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高天原・天神嶺コミュの 【 第2ターンリア2・『決戦! 池袋巣鴨プリズン!!』 】

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第2ターンリアクション ・ 2―2           ■ 担当:たつおか ■


『  決戦! 池袋巣鴨プリズン!!  』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――

「キリンジさん、もう一回お願いします。もう一回お願いしますッ」
「ほら、キリンジ。姫様からのご要望だもう一回やれ!」
「仕方のないやつらだな――」
 その場に座り込んで何やらせがむシュラとクアンを前に、キリンジは僅かに両足を開いた姿勢からその下腹部辺りへ両手を添える。
 そして、
「『変身……コン・フージョン! チェンジ・リーバイス』!」
『きゃーッ♪』
 そこから、腰元に変身ベルトがあると想定して、変身ヒーローのポージングを取るキリンジに、シュラとクアンは揃って声を上げた。
「何をやってるんですか、キリンジさんは?」
「仮面ライダー・デニムのリーバイス役をやってもらってるらしいんだなぁ」
 そんな3人を尻目に、タクミはヌコロフとともに夜食の準備を進めるのであった。
 場所は池袋・サンシャイン脇――池袋中央公園。時はすでに24時を回っての頃である。
「昼間にさ、キリンジのおっちゃんが昔出てたって言う映画を見たんだよ。えっと、仮面ライダー・デニム、プリズム……プリズマ?」
「『愛と悲しみの鉄柵〜プリズムプリズン〜』じゃない?」
「そうそう、それ。タッ君に教えてもらったやつ。そしたらそれからずっとあの調子でさ」
「シュラちゃんやクアンちゃんのいた高天原には、映画とか言う文化は無いらしいんだな。だからすごく興味があるって言っていたのよ」
 昼間の、例の乃木崎襲撃事件直前までシュラ・クアンと行動をともにしていたヌコロフとニコは、その映画の内容と二人の喜びようを手短に語った。
 話題の映画は1990年にキリンジが敵役として出演を果たした、特撮ヒーロー物映画である。そのなかでキリンジは『仮面ライダー・リーバイス』役を演じ、その演技に魅せられたシュラとクアンは、すっかり彼の――正確にはリーバイスのファンとなってしまったというわけである。
 そんな映画と、そして出演者(キリンジ)を前にミーハーに喜ぶ二人――
「どんなに強がっていても中身は普通の子供、普通の女の子なんですよね。私達はそれを理解してやらないといけないのかもしれませんね」
 夜食であるラーメンのどんぶりを用意しながら静も感慨深げに頷いてみせる。そんな一同の視線の先には、映画のワンシーンを演じるキリンジの所作にひとつひとつに黄色い声を上げる、何とも楽しそうなシュラとクアンの姿があった。
「おーい、シュラちゃーん、クアンちゃーん、それにリーバイスー。ごはんなのよー」
「『リーバイス』言うな」
「うわぁ、美味しそう♪ なんのラーメンですか、コレ?」
「んふふ、今日は僕がメインで作ったのよ。市販の即席ラーメンに炒め野菜を乗せて、片栗粉でスープにとろみをつけたんだな」
「おっちゃん、説明はいいから早く食べようよ、いただきまーす♪」
 かくして一同は食事を取りながら、今夜の捜索について話し合っていく。
「それはそうと今夜はこれからどうしよう? いちおう噂の心霊現象を頼りに探すにしても、それだけじゃあまりに手がかりがなさ過ぎるよね」
「タクミの言うことにも一理あるな。闇雲に歩き回った所では、いつ遭遇できたものかも判らん。シュラ、ここに私達を導いたのはお前だ。これからの捜索について、何か具体的な案は無いのか?」
 それを訊ねるべくキリンジもシュラとクアンの二人を見るが、
「美味しいですわ! 美味しいですわぁーん♪」
「チュルチュルチュル、姫様、ズルズルズルそんなに急いで食べては噎せまズバズバ……!? ゲホゲホ、鼻に入ったぁ!」
 すっかりヌコロフのラーメンの虜になっている二人には、まったくといって良いほど今の会話は届いてはいなかった。鼻から麺を出して噎せるクアンの背を静が優しくさすってやる。
 やがて一番にラーメンを食べ終えたシュラが、元の高貴で落ち着いた雰囲気を纏い直して、一同の会話に加わる。
「かのヤマタノオロチの分身がここにいることは間違いないのです」
「なぜ、キミにはそれが判る?」
「はい。元よりあの魔人の復活には、かの者に魔力を注ぎ込むべく『巫女』と呼ばれる存在が必要なのです。そしてその巫女こそ、誰でもない私の母である、京帝スオウでした。そのスオウの血を分けた娘である私は、皮肉にもかの魔人の気配を察知することが出来るるようになってしまったのです」
「じゃあさ、シュラさんのその力で分身の詳しい居所はつかめないの?」
「こら、タクミ! 馴れ馴れしいぞ!」
「クアン、落ち着きなさい。――タクミさんの言うことはごもっともです。私もそうしたいのは山々なのですが――私にはただ、かの者が『ここにいるだけ』ということが判るだけで、その詳しい場所までは特定できないのです」
「標的が近すぎてレーダーが用をなさなくなっている、というわけなんだなぁ」
「結局は、地道に歩いて探すしかなさそうですね」
 静の結論に全員がため息をつく。
「やれやれ。じゃ、とりあえずは二手に分かれようか? 編成は――ボキとキリンジ、それからタッ君がこの公園内を。残ったニコと静ちゃん、それからシュラちゃんとクアンちゃん達が1チームになって公園の周囲を捜索するというのはどうなんだな?」
 その提案をヌコロフはする。
 もちろんこの編成には訳がある。
 まずは事前に例の心霊現象と周辺の地理をネットにて調べたというタクミと静をそれぞれのチームのブレインとして置き、その周囲を戦闘要員で固めたことがひとつ。そして目撃情報のある公園内部の探索には戦闘経験豊かな自分とキリンジを配置し、周辺探索にはここ池袋の地理に精通しているニコを当てたというわけであった。
 もっともそれ以外にも、
――うまくやるのよ、ニコ♪
 微妙にクアンに興味を持ち始めているニコを彼女と一緒のチームにしてやろうという心憎い気配りもまた、そこには隠されていたわけでは在るのだが。
