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コメント(26)
ＰＵでのＡ−ＰＬＡを論じるには少なくともＰＵの最初から論じるのが必須である． しかし，それには紙面が少なすぎるので，本稿では規則のパラドクスから考察を始める．
ＰＵI§１８５〜２４２：規則遵守を巡る議論
ＰＵI§２４３〜２６０：私的言語批判
クリプキは，（�顱傍�則遵守論に懐疑論を見出し（�髻剖ζ餌療�解決を与え（�鵝忙篥�言語批判を規則遵守論の／共同体的解決の派生系，と考えた．
著者は，（�顱法繊放鵝砲硫燭譴鯊爐韻襪�，規則のパラドクスと私的言語批判の密接な関連を認める．
「規則のパラドクスを検討することによって，なぜ私的言語が批判のターゲットになるのかが，クリプキとは違った仕方で見えてくるだろう」
ＰＵI§１８５〜２４２：規則遵守を巡る議論
ＰＵI§２４３〜２６０：私的言語批判
クリプキは，（�顱傍�則遵守論に懐疑論を見出し（�髻剖ζ餌療�解決を与え（�鵝忙篥�言語批判を規則遵守論の／共同体的解決の派生系，と考えた．
著者は，（�顱法繊放鵝砲硫燭譴鯊爐韻襪�，規則のパラドクスと私的言語批判の密接な関連を認める．
「規則のパラドクスを検討することによって，なぜ私的言語が批判のターゲットになるのかが，クリプキとは違った仕方で見えてくるだろう」
ＰＵI−§１８５で，Grundzahl（仮訳「自然数」）Kardinalzahl（仮訳「基数」）という両語を用いる――一見区別するポイントがなさそうなところでＷは何故両語を使っているのか？
ｎ＝１の場合：Grundzahl
ｎ≠１の場合：Kardinalzahl と区別しているのだろう
では何故区別しているのか？
「＋２」に逸脱する生徒は「＋１」にも「自然数を書け」にも「1000，1002,1004・・・」と逸脱をするように思われる．
しかし，彼に「自然数1001はどうした？」と問うならば「1001？ そんな数はない」と答えるであろう． 即ち，彼の逸脱は我々と同じ自然数概念を有する者の＜表記の逸脱＞であって，＜自然数概念の逸脱＞ではない．
ｎ＝１の場合：Grundzahl
ｎ≠１の場合：Kardinalzahl と区別しているのだろう
では何故区別しているのか？
「＋２」に逸脱する生徒は「＋１」にも「自然数を書け」にも「1000，1002,1004・・・」と逸脱をするように思われる．
しかし，彼に「自然数1001はどうした？」と問うならば「1001？ そんな数はない」と答えるであろう． 即ち，彼の逸脱は我々と同じ自然数概念を有する者の＜表記の逸脱＞であって，＜自然数概念の逸脱＞ではない．
ＰＵI−§１８５冒頭 生徒は自然数の列を習得済みであり,その上で「＋ｎ」という命令に従うことを教えられる.
その特殊事例として,「＋１」という命令があり，その命令に従うことは自然数の列を生む.
だが，その生徒は「＋１」という命令に従う事を教えられるに先立って，自然数を習得していなければならない.
＊つまり，命令「＋１」に従がって生まれた自然数の列と，生徒が既に習得している自然数（の列）とは，記号上・見かけ上は同一だが，存在のあり方が異なる.
従がって，自然数の習得は命令「＋１」に従うことを教えられる事によって学ばれるのではない.
＜一般化していえば＞自然数は規則の提示によって学ばれるのではない.
＊ では，どうやって学ぶのか． おそらくは，単純訓練（ Abrichitung ）によって，である.
Ｗならこういうであろう「数えることは，歩く，食べる，飲む，遊ぶといったことと同様，われわれの自然誌に属している」（cf.ＰＵ?―§２５）
＊ 著者のこの発言は，一見単純訓練によって初めて自然数が学ばれる，という筆者の注釈と異なって見えるかもしれない． しかし，少なくとも「遊ぶ」ことは何らかの文化的文脈を含んで学ばれることなしには成立しないものである――他の歩く・食べる・飲むもより原始的であり，かつ文化的文脈は不要であるのかもしれないが，単純訓練によることなしに生得的に発現するものではないであろう. この点に関して，著者の「自然誌」理解を問いただすこと.
＜数える＞という能力の利用によってはじめて「＋１」という規則が教えられるのである.
（「＋１」という規則が教えられる以前に既に子は自然数の自然誌の世界に生きてはいる. しかし，その自然誌を彼／女は語り出すことが未だ出来ない. ）
（数える能力が所有されるところで）「＋１」という規則の基で，自然数の列が書き出される.
かくして，既に生きられていた（が語り出され得なかった）（自然数を書き出すという）自然誌がその子によって語り出される事が可能ならしめられる.
即ち,「語られる以前の自然としての数える能力を利用して規則が導入され，その規則を用いて自然誌を語り出すことが可能になる」構造がここにある.
その特殊事例として,「＋１」という命令があり，その命令に従うことは自然数の列を生む.
だが，その生徒は「＋１」という命令に従う事を教えられるに先立って，自然数を習得していなければならない.
＊つまり，命令「＋１」に従がって生まれた自然数の列と，生徒が既に習得している自然数（の列）とは，記号上・見かけ上は同一だが，存在のあり方が異なる.
従がって，自然数の習得は命令「＋１」に従うことを教えられる事によって学ばれるのではない.
＜一般化していえば＞自然数は規則の提示によって学ばれるのではない.
＊ では，どうやって学ぶのか． おそらくは，単純訓練（ Abrichitung ）によって，である.
Ｗならこういうであろう「数えることは，歩く，食べる，飲む，遊ぶといったことと同様，われわれの自然誌に属している」（cf.ＰＵ?―§２５）
＊ 著者のこの発言は，一見単純訓練によって初めて自然数が学ばれる，という筆者の注釈と異なって見えるかもしれない． しかし，少なくとも「遊ぶ」ことは何らかの文化的文脈を含んで学ばれることなしには成立しないものである――他の歩く・食べる・飲むもより原始的であり，かつ文化的文脈は不要であるのかもしれないが，単純訓練によることなしに生得的に発現するものではないであろう. この点に関して，著者の「自然誌」理解を問いただすこと.
＜数える＞という能力の利用によってはじめて「＋１」という規則が教えられるのである.
（「＋１」という規則が教えられる以前に既に子は自然数の自然誌の世界に生きてはいる. しかし，その自然誌を彼／女は語り出すことが未だ出来ない. ）
（数える能力が所有されるところで）「＋１」という規則の基で，自然数の列が書き出される.
かくして，既に生きられていた（が語り出され得なかった）（自然数を書き出すという）自然誌がその子によって語り出される事が可能ならしめられる.
即ち,「語られる以前の自然としての数える能力を利用して規則が導入され，その規則を用いて自然誌を語り出すことが可能になる」構造がここにある.
語られる以前の自然・規則が規則として有効であるために必要とされる自然，
：ＷがＬＰＡで見落としていた
：ＷがＰＵにおいて探り出そうとしていた「ザラザラした大地」である
ｃｆ. 本当にＬＰＡでは見落とされていたか，テクスト・チェック！ 日常言語の前提はあったが，論理にはそれは及んでいない，もしくは，（論理を含むものとしての）日常言語自体が支えられるものとしての「大地」は想定されていなかったか．
この「ザラザラした大地」の要請は，「規範的秩序を自然的秩序として語り出すことではないから，「自然主義」ではない」．
――戯れに（通常の形而下的もしくは対象的「自然主義」にたいして，「超越論的自然主義」と読んでみよう ）
＊ すなわち，通常の数学的自然主義は数学の営み・その成果という対象が自然経験に基づいている，と主張するのに対し，超越論的自然主義では，数学の営みそれ自体は規範的・非＝自然主義的な営為なのだが，その存立条件としてア・プリオリに課される一定の条件の一つが自然主義的な諸事実（としての反応・能力）なのである．
：ＷがＬＰＡで見落としていた
：ＷがＰＵにおいて探り出そうとしていた「ザラザラした大地」である
ｃｆ. 本当にＬＰＡでは見落とされていたか，テクスト・チェック！ 日常言語の前提はあったが，論理にはそれは及んでいない，もしくは，（論理を含むものとしての）日常言語自体が支えられるものとしての「大地」は想定されていなかったか．
この「ザラザラした大地」の要請は，「規範的秩序を自然的秩序として語り出すことではないから，「自然主義」ではない」．
――戯れに（通常の形而下的もしくは対象的「自然主義」にたいして，「超越論的自然主義」と読んでみよう ）
＊ すなわち，通常の数学的自然主義は数学の営み・その成果という対象が自然経験に基づいている，と主張するのに対し，超越論的自然主義では，数学の営みそれ自体は規範的・非＝自然主義的な営為なのだが，その存立条件としてア・プリオリに課される一定の条件の一つが自然主義的な諸事実（としての反応・能力）なのである．
かくして，規則のパラドクスを通じて，＜自然誌的秩序と規範・言語との関係＞ ＜語られる以前の自然と語ることとの関係＞という問題が浮上する．
一方で，語ることにとって，＜われわれ＞（共同体／世間）というあり方,社会・制度といったものは本質的である．
――数の例に於いては，このレヴェルでは既に規範が生じてきている
他方で，人が，自然誌的秩序に服するには，＜われわれ＞も社会も制度も必要ない
――ここではまだ依然として規範が生じてこない
即ち，自然誌的秩序なくしては規範は解体するが，自然誌的秩序のみでは規範の存立には不十分である
――この洞察をＰＬ問題を巡るＰＵの核心である，と著者は考える．
以降，その ＜私一人が自然誌的秩序に服する世界＞−−広義でか狭義でかはともかく私的言語・私秘的言語の世界 と，＜わたしが一人で自然誌的秩序に服している世界からの歩み出し＞の仕方と
＝＝これらはＷが私秘的言語の（あり方・可能性）という思考実験
において想定していたところの企図対象である．
一方で，語ることにとって，＜われわれ＞（共同体／世間）というあり方,社会・制度といったものは本質的である．
――数の例に於いては，このレヴェルでは既に規範が生じてきている
他方で，人が，自然誌的秩序に服するには，＜われわれ＞も社会も制度も必要ない
――ここではまだ依然として規範が生じてこない
即ち，自然誌的秩序なくしては規範は解体するが，自然誌的秩序のみでは規範の存立には不十分である
――この洞察をＰＬ問題を巡るＰＵの核心である，と著者は考える．
以降，その ＜私一人が自然誌的秩序に服する世界＞−−広義でか狭義でかはともかく私的言語・私秘的言語の世界 と，＜わたしが一人で自然誌的秩序に服している世界からの歩み出し＞の仕方と
＝＝これらはＷが私秘的言語の（あり方・可能性）という思考実験
において想定していたところの企図対象である．
私的言語＜Ｅ＞はわれわれの日常言語ではない．
何故なら，日常言語に於いては，人は彼自身の感覚について語り得，かつ他者はそれを理解し得る，から。
対して，私的言語＜Ｅ＞は（ただ記号「Ｅ」が何らかの私秘的対象を指示するのみであって）「第三者的に観察可能ないっさいの手がかりを欠いている」が故に，「本人以外には全く理解しようもない言語」なのである．
＊ 論点先取 前者から後者は直ちに出てきはしない． 本人の書き込みＥをみて，ああＥがあったんだな，等と他者が考えることが理解ではない事を論じなければ，前者から後者を推論することはできない． Ｗにおいてはむしろ定義として後者が与えられてしまっている． （ この両者の関係を探るのは興味深いことであるかもしれない． ）
この私的言語＜Ｅ＞が，「もし対象との面識によって指示関係が成立し，それによって何らかの言語使用が可能になると考えられるのであれば，ここに「言語」を見て取るのは可能である」
＊ まず，指示関係と言語使用との双方が，「Ｅ」が言語であるための要件か？ 第二に可能となる「何らかの言語使用」とはいかなる範囲のことがらを著者は考えているのか？
一見，「Ｅ」となんらかの私秘的対象という「二つの異なるもの」の間には∧関係が成立しているようにも思われる（ が，もちろん，実際には成立していない． ）
日記をつける時，人は「Ｅ」と書く事で私秘的対象（が存在したこと）を記述しているように思われるかもしれないが，私的言語「Ｅ」派実は「記述」としては成立していない.
