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コメント(18)
大山柏『戊辰役戦史』上巻224〜228p
五 岩井の戦闘（四月二十日）第二救扱隊×脱走純義隊、誠忠隊等
前述のごとく伊地知第二救援隊の薩兵は、関宿藩からの通報によって幸手から急行、その夜は関宿に泊まったが、翌二十日後軍の長、大垣、忍兵の来着を待ち、直ちに岩井に向かって前進を起こした。この日は大垣隊を斥候として前方に出し、薩、長、薩砲の順序にて行進し、岩井駅西北方に水田を前にして、すでに展開していた敵の大部隊と遭遇した。
この脱軍は四月十一日、国府台付近に大鳥諸隊等とともに脱走したものだが、前述のごとく大鳥の旗下に入らず大鳥軍出発の後にも国府台に留まった。その主要部隊は、純義隊（長・渡辺綱之助。百名くらい）、誠忠隊（長・山中孝司。四百余名）、回天隊の左半部（長・藤沼幸之丞）だが、そのほか貫義隊の一部やこれ等諸隊に加わらぬ個人や小団体もあったらしく、従者達を加えると千五、六百名に達したものと思われる。これ等が如何に行動したかについては、全く記録が発見されないが、恐らく何の統一もなく相談づくで順次に北上したらしい。その行動も緩慢であるが、小山付近の戦閾で脱軍が大勝利を収めたという報に刺激され、日光に向かって徐々に北行し、十九日には岩井に達し、関宿藩内の佐幕党と連絡したらしい。而して、いつ諜知したのか未詳だが、「官軍来たる」の報を得て、宿営地岩井の西北端の林端に歴開した。その配備内容は未詳だが、銃数は人数に比し少数だったので散兵散開し、他は背後の林中にそれぞれ密集して待機したらしい。
ここで岩井付近の戦闘位置について私見を述べておく。
岩井付近の戦闘位置については、第24図に示した位置のほか、同図のＡ点付近であるという説もある。これは長藩の「戊己征戦紀略」に「賊一里許り進出」とあるのに基づく説であるが、薩、大垣等の戦閉記事に合致しない。従つて後者に従って考定した。
官軍は午前十時頃その先頭の大垣兵が岩井西北の林端に敵を発見したので、本隊は先頭の薩五番隊が右に鵠戸沼に接して展開、続く長兵(恐らく忍一小隊は、長の指押下にあった)は左に開き、薩砲は正面の大垣兵に増加して直ちに砲火を開いた。脱軍は銃数が不足で多人数の割合に散兵線は薄弱だったし、火器は様々で火縄銃も相当にあったから、相互間百メートルぐらいの銃火戦では忽ち官軍方に圧倒される。そのうえ薩砲二門と大垣火箭砲一門との砲撃する弾丸が林中に炸裂するので、弱気の密集隊兵達の士気を沮喪せしめた。特に右翼の薩五番隊は鳥伏戦以来の歴戦の強剛で、濫将野津鎮雄の直率だから「時分はよし」と一団となって突込んだ。脱軍諸隊にも闘士はおったが部隊としての団結がないので、その左翼が先ず脆くも敗れ、かつ後方に集結しておった密集部隊もこの突撃で蜘蛛の子を散らすように逃げた。更にそれが全軍に波及し、総退走となり、官軍の総突撃で収拾のつかぬ有様となった。元来前述のごとく集合した数団体だから、思い思いの方向に走った。これがため当時としては莫大な損害を受け、回天隊長藤沼幸之丞以下死屍百三十が数えられた。官軍は薩兵は死二、傷三、長兵は死一、傷一、大垣兵は傷一、合計死三、傷五に過ぎなかった。
引用つづく
五 岩井の戦闘（四月二十日）第二救扱隊×脱走純義隊、誠忠隊等
前述のごとく伊地知第二救援隊の薩兵は、関宿藩からの通報によって幸手から急行、その夜は関宿に泊まったが、翌二十日後軍の長、大垣、忍兵の来着を待ち、直ちに岩井に向かって前進を起こした。この日は大垣隊を斥候として前方に出し、薩、長、薩砲の順序にて行進し、岩井駅西北方に水田を前にして、すでに展開していた敵の大部隊と遭遇した。