「姫様を参加させてしまうことに納得はできないが、固まって行動した方が安全なこともまた確かではあるな。良いだろう。しかしニコと静、私も含むお前達は姫様の安全を第一に考えるのだぞ」
 ともあれチーム分けが決まり、改めて作戦参加に鼻息を荒げるクアン。
「大丈夫ですよ。シュラさんも、そしてクアンさんも私が守ってみせます」
「そーそー。だからクアンももっとリラックスしなよ。安心して背中は任せてってば」
「な、何を言う! 言われるまでも無い。――い、行くぞ!」
「あん、これクアン。先走りすぎですよ、自重なさい」
『守ってやる』と言われたことが嬉しいのか恥ずかしいのか、クアンはシュラの手を取ると一人先に歩き出して行った。
 そんな二人の後を追って探索を開始するニコと静を見送って、
「じゃ、ボキらも始めようか?」
「うむ」
「もしもの時は頼りにしてるからね、キリンジさんもヌコロフも」
 そうしてヌコロフ・キリンジ・タクミチームもまた公園内の探索を開始したのだった。
 そんな探索のスタートにあたり、ヌコロフは取り出した蝋石で公園の石畳に矢印を刻む。
「何をしているのだ、ヌコロフ?」
「ボキ達の進行歩行を定期的にこれで示しておくんだなぁ。そうすれば、いざという時には静ちゃん達もすぐにボキ達と合流できるってわけね」
「探索についてはどうするつもりだ?」
「それにはこれを使うのよ」
 そういってヌコロフは蝋石で矢印を描くついでに、L字型の木の枝を二本拾い上げた。
「ダウジング、ってこと?」
「ピンポ〜ン、タッ君大正解。日帰り火星旅行プレゼントなんだなぁ♪」
「うぅ……すごい疲れそう。でもそれって頼りになるの?」
「任せてほしいんだな」
 タクミと同じ思いで頷くキリンジと彼とを交互に見比べて、ヌコロフは自慢げに胸を張った。
「このダウジングはね、今でも水脈の探知や地雷の撤去に使われる技術なんだな。幽霊が相手っていうのなら、『霊感』には『霊感』で対処するのね。じゃ、行ってみよう♪」
 そう説明はされてもやはり、どこかオカルト染みたそれに対する如何わしさは拭えない。しかしながらその方法以外に頼れるものが無いこともまた確かであった。
 かくしてタクミとキリンジは、ヌコロフのダウジングの後を追って歩き始めた。
「でもさ、ヌコロフってボーっとしてる割にはいろいろと考えて行動してるよね。――ねぇ、ヌコロフって日本来る前には何をしていたの?」
 その探索の途中、ふいにタクミはそんなことを聞いた。
「そういえば、まだ詳しく聞いたことは無かったな」
 それにはキリンジもまた頷く。
 このキリンジと言いタクミと言い、ヌコロフとの付き合いはけっして短くは無いのだ。それにも関わらず、自分達はこのカバのソーショクのことを何一つ知らないでいた。
 その問いを背中に受けてヌコロフは鼻を鳴らすようにため息をつく。そして、
「んふふ、知りたい? ボキはね、ロシアで軍人をしていたのよ」
 振り返ることなくダウジングを続けながらヌコロフはここに来るまでの経緯と、そして自分の半生を話して聞かせた。
 ヌコロフはロシアでも名門と呼ばれる軍人の家系に生まれ育った。幼少からの父の英才教育を受けて育ったヌコロフは、軍人エリートとしてのレールを辿る一方で、その軍隊における自分の在り方に強く疑問と不満も持っていた。
 やがてそんな感情は件の人類獣化と共に解放され、ヌコロフは度を越えたイタズラを上官に対して行うことで、除隊処分を受けてしまう事となる。
 幼き頃より自分を縛り続けてきた軍との決別に一時は喜んだものの、ヌコロフと家名を守るためにその全てを捨てた父の想いに気付き、ヌコロフは激しい後悔を抱く事となった。
 もはや軍に戻ることも叶わず、そして望んでいたはずの自由もまたひどく鬱屈したものである現状にヌコロフは荒れ、そして自暴自棄に陥った。
 そんな時、
「ボキはこの日本における、高天原騒動を知ったんだな」
 件の浮島・高天原の存在は祖国ロシアにおいても、第一級の研究対象として注目されているものであった。もしその情報を持ち帰れたなら――ヌコロフが持ち帰ることが出来たならそれは、必ずや没落してしまった家の汚名を晴らすことになる。
 そう思い続けて、今日のヌコロフが在ったというわけであった。
「そっか――苦労してるんだね、ヌコロフも」
「苦労? とんでもないのね」
 思わず同情するタクミに初めてヌコロフは振り返った。
「全ては自業自得、自分でまいた種なんだな。ならば、そこから生えて出た因果は自分で刈り取って解決しなければいけないのよ。『苦労』だなんて感じること自体、おこがましいことなんだな。それにね――」
「それに?」
「うん、それにね。ボキは今の状況を楽しんでもいるのよ? ここに来てボキは、初めて『友達』が出来たなんだな。タッ君やキリンジ、その他にもいっぱいの人達と出会えて、すごく嬉しくも思っているの」
 その気持ちは本当であった。
「だからこそ頑張れる。チミ達がボキに勇気をくれる。――これ以上に幸せなことなんて、きっと無いと思うんだなぁ」
「ヌコロフ……」
「――フ」
「だからね、ボキのことを『可哀想だ』とか『苦労してる』だとか思わないで。タッ君やキリンジがボキのことを『友達』だと思い続けてくれるのならば、ボキにはつらいことも苦しいこともなんにも無いのよッ、。幸せなんだな♪」
 そんなヌコロフの言葉と笑顔に釣られて、ついキリンジとタクミもまた笑い出していた。
 生まれた場所・時こそは違えども、ここにいる3人は間違いなく『友達』であるのだった。
 そんな時である。
「ん? んんんぅ? この反応は!?」
 突如としてヌコロフの手の中のダウジングが、磁力に吸い寄せられるかのよう同じ方向を向いた。
「どうした、ヌコロフッ?」
「は、反応がおかしいんだな? こっちに強く吸い寄せられるようなのよッ」
「もしかして、もしかしちゃったんじゃ?」
 引き寄せられるかのようヌコロフ達はそのダウジングが示す方向へと進んでいく。
 そして一同が辿り着いた場所は中央公園中頃にある、多段式噴水と杉並木の広場。
 そんな広場の中央に――― 一同は青白く発光する、艶かしき二つの光が宙に浮いているのを発見するのだった。




