高天原・天神嶺コミュの【　紅茶セット５００円　】　-　著・ただ★いぬ

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サイドストーリーズ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　■　担当：ただ★いぬ　■



　　　　　　　　　　　　　　　　　『　　紅茶セット５００円　　』




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「あれ？ひょっとして、堺くん？」

「ん？」
ぴこぴこと白長い耳を動かしてウサギの獣人が私に声をかけた。
何処かで見たような気がする。だが獣化して以来全くあっていない人間ならば見分けもなかなか
つかなくなるのも当然のことでもある。
それが数十年もの間があるとなると尚更だ。
だがこの平身低頭な態度と人を見透かすような目には覚えがある。
「・・・あ、中内さん？どうも」
軽く会釈をする。
自分でもまだ確証は無い、だが消去法で行っても該当する人物は彼女しかいない。
自分で言うのもなんだが私は人間関係に疎い。
だから挙げられるリストの中身は少数であり、当然見つけやすいというわけだ。

「久しぶり、お互いアレだ。ホラ、変わっちゃいるけどわかるもんだね」

私は正直わからなかった。
この人は人を見る目というのが養われているのだろう。
人の世を渡る事に長けた人物だ。昔からその才能だけは羨ましく、そして疎ましくも思っていた。
この人は私がまだ駆け出しの新人だった頃のマネージャーだ。
辞める時もこの人には色々と世話になった。世渡り上手な彼女には私の言い分は理解に苦しむハズ
だったがそこは感覚というか・・・空気で理解してくれたのだろうと思う。
だから私は今でも彼女に頭が上がらない。

彼女は腕時計をチラリと見て近くのオープンカフェを指差した。
「立ち話もなんだしさ、ちょっとそこでどう？」




紅茶２つとサンドイッチを挟んでウサギとキリンが座る様はまさに「何処のマッドティーパーティ
ーだい？」と言える程に珍妙であった。
彼女はサンドイッチをひょいとつまんでもぐもぐと頬張りながらリスの様に口を動かす。
私は長首を下げ、手を上まで持ってきて紅茶を飲む。
「ん・・・ふぅ。堺くんは今どう・・・って言われたら困る？」
「いや、見てのとおり自業自得の集大成ですよ。今や貧乏暇だらけ、コレのおかげで廃業ですしね」
そういって長い首をポンポンと叩く。

「そっか。私はさ、今じゃ一応プロデューサーよ」
「大した出世じゃないですか。お互い年を取るわけだ」
ブフッと紅茶を軽くこぼす。
昔と変わらない、怒っているフリをしながら下から睨むのだ。
「コラコラ、乙女の前で年とかＮＧワードをサラリと言うな・・・相変わらずみたいだね」
「御希望に添えず残念ですが」


「ま、堺くんはそこがいいんだけどね」
「恐縮です」


コトリとティーカップを置くと彼女の目が据わった。
私が辞めるときもこんな目をしていた。こんな目をしている時、いつもの柔らかい感覚は無く、研
ぎ澄まされた”やり手の人物”になるのだ。
論理主観で説き伏せようとする。正直、私が一番苦手とするタイプがそれである
「久しぶりに見てさ、私は思ったのよ。堺くんはやっぱ通用する人材だって」
「・・・中内さん。その話はもう」
「どうして？今のキミは本当にそれで満足している？私にはそうは見えないのよ。それにね、キミ
ほどの人材がこのまま日の当たらないところで腐っていくのは辛・・・」

ハッとして我に帰る。

「ゴメンね。そんな事言うつもりじゃ無かったんだけど・・・」

彼女の気持ちはわかる。
だが私はその期待に答える事は出来ない。
それが自分を貫くという事なのだから、申し訳ないと思ってはいけないのだ。
決意が鈍ればプライドはいつだって、砂山の様に崩壊していく。立て直すには倍以上の決意と時間が
必要なのだから。
だから私は自らの決断とこの生き方を誇りにしていかねばならないのだ。
「生憎ですがね・・・今は専念したい役がありまして」
「役？小劇団かなにか？」
「ま、そのようなものです。世には出ないかもしれませんが」


「勿体無いなぁ・・・堺くんは。でも、キミらしいといえばキミらしいのか」
「すいません」
「いいのよ」
「あと、もうひとつすいません」
「ん？」
「・・・手持ちが無いもので」
そう言って伝票をちらつかせる。
彼女はやれやれというポーズで伝票を預かる。その顔は笑っていた。


今は・・・いや、もうこの役に全てを賭けているんだ。私は


「おっちゃん！どこ行ってたんだよ」
「ん？ルイス・キャロルのおとぎの世界へな」



「はぁ？」

幕間が終わった

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