＊ 「Ｅ」は名辞であるが故に名指しはしても記述はできない，ということになるのではないか，と考える人がいよう． 従がって，「Ｅ」は「E という名の感覚が生じた」という意味を持つ一語文である，との注記を加えたほうがよろしかろう.
記述の言語行為は，その真偽を問う，という言語実践と結びついている.
対して，ここで「Ｅ」の「感覚記述」と称されているものからは，真偽を問う一切の手立てがないからである．
ＰＵI−§２５８ ・・・正しい基準がなく，正しいと思われるものが正しい，としか言われえない際には，そこでは「正しさ」について語ることができない（ 内容要約 ）
つまり「私には，Ｅである，と思われる」と実際に「Ｅである」こととの間に間隙（前者が真で後者が偽，またその反対――の少なくとも一方＊――があること）がある時にのみ，発話「Ｅである」の正しさは問われえる.
そして，その間隙が存在するためには，「私にはＥと思われる」ということから独立の何らかの根拠が必要である．
＊ 一方のみで可なのか両方があって始めて可なのか，は考えてみたい．
ｃｆ.§２６５ 「正当化はひとが何かから独立したところに訴えることによって成立する」
何故なら，日常言語に於いては，人は彼自身の感覚について語り得，かつ他者はそれを理解し得る，から。
対して，私的言語＜Ｅ＞は（ただ記号「Ｅ」が何らかの私秘的対象を指示するのみであって）「第三者的に観察可能ないっさいの手がかりを欠いている」が故に，「本人以外には全く理解しようもない言語」なのである．
＊ 論点先取 前者から後者は直ちに出てきはしない． 本人の書き込みＥをみて，ああＥがあったんだな，等と他者が考えることが理解ではない事を論じなければ，前者から後者を推論することはできない． Ｗにおいてはむしろ定義として後者が与えられてしまっている． （ この両者の関係を探るのは興味深いことであるかもしれない． ）
この私的言語＜Ｅ＞が，「もし対象との面識によって指示関係が成立し，それによって何らかの言語使用が可能になると考えられるのであれば，ここに「言語」を見て取るのは可能である」
＊ まず，指示関係と言語使用との双方が，「Ｅ」が言語であるための要件か？ 第二に可能となる「何らかの言語使用」とはいかなる範囲のことがらを著者は考えているのか？
一見，「Ｅ」となんらかの私秘的対象という「二つの異なるもの」の間には∧関係が成立しているようにも思われる（ が，もちろん，実際には成立していない． ）
日記をつける時，人は「Ｅ」と書く事で私秘的対象（が存在したこと）を記述しているように思われるかもしれないが，私的言語「Ｅ」派実は「記述」としては成立していない.
＊ 「Ｅ」は名辞であるが故に名指しはしても記述はできない，ということになるのではないか，と考える人がいよう． 従がって，「Ｅ」は「E という名の感覚が生じた」という意味を持つ一語文である，との注記を加えたほうがよろしかろう.
記述の言語行為は，その真偽を問う，という言語実践と結びついている.
対して，ここで「Ｅ」の「感覚記述」と称されているものからは，真偽を問う一切の手立てがないからである．
ＰＵI−§２５８ ・・・正しい基準がなく，正しいと思われるものが正しい，としか言われえない際には，そこでは「正しさ」について語ることができない（ 内容要約 ）
つまり「私には，Ｅである，と思われる」と実際に「Ｅである」こととの間に間隙（前者が真で後者が偽，またその反対――の少なくとも一方＊――があること）がある時にのみ，発話「Ｅである」の正しさは問われえる.
そして，その間隙が存在するためには，「私にはＥと思われる」ということから独立の何らかの根拠が必要である．
＊ 一方のみで可なのか両方があって始めて可なのか，は考えてみたい．
ｃｆ.§２６５ 「正当化はひとが何かから独立したところに訴えることによって成立する」
反論の問題点
「私が痛みを感じていると思われる」が「私は痛みを感じている」と同義に扱われるための条件として，わたしが「痛み」という語を正しく用いていることが挙げられる.
公共言語に於ける感覚記述には，その真偽についての一人称特権が存在する．
だから，「正しく」感覚語を用いている限り，感覚の帰属者当人による感覚記述は（特段の疑うに足る事由が無い限り）真とみなされる.
だが，真とそのまま認められるのは彼／女が「正しく」感覚語を用いている限りである
＊ しかし，二人称・三人称において「痛い」「痛み（を持つ）」を正しく使える事は，直ちに一人称においても彼／女が「痛い」「痛み（を持つ）」を意味しないであろう． すると，二・三人称における正則的な語使用に基づいての一人称特権付与には，なおも（不完全ながらも）私秘的要素が加わらないだろうか？ あたかも，「ある感覚が生じたときにはわたしは「Ｅ」とかく」と主張する人が或るときにはその当該感覚が生じたと主張しつつ「∃」とか「Ａ」とかと書いてしかも「これは感覚Ｅが生じたから「Ｅ」と書いたのだ，同一の記号なのだ」という主張が疑義を持たれえるように，不完全な反＝私秘性は，一人称特権同様に「Ｅ」にもあるようにも思われなくもない．
――ここに，「私は痛みを感じていると思われる」と「私は痛みを感じている」の間の間隙がある.
「私は痛みを感じていると思われる」は「私が感じているこれは「痛み」と呼ばれるものだと思われる」をも意味する
両者は同義ではない.
＊ 感覚語の誤認的使用がありえるから，「これ」が分析的に「痛み」を意味するわけではないからである
公共言語において，ある人が「痛み」という語を正しく理解しているかどうかに対しては，その人がどう思うかとは独立の基準が与えられる（cf.ＰＵI-§２６９）
「私が痛みを感じていると思われる」が「私は痛みを感じている」と同義に扱われるための条件として，わたしが「痛み」という語を正しく用いていることが挙げられる.
公共言語に於ける感覚記述には，その真偽についての一人称特権が存在する．
だから，「正しく」感覚語を用いている限り，感覚の帰属者当人による感覚記述は（特段の疑うに足る事由が無い限り）真とみなされる.
だが，真とそのまま認められるのは彼／女が「正しく」感覚語を用いている限りである
＊ しかし，二人称・三人称において「痛い」「痛み（を持つ）」を正しく使える事は，直ちに一人称においても彼／女が「痛い」「痛み（を持つ）」を意味しないであろう． すると，二・三人称における正則的な語使用に基づいての一人称特権付与には，なおも（不完全ながらも）私秘的要素が加わらないだろうか？ あたかも，「ある感覚が生じたときにはわたしは「Ｅ」とかく」と主張する人が或るときにはその当該感覚が生じたと主張しつつ「∃」とか「Ａ」とかと書いてしかも「これは感覚Ｅが生じたから「Ｅ」と書いたのだ，同一の記号なのだ」という主張が疑義を持たれえるように，不完全な反＝私秘性は，一人称特権同様に「Ｅ」にもあるようにも思われなくもない．
――ここに，「私は痛みを感じていると思われる」と「私は痛みを感じている」の間の間隙がある.
「私は痛みを感じていると思われる」は「私が感じているこれは「痛み」と呼ばれるものだと思われる」をも意味する
両者は同義ではない.
＊ 感覚語の誤認的使用がありえるから，「これ」が分析的に「痛み」を意味するわけではないからである
公共言語において，ある人が「痛み」という語を正しく理解しているかどうかに対しては，その人がどう思うかとは独立の基準が与えられる（cf.ＰＵI-§２６９）
対して，私的言語＜Ｅ＞では，事実認識の正しさと意味理解の正しさが（完全に −といいたいのであろう）癒着している．
「Ｅ」と書き付けることと独立にそれを真偽及び意味理解の正誤に関して評価する観点が存在しない.
＊ これについては前投稿を参照のこと． 「∃」が「Ｅ」であるという主張は記号の同定性についての問題であると同時に「∃」がかかれた時に果たして「Ｅ」が生じたのか？という真偽についての問題でもありえるように思われる．
かくして――と著者はいう――「Ｅ」に対しては，真偽を言うことも意味理解の正誤を言うことも，意味をなさない.
( とりあえずは，これで私的言語批判として一段落した，ということができる. ）
「Ｅ」と書き付けることと独立にそれを真偽及び意味理解の正誤に関して評価する観点が存在しない.
＊ これについては前投稿を参照のこと． 「∃」が「Ｅ」であるという主張は記号の同定性についての問題であると同時に「∃」がかかれた時に果たして「Ｅ」が生じたのか？という真偽についての問題でもありえるように思われる．
かくして――と著者はいう――「Ｅ」に対しては，真偽を言うことも意味理解の正誤を言うことも，意味をなさない.
( とりあえずは，これで私的言語批判として一段落した，ということができる. ）
著者は，更に私的言語の可能性をＷのテクストを離れても追求する．
真偽を言うこと,意味理解の正誤を言うことが出来ないことは，即ち一般化するなら言語にとって規範性がないということは果たして（いかほど）致命的なのか？
（これは丹治・信原に対する挑戦でもあろう）
動物界の言語を見れば，規範性のない言語は多数存在する．
そこで，サールが「構成的規則 constitutive rule 」と「統制的規則 regulative rule 」と規定した概念に対応するものを採用し，規範性を二分する.
例えば，将棋をさすのに（�顱砲海泙瞭阿�し方等ゲームを構成する規範 （�髻望，弔燭瓩砲呂海�指さねばならないという「戦術的な規範」の二つがある
（�顱砲魑�範性とよび（�髻砲鮑播�性と呼ぶものとする．
すると，鳥のさえずりは，最適性にはかなっているが規範性を欠いている.
とはいえ，雌を誘う事を目的とした伝達の手段としてさえずり，それが目的を成就したり失敗したりするのだから，鳥のさえずりは言語といってよいではないのか？
だとしたら,私的言語＜Ｅ＞は，鳥のさえずりの範疇における言語といえるのではないか？
＊ 下記に於いて，私的言語＜Ｅ＞においては，鳥のさえずりと異なりその規範性の欠如がその言語性にとって致命的であることが論じられている． しかし，鳥の場合と異なりそもそも私的言語＜Ｅ＞は規範性のみならず最適性も欠いているのではないか？ とすれば，私的言語＜Ｅ＞を鳥のさえずりと同類に扱うこと自体があやまりであり，この点において既に私的言語＜Ｅ＞は鳥のさえずりが言語である程度ですら言語ではない，ということになるのではないだろうか？
真偽を言うこと,意味理解の正誤を言うことが出来ないことは，即ち一般化するなら言語にとって規範性がないということは果たして（いかほど）致命的なのか？
（これは丹治・信原に対する挑戦でもあろう）
動物界の言語を見れば，規範性のない言語は多数存在する．
そこで，サールが「構成的規則 constitutive rule 」と「統制的規則 regulative rule 」と規定した概念に対応するものを採用し，規範性を二分する.
例えば，将棋をさすのに（�顱砲海泙瞭阿�し方等ゲームを構成する規範 （�髻望，弔燭瓩砲呂海�指さねばならないという「戦術的な規範」の二つがある
（�顱砲魑�範性とよび（�髻砲鮑播�性と呼ぶものとする．
すると，鳥のさえずりは，最適性にはかなっているが規範性を欠いている.
とはいえ，雌を誘う事を目的とした伝達の手段としてさえずり，それが目的を成就したり失敗したりするのだから，鳥のさえずりは言語といってよいではないのか？
だとしたら,私的言語＜Ｅ＞は，鳥のさえずりの範疇における言語といえるのではないか？
＊ 下記に於いて，私的言語＜Ｅ＞においては，鳥のさえずりと異なりその規範性の欠如がその言語性にとって致命的であることが論じられている． しかし，鳥の場合と異なりそもそも私的言語＜Ｅ＞は規範性のみならず最適性も欠いているのではないか？ とすれば，私的言語＜Ｅ＞を鳥のさえずりと同類に扱うこと自体があやまりであり，この点において既に私的言語＜Ｅ＞は鳥のさえずりが言語である程度ですら言語ではない，ということになるのではないだろうか？
わたしは＜何かに＞促されて「Ｅ」と書いた.