―――――――――

 ぼんやりと、まるで真綿が宙に浮いているが如き不明瞭な光を発したそれ――その姿は一同が知る怪現象・人魂まさにそれであった。
「で、でたー! 本当にでたぁ!」
「んあー、日本の幽霊は地味に怖いんだなぁ!!」
 その人魂二つを目の当たりにして、タクミとヌコロフの二人はとっさのにキリンジの後ろへと隠れる。
 そんな混乱の頂点にある二人とは別に、
「…………」
 心身ともに、キリンジは一切の乱れを見せることは無かった。ただ直立不動のままに、目の前の人魂それを見据えている。そんなキリンジの泰然とした態度にタクミとヌコロフも頼もしさを覚えていた。覚えていたが……
「あ、あれ? キリンジ? キリンジどうしたんだなッ?」
 あまりにも不動なその様子に異変を感じたヌコロフは、ふとキリンジに声を掛ける。声を掛けるが、キリンジがそれに応えることは無かった。そしてこの時、タクミとヌコロフは新たな事実を知る事となる。

「キリンジさん……気絶してる」
「んあー! こんな時に限ってぇ!!」

 ヌコロフの悲壮な叫び声が公園にこだました。
 しかしその混乱の中でタクミは持ち前の冷静さと観察眼を取り戻しつつあった。
 心霊現象を前に取り乱すヌコロフとキリンジ(彼は乱れてはいないわけだが)を前にして、なんだか恐怖感が和らいでしまったのだった。
「本当に人魂なのか? もしかしたらアレこそ――」
 タクミは真っ向からその人魂二つを見据えた。
 凝視するタクミの視線――そしてタクミがその光の中に『透視』した人魂の正体は、
「勾玉? それにもうひとつは、鏡か?」
 呟く通り、勾玉と鏡の道具二つであった。さらにはそれら道具の中に、なにやら蛇らしき影が揺らめいている様も確認し、
「キリンジさん、それにヌコロフ。あれは幽霊や人魂なんかじゃない。アレこそ――ヤマタノオロチの分身だよッ」
 タクミはそれら二つを、かのヤマタノオロチの分身と確定した。
「――なんだと? あれこそがヤマタノオロチの分身であるのか?」
「んあ? キリンジ、起きたんだな?」
「あぁ。恐怖のあまり失心してしまった」
「『してしまった』じゃないんだな! クールにもほどがあるのよ!」
「しかし霊ではないというのなら、話は別だ。もう怖くない」
 かくして一同はそれらへと近づく。
 間近で見つめるそれらの中には、タクミの言うとおり2種類の道具と、そしてさらにその中でうごめく蛇らしきものの姿が見えた。
「うむ、間違いなさそうだな。して、どうしたものか。とりあえずシュラ達に連絡をするか?」
「壊さなければならな物だと言うなら、今すぐにやっちゃった方がいいと思うんだな。微妙に動いてるし」
 ヌコロフとキリンジは腕組みをして首を捻る。
「タクミは、どう思う? これを第一に見極めたのはキミなのだから、キミの考えなら正しいような気もする」
「うんうん、ボキもそう思うんだな」
「僕? 僕はぁ――」
 その決定権を委ねられ、タクミは改めてそれら光の結晶に目を凝らす。
 そのいつまでも見つめていたくなるような、見つめ続けていたらつい吸い込まれてしまうような美しさのそれに、タクミはどこか空恐ろしい物を感じていた。
 そしてタクミの出した答えは――
「壊しましょう。これには、なんだか人の心を惑わす何かがある。それにそもそも僕達はこれらヤマタノオロチの分身を倒すことが目的な訳ですし、今ここで壊してしまっても問題はないでしょう」
「なるほど。ならば、私もそれ賛成だ」
「ボキも異議はないんだなぁ。じゃあ、壊しちゃいますか」
 タクミの結論に一同は頷く、そうしてそれぞれの手に自身の得物を構えたその時であった。

