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将来は小説家!?コミュのデモクラティック・マン

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この国には紛うこと無き正真正銘の『英雄』がいる。
彼は幾度となくこの国を守るために、この星を守るために戦った。
そして勝利してきた。

言葉の通じない国に行ったとしても、彼の名前を出すだけで話題には事欠かない。
つまりは彼はまさに『この星の英雄』なのだ。

超人という言葉を人に対して使っていたのは彼が世に現れるまでの事。
今では彼を表す時にしか超人という言葉は使われない。
なにせ、彼こそが『超人』なのだ。

そもそもがこの星の生まれではない。

彼は幾度となく、彼の生い立ちについて我々に説明してくれたし
彼が普段身に着けている様々な奇跡を起こす道具についてもその原理を教えてくれたが
残念ながら今のこの星に住むいかなる科学者もその内容を理解できなかった。

それは例えるなら、この星に住むものならばすべてのものが当然と思っている1+1の答えが
どうあっても彼の説明の中では2にはならない、まるで別の世界の話だったからだ。

始めは理解しようとしていた人たちもそのうちにあきらめ、
『彼』を『超人』として扱うようになった。
理解できないものを理解するために時間を使う事は無駄であると分かる点において
この星の住人は『知的』であったのだと信じたい。

彼が今いる場所は、この国の中枢だ。
政治の要所となるところ。民主制議会主義の中心となるところ。国の中央議事堂。
多くの人の意見をまとめるために作られたこの国の誇りの場所である。

ただし、彼は政治には全く触れていない。
なにせ、そもそも彼はこの星の生まれですらないし
この国を守るためにここにいるわけでもない。
彼は向かってくる災いを消しているだけだったので
この国にいる事それ自体が偶然である。
それに彼の考えは我々からすれば常軌を逸していて理解できない。
彼が言うには『平和』な世界がすぐにできるらしいのだが。

今、この建物を多くの人たちが取り囲んでいる。
その人々の手には彼の名前(この星で仮につけた名前だが)が書かれている旗や
さまざまな大きさのプラカードが握られている。
軽く目算しただけでも2000人は下らない、というところだろうか。

ありったけの苦々しさを口元に集めたような顔で男が呻くような声を上げた。
『眼下に映るあの民衆たちを見たかね、君は』

『その透明な壁から覗くまでもなく、私には彼らの姿が見えています。
そしてそれぞれが思っていることも見えています。』

『そうだろう。君はそういう存在なのだからな。』

ブラインドの隙間に挟めた指を忌々しげに取り払うと
男は部屋中央のテーブルに歩み寄った。
その口元には先ほど来からの苦々しさがこびり付いたままだ。

『なぜ、あの場所で戦った?あの場所で戦えば我が国の誇る建築物、
交通機関、そして多くの民衆に被害が出ることは予想できたはずだ』

『予想を的確に行い、最善と思われる戦闘方法を選びました。
被害者は怪我のみで犬が3匹、人が5匹…失礼。人が5人。
極めて軽微と言えます。』

『犬と人を同列に語らないで頂きたい!』

『私にとっては人も犬も大した違いはありません。
もちろん違いがあることは認めますが。』

『人に被害が発生したことが問題だと言っているのだ。
なぜあの場で戦いを始めたのかと聞いている』

『今回の相手が持っていたのはあなたたちの言葉で言うところの爆弾です。
それもかなり強力な。』

『ほう、それは恐ろしいことで。で、どの程度強力なのだ。
少なくとも我が国が持つ、10km四方を焼き尽くす新型爆弾よりは強力なのだろうな』

『この星と、この星の衛星がともに跡形もなくなる程度です。
私が知る限りで中規模の爆弾に相当します。』

『…』

『12秒以内で相手を倒し、3秒以内で爆弾の機能を停止する必要がありました。』

『…』

『もう一度説明しましょうか?もしくは爆弾の仕組みと
その解体にかかる手数とそこに必要な時間から説明したほうがよろしいですか?』

彼がこの星に来たとき、心に決めたことがあった。
残り少ない余生(といっても、人に比べれば恐ろしく長い余生だが)を過ごすに当たり
たまたま選んだ星、たまたま選んだ地域。

どこに行っても何かしら先住民と争う事もあろう。
だがそこは自分が部外者であることを肝に銘じて
その場所のルールに出来うる限り従おう、と。
その場所の先住民が生きることを願うならばそれを叶え、
私と同じような力を持つものがこの星を狙うことがあればそれを退けよう、と。

つまりは『郷に入れば郷に従え』という事だ。
この考えにのっとって行動した結果、彼は自然とこの星の英雄となったのだ。

『だが、今回の戦いに巻き込まれた人々がこうして集まり、
君の行動を制限すべきだと訴えている』

『その理屈には納得しかねます。私は少なくとも彼らの命を救っている』

『その救われた命を持つ人々が、君の行動を危険だと思っているのだ』

『では、あの場で爆弾を解体しなければ良かったと?』

『君が戦うたびに、破壊するたびに、
どれだけの税金が使われているのかわかっているのか?
君の名前の付いた保険商品があることぐらい君も知っているだろう!』

唾液を広範囲にまきちらしながら怒鳴りつける男の姿をとらえながら
正直なところ、彼はどうでも良いと思っていた。
結果として最善の手を選んだわけだし、既に終わったことだ。