この脱軍は四月十一日、国府台付近に大鳥諸隊等とともに脱走したものだが、前述のごとく大鳥の旗下に入らず大鳥軍出発の後にも国府台に留まった。その主要部隊は、純義隊（長・渡辺綱之助。百名くらい）、誠忠隊（長・山中孝司。四百余名）、回天隊の左半部（長・藤沼幸之丞）だが、そのほか貫義隊の一部やこれ等諸隊に加わらぬ個人や小団体もあったらしく、従者達を加えると千五、六百名に達したものと思われる。これ等が如何に行動したかについては、全く記録が発見されないが、恐らく何の統一もなく相談づくで順次に北上したらしい。その行動も緩慢であるが、小山付近の戦閾で脱軍が大勝利を収めたという報に刺激され、日光に向かって徐々に北行し、十九日には岩井に達し、関宿藩内の佐幕党と連絡したらしい。而して、いつ諜知したのか未詳だが、「官軍来たる」の報を得て、宿営地岩井の西北端の林端に歴開した。その配備内容は未詳だが、銃数は人数に比し少数だったので散兵散開し、他は背後の林中にそれぞれ密集して待機したらしい。
ここで岩井付近の戦闘位置について私見を述べておく。
岩井付近の戦闘位置については、第24図に示した位置のほか、同図のＡ点付近であるという説もある。これは長藩の「戊己征戦紀略」に「賊一里許り進出」とあるのに基づく説であるが、薩、大垣等の戦閉記事に合致しない。従つて後者に従って考定した。
官軍は午前十時頃その先頭の大垣兵が岩井西北の林端に敵を発見したので、本隊は先頭の薩五番隊が右に鵠戸沼に接して展開、続く長兵(恐らく忍一小隊は、長の指押下にあった)は左に開き、薩砲は正面の大垣兵に増加して直ちに砲火を開いた。脱軍は銃数が不足で多人数の割合に散兵線は薄弱だったし、火器は様々で火縄銃も相当にあったから、相互間百メートルぐらいの銃火戦では忽ち官軍方に圧倒される。そのうえ薩砲二門と大垣火箭砲一門との砲撃する弾丸が林中に炸裂するので、弱気の密集隊兵達の士気を沮喪せしめた。特に右翼の薩五番隊は鳥伏戦以来の歴戦の強剛で、濫将野津鎮雄の直率だから「時分はよし」と一団となって突込んだ。脱軍諸隊にも闘士はおったが部隊としての団結がないので、その左翼が先ず脆くも敗れ、かつ後方に集結しておった密集部隊もこの突撃で蜘蛛の子を散らすように逃げた。更にそれが全軍に波及し、総退走となり、官軍の総突撃で収拾のつかぬ有様となった。元来前述のごとく集合した数団体だから、思い思いの方向に走った。これがため当時としては莫大な損害を受け、回天隊長藤沼幸之丞以下死屍百三十が数えられた。官軍は薩兵は死二、傷三、長兵は死一、傷一、大垣兵は傷一、合計死三、傷五に過ぎなかった。
引用つづく
その夜官軍は岩井駅に入って宿営し、翌二十一日には境駅（関宿対岸）まで引上げた。
脱走軍の方は岩井付近の戦闘の後、どこに集結したのか全く不明だが、岩井北々東十六キロに在る下妻（井上辰若丸の陣屋で、四月十六日に大鳥前軍に劫掠された）に二十一日朝到着しているところからすると、戦闘は午後三、四時頃には済んでおったから、夜中も走って下妻まで来たに相違ない。かつ「下妻藩報告」（復?六九三）に「賊徒敗走の体にて千七、八百人」とあるところからすると、人数の点はともかく、岩井戦の主力であることが考定せられる。なお同報告には「同日（二十一日）夕方、野州の方へ引払い申し侯」とあり、かつ「伊地知正治日記」（復?五三三）に「なお昨日（二十二日）岩井よりの落武者渡辺綱之助以下六百ぐらい之れに加わりし由なり」とあるから、二十一日から二十二日にわたって下妻―宇都宮間四十キロ（十里）を走破して、宇都宮に到着したものと認められる。だが「伊地知日記」の六百ぐらいとあるのが本当らしく、「下妻報告」の千七、八百名は多過ぎるようだが、一面から見ると、宇都宮に行かないもの、宇都宮到着までに多数の脱落者を生じたことなども見逃せない。