しかし，「Ｅ」と書くたびに，「Ｅ」と書くよう促したことが同一か否かはまったくわからない．
つまり，その書くことを促しめた体験は「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」としてしか個別化できない.
ということは記号「Ｅ」が指示するものとは，「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」である.
つまり，なんであれ「Ｅ」が指示するものを「Ｅ」は指示する，といっているに過ぎない． 言い換えれば「Ｅ」では指示は成立していない＊.
＊ 指示が成立していない（ もしくは少なくとも指示が完全に不可測である ）としても，それが言語であるなしに関わるのであろうか？ 指示が成立していることは言語であること――すくなくともそれがある言語的機能を持つこと――を保障するであろうが，一つの言語機能を持たないからといって，それが直ちに言語ではないことを帰結しはしない． そもそも，指示の不可測性をもって言語でないことの論証になるのなら，すべての言語は言語ではない，ということを帰結しはしまいか？
しかし，「Ｅ」と書くたびに，「Ｅ」と書くよう促したことが同一か否かはまったくわからない．
つまり，その書くことを促しめた体験は「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」としてしか個別化できない.
ということは記号「Ｅ」が指示するものとは，「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」である.
つまり，なんであれ「Ｅ」が指示するものを「Ｅ」は指示する，といっているに過ぎない． 言い換えれば「Ｅ」では指示は成立していない＊.
＊ 指示が成立していない（ もしくは少なくとも指示が完全に不可測である ）としても，それが言語であるなしに関わるのであろうか？ 指示が成立していることは言語であること――すくなくともそれがある言語的機能を持つこと――を保障するであろうが，一つの言語機能を持たないからといって，それが直ちに言語ではないことを帰結しはしない． そもそも，指示の不可測性をもって言語でないことの論証になるのなら，すべての言語は言語ではない，ということを帰結しはしまいか？
私的言語「Ｅ」では，使用の観点から独立な評価の観点を提供できない．
これが，「他人には理解できない言語」であることのポイントである．
動物が（彼等にとっての）自然的記号に反射的に規則的反応を示すとしても，それが規範的記号でありえないのは，動物が自己の行動を評価する観点をもっていないからである＊．
＊ 動物の内面に立ち入った言明は，権利侵犯であるように思われる． 「我々にとって動物が自己の行動を評価する観点をもっているものとしては立ち現れていない／告げ知らされ得ない」といえば十分であろう．
「他人には理解できない言語」は使用の観点と評価の観点という二重の観点を持ち得ない事を意味している．
それゆえ，私的言語「Ｅ」は規範性を持たない.
また，記述だけがその使用として想定されているのだから，規範性の欠如は（最適性が示唆する）一切の機能を持たないことを意味する．
＊ またもやお得意のアスペクト盲の話しと使用の場面と正当化の場面の二重性の話しとが出てくる．――黒崎さんを批判する割りにけっこう著者自身も金太郎飴的に思えてきた．
従がって，私的言語「Ｅ」はもっとも弱い意味に於いてすら言語ではない＊.
＊ 規範性も機能（最適性）も持たないが，記号表現のやりとりだけで成立している言語，というものは想定できないか？ できるならば，その意味での言語で私的言語「Ｅ」はあり得るのではないか？
これが，「他人には理解できない言語」であることのポイントである．
動物が（彼等にとっての）自然的記号に反射的に規則的反応を示すとしても，それが規範的記号でありえないのは，動物が自己の行動を評価する観点をもっていないからである＊．
＊ 動物の内面に立ち入った言明は，権利侵犯であるように思われる． 「我々にとって動物が自己の行動を評価する観点をもっているものとしては立ち現れていない／告げ知らされ得ない」といえば十分であろう．
「他人には理解できない言語」は使用の観点と評価の観点という二重の観点を持ち得ない事を意味している．
それゆえ，私的言語「Ｅ」は規範性を持たない.
また，記述だけがその使用として想定されているのだから，規範性の欠如は（最適性が示唆する）一切の機能を持たないことを意味する．
＊ またもやお得意のアスペクト盲の話しと使用の場面と正当化の場面の二重性の話しとが出てくる．――黒崎さんを批判する割りにけっこう著者自身も金太郎飴的に思えてきた．
従がって，私的言語「Ｅ」はもっとも弱い意味に於いてすら言語ではない＊.
＊ 規範性も機能（最適性）も持たないが，記号表現のやりとりだけで成立している言語，というものは想定できないか？ できるならば，その意味での言語で私的言語「Ｅ」はあり得るのではないか？
３． 複雑な私的言語
複雑（に見える）私的言語について考察してみる．
即ち，複数の心的諸体験を想定し，それらに呼応（するように）「Ｅ」に加え「Ｆ」等を追加する．
ここで，体験Ｅと体験Ｆとには相関がある（Ｅが生起すればＦも生起し，Ｅが生起しないならばＦも生起しない）ように思われるとする．
すると,私的言語「Ｅ」の場合と異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には「私にはＥであると思われる」と「Ｅ」との間に間隙が生じるように一見思われる.
というのは，Ｅが生じたのにＦが生じなかった場合（ もしくはＥが生じなかったのにＦが生じた場合）予測と事実が異なるから，Ｅではなかったのかもしれない（Ｅだったのかもしれない）という懐疑が生じ得るように思われるから．
もし，それが生じ得るなら，私的言語「Ｅ」とは異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には規範性が生じ得（ また予測という最適性も生じ得），従がって，私的言語一般が存在し得ない，という主張は過ちであるのかもしれない.
複雑（に見える）私的言語について考察してみる．
即ち，複数の心的諸体験を想定し，それらに呼応（するように）「Ｅ」に加え「Ｆ」等を追加する．
ここで，体験Ｅと体験Ｆとには相関がある（Ｅが生起すればＦも生起し，Ｅが生起しないならばＦも生起しない）ように思われるとする．
すると,私的言語「Ｅ」の場合と異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には「私にはＥであると思われる」と「Ｅ」との間に間隙が生じるように一見思われる.
というのは，Ｅが生じたのにＦが生じなかった場合（ もしくはＥが生じなかったのにＦが生じた場合）予測と事実が異なるから，Ｅではなかったのかもしれない（Ｅだったのかもしれない）という懐疑が生じ得るように思われるから．
もし，それが生じ得るなら，私的言語「Ｅ」とは異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には規範性が生じ得（ また予測という最適性も生じ得），従がって，私的言語一般が存在し得ない，という主張は過ちであるのかもしれない.
（�顱烹鼎硲討箸�何の相関性もなしに無関係に生起する場合
この場合には，二つの私的言語（私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」とが立てられる）．
しかし，この場合，それぞれに，唯一つのタイプを心的対象としてもつ私的言語であるから，私的言語「Ｅ」の場合の批判が全面的に妥当する．
即ち，これら「心的体験」はいずれも心的対象のタイプとして存立しえず，またこれらの「私的言語」は言語ではない．
（�髻烹鼎硲討箸料蟯悗�必然的である場合
心的体験ＥとＦとを二つの独立な心的体験として分節化する意味が失われ，両者は概念上癒着しその全体を体験「Ｇ」とでも呼ぶべき一つの体験に変じてしまう．
したがって，この場合は唯一つの心的体験Ｇを持つ私的言語「Ｇ」の存立可能性が問題とされ，それは否定される．
この場合には，二つの私的言語（私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」とが立てられる）．
しかし，この場合，それぞれに，唯一つのタイプを心的対象としてもつ私的言語であるから，私的言語「Ｅ」の場合の批判が全面的に妥当する．
即ち，これら「心的体験」はいずれも心的対象のタイプとして存立しえず，またこれらの「私的言語」は言語ではない．
（�髻烹鼎硲討箸料蟯悗�必然的である場合
心的体験ＥとＦとを二つの独立な心的体験として分節化する意味が失われ，両者は概念上癒着しその全体を体験「Ｇ」とでも呼ぶべき一つの体験に変じてしまう．
したがって，この場合は唯一つの心的体験Ｇを持つ私的言語「Ｇ」の存立可能性が問題とされ，それは否定される．
（�鵝砲茲辰董て鵑弔凌甘�体験を認めるためには，ＥはＦを偶然的に後続させ，ＦはＥに偶然的に先行させるのである（よって必然的ではない）
従がって，Ｅが生起しかつＦが生起しない場合，Ｅが生起せずＦが生起する場合，の存立を認めねばならない.
ところが，このことはＦの生起と独立にＥの生起の有無が問いいえ，Ｅの生起と独立にＦの生起が問い得る事を意味する．
したがって，ＥとＦとの偶然的継起関係の認定は，私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」という単純な二つの私的言語の存立を認めることである．
＊ なぜなら，複雑な私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が本質的に複雑であるのであれば，相互独立な心的対象の認定は不可能なはずだからである．
よって，複雑な私的言語〔と称されたもの〕は単純な私的言語の組み合わせに過ぎない．
よって，複雑な私的言語も（その構成素である単純な私的言語が存在し得ない以上）存在し得ない．
従がって，Ｅが生起しかつＦが生起しない場合，Ｅが生起せずＦが生起する場合，の存立を認めねばならない.
ところが，このことはＦの生起と独立にＥの生起の有無が問いいえ，Ｅの生起と独立にＦの生起が問い得る事を意味する．
したがって，ＥとＦとの偶然的継起関係の認定は，私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」という単純な二つの私的言語の存立を認めることである．
＊ なぜなら，複雑な私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が本質的に複雑であるのであれば，相互独立な心的対象の認定は不可能なはずだからである．
よって，複雑な私的言語〔と称されたもの〕は単純な私的言語の組み合わせに過ぎない．
よって，複雑な私的言語も（その構成素である単純な私的言語が存在し得ない以上）存在し得ない．
著者に依れば，おそらくは，表出や脈絡から切り離された純粋な私秘的領域は，被分節化構造を持ち得ない．
未分節の状態で展開する非概念的な刺激の場＜意味不詳＞のようなものだ.
つまり，それは「語られる以前の自然」である.
そのような非概念的な刺激の場に促されて，人はあるときに「Ｅ」とあるときに「Ｆ」と書く．
これだけでは，そのような行動をとらせた原因としての感覚を記述する言語をその人は未だ有してはいない.
（なぜなら，未だ，指示関係が成立していないからだ． ）
「Ｅ」や「Ｆ」がそうした刺激の場を分節するためには，それらの記号が真理値を付与されるものとならなければ（ 即ち記述とならなければ ）ならない．
「Ｅ」や「Ｆ」が記述となるということは，ＥやＦが記述可能になる，ということである．
未分節の状態で展開する非概念的な刺激の場＜意味不詳＞のようなものだ.
つまり，それは「語られる以前の自然」である.
そのような非概念的な刺激の場に促されて，人はあるときに「Ｅ」とあるときに「Ｆ」と書く．
これだけでは，そのような行動をとらせた原因としての感覚を記述する言語をその人は未だ有してはいない.
（なぜなら，未だ，指示関係が成立していないからだ． ）
「Ｅ」や「Ｆ」がそうした刺激の場を分節するためには，それらの記号が真理値を付与されるものとならなければ（ 即ち記述とならなければ ）ならない．
「Ｅ」や「Ｆ」が記述となるということは，ＥやＦが記述可能になる，ということである．
複雑な私的言語（と称されるもの）において，Ｅが生じた＜と思われる＞ことからＦの生起を予測しその予測が外れる〔ように思われる〕ことは，起こりえるように思われるかもしれない．
しかし,「Ｅ」「Ｆ」は単独で記述として成立してはいない．
とすると実はなされていることは下記である．
（１）人は何らかの刺激に促され「Ｅ」と書く．
（２）人は「私は「Ｆ」と書くであろう」，と予測する．
（３）しかし，人は「Ｆ」と書かないで終わる.
