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蝮☆千夜一夜コミュの週刊『機動戦士ガンダム ガイスト〜鬼の啼く宇宙(そら)編〜』第41話〜I Will Survive(後編)〜

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  物を持つ事の出来る両の手に
  ある男たちは刃を握らせ戦場に立つ
  同じその手を組み合わせて
  女たちは祈りを捧げる

  哀しみしか握れないとわかっていても
  自らの生き様を変えられない

  流れに任せればよいものを
  その激流の中で
  今日も人はもがき続ける



 モビルアーマーにしてはあまりにも小さいその機体は、ジム改をあざ笑うかあのように飛びまわっていた。だが、そのうちの一機が爆散し、カノン・ライヒの搭乗する「アドバンスド・ブロック」が戦場に現れてから、正体不明機の動きが変わった。ジム改への攻撃は止め、すべてがライヒの下へと向かってきたのであった。
 ライヒは冷静に対処する。いや、心中は煮えたぎっている。その煮えたぎるものがなんであるかは、ライヒ自身、はっきりはしない。苦楽を共にした仲間を失い、また、己の手で殺め、そこまでして生き延びている自分自身が、一体なんのために生きているのかわからないまま・・・ということに腹が立っているのかもしれない。本来は楽天家で、思いつめるような性格でもないと自分では思っていたが、意外と、自分というものが一番自分ではわからないのかもしれない。
計器をきらびやかにランプが照らす。敵の動きを読み、機体を唸らせ追い込む。ざわめく心を置き去りにして、ライヒの身体は戦場に馴染んでいく。
「チェン、ボマー、後退しろ!」
 ライヒは僚機を下がらせようと叫んだ。
「しかし、大尉!」
 チェンが命令を拒否しようとする。今なら3対3で数としては互角。何もその条件を棄てる必要はないではないか。
「聴こえなかったか?後退しろってんだ!お前らじゃ役不足で棺おけが増えるだけだ。船に戻ってろ!」
 ライヒは少々イラついた声で再度命令した。
「俺一人のほうが戦いやすい。間違って撃たれないように、さっさと退け!」
敵のモビルアーマーと交錯しながら、ライヒは怒鳴る。あきらかに、ジム改では付いていけそうにもない戦いがそこにあった。
「わかりました!船を守ります!ですから大尉・・・」
 チェンがしぶしぶ答えた。
「死なんでくださいよ!大尉が死んだら、俺達は大尉を見捨てた臆病モン扱いされるんですから!」
 苦笑いするライヒ。
「ブツクサ言ってねえで、行かねえか!」
 再びそう、命令した。


「隊長、敵のジム改が下がりますが・・・」
 コバヤシ大尉に部下が告げる。
「よくわからん相手だな。自ら数の不利を作るとは。もっとも、旧式のジム改なんぞ、このガザの敵じゃないけどな」
 コバヤシ大尉はニヤッと笑う。
 簡単に葬り去れると読んでいた、敵のジム改二機・・・そこに見慣れないのが一機加わった。ガサに乗るボリック・コバヤシにとっては短時間にケリをつけられるはずであったものが、その一機のおかげですべて狂わされるとは思いもしなかった。その一機は他の二機を後退させる。
「しかし、舐められたもんだな」
 コバヤシは唇を噛んだ。久しくなかった屈辱だ。恐らくは敵の新型なのだろうが、こちらだって最新鋭である。負けはしない。
「ラリー、トケン!マルチンが戻ってくる前に、やってしまうぞ!」
 コバヤシは叫んだ。すでにこちらは一機やられている。後退していく二機には目もくれずに、アクシズの三機はカノン・ライヒの乗る、アドバンスド・ブロックに襲い掛かった。

