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千夜一夜の物語コミュの近距離恋愛。5(完)

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・・・ウィンドウの前を通り過ぎた人影に、翔子は一瞬気付かなかった。

「え…良…っ!?」

咄嗟に立ち上がって喫茶店を出ようとして、翔子は唐突に動きを止めた。
・・・横切った彼の、服の肌蹴た首筋にクッキリと見えたもの。


―――な、幸せの輪って知ってる?何かそういうのがあるんだってさ。


ふいに思い起こされた、いつかの良太の言葉。暖かい微笑み。

「(…キスマーク…だった…さっきの。)」

そう思った時、ふいに視界が霞んで、翔子は不思議に思った。
・・・それが自分の溢れそうな涙なのだと気付くのに、数秒かかった。

「(あれ……江里先輩が、いつも付けてたリップの色……。)」


―――幸せの輪……俺、翔子といたら見つかるような気がする。


照れ臭そうに赤くなって言った言葉。子供のようなキラキラの笑顔。
翔子は、小刻みに震える唇を止めたくて、きゅっと噛み締めた。


―――ねぇ良太………私…きっと見つかるって思ってたの………。


・・・涙が、一筋、零れ落ちた。



ふと、良太はポケットが震えているのに気付いて携帯を取り出してみると、
画面には「新着メールあり」の表示があった。
急いで開いてみると「いつもの公園の近くにある喫茶店で待ってる」との一文と、
宛先を示す「夜野翔子」の文字があった。

「良かったぁ…。」

良太はパァッと瞳を輝かせ、通り抜けた先にある商店街へと顔を向けた。
そして、ぴたっと立ち止まる。

「………喫茶店って………どれ?」

いっそ『喫茶店街』でいいんじゃなかろうか・・・?と思うほど、
そこにはカフェやら何やら、お茶を飲めそうな店が何件も並んでいた。

「えぇい、悩んでも濡れるだけだっ!」

何だかもうヤケクソになって、喫茶店の前をとにかく走る。
・・・その時、ふと、


―私じゃ…ダメなのかな…。―


声が聞こえた気がして、良太は反射的に振り返った。
今さっき渡った横断歩道。信号は赤。向こう側には人の波。

「しょ…っ!」

だが、彼女を見間違えるはずがない。
会いたくて、会いたくて・・・頭の中はそれでいっぱいだったのだから。
こちらに気付かず歩み去る後ろ姿に、良太は呼び止めようと口を開いたが
周りの目がふっと自分に向いて、一瞬声を出すのを躊躇った。
・・・・・・だが。

「 翔 子 ぉ お お お ー ッ !!!! 」

心の中でごめんと彼女に謝りつつ、これでもかというほど大声で叫んだ。
無論、一斉に周りの視線が良太に集中した。
チラチラ見られるより、ある意味スッキリしたような気がした。
もちろん彼女もこちらを向いたのだが、良太に気付くと顔色を変えた。

「っ…!」

今にも泣きそうな・・・ひどく傷付いたような表情。

そして、翔子はあろうことか、良太に背を向けて走り出したではないか。

良太は何が何だかワケが分からない。
とにかく信号が青になってから、その後ろ姿を猛ダッシュで追いかけた。

「っ…だから…持久走は苦手なんだって…!」

と思わず呟きつつも、何故か速度はどんどん上がった。
やがて公園の半ばまで来たところで、ようやく追いすがった。

「何でっ…逃げるんだよ!翔子っ!!」

何とか追いすがり翔子の腕を掴んだが、ものすごい勢いで振り払われた。
・・・本気で嫌がっているのが、それだけで伝わってきた。

「来ないでッ…!」

ズキン。と、良太のどこかが音を立てた気がした。
振り返った翔子の顔が、哀しみに満ちていたのを見て、
良太は、もう我慢ならなかった。

「翔子が泣くなら嫌だッ!!」

良太は叫んで、後ろからぎゅうっと翔子を抱き締めた。


「…翔子が泣くなら、一人になんてしてやらない。」


・・・たったそれだけで、翔子の足は動かなくなっていた。
まるで叱られた子供のように、翔子の肩に顔を埋めて、良太は言った。

「俺…逃げないから。
 だから、俺のせいで泣いてるならそう言って?
 俺が嫌いなら……そう言って。」

寂しそうに、途切れ途切れになりながら、小さな声で呟いた。

「翔子を苦しめるなら、例えそれが俺だって、守るから。」

どこか懇願するように、けれどとても暖かい声で、良太は呟いた。


「…俺が絶対、何とかするから。」


翔子は、必死に嗚咽を堪えようと唇を噛み締めた。
・・・けれど、溢れる涙だけは、止めようがなかった。

「…昨日、翔子に渡すプレゼント、やっと買えたんだ。
 それ見てたら…翔子は渡したらどんな顔するかなって、ワクワクして…
 何て言って渡そうかなって考えたら、ドキドキして眠れなくて…
 って…何か言い訳みたいだけどさ。」

照れ臭そうに、すまなそうに、頬をかく良太に、
翔子はぎゅっと拳を握り締めて、勢いよく振り返った。

「このッ……バカぁああーッ!!!!」

翔子は、腹の底からありったけ大声で叫んだ。
それにビクッと肩を震わせ、良太は蒼白な顔になった。

「ごっ…ごめ……。」

顔をぐしゃぐしゃにして、翔子は子供みたいにぽろぽろと涙を零した。


―――こんなにびしょ濡れで。息も荒くて。…真っ直ぐに、私を見て…。


翔子は、困り果ててオロオロ彷徨わせている良太の手を、そっと握った。


―――こんなバカが………私を一人に出来るわけ、ないじゃない。


・・・翔子は、止まらない涙を拭いながら、上手く動かない唇で言った。

「………私も…ごめんっ………。」

翔子は、良太の胸に顔を埋めて、ぎゅうっと抱き締めた。
ポケットの上から、そっと『それ』を確かめながら、良太は苦笑した。
小さな箱の中に入った、大切な大切な『お願い』をする為の、贈り物。
きっと『これ』が幸せの輪だと思ったのだが・・・どうやら違ったらしい。

ほら、やっぱり。

俺一人じゃ、ダメだった。



君とだから………見つかった。



嬉しさに真っ赤になりながら、良太は、照れ臭そうに微笑んだ。





「えっと…お待たせ。」
「………遅すぎっ。」





終。

***************************************
あとがき。

まず…毎度長すぎてすいません。遅すぎてすいません。(ぉ
今とても幸せな終わりを書けるような状態じゃなくて…><;
自分もそういう気分にならないと書けないんです;(ハイ言い訳
少しだけ精神が持ち上がったので…何とか頑張りました。
ちょっと微妙な終わりかもですがお許しを…><;

『幸せの輪』の話は、十六夜さんにお借りいたしました。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=27863984&comm_id=492442

この場を借りてお礼申し上げます。
本当にありがとうございました!m(_ _)m

誰かの心に、何かが届いていればいいなと思います。
ではまた。

コメント(4)

お疲れ様でした。書いていただいてありがとうございますわーい(嬉しい顔)
そして、白月さんにはプレッシャーかけたと思います。ごめんなさい。
近距離恋愛4と、その後の作品に白月さんの迷いというか葛藤が現れてましたよね。
近距離恋愛すごく面白かったです。言葉足りなくて申し訳ないのですが、私は大好きです。これも一つの出逢いだと思います。素敵な作品に出逢わせてくださって感謝します。

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