つまり，予測されるのは体験Ｆを持つことではなく「私が「Ｆ」と書く」ことであり，その根拠となるのは体験Ｅを持つことではなく「私が「Ｅ」と書いた」ことである．
すなわち，ここで行われていることは，そして仮設されている経験法則も，公共言語のうちに他ならない．
従がって，この予測の想定はなんら私的言語の存立可能性を示唆するものでもない.
しかし,「Ｅ」「Ｆ」は単独で記述として成立してはいない．
とすると実はなされていることは下記である．
（１）人は何らかの刺激に促され「Ｅ」と書く．
（２）人は「私は「Ｆ」と書くであろう」，と予測する．
（３）しかし，人は「Ｆ」と書かないで終わる.
つまり，予測されるのは体験Ｆを持つことではなく「私が「Ｆ」と書く」ことであり，その根拠となるのは体験Ｅを持つことではなく「私が「Ｅ」と書いた」ことである．
すなわち，ここで行われていることは，そして仮設されている経験法則も，公共言語のうちに他ならない．
従がって，この予測の想定はなんら私的言語の存立可能性を示唆するものでもない.
４． 私的言語から公共言語への転回点
私的言語「Ｅ」と感覚についての公共言語（e.g.「痛い」）との差
ＰＵI-§２７０
この節には不明な点がある，と著者はいう．
「この言語ゲームにおけるこの記号の用いられ方によって( Vielleicht die Art und Weise, wie dies Zeichen in diesem Sprachaspiel verwndet wird. )」とＷが述べているところ．
「この言語ゲーム」とはどのような言語ゲームか？ おそらくは，ある心的体験に促されて人は記号「Ｅ」と書き，それに基づいて血圧の上昇を予測し，次に血圧を血圧計で確認する，というもの．
だが，この活動のどこに「Ｅ」が感覚を表すものであるとされる根拠は示されているか？
人が心的体験に促されて「Ｅ」と書くことは心的記述にならないことはすでに明らかである．
だからといって，「Ｅ」と書くことに，血圧の上昇との相関が加えられても，「Ｅ」が感覚記述としての文法を持つには不十分なものがある，と著者は言う．
私的言語「Ｅ」と感覚についての公共言語（e.g.「痛い」）との差
ＰＵI-§２７０
この節には不明な点がある，と著者はいう．
「この言語ゲームにおけるこの記号の用いられ方によって( Vielleicht die Art und Weise, wie dies Zeichen in diesem Sprachaspiel verwndet wird. )」とＷが述べているところ．
「この言語ゲーム」とはどのような言語ゲームか？ おそらくは，ある心的体験に促されて人は記号「Ｅ」と書き，それに基づいて血圧の上昇を予測し，次に血圧を血圧計で確認する，というもの．
だが，この活動のどこに「Ｅ」が感覚を表すものであるとされる根拠は示されているか？
人が心的体験に促されて「Ｅ」と書くことは心的記述にならないことはすでに明らかである．
だからといって，「Ｅ」と書くことに，血圧の上昇との相関が加えられても，「Ｅ」が感覚記述としての文法を持つには不十分なものがある，と著者は言う．
人が彼/女の予測が外れた場合を考えてみる．
即ち，「Ｅ」と書き，血圧の上昇を予測し，その予測が外れる，とする．
間違いの可能性（１） 血圧は上昇していない，との判断が誤り
→観測関係をすべてチェックし，確かに血圧が上昇していないことを確認
間違いの可能性（２） Ｅと血圧の上昇の相関には例外がある
→この可能性を認めるには，血圧の上昇から独立にＥの生起を認めねばならない
しかし，これは既に私的言語「Ｅ」の不可能性で否定されている．
間違いの可能性（３） 「Ｅ」と欠いたことが間違いだった
→この言語ゲームにおいては，記号「Ｅ」が記述として真理値を付与されるとしても，その真理条件は血圧の上昇に他ならない
したがって，「Ｅ」が記述するのは，血圧の上昇であって，心的体験ではない．
即ち，「Ｅ」と書き，血圧の上昇を予測し，その予測が外れる，とする．
間違いの可能性（１） 血圧は上昇していない，との判断が誤り
→観測関係をすべてチェックし，確かに血圧が上昇していないことを確認
間違いの可能性（２） Ｅと血圧の上昇の相関には例外がある
→この可能性を認めるには，血圧の上昇から独立にＥの生起を認めねばならない
しかし，これは既に私的言語「Ｅ」の不可能性で否定されている．
間違いの可能性（３） 「Ｅ」と欠いたことが間違いだった
→この言語ゲームにおいては，記号「Ｅ」が記述として真理値を付与されるとしても，その真理条件は血圧の上昇に他ならない
したがって，「Ｅ」が記述するのは，血圧の上昇であって，心的体験ではない．
仮に，血圧の上昇をなんらかの振る舞いで置き換えるならば，「Ｅ」は振る舞いと相関し，振る舞いを記述するものとなる.
この場合，単純な行動主義になる．
よって，『探求』第２７０節におけるヰトゲンシュタインは，私的言語を否定したものの，行動主義的言語に帰着してしまっている．
しかし，ヰトゲンシュタインは，彼が行動主義者である事を（ＰＵI-§３０７，３０８で）否定する．
「私は痛みを感じている」のような（一人称現在単数の感覚）文は，人の振る舞いの記述でも，振る舞いの傾向性でもない（いずれも行動主義）とＷは考えていた．
更に，Ｗは心的体験の存在を否定しない．
*どうやって心的体験の存在を認めるのか，不詳．
日常言語に於いて（多く）「痛み」は感覚記述として用いられることをＷは認める.
ただし，Ｗは「痛み」という語を痛みそのものの心的出来事と「つきあわせ，そのことによってのみ成立するような純粋な記述から始まる」という言語思考を否定する．
ここでＰＵI-§２５７−−感覚日記を導入する直前−−に注目すべき．
命名はという言語的行為の成立は，言語に既に多くのことが用意され，文法が用意されていることを必要としている．
この場合，単純な行動主義になる．
よって，『探求』第２７０節におけるヰトゲンシュタインは，私的言語を否定したものの，行動主義的言語に帰着してしまっている．
しかし，ヰトゲンシュタインは，彼が行動主義者である事を（ＰＵI-§３０７，３０８で）否定する．
「私は痛みを感じている」のような（一人称現在単数の感覚）文は，人の振る舞いの記述でも，振る舞いの傾向性でもない（いずれも行動主義）とＷは考えていた．
更に，Ｗは心的体験の存在を否定しない．
*どうやって心的体験の存在を認めるのか，不詳．
日常言語に於いて（多く）「痛み」は感覚記述として用いられることをＷは認める.
ただし，Ｗは「痛み」という語を痛みそのものの心的出来事と「つきあわせ，そのことによってのみ成立するような純粋な記述から始まる」という言語思考を否定する．
ここでＰＵI-§２５７−−感覚日記を導入する直前−−に注目すべき．
命名はという言語的行為の成立は，言語に既に多くのことが用意され，文法が用意されていることを必要としている．
感覚に関する公共言語の言語実践のあり方へのみ通し.
感覚記述が＜われわれ＞の言語実践に登場するためには，いったん表出によって公共の場で形を与えられた心的経験が，あらためて表出から切り離されることが必要となる．
第２７０節の血圧の上昇においては，その切り離しがされていないので行動主義的になった．
対して，日常言語の語「痛み」の場合，痛みのふりや痛くないふりをも出来る．
これは，ある傾向性に従がった表出に対して教育によって学んだ語を，ひとたび学習した後は傾向性に従わずに発話できるようになる． 「××のふり」である．
この「ふり」の導入が，実際に痛みを伴っている「痛い」の発話，痛みを伴わない「痛い」の発話，といった感覚それ自身を発話とは別個に語らざるを得なくなる．
この感覚語の発話可能性と感覚自体との分離しての導入こそ，当初の非概念的な刺激の場を，「痛み」「痒み」「くすぐったさ」等の諸感覚に分節化する.
かくして，人は，語られる以前の自然に触発されて，言語使用によって，その自然を語る，ということが可能になる．
ここでは規則のパラドクスの議論における「語られる以前の自然としての数える能力を利用して「＋ｎ」という規則が導入され，その特殊ケース「＋１」としてその自然を語りだすことが可能になる」と同型の構造が成り立っている．
感覚記述が＜われわれ＞の言語実践に登場するためには，いったん表出によって公共の場で形を与えられた心的経験が，あらためて表出から切り離されることが必要となる．
第２７０節の血圧の上昇においては，その切り離しがされていないので行動主義的になった．
対して，日常言語の語「痛み」の場合，痛みのふりや痛くないふりをも出来る．
これは，ある傾向性に従がった表出に対して教育によって学んだ語を，ひとたび学習した後は傾向性に従わずに発話できるようになる． 「××のふり」である．
この「ふり」の導入が，実際に痛みを伴っている「痛い」の発話，痛みを伴わない「痛い」の発話，といった感覚それ自身を発話とは別個に語らざるを得なくなる．
この感覚語の発話可能性と感覚自体との分離しての導入こそ，当初の非概念的な刺激の場を，「痛み」「痒み」「くすぐったさ」等の諸感覚に分節化する.
かくして，人は，語られる以前の自然に触発されて，言語使用によって，その自然を語る，ということが可能になる．
ここでは規則のパラドクスの議論における「語られる以前の自然としての数える能力を利用して「＋ｎ」という規則が導入され，その特殊ケース「＋１」としてその自然を語りだすことが可能になる」と同型の構造が成り立っている．
０.
ＰＵでＷはＰＬ批判を行う．しかし
その議論がどのようなものであるか，すなわち
（�顱砲修竜掴世波麁颪気譴討い襪發里浪燭任△襪�
（�髻砲修譴鬘廚呂匹θ稟修靴討い襪里�
（�鵝烹廚裡丕免稟修寮眛昔呂惑＿燭任△襪�
これらは未だ不明確である．
著者は，これらについて一応の解答を試みる．
ＷのＡ−ＰＬＡについての素直な一解釈は反デカルト主義の文脈におく事．
だが，筆者は，＜一旦＞反デカルト主義からＡ−ＰＬＡを切り離す．
代わりに，自然主義と（規約主義との）微妙な緊張関係の基にＡ−ＰＬＡを定位する．
ＰＵでのＡ−ＰＬＡを論じるには少なくともＰＵの最初から論じるのが必須である． しかし，それには紙面が少なすぎるので，本稿では規則のパラドクスから考察を始める．
ＰＵI§１８５〜２４２：規則遵守を巡る議論
ＰＵI§２４３〜２６０：私的言語批判
クリプキは，（�顱傍�則遵守論に懐疑論を見出し（�髻剖ζ餌療�解決を与え（�鵝忙篥�言語批判を規則遵守論の／共同体的解決の派生系，と考えた．
著者は，（�顱法繊放鵝砲硫燭譴鯊爐韻襪�，規則のパラドクスと私的言語批判の密接な関連を認める．
「規則のパラドクスを検討することによって，なぜ私的言語が批判のターゲットになるのかが，クリプキとは違った仕方で見えてくるだろう」
１． なぜ私的言語が問題になるのか
ＰＵI−§１８５で，Grundzahl（仮訳「自然数」）Kardinalzahl（仮訳「基数」）という両語を用いる――一見区別するポイントがなさそうなところでＷは何故両語を使っているのか？
ｎ＝１の場合：Grundzahl
ｎ≠１の場合：Kardinalzahl と区別しているのだろう
では何故区別しているのか？
「＋２」に逸脱する生徒は「＋１」にも「自然数を書け」にも「1000，1002,1004・・・」と逸脱をするように思われる．
しかし，彼に「自然数1001はどうした？」と問うならば「1001？ そんな数はない」と答えるであろう． 即ち，彼の逸脱は我々と同じ自然数概念を有する者の＜表記の逸脱＞であって，＜自然数概念の逸脱＞ではない．
操作の回数を数える事：自然数
操作の回数が数えられた結果として得られる答え：基数
規則のパラドクスが示唆する逸脱の可能性は，基数についてのものであり，自然数についてのものではない
∴ 自然数について逸脱は考えられ得ない.
cf.priniciple of charityを働かさなければ，逸脱を言い立て得ないだろうか？ その際は，そもそも逸脱ではなく，無意味になるのだろうか？
ＰＵI−§１８５冒頭 生徒は自然数の列を習得済みであり,その上で「＋ｎ」という命令に従うことを教えられる.