「そうはさせないわよ」

 突如として、その声が響き渡った。
 高く済んだその声の音――しかしながら、どこか聞き覚えのあるそんな声。
 おそらくは背後から掛けられたであろうそこに一同は振り向く。
 そこにあったものは天に一点を穿ったかのような輝きの満月と――その月の下、階段状噴水の最上段に立った二つの人影であった。
 そしてその人影を見上げ、一同は驚愕する事となる。
 そこにいた者は、
「キミ達は――チハヤさんに、ナユタ君ッ?」
 ワイシャツに黒のスラックス少年と、そして白いワンピースの少女―――タクミの呟く通り、そこにいた者はかの姉弟・チハヤとナユタの二人であった。
「そっかぁ。アンタ達がシュラ様の新たな剣――そしてトキマサを退けた地上人だった、って訳ね」
 どうしてここにと問うよりも先に、チハヤは呟くよう一同に語りかけた。そしてその言葉に彼女達の正体もまた悟る。
「なるほど。キミ達が新たな刺客――」
「ライジンの尖兵だった、ってことなんだなぁ」
「ごめーとー♪」
 そう――二人の言葉の通り彼女たちこそ、このたびのライジンからの刺客であったのだ。
「この池袋の地をさまよっていたのも、僕達と同様にこれを探す為だったのですね」
「そこまで判ってるんだったら話は早いわ。退いてくれないかしら?」
 タクミの問いかけにチハヤも素直に応える。
「正直、地上人って嫌いだったんだけどさ、なんかアンタ達のことは好きなのよアタシ。出来ることなら戦いたくない。そして、そこの物に掛けるアタシ達の気持ちも察してほしい」
「チハヤちゃん――それはね、ボキ達だって同じなんだなぁ」
 チハヤの言葉に、場にいた全員が表情を重くさせた。
 一族の復興をこのヤマタノオロチへと託すライジンと、この星の存続の為にそれを阻止しなければならない地上人――並び添う二つの思惑は、けっして交じり合うことは出来ないのだ。
「あーあ……運命って残酷。ここまで、そのことを考えさせられた初めてよ。――ならばアンタ達、恨みっこは無しよ?」
「判っているさ。それだけが、唯一私達が交わすことの出来る友情の形なのだからな」
「チハヤさん、それにナユタ君――君達とは、こんな形で出会いたくなかった」
 キリンジを先頭に一同はその得物の切っ先を、チハヤ達ライジンへと向ける。
「それは僕だって同じだよ。残念だよ――初めての、地上人の友達だったのに」
「ナユタ――感傷は捨てなさい。この人達は多勢に無勢とはいえ、あのトキマサを退けた連中よ。油断しようものなら、足元すくわれるだけじゃ済まない相手なんだから」
「判ってるよチハヤ………判ってる……わかっ、て――」
 次の瞬間、ナユタに変化が現れた。
「オ、オオオオッッ、オォ……ウッォォォオオオンン……ッッ!」
 前身を前のめりに倒し、大きくうめきを上げたかと思うと――纏っていたワイシャツを突き破り、その小さな背から肩甲骨が肉を裂いて外に飛び出す。
 変化はそれだけではない。膝や肘を始めとする各関節部からも同様に血飛沫を上げて白骨が突出したかと思うと瞬く間にそれら骨格には筋繊維がまとわりつき、そして数度の瞬きの後には――
『カロロロロロゥ……ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
 その身の丈5メートルはくだらない巨大な虎の獣人が、天に向かってその咆哮を上げるのだった。
 さらにはその虎の黒地の縞に炎が宿り、ナユタはその変身を完全に遂げる。
「これは――そうか、怪現象にあった『全身を炎に包んだ人影』っていうのは君のことだったんだね、ナユタ君」
 そんなナユタを前にタクミは今回の怪現象の仕組みを全て悟る。
 先にも述べたよう『全身を炎に包んだ人影が跡地公園を歩く』現象は、この完全体・ナユタが深夜にヤマタノオロチの分身を探して徘徊していたこと――そして『ワンピース姿の少女がビルから飛び降りる』は、チハヤが上空から同じくかの分身を探していたことであったのだ。
「うえー、いつ見てもアンタの変身ってキモいわね。ナユタ、アタシも準備するわよ」
『ゴオオオオオオォ!』
 チハヤに応えるようナユタは、その炎を宿した右腕を旋回させ、宙に炎の輪を描き出す。
 それを前に空へ飛翔し、そこから凄まじい速度で急降下しながらその中を潜り抜けるチハヤ。その体が獄炎に纏われるがしかし―――その炎を振り払いそこから現れたものは、
「どうかしら、惚れ直した?」
 その全体を彩る紅の隈取と、クアン同様に袖無しの羽織袴に身を包むライジン・チハヤの姿であった。
「遊ぶ気は無いわ。ソッコーで終わらせるよ! ナユタ!」
 呟くや否やチハヤは数度両翼を羽ばたかせると、地上スレスレの低空飛行でキリンジへと迫った。
 それを前に突きを繰り出すキリンジの突きと特攻を掛けるチハヤとが高速で交差する。
「――ッ、ぬぅ!」
 次の瞬間には、キリンジの肩が裂けその鮮血が月光の下に弧を描いた。
「き、キリンジぃ! 大丈夫なんだな?」
「かすり傷だ。しかし気をつけろ、尋常なスピードではないぞ!」
「第二陣、来ます! ナユタ君です!」
 タクミの声に一同は視線を上げる。
 矢継ぎ早、チハヤに続いてこちらへと疾走してくるナユタの姿が見えた。
 四足に構え地を蹴るナユタ。その速度もまた素早いものながら、先のチハヤほどではない。
 一同は散開してそのタックルを交わすと、
「とりあえずこの子からやっつけるんだな! みんな、攻撃を合わせて!!」
「ゴメン、ナユタ君!」
 3人は三方向から一同に、かのナユタへと攻撃を集中させた。――がしかし!
『ウォォオオオオオオオオオオォォォンンッッ!!』
「な、なんだと!? ぬうぅ!」
 さながら大型車両の高圧縮タイヤでも打ったかのごとき手応えとともに、三人の攻撃は弾き返されていた。
「じ、尋常な耐久力じゃありませんよ、ナユタ君!」
「しまった、体制が崩れたのね!」
 思いも寄らぬナユタの屈強な肉体と、そしてタックルの余波に弾かれて3人はそれぞれにバランスを崩す。
 当然のようそれをチハヤが逃すはずは無い。
「チャ〜ンス到来! 3人揃って貫いてあげるわ!! ナユタぁ!」
『ゥォオオオオオオオオオオオオオオ!!』
 そして地からナユタ、空からはチハヤの攻撃が一同を捕らえようとしたその刹那――


「こんにゃろー! ライダーキーック!!」
「えっ!? うわわ!」


 チハヤと交差するよう飛び出した何者かの蹴りがその背を、
「させません! せいッ!」
『ウッ! ギャオオオオオオンン!!』
 そして地上のナユタへはまた別な人影がその左目へと剣撃の突きを放っていた。
 思わぬ闖入者の出現に今度はチハヤとナユタが体制を崩し、そこから飛び退る。
「な、何者よ? 一番カッコいいタイミングで飛び出してきたのは!?」
 そうして一同の視線が注目するそこには――
「大丈夫か、タッ君? それにおっちゃん達」
「遅れてスイマセン!」
 誰でもないニコと静の姿があった。