 味方の二機、チェンとボマー機を後退させたカノン・ライヒ。べつに彼には明確な勝算があったわけではない。ただ、わかっていたことは、僚機のジム改程度の性能ではみすみす死なせてしまうことになる相手だと判断しただけである。
先ほどまで死闘を繰り広げた相手は、ライヒがかつて人生の先輩と仰ぎ、上司として長年仕えた男であった。無鉄砲が災いして冷や飯を食わされ、白眼視されながらも生き方を貫いていた、数少ないライヒの仲間であった。それをこの手で葬った。その少し前には、長年の部下のトーマス・ウッズを失っている。それらがどのように作用しているのかはわからないが、今のライヒには、精神の平衡という言葉はない。立ちふさがるものは潰す、歯向かってくるものには、死を与える・・・ただそれだけだ。自身の身の危険など頭にはない。僚機を下がらせたのは、もうひとつ、今のライヒの戦い方のまき沿いにならないように、という配慮も働いている。これで今の彼を閉じ込めておくものはない。ムシャクシャしたこの思いを、ようやく好きなだけぶつけられる・・・そんな思いが頭をよぎったとき、彼の唇が持ち上がり、かすかに笑った。
 三機と一機がすれ違う。ビームが交錯するがどれも捉えられない。ガサは三機が別々の方向へと旋回し、どこへライヒのアドバンスド・ブロックが逃げても補足できる体制をとろうとしていた。だが・・・
「トケン!」
 一機が撃墜され、コバヤシは絶叫した。予測できない敵の動き。速度では圧倒的にガサのほうが早い。アドバンスド・ブロックも高速機動用のブースターを接続できれば分が悪いわけではないのだが、あいにくその装備はない。しかし、ライヒは振り向きざまに一機を仕留めることに成功していた。
「ちっ!」
 コバヤシは悪態をついた。自分たちのモビルスーツの性能を過信したようだな・・・一瞬でそのことを理解した。コバヤシ達は、数と速度性から、一撃離脱を選択すればよかったのだ。それを先ほどのジム改との戦闘の感覚を引きずりすぎて、アドバンスド・ブロックの土俵で勝負してしまったのだ。その代償は高くついた。
「隊長ぉ!・・・」
 ラリーの叫び声が響いた。敵の回避力は半端ではなかった。瞬くうちに二機が撃墜されてしまった。コバヤシはパイロットとしては歴戦の部類に入る。無能ではなかった。しかし、今回の相手が悪すぎたのだ。
「クソ!ガサの回避パターンにも問題はあるようだな」
 新型とはいえ、実戦投入されてから配備されたわけではない。ましてやモビルスーツとモビルアーマーとの長所を併せ持たせようと、欲張った設計の機体である。その巨大なモビルアーマー的な推進力を、この形態では制御しきれていないのだ。
「なんとか!」
 コバヤシは敵のモビルスーツを捉えようとするが、その不敵な動きは容易にそれを許さない。
「こんなやつがまだ連邦にいるのかよ!」
 なかば悪態をついて、コバヤシは機体を操る。だが、隙をつかれた。
「ラディッツよ、すまん!!」
 コバヤシが叫んだ。アドバンスド・ブロックが側面から襲い掛かる。コバヤシのガザは回避できそうになかった。

 ライヒの心を狂気が支配していた。鬱屈が一気に爆発し、自分以外を血祭りにすることに躊躇しないでいられるという精神状態になっていた。一時的な精神の暴走である。
 だが、鍛え上げられたその身体は、精神の高揚によくついていっていた。アドバンスド・ブロックもそうである。慣れない機体とシンクロするほどに、ライヒは我を忘れて戦っていた。
 そして、最後の一機に止めを刺そうとしたその瞬間、ライヒの狂気を消しさるように、目の前の敵に異変が起きた。
「・・・・?・・・モ、モビルスーツ!」
 確かに敵は小型のモビルアーマーであった。それが目の前で一瞬にしてモビルスーツに変わったのだ。何が起きたのか、ライヒには理解しがたい。
 その隙を突くようにして、敵のモビルスーツが攻撃を仕掛けてきた。敵の弾道が頭部を掠める。ライヒは思い切って、機体ごと相手にぶつけた。衝撃が走る。
 二機のモビルスーツがぶつかり合う。近距離でビームサーベルを互いに抜いた。
 一瞬、ライヒのほうが早く、敵の機体は胴体を貫かれた・・・ように思われたが、脇を掠めて、なんとか直撃は免れたようだった。
「やるな」
 ライヒがニヤッと笑う。二機が離れる。その離れ際をライヒは狙っていた。
 そこに、間を割ってはいるかのように、ビームの閃光が走る。
「ちっ!まだ一機いたのかよ!!」
 ライヒは悪態をついた。見れば、先ほどのモビルスーツの動きがおかしい。機体をぶつけ合った衝撃か、ビームサーベルでどこかを破壊したのか、モビルアーマーにも戻れないようだ。戦場を離れようとする。そして、その機体を逃がそうと、間に一機が割り込んできた。
「邪魔するなー!」
 ライヒが叫ぶ。すれ違いざま、ライヒはその一機を切り裂いた。だが、コバヤシの機体は、その間にも戦場を離脱していく。興奮状態のライヒは、その姿を見つけると少し我に返った。そしてようやくにして、先ほどから通信が入っているシグナルのあることに気がついた。レオニダスからだった。
 ニトロン伍長の声から、レオニダスの危機的状況が推測出来た。たった一機のモビルスーツに、艦隊は危機に瀕しているという。
 去り行く敵のモビルスーツに一瞥くわえると、ライヒは機体をレオニダスに向けた。