その特殊事例として,「＋１」という命令があり，その命令に従うことは自然数の列を生む.
だが，その生徒は「＋１」という命令に従う事を教えられるに先立って，自然数を習得していなければならない.
従がって，自然数の習得は命令「＋１」に従うことを教えられる事によって学ばれるのではない.
＜一般化していえば＞自然数は規則の提示によって学ばれるのではない.
＊ では，どうやって学ぶのか． おそらくは，単純訓練（ Abrichitung ）によって，である.
Ｗならこういうであろう「数えることは，歩く，食べる，飲む，遊ぶといったことと同様，われわれの自然誌に属している」（cf.ＰＵ?―§２５）
＊ 著者のこの発言は，一見単純訓練によって初めて自然数が学ばれる，という筆者の注釈と異なって見えるかもしれない． しかし，少なくとも「遊ぶ」ことは何らかの文化的文脈を含んで学ばれることなしには成立しないものである――他の歩く・食べる・飲むもより原始的であり，かつ文化的文脈は不要であるのかもしれないが，単純訓練によることなしに生得的に発現するものではないであろう. この点に関して，著者の「自然誌」理解を問いただすこと.
（「＋１」という規則が教えられる以前に既に子は自然数の自然誌の世界に生きてはいる. しかし，その自然誌を彼／女は語り出すことが未だ出来ない. ）
（数える能力が所有されるところで）「＋１」という規則の基で，自然数の列が書き出される.
即ち,「語られる以前の自然としての数える能力を利用して規則が導入され，その規則を用いて自然誌を語り出すことが可能になる」構造がここにある.
語られる以前の自然・規則が規則として有効であるために必要とされる自然，
：ＷがＬＰＡで見落としていた
：ＷがＰＵにおいて探り出そうとしていた「ザラザラした大地」である
ものとしての「大地」は想定されていなかったか．
この「ザラザラした大地」の要請は，「規範的秩序を自然的秩序として語り出すことではないから，「自然主義」ではない」．
――戯れに（通常の形而下的もしくは対象的「自然主義」にたいして，「超越論的自然主義」と読んでみよう ）
＊ すなわち，通常の数学的自然主義は数学の営み・その成果という対象が自然経験に基づいている，と主張するのに対し，超越論的自然主義では，数学の営みそれ自体は規範的・非＝自然主義的な営為なのだが，その存立条件としてア・プリオリに課される一定の条件の一つが自然主義的な諸事実（としての反応・能力）なのである．
かくして，規則のパラドクスを通じて，＜自然誌的秩序と規範・言語との関係＞ ＜語られる以前の自然と語ることとの関係＞という問題が浮上する．
一方で，語ることにとって，＜われわれ＞（共同体／世間）というあり方,社会・制度といったものは本質的である．
――数の例に於いては，このレヴェルでは既に規範が生じてきている
他方で，人が，自然誌的秩序に服するには，＜われわれ＞も社会も制度も必要ない
――ここではまだ依然として規範が生じてこない
即ち，自然誌的秩序なくしては規範は解体するが，自然誌的秩序のみでは規範の存立には不十分である
――この洞察をＰＬ問題を巡るＰＵの核心である，と著者は考える．
以降，その ＜私一人が自然誌的秩序に服する世界＞−−広義でか狭義でかはともかく私的言語・私秘的言語の世界 と，＜わたしが一人で自然誌的秩序に服している世界からの歩み出し＞の仕方と
＝＝これらはＷが私秘的言語の（あり方・可能性）という思考実験 において想定していたところの企図対象である．
２． 私的言語＜Ｅ＞の不可能性
私的言語は§２５６節で導入される.
その一事例として，§２５８において＜感覚日記＞が想定される．
私に，ある種の心的体験が繰り返し起こる（ように思われ），それを私は「Ｅ」と名づける． そして，その心的体験が生じた（と思われる日には必ず記号（？）「Ｅ」を日記に書き込む．
――ここでは，心的体験として「Ｅ」にまつわるもののみが考えられ他種のものは想定されていない，というのがポイント．
著者は，この＜言語＞を「私的言語＜Ｅ＞」と名づける．
私的言語＜Ｅ＞はわれわれの日常言語ではない．
何故なら，日常言語に於いては，人は彼自身の感覚について語り得，かつ他者はそれを理解し得る，から。
対して，私的言語＜Ｅ＞は（ただ記号「Ｅ」が何らかの私秘的対象を指示するのみであって）「第三者的に観察可能ないっさいの手がかりを欠いている」が故に，「本人以外には全く理解しようもない言語」なのである．
＊ 論点先取 前者から後者は直ちに出てきはしない． 本人の書き込みＥをみて，ああＥがあったんだな，等と他者が考えることが理解ではない事を論じなければ，前者から後者を推論することはできない． Ｗにおいてはむしろ定義として後者が与えられてしまっている． （ この両者の関係を探るのは興味深いことであるかもしれない． ）
この私的言語＜Ｅ＞が，「もし対象との面識によって指示関係が成立し，それによって何らかの言語使用が可能になると考えられるのであれば，ここに「言語」を見て取るのは可能である」
＊ まず，指示関係と言語使用との双方が，「Ｅ」が言語であるための要件か？ 第二に可能となる「何らかの言語使用」とはいかなる範囲のことがらを著者は考えているのか？
一見，「Ｅ」となんらかの私秘的対象という「二つの異なるもの」の間には∧関係が成立しているようにも思われる（ が，もちろん，実際には成立していない． ）
日記をつける時，人は「Ｅ」と書く事で私秘的対象（が存在したこと）を記述しているように思われるかもしれないが，私的言語「Ｅは実は「記述」としては成立していない.
＊ 「Ｅ」は名辞であるが故に名指しはしても記述はできない，ということになるのではないか，と考える人がいよう． 従がって，「Ｅ」は「E という名の感覚が生じた」という意味を持つ一語文である，との注記を加えたほうがよろしかろう.
記述の言語行為は，その真偽を問う，という言語実践と結びついている.
対して，ここで「Ｅ」の「感覚記述」と称されているものからは，真偽を問う一切の手立てがないからである．
ＰＵI−§２５８ ・・・正しい基準がなく，正しいと思われるものが正しい，としか言われえない際には，そこでは「正しさ」について語ることができない
つまり「私には，Ｅである，と思われる」と実際に「Ｅである」こととの間に間隙（前者が真で後者が偽，またその反対――の少なくとも一方＊――があること）がある時にのみ，発話「Ｅである」の正しさは問われえる.
そして，その間隙が存在するためには，「私にはＥと思われる」ということから独立の何らかの根拠が必要である．
＊ 一方のみで可なのか両方があって始めて可なのか，は考えてみたい．
ｃｆ.§２６５ 「正当化はひとが何かから独立したところに訴えることによって成立する」
反論：公共言語においても事情は同じである．
なんとなれば，公共言語に於いて，私はある心的体験が起きたとき「痛い」といい，それは（個人にのみ知覚されるものである）感覚に関するものであるから，「私は痛みを感じている，と（私には）思われる」という以上の何も生じていない．
つまり，公共言語においては，「私は痛みを感じていると思われる」は，独立の根拠を必要とせず，「私は痛みを感じている」と同じものとして扱われる.
私が「私の痛み」について語るとき，わたしは何らかの基準に基づいてしているのではない（ref.ＰＵI-§２９０）
反論の問題点
「私が痛みを感じていると思われる」が「私は痛みを感じている」と同義に扱われるための条件として，わたしが「痛み」という語を正しく用いていることが挙げられる.
公共言語に於ける感覚記述には，その真偽についての一人称特権が存在する．
だから，「正しく」感覚語を用いている限り，感覚の帰属者当人による感覚記述は（特段の疑うに足る事由が無い限り）真とみなされる.
だが，真とそのまま認められるのは彼／女が「正しく」感覚語を用いている限りである
＊ しかし，二人称・三人称において「痛い」「痛み（を持つ）」を正しく使える事は，直ちに一人称においても彼／女が「痛い」「痛み（を持つ）」を意味しないであろう． すると，二・三人称における正則的な語使用に基づいての一人称特権付与には，なおも（不完全ながらも）私秘的要素が加わらないだろうか？ あたかも，「ある感覚が生じたときにはわたしは「Ｅ」とかく」と主張する人が或るときにはその当該感覚が生じたと主張しつつ「∃」とか「Ａ」とかと書いてしかも「これは感覚Ｅが生じたから「Ｅ」と書いたのだ，同一の記号なのだ」という主張が疑義を持たれえるように，不完全な反＝私秘性は，一人称特権同様に「Ｅ」にもあるようにも思われなくもない．
――ここに，「私は痛みを感じていると思われる」と「私は痛みを感じている」の間の間隙がある.
「私は痛みを感じていると思われる」は「私が感じているこれは「痛み」と呼ばれるものだと思われる」をも意味する
両者は同義ではない.
＊ 感覚語の誤認的使用がありえるから，「これ」が分析的に「痛み」を意味するわけではないからである
公共言語において，ある人が「痛み」という語を正しく理解しているかどうかに対しては，その人がどう思うかとは独立の基準が与えられる（cf.ＰＵI-§２６９）
対して，私的言語＜Ｅ＞では，事実認識の正しさと意味理解の正しさが（完全に −といいたいのであろう）癒着している．
「Ｅ」と書き付けることと独立にそれを真偽及び意味理解の正誤に関して評価する観点が存在しない.
＊ これについては前コメントを参照のこと． 「∃」が「Ｅ」であるという主張は記号の同定性についての問題であると同時に「∃」がかかれた時に果たして「Ｅ」が生じたのか？という真偽についての問題でもありえるように思われる．
かくして――と著者はいう――「Ｅ」に対しては，真偽を言うことも意味理解の正誤を言うことも，意味をなさない.
( とりあえずは，これで私的言語批判として一段落した，ということができる. ）
著者は，更に私的言語の可能性をＷのテクストを離れても追求する．
真偽を言うこと,意味理解の正誤を言うことが出来ないことは，即ち一般化するなら言語にとって規範性がないということは果たして（いかほど）致命的なのか？
一方で，動物界の言語を見れば，規範性のない言語は多数存在する．
そこで，サールが「構成的規則 constitutive rule 」と「統制的規則 regulative rule 」と規定した概念に対応するものを採用し，規範性を二分する.
例えば，将棋をさすのに（�顱砲海泙瞭阿�し方等ゲームを構成する規範 （�髻望，弔燭瓩砲呂海�指さねばならないという「戦術的な規範」の二つがある
（�顱砲魑�範性とよび（�髻砲鮑播�性と呼ぶものとする．
すると，鳥のさえずりは，最適性にはかなっているが規範性を欠いている.
とはいえ，雌を誘う事を目的とした伝達の手段としてさえずり，それが目的を成就したり失敗したりするのだから，鳥のさえずりは言語といってよいであろう．
だとしたら,私的言語＜Ｅ＞は，鳥のさえずりの範疇における言語といえるのではないか？
しかし，私的言語＜Ｅ＞の場合には，（鳥のさえずりとは違って）規範性の欠如がそれが言語であり得ることの決定的な欠陥となる（と著者は言う ）．
人が感覚日記に「Ｅ」と書き込む時，その成功はその記述が真であることでしかなく，鳥のさえずりが持つような他の事柄との自然な連関（雌を呼び寄せるような）を欠いている.
従がって，私的言語「Ｅ」が規範性を欠くことはそれが言語であり得る事を否定する．
わたしは＜何かに＞促されて「Ｅ」と書いた.
しかし，「Ｅ」と書くたびに，「Ｅ」と書くよう促したことが同一か否かはまったくわからない．
つまり，その書くことを促しめた体験は「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」としてしか個別化できない.
ということは記号「Ｅ」が指示するものとは，「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」である.
つまり，なんであれ「Ｅ」が指示するものを「Ｅ」は指示する，といっているに過ぎない． 言い換えれば「Ｅ」では指示は成立していない＊.