―――――――――

 参戦したニコと静に続き、
「大丈夫かぁ、お前たち!」
 クアンとシュラもまた戦線に駆けつけた。
 そうして前方にいるチハヤとナユタを発見すると、その二人の姿にクアンは息を呑む。
「ち、チハヤ! それにナユタも! お前達もまた、我らの追っ手に遣わされていたのか!」
「見たところライジンの方のようですけど、知っているんですかクアンさん」
 静の問いにクアンは小さく頷く。
「先のトキマサと同じ、京帝直属の守護部隊――森羅万衆・風のチハヤと、炎のナユタの二人だ」
「あらあら、クアンじゃないの。久しぶりー♪」
『グッ……グオォ!』
 一方では、そんなクアンとシュラの姿を見つけてノーテンキに手を振ってみせるチハヤと、臣が主にするかのごとく方膝を地に着けて深々と礼を尽くす姿勢をとるナユタ。
「それから姫様もご機嫌麗しゅう。――良い剣達をお集めになられましたね」
「口を慎みなさいチハヤ、私を誰だと思っています」
「おー、怖ッ。――もちろん京帝が第一子シュラ様と判ってのことです。それ故にアタクシからも警告させていただきます。今すぐお戯れを止し、天神嶺へお戻りいただけますように」
「それは出来ない相談ですね」
 女同士の、平静ながらもどこか一触即発の気配を孕んだ緊張感が場に満ちる。
「ま、判ってましたけどね、そのお答えは。アタシ達も力づくであなた様を迎えに来るよう言われてる訳ですし」
「…………」
「でも、アタシが言うのもなんですけど早く帰った方が良いんじゃないですか? ――トキマサも寂しがってましたよ」
「ッ――! お黙りなさい!」
 どこか冗談めかして囁かれたチハヤの軽口に、シュラは彼女らしくもなくその声を荒げて恫喝した。
「私の今の行動も、そしてトキマサもあなたには関係のないこと! それ以上の愚弄は許しませんよ!」
「こちらも許してもらおうとは思ってませんよ。でなければ、こんなにも無礼にあなたを連れ戻すだなんて出来ませんからね。――問答無用で、力づくで行かせてもらいます」
 そんなシュラの恫喝を受けてもクアンは怯むことなく、むしろそれ以上の眼力を持って彼女を見据えた。クアンとて森羅万衆の名の元遣わされた一将である。子供の使いで来ている訳ではないのだ。
「おら、ナユタ! いつまで跪いてんのよ! 向こうは敵なんだからね、自分の任務果たしなさいよ!」
『グ、グォオウ……』
 そしてチハヤに蹴られて渋々立ち上がるナユタ。
 そんな二人が再び構えを取る様に、
「クアン、キミはシュラを連れて下がれ。ここは私達がどうにかする」
「頼む、キリンジ。さぁ、姫様こちらへ」
「…………」
 一同もクアンとシュラが戦線離脱するのを確認して自分の得物を握りなおす。
 そうして改めて対峙を果たし、
「チハヤ……まさかお前がライジンだったなんて」
「――アタシだって残念なんだよ、ニコ君」
「ナユタ君――あなたナユタ君なの? どうして?」
『グ、グウウウウ……ッ』
 それぞれは複雑な胸の内を吐露していた。
 ナユタとてその本心では戦いたくない。身分違いとはいえ、地上人である静に想いを寄せつつあったナユタにとっての悲しみは誰よりも深く、そして複雑なものであった。
 しかし自分もライジン族――ましてや炎の守護の長として高天原を守る以上、斯様な感傷に捕らわれているわけにはいかない。そのような自分など在ってはならないのだ。
 だからこそそんな未練を振り払うかのよう、そして再戦の狼煙とばかりに――
『ルゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
 ナユタは吼え、一同目掛けて地を蹴った。
「ナユタ君――ならば、なんとして止めてみせるよ! 私は!」
 そんな彼を前に静も覚悟を決める。
「あの二人をタッグにしてちゃ堪らないのね。チハヤちゃんはボキが引き付けるんだな!」
「ヌコロフのおっちゃん、俺も手伝う!」
 チハヤの誘導に躍り出るヌコロフにニコが続く。
 かくて再戦の火蓋は切って落とされた。
「静さん、気をつけて。ナユタ君の頑丈さはハンパじゃないよ!」
「そ、そんなに硬くてたくましいんですか!?」
「何やら卑猥だな、その言い方は。ともあれ、タクミの言う通り生半な攻撃では歯も立たない。私とヌコロフ、そしてタクミを加えた同時攻撃でも傷を負わせられなかったほどだからな」
「そ、そんな! キリンジさんの力で傷がつけられないだなんて!」
「それに加えて、あの体に纏っている炎もまたクセ者だ。あの体で攻撃をなされては、ガードをしていてもその上から焼かれてしまう」
 まさに付け入る隙の見当たらぬナユタを前にキリンジと静はため息を重ね合わせた。森羅万衆の名は伊達ではない。
 そんな二人を前に、
「あの炎なら、僕が何とかします」
 その先へ一歩踏み出しながら申し出たのは、誰でもないタクミであった。
「『倒すこと』は出来ないかもしれませんが、あの『炎を消す』くらいならば出来るかもしれません。――サポートをお願いします」
 かくしてナユタの前へと立ちふさがるタクミ。
 そんな標的が目の前に現れたことに、ナユタは渾身の力で振り上げた拳をそこへ打ち落とす。
 それをかわしながら、
「ナユタ君、どこを狙ってるの? こっちだよ、こっち♪」
 タクミは挑発するようにナユタへと両手を打ち鳴らした。
『グ、グアオゥ!!』
 そんな挑発に乗せられてかナユタはタクミを追いかけると、次から次へとその拳を振り落とす。
――もう少し、もう少しこっちに来てナユタ君。そうすれば……
 やがてタクミは階段状の噴水前まで追い詰められた。
 背には噴水の絶壁、そして前にはナユタと完全に逃げ道を失うタクミ。
 そんな窮地の中において、
「いまだ、バブルストーム!!」
 タクミは背後の噴水から発生させた無数の水泡を、半ば苦し紛れにナユタへと撃ち放った。
『グウッ、グウウッッ!!』
 その攻撃に、たちどころにナユタの周囲はシャボン玉の如き水泡に包み込まれ、その瞬間にタクミを見失う。
 しかしながらその程度の攻撃ではダメージは無い。ナユタはそれらシャボン玉を振り払うと、その視界の中に見失ってしまったタクミを探しだす。
 そして水中を泳ぐかのごとく、幾度目かの薙ぎ払いで水泡の隙間にタクミを発見すると――すかさずナユタは、そこへと渾身の右拳を打ち放った。
「た、タッ君!」
「タクミ!!」
 その様子を見守っていた静とキリンジからも声が漏れる。そしてナユタの一撃が正面からタクミを捕らえたと思ったその瞬間――
『グッ、グゥオ!?』
 かの右拳を受け止めたタクミは、まるでシャボン玉が消えるが如く、弾けてそこから消えてしまった。
 そうして弾けて消えたタクミを探してナユタはシャボン玉の空間を必死に見渡す。周りに満ちるシャボン玉には無数のタクミが写ってナユタを取り囲んでいた。
『さぁ、見極められるかなナユタ君? このバブルストームの幻影を』
『グアオ! グアッ、グオオォッ!』
 何処からか響いてくるタクミの声にナユタは手当たり次第に周囲のシャボン玉を弾いていく。しかしそれらも全ては徒労――ナユタにはこのバブルストームを見抜ける“目”は無い。
『ならば、終わらせてもらうよナユタ君。覚悟はいいかい?』
『グ、グゥウウウ……』
 その言葉を最後に、シャボン玉の中のタクミ全てはナユタへと両掌を突き出す姿勢をとる。そして次の瞬間、
『いっけぇ―――ッッ!!』
『グゥッ? グギャアアアオオオオオォォォ!!』
 シャボン玉の彼方から打ち放たれた超高圧の水鉄砲が、その正面からナユタを捉えた。
 反属性による攻撃の効果は絶大である。その一撃を受けナユタはその場にもんどりうつと同時、全身を包んでいた炎もまたすっかり鎮火させられてしまった。
「OKです! キリンジさん、静さん! トドメを!!」
 やがてシャボン玉が晴れ、元の空間に戻る場。かのダメージにふらつきながら立ち上がってくるナユタを前に今度は静とキリンジが立ちはだかる。
 そうして再び対峙しながらもしかし、
――『炎』は解消された。しかし問題はもうひとつ残っている。
 キリンジは考えあぐねていた。
 そう、炎は消えたとはいえあの頑強な肉体はまだ残っているのだ。生半な攻撃ではダメージは通らない。
――どうにか『脱力』させることが出来れば、私達の攻撃も通すことが出来るのだが……何
  か手段は無いものか?
 そう考えたその時であった。
 傍らで正面中段に構えを取る静を見たキリンジの脳裏に、『ある作戦』が浮かんだ。
「いけるか? ――いや、もはやこれしか手段は無い。静!」
 キリンジは静を呼ぶ。
「静、これからキミに協力してもらいある作戦を実行する。それでナユタに隙が出来るようならば、すぐさま切り込んでもらいたい」
「さ、作戦? わ、判りました。でも、私は何をすれば?」
「キミに特に難しい指示は無い。そうだな……ならば、ちょっと上段に構えてもらえるか?」
 言われるままに静は握り締めた木刀を振り上げ、さながらバンザイをするかのように構える。
 そんな静の背後に回りこむと、
「ナユタ! こっちを見ろ!!」
 キリンジは声の限りにナユタを呼び、その意識を自分に――静に集中させる。
『グゥ?』
 そしてそれにナユタが応え、その視線が静を捕らえた次の瞬間――
「いくぞ、ナユタ!! とくと拝むがいい!!」