 ヨハン・クリスチャン・セガールは、意識を失っていた。どれくらいの時間かはわからない。けたたましく艦内放送が吼えている。敵の新手が接近しているのだ。起き上がろうとして、身体の痛みに襲われる。ここはベッドではない。そうだ、ここはモビルスーツのハンガー。顔を上げれば、そこにはゲルググが立っている。
 思い出した。自分はここで、ゲルググに乗って出撃するのだ・・・。だが、身体が痛みで思うように動かない。
 艦内放送では、敵艦五隻の接近を告げていた。急がなければならない。
『それでもお前は、生き抜いて、そしてターニャを守ってやれ。お前のその力は、誰かを守るためにこそ、存在するのだから』
 大佐の声がする。別れ際、大佐はそういって出撃していった。
「守らなければ・・・」
 呻くようにしてセガールは言う。ゲルググの足に身体を預けて立ち上がろうとした。
「セガール!」
 背後で聴きなれた声がした。驚いたような、哀しむような声・・・・ターニャの声だとセガールにはすぐにわかった。
「あなた、こんなところで何をやってるの?・・・まさか!」
 ターニャが駆け寄ってくる。気がついたのだ。セガールが何をしようとしているのかを。
「ベッドに戻るのよ」
 ターニャが身体を貸そうとする。だが、セガールはそれには答えない。搭乗用のタラップを操作しようとする。その姿を見ながら、ターニャが無感動に言う。
「無駄よ。あなたのゲルググはまだ整備中。見た目には出撃できそうだけど、今の状態では動かせないわ。それに、そんな身体で乗り込んだところで操縦できないでしょう」
 冷たく言い放つターニャ。それを聴いて、悔しそうにセガールはゲルググを見上げている。
「ゲルググの整備は終わっとるぞい」
 ターニャの後ろから声がした。
「部長・・・今、なんて?」
「ちょっと、じいちゃん!」
 二人の視界には、イズ部長の姿があった。
「ターニャの言ったことは嘘じゃ。ゲルググはちゃんと整備完了して、出撃待機中じゃよ」
 淡々とイズ部長は言う。その顔は憔悴しきっていた。
「ありがとう、部長。じゃあ・・・」
 セガールはタラップに乗り込もうとする。それを止めようとするターニャ。
「じゃが、セガール」
 静かに部長がセガールに問いかける。
「そんな身体では、すぐに落とされるぞい」
「でも、他にパイロットはいないでしょう?」
 セガールが弱々しく答える。ターニャがセガールの身体を掴んで離さない。ターニャの腕を振りほどくほどの力も、今のセガールにはないようであった。
「あなたが出撃したって、犬死よ!」
 ターニャが必死に止めている。犬死・・・セガールの胸に突き刺さる言葉。
「犬死だっていいんだ。1分でも敵を食い止められるなら。ひょっとしたら、その間にも奇跡が起きるかもしれない。このまま待っていても、みんな死んでしまう。ならば・・・自分が行くことで、少しでも遅らせたい」
 セガールが言う。その身体は今にも倒れそうなほど、荒い息をしていた。
「馬鹿なこと言わないで!そんなの認められるわけないでしょ!」
 ターニャが叫けぶ。
「わたしを置いていくっていうの?残されるわたしのことはどうでもいいの?どうせ・・・最後には死んじゃうのなら・・・あなたと一緒に。だから、いかないで!お願いだから・・・」
 行こうとするセガールの背中に、ターニャはすがり付いて泣いた。そのすがり付いたターニャの手をセガールの手が握る。
「ターニャ・・・言ったろう?君は俺が守るからって。どうして、そのときわたしを守りに現れてくれなかったのよ、なんてこと、もう君には言わせないから。それとも君は、俺を好きな女一人すら守れない男で終わらせる気かい?」
 振り向いて、セガールはターニャを見つめる。その、弱々しい手が彼女の頬を撫でる。
「嫌よ!」
 顔を横に振り、ターニャは泣きじゃくる。その背後にいたイズ部長が、いつの間にか居なくなっていることに、二人は気づかない。
「ターニャ、わかっておくれよ・・・」
 セガールは優しく微笑みかけて、根気強くターニャに語りかけた。
 そのとき、席をはずしていたイズ部長が戻ってきて、その手に持っている小さなケースをセガールに差し出した。
「部長?これは??」
