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魔境の森の旅人コミュのAct13:長い・・・・・・、長い夜 (2-3(1/2))

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 俺とデュークはお弟子さんに連れられて、診療所の一室に通された。
 部屋の中は寝台と棚、それに小さい机と椅子が二つ。そういや、ディーノさんの家もこんな感じだったかな。

「ここと左隣の部屋を自由に使ってください。僕達は診療室に一番近い部屋にいますから。入り口に『宿直室』って書いた看板が掛けてありますから、すぐに分かると思います」
 よくよく見てみれば、部屋には寝台が一つしかない。つまり、一人一部屋借りられるって事か。これまではずっと二人で一部屋使ってきたことを考えると、かなりぜいたくだなぁ。

「よーしザガル!どっちの部屋がいい?」
「どっち?って・・・どっちも同じじゃないのか?」
「まあそうだけどさ。建物の出口に近いか遠いか、ってところか?」
「ケンカする前に、お前が好きな方を選べよ。俺はお前が選ばなかった方にするから」
「・・・・・・・・・・・・・・・んじゃ、ここを使うかな」

 デュークはそれなりに考えた後、床を指差した。それだけでも十分、『この部屋がいい』という事が伝わってきた。

「それじゃあ俺は、隣に行くよ」
 俺はよいしょと荷物を担ぐと、そこの部屋を出た。

 一様、一番の貴重品と呼べる数十万の所持金は俺が管理している。理由は・・・まあ、『元々の所持者だから』ということ。なんにせよ、事故―――大抵は盗難―――が起きないよう厳重に管理しておかないといけない。これはこれで、かなり重要で責任が圧し掛かる役目だ。それに・・・今、俺達は仕事をしてない。それに伴って収入源がまったくないという事になるけど、実は・・・エヴァーランもお金を持っていたりする。全部が全部で必ず持っているという訳じゃないし、持っている金額もまちまちだけど、俺達にもこれから先何が起こるか分からない。だから戴けるものは出来る限り戴こう、という事で、俺達は遠慮無しに倒したエヴァーランから銅貨や銀貨をもらっている。ごく稀に、金貨が出てきた・・・・・・何てことも、もしかしたらこの先あるかもしれないね。

「そうだザガル、オレはこれからさっきの見張りの『お兄さん達』に会いに行ってくるから。まあなんにも起こらないとは思うけど、もしそういう事になったらそん時はヨロシク!」
 デュークはそう言うと、間髪入れずに部屋を飛び出ていく。
 ――――っつたく、勝手にあっちこっちほっつき歩きやがって。

 なんて・・・そんな事言えるはずもないから、俺はさっさと隣の部屋に入っていった。机の上に荷物を置くと番兵服を脱ぎ、持って来ていた普段着に着替えると寝台の上に倒れ込んだ。

「んーーーっ、なんだかとっても気持ち良いなぁ」
 靴を脱き捨て、髪の紐も解く。俺は思わず、枕を力一杯抱き締める。

 ――――今日はもう、さっさと寝ちゃおうかな。
 そんな事を考えながら、ベッドの上でごろごろしてた。
 と・・・・・・・・・コンコンコン。

 あれ?扉を叩く音が聞こえる。誰かな?

「はい、どうぞ?開いてますよ〜」
 俺は適当に応対した。扉が開き、外から誰かが入ってきた。

「ザガル・・・もしかして、もう寝るつもりだったの?」
「あ、ハリーじゃないか。どうかした?」
「ううん、別に。たださ、ちょっといろいろと話したい事とかあったから・・・」
 ハリーは、入っていいかどうか迷っている。俺は起き上がると、手招きをした。彼は部屋に入ってこっちに寄ってきて、靴を脱ぐと寝台の上に乗っかかった。