 その掛け声とともに―――キリンジは静の制服の裾を一気にまくり上げ、その豊満な乳房二つをナユタの前にさらけ出した。

 キリンジの行為に場にいた全員の時が止まった。
 そんな静止した世界の中でただ、たわわに実った静の乳房だけがその反動に大きく弾んで上下する。
 さながら開花したばかりの桜のよう淡いピンクの色素を沈着させた乳首と、豊満ながらもツンと上を向いた形の良い乳房は見る者の殺伐とした心を癒してならない(男性限定ではあるが)。
 そしてそんな乳房の動きが止まり、そこからさらに一動作を置いてから――
「……き、キャアアアアアアァァァァァァァ!!」
 静の叫び声が中央公園にこだました。
 そしてその間髪を逃さず、
「静、いまだ! ナユタに打ち込め!!」
「静さん! はやく!!」
「えッ? え、えええッッ!?」
 そんな自分の声を上回るキリンジとタクミの叫(こえ)に、静は背を押される。
 その勢いとそしてそんな場の雰囲気に流されて、はだけた胸元も直さずに地を蹴る静。
『―――ッ? ウギャオオオォォォウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!』
 そして先の静のポロリにすっかり呆然自失となってしまっていたナユタの喉仏にキリンジの突きが――そしてその股間には、さながらゴルフのフルスイングのよう上段から半円を描いて振り切られた静の一撃が渾身の力を以て打ち込まれた。
『ッ……! オッ……オウゥ』
 完全に脱力しきっていたその二点への同時急所攻撃に、ナユタは仰向けに倒れ込む。倒れこむと同時にその体は、関節を鳴らすかのごとき軽快な破裂音を響かせながら――元の少年・ナユタの姿へと縮んでいった。
 そんなナユタを見下ろし、完全勝利を確認する一同。
「静さん、ナイス脱力(オッパイ)!」
「良い脱力(オッパイ)だったぞ、静」
「もぉー、オッパイおっぱい言わないでください!!」
 そうして掛けられる二人の掛け声に改めて静もまた、その悲鳴を公園にこだまさせるのであった。



―――――――――

 一方舞台は変わって、チハヤ VS ヌコロフ・ニコの一場面。
「ヌコロフぅ、ブぅぅーメラン!!」
「いっくぞー、せいせいせい!!」
 地上から繰り出されるニコの連撃に対し、それをサポートするかのようヌコロフのブーメランがチハヤへと投擲される。
「いい動きしてるじゃないアンタら。地上人にしておくにはもったいないくらいよ」
 繰り出されるニコの長竿を受け流し、ヌコロフのブーメロンもかわすと、チハヤはその宙で反転し両翼を大きく広げる。
「ならばコレはかわせ切れるかしら? 受けろ、天雹刃!」
 そして風を吹き起こすかのごとくその両翼を内へ交差させた次の瞬間――そこから放たれた無数の羽根は、さながら手裏剣となって地上の二人へと降り注いだ。
「わ、わ、わ、のわぁー!」
「ッ、おっちゃん!」
 その風圧と羽根手裏剣の直撃を受けてヌコロフが尻餅をつく。そんな様子にその一瞬注意を奪われたニコへと、
「よそ見してる場合じゃないでしょ、ニコくぅーん!!」
 両足のワシ爪を下に、大鷲が地上の得物を狩り取るが如きシルエットでチハヤはニコを強襲した。
「ウワッ――くうぅ!」
「ふふふ……やるじゃない♪」
 寸でのところで長竿を構え、辛うじてその一撃を受けるニコ。
 しかし宙からニコを捉えるチハヤの力は緩まない。強襲を受け止められていながらもなお、両爪はその下にいるニコの頭を抉り取ろうと、凄まじい力でニコを押し潰し始めた。
「ほらほら、そのかわいいお目々もらっちゃうわよぉ?」
「ッ……うぅ!」
 細身のチハヤからは信じられないくらいの力に徐々にそのガードは下がり、キリのように鋭いその爪がニコの眼前へと迫ったその時であった。
「ど、どうして……ッ!」
 ニコは呻くように、呟くようにチハヤへと語りかける。
「チハヤッ! なんで、なんでオレ達は戦わなきゃなきゃならいんだよ!!」
「ニコ君――」
 次いで叫ぶよう掛けられたその言葉に、嬉々として戦いに挑んでいたチハヤの表情に僅かな影が差した。
「仕方ない……仕方ないのよ。だって私はライジンで、あなたは地上人じゃないの」
「ッ…………」
「ニコ君、これが現実なの。アタシ達は戦わなきゃならないのよ。それを否定するってことは、自分の運命から逃げることに他ならないのよ!」
 今回の戦いにおいて、初めてチハヤは悲痛なその面持ちを見せた。
 そんな彼女の表情を前に、ニコは大きく鼻から息を噴出す。
 そして次の瞬間――