＊ 指示が成立していない（ もしくは少なくとも指示が完全に不可測である ）としても，それが言語であるなしに関わるのであろうか？ 指示が成立していることは言語であること――すくなくともそれがある言語的機能を持つこと――を保障するであろうが，一つの言語機能を持たないからといって，それが直ちに言語ではないことを帰結しはしない． そもそも，指示の不可測性をもって言語でないことの論証になるのなら，すべての言語は言語ではない，ということを帰結しはしまいか
私的言語「Ｅ」では，使用の観点から独立な評価の観点を提供できない．
これが，「他人には理解できない言語」であることのポイントである．
動物が（彼等にとっての）自然的記号に反射的に規則的反応を示すとしても，それが規範的記号でありえないのは，動物が自己の行動を評価する観点をもっていないからである＊．
＊ 動物の内面に立ち入った言明は，権利侵犯であるように思われる． 「我々にとって動物が自己の行動を評価する観点をもっているものとしては立ち現れていない／告げ知らされ得ない」といえば十分であろう．
「他人には理解できない言語」は使用の観点と評価の観点という二重の観点を持ち得ない事を意味している．
それゆえ，私的言語「Ｅ」は規範性を持たない.
また，記述だけがその使用として想定されているのだから，規範性の欠如は（最適性が示唆する）一切の機能を持たないことを意味する．
従がって，私的言語「Ｅ」はもっとも弱い意味に於いてすら言語ではない＊.
＊ 規範性も機能（最適性）も持たないが，記号表現のやりとりだけで成立している言語，というものは想定できないか？ できるならば，その意味での言語で私的言語「Ｅ」はあり得るのではないか？
３． 複雑な私的言語
複雑（に見える）私的言語について考察してみる．
即ち，複数の心的諸体験を想定し，それらに呼応（するように）「Ｅ」に加え「Ｆ」等を追加する．
ここで，体験Ｅと体験Ｆとには相関がある（Ｅが生起すればＦも生起し，Ｅが生起しないならばＦも生起しない）ように思われるとする．
すると,私的言語「Ｅ」の場合と異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には「私にはＥであると思われる」と「Ｅ」との間に間隙が生じるように一見思われる.
というのは，Ｅが生じたのにＦが生じなかった場合（ もしくはＥが生じなかったのにＦが生じた場合）予測と事実が異なるから，Ｅではなかったのかもしれない（Ｅだったのかもしれない）という懐疑が生じ得るように思われるから．
もし，それが生じ得るなら，私的言語「Ｅ」とは異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には規範性が生じ得（ また予測という最適性も生じ得），従がって，私的言語一般が存在し得ない，という主張は過ちであるのかもしれない.
だが，ここで「複雑な私的言語」と呼ばれたものは本当に複雑なのか？
複雑とはここでは，複数の私的心的体験が対象にされている事を意味している． 従がって，目下の私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が，本当に複雑であるためには，ＥとＦとが二個の（複数の）心的諸経験のタイプとして同定され／分類され，数えられることが必要である．
（�顱烹鼎硲討箸�何の相関性もなしに無関係に生起する場合
この場合には，二つの私的言語（私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」とが立てられる）．
しかし，この場合，それぞれに，唯一つのタイプを心的対象としてもつ私的言語であるから，私的言語「Ｅ」の場合の批判が全面的に妥当する．
即ち，これら「心的体験」はいずれも心的対象のタイプとして存立しえず，またこれらの「私的言語」は言語ではない．
（�髻烹鼎硲討箸料蟯悗�必然的である場合
心的体験ＥとＦとを二つの独立な心的体験として分節化する意味が失われ，両者は概念上癒着しその全体を体験「Ｇ」とでも呼ぶべき一つの体験に変じてしまう．
したがって，この場合は唯一つの心的体験Ｇを持つ私的言語「Ｇ」の存立可能性が問題とされ，それは否定される．
（�鵝砲茲辰董て鵑弔凌甘�体験を認めるためには，ＥはＦを偶然的に後続させ，ＦはＥに偶然的に先行させるのである（よって必然的ではない）
従がって，Ｅが生起しかつＦが生起しない場合，Ｅが生起せずＦが生起する場合，の存立を認めねばならない.
ところが，このことはＦの生起と独立にＥの生起の有無が問いいえ，Ｅの生起と独立にＦの生起が問い得る事を意味する．
したがって，ＥとＦとの偶然的継起関係の認定は，私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」という単純な二つの私的言語の存立を認めることである．
＊ なぜなら，複雑な私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が本質的に複雑であるのであれば，相互独立な心的対象の認定は不可能なはずだからである．
よって，複雑な私的言語〔と称されたもの〕は単純な私的言語の組み合わせに過ぎない．
よって，複雑な私的言語も（その構成素である単純な私的言語が存在し得ない以上）存在し得ない．
著者に依れば，おそらくは，表出や脈絡から切り離された純粋な私秘的領域は，被分節化構造を持ち得ない． 未分節の状態で展開する非概念的な刺激の場＜意味不詳＞のようなものだ.
つまり，それは「語られる以前の自然」である.
そのような非概念的な刺激の場に促されて，人はあるときに「Ｅ」とあるときに「Ｆ」と書く．
これだけでは，そのような行動をとらせた原因としての感覚を記述する言語をその人は未だ有してはいない.
「Ｅ」や「Ｆ」がそうした刺激の場を分節するためには，それらの記号が真理値を付与されるものとならなければ（ 即ち記述とならなければ ）ならない．
「Ｅ」や「Ｆ」が記述となるということは，ＥやＦが記述可能になる，ということである．
複雑な私的言語（と称されるもの）において，Ｅが生じた＜と思われる＞ことからＦの生起を予測しその予測が外れる〔ように思われる〕ことは，起こりえるように思われるかもしれない．
しかし,「Ｅ」「Ｆ」は単独で記述として成立してはいない．
とすると実はなされていることは下記である．
（１）人は何らかの刺激に促され「Ｅ」と書く．
（２）人は「私は「Ｆ」と書くであろう」，と予測する．
（３）しかし，人は「Ｆ」と書かないで終わる.
つまり，予測されるのは体験Ｆを持つことではなく「私が「Ｆ」と書く」ことであり，その根拠となるのは体験Ｅを持つことではなく「私が「Ｅ」と書いた」ことである．
すなわち，ここで行われていることは，そして仮設されている経験法則も，公共言語のうちに他ならない．
従がって，この予測の想定はなんら私的言語の存立可能性を示唆するものでもない.
４． 私的言語から公共言語への転回点
私的言語「Ｅ」と感覚についての公共言語（e.g.「痛い」）との差
ＰＵI-§２７０ この節には不明な点がある，と著者はいう．
「この言語ゲームにおけるこの記号の用いられ方によって( Vielleicht die Art und Weise, wie dies Zeichen in diesem Sprachaspiel verwndet wird. )」とＷが述べているところ．
「この言語ゲーム」とはどのような言語ゲームか？ おそらくは，ある心的体験に促されて人は記号「Ｅ」と書き，それに基づいて血圧の上昇を予測し，次に血圧を血圧計で確認する，というもの．
が，この活動のどこに「Ｅ」が感覚を表すものであるとされる根拠は示されているか？
人が心的体験に促されて「Ｅ」と書くことは心的記述にならないことはすでに明らかである．
だからといって，「Ｅ」と書くことに，血圧の上昇との相関が加えられても，「Ｅ」が感覚記述としての文法を持つには不十分なものがある，と著者は言う．
人が彼/女の予測が外れた場合を考えてみる．
即ち，「Ｅ」と書き，血圧の上昇を予測し，その予測が外れる，とする．
間違いの可能性（１） 血圧は上昇していない，との判断が誤り
→観測関係をすべてチェックし，確かに血圧が上昇していないことを確認
間違いの可能性（２） Ｅと血圧の上昇の相関には例外がある
→この可能性を認めるには，血圧の上昇から独立にＥの生起を認めねばならない
しかし，これは既に私的言語「Ｅ」の不可能性で否定されている．
間違いの可能性（３） 「Ｅ」と欠いたことが間違いだった
→この言語ゲームにおいては，記号「Ｅ」が記述として真理値を付与されるとしても，その真理条件は血圧の上昇に他ならない
したがって，「Ｅ」が記述するのは，血圧の上昇であって，心的体験ではない．
仮に，血圧の上昇をなんらかの振る舞いで置き換えるならば，「Ｅ」は振る舞いと相関し，振る舞いを記述するものとなる.
この場合，単純な行動主義になる．
よって，『探求』第２７０節におけるヰトゲンシュタインは，私的言語を否定したものの，行動主義的言語に帰着してしまっている．
しかし，ヰトゲンシュタインは，彼が行動主義者である事を（ＰＵI-§３０７，３０８で）否定する．
「私は痛みを感じている」のような（一人称現在単数の感覚）文は，人の振る舞いの記述でも，振る舞いの傾向性でもない（いずれも行動主義）とＷは考えていた．
更に，Ｗは心的体験の存在を否定しない．
*どうやって心的体験の存在を認めるのか，不詳．
日常言語に於いて（多く）「痛み」は感覚記述として用いられることをＷは認める.
ただし，Ｗは「痛み」という語を痛みそのものの心的出来事と「つきあわせ，そのことによってのみ成立するような純粋な記述から始まる」という言語思考を否定する．
ここでＰＵI-§２５７−−感覚日記を導入する直前−−に注目すべき．
命名はという言語的行為の成立は，言語に既に多くのことが用意され，文法が用意されていることを必要としている．
＞感覚に関する公共言語の言語実践のあり方へのみ通し＜
感覚記述が＜われわれ＞の言語実践に登場するためには，いったん表出によって公共の場で形を与えられた心的経験が，あらためて表出から切り離されることが必要となる．
第２７０節の血圧の上昇においては，その切り離しがされていないので行動主義的になった．
対して，日常言語の語「痛み」の場合，痛みのふりや痛くないふりをも出来る．
これは，ある傾向性に従がった表出に対して教育によって学んだ語を，ひとたび学習した後は傾向性に従わずに発話できるようになる． 「××のふり」である．
この「ふり」の導入が，実際に痛みを伴っている「痛い」の発話，痛みを伴わない「痛い」の発話，といった感覚それ自身を発話とは別個に語らざるを得なくなる．
この感覚語の発話可能性と感覚自体との分離しての導入こそ，当初の非概念的な刺激の場を，「痛み」「痒み」「くすぐったさ」等の諸感覚に分節化する.
かくして，人は，語られる以前の自然に触発されて，言語使用によって，その自然を語る，ということが可能になる．
ここでは規則のパラドクスの議論における「語られる以前の自然としての数える能力を利用して「＋ｎ」という規則が導入され，その特殊ケース「＋１」としてその自然を語りだすことが可能になる」と同型の構造が成り立っている．
ＰＵでＷはＰＬ批判を行う．しかし
その議論がどのようなものであるか，すなわち
（�顱砲修竜掴世波麁颪気譴討い襪發里浪燭任△襪�
（�髻砲修譴鬘廚呂匹θ稟修靴討い襪里�
（�鵝烹廚裡丕免稟修寮眛昔呂惑＿燭任△襪�
これらは未だ不明確である．
著者は，これらについて一応の解答を試みる．
ＷのＡ−ＰＬＡについての素直な一解釈は反デカルト主義の文脈におく事．
だが，筆者は，＜一旦＞反デカルト主義からＡ−ＰＬＡを切り離す．
代わりに，自然主義と（規約主義との）微妙な緊張関係の基にＡ−ＰＬＡを定位する．
ＰＵでのＡ−ＰＬＡを論じるには少なくともＰＵの最初から論じるのが必須である． しかし，それには紙面が少なすぎるので，本稿では規則のパラドクスから考察を始める．
ＰＵI§１８５〜２４２：規則遵守を巡る議論
ＰＵI§２４３〜２６０：私的言語批判
クリプキは，（�顱傍�則遵守論に懐疑論を見出し（�髻剖ζ餌療�解決を与え（�鵝忙篥�言語批判を規則遵守論の／共同体的解決の派生系，と考えた．
著者は，（�顱法繊放鵝砲硫燭譴鯊爐韻襪�，規則のパラドクスと私的言語批判の密接な関連を認める．
「規則のパラドクスを検討することによって，なぜ私的言語が批判のターゲットになるのかが，クリプキとは違った仕方で見えてくるだろう」
１． なぜ私的言語が問題になるのか
ＰＵI−§１８５で，Grundzahl（仮訳「自然数」）Kardinalzahl（仮訳「基数」）という両語を用いる――一見区別するポイントがなさそうなところでＷは何故両語を使っているのか？
ｎ＝１の場合：Grundzahl
ｎ≠１の場合：Kardinalzahl と区別しているのだろう
では何故区別しているのか？
「＋２」に逸脱する生徒は「＋１」にも「自然数を書け」にも「1000，1002,1004・・・」と逸脱をするように思われる．
しかし，彼に「自然数1001はどうした？」と問うならば「1001？ そんな数はない」と答えるであろう． 即ち，彼の逸脱は我々と同じ自然数概念を有する者の＜表記の逸脱＞であって，＜自然数概念の逸脱＞ではない．
操作の回数を数える事：自然数
操作の回数が数えられた結果として得られる答え：基数
規則のパラドクスが示唆する逸脱の可能性は，基数についてのものであり，自然数についてのものではない
∴ 自然数について逸脱は考えられ得ない.
cf.priniciple of charityを働かさなければ，逸脱を言い立て得ないだろうか？ その際は，そもそも逸脱ではなく，無意味になるのだろうか？
ＰＵI−§１８５冒頭 生徒は自然数の列を習得済みであり,その上で「＋ｎ」という命令に従うことを教えられる.