 受け取ったセガールが聞き返す。
「その中には、戦闘力が低下したパイロットを短時間だけ覚醒させ、痛みを麻痺させる薬剤が入っちょる。ザク?αのシステムに組み込まれていたもんで、非常時に考案されていたもんじゃ。当然パイロットは消耗品としての扱いを受けることになるがの」
 部長は無感動に語る。さも、ワシは酷い男じゃろ?といわぬばかりに。
「当然のことじゃが、こいつは健康体の身体にもかなりの負荷をかけることが黙認されているものじゃ。じゃから、最後の手段として、ザク?αの最終防衛手段の一つとして採用されたものじゃ。もともとは、あの、ジャニスローの人でなしが考案したもんじゃが、バートレットも大佐も、悩みながらそれを保管しておった。これをセガール、お前に預ける。好きなように使うがいい。ただし、今のお前さんが使えば、命の保障はないがの」
 セガールには、最後の話が聞こえていたのかどうか。それぐらい目を輝かせてケースを見ていた。
「セガールよ。効き出すのに約5分。持続時間はせいぜい30分じゃ。バートレットが改良したので、使用中の副作用はほとんどないがの・・・」
 ケースを握り締めたセガールの手を、ターニャが振りほどいてケースを奪い取ろうとした。
「止めないか、ターニャ!!」
 セガールが抵抗する。しかし、それは悲しいくらい弱々しい。
「どうしてこんなもの持ってくるのよ!」
 セガールともみ合いながら、ターニャの目は、イズをにらみ付けて叫んだ。そしてセガールの手からケースを奪い取った。その瞬間、セガールはターニャを抱きしめた。ターニャの身体から力が抜ける。男性恐怖症のターニャにとっては、抱擁はかなり過酷なこと。だが、反応が今までと違うことにターニャは愕然とした。恐怖ではなく、安堵。そして、身体から力が抜けていく。それぐらい、セガールの抱擁は優しかった。
「どうして?いつもあなただけがこんなめに会わなくちゃいけないの?」
 泣きじゃくりながら、セガールの腕の中でターニャは言った。艦内放送が、敵艦からモビルスーツが発進したことを告げている。その数、約10機。セガールの顔に厳しさが戻った。そして、ターニャの腕からケースをそっと取りかえした。
「お願い!わたしを一人にしないで!!一緒に死なせてよ!!」
 ターニャが叫ぶ。セガールはもう一度、優しくターニャを抱きしめて囁いた。
「ターニャ。ここで俺が行かなければ、この船の人々が死んでしまうだろう。愛する人も、守りたい人々も助けることが出来ないまま、指をくわえて死を待っているなんてこと・・・俺には出来ないよ。たぶん、男の身勝手だってことはわかっている・・・・だけど、大佐やウェイヴェル・・・ムレノさんやジョンはそれでも立ち向かっていった。俺も、みんなのために、戦士としていかなくちゃならない・・・ターニャ、君は大佐たちのことは良く知っているよね?あれだけの男達と暮らした俺が、その生き方から学ばずに、戦うべきときに戦わずに、もし、仮にそれで生きながらえたとして・・・それが、ヨハン・クリスチャン・セガールという男として、君は認めることができるのかい?」
 それを聴いたターニャは、答えないかわりに、一度セガールを抱きしめて、そしてゆっくりと身体を離した。その顔は涙でグシャグシャになっている。ターニャが自分から離れたことを確認すると、セガールは、
「部長・・・お願いします」
とだけ言った。イズはそれを聴いてブリッジに連絡を入れる。
「艦長!5分後にゲルググが出撃する!パイロットは・・・ヨハン・クリスチャン・セガールじゃ!」
 老いぼれた声が、ハンガーに木霊した。



  生きて帰れると誓えるならば
  もう泣かないわ
  泣かないわ、愛しい人
  いつまでも待っているわ
  過ぎていった日々
  その想い出はあなたの胸に

  雨も降らないこの宇宙(そら)だけが
  濡れる心を包んでくれる
  あなたと見た未来を刻んで
  生きてゆくの

  生きて帰れると誓えるならば
  もう泣かないわ
  泣かないわ、愛しい人
  いつまでも待っているわ



〜つづく〜

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