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ハードボイルド短編小説コミュのハードボイルド小説NO2「バーバー"es"」

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ハードボイルドな俺は常にお洒落でなければならない。月に一度はなじみの床屋に行くことにしている。美容室ではなく床屋だ。ハードボイルドはチャラチャラしたオカマ臭い美容室を好まない。第一に「ゴルゴ13」が置いてない事、そしてシャンプーを寝た状態でするからだ。俺はシャンプーを寝た状態でされると唾液を飲み込んだとき「グキュ」と喉が鳴ってしまうクセがあり、初めて美容室に行った時、喉が「グキュ、グキュ」と鳴ってしまい恥ずかしい思いをしたことがあるからだ。
ということで、早速なじみの床屋に行く準備を始めた。
身支度を整え、俺はマンションの地下駐車場へ向かった。
バーバリーのトレンチコートの右ポケットから愛車のキーを取り出し車に乗り込んだ。
なじみの床屋まで車で30分ほど時間がかかる。
俺は床屋に着くまでの時間、短いドライブを楽しむ事にした。
一つ目の信号待ちで俺は音楽をかけ、スピーカーからは「アート・テイタム」の「ラヴ・フォー・セール」が流れだした。
なじみの床屋は隣町倉庫街の一角にあった。そして、その床屋は俺の高校時代からの友人が経営していた。
マスターの名は「しげる」、少し背の低い気さくなナイス・ガイだ。
どうでもいいことだが、高校一年の入学したての時、しげるは俺の後ろの席に座っていた。
消しゴムを忘れた俺が、しげるに「消しゴム貸してくれ」と話しかけたのが多分最初だったと思う。
そんな、懐かしい思い出に浸っているうちに、目の前になじみの床屋の看板が見えてきた。「バーバー[ es ]」、それがこの床屋の名前だ。
この床屋の名前は「ミスター・チルドレン」の「es」という曲から多分付いたのだろう。
実際に店名の由来をマスターに聞いたことは無いが、マスターとカラオケに行く度にこの曲を熱唱していたからだ。
しかし、マスターは音痴だった。
俺は駐車場に車を止め、店に入った。
「カラン、カラン」、店の入り口のドアには洋風の鈴が付けられていた。
俺はこういう小粋なマスターのセンスにいつも感心していた。
店内を見渡すとマスターは接客中で華麗なハサミさばきをみせていた。
「また腕をあげたな」、俺はマスターの華麗なハサミさばきにまた感心させられていた。
マスターが俺の姿に気が付き「まだかかるから、ちょっと待ってて」と目で合図した。
俺は、セルフサービスのコーヒーを入れ、ソファーに腰をおろした。
店内には「ビックス・ベイダーバック」の「イン・ア・ミスト」が流れていた。
煙草に火を付け、ブラックコーヒーの苦味を味わいながら俺は「ゴルゴ13」を読み始めた。
そして、「ゴルゴ13」を読んでいる途中に一冊の雑誌に視線を奪われた。
「最新メンズ・ヘアーカタログ」
俺はハードボイルドのバイブルとも言われている「ゴルゴ13」を置き、「ヘアーカタログ」を手に取った。
なぜか、童心に返ったかのように1ページ目をめくった。
そして、次の瞬間に俺の中で衝撃が走った。
「男ならパンチ!」、すごいタイトルとともに頭グリグリになったサブちゃん風のモデルが、俺のハードボイルド心をくすぐった。
俺は、仕事中のマスターに視線を移し心の中で呟いた。
「さすがだな。」
マスターは常に流行に敏感で、この街のファッションリーダーとして一目置かれていた。
そして、この街の若者誰もがマスターのセンスを盗もうと散髪せずとも店に訪れた。
「ヘアーカタログ」を読み終える頃、2人ほど客が入ってきた。
どうやら、今日はゆっくり話しをしながら散髪してもらえそうになさそうだ。
そう思った俺は「また今度くるよ」と声に出さず口の動きだけでマスターに告げた。
俺は家に帰り、リビングの真っ白なソファーに深く腰を下ろした。
散髪は出来なかったが、なぜだか優しい気持ちにさせてくれたマスターと「es」に、
とっておきのラム酒とブルーチーズで今夜は乾杯する事にしょう。

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