少なくともあの時助かった犬は、頭を撫でた私に喜びの気持ちを伝えてくれていた。
犬がそう思っているわけだから、それより高等だと自負している人がそう思わないわけが無い。

きっと今はいろいろと屈折した気持ちがあるのだろう。
この星が公転運動の中心にしている恒星を20周ぐらい回る少しの間だけでも、
よくよく考えてくれれば彼らもきっと納得してくれるに違いない。

『もちろん、大部分の民衆は理解しているのだよ。
君の行動が正しいと。君の行動と思考は我々のはるか上を行く。
それを知っていても納得が出来ぬ者もあるという事がある。』

『えぇ。理解しているつもりです。』

『100人が100人理解していても100人が100人納得するわけではない。
その中で少数のものにもできる限り納得して貰える仕組みを探るのが
我々政治家の仕事でもあるのだ。』

『えぇ。それも理解しているつもりです。』

『そこでだ。今回の議会で民衆に君の行動に納得してもらうための決まりを作った』

『そうですか。』

『法律、と呼べるほどのものでもないのだが』

『私がこの星の法の外にある存在であることは私自身が理解していますが、
極力この星、この国の決まりごとの中で短い余生を過ごそうと思っています。』

『細かい説明は省略させていただくが、
簡単に言えば、こうだ。
君が今後、いかなる場所においても戦いを行う場合、
国民の過半数の承認を得ることを条件としたい。』

『そうですか。構いませんよ。』

『しかしながら、我々の今持つ技術では
過半数の承認を取る手段として投票という手段しかない。
これでは今回のように数秒が命取りになるような場合には
まったく意味をなさないことになる。』

『なるほど、そこでその承認を取るための仕組みを
私に作れ、というわけですね。
つまりは自分をつなぐ鎖を自分で作れ、と。』

『そういう事だ。そしてその鎖が果たして丈夫な鎖なのかどうか、
君を繋ぐに値するものなのかどうか、
これを国民にも信じさせなければならない。』

『なんともはや、滑稽な話になりましたね。
しかしまぁ、良いでしょう。それでこの国の方が満足するというのであれば。
私が望むのは、残る余生を静かに暮らすことだけです。』

彼の言葉には偽りは無い。
思い浮かんだ例えが適切ではなかったので言葉にはしなかったが、
彼にとってはこの国の人間が周囲で騒ぐ程度の事は
人に例えれば「目の前を小さな虫が通り過ぎる」程度の些細な事だったからだ。

不快であることには変わりないが、
蚊に血を吸われたからと言って出血しするわけでは無いし。
たまたま居住している場所に蚊が多く住んでいた、
その程度の事なのだ。
この国の人間たちも蚊を避けるために香を焚くようだし、
いわばこれは『香』なのだ。

その翌日、彼は2cm四方の銀色の箱について
国民すべてに説明を行った。
理論については説明しても無駄だと分かってはいたので
出来るだけわかりやすく、できるだけ簡潔に、
この箱を使う事で瞬時に全国民の意志を確認できることを説明した。

そもそもでいえば、こんな装置を使わずとも
彼は全国民、いや、本当を言えば
この惑星のすべての者の意志を確認することが出来る。
しかし、情報と決定の間にこの国の人間を通さなければ
政治家を名乗る人間達を『納得』させることはできないだろう。

実際の運用を前に綿密なテストが行われた。
まず、装置を通して一部地域の人間に対して簡単な質問を行う。
その地域がどこであるかは教えられず、全地域に対して
投票を用いてその答えを回収し突合せを行った。

結果は寸分たがわないものとなり、装置の正しさが証明された。
と、同時に一部の団体から声が上がった。
『これは、人の心を盗み見るプライバシーの侵害である』と。

なんともばかばかしいことだ。

口にはしなかったものの、彼は心の中でつぶやくことを抑えきれなかった。
別に人間という生き物を卑下するわけではないが、
君たちは動物園なるもので動物のプライバシーとやらをひけらかしているではないか。
彼らが常にどう思っているのかを考えたことはあるのか、と。
そして、君たちは答えるのだ。
『人間は特別なのだ。プライバシーを持つ動物なのだ』と。

正直なところ、彼から見る人間の心の中というのは
人間が見るアリの巣の中のようなものだ。
面白くはあるが、アリの巣以上のものでは無い。
そこに特段の意味も持たないし、
見られているアリの気持ちも特に考えるものでも無い。

…とはいえ、そんなことを言っても波風を立てるだけなので
彼はすぐさま新しい制御装置を作成した。
質問に対して、得られる回答にフィルターをかけ
必要以上の回答を得ないようにした。
Yes、No、それ以外、という回答以外が得られないようにしたのだ。