その後の戦闘において純義隊や渡辺綱之助の名は出て来るが、回天隊の名は全く見出せない。これは同隊長藤沼の戦死によって収拾がつかなくなったのかも知れない。また、そのうち宇都官に達した一部の連中は隊長がいないので、回天隊右半部に合同したのかも知れないが、回天隊右半部でも隊長相馬左金吾は戦死し、同隊の記録未詳だから精しいことは判らない。あるいは両隊長の戦死によって同隊の大部は解体したのかも知れない。ただ僅かにその一部と覚しきものが大田原戦に出て来ている。
更に記録しておくべきことは誠忠隊の行動である。これも自隊の記録は未見だが、岩井戦の後、少なくとも二十二日には江戸川下流の流山（岩井の南二十キロ）に落ち延び、如何なる連絡があったか未詳だが、旧幕の残務処理をしておった田安家から招撫の使者が来たり、結局同隊は二十四日新宿（松戸西南三キロ、江戸川野右岸）に、二十五日千住に至り、ここで田安家家来および東海官軍によって武装解除せられ、人員は田安家に引渡された。人数は三百七十五名とあり、この中には召集の歩兵が百十余名もおった（復?六八二）。小銃は百二十挺（銃種未詳）であった。
引用ここまで
脱走軍の方は岩井付近の戦闘の後、どこに集結したのか全く不明だが、岩井北々東十六キロに在る下妻（井上辰若丸の陣屋で、四月十六日に大鳥前軍に劫掠された）に二十一日朝到着しているところからすると、戦闘は午後三、四時頃には済んでおったから、夜中も走って下妻まで来たに相違ない。かつ「下妻藩報告」（復?六九三）に「賊徒敗走の体にて千七、八百人」とあるところからすると、人数の点はともかく、岩井戦の主力であることが考定せられる。なお同報告には「同日（二十一日）夕方、野州の方へ引払い申し侯」とあり、かつ「伊地知正治日記」（復?五三三）に「なお昨日（二十二日）岩井よりの落武者渡辺綱之助以下六百ぐらい之れに加わりし由なり」とあるから、二十一日から二十二日にわたって下妻―宇都宮間四十キロ（十里）を走破して、宇都宮に到着したものと認められる。だが「伊地知日記」の六百ぐらいとあるのが本当らしく、「下妻報告」の千七、八百名は多過ぎるようだが、一面から見ると、宇都宮に行かないもの、宇都宮到着までに多数の脱落者を生じたことなども見逃せない。
その後の戦闘において純義隊や渡辺綱之助の名は出て来るが、回天隊の名は全く見出せない。これは同隊長藤沼の戦死によって収拾がつかなくなったのかも知れない。また、そのうち宇都官に達した一部の連中は隊長がいないので、回天隊右半部に合同したのかも知れないが、回天隊右半部でも隊長相馬左金吾は戦死し、同隊の記録未詳だから精しいことは判らない。あるいは両隊長の戦死によって同隊の大部は解体したのかも知れない。ただ僅かにその一部と覚しきものが大田原戦に出て来ている。
更に記録しておくべきことは誠忠隊の行動である。これも自隊の記録は未見だが、岩井戦の後、少なくとも二十二日には江戸川下流の流山（岩井の南二十キロ）に落ち延び、如何なる連絡があったか未詳だが、旧幕の残務処理をしておった田安家から招撫の使者が来たり、結局同隊は二十四日新宿（松戸西南三キロ、江戸川野右岸）に、二十五日千住に至り、ここで田安家家来および東海官軍によって武装解除せられ、人員は田安家に引渡された。人数は三百七十五名とあり、この中には召集の歩兵が百十余名もおった（復?六八二）。小銃は百二十挺（銃種未詳）であった。
