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蝮☆千夜一夜コミュの週刊『機動戦士ガンダム ガイスト〜鬼の啼く宇宙(そら)編〜』第39話〜たとえばその先に絶望しかなくても〜(パート1)

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 地に倒れたならば
 やがて花として咲けたろう
 だがここは
 漆黒の宇宙(そら)
 土も無く雨も無い

 ある日、夢の中で男が女に尋ねた
 幸せかい?と
 女は答えた
 あなた、という「一」を失った今の私には
 辛い
 という日々しかないわ

 涙で描かれた天球図には
 今日も花が咲くことはない



 たった二機のモビルスーツに撹乱された、地球連邦軍の艦隊は、ようやくにして再集結を完了しようとしていた。
 旗艦の「ミノール」は沈み、バラバラになった艦隊をまとめたのは、ティターンズのスタービレ艦長である。
「定められた戦時法令に乗っ取り、これよりこの艦隊の指揮は、このスタービレが取る。各艦、被害状況を知らせよ。追って、のちの指示は与える」
 断固とした態度により、ケンダ司令を失って動揺している連邦軍艦隊を掌握し、混乱を集束させていく。
「ブルナイト曹長にも帰還するように伝えよ」
 静かにスタービレ艦長は命令する。
(大尉・・・・)
 ゴッドフレイを失って、スタービレ艦長の落胆は大きい。指揮官としては優秀な男であった。まさかあのような最後を迎えようとは、予想だにしなかった。ブリッジのクルーにも笑顔は無い。鐘鬼という組織を追撃するのに、いったいどれくらいの犠牲を払ったろう。指導者のホマレ・マツナガを葬ることが出来たとはいえ、それで勘定の合う犠牲かと言うと、あまりにも割に合わない。
 スタービレが物思いにふけっている間にも、刻一刻と艦隊の状況が集められてくる。
「艦長、艦隊の被害状況です。撃沈3、大破2、小破3。モビルスーツの被害状況ですが、未帰還9、大破4、小破が3となっています」
 オペレーターがまとめていく。スタービレは即座に命令を与える。
「大破、および小破の艦艇は、生存者を収容し次第、引き返すように伝えよ。カーツーンを含む、残りの4隻で、敵艦を追跡する。戦闘可能なモビルスーツは追跡艦隊に収容し、臨時部隊を編成する。我々は、ケンダ司令をはじめとした、多くの同胞達の尊い犠牲を無駄にしてはならない。諸君、よろしく頼む」
 損傷した艦隊の後退を護衛するための戦力として、戦闘可能なモビルスーツ3機を割き、残り7機のモビルスーツが追跡隊の戦力となる。副官がスタービレに尋ねた。
「艦長、我々が追うのは、連中の旗艦、コロンブス改級一隻ですが、例の紅いザクが出てくるようなことがあれば、この程度の戦力では危険なのではないでしょうか・・・・」
 その顔には不安の色が現れている。無理もない。あの戦闘を経験したものは、紅いザクの恐ろしさを嫌と言うほど思い知らされている。それは、スタービレとて例外ではない。
「その通りだ。しかも我々は、唯一対抗できるであろう、ゴッドフレイ大尉とその機体を失っている。したがって、この戦力の低下した艦隊に対し、連中が紅いザクを使ってくるようなことがあれば、我々は殲滅されるより他にないかもしれない」
 深刻な顔でスタービレは語る。ブリッジにも重苦しい空気が流れる。
「ならば、今は一度後退して、体勢を立て直してからのほうが・・・」
 副官が意見を述べるが、スタービレはそれを制して、
「連中は、エウーゴと合流しようとしているらしいとの情報もある。今、ここで叩かなければ、後顧に憂いを残すことになりかねん。それに、今までの連中との交戦記録から見ると、リックドム?とゲルググ、ザク?タイプ、それから新型のモビルスーツの存在が確認されている・・・おかしいとは思わないか?それらがまったく出てこない」
と副官に問いかける。副官は、
「では、それらもまだ、コロンブス改級にあり、同じような足止めをするかもしれないということでしょうか?」
と聞き返す。スタービレが何を言おうとしているのか、真意を量りかねているようだ。スタービレは組んでいた足を組み直して、
「いや・・・そうではないような気がする・・・コロンブス改級は、速度が上がらない。我々に捕捉されるということは、連中にもわかっていたはずだ。本来ならば、コロンブス改級を処分して逃走を図るだろう。しかし、そうではない。そして、守るというには、彼らの投入してきた戦力が少ない。それに、途中でムサイを分離している・・・それらを考え合わせると・・・恐らくは、コロンブス改級は囮だな。連中の本隊はムサイのほうではないかと、私は考える。ホマレ・マツナガが、自らが殿をやっていたのも、それを裏付けているように思う。名前を明かしたのも、そうすることで、我々の注意を引くためだろう。肝の据わった男だな、ホマレ・マツナガという人物は」
と、真っ直ぐに正面を見据えて語った。
「・・・指導者自らが囮ですか・・・それでは、ケンダ司令はまんまと連中に引っ掛けられたということですか」
 副官ががっかりしたような顔をした。口先だけのあの司令らしいというような、侮蔑の表情である。
「ケンダ大佐は、傲慢な男ではあるが、無能ではないよ。おそらくは囮だということもわかっていたに違いない。わかっていて、コロンブス改のほうを追いかけたのは、連邦軍本隊が鐘鬼の旗艦を沈めた・・・という事実が欲しかったに過ぎぬだろう。腐っても鯛、というやつだな。政治的に鐘鬼を抹殺できればそれでよかったのだろう。ムサイをシュワルツェンベルグ艦長に追わせたのは、沈めれば、命令を与えたケンダ大佐の手柄であるし、仕留めそこなっても、S.O.Gが無能だったということで、ケンダ大佐の腹は痛まない。まったく食えぬ男だよ」
 スタービレは淡々と語った。それを聴いて副官は驚いている。
「何をそんなに驚いている。魑魅魍魎が跋扈する、地球連邦軍にいて、あそこまで出世した男だ。人物としての好き嫌いはともかく、上司に取り入る才能がずば抜けた希代の俗物か、何もかも蹴落として昇っていける才能の持ち主か・・・そのどれかしかないだろう?」
 スタービレはそういいながら、かすかに笑った。
「あの男の唯一の誤算は、あそこで自らが倒れる、ということだったに違いない。自己顕示欲が強いのが裏目に出たな。ミノールが旗艦だとわかるような艦隊の配置にしたのが運の尽きだ。まあ、そのおかげで、このカーツーンは巻き込まれずに済んだので、その点では感謝せねばならないだろうがな」
 そのとき、オペレーターが告げた。
「艦長、ブルナイト機、着艦しました」
 スタービレはシートから立ち上がると、
「わかった。曹長には休むように伝えよ。もう一働きしてもらわねばならん。それから、全艦に通達。準備が完了し次第、追跡を再開すると」
 腕を組み、真っ直ぐに彼方を見つめるスタービレ。その眼には、決死の覚悟で逃走を図るスカーヴァティーが見えているに違いなかった。


