

・・・江里のどこかが、ドクン、と音を立てた気がした。

「…まるで、彼女でなければ、俺の傍にいられないって…そんな顔してる。」

良太は哀しげに、けれど柔らかく微笑む。
・・・江里は、何故だか急速に鼓動が早まっていく気がした。

―――だって………だって私は、良太くんの………恋人…に………。

真っ直ぐな瞳で江里を見つめて、良太は穏やかに言った。



「先輩の目は、いつも………俺と翔子を見てた。」



・・・・・・涙が、溢れた。



―――恋人になりたいって…

思わなきゃ……『いけなかった』……。



強さをくれた。元気をくれた。

包んでくれた。支えてくれた。

大切な人たち。大好きな人たち。

それが同時に離れていってしまう。
どんなに手を伸ばしたって、どんなに叫んだって

・・・きっと、届かない気がした。

壊れた蛇口みたいに、後から後から流れ落ちる涙。
江里は嗚咽をこらえながら、必死に思いを言葉にした。

「だってッ………一番じゃなきゃ…傍にいちゃいけないってッ…
 離れていってしまうって…前と一緒じゃいられないって思って…ッ!」

自分を嫌悪する思いと、一番でない苦痛と、独りになる恐怖と・・・
色んな思いを吐き出すかのように、江里は涙を零した。
そんな江里の頭を、良太はぽんぽんと優しく撫でた。

「ごめん…なさい。俺は、先輩を……恋人には……選べない。
 俺が今行きたい場所にいるのは……やっぱり翔子だから。」

江里は俯きつつ、素直にこくんと頷いた。

「だけど……俺……えっと……。」

良太は至って真面目な顔で、頭を抱えている。
―――この人は今、一生懸命に言葉を捜してくれている。
こんな私に、一生懸命、想いを伝えようとしてくれている。
江里は、胸がいっぱいになるのを感じながら、良太を見つめた。

「だけど、俺にとって先輩は………ずっと大事な先輩だから。」


・・・瞳と同じくらい真っ直ぐなその言葉は、真っ直ぐに胸の中に染み込んだ。


「翔子は翔子で、江里先輩は江里先輩だから…。
 その…だから……優柔不断かもしれないけど……」

小さく相槌を打ちながら、江里は良太の言葉を待った。

「俺には……えぇと……どっちも一番なんです。
 あっいや、そういう意味でじゃなくてっ…だから……。」

困ったように頬をかいて、良太は真っ赤になって言葉を捜している。
一生懸命な姿が微笑ましくて、江里は自然と笑みを浮かべた。
とうとう良太は項垂れて、懇願するような声でぽつりと呟いた。

「だって………翔子も、江里先輩も…一番なんです。
 俺……どっちが一番とか、二番とか……決められ…ません。」

泣きそうな声で、良太は両膝の上で拳を握り締めて、言った。

「…大切な、人達なんです。」

あまりに一生懸命で・・・江里は、何だか笑ってしまった。

「すみません…ハッキリしなく…」

言葉の途中で、江里はすっくと立ち上がった。

「ありがと。」

・・・自分でもびっくりするくらいに、スッキリした声だった。

「…ありがとね。」

暖かい涙が・・・頬を伝った。



祈るように両手で携帯を握り締めて、翔子は呟き続けた。

「大丈夫…大丈夫…。」

震える声で、ざわめく喫茶店の中で、小さく呟く。

「…きっともうすぐ…来るって言ったもの…。」

視界が滲んだ。
・・・握り合わせた手は、ずっと震えている。

「…信じ続けるの…辛いよ…。」

冷たい雫が一筋、頬を零れ落ちた。

「…良太…。」

・・・翔子は、今日初めて『勇気』の意味を知った気がした。


******************************

あとがき。

すみません…ハッキリしなくt…(殴
優柔不断は作者です。良太は悪くないんですorz

良太の意見には、賛否両論あると思います。
一番を決めないのは相手に失礼と思う人もいると思うし、
良太のように思う人もいるかもしれません。…不快に思う人もいると思います。
「こういう意見もあるんだなぁ」と、きっと広い心で
皆様に受け止めていただけることを信じながら、書きました。
…作者も、厳しいご意見も受け止める覚悟です故。

本当は4で終わらせるつもりでしたが、長くなってしまいました(−−;
なるべく次で終わらせたいと思います。
ではまた。

コメント(7)

続き待ってましたわーい(嬉しい顔)
まず、書いてくださりありがとうございます。
私は良太君、優柔不断ではないと思いますよ。
 人を大切だと思う気持ちに順番は付けれないと思うから。それは相手の性別関係ないし。
彼女さんは恋人としてまた別でしょうから。
続きも楽しみにしてますハート

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

千夜一夜の物語 更新情報

千夜一夜の物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。