引用ここまで
伊地知正治日記より抜粋
廿日
總州岩井驛にて一戰、官軍大勝利、打取百餘人、大砲其外分捕多し、生捕四人、我手之死傷は
戰死 河野 壮八
犬廻ノ末丸 藤介
手負 野崎 喜左衛門
瀬戸山 喜兵衛
鵜木 五左衛門
初め官軍之議定は、下總國關宿は、刀根川の流、四方の運送之要地なれば、先づ彼地に據て四方の形勢を伺ひ進撃すへしと、十九日夜着と均く、川涯に番兵をを出し、航行之人を攻め、遠近に斥候を出して、賊之形勢を伺しむ賊亦視る處も有か、兼て關宿には、賊徒に一味のもの多きを以て、
岩井宿の當日、家中五十餘人脫走、且つ在り江戸之主人在所不相知
夫より三里（但五十丁一里）と云なる岩井驛に屯集、或は此方へ襲來之由に付、官軍早天より進撃、四ツ分より軍始り、直に賊徒追落し、 八ツ半時分全く味方の勝利に相成、其夜は餘黨を搜索して一宿、賊散々成て、四方に逃去して云
賊徒千六百位有之候由、僅に官軍三百位故先十分之大勝利と申事
此夜六番隊は幸手驛着
廿日
總州岩井驛にて一戰、官軍大勝利、打取百餘人、大砲其外分捕多し、生捕四人、我手之死傷は
戰死 河野 壮八
犬廻ノ末丸 藤介
手負 野崎 喜左衛門
瀬戸山 喜兵衛
鵜木 五左衛門
初め官軍之議定は、下總國關宿は、刀根川の流、四方の運送之要地なれば、先づ彼地に據て四方の形勢を伺ひ進撃すへしと、十九日夜着と均く、川涯に番兵をを出し、航行之人を攻め、遠近に斥候を出して、賊之形勢を伺しむ賊亦視る處も有か、兼て關宿には、賊徒に一味のもの多きを以て、
岩井宿の當日、家中五十餘人脫走、且つ在り江戸之主人在所不相知
夫より三里（但五十丁一里）と云なる岩井驛に屯集、或は此方へ襲來之由に付、官軍早天より進撃、四ツ分より軍始り、直に賊徒追落し、 八ツ半時分全く味方の勝利に相成、其夜は餘黨を搜索して一宿、賊散々成て、四方に逃去して云
賊徒千六百位有之候由、僅に官軍三百位故先十分之大勝利と申事
此夜六番隊は幸手驛着
関宿藩「遠山正功記」
十九日、麾下井ビニ曾藩脱走ノ徒千五百人程、岩井駅ヘ止宿、(御城下ヲ距タルコト三里程東方ニ當ル)明廿日関宿城下通行ニ付キ、人足継立等用意コレ有リ度キ旨、注進申シ越シセシカバ、又々議論沸騰或ハコレヲ境川河ニ要シ激撃スペシト、然ル処ヘ城下江戸町ヘ、薩摩伊知地正治殿・野津七左衛門殿・弐百人引卒御繰リ込ミ相成リ候ニ付キ、杉山対軒罷リ出デノ上、脱走徒ヨリ注進ノ趣陳述候処へ明早朝進軍致サレ候趣ニテ就イテハ川筋へ番兵差シ出ス様御談ニ付キ、其ノ夜番兵手配コレ有リ候節、又佐幕論家喋々不勝ヲ唱フル者アリ、封軒等百方順逆ヲ説キ漸ク出兵相成ル。
此ノ両三日前丹羽慎蔵関宿表ニ在リ、岩井表ヨリ継立ノ注進コレ有リ藩論ノ沸騰セシ故、監察山崎弥五右衛門ヲ同行、岩井駅ニ至リ関宿城下通行スルノ不利ヲ説キ、更ニ他路ヲ取ル可キ旨ヲ申シ入レ、此ノ夜慎蔵ハ江戸へ帰ル。
賊徒明日官軍進撃ノ報ヲ聴キ、弥五右衛門井ビニ島田某ヲ疑ヒコレヲ縛シ寸断スト云フ。
二十日、早朝伊知地殿岩井駅へ進軍大勝利賊徒散散
此ノ昼午ノ刻頃岩井地方ニ当タリ、頻リニ砲声相聞へ候節、木村正右衛門等ハ定メテ官軍打チ負ケ、徳川報恩兵ノ為ニ尾撃セラレ、程無ク當城へ攻メ入ル可ク
ト相見込ミ、江府邸へ相越シ君公守護致ス可キ様、触レ相廻シ番兵先ノ者百三十人程ヲ誘イ出シ、江戸邸ヘ向ケ脱走。（略）
十九日、麾下井ビニ曾藩脱走ノ徒千五百人程、岩井駅ヘ止宿、(御城下ヲ距タルコト三里程東方ニ當ル)明廿日関宿城下通行ニ付キ、人足継立等用意コレ有リ度キ旨、注進申シ越シセシカバ、又々議論沸騰或ハコレヲ境川河ニ要シ激撃スペシト、然ル処ヘ城下江戸町ヘ、薩摩伊知地正治殿・野津七左衛門殿・弐百人引卒御繰リ込ミ相成リ候ニ付キ、杉山対軒罷リ出デノ上、脱走徒ヨリ注進ノ趣陳述候処へ明早朝進軍致サレ候趣ニテ就イテハ川筋へ番兵差シ出ス様御談ニ付キ、其ノ夜番兵手配コレ有リ候節、又佐幕論家喋々不勝ヲ唱フル者アリ、封軒等百方順逆ヲ説キ漸ク出兵相成ル。