「……ならば、そんな運命はクソっくらえだ!」

 空から押さえつけるチハヤを、地上から受けるニコが力強く押し返す。
「そんな運命、オレが残らず壊してやる」
 思わぬチハヤの表情に、ニコの中にある“男”が目を覚ました。その内に流れる血潮がたぎり、体中には今までに感じたことも無いほどの力が漲っていた。
「悲しみも、種族の壁も、そしてこの戦争も、残らずオレが壊してみんなを助けるんだ! クアンや静ねーちゃんや、そしてチハヤ――お前を助けてやるんだ!」
「ッ――ニコ君」
 次の瞬間その声とともに跳ね上げられたニコの両腕は、そこに宿っていたチハヤを空高く弾き飛ばしていた。
 その一時、宙でバランスの崩れたチハヤへと、
「今度はこっちにチャンス到来なんだな! 受けてみろぉ!!」
 いつの間にか立ち上がったヌコロフのブーメランが投擲される。
 しかしながらそこは森羅万衆――すぐさまその体制を整えると、すぐにそのブーメランを弾き飛ばす。
「その程度の攻撃当たると思って? アンタ如きノロマのカバに落とされるほど落ちぶれちゃいないわ!!」
 完全にヌコロフの攻撃をしのいだと高をくくったその時であった。
「えッ――グウゥ! そ、そんな……!?」
 そのブーメランに次いでヌコロフから投げ放たれた、なにか『飛び道具』にチハヤはその両翼を貫かれていた。
「誰しもね、『自分のこと』というのが、一番気付かないもんなんだなぁ」
 そんなヌコロフの言葉と、そして彼が投げ放った飛び道具の正体を知ってチハヤはヌコロフの思惑を知る事となる。
「こ、これはアタシの羽根! アンタ、さっき転んだ時にこれを……!?」
「んふふ、そうなのよ。『やられたふりをして』、拾い集めたんだなぁ♪」
 先のチハヤによる攻撃を目の当たりにしたヌコロフは、この時すでにその羽根手裏剣が自分の武器として使えないかどうかに考えをめぐらせていた。
 そしてそれが活用できるものと判断するや否や、その攻撃に沈んだふりをしてかの手裏剣を拾い集めたのであった。
――『ノロマ』どころじゃない! このカバこそが、もっとも注意を払わなければならない
   相手だったんだ。
 それに気付いた時には、すでに後の祭りであった。自慢の羽根手裏剣で貫かれたチハヤの翼はもう、今の戦闘には耐えられない状態となっていた。
 そしてこの戦いに終止符を打つべく、
「決めるんだなぁ、ニコ! ぶち壊せぇぇぇ!!」
「OK、おっちゃん!
 二コロフの背を踏み台に宙へ躍り上がるニコ――そしてそこから振り落とされた一撃は、
「だッりゃあああああああああああぁぁ!!」
「グッ、うわああぁぁぁぁぁあッッ!!」
 深々とチハヤの体を捉えていた。
 胸元を左袈裟に打ち払われ、チハヤは地へときりもみに落下していく。
 そして誰もが地に叩きつけられるチハヤを予想した瞬間――彼女は両翼を広げると、寸でのところで宙に留まり、さらに再び空へと舞い上がった。
「ハァハァ……お見事、二人とも。こりゃ、トキマサもやられるわけだ」
 せき込みながら、チハヤは素直に地上の二人を称えた。
 そしてそれと時を同じくして――
『ウギャオオオォォォウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!』
 分かれて戦っていたナユタの断末魔も聞きつけ、チハヤは小さくため息もつく。
「向こうもやられたか。はぁーあ……ダメね、今日はもう」
 そうして空から二人に一瞥くれると、チハヤは戦線を離脱して、かのヤマタノオロチの分身二つへと迫る。
「作戦は失敗――ならば、せめてこれだけでも!」
 そして分身のうち勾玉の人魂をワシ掴むと、チハヤは体全体を捻らせそこから力の限りに、かの分身を東の空の果てに投げ飛ばした。
「壊されるくらいなら、逃がす! ……ま、1個はアンタ達にあげるわ。負けちゃったしね」
「ち、チハヤ……」
 苦笑いげに見下ろすチハヤとニコとの視線が絡み合う。
「ニコ君。アンタさっき、『悲しみは残らず壊す』って言ったよね?」
「え――あ、うんッ」
 

「ならばこの“運命”、君がぶち壊して見せてよ。そして早くみんなを救ってちょうだい。もちろんイの一番にはこのアタシをね♪」


 突然の思わぬ語り掛けに呆気へとられるニコを前にチハヤは大きく笑って見せた。
 そして次の瞬間にはニコ達の元を離脱したかと思うと、
「ほら、ナユタ! いつまで寝てんのよ! 帰るわよ、この役立たず!」
「う、うう〜ん……オッパイ、オッパイがぁ……」
 隣の戦場でタクミ達と死闘を繰り広げたナユタを回収して、彼女は再び空へと舞い上がった。
「またいつか会いましょう、アンタ達。それまでツマンナイ奴らにやられるんじゃないわよ? 特にあのコーモリ野郎にはね。――じゃあね♪」
 そうして言いたいことだけ言ったかと思うと――次の瞬間にはチハヤは宵闇の彼方へと消えていった。
 再び静寂を取り戻す公園。
 かくして一同は辛勝ながらも、対高天原二戦目を勝利で飾ったのであった。