「今日は、すっごく疲れた。探求って、すっごく大変なんだね」
 ふと俺は、こんな事を呟いていた。

「分かるよ、その気持ち。おれも最初は、そうだったよ」
「そっか。やっぱり誰でも、そう感じるのかな。そうだといいんだけどな・・・」
「何日も歩き通しだったりすると、足の裏に豆ができたりとかするからね。気を付けないといけないよ」
 さすがはハリー、色んな事をよく知っている。

「俺にとっちゃ、君は頼りがいのあるいい友達だよ。でも・・・次の園に行ったら、それから先はデュークと二人でなんとかしていかないといけないんだなぁ。ちょっと・・・大変かも」
 その言葉に、ハリーは表情を曇らせた。

「あ・・・ごめん、ハリー。俺・・・・・・なんだか、よくない事言っちゃったね。怒ってる?」
「・・・・・・・・・」

 ハリーはしばらく、一言も喋ってくれなかった。俺も自分で、なんでこんな事を言っちゃったんだろう?と考えながら、返事が来るのを待った。
 ・・・意外と・・・・・・俺が思っていたよりも、その返事は早くきた。

「そんな事・・・・・・言わないでくれよ。せっかく、いい友達が増えたのに・・・・・・『別れる』なんて事、今はまだ考えたくない」
 ハリーは、寂しそうに言う。

「そうだよね、本当にごめん。でも・・・今、一つだけ聞きたい事がある。俺は・・・君にとっての『友達』でいられるの?『母親に似てる男』とか、『用心棒』とか・・・そういう観点で俺を見てはいないのかな?」
 それを聞いたハリーは、はははっと笑った。

「もちろん。そりゃあ最初は『似てる』って事ですっごい意識してたけど・・・今はおれの大事な友達だよ。ザガルにとっても・・・おれ、友達に見える?『歩く薬箱』とか、『生意気な子供(ガキ)』とか見てない?」
「見てないよ。俺にとっても、君は大事な友達。これからもずっと、そうだよ」

 俺達は、じっと見つめ合う。年は随分離れているけど、心はそれよかずっと近いところにある。むしろ、ここでも俺は人との強いつながりを持っているってことになる。

「本当?本当にそうなの?」
 ハリーの顔に、また『うれしさ』が戻った。

「ああ。少なくとも俺はそう思ってる」
「じゃ、約束しようよ。『ずっとずっと友達でいよう』って、さ」
「いいよ。『約束』っていったら、やっぱり指きり?」
「そうだね。おれも昔、そう教えてもらった」
「じゃ、指きりだね」 「うん」

 それから俺とハリーは、小指と小指を絡めて指切りをした。もちろん・・・これからも、ずっといい友達でいられるようにと。


          * * * * * * * * * *


「ねぇ・・・ハリー?」
「ん?何?」
 指切りをしてから、俺は気になった事を打ち明ける事にした。

「さっきさ、診療所の奥にいた女の人と目が合ったんだけど・・・・・・誰なのか、知ってる?なんてそんなこと、分かんないか」
「そんな事ないよ。その人、服装とか外見はどんな感じだった?」
「うーん・・その人、すぐ奥に引っ込んじゃったからなぁ・・・・・・恥ずかしそうに。多分、その部屋は病室じゃなかったと思うけど・・・―――」
「だったらそのひと、きっとおれのおばさんだよ」
 意外と、答えはすんなりと出た。

「って事は・・・ニコラさんの奥さん?」
 ハリーは頷いた。

「おじさんの弟子は男の人しかいないし、この時間にうろついてる患者さんなんかそうそういないし。病室はここから先、デュークの部屋が個人部屋のはじめだから、間違い無いよ」
 なるほど・・・・・・そうだったのか。

「おばさんの名前はダリアっていうんだ。どんな人なのかは・・・確か、前にばあちゃんの家で話したよね、おれ」
 そうそう、その話は前に聞いた事がある。・・・・・・名前は聞いてなかったけど。