此ノ両三日前丹羽慎蔵関宿表ニ在リ、岩井表ヨリ継立ノ注進コレ有リ藩論ノ沸騰セシ故、監察山崎弥五右衛門ヲ同行、岩井駅ニ至リ関宿城下通行スルノ不利ヲ説キ、更ニ他路ヲ取ル可キ旨ヲ申シ入レ、此ノ夜慎蔵ハ江戸へ帰ル。
賊徒明日官軍進撃ノ報ヲ聴キ、弥五右衛門井ビニ島田某ヲ疑ヒコレヲ縛シ寸断スト云フ。
二十日、早朝伊知地殿岩井駅へ進軍大勝利賊徒散散
此ノ昼午ノ刻頃岩井地方ニ当タリ、頻リニ砲声相聞へ候節、木村正右衛門等ハ定メテ官軍打チ負ケ、徳川報恩兵ノ為ニ尾撃セラレ、程無ク當城へ攻メ入ル可ク
ト相見込ミ、江府邸へ相越シ君公守護致ス可キ様、触レ相廻シ番兵先ノ者百三十人程ヲ誘イ出シ、江戸邸ヘ向ケ脱走。（略）
関宿藩、杉山対軒の記録
辰四月十九日賊徒千五百人領内岩井駅へ止宿(城下ヨリ一里許
リ)翌日関宿へ侵入ノ風聞コレ有リ候、同日薩藩兵隊城下江戸町ヘ御宿陣相成リ僕参謀伊知地正治殿、隊長野津七左衛門殿へ出曾、賊徒岩井駅止宿ノ旨報告仕リ、弊藩兵隊ノ儀ハ、弊城守禦仕リ候心得ニテ、僕始メ船橋随庵闔藩諸士へ告諭致シ、某々要所へ衛兵差シ出シ、翌廿日払暁長藩、大垣藩、諸隊岩井地方ヘ進軍ニ及バレ、午前兵燹姻雲騰引、砲声相轟、勝敗未決ノ間、桶々巷説コレ有リ、弊
城中守備隊中、佐幕持論ノ奸臣共、一百名許リ脱走仕リ、小藩微勢ノ折柄、尚以ッテ兵力相タユ（手ヘンに焼、くの右側）ミ、人心動揺殆ンド苦慮仕リ、漸城中ノ残兵引纏メ、僕始メ決死憤激今日限リト相励マシ候庭、存外勢気ヲ取リ直シ、一同決死防戦ノ心得ニ罷リ成リ候処、其ノ内官軍御勝利賊徒敗走ノ報告相違シ、弊城危急ヲ相脱シ翌廿一日薩藩兵隊城下境町ヘ御宿陣、重役御呼出ニ付キ、僕井ビニ町奉行羽太庄兵衛罷リ出デ候処、種々御糺間コレ有リ、近日来ノ始末委曲陳達、一身ヲ抛候テ陳謝仕リ、猶佐幕持論之徒、未脱罷リ在リ候者三名召捕リ、御宿陣へ差シ出シ御糺シヲ受ケ入牢申シ付ケ候。
いずれも千葉県関宿城博物館発行の「研究紀要」第９号より
辰四月十九日賊徒千五百人領内岩井駅へ止宿(城下ヨリ一里許
リ)翌日関宿へ侵入ノ風聞コレ有リ候、同日薩藩兵隊城下江戸町ヘ御宿陣相成リ僕参謀伊知地正治殿、隊長野津七左衛門殿へ出曾、賊徒岩井駅止宿ノ旨報告仕リ、弊藩兵隊ノ儀ハ、弊城守禦仕リ候心得ニテ、僕始メ船橋随庵闔藩諸士へ告諭致シ、某々要所へ衛兵差シ出シ、翌廿日払暁長藩、大垣藩、諸隊岩井地方ヘ進軍ニ及バレ、午前兵燹姻雲騰引、砲声相轟、勝敗未決ノ間、桶々巷説コレ有リ、弊
城中守備隊中、佐幕持論ノ奸臣共、一百名許リ脱走仕リ、小藩微勢ノ折柄、尚以ッテ兵力相タユ（手ヘンに焼、くの右側）ミ、人心動揺殆ンド苦慮仕リ、漸城中ノ残兵引纏メ、僕始メ決死憤激今日限リト相励マシ候庭、存外勢気ヲ取リ直シ、一同決死防戦ノ心得ニ罷リ成リ候処、其ノ内官軍御勝利賊徒敗走ノ報告相違シ、弊城危急ヲ相脱シ翌廿一日薩藩兵隊城下境町ヘ御宿陣、重役御呼出ニ付キ、僕井ビニ町奉行羽太庄兵衛罷リ出デ候処、種々御糺間コレ有リ、近日来ノ始末委曲陳達、一身ヲ抛候テ陳謝仕リ、猶佐幕持論之徒、未脱罷リ在リ候者三名召捕リ、御宿陣へ差シ出シ御糺シヲ受ケ入牢申シ付ケ候。
いずれも千葉県関宿城博物館発行の「研究紀要」第９号より
天獄記 白川口戦 純義隊戦記
（略）