 自室に戻ったブルナイトは、ベッドに横たわった。両手を頭の下に組んで、上向きに休む。眼を瞑った。眠れない。やりきれない思いが彼を眠らせてくれないに違いなかった。
「大尉・・・」
 ゴッドフレイ大尉を助けることも、援護することもできなかった。戦場では誰か死ぬ。ブルナイトにもそんなことはわかっている。わかっているが、同じ死ぬなら、大尉ではない、他の誰かであればよかった・・・そう思う。自らの利益のために紛争を画策するものもいる。今回の鐘鬼の活動にも、連邦政府の大物が背後で動いていた。彼らは自ら血を流すことなく、巨万の富、あるいは権力を握る。その生け贄に、多くの名もなきもの達が、血を流して死んでゆくのだ。考えても仕方のないことであるが、わかっていても、今のブルナイトの頭から離れない。
 そのとき、ドアが訪問者を告げる。ブルナイトは入室を許可する。
「お疲れのところ、申し訳ありません。ゴッドフレイ大尉の遺品を整理していたものですが、ブルナイト曹長宛の手紙がありましたもので、お届けにあがりました」
 敬礼しながら兵が答えた。出撃前に話していた、寄付金のことだろう・・・ブルナイトは思い出した。手を伸ばし、静かに受け取った。
「では、自分はこれで・・・」
 兵はそう告げると、部屋を後にしようとした。
「そういえば、大尉の荷物はどうなるのか?」
 ブルナイトは、出て行こうとする兵に尋ねた。兵は不意に尋ねられて戸惑ったようだが、
「ゴッドフレイ大尉の荷物は、こちらで処分することが決定しています」
と答えた。
「遺族に返還するのではないのか?」
 ブルナイトが怪訝な顔をして問いただした。
「こんなことを曹長に話すのは、よいのかどうかわかりませんが、ゴッドフレイ家からは、そのように希望が出されています」
 そういえば、ゴッドフレイ大尉は、孤児院の出身である。身内がいるわけではない。であるが、ゴッドフレイ家というものがあって、そこが荷物の返還を希望していない。それでブルナイトは思い出した。たしかTジャニ隊は名家の出身者で、血筋の正しい、容姿端麗のものが選ばれているということを。考えれば、名家の出身者をあのような実験のモルモットにするはずがない。そんなことをすれば、連邦軍にとっても政治的にマイナスなはず。
 考えられることは、ゴッドフレイ大尉のような身の上のものを、名目上の名家の出身とすることで、プロパガンダをしていた・・・ということなのだろう。実験が成功すれば、下層の出身者の兵も出世は出来る。名家も名誉が保てる。よしんば失敗しても、血縁上のつながりが何もない上に、戸籍から抹消することなど、連邦政府からすれば朝飯前のことであるし、名家は名義を貸すだけのこと。身寄りのない兵が死んだところで、家族が居ないのだから、連邦軍にとっても気兼ねは要らない。結果、誰の腹も痛まない。
 そこまで、思いを巡らせると、ブルナイトはムカムカしてきた。手を胸に当てる。反吐が出るとはこのことか。かろうじて、
「ありがとう、ご苦労だった」
と兵に伝えた。兵はそのまま敬礼をして、部屋を出て行く。ブルナイトはドアに背を向けて横たわった。ゴッドフレイ大尉が、ゴッドフレイ家の出身ではないとすると、本当の名前はなんであったろうか。ファーストネームぐらいは調べれば分かるだろう。だが、本当の名前はきっとわかりはしない。連邦政府が抹消するに違いないからだ。大尉だけではない。Tジャニ隊の隊員だったものの多くがそうだろう。
 出撃するときには、多くのパイロットがいた。今、ティターンズとしてこの前線に立つパイロットは自分だけになってしまった。今回の作戦のために集められたので、皆のことをそれほど知っていたわけではない。そして、ゴッドフレイ大尉を含め、それらのほとんどが帰らなかった。
 ブルナイトはクッションをつかむと、自らの顔に押し付けた。つかまれたクッションに深い溝が刻まれる。その溝は小刻みに震えていた。



〜パート2につづく〜

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