その特殊事例として,「＋１」という命令があり，その命令に従うことは自然数の列を生む.
だが，その生徒は「＋１」という命令に従う事を教えられるに先立って，自然数を習得していなければならない.
従がって，自然数の習得は命令「＋１」に従うことを教えられる事によって学ばれるのではない.
＜一般化していえば＞自然数は規則の提示によって学ばれるのではない.
＊ では，どうやって学ぶのか． おそらくは，単純訓練（ Abrichitung ）によって，である.
Ｗならこういうであろう「数えることは，歩く，食べる，飲む，遊ぶといったことと同様，われわれの自然誌に属している」（cf.ＰＵ?―§２５）
＊ 著者のこの発言は，一見単純訓練によって初めて自然数が学ばれる，という筆者の注釈と異なって見えるかもしれない． しかし，少なくとも「遊ぶ」ことは何らかの文化的文脈を含んで学ばれることなしには成立しないものである――他の歩く・食べる・飲むもより原始的であり，かつ文化的文脈は不要であるのかもしれないが，単純訓練によることなしに生得的に発現するものではないであろう. この点に関して，著者の「自然誌」理解を問いただすこと.
（「＋１」という規則が教えられる以前に既に子は自然数の自然誌の世界に生きてはいる. しかし，その自然誌を彼／女は語り出すことが未だ出来ない. ）
（数える能力が所有されるところで）「＋１」という規則の基で，自然数の列が書き出される.
即ち,「語られる以前の自然としての数える能力を利用して規則が導入され，その規則を用いて自然誌を語り出すことが可能になる」構造がここにある.
語られる以前の自然・規則が規則として有効であるために必要とされる自然，
：ＷがＬＰＡで見落としていた
：ＷがＰＵにおいて探り出そうとしていた「ザラザラした大地」である
ものとしての「大地」は想定されていなかったか．
この「ザラザラした大地」の要請は，「規範的秩序を自然的秩序として語り出すことではないから，「自然主義」ではない」．
――戯れに（通常の形而下的もしくは対象的「自然主義」にたいして，「超越論的自然主義」と読んでみよう ）
＊ すなわち，通常の数学的自然主義は数学の営み・その成果という対象が自然経験に基づいている，と主張するのに対し，超越論的自然主義では，数学の営みそれ自体は規範的・非＝自然主義的な営為なのだが，その存立条件としてア・プリオリに課される一定の条件の一つが自然主義的な諸事実（としての反応・能力）なのである．
かくして，規則のパラドクスを通じて，＜自然誌的秩序と規範・言語との関係＞ ＜語られる以前の自然と語ることとの関係＞という問題が浮上する．
一方で，語ることにとって，＜われわれ＞（共同体／世間）というあり方,社会・制度といったものは本質的である．
――数の例に於いては，このレヴェルでは既に規範が生じてきている
他方で，人が，自然誌的秩序に服するには，＜われわれ＞も社会も制度も必要ない
――ここではまだ依然として規範が生じてこない
即ち，自然誌的秩序なくしては規範は解体するが，自然誌的秩序のみでは規範の存立には不十分である
――この洞察をＰＬ問題を巡るＰＵの核心である，と著者は考える．
以降，その ＜私一人が自然誌的秩序に服する世界＞−−広義でか狭義でかはともかく私的言語・私秘的言語の世界 と，＜わたしが一人で自然誌的秩序に服している世界からの歩み出し＞の仕方と
＝＝これらはＷが私秘的言語の（あり方・可能性）という思考実験 において想定していたところの企図対象である．
２． 私的言語＜Ｅ＞の不可能性
私的言語は§２５６節で導入される.
その一事例として，§２５８において＜感覚日記＞が想定される．
私に，ある種の心的体験が繰り返し起こる（ように思われ），それを私は「Ｅ」と名づける． そして，その心的体験が生じた（と思われる日には必ず記号（？）「Ｅ」を日記に書き込む．
――ここでは，心的体験として「Ｅ」にまつわるもののみが考えられ他種のものは想定されていない，というのがポイント．
著者は，この＜言語＞を「私的言語＜Ｅ＞」と名づける．
私的言語＜Ｅ＞はわれわれの日常言語ではない．
何故なら，日常言語に於いては，人は彼自身の感覚について語り得，かつ他者はそれを理解し得る，から。
対して，私的言語＜Ｅ＞は（ただ記号「Ｅ」が何らかの私秘的対象を指示するのみであって）「第三者的に観察可能ないっさいの手がかりを欠いている」が故に，「本人以外には全く理解しようもない言語」なのである．
＊ 論点先取 前者から後者は直ちに出てきはしない． 本人の書き込みＥをみて，ああＥがあったんだな，等と他者が考えることが理解ではない事を論じなければ，前者から後者を推論することはできない． Ｗにおいてはむしろ定義として後者が与えられてしまっている． （ この両者の関係を探るのは興味深いことであるかもしれない． ）
この私的言語＜Ｅ＞が，「もし対象との面識によって指示関係が成立し，それによって何らかの言語使用が可能になると考えられるのであれば，ここに「言語」を見て取るのは可能である」
＊ まず，指示関係と言語使用との双方が，「Ｅ」が言語であるための要件か？ 第二に可能となる「何らかの言語使用」とはいかなる範囲のことがらを著者は考えているのか？
一見，「Ｅ」となんらかの私秘的対象という「二つの異なるもの」の間には∧関係が成立しているようにも思われる（ が，もちろん，実際には成立していない． ）
日記をつける時，人は「Ｅ」と書く事で私秘的対象（が存在したこと）を記述しているように思われるかもしれないが，私的言語「Ｅは実は「記述」としては成立していない.
＊ 「Ｅ」は名辞であるが故に名指しはしても記述はできない，ということになるのではないか，と考える人がいよう． 従がって，「Ｅ」は「E という名の感覚が生じた」という意味を持つ一語文である，との注記を加えたほうがよろしかろう.
記述の言語行為は，その真偽を問う，という言語実践と結びついている.
対して，ここで「Ｅ」の「感覚記述」と称されているものからは，真偽を問う一切の手立てがないからである．
ＰＵI−§２５８ ・・・正しい基準がなく，正しいと思われるものが正しい，としか言われえない際には，そこでは「正しさ」について語ることができない
つまり「私には，Ｅである，と思われる」と実際に「Ｅである」こととの間に間隙（前者が真で後者が偽，またその反対――の少なくとも一方＊――があること）がある時にのみ，発話「Ｅである」の正しさは問われえる.
そして，その間隙が存在するためには，「私にはＥと思われる」ということから独立の何らかの根拠が必要である．
＊ 一方のみで可なのか両方があって始めて可なのか，は考えてみたい．
ｃｆ.§２６５ 「正当化はひとが何かから独立したところに訴えることによって成立する」
反論：公共言語においても事情は同じである．
なんとなれば，公共言語に於いて，私はある心的体験が起きたとき「痛い」といい，それは（個人にのみ知覚されるものである）感覚に関するものであるから，「私は痛みを感じている，と（私には）思われる」という以上の何も生じていない．
つまり，公共言語においては，「私は痛みを感じていると思われる」は，独立の根拠を必要とせず，「私は痛みを感じている」と同じものとして扱われる.
私が「私の痛み」について語るとき，わたしは何らかの基準に基づいてしているのではない（ref.ＰＵI-§２９０）
反論の問題点
「私が痛みを感じていると思われる」が「私は痛みを感じている」と同義に扱われるための条件として，わたしが「痛み」という語を正しく用いていることが挙げられる.
公共言語に於ける感覚記述には，その真偽についての一人称特権が存在する．
だから，「正しく」感覚語を用いている限り，感覚の帰属者当人による感覚記述は（特段の疑うに足る事由が無い限り）真とみなされる.
だが，真とそのまま認められるのは彼／女が「正しく」感覚語を用いている限りである
＊ しかし，二人称・三人称において「痛い」「痛み（を持つ）」を正しく使える事は，直ちに一人称においても彼／女が「痛い」「痛み（を持つ）」を意味しないであろう． すると，二・三人称における正則的な語使用に基づいての一人称特権付与には，なおも（不完全ながらも）私秘的要素が加わらないだろうか？ あたかも，「ある感覚が生じたときにはわたしは「Ｅ」とかく」と主張する人が或るときにはその当該感覚が生じたと主張しつつ「∃」とか「Ａ」とかと書いてしかも「これは感覚Ｅが生じたから「Ｅ」と書いたのだ，同一の記号なのだ」という主張が疑義を持たれえるように，不完全な反＝私秘性は，一人称特権同様に「Ｅ」にもあるようにも思われなくもない．
――ここに，「私は痛みを感じていると思われる」と「私は痛みを感じている」の間の間隙がある.
「私は痛みを感じていると思われる」は「私が感じているこれは「痛み」と呼ばれるものだと思われる」をも意味する
両者は同義ではない.
＊ 感覚語の誤認的使用がありえるから，「これ」が分析的に「痛み」を意味するわけではないからである
公共言語において，ある人が「痛み」という語を正しく理解しているかどうかに対しては，その人がどう思うかとは独立の基準が与えられる（cf.ＰＵI-§２６９）
対して，私的言語＜Ｅ＞では，事実認識の正しさと意味理解の正しさが（完全に −といいたいのであろう）癒着している．
「Ｅ」と書き付けることと独立にそれを真偽及び意味理解の正誤に関して評価する観点が存在しない.
＊ これについては前コメントを参照のこと． 「∃」が「Ｅ」であるという主張は記号の同定性についての問題であると同時に「∃」がかかれた時に果たして「Ｅ」が生じたのか？という真偽についての問題でもありえるように思われる．
かくして――と著者はいう――「Ｅ」に対しては，真偽を言うことも意味理解の正誤を言うことも，意味をなさない.
( とりあえずは，これで私的言語批判として一段落した，ということができる. ）
著者は，更に私的言語の可能性をＷのテクストを離れても追求する．
真偽を言うこと,意味理解の正誤を言うことが出来ないことは，即ち一般化するなら言語にとって規範性がないということは果たして（いかほど）致命的なのか？
一方で，動物界の言語を見れば，規範性のない言語は多数存在する．
そこで，サールが「構成的規則 constitutive rule 」と「統制的規則 regulative rule 」と規定した概念に対応するものを採用し，規範性を二分する.
例えば，将棋をさすのに（�顱砲海泙瞭阿�し方等ゲームを構成する規範 （�髻望，弔燭瓩砲呂海�指さねばならないという「戦術的な規範」の二つがある
（�顱砲魑�範性とよび（�髻砲鮑播�性と呼ぶものとする．
すると，鳥のさえずりは，最適性にはかなっているが規範性を欠いている.