同十九日純義隊先鋒にて同處出発五六里にして関宿領岩井町に陣す。関宿へは三里明日は城を襲ふとの手筈なり。廿日払暁敵兵薩、長、大垣、井伊、関宿其の外岩井町を襲うふとの報告あり。依て兵隊並に大砲二門を繰出し宿を通過。稍畑中に掛りし時、繁林茂樹の陰より○（小か？）銃を放発す。我兵之に対し大砲を打出し互に相戦ふこと数刻、夜に至り町内に伏勢せし者ありしや、宿中又は倉庫内より頻りに発砲し、弾丸頭上に破裂するの音、恰も雷の如く、亦小銃の飛丸は雨の如く粉骨砕身して空戦し、一瞬間に或は討れて倒れ或は手を負ひ、東西に奔走し、死骸を踏み越え々々激戦街路に倒れしもの、鮮血流れて芋を染むるも猶勇戦して大砲を発射せしが、敵の隊伍中に破裂し死傷数十人、此の時会藩の森何某なるもの大砲方なるしが胸を討れても猶屈せず気を励まし三四回砲発して遂に死す。会の捕直江兵を率ゐて追撃す。豈に図らむや敵の被弾胸中を三発一度に貫かれ、残念なりと罵りて我刀を抜き自ら首をかき切て死せり。
我が大芋甫介、中里丈吉、吉田直次郎討死す。磯田主税、原五郎、鈴木蔵之助、大井次郎、里見槍太郎を始め手負せり。此の外に死傷夥しく戦ひ利あらず。依て繰引に引揚ぐ。
函館毎日新聞明治45年２月６、７日掲載より
（略）
同十九日純義隊先鋒にて同處出発五六里にして関宿領岩井町に陣す。関宿へは三里明日は城を襲ふとの手筈なり。廿日払暁敵兵薩、長、大垣、井伊、関宿其の外岩井町を襲うふとの報告あり。依て兵隊並に大砲二門を繰出し宿を通過。稍畑中に掛りし時、繁林茂樹の陰より○（小か？）銃を放発す。我兵之に対し大砲を打出し互に相戦ふこと数刻、夜に至り町内に伏勢せし者ありしや、宿中又は倉庫内より頻りに発砲し、弾丸頭上に破裂するの音、恰も雷の如く、亦小銃の飛丸は雨の如く粉骨砕身して空戦し、一瞬間に或は討れて倒れ或は手を負ひ、東西に奔走し、死骸を踏み越え々々激戦街路に倒れしもの、鮮血流れて芋を染むるも猶勇戦して大砲を発射せしが、敵の隊伍中に破裂し死傷数十人、此の時会藩の森何某なるもの大砲方なるしが胸を討れても猶屈せず気を励まし三四回砲発して遂に死す。会の捕直江兵を率ゐて追撃す。豈に図らむや敵の被弾胸中を三発一度に貫かれ、残念なりと罵りて我刀を抜き自ら首をかき切て死せり。
我が大芋甫介、中里丈吉、吉田直次郎討死す。磯田主税、原五郎、鈴木蔵之助、大井次郎、里見槍太郎を始め手負せり。此の外に死傷夥しく戦ひ利あらず。依て繰引に引揚ぐ。
函館毎日新聞明治45年２月６、７日掲載より
大塚武松 編『薩藩出軍戰狀』一 103〜105p
五番隊戰狀
一四月十七目大總督宮江戸 御入城に付小石川并水道橋見附固被 仰付今一字より板橋驛繰出し二字比陸軍所江著則礫見附固居候役人共江引合一分隊つゝ交代にて警衞候事
一同十八日朝六ツ過陸軍所立五ツ半時分板橋江著夫より四ツ時分同所繰出し第四字比越ケ谷驛江著然處井伊須坂岩城平等之官軍於野州小山邊敗走之段古河藩より報知有之候事
一同十九日朝五ツ半越谷進軍九ツ時分關宿江著則同所藩杉山對軒外一人江曵合賊情等探索いたし候處下總國岩井驛江一千五六百計屯集追々繰出し候勢之由申出候付刀根川筋渡し舟悉曵揚夜五ツ時分一番分隊より
番兵差出置翌廿日進擊之策を定幸手宿江致進軍居候大垣長州之官軍と約し朝六ツ時分關宿を發し境驛にて會軍大垣一中隊を以斥候隊とし尤驛中之者兩人爲案內召列五番隊長州一中隊二番砲隊二門合而三百人計にて大槪八字比岩井驛迄相進候處賊兵よりの斥候も直樣引返し街道筋より田地を中にし南北江散開し待受居候付大砲隊并大垣之兵を正面に向け五番隊并長州之兵を左右江相開致進軍候處彈丸如雨打掛賊兵も暫時は嚴敷相支候得共左右之��擊に僻易し終に及敗走四方江致散亂候付兵を集再進擊之評議にをよひ候得共賊遠方迄引揚候付岩井驛に致一泊候此日賊首百三拾餘級を得たり翌廿一日致退散候賊徒及探索候得共近村江は不致屯集由にて五ツ半時分岩井立境宿迄引揚候處關宿藩之內賊徒江致內通候者有之段同藩家老杉山對軒申出尤三人召捕差出候付糺明之上同藩江曵渡置候事