ここで一部の団体から声が上がった。
『思考の中に勝手に割り込んでくるのは、洗脳ではないか』と。
質問の内容が意図的に政治的色の濃いものだとしたら、
その影響で少しずつ、しかし確実に特定の思想に染められていくのではないか、と。

彼はすぐさま新しい制御装置を作成した。
情報の発信源となるのは彼自身となるため、
彼自身の思考が余計なノイズを生まないよう、
発信源となる頭部に十重二重の防護シールドを設置した。

ここで一部の団体から声が上がった。
『彼はあまりに強大な力を持ちすぎている。
彼に問いかけられたらそれは脅迫に近いものでは無いか』と。
彼は、国民の承認が得られるまで自分の力を抑える装置を作成した。

ここで一部の団体から声が上がった。
『質問に対して国民がNoと言ったとしても、
彼がそれを拒否する可能性があるのではないか』と。
彼は、国民の承認内容を無条件で受けることを誓い
その天秤に自分の命を懸ける装置を作り上げた。

ここで一部の団体から…

ここで一部の団体から…

ここで一部の団体から…

…etc。

いまや、彼はまるで囚われの身である。
彼を囲むのは彼自身が作成したいくつものシールド。
自ら作った鎖で自分自身をがんじがらめにして、
ついに国民の要望すべてを叶えた『安全な承認システム』が完成されたのだ。

だいぶ前から、この国の上層部の人間たちは人気のある彼の存在をねたみ
地中深くに埋めてしまいたいとさえ思っていた。
それと同時に、迫りくる脅威に対抗する彼の存在は不可欠であった。

まさか、彼がこの国にとどまりつつ、かつ深く埋もれさせることが出来るという
ベストの回答が得られるとは思ってはいなかった。
上層部の人間たちは歓喜した。

一方で中層部以下の人間たちは、強大な力の使い方を自分の手で選べるという
至極単純な、かつ極めて魅力的な状況に酔っていた。


ウゥー…ウゥー…

電子音のサイレンが国中に響く。
どうやら久々にこの国の、この星の危機が訪れたらしい。
このシステムを作り始めて以来、一度も行使することのなかった
『強大な力』の権利を初めて行使することのできる機会に立ち会い、
愚かなことに国民の誰もが心高鳴っていた。
自分たちが実際に何をするわけでもないというのに。

一斉に国中の生きとし生けるものに質問の思念が飛び込む。

『悪意を持った知的生命体の放った、
人間のみを選択的に窒息させるガスが
この国を含む周辺5か国に影響を与える可能性があります。
破壊・安全化までに必要とされる時間はおよそ220秒です。
「彼」の行動を承認しますか? Y/N 』

政治家たちは小躍りをした。
今回の問題を解決した事をうまく使えば、
外交上の優位性を確保できる。

さすがに頭の悪い愚民であろうと、
今回の内容であればどう考えても承認が過半数なのは明らかだ。

『さぁ、頼むぞ、君!』

ウゥー…ウゥー…

一斉に国中の生きとし生けるものに結果の思念が飛び込む。

『結果、賛成12%、反対88%。
「彼」の行動承認は否決されました。』

『なっ…なっ!?どういう事だ?集計班っ!』
『閣下…数字は…確かに発表の通りです…』

『さて、非常に残念な結果となりましたね。
私は今後の短い余生を楽しみたいので、
この装置を無理やり撥ね退けることはできません。
結果を尊重し、このままここで待機させて頂きます。』

『ど、どういう事だ!このっ!人でなし!』
『揚げ足を取るわけではありませんが、
私はもともと「人で無し」です。』

『か、閣下! 集計の母数が…わが国民を大きく超えております!』
『まさか…他の国の回答まで加えたのか?ならばこの結果は無効だ!
はやく行きたまえ、行け!』

『いいえ。私からの質問はこの国の国境を越えては伝わっていません。』

『早く行かんか!行け!』

『この国に住む民、というものに少し価値観の相違があったかも知れませんね。
私にとっては人も、犬も、ネズミも、トカゲも、カエルも、魚もすべて平等に同じ国民です。』

『行ってくれ!頼む!行ってくれ!』

『残念ですが、回答を得られる生きとし生けるものからの返答は
過半数を超えなかったようです。本当に残念です。』

『頼む!お願いです!お願いします!』

『あぁ、そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。』

『行ってくれるのか!』

『人間がすべて滅びるわけでもありませんし、
被害を受けた地域も、この星があの恒星の周りを20周もする頃には
ちゃんと人が住める環境に戻るでしょう。
そこまで悲観することではありません。』

『…』

『そうそう、最後に一言。
民主主義に沿うというのは大変なものですね。
私もみなさんよりはだいぶ長く生きてきたつもりですが、
ここまで自分の行動を制限したのは初めてですよ。
ところで、これが本当に民主主義というやつですか?』

『…』

『おや、失礼。では、さようなら。』

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