とはいえ，雌を誘う事を目的とした伝達の手段としてさえずり，それが目的を成就したり失敗したりするのだから，鳥のさえずりは言語といってよいであろう．
だとしたら,私的言語＜Ｅ＞は，鳥のさえずりの範疇における言語といえるのではないか？
しかし，私的言語＜Ｅ＞の場合には，（鳥のさえずりとは違って）規範性の欠如がそれが言語であり得ることの決定的な欠陥となる（と著者は言う ）．
人が感覚日記に「Ｅ」と書き込む時，その成功はその記述が真であることでしかなく，鳥のさえずりが持つような他の事柄との自然な連関（雌を呼び寄せるような）を欠いている.
従がって，私的言語「Ｅ」が規範性を欠くことはそれが言語であり得る事を否定する．
わたしは＜何かに＞促されて「Ｅ」と書いた.
しかし，「Ｅ」と書くたびに，「Ｅ」と書くよう促したことが同一か否かはまったくわからない．
つまり，その書くことを促しめた体験は「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」としてしか個別化できない.
ということは記号「Ｅ」が指示するものとは，「私に「Ｅ」と書くよう促すもの」である.
つまり，なんであれ「Ｅ」が指示するものを「Ｅ」は指示する，といっているに過ぎない． 言い換えれば「Ｅ」では指示は成立していない＊.
＊ 指示が成立していない（ もしくは少なくとも指示が完全に不可測である ）としても，それが言語であるなしに関わるのであろうか？ 指示が成立していることは言語であること――すくなくともそれがある言語的機能を持つこと――を保障するであろうが，一つの言語機能を持たないからといって，それが直ちに言語ではないことを帰結しはしない． そもそも，指示の不可測性をもって言語でないことの論証になるのなら，すべての言語は言語ではない，ということを帰結しはしまいか
私的言語「Ｅ」では，使用の観点から独立な評価の観点を提供できない．
これが，「他人には理解できない言語」であることのポイントである．
動物が（彼等にとっての）自然的記号に反射的に規則的反応を示すとしても，それが規範的記号でありえないのは，動物が自己の行動を評価する観点をもっていないからである＊．
＊ 動物の内面に立ち入った言明は，権利侵犯であるように思われる． 「我々にとって動物が自己の行動を評価する観点をもっているものとしては立ち現れていない／告げ知らされ得ない」といえば十分であろう．
「他人には理解できない言語」は使用の観点と評価の観点という二重の観点を持ち得ない事を意味している．
それゆえ，私的言語「Ｅ」は規範性を持たない.
また，記述だけがその使用として想定されているのだから，規範性の欠如は（最適性が示唆する）一切の機能を持たないことを意味する．
従がって，私的言語「Ｅ」はもっとも弱い意味に於いてすら言語ではない＊.
＊ 規範性も機能（最適性）も持たないが，記号表現のやりとりだけで成立している言語，というものは想定できないか？ できるならば，その意味での言語で私的言語「Ｅ」はあり得るのではないか？
３． 複雑な私的言語
複雑（に見える）私的言語について考察してみる．
即ち，複数の心的諸体験を想定し，それらに呼応（するように）「Ｅ」に加え「Ｆ」等を追加する．
ここで，体験Ｅと体験Ｆとには相関がある（Ｅが生起すればＦも生起し，Ｅが生起しないならばＦも生起しない）ように思われるとする．
すると,私的言語「Ｅ」の場合と異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には「私にはＥであると思われる」と「Ｅ」との間に間隙が生じるように一見思われる.
というのは，Ｅが生じたのにＦが生じなかった場合（ もしくはＥが生じなかったのにＦが生じた場合）予測と事実が異なるから，Ｅではなかったのかもしれない（Ｅだったのかもしれない）という懐疑が生じ得るように思われるから．
もし，それが生じ得るなら，私的言語「Ｅ」とは異なり，私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」には規範性が生じ得（ また予測という最適性も生じ得），従がって，私的言語一般が存在し得ない，という主張は過ちであるのかもしれない.
だが，ここで「複雑な私的言語」と呼ばれたものは本当に複雑なのか？
複雑とはここでは，複数の私的心的体験が対象にされている事を意味している． 従がって，目下の私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が，本当に複雑であるためには，ＥとＦとが二個の（複数の）心的諸経験のタイプとして同定され／分類され，数えられることが必要である．
（�顱烹鼎硲討箸�何の相関性もなしに無関係に生起する場合
この場合には，二つの私的言語（私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」とが立てられる）．
しかし，この場合，それぞれに，唯一つのタイプを心的対象としてもつ私的言語であるから，私的言語「Ｅ」の場合の批判が全面的に妥当する．
即ち，これら「心的体験」はいずれも心的対象のタイプとして存立しえず，またこれらの「私的言語」は言語ではない．
（�髻烹鼎硲討箸料蟯悗�必然的である場合
心的体験ＥとＦとを二つの独立な心的体験として分節化する意味が失われ，両者は概念上癒着しその全体を体験「Ｇ」とでも呼ぶべき一つの体験に変じてしまう．
したがって，この場合は唯一つの心的体験Ｇを持つ私的言語「Ｇ」の存立可能性が問題とされ，それは否定される．
（�鵝砲茲辰董て鵑弔凌甘�体験を認めるためには，ＥはＦを偶然的に後続させ，ＦはＥに偶然的に先行させるのである（よって必然的ではない）
従がって，Ｅが生起しかつＦが生起しない場合，Ｅが生起せずＦが生起する場合，の存立を認めねばならない.
ところが，このことはＦの生起と独立にＥの生起の有無が問いいえ，Ｅの生起と独立にＦの生起が問い得る事を意味する．
したがって，ＥとＦとの偶然的継起関係の認定は，私的言語「Ｅ」と私的言語「Ｆ」という単純な二つの私的言語の存立を認めることである．
＊ なぜなら，複雑な私的言語「Ｅ」＆「Ｆ」が本質的に複雑であるのであれば，相互独立な心的対象の認定は不可能なはずだからである．
よって，複雑な私的言語〔と称されたもの〕は単純な私的言語の組み合わせに過ぎない．
よって，複雑な私的言語も（その構成素である単純な私的言語が存在し得ない以上）存在し得ない．
著者に依れば，おそらくは，表出や脈絡から切り離された純粋な私秘的領域は，被分節化構造を持ち得ない． 未分節の状態で展開する非概念的な刺激の場＜意味不詳＞のようなものだ.
つまり，それは「語られる以前の自然」である.
そのような非概念的な刺激の場に促されて，人はあるときに「Ｅ」とあるときに「Ｆ」と書く．
これだけでは，そのような行動をとらせた原因としての感覚を記述する言語をその人は未だ有してはいない.
「Ｅ」や「Ｆ」がそうした刺激の場を分節するためには，それらの記号が真理値を付与されるものとならなければ（ 即ち記述とならなければ ）ならない．
「Ｅ」や「Ｆ」が記述となるということは，ＥやＦが記述可能になる，ということである．
複雑な私的言語（と称されるもの）において，Ｅが生じた＜と思われる＞ことからＦの生起を予測しその予測が外れる〔ように思われる〕ことは，起こりえるように思われるかもしれない．
しかし,「Ｅ」「Ｆ」は単独で記述として成立してはいない．
とすると実はなされていることは下記である．
（１）人は何らかの刺激に促され「Ｅ」と書く．
（２）人は「私は「Ｆ」と書くであろう」，と予測する．
（３）しかし，人は「Ｆ」と書かないで終わる.
つまり，予測されるのは体験Ｆを持つことではなく「私が「Ｆ」と書く」ことであり，その根拠となるのは体験Ｅを持つことではなく「私が「Ｅ」と書いた」ことである．
すなわち，ここで行われていることは，そして仮設されている経験法則も，公共言語のうちに他ならない．
従がって，この予測の想定はなんら私的言語の存立可能性を示唆するものでもない.
４． 私的言語から公共言語への転回点
私的言語「Ｅ」と感覚についての公共言語（e.g.「痛い」）との差
ＰＵI-§２７０ この節には不明な点がある，と著者はいう．
「この言語ゲームにおけるこの記号の用いられ方によって( Vielleicht die Art und Weise, wie dies Zeichen in diesem Sprachaspiel verwndet wird. )」とＷが述べているところ．
「この言語ゲーム」とはどのような言語ゲームか？ おそらくは，ある心的体験に促されて人は記号「Ｅ」と書き，それに基づいて血圧の上昇を予測し，次に血圧を血圧計で確認する，というもの．
が，この活動のどこに「Ｅ」が感覚を表すものであるとされる根拠は示されているか？
人が心的体験に促されて「Ｅ」と書くことは心的記述にならないことはすでに明らかである．
だからといって，「Ｅ」と書くことに，血圧の上昇との相関が加えられても，「Ｅ」が感覚記述としての文法を持つには不十分なものがある，と著者は言う．
人が彼/女の予測が外れた場合を考えてみる．
即ち，「Ｅ」と書き，血圧の上昇を予測し，その予測が外れる，とする．
間違いの可能性（１） 血圧は上昇していない，との判断が誤り
→観測関係をすべてチェックし，確かに血圧が上昇していないことを確認
間違いの可能性（２） Ｅと血圧の上昇の相関には例外がある
→この可能性を認めるには，血圧の上昇から独立にＥの生起を認めねばならない
しかし，これは既に私的言語「Ｅ」の不可能性で否定されている．
間違いの可能性（３） 「Ｅ」と欠いたことが間違いだった
→この言語ゲームにおいては，記号「Ｅ」が記述として真理値を付与されるとしても，その真理条件は血圧の上昇に他ならない
したがって，「Ｅ」が記述するのは，血圧の上昇であって，心的体験ではない．
仮に，血圧の上昇をなんらかの振る舞いで置き換えるならば，「Ｅ」は振る舞いと相関し，振る舞いを記述するものとなる.
この場合，単純な行動主義になる．
よって，『探求』第２７０節におけるヰトゲンシュタインは，私的言語を否定したものの，行動主義的言語に帰着してしまっている．
しかし，ヰトゲンシュタインは，彼が行動主義者である事を（ＰＵI-§３０７，３０８で）否定する．
「私は痛みを感じている」のような（一人称現在単数の感覚）文は，人の振る舞いの記述でも，振る舞いの傾向性でもない（いずれも行動主義）とＷは考えていた．
更に，Ｗは心的体験の存在を否定しない．
*どうやって心的体験の存在を認めるのか，不詳．
日常言語に於いて（多く）「痛み」は感覚記述として用いられることをＷは認める.
ただし，Ｗは「痛み」という語を痛みそのものの心的出来事と「つきあわせ，そのことによってのみ成立するような純粋な記述から始まる」という言語思考を否定する．
ここでＰＵI-§２５７−−感覚日記を導入する直前−−に注目すべき．
命名はという言語的行為の成立は，言語に既に多くのことが用意され，文法が用意されていることを必要としている．
＞感覚に関する公共言語の言語実践のあり方へのみ通し＜
感覚記述が＜われわれ＞の言語実践に登場するためには，いったん表出によって公共の場で形を与えられた心的経験が，あらためて表出から切り離されることが必要となる．
第２７０節の血圧の上昇においては，その切り離しがされていないので行動主義的になった．
対して，日常言語の語「痛み」の場合，痛みのふりや痛くないふりをも出来る．
これは，ある傾向性に従がった表出に対して教育によって学んだ語を，ひとたび学習した後は傾向性に従わずに発話できるようになる． 「××のふり」である．
この「ふり」の導入が，実際に痛みを伴っている「痛い」の発話，痛みを伴わない「痛い」の発話，といった感覚それ自身を発話とは別個に語らざるを得なくなる．
この感覚語の発話可能性と感覚自体との分離しての導入こそ，当初の非概念的な刺激の場を，「痛み」「痒み」「くすぐったさ」等の諸感覚に分節化する.
かくして，人は，語られる以前の自然に触発されて，言語使用によって，その自然を語る，ということが可能になる．
ここでは規則のパラドクスの議論における「語られる以前の自然としての数える能力を利用して「＋ｎ」という規則が導入され，その特殊ケース「＋１」としてその自然を語りだすことが可能になる」と同型の構造が成り立っている．
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