一同廿三日五ツ時分境宿迄進軍八時分結城城下町江著則致探索候處賊三百人餘にて下館城を乘取籠城いたし居候段同藩申出候付長州大垣申談攻擊之策を定翌廿四日早天より進軍之筋相決し居候處無程退散之報知有之候付廿四日五ツ時分結城進軍然るに小山邊迄繰出候處字��宮之方に相當り砲聲烈敷相聞得候付速に進軍いたし候得共八九里之道程故漸七ツ時分宇郡宮江著然るに六番隊并二番砲隊半隊大垣一小隊にて早天より及攻城候處賊三千八百人餘籠城嚴敷致防戰甚苦戰之樣子にて直樣進て町口之砲臺を一時に追崩し城西之堀際迄烈敷攻付賊兵悉城中江追込�軋發塙腓圭�追手口より攻入候處賊防禦之術を失ひ悉敗潰し日光街道之方江落行候付四番分隊は八幡山之賊を追落し一里許追打いたし及日暮候付人數悉く曵揚城內江繰入城外は長州大垣相固城內は薩因之兩藩を以相固候此日賊之百五十人餘打取候事
戰死
上田友輔
五番隊戰狀
一四月十七目大總督宮江戸 御入城に付小石川并水道橋見附固被 仰付今一字より板橋驛繰出し二字比陸軍所江著則礫見附固居候役人共江引合一分隊つゝ交代にて警衞候事
一同十八日朝六ツ過陸軍所立五ツ半時分板橋江著夫より四ツ時分同所繰出し第四字比越ケ谷驛江著然處井伊須坂岩城平等之官軍於野州小山邊敗走之段古河藩より報知有之候事
一同十九日朝五ツ半越谷進軍九ツ時分關宿江著則同所藩杉山對軒外一人江曵合賊情等探索いたし候處下總國岩井驛江一千五六百計屯集追々繰出し候勢之由申出候付刀根川筋渡し舟悉曵揚夜五ツ時分一番分隊より
番兵差出置翌廿日進擊之策を定幸手宿江致進軍居候大垣長州之官軍と約し朝六ツ時分關宿を發し境驛にて會軍大垣一中隊を以斥候隊とし尤驛中之者兩人爲案內召列五番隊長州一中隊二番砲隊二門合而三百人計にて大槪八字比岩井驛迄相進候處賊兵よりの斥候も直樣引返し街道筋より田地を中にし南北江散開し待受居候付大砲隊并大垣之兵を正面に向け五番隊并長州之兵を左右江相開致進軍候處彈丸如雨打掛賊兵も暫時は嚴敷相支候得共左右之��擊に僻易し終に及敗走四方江致散亂候付兵を集再進擊之評議にをよひ候得共賊遠方迄引揚候付岩井驛に致一泊候此日賊首百三拾餘級を得たり翌廿一日致退散候賊徒及探索候得共近村江は不致屯集由にて五ツ半時分岩井立境宿迄引揚候處關宿藩之內賊徒江致內通候者有之段同藩家老杉山對軒申出尤三人召捕差出候付糺明之上同藩江曵渡置候事
一同廿三日五ツ時分境宿迄進軍八時分結城城下町江著則致探索候處賊三百人餘にて下館城を乘取籠城いたし居候段同藩申出候付長州大垣申談攻擊之策を定翌廿四日早天より進軍之筋相決し居候處無程退散之報知有之候付廿四日五ツ時分結城進軍然るに小山邊迄繰出候處字��宮之方に相當り砲聲烈敷相聞得候付速に進軍いたし候得共八九里之道程故漸七ツ時分宇郡宮江著然るに六番隊并二番砲隊半隊大垣一小隊にて早天より及攻城候處賊三千八百人餘籠城嚴敷致防戰甚苦戰之樣子にて直樣進て町口之砲臺を一時に追崩し城西之堀際迄烈敷攻付賊兵悉城中江追込�軋發塙腓圭�追手口より攻入候處賊防禦之術を失ひ悉敗潰し日光街道之方江落行候付四番分隊は八幡山之賊を追落し一里許追打いたし及日暮候付人數悉く曵揚城內江繰入城外は長州大垣相固城內は薩因之兩藩を以相固候此日賊之百五十人餘打取候事
戰死
上田友輔
「楢崎頼三堤兵日録」〜山口県立文書館蔵より
（たぶんどこかで活字化になってるかと思います）
十八日
（略）
九ツ時本陣江兵隊一行出テ両卿拝謁。御直ニ御意有之、且梨羽氏両人江指揮ヲ賜フ。夫ヨリ直様大垣藩一同川口通り江鳩ヶ谷駅着。
十九日 晴
朝七ツ時発陣。岩槻通り幸手宿着。此夜百村発蔵ヲ薩五番隊陣営、関宿江着ス。干時同藩ヨリ報知シ岩井村ニ賊兵千四五百人計屯集ノ由申来ル。即チ同進撃ノ約ヲ定メ帰ル。直様整隊押出ス。関宿江往キ薩藩申合せ、境宿ニ刀根川ヲ舟ニ揮シ渡ル。干時暁天相過キ、同東山ニ登ントス。
廿日ナリ 夫ヨリ直様斥候本隊ヲ分チ押出ス。予斥候ヲ率ニ岩井村午前里余賊斥候二騎来ル、進テ十丁余ノ所ニ到、喇叭ノ声ヲ聞ク。我兵大ニ勇テ進ム丁余ノ所ニ到ル平田有リ。賊田中ニ出テ兵ヲ配リ来リ。我兵発砲、賊亦着砲、互ニ午銃ヲ交ルト齋ク突進、左右ヨリ岩井村ニ入ル。賊狼狽遁去、我斥候隊追跡、四五丁賊斃、屍百余ヲ残シ置キ散す。放火スル四五秤斥候隊火ヲ消シ同所宿陣。我隊田中甚吉賊丸ニ觸レ戦死シ、百村発蔵傷ク。大砲四門小銃数多ク分取ル。乗馬二騎亦分捕。
（たぶんどこかで活字化になってるかと思います）
十八日
（略）
九ツ時本陣江兵隊一行出テ両卿拝謁。御直ニ御意有之、且梨羽氏両人江指揮ヲ賜フ。夫ヨリ直様大垣藩一同川口通り江鳩ヶ谷駅着。
十九日 晴
朝七ツ時発陣。岩槻通り幸手宿着。此夜百村発蔵ヲ薩五番隊陣営、関宿江着ス。干時同藩ヨリ報知シ岩井村ニ賊兵千四五百人計屯集ノ由申来ル。即チ同進撃ノ約ヲ定メ帰ル。直様整隊押出ス。関宿江往キ薩藩申合せ、境宿ニ刀根川ヲ舟ニ揮シ渡ル。干時暁天相過キ、同東山ニ登ントス。
廿日ナリ 夫ヨリ直様斥候本隊ヲ分チ押出ス。予斥候ヲ率ニ岩井村午前里余賊斥候二騎来ル、進テ十丁余ノ所ニ到、喇叭ノ声ヲ聞ク。我兵大ニ勇テ進ム丁余ノ所ニ到ル平田有リ。賊田中ニ出テ兵ヲ配リ来リ。我兵発砲、賊亦着砲、互ニ午銃ヲ交ルト齋ク突進、左右ヨリ岩井村ニ入ル。賊狼狽遁去、我斥候隊追跡、四五丁賊斃、屍百余ヲ残シ置キ散す。放火スル四五秤斥候隊火ヲ消シ同所宿陣。我隊田中甚吉賊丸ニ觸レ戦死シ、百村発蔵傷ク。大砲四門小銃数多ク分取ル。乗馬二騎亦分捕。
チラシの裏トピックからコピペ
93 2009年02月15日 16:40 ふんにゃら
現地踏査をしたときですが、現在は干拓されて、窪地となっている鵠沼は完全に沼地だったそうで、船での渡航が必要だったそうです。そのため、幕府側に陣を敷いたと思われる側には銃弾の跡がなく（あくまでも平成19年の調査）、逆に渡航を終えた後でしょうが、岩井にある球場周辺の樹木が若干古かったため、見ると、岩井宿方面（旧幕府軍本陣）に向いた弾痕らしきものを数点発見できました。また、逆側は一切ありませんでした。
残念ながら、岩井戦争のことを知る方は坂東市教育委員会を含め、地元の研究者はいなく、残っていてもおかしくはない、銃弾が発見できていないのが現状です。
ちなみに岩井町史の幕末部分は、お隣の水海道市（当時）に委託して書いてもらったものだそうです。
93 2009年02月15日 16:40 ふんにゃら
現地踏査をしたときですが、現在は干拓されて、窪地となっている鵠沼は完全に沼地だったそうで、船での渡航が必要だったそうです。そのため、幕府側に陣を敷いたと思われる側には銃弾の跡がなく（あくまでも平成19年の調査）、逆に渡航を終えた後でしょうが、岩井にある球場周辺の樹木が若干古かったため、見ると、岩井宿方面（旧幕府軍本陣）に向いた弾痕らしきものを数点発見できました。また、逆側は一切ありませんでした。
残念ながら、岩井戦争のことを知る方は坂東市教育委員会を含め、地元の研究者はいなく、残っていてもおかしくはない、銃弾が発見できていないのが現状です。
ちなみに岩井町史の幕末部分は、お隣の水海道市（当時）に委託して書いてもらったものだそうです。
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