―――――――――

「去ったか。――終わったな」
「今日は、いつも以上に疲れましたね」
 キリンジの呟きに傍らの静も大きくため息をついた。
 ともあれ一同は勝利し、ひとつは逃してしまったものの、かのヤマタノオロチの分身も手中に収めることが出来たのである。上々であろう。
「――で、これはこの後どうすればいいんですか?」
 そうして一同は、改めて問題の分身それを囲みながら首を捻る。
 そんな問いに応えるよう、
「それはすぐに打ち壊してしまってください」
 その場へとシュラとクアンもまた歩みを進めた。
「この光の中に蛇の姿が見えますでしょう? これこそがヤマタノオロチそのものなのです。あいにくこれはまだほとんど力を取り戻していないようですが、これが他の生命体を吸収し成長を続けるとやがては――」
「や、やがては?」
「やがて本来の力を取り戻し、自立して破壊活動を繰り返す魔人へと覚醒を果たすことでしょう」
「でも、壊すにしてもどうすればいいんだなぁ? 何か特別な儀式とかが必要とかではないの?」
 当然と思えるヌコロフの問いにシュラも小さく笑みを返す。
「そのようなことは必要ありません。触れば判ることですが、これは実体を持っています。外からなにか強い衝撃を与えれば、それだけでこれは壊すことが出来ます。ならば――ヌコロフさんがその役を果たしてくれませんか?」
「ボ、ボキがぁ!?」
 突然のその指名にヌコロフは両肩を跳ね上がらせる。そしてそんなシュラの指名を後ろ押しするよう、
「あぁ、それがいいよ。ヌコロフのおっちゃん、ガツンとやっちゃって」
「うんうん。名誉なことだよ、ヌコロフ。やったね♪」
 一同もヌコロフにそれを勧める。
 ここに集まっているみんなはその実、この得体の知れない物体に触れることにためらいがあった。なんというか――ヘタに触ったら呪われてしまいそうな印象を持っていたのだ。
 そしてそれは当然のようにヌコロフも同じことで……
「い、いやなんだな! 何でボキがやらなくちゃいけないのよッ? もう、絶対やらないなのね。ボキは何があっても、その役目はやらないんだなぁ! あー、やらないんだなぁ!」
 激しく頭(こうべ)を振ると、ヌコロフは腕組みをして意固地にそれを拒んだ。
 そんなヌコロフを前に――
「そうか。じゃあ私がやろう」
 キリンジが挙手をして前に出る。そんなキリンジを見つけて、
「いや、キリンジさん。僕がやりますよ」
 続いてタクミが前に出て、
「いやいや、オレがやるって」
「いやいやいや、私が私が」
 ついにはニコと静も挙手してその権利を求める様に、ヌコロフも何やら取り残されたような疎外感を感じて途端不安になる。
「じゃ、じゃあボキもやろうかなぁー……」
 そしておずおずと自分もまた名乗りを上げた瞬間、

『どうぞどうぞ』

 それまで挙手していた一同は、まさにその手の平を返してヌコロフにその役割を押し付けた。
「んあー!? チクショウ、ハメやがったんだなぁ!」
 その仕打ちを前に、脱いだTシャツを地に叩きつけて憤慨するヌコロフ。………しかしながら、実は嬉しかったりもする。ここまでの展開が『おいしく』て。
 ともあれ、かの分身を前にヌコロフは得物のブーメランを構える。
「恨みは無いけど、ボキもこの地球を守りたいんだなぁ。恨まないで成仏してちょうだい!」
 そしてその手から放たれたブーメランがそれを貫いた瞬間―――砕けたヤマタノオロチの分身は激しく四散して、さながら雪を思わせるかのごとく青く光り輝くその破片を一同の上に降り注がせるのであった。
「キレイ……こんなにもキレイな結晶が世界を滅ぼそうとするほどの魔人だなんて」
「その美しさが人を惑わし、そしてその力が人を狂わせるのですよ」
 この光景に呟く静へとシュラもどこか重い口調で答えてため息を重ねた。
「ともあれ、これで残りは3つ。残りもどうか頼む、力を貸してくれ」
 その分身の処理を終えて、改めて頭を下げるクアンに一同も大きく頷く。
「今さらそんなこと言わないでよ。仲間だろ、オレ達?」
「そうだよ。これで僕達はもう切っても切り離せない仲になったんだ。ならば最後まで一緒に行こうね、クアンさん」
「お、お前らぁ……」
 掛けられるニコとタクミの言葉、そして向けられる一同の笑顔にクアンは顔を背けてその目頭を擦る。
 そして振り返るクアン――その顔に、

「当たり前だッ。勝手にいなくなったら、許さないんだからな!」

 そんなの彼女の顔に今までで一番の笑顔を見つけて、一同もまた、笑ってみせるのだった。
 かくして解決した『池袋・怪現象事件』―― 一同は次なるステージへと、激化するさらなる戦いの場へと歩を進めていく。




            ※          ※          ※



 2000年9月4日・AM3:00―――池袋中央公園に渉里真夏軍曹はいた。
 歩みを進めるたびになびくその白の毛並みは月光を反射(かえ)して煌き、まるで夜闇に星の粉を振り撒くが如くである。
 昼の騒動から数時間――乃木崎より一同の追跡を託されたマナは、独自の調査からここに彼らがいたことを突き止め足を運んでいた。
 すでに公園内に人影は無く、すれ違いで一同には逃げられてしまったようであったが、たかだか数時間の探索でここまで辿り着いたマナの手腕は見事といえた。
 やがてかの公園の中央、杉並木の広場まで進み、彼女は歩みを止めた。
 まつげの長い切れ長の瞳でその場の見渡す。
 所々えぐれた地表と、そして多くの木々に残された衝撃痕――ここで何者かによる戦闘が行われたことをマナは察する。
 そうして再び歩を進めるマナは、地面に突き立ったとある物を発見してそれを手に取る。
 それは羽根――金色の輝くを返す羽根であった。さらにはその周辺に散らばる毛玉を拾い上げ、マナはそれを月光に透かす。
「――金色の羽根は、かのクチバシの少女のもの。そしてチェスナットの毛綿はあの少年、香月 仁冴のもの。足跡から推測するに、かのヌコロフもいたものと思われる」
 呟き、それら拾得物をジッパー付きの小さなビニールにいれるとマナは丁寧にそれを内ポケットにしまう。
 さらにはそこから数メートル進んだ噴水跡地にて、
「噴水の一部が破壊されているのを発見。水辺での戦闘は稲田 匠によるもの、そして境 麒麟児ともう一人――おそらくは中肉中背の少女と思しき人物が、ここで何者かと交戦を果たした模様」
 その噴水と、そしてその周囲に散らばる足跡からそこで行われた戦いを推測し、マナは空を見上げた。
 空の月の輪郭と、そして見上げる瞳の赤き瞳孔とがぴたりと重なる。そうして月を見上げたままのマナの姿はまるで、ここでの騒動を月に訊ねているかのようであった。
 やがて、
「身体データ・戦闘スタイル――全て分析終了」
 見上げていた視線を下ろすとマナは再び歩き出す。
「継続して、捜索活動を続ける。」
 やがてはそんなマナの姿もこの公園から消えた。
 そして誰もいなくなった公園にはただ、月ばかりが残されるばかり。
 彼ら一同の行方とここで戦ったライジンの思惑、そしてそれを追うマナの真意―――


 それら全てを知るのはただ、今宵夜空に輝くこの月ばかりであった。
 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【 マスターより 】
 第2回リアはいかがだったでしょうか?
 次回は『 完全戦闘メインシナリオ 』となります。その為サブアクションは存在せず、二つある行動選択肢のいずれか一つのみを選択していただく形となります。二つの作戦への同時参加は出来ませんので、どうかご注意ください。

 第3回の皆さんのアクションも楽しみにしております〜♪


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