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ハードボイルド短編小説コミュのハードボイルド小説Vol3「トムの店」

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仕事で帰りの遅くなった俺はタクシーで帰宅した。
部屋に着いたのはちょうど23時、俺はベランダからの夜景を見ながら呟いた。
「寂しい」。ハードボイルドには一人が似合う、しかし、一人が寂しい夜もある。
俺はこの寂しい心を癒してくれる店「Toms バー」に行くことにした。
「トムの店」は15分ほど歩いた歓楽街の一番奥でひっそりと営業をしていた。
俺はトレンチコートをまとい、「トムの店」に向かった。
「トムの店」はアメリカの古き良き時代を思わせるハードボイルド好みの店だ。
ところどころ消えかけた看板のネオン。危険な匂いを感じさせる店の佇まい。
俺には似合いの店だ。
俺は「トムの店」に入って軽く店内を見回し、カウンターに腰をかけ注文をした。
「IWハーパーをロックで」。
今夜はバーボンの気分だった。
もちろん作るのはマスターの「トム」だ。
トムはミシシッピーの生まれと言っていたが、どうみても日本人だった。
本当は「つとむ」という名前だと、娼婦のマリーから以前聞いたような聞かなかったような・・・。
トムはマナーにうるさい紳士的な人柄でアメリカを愛していた。
バーボンを注文してすぐに、二人の女性客が入ってきた。
一人はブロンド、ブルーアイズ、赤のピンヒールを履いたいい女だ。
もう一人の女性は単なるデブだった。
二人は俺と少し距離を置いたカウンターに座った。
注文もとらずにトムがおもむろにカクテルを作り始めた。
そして次の瞬間「スーッ」とカクテルがカウンターの上を勢いよくすべった。
「ピタッ」。
カクテルが女性の前で止まると、トムは渋い声でこう言った。
「サービスです。」
俺は目を疑った。
カクテルはデブの前で止まっていた。
トムはアメリカを愛していたがデブ専だった。
俺はバーボンを飲干すと、店にあるビリヤードを興じる事にした。
すると、奥の席から暇を持て余していた黒人のランディが挑戦したげに歩いてきた。
俺はキューをランディに手渡し、ジュークボックスにコインを入れた。
「チェット・ベイカー」の小粋なトランペットが店内を流れ始めた。
まずは、ランディのブレイクからだった。
入念にキューにチョークを擦りあわせ、咥え煙草のまま力強いブレイクをしてきた。
「カスッ!」変な音がしたと同時に白球が変な方向にトロトロ転がっていた。
ランディはビリヤードが下手だった。
俺は気を取り直しゲームを続け、玉を互いに幾つか落とした。
いつしかゲームは終盤に差し掛り、ランディがミスをして俺の番になった。
台を見ると難しいラインが残っていた。
「ジャンプボールしかない!」
俺は映画ハスラーのポールニューマンを気取ってジャンプボールを打った。
ボールは低い放物線を描き?ボールを右隅のポケットに沈めた。
「決まったな。」
あまりのカッコ良さに自分に酔いしれた。
そして、俺はトムをチラッと横目で見た。
するとトム怒りながら壁際に張ってある張り紙を指差した。
「ジャンプボール禁止」。
トムはマナーにはうるさかった。
俺はビリヤードを終え、ご機嫌斜めになったトムを後目に家路に付く事にした。
店を出ると雨が降っていた。
「ソーリー、トム」
俺は心の中で呟き、雨に濡れながら家路を急いだ。

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