藤沢周平と池波正太郎コミュの毎日新聞の本日の夕刊に・・・

藤沢周平氏の記事が　ありましたので　ご覧になった方もいるでしょうが、
とり急ぎ　載せます。

しあわせのトンボ：一人の幸福な観客＝近藤勝重
　

寝床に就く時は、たいてい藤沢周平氏のエッセーか短編と一緒だ。読んでいると気持ちが落ち着いて、いつしか眠りに入ることができる。

　１月２６日の夜は、氏の短編「山桜」所収の文庫を手に布団に入った。藤沢氏の命日に当たるその日、５月公開の映画「山桜」の特別試写会があり、もう一度、作品の世界に寄り添いたくなったからだ。

　内々の試写会だったようで、歓談の場もあって、篠原哲雄監督の山桜を撮る苦労話や、藤沢氏の担当編集者らの思い出話には思わず聴き入った。

　藤沢氏のひとり娘の展子さんは「父は自分の作品がドラマになったりすると、恥ずかしがっていました」と述べて父親のエッセーから＜まさに映像でしか表現出来ないものを描きだしているような作品にぶつかると、原作者は、半ば観客であり半ば原作者である立場から、完全に一人の幸福な観客になり切る＞という文章を引かれていた。

　そして展子さんは、「今日は一人の幸福な観客となった私のそばで、父も幸福な観客になっていたことと思います」と完成した映画への賛辞を惜しまなかった。

　＜……その下に立つと、薄紅いろの花が一面に頭上を覆って、別世界に入ったようだった＞と藤沢氏が描く山桜は、映像で見てみたいと思わせるに十分だ。想像するだけで詩情がわく。

　山桜とともに広がる人模様を主に彩るのは、再嫁して苦労する野江（田中麗奈）と、そんな彼女に心を寄せていた弥一郎（東山紀之）だ。この２人もいいが、それぞれの母親（檀ふみ／富司純子）もまたいい。

　とりわけ弥一郎の母である。息子は悪徳上士を切って獄舎に－－という過酷な現実にもかかわらず、それが道理と節度を知る女性の有りようなのか、りんとしたたたずまいで現れ、物語の結末に救いを与えてくれる。その姿は、こちらを何か幸せな気分にすらしてくれるのである。

　歓談の席で「蝉しぐれ」を映像化した黒土三男（くろつちみつお）監督も、「山桜」の感想を述べ、富司さんの母親役を「たたずまいの文化を見る思いだ」と評されていた。藤沢氏の作品世界にも通じる、実に的確な言葉に思える。

　ところで寝床に入る幸せは、ぼくの場合、冒頭に書いた通り藤沢作品とともにあるのだが、その夜は格別であった。布団に入ってもまだ「一人の幸福な観客」のままでいたせいに違いない。（専門編集委員）

毎日新聞　2008年1月30日　東京夕刊

コメント(2)

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[1] mixiユーザー 01月31日 10:08

山桜、早速買いに走らねば。メモメモ、・・5月ですか？桜前線はどこら辺まで北上してるのかな？

＞「たたずまいの文化を見る思いだ」・・・映画の中でしか感じられない、めったに見ることが出来ない、
表現の美しさに、何かが洗われるようです。ともあれ期待が膨らみます。

[2] mixiユーザー 02月01日 02:02

べんべのりさん　

「たたずまいの文化・・」とは　いい表現ですよね。
先日　所用があって上野駅前の東京文化会館に　行ってまいりました。
40年の歳月を経た　堅牢な建物・・

今はやりの高層ビルには　ない佇まいをかんじました。

本日の　「どの本がお奨めですか」のトピに　

シバッテップさんがマラッカにいらしゃって
、こんなことを書かれています。

・・・・・・・

「当地は、かつてポルトガル、オランダ、イギリスの植民地となり、戦時中は一時日本の占領下にありました。そうした古い文化の混交が町の建物や風景の中に残っています。
今はマレー系、中国系、インド系の人々が共存しており、町にゆるやかなハーモニーをかもしだしています」。

・・・・・・・・

やはり歳月と人とそのお国が
らが　独特の佇まいをかもし出すのでしょうね。　

池波さんの「日曜日の万年筆」に

東京オリンピックのころから、人びとの生活は見るみるうちに変わった。
私の家でも例外ではない。

テレビや冷蔵庫や電気掃除機などが母や家人をよろこばせたのはよいとしても、資源の乏しい小さな国が、

がむしゃらにメカニズムをむさぼり食うありさまに、
「こんなことをしていて、大丈夫なのだろうか？」

不安は、つのるばかりだった。
このとき私は、国や一部の奇妙の感を抱いた。

何となく・・・・・・。

ただ　何となく、戦後三十余年間に自分の胸の底に蟠（わだか）まったまま
消えてない不安がしだいにおおきくふくれあがってきはじめた。

慧眼です・・・たたずまいの文化はもう　失われたのでしょうか？

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