「ちょっと恥ずかしがり屋なところもあるけど、優しい良い人だよ」
「ダリアさんも、前から・・・・・・薬師とか、そういう仕事してたの?」
 この質問に対し、ハリーはふるふると首を横に振った。

「違う・・・おじさんとおばさんは大恋愛したんだ。お互いの性格とかにひかれて好きになって、それから結婚したんだ。だから仕事がなんなのかとかは二人共全然意識してなかったから、おばさんは嫁入りする事がちゃんと決まってから一生懸命になって薬の勉強とかしたんだ。複雑な薬とかは使えないけど・・・そりゃあおれだってまだまだだけど、患者さんのお世話とか食事作りをすすんでやってるんだ」
 なるほど、愛は仕事を選ばないのか。

 俺にはそういう感情がどういうものなのかがよく分かんないけど、とにかく二人が苦労を重ねて結婚へと実を結んだという事は分かった。特に、奥さんのダリアさんは旦那さんになるニコラさんを助けるために努力した。ここはきっと、相手を思う気持ちだろうね。

「それじゃあ、ジーンさんと・・・・・・――――――」
 俺は口をつぐんだ。こんな事言ったら、またハリーを傷付けてしまう。

「おれの・・・父さんと母さんの事?聞きたい?」
 でも、意外と・・・ハリーは楽しそうにこっちを見ている。

「え・・・・・・いいの?」
「もちろん。ザガルもしかして、母さんがいないからっておれと父さんの事で気ぃ遣ってない?そんなこと、しなくてもいいんだよ。おれも父さんも、今と直面して、真正面からぶつかって生きてるんだから。そんなに神経質にならなくてもいいよ?」
「そうかな・・・?」
 すっかり、俯いてしまった俺。

「前・・・そう、君と出逢った日に、デュークに言われたんだ。俺が・・・ほら、君に『俺も親がいなくて寂しいよ』ってそんなこと、言っただろう?あの時の俺に・・・アイツ、『同情する方がよっぽど、心の傷を広げてる』って言ったのさ。だから・・・一番いいのは、『何も聞かない事』なんじゃないのかなーって・・・・・・」
「優しいな。そこまで気遣ってくれる人は、初めてだよ」
 まごついている俺に、ハリーはそうはっきりと言ってくれた。

「でも・・・気持ちだけで十分だよ。おれ、そう考えてくれる人がいるっていう・・・その人のそういう気持ちを感じるだけで、自分でもなんだか不思議と嬉しい気分になれるから。だから・・・これからは、そういう事気にしないで、なんでも聞いてよ」
 彼はにんまりと笑うと、話を始めた。

「父さんと母さんは―――――『職場結婚』。これも前に、そう言ったと思う。二人はとにかく仲が良くてね、同じ薬剤師として数々の知識を分け合って、助け合って、協力、援護・・・共に一つの仕事に関わる事をしていく内に、お互いの事が好きになってた・・・・・・んだって」
 なんだか、仲むつまじくていいなぁ。

 でも、それだったら・・・そんなに仲が良かったのなら、どうして大ゲンカして奥さんが出て行った、なんて事になったんだろう?
 まあ・・・仕事の疲れからつらくあたったりしたとか、そういう事もあったんじゃないかな。『父親が暴力を振るうようになった』、そうハリーも言っていたし。

「でもそんな理由なんて、今はどうでもよくなった。母さんは行方不明だし、父さんもあれこれ忙しかったりケガしたりだったから」
 それまでは楽しそうに話していたけど、言葉を切ってしまった。

「―――ハリーはさ、ファーマシー・ガーデン・・・だっけ?に住んでるんだよね?」
 俺はどうしようかと考えたあげく、話題を切り替えていた。

「そうだよ。ガーデンにはでっかい研究所があって、父さんはそこで仕事してる。おれは家で勉強したり遊んだり、いろいろしてる」
「ひとり、で?」
「そういう時もよくあるけど・・・家の事情を理解して、面倒見てくれる薬剤師の人もいるから。そういう人たちはやっぱりおれにとっては尊敬すべき人だからさ、ためになることをたくさん教えてもらってるんだ。今度ファーマシーに着いた時、ザガル達に何人か紹介するよ」
 ハリーにとっての尊敬すべき人、か。俺もその人達と、仲良くなれるといいんだけどな。

「―――――――ハリー君、そこにいるの?」
 と・・・突然、初めて聞く声が部屋の外から流れ込んできた。

「・・・・・・もしかして、ダリアおばさん?」
「そうよ。もし良かったら、ここ開けてくれる?」
 鍵は付いてないんだけどな、でもまあいっか。

 俺はそう考えつつ、部屋の扉を開けた。すると・・・そこには、木製のコップを三つ載せたお盆を持った女(ひと)、ハリーの伯母・ダリアさんがいた。

「あっ、有難う・・・ございます。・・・・・・これ、よかったらどうぞ」
 ダリアさんが持ってきてくれたものは、果物を絞ったジュース。俺はそれを二つ受け取ると、一つはハリーに渡した。

「あら、もうひとりの方は・・・?」
 ダリアさん、デュークがいないことに戸惑っている様子。普通、こんな夜遅くに出歩くなんて事は考えにくいもんなぁ。

「もうひとりは・・・多分、ガーデンの見張り番の所に行きましたよ。入り口のところで、親しくなったもんで。あいつと俺、広場の園で」
「見張り番としてお仕事なさっていたのですよね、ザガルさん?」
「・・・・・・はい、そうです」

 どうやらダリアさんも、さっきのやりとりを陰ながら見守ってくれていたみたい。にしても・・・あの剣幕に割って入れたのは、結局デュークだけだったって事になる。あいつは勇気があるのか命知らずなだけなのか、いまいち分からない。

「なら・・・・・・・・・これ、余ってしまいましたわね。あの方の為に用意したのに」
 ダリアさんは、残念そうにもう一つのコップを見つめる。

「ならさ、おばさんもここで飲んでいけば?」
 ハリーが、ダリアさんを引き止める。

「え?でも・・・・・・・・・」
「いいじゃない、おれたちは別に構わないもん。ねぇ」

 彼は俺に同意を求めてきた。俺も、別に異存はない。ハリーは俺の頷きを目にすると、お盆を持ってダリアさんを連れて来た。そして三人で、寝台の上に座る。さっきは寝っ転がってたけど、今度は角っこに腰掛けるような感じだ。

「おばさんさぁ、こっちの人の名前しか覚えてないでしょ」
 ハリーは俺の腕を引き、いたずらっぽい笑顔でダリアさんに尋ねる。

「やっぱりハリー君には、分かっちゃうみたいね」
 そう言うダリアさんも、恥ずかしそうにはしているけどなんだか笑顔っぽい。うつむき加減で、手に持ったコップをまじまじと見ながら続ける。

「さっきは・・・ごめんなさい。目が合うとは思わなかったから・・・・・・じっと見つめていたのが、分かってしまわれたのですね」
 いつの間にか彼女は、俺に言葉を向けていた。中心にハリーがいたので、丁度二人でハリーを挟んでいるような感じ。
 でももしハリーがいなかったらこの女(ひと)、きっともっと恥ずかしがっていたかもしれない。見知らぬ男と隣同士ではないけど近いところに座っているっていうことは、きっと神経を使うことなんだろうなぁ・・・・・・・・・神経図太い俺には、全っ然分かんないことだけどさ。

「え・・・そんなことないですよ。俺も、たまたまそっちの方向を向いただけですから」
「そう、ですか?それならいいのですが。やっぱり誰もが言う通り、あなたはシェリさんによく似ていらっしゃる。だから、お名前はすぐに覚えてしまいましたわ」
 緊張がほぐれてきたのか、ダリアさんは自然に楽しそうに